間章 全ての始まり①　作：はにわ

　
ーー地影の後に付いて、職員室の前までやって来た透矢。

生徒会のメンバーということで顔は広いのか、すれ違う人たちは皆、地影に挨拶し、
その中には友人もいたのだろう、ざっくばらんな態度をとる者もいた。
一方の地影というと、几帳面だからだろうか、その一人一人に丁寧な挨拶を返していた。

また一目置かれている、という本人の言葉通り、彼女と肩を並べて歩くというだけで周りの目を引いているようである。
ある意味異様ともとれる雰囲気に、さしもの透矢も、若干身を縮めてここまで歩いてきた。

「ーーあ、来た来た！
待ってたわよ！」

職員室の扉の前には一人の女子生徒が携帯端末をいじっている姿があり、更に二人が近付いていくと、それに気付いたその女子生徒が二人の前に出た。

「あっはーっ！久しぶりね、透矢！
千鶴ちゃんの言うとおり、全然変わってないわ！」

「へ？」

長い髪を頭の左側で結った、大きなポニーテールの髪型が特徴の女子生徒。
その女子生徒に急に笑顔で話しかけられて戸惑う透矢。

「千歳さんのお知り合いでしたか」

「うん、地影！
悪いわね、わざわざこいつをここまで連れてきてもらって」

「いえ、これも仕事なので」

「千歳・・・？」

地影とも慣れたように話す千歳という女子生徒。
透矢が戸惑っていたのは、目の前の女子生徒が誰か自分には分からず、彼女の方は自分を知っているかのような口ぶりだからだ。

だが千歳という名前から、一気に過去の思い出が目の前の女子生徒と重なる。

「まき・・・？真希か！」

「なによ！
あんた、千鶴ちゃんはすぐ分かったくせにあたしの事、すぐに思い出せなかったでしょ？」

「いやだって最後に会ったのは何年も前だし、髪型も変わってたからさ」

「千鶴ちゃんは分かったのに？」

「うぐ・・・こだわんなよ」

「まぁ、別にいいけど」

思い出せなかったのが気にくわないらしい真希。
彼女は千歳 真希（ちとせ まき）。
千鶴と同じく、透矢の幼馴染みである。

「ーーあ、地影。
後はあたしに任せて？
先生に会わせたら、あたしがこの薄情ものを教室に引っ張ってくからさ」

「・・・そうですか。
分かりました、ではお任せします。
遊戦名君、ではまた」

「あ、ありがとな、朝霧！」

地影はどこか真希に物言いたげにしつつも、気を利かせたのか丁寧な物腰で二人から離れた。

それを見送った真希は、透矢を見るなりふと、右手を振り上げる。
その『合図』を思い出すより早く、反射的に身体が動いた透矢。
透矢も合わせて右手を振り上げるや、
強く振られた両人の手が二人の間で弾かれ、快活な音が耳に強く響く。

「あは、これ懐かしいね、透矢！」

「どうだ、しっかり覚えてたろ？」

「お帰り、透矢！
千鶴ちゃんからメールで聞いて、先回りして待ってたのよ？」

「お前に会えて嬉しいよっ。
お前も千鶴も、デュエルモンスターズ、続けてくれてたんだな！」

「あったり前でしょ！
これであたしたち三人、また一緒にデュエル出来るわね！」

二人で交わされたタッチ。
それはどうやら昔二人がやっていた一種の儀礼のようなものだったらしい。
すぐには思い出せずとも、身体は覚えていた。
数年来の再会を果たし、お互いに溢れる思いが止まらない様子で、
どれだけ仲が良かったかが伺える。

「ーーそういえば、お前、ブルーの生徒か！」

「まぁね」

「すっげぇ！
んじゃ、お前もかなりレベルアップしたんだな！」

「ま、あたしが本気出せば！なんてね～」

真希は青い制服、すなわちブルーの生徒であった。
その事を誉められた真希は嬉しそうにしている。

「ーーとと、もう少し話してたいけど、これから先生に会ってもらわないと。
あたしたちの担任ね」

「お、そうか」

「じゃ、一緒に挨拶しに行こ！」

少しの間、思い出や別れてからの日の事を語らっていた二人だったが、真希が気づいて、透矢に促した。
そして二人は並んで職員室の門をくぐる。

これから学びの教諭ともなる職員たちが支配する空間を、透矢は緊張しながら歩く中、真希は堂々とした足取りである。

やがて一人の教諭のデスクに辿り着いた二人。
その横姿から、透矢は既にある特徴を捉えていた。