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16:凛香・決意の決闘 作:ほーがん
第16話「凛香・決意の決闘」
先へと進む、遊牙と凛香。通路を走る途中、遊牙が口を開く。
「ここから先は、きっと厳しい戦いになる。」
隣を走る凛香が言う。
「だから何?置いて行くつもり?」
遊牙はすぐには答えなかった。遊牙より先に凛香が口を開く。
「私絶対逃げないから。カケルだけにいい格好させたくないしね。」
不安そうな声で遊牙は言う。
「カケルは・・・大丈夫だろうか。」
凛香は笑う。
「あの顔見たでしょ?あれは大丈夫な時の顔よ。カケルはいざと言う時はやる男なんだから。」
遊牙は舌を向いた。
「ああ、分かってる。分かっているが・・・。」
凛香が突然立ち止まる。遊牙もつられて足を止めた。
「・・・ほんとはね、怖いよ。こんな場所にカケルを、ルナを置いて来て、何かあったらって・・・。」
凛香の目に涙が浮かぶ。
「怖いの・・・。もう仲間を失うなんて・・・私・・・。」
手で顔を覆い、凛香はしゃがみこんだ。小さな肩が震え、嗚咽が漏れる。
「・・・凛香。」
遊牙が肩に手を置こうとする前に凛香が言う。
「分かってる。分かってるわ。早くルナの所へ行かないと・・・。ごめんね。私やっぱり、あんまり強くないから・・・。」
震える肩に遊牙はそっと手を置いた。
「だが、凛香は今強くなろうとしている。その思いは尊いものだ。それに、凛香は優しさという強さを持っているじゃないか。俺やカケルは、その優しさに何度も助けられているんだ。」
凛香は顔を上げる。
「遊牙・・・。」
遊牙は笑った。
「だから、大丈夫。仲間を、ルナを助け出してカケルと一緒におばさんの家へ帰ろう。」
涙を拭い凛香は立ち上がる。
「ええ。そうね。ごめん、もう大丈夫。」
その時だった。
通路中に警告音が鳴り響く。サイレンが唸り、赤い光が天井から照らされた。
「なんだ!?」
遊牙は辺りを見渡す。
「遊牙、これって・・・!」
足下が振動し始める。凛香と遊牙の真下。突如として銀色の壁が迫り上がり始めた。
「凛香!!」
「遊牙!遊牙!」
伸ばした手もむなしく、二人は銀色の壁に分断された。遊牙は壁を叩いて叫ぶ。
「凛香!無事か!!」
遊牙の声に壁の向こうから返事が返って来る。
「遊牙、どうしよう!!」
急いでD・ディスクからカードを取り出す遊牙。
「凛香、下がっていろ!!来い!『デッドジャック』!!」
そう言ってD・ディスクにカードをセットすると、遊牙の目の前に闇の騎士が出現した。
「『デッドジャック』!あの壁を切り裂さいてくれ!!」
遊牙の言葉に反応し、闇の騎士は剣を振りかざし、斬撃を飛ばした。
しかし、壁は崩れるどころか傷一つ付かない。
「くっ、もう一度だ『デッドジャック』!!」
闇の騎士が再び剣を構えたその時。壁の向こう、凛香の居る方から声が響いた。
「無駄だ。この壁は戦車砲でも傷はつかない。」
その声を聞き、遊牙は声を荒げた。
「お前は、ヘラルド!!凛香逃げろ!!」
その言葉を嘲るようにその声の主、ヘラルドは言った。
「それこそ無駄だ。この小娘の進行方向には私が立っている。私の後ろにも1番隊と2番隊の隊員が待機している。どうやっても逃げる事は出来ない。しかし、引っかかったのは小娘の方だったか。」
遊牙は歯を食いしばり、壁を指差した。
「『デッドジャック』もう一度だ!!もう一度を壁を斬れ!!」
しかし、その瞬間。壁の向こうから凛香の声がした。
「行って、遊牙。」
凛香の言葉に遊牙が叫ぶ。
「何を言っている!!そいつは、ヘラルドは危険だ!!今、壁を壊す!!」
凛香は強く叫んだ。
「早く行って!!!・・・早く行って、ルナを助けてあげて。私なら大丈夫。大丈夫だから。」
遊牙はためらう。
「だが、ヘラルドは・・・そいつだけは・・・!!!」
焦る遊牙に凛香は優しい声で行った。
「帰ったら、またみんなでご飯を食べましょう。もちろんルナも一緒に。だから、遊牙はルナの元に行ってあげて。きっと・・・きっと、寂しい思いをしてるだろうから。」
遊牙は壁に手を当て下を向く。
「・・・絶対に。絶対にルナを取り戻してくる。」
凛香は目を閉じた。
「うん。」
「だから、生きていてくれ。絶対に生きていてくれ。」
凛香は明るい声で言う。
「もちろんよ。私を誰だと思ってるの?」
遊牙は顔を上げ、目的の方向へ向いた。
「・・・行って来る。」
そうして遊牙は目を閉じ走り出した。
「(行くがいいさ。行って『0042』とデュエルしてこい。全ての準備はたった今整ったからな。)」
ヘラルドは不敵に笑う。
凛香はD・ディスクを構えた。
「・・・私は・・・私はもう仲間を失いたくない。」
ヘラルドは見下すように言う。
「仲間だと・・・?仲間というのは弱者の言い訳だ。自らの弱さを隠すために群れ、誤魔化し、強者になったつもりで居る。なんと惨めで見苦しい。」
凛香は静かに言った。
「私は・・・強くなんか無い。いつもカケルや遊牙に守ってもらってばっかり。私は、強くなりたいの。二人を・・・ううん、三人を守れるくらいに。だから・・・」
ヘラルドを強く睨み、凛香は叫んだ。
「私は逃げない!!!絶対に逃げない!!!あんたなんかに屈したりしない!!!」
その様子を見たヘラルドは笑った。
「なるほど・・・あのゴミの街で暮らしているとこうなるのか。愚かだ!自らの弱さに喘ぎ、苦しみ、強がりを並べる。ふははは!!傑作だな!!いいだろう!!自分がどれほど小さく愚かな存在か、身をもって知るが良い!!」
そう言うと、ヘラルドは自らの左腕の皮を剥いだ。その人工皮膚の下には金属の組織が腕を形成している。金属組織は変形を始め、D・ディスクの形態へと変貌した。
「言っておくが、私とデュエルをして無傷で居られると思うなよ・・・?」
凛香の手に力が入る。
「遊牙、カケル、ルナ。私、負けないから・・・!!」
『デュエル!!(LP4000 VS LP4000)』
凛香は一歩前に出ると、口を開いた。
「先攻は貰うわ!私のターン!私は手札から《神速のティラプトル(地/恐竜/☆4/1700・700)》を召喚!!」
凛香の場に鉤爪を備えた肉食恐竜が現れる。
「《神速のティラプトル》の効果発動!召喚成功時にデッキからレベル6以下の恐竜族モンスターを手札に加える!私はこの効果でデッキからレベル4の恐竜族、《速攻のディノニス(☆4/地/恐竜/1900・900)》を手札に加えるわ!」
凛香のデッキからカードが迫り出し、手札に加えられる。
「そして、《速攻のディノニス》を特殊召喚!このモンスターは自分のフィールドに他の恐竜族モンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる!」
青い模様の肉食獣が軽快な動きで出現した。
「私はレベル4の《神速のティラプトル》と《速攻のディノニス》をオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」
2体の肉食恐竜は光の渦へと飛び込んだ。
「お願い、力になって!!《エヴォルカイザー・ラギア(★4/炎/ドラゴン/エクシーズ/2400・2000)》!!」
2体の恐竜はドラゴンへと進化し、炎を纏う翼を広げた。
「(今召喚した《エヴォルカイザー・ラギア》はオーバーレイユニットを使って魔法・罠の発動とモンスターの召喚と特殊召喚を無効にできる。これで相手は動き辛くなったはず。)私はカードを2枚セットしてターンエンド!!」
ヘラルドはデッキに手を伸ばした。
「エクシーズ召喚か・・・。だがその程度のモンスターで、私の動きを止められるなど甘い考えと知れ!私のターン!」
引いたカードを確認しヘラルドはニヤリと笑った。
「私は相手モンスターを全て墓地へ送り、《マリス・ギア フィアー(☆10/闇/悪魔/?・?)》を攻撃表示で特殊召喚する!!」
突如として《エヴォルカイザー・ラギア》に黒い霧が覆い被さる。その霧は《エヴォルカイザー・ラギア》を食い殺すように侵蝕していき、その姿を完全に取り込んだ。
「そんな・・・!私の《エヴォルカイザー・ラギア》が・・・!」
黒い霧はヘラルドの場に戻ると、徐々に禍々しい悪魔へと姿を変えた。
「《マリス・ギア フィアー》は相手フィールドのモンスターを全て墓地へ送り、手札から特殊召喚できる!そして、その攻撃力と守備力は墓地へ送った相手モンスターの攻撃力の合計の数値となる!!よって《マリス・ギア フィアー》の攻撃力・守備力は2400になる!!」
悪魔は不気味な笑い声を上げる。攻撃力が定まったことを示すかのように、その手に巨大な鉈が出現した。
「こんなものでは終わらない!私は手札から《マリス・ギア ディスクリミネーター(☆10/闇/悪魔/?・?)》を特殊召喚!!」
再び、ヘラルドの場に黒い霧が立ち籠める。
「《マリス・ギア ディスクリミネーター》の効果発動!!このカードは手札から特殊召喚でき、特殊召喚時に相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!!」
「そんな!!」
黒い霧は渦を巻き、やがて竜巻となった。その竜巻は伏せられているカードを取り込もうと凛香の場へと近づく。
「くっ、私はリバースカードを発動!罠カード《威嚇する咆哮》!!このターン相手は攻撃宣言できない!!」
ヘラルドは冷静に言った。
「だが、破壊はさせてもらう!」
発動したカード、そして伏せられていたカードの2枚は竜巻により吹き飛んだ。
「うっ・・・何これ・・。本物の風・・!?」
竜巻から発生する強い風。その反応を見たヘラルドは笑った。
「ふははは!これが『神の鉄槌』の力だ!!」
凛香は不可解な顔をする。
「どういう・・こと・・?」
ヘラルドは機械化されている自身の左腕を突き出し言った。
「私はこの左腕に『神の鉄槌』の残した遺伝子を組み込んでいる!!最初は生身の腕に移植したんだがな。負担に耐えられずに吹き飛んだ。全く、これだから人間の体は・・・。」
その言葉に凛香は青ざめる。
「あんた、一体何がしたいの・・・?」
ヘラルドは目を見開いた。
「”超越”だよ・・・!!人を超えた存在・・・!!『神の鉄槌』の力はそれを叶えうる!!その力を持つ兵器の創造もな!!」
ヘラルドは言葉を続けた。
「だから私はDRを生み出した!元である『神の鉄槌』をも超え、全てを破壊する殺戮兵器・・・!!だが、今となってはもう必要ないがな・・・。お前達が探している『0042』は、兵器としては失敗作になったが、”鍵”としては間違いなく私の最高傑作だよ・・・!!」
凛香は問う。
「鍵・・・?鍵って何よ!!ルナで何をしようとしてるの!?」
ヘラルドは答える。
「ゲートだ。この地下に残ったわずかな亀裂。その隙間はまるで、それが鍵穴だと言わんばかりに空いている。『0042』はそれを開きゲートを開放する鍵になるのだ!!その身をもってな。」
凛香は叫ぶ。
「身を持ってって・・・!!まさか!!」
その叫びと対照的に、ヘラルドは平然と言った
「『神の鉄槌』の遺伝子を含んでいるとはいえ、肉体は所詮人間と同等。その力を無理に引き出し、ゲートを開くほどのエネルギーを消費すれば死は当然。肉体は崩壊するだろうな。」
凛香はヘラルドを睨みつけた。
「そんなことが許されると思ってるの!!!絶対させない!!!そんなこと絶対させない!!!」
ヘラルドは言う。
「知った事か。大願には犠牲が付き物だ。その程度のことは理解できるだろう。」
凛香は怒りの目を向ける。
「おかしいよ・・・あんた。」
ヘラルドは笑った。
「おかしいだと?おかしいのは人間という生物の方だ!私は『神の鉄槌』を初めて見た時、こう感じた。”なんて美しいんだろう”とな。破壊と創造を繰り返しながら闊歩するその姿!人間など足下にも及ばぬ圧倒的な力!!あれこそが私の理想だった・・・。6本の指に白い翼。女性の体に3つの瞳。きっとあの姿こそが聖書に記されてる神なんだろうと・・・。」
ヘラルドの顔が憎悪の表情へと変わって行く。自らの右手を見つめながらヘラルドは言った。
「だが、それと同時に人間という生物がとても醜く見えた・・・!!なんと不完全で未成熟!!指はたった5本しかなく、出来損ないの10進法を使う種族!!ああ、いやだ!!!」
ヘラルドは自分の右手の指に噛み付いた。
「こんな・・・こんな姿に生まれなければ!!!がぁぁあああっ!!!」
歯が突き立てられた指から血が溢れる。その様子を凛香は嫌悪の表情で見つめた。
「狂ってる・・・。」
ヘラルドは食いちぎるのを諦めるように指から口を放し、息を切らし言った。
「はぁ、はぁ・・・。だから『0042』は女性の姿で造ったのだ・・・。あれこそが私の理想の姿。少しでも『神の鉄槌』に近づくようにという願いを込めて・・・。結局、それも無意味に終わったが。しかし、全て無意味では無かった。彼女にはまだ”鍵”になるという使命があるからな。」
凛香は鋭い目線で問う。
「そんなことを私に喋ってどうするの・・・?」
ヘラルドはフッと笑う。
「真実を知っておく事は悪いことじゃない。それが人生の最後ならな。」
凛香は身構える。
「私は・・・生きて、あんたに勝つ!!それが遊牙との約束よ!!」
ヘラルド姿勢を整えた。
「話が長引いた・・・。デュエルを続行する。《マリス・ギア ディスクリミネーター》の効果発動!このカードの攻撃力・守備力は特殊召喚時に破壊した魔法・罠カード1枚につき1000の数値になる!破壊したカードは2枚!よって攻撃力・守備力は2000になる!」
凛香はたじろぐ。
「相手のカードを除去しつつ、攻撃力を上げる。相当厄介ね・・・。けど、《威嚇する咆哮》の効果により、このターンの攻撃は封じられてるわ!!」
しかし、ヘラルドはその言葉を気にも留めない。
「私は手札から永続魔法《エロージョン・ヘイトレッド》を発動!!このカードが存在する限り、自分のライフポイントのみが効果によって変動する場合、代わりに相手のライフポイントが変動する!」
さらにヘラルドは言葉を続けた。
「そしてこのターンのエンドフェイズに2体の「マリス・ギア」の効果を発動!「マリス・ギア」は自分のエンドフェイズ時に、自分のライフポイントを半分にする。だが、永続魔法《エロージョン・ヘイトレッド》の効果により、変動するのは相手のライフポイントに変わる!!そして2体分の効果によってお前のライフポイントは4分の1になる!!」
2体の悪魔は黒い霧となって凛香に襲いかかる。
「なに・・・これ・・・苦しい・・・。」
ヘラルドは笑った。
「当然だ!攻撃の実体化など『神の鉄槌』の力の基本だからな!!このデュエルが終わるのが先か、お前の命が終わるのが先か見物だな!!」
霧は凛香の元を離れ、ヘラルドの場へと戻った。
「かはっ・・・(LP4000→1000)ゲホッ・・・ゴホッ・・・うっ・・。」
凛香は咳き込み、膝を付いた。
「私はターンエンド。どうした、お前のターンだぞ?さっさとドローしたらどうだ?」
凛香はゆっくりと立ち上がる。
「負けられない・・・絶対・・生きて・・生きてみんなと帰るの・・・・。私のターン・・・!!」
「(絶対、負けられないの・・・。それが約束だから・・・。)」
次回第17話「死闘の果てに」
先へと進む、遊牙と凛香。通路を走る途中、遊牙が口を開く。
「ここから先は、きっと厳しい戦いになる。」
隣を走る凛香が言う。
「だから何?置いて行くつもり?」
遊牙はすぐには答えなかった。遊牙より先に凛香が口を開く。
「私絶対逃げないから。カケルだけにいい格好させたくないしね。」
不安そうな声で遊牙は言う。
「カケルは・・・大丈夫だろうか。」
凛香は笑う。
「あの顔見たでしょ?あれは大丈夫な時の顔よ。カケルはいざと言う時はやる男なんだから。」
遊牙は舌を向いた。
「ああ、分かってる。分かっているが・・・。」
凛香が突然立ち止まる。遊牙もつられて足を止めた。
「・・・ほんとはね、怖いよ。こんな場所にカケルを、ルナを置いて来て、何かあったらって・・・。」
凛香の目に涙が浮かぶ。
「怖いの・・・。もう仲間を失うなんて・・・私・・・。」
手で顔を覆い、凛香はしゃがみこんだ。小さな肩が震え、嗚咽が漏れる。
「・・・凛香。」
遊牙が肩に手を置こうとする前に凛香が言う。
「分かってる。分かってるわ。早くルナの所へ行かないと・・・。ごめんね。私やっぱり、あんまり強くないから・・・。」
震える肩に遊牙はそっと手を置いた。
「だが、凛香は今強くなろうとしている。その思いは尊いものだ。それに、凛香は優しさという強さを持っているじゃないか。俺やカケルは、その優しさに何度も助けられているんだ。」
凛香は顔を上げる。
「遊牙・・・。」
遊牙は笑った。
「だから、大丈夫。仲間を、ルナを助け出してカケルと一緒におばさんの家へ帰ろう。」
涙を拭い凛香は立ち上がる。
「ええ。そうね。ごめん、もう大丈夫。」
その時だった。
通路中に警告音が鳴り響く。サイレンが唸り、赤い光が天井から照らされた。
「なんだ!?」
遊牙は辺りを見渡す。
「遊牙、これって・・・!」
足下が振動し始める。凛香と遊牙の真下。突如として銀色の壁が迫り上がり始めた。
「凛香!!」
「遊牙!遊牙!」
伸ばした手もむなしく、二人は銀色の壁に分断された。遊牙は壁を叩いて叫ぶ。
「凛香!無事か!!」
遊牙の声に壁の向こうから返事が返って来る。
「遊牙、どうしよう!!」
急いでD・ディスクからカードを取り出す遊牙。
「凛香、下がっていろ!!来い!『デッドジャック』!!」
そう言ってD・ディスクにカードをセットすると、遊牙の目の前に闇の騎士が出現した。
「『デッドジャック』!あの壁を切り裂さいてくれ!!」
遊牙の言葉に反応し、闇の騎士は剣を振りかざし、斬撃を飛ばした。
しかし、壁は崩れるどころか傷一つ付かない。
「くっ、もう一度だ『デッドジャック』!!」
闇の騎士が再び剣を構えたその時。壁の向こう、凛香の居る方から声が響いた。
「無駄だ。この壁は戦車砲でも傷はつかない。」
その声を聞き、遊牙は声を荒げた。
「お前は、ヘラルド!!凛香逃げろ!!」
その言葉を嘲るようにその声の主、ヘラルドは言った。
「それこそ無駄だ。この小娘の進行方向には私が立っている。私の後ろにも1番隊と2番隊の隊員が待機している。どうやっても逃げる事は出来ない。しかし、引っかかったのは小娘の方だったか。」
遊牙は歯を食いしばり、壁を指差した。
「『デッドジャック』もう一度だ!!もう一度を壁を斬れ!!」
しかし、その瞬間。壁の向こうから凛香の声がした。
「行って、遊牙。」
凛香の言葉に遊牙が叫ぶ。
「何を言っている!!そいつは、ヘラルドは危険だ!!今、壁を壊す!!」
凛香は強く叫んだ。
「早く行って!!!・・・早く行って、ルナを助けてあげて。私なら大丈夫。大丈夫だから。」
遊牙はためらう。
「だが、ヘラルドは・・・そいつだけは・・・!!!」
焦る遊牙に凛香は優しい声で行った。
「帰ったら、またみんなでご飯を食べましょう。もちろんルナも一緒に。だから、遊牙はルナの元に行ってあげて。きっと・・・きっと、寂しい思いをしてるだろうから。」
遊牙は壁に手を当て下を向く。
「・・・絶対に。絶対にルナを取り戻してくる。」
凛香は目を閉じた。
「うん。」
「だから、生きていてくれ。絶対に生きていてくれ。」
凛香は明るい声で言う。
「もちろんよ。私を誰だと思ってるの?」
遊牙は顔を上げ、目的の方向へ向いた。
「・・・行って来る。」
そうして遊牙は目を閉じ走り出した。
「(行くがいいさ。行って『0042』とデュエルしてこい。全ての準備はたった今整ったからな。)」
ヘラルドは不敵に笑う。
凛香はD・ディスクを構えた。
「・・・私は・・・私はもう仲間を失いたくない。」
ヘラルドは見下すように言う。
「仲間だと・・・?仲間というのは弱者の言い訳だ。自らの弱さを隠すために群れ、誤魔化し、強者になったつもりで居る。なんと惨めで見苦しい。」
凛香は静かに言った。
「私は・・・強くなんか無い。いつもカケルや遊牙に守ってもらってばっかり。私は、強くなりたいの。二人を・・・ううん、三人を守れるくらいに。だから・・・」
ヘラルドを強く睨み、凛香は叫んだ。
「私は逃げない!!!絶対に逃げない!!!あんたなんかに屈したりしない!!!」
その様子を見たヘラルドは笑った。
「なるほど・・・あのゴミの街で暮らしているとこうなるのか。愚かだ!自らの弱さに喘ぎ、苦しみ、強がりを並べる。ふははは!!傑作だな!!いいだろう!!自分がどれほど小さく愚かな存在か、身をもって知るが良い!!」
そう言うと、ヘラルドは自らの左腕の皮を剥いだ。その人工皮膚の下には金属の組織が腕を形成している。金属組織は変形を始め、D・ディスクの形態へと変貌した。
「言っておくが、私とデュエルをして無傷で居られると思うなよ・・・?」
凛香の手に力が入る。
「遊牙、カケル、ルナ。私、負けないから・・・!!」
『デュエル!!(LP4000 VS LP4000)』
凛香は一歩前に出ると、口を開いた。
「先攻は貰うわ!私のターン!私は手札から《神速のティラプトル(地/恐竜/☆4/1700・700)》を召喚!!」
凛香の場に鉤爪を備えた肉食恐竜が現れる。
「《神速のティラプトル》の効果発動!召喚成功時にデッキからレベル6以下の恐竜族モンスターを手札に加える!私はこの効果でデッキからレベル4の恐竜族、《速攻のディノニス(☆4/地/恐竜/1900・900)》を手札に加えるわ!」
凛香のデッキからカードが迫り出し、手札に加えられる。
「そして、《速攻のディノニス》を特殊召喚!このモンスターは自分のフィールドに他の恐竜族モンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる!」
青い模様の肉食獣が軽快な動きで出現した。
「私はレベル4の《神速のティラプトル》と《速攻のディノニス》をオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」
2体の肉食恐竜は光の渦へと飛び込んだ。
「お願い、力になって!!《エヴォルカイザー・ラギア(★4/炎/ドラゴン/エクシーズ/2400・2000)》!!」
2体の恐竜はドラゴンへと進化し、炎を纏う翼を広げた。
「(今召喚した《エヴォルカイザー・ラギア》はオーバーレイユニットを使って魔法・罠の発動とモンスターの召喚と特殊召喚を無効にできる。これで相手は動き辛くなったはず。)私はカードを2枚セットしてターンエンド!!」
ヘラルドはデッキに手を伸ばした。
「エクシーズ召喚か・・・。だがその程度のモンスターで、私の動きを止められるなど甘い考えと知れ!私のターン!」
引いたカードを確認しヘラルドはニヤリと笑った。
「私は相手モンスターを全て墓地へ送り、《マリス・ギア フィアー(☆10/闇/悪魔/?・?)》を攻撃表示で特殊召喚する!!」
突如として《エヴォルカイザー・ラギア》に黒い霧が覆い被さる。その霧は《エヴォルカイザー・ラギア》を食い殺すように侵蝕していき、その姿を完全に取り込んだ。
「そんな・・・!私の《エヴォルカイザー・ラギア》が・・・!」
黒い霧はヘラルドの場に戻ると、徐々に禍々しい悪魔へと姿を変えた。
「《マリス・ギア フィアー》は相手フィールドのモンスターを全て墓地へ送り、手札から特殊召喚できる!そして、その攻撃力と守備力は墓地へ送った相手モンスターの攻撃力の合計の数値となる!!よって《マリス・ギア フィアー》の攻撃力・守備力は2400になる!!」
悪魔は不気味な笑い声を上げる。攻撃力が定まったことを示すかのように、その手に巨大な鉈が出現した。
「こんなものでは終わらない!私は手札から《マリス・ギア ディスクリミネーター(☆10/闇/悪魔/?・?)》を特殊召喚!!」
再び、ヘラルドの場に黒い霧が立ち籠める。
「《マリス・ギア ディスクリミネーター》の効果発動!!このカードは手札から特殊召喚でき、特殊召喚時に相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!!」
「そんな!!」
黒い霧は渦を巻き、やがて竜巻となった。その竜巻は伏せられているカードを取り込もうと凛香の場へと近づく。
「くっ、私はリバースカードを発動!罠カード《威嚇する咆哮》!!このターン相手は攻撃宣言できない!!」
ヘラルドは冷静に言った。
「だが、破壊はさせてもらう!」
発動したカード、そして伏せられていたカードの2枚は竜巻により吹き飛んだ。
「うっ・・・何これ・・。本物の風・・!?」
竜巻から発生する強い風。その反応を見たヘラルドは笑った。
「ふははは!これが『神の鉄槌』の力だ!!」
凛香は不可解な顔をする。
「どういう・・こと・・?」
ヘラルドは機械化されている自身の左腕を突き出し言った。
「私はこの左腕に『神の鉄槌』の残した遺伝子を組み込んでいる!!最初は生身の腕に移植したんだがな。負担に耐えられずに吹き飛んだ。全く、これだから人間の体は・・・。」
その言葉に凛香は青ざめる。
「あんた、一体何がしたいの・・・?」
ヘラルドは目を見開いた。
「”超越”だよ・・・!!人を超えた存在・・・!!『神の鉄槌』の力はそれを叶えうる!!その力を持つ兵器の創造もな!!」
ヘラルドは言葉を続けた。
「だから私はDRを生み出した!元である『神の鉄槌』をも超え、全てを破壊する殺戮兵器・・・!!だが、今となってはもう必要ないがな・・・。お前達が探している『0042』は、兵器としては失敗作になったが、”鍵”としては間違いなく私の最高傑作だよ・・・!!」
凛香は問う。
「鍵・・・?鍵って何よ!!ルナで何をしようとしてるの!?」
ヘラルドは答える。
「ゲートだ。この地下に残ったわずかな亀裂。その隙間はまるで、それが鍵穴だと言わんばかりに空いている。『0042』はそれを開きゲートを開放する鍵になるのだ!!その身をもってな。」
凛香は叫ぶ。
「身を持ってって・・・!!まさか!!」
その叫びと対照的に、ヘラルドは平然と言った
「『神の鉄槌』の遺伝子を含んでいるとはいえ、肉体は所詮人間と同等。その力を無理に引き出し、ゲートを開くほどのエネルギーを消費すれば死は当然。肉体は崩壊するだろうな。」
凛香はヘラルドを睨みつけた。
「そんなことが許されると思ってるの!!!絶対させない!!!そんなこと絶対させない!!!」
ヘラルドは言う。
「知った事か。大願には犠牲が付き物だ。その程度のことは理解できるだろう。」
凛香は怒りの目を向ける。
「おかしいよ・・・あんた。」
ヘラルドは笑った。
「おかしいだと?おかしいのは人間という生物の方だ!私は『神の鉄槌』を初めて見た時、こう感じた。”なんて美しいんだろう”とな。破壊と創造を繰り返しながら闊歩するその姿!人間など足下にも及ばぬ圧倒的な力!!あれこそが私の理想だった・・・。6本の指に白い翼。女性の体に3つの瞳。きっとあの姿こそが聖書に記されてる神なんだろうと・・・。」
ヘラルドの顔が憎悪の表情へと変わって行く。自らの右手を見つめながらヘラルドは言った。
「だが、それと同時に人間という生物がとても醜く見えた・・・!!なんと不完全で未成熟!!指はたった5本しかなく、出来損ないの10進法を使う種族!!ああ、いやだ!!!」
ヘラルドは自分の右手の指に噛み付いた。
「こんな・・・こんな姿に生まれなければ!!!がぁぁあああっ!!!」
歯が突き立てられた指から血が溢れる。その様子を凛香は嫌悪の表情で見つめた。
「狂ってる・・・。」
ヘラルドは食いちぎるのを諦めるように指から口を放し、息を切らし言った。
「はぁ、はぁ・・・。だから『0042』は女性の姿で造ったのだ・・・。あれこそが私の理想の姿。少しでも『神の鉄槌』に近づくようにという願いを込めて・・・。結局、それも無意味に終わったが。しかし、全て無意味では無かった。彼女にはまだ”鍵”になるという使命があるからな。」
凛香は鋭い目線で問う。
「そんなことを私に喋ってどうするの・・・?」
ヘラルドはフッと笑う。
「真実を知っておく事は悪いことじゃない。それが人生の最後ならな。」
凛香は身構える。
「私は・・・生きて、あんたに勝つ!!それが遊牙との約束よ!!」
ヘラルド姿勢を整えた。
「話が長引いた・・・。デュエルを続行する。《マリス・ギア ディスクリミネーター》の効果発動!このカードの攻撃力・守備力は特殊召喚時に破壊した魔法・罠カード1枚につき1000の数値になる!破壊したカードは2枚!よって攻撃力・守備力は2000になる!」
凛香はたじろぐ。
「相手のカードを除去しつつ、攻撃力を上げる。相当厄介ね・・・。けど、《威嚇する咆哮》の効果により、このターンの攻撃は封じられてるわ!!」
しかし、ヘラルドはその言葉を気にも留めない。
「私は手札から永続魔法《エロージョン・ヘイトレッド》を発動!!このカードが存在する限り、自分のライフポイントのみが効果によって変動する場合、代わりに相手のライフポイントが変動する!」
さらにヘラルドは言葉を続けた。
「そしてこのターンのエンドフェイズに2体の「マリス・ギア」の効果を発動!「マリス・ギア」は自分のエンドフェイズ時に、自分のライフポイントを半分にする。だが、永続魔法《エロージョン・ヘイトレッド》の効果により、変動するのは相手のライフポイントに変わる!!そして2体分の効果によってお前のライフポイントは4分の1になる!!」
2体の悪魔は黒い霧となって凛香に襲いかかる。
「なに・・・これ・・・苦しい・・・。」
ヘラルドは笑った。
「当然だ!攻撃の実体化など『神の鉄槌』の力の基本だからな!!このデュエルが終わるのが先か、お前の命が終わるのが先か見物だな!!」
霧は凛香の元を離れ、ヘラルドの場へと戻った。
「かはっ・・・(LP4000→1000)ゲホッ・・・ゴホッ・・・うっ・・。」
凛香は咳き込み、膝を付いた。
「私はターンエンド。どうした、お前のターンだぞ?さっさとドローしたらどうだ?」
凛香はゆっくりと立ち上がる。
「負けられない・・・絶対・・生きて・・生きてみんなと帰るの・・・・。私のターン・・・!!」
「(絶対、負けられないの・・・。それが約束だから・・・。)」
次回第17話「死闘の果てに」
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やっぱりボスキャラはインチキ効果にしたかったというのがあります(笑)。ちょっとやりすぎな気もしますが。凛香も頑張るので次回もぜひお願いします。 (2015-06-12 20:58)