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17:死闘の果てに 作:ほーがん
第17話「死闘の果てに」
排気口を這いながら進む、カケルとホーガン、そして木嶋の三人。
その道中、木嶋が口を開いた。
「少し・・・やりてぇ事がある。」
その言葉に二人の動きが止まる。
「どうしたんだよ?」
カケルの問いに、木嶋は真剣な顔で答えた。
「俺を、1番隊の元へ行かせてくれ。」
ホーガンが訊ねる。
「一体、何をする気だ?」
木嶋は言った。
「みんなに・・・真実を伝えるんだ。」
「私の・・・ターン!!」
凛香は震える手でカードを引く。
「私は手札から、魔法カード《化石調査》を発動!デッキからレベル6以下の恐竜族モンスターを手札に加える!私はこの効果で《暗黒ロロフス(☆4/地/恐竜/1200・700)》を手札に加える!」
その瞬間、ヘラルドが口を開く。
「この瞬間、2体の「マリス・ギア」の効果発動!相手が魔法カードを発動した時、自分フィールドのモンスターを全て破壊する!」
ヘラルドの言葉と同時に、2体の悪魔は黒い霧となり空中でもがいた後に消え去った。
「どういうこと・・・?一体何を企んで・・・。でも、相手にモンスターは居なくなった。これは攻め込むチャンスよ・・・!」
ヘラルドは言う。
「大きな力には犠牲が付き物だ。さっきも言っただろう。」
凛香は手札のカードを見つめる。
「お願い、私を助けて・・・。手札から《暗黒ロロフス(☆4/地/恐竜/1200・700)》を召喚!」
特徴的なトサカを持つ恐竜は、ホーンのような音を鳴らし凛香の前に現れる。
「《暗黒ロロフス》の効果発動!このカードの召喚に成功した時、墓地のレベル4の恐竜族モンスターを守備表示で特殊召喚できる!戻って来て!《速攻のディノニス》!」
凛香の墓地から、獰猛な肉食恐竜が牙を光らせ復活する。
「さらに《速攻のディノニス》の効果発動!このカードが墓地から特殊召喚に成功した時、レベル4以下の恐竜族モンスターのレベルを2つ上げる事ができる!私はこの効果で《暗黒ロロフス》と《速攻のディノニス》自身のレベルを4から6に変更する!」
ヘラルドは呟く。
「また同じレベルのモンスターが2体か・・・。」
凛香は荒い息を抑えながら言った。
「私は、レベル6になった《暗黒ロロフス》と《速攻のディノニス》でオーバーレイ!」
レベルの上がった2体の恐竜は光の渦へ飛び込み、オーバーレイネットワークを構築する。
「羽ばたく翼の始祖たる者よ!大空を見据え、地面を蹴り上げ未来へ飛び立て!エクシーズ召喚!現れよ!《始祖鳥竜アーケオルス(★6/風/恐竜/エクシーズ/2600・1400)》!!」
鮮やかな翼を広げ、原始の鳥獣がその姿を現した。
「バトルよ!《始祖鳥竜アーケオルス》でダイレクトアタック!『エアエッジ・ダイビング』!!!」
原始の鳥獣は地面を蹴り上げ、上空へと羽ばたく。そして一気に急降下すると、翼に備えた爪をヘラルドに突き立てた。
「ぐっ・・・!!(LP4000→1400)」
ダメージによろけるヘラルド。凛香は言った。
「これで・・・勝負はまだ分からないわね・・・!」
しかし。ヘラルドは笑っていた。
「ふふふ・・・やはり愚かだと言うんだ。このカードのトリガーを引いてしまったんだからな・・・!私は手札から罠カード《充填されゆく悪意—マリス・インジェクション—》を発動!!」
凛香は驚愕する。
「手札から罠カード・・・!?」
ヘラルドは笑いながら言う。
「このカードは、自分フィールドにモンスターが存在しない状態で自分が戦闘ダメージを受けた時、手札から発動できる!自分の墓地から「マリス・ギア」モンスターを攻撃表示で特殊召喚する!蘇れ、《マリス・ギア フィアー》!!」
墓地から黒い霧が溢れ出る。それは悪魔の姿となってヘラルドの場に復活した。
「この効果で特殊召喚した「マリス・ギア」の攻撃力・守備力は3000になる!!」
悪魔は笑い声を上げる。その手には巨大な鉈が握られた。
「そんな・・・また、モンスターが・・・。」
苦しい顔をする凛香。さらにヘラルドは言葉を続ける。
「そして《充填されゆく悪意―マリス・インジェクション―》を発動したターンのエンドフェイズ、自分のライフポイントは半分になる!だが、分かっているな・・・?永続魔法《エロージョン・ヘイトレッド》の効果によりライフを削られるのはお前だ!!」
歯を食いしばる凛香。その額には汗が伝う。
「私は・・・。私は・・・カードを1枚セットして・・・。」
ヘラルドは卑劣な笑みを浮かべる。
「さぁ、ターンエンドしろ!!」
凛香は震える唇で、言葉を紡いだ。
「ターン・・・エンド・・・。」
凛香の言葉にヘラルドは高らかに笑った。
「ふはははっ!!ターンエンドと言ったな!!さぁ、《充填されゆく悪意―マリス・インジェクション―》の効果を喰らえ!!」
悪魔は黒い霧に姿を変え、凛香にまとわりつく。凛香はその黒い霧にもがき喘いだ。
「あっ・・・!ぐっ・・・!こ、こんな・・・ことで・・わ、私は・・・・。」
黒い霧は、凛香を解放する。それと同時に凛香は倒れ込んだ。
「うぐっ・・・。(LP1000→500)」
ヘラルドは関心したような声で言う。
「ほう、案外耐えるものだな。だが、それがいつまで続くか。」
凛香はかすれた声で言う。
「わ・・・たしは・・・。負けない・・・。絶対生きて・・生きて・・・帰るの・・・。」
ふらつく足で凛香は立ち上がる。視界は霞み、荒い息を吐く。ヘラルドは満身創痍の凛香とは対照的に勢いよくカードを引いた。
「私のターン、ドロー!もはや猶予など与えん!バトルだ!《マリス・ギア フィアー》で《始祖鳥竜アーケオルス》を攻撃!!」
悪魔はカラカラと奇妙な笑い声を上げると鉈を引き摺り走り出した。
「『ドレッド・アプローチ』!!!」
鉈を振り上げる悪魔。しかし、凛香は黙ってはいなかった。
「私は、《始祖鳥竜アーケオルス》の効果発動・・・!1ターンに1度・・・オーバーレイユニットを1つ使うことで・・・。このターン、私のフィールドの、恐竜族モンスターは・・・戦闘・効果では、破壊されない・・・!」
しかし、ヘラルドの侵攻は止まらない。
「だが、破壊を免れようとも、ダメージまでは防げまい!!」
振り下ろされる鉈。その斬撃の余波は一直線に凛香へと向かう。
「あああっ・・・!!!(LP500→100)」
衝撃は凛香の体を吹き飛ばし、後方の壁に叩き付けた。凛香の意識は遠のき、口からは血を吐いた。
「かはっ・・・。」
凛香は両膝を付き、うつ伏せに倒れ込んだ。
「自分がどれだけ小さい存在か分かったか?お前の命など、簡単に握り潰せる!夢も希望も途絶え、待っているのは死の絶望だけだ!!」
凛香の目から生気が薄れる。
「(私・・・死ぬのかな・・・。)」
「(ごめんね・・・遊牙・・・カケル・・・ルナ・・・約束・・・守れなかった・・・。)」
「(ガネリおばさん・・・街のみんな・・・もう・・・体が動かないの・・・。)」
「(これで・・・よかったのかな・・・。)」
「(これで・・・。)」
凛香の脳裏に記憶のヴィジョンが過る。今まで出会って来た人々。過ごした時間。そして・・・。
遊牙、カケル、ガネリおばさんの顔。家族であり、大切な仲間達。
ルナの笑顔。
「これで・・・いいわけ・・・無いでしょ・・・!!」
凛香の目に生気が戻る。床を踏みしめ、ゆっくりと立ち上がる。口から伝う血を手の甲で拭き、ヘラルドを睨みつけた。
「約束は・・・絶対に守る・・・それが・・それが・・・私の・・・私達の信念・・・。」
ヘラルドは驚いた様子で言う。
「ま、まだ立つのか・・・!だが、その威勢も何時まで続くか!お前の体はすでに限界なはずだ!」
凛香は擦れた声で叫ぶ。
「限界だろうと・・・!私は諦めない・・・。あんたには・・・屈しない・・・!!」
ヘラルドは気に食わないといった表情で言い放つ。
「ちっ、私は《マリス・ギア フィアー》の効果発動!このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合、デッキから1枚ドローする!」
ヘラルドは引いたカードを確認しニヤリと笑った。
「これで・・・お前の命も本当に終わりだ・・・!!私はフィールド・手札・墓地の《マリス・ギア フィアー》《マリス・ギア ディスクリミネーター》《マリス・ギア グラッジ(☆10/闇/悪魔/?・?)》《マリス・ギア アヴァージョン(☆10/闇/悪魔/?・?)》《マリス・ギア アングザイェティ(☆10/闇/悪魔/?・?)》をゲームから除外し、手札からこのモンスターを特殊召喚する!!」
ヘラルドのフィールドと墓地の悪魔は黒い霧となり巨大な竜巻と化して行く。
「蔓延る悪意、憎悪、不条理!溢れ出る負の感情を糧とし、世界に終焉を齎せ!!これが希望を打ち砕く究極の”悪”!!!」
黒い竜巻はやがて、巨大な悪魔の姿を形成して行く。
「轟誕せよ!!《諦観の化身—マリス・ギアレス レジグネーション—(☆12/闇/悪魔/?・?)》」
6本の指と巨大な角。3つの目に黒い翼。女性の姿を象ったその悪魔は凄まじい叫びを上げ、フィールド全体を威圧する。
「なに・・・これ・・・・。」
ヘラルドは言った。
「ひははは!!!これこそが我が”超越”の象徴!!人間を超え、神として君臨する者の姿!!『神の鉄槌』の遺伝子により私が生み出した、世界最凶のモンスターだ!!」
その時、ヘラルドの体に変化が訪れる。ヘラルドの右手に6本目の指が生え始めた。
「あはははぁ!!!私は、私は進化するぅ!!!人を捨て、新たな進化の段階へ足を踏み入れるのだぁ!!!」
凛香は荒い息を吐きながら、呟く。
「はぁっ・・・やっぱり・・・狂ってるよ・・・あんた・・。」
そんな呟きを気にもせず、ヘラルドは叫ぶ。
「《諦観の化身―マリス・ギアレス レジグネーション―》の効果発動!!このカードの攻撃力・守備力はこのカードの召喚時に除外した「マリス・ギア」モンスターの数×1000の数値になる!!よって攻撃力・守備力は5000だ!!」
ヘラルドの額が割れ3つ目の眼球が形成されてゆく。ヘラルドの声は段々と女性に近い声に変わっていった。
「さらに《諦観の化身―マリス・ギアレス レジグネーション―》は魔法・罠の効果を受けない!!そして我のターンのエンドフェイズ毎にその攻撃力は倍になる!!我はターンエンド!!(ATK5000→10000)」
そしてとうとう、ヘラルドの背に白い翼が出現した。
「なる・・・!!なるぞ・・・!!我は『神の鉄槌』に!!いや、それをも超え、我は真の『神』になる!!ノーン様の傍らに立ち、共に世界を支配するのだぁ!!」
凛香は口を開いた。
「私は・・・恐竜が大好き・・・。」
その言葉にヘラルドは怪訝な顔をした。
「は?なんだ?」
構わず凛香は言葉を続けた。
「今から何億年も前に・・・この地上で暮らしてた・・・強くて、たくましい恐竜達・・・。私も恐竜みたいに強くなれたらって・・・。そんな、彼らの事を知るうちに・・・私は・・・思ったの・・・。」
凛香はヘラルドを睨む。
「この世に、”神”なんか居ないって。」
ヘラルドは叫ぶ。
「今更、なんのたわごとだ!!我の姿を見てなお”神”は居ないとほざくのか!!」
凛香は静かに続ける。
「隕石の衝突・・・。火山活動の活発化・・・。恐竜絶滅の原因は諸説ある。そんな自然の脈動が、誰かに操られてるなんて、私は考えられない・・・。自然の流れだけは・・・。」
凛香は自分のデッキに手を伸ばした。
「誰にも分からない・・・。誰にも・・・決めることなんてできない!私の・・・ターン!」
凛香は引いたカードを確認する。それを見た凛香は小さく笑った。
「そうよ・・・。どうなるかなんて、誰にも決められないんだから・・・!速攻魔法《RUM—ダイナソー・フォース》発動!!!」
凛香は引いたカードをD・ディスクにセッティングする。
「《RUM―ダイナソー・フォース》は自分フィールドまたは墓地に存在する恐竜族エクシーズモンスター1体を選択して、そのモンスターより2つ高いランクの恐竜族エクシーズモンスターにランクアップさせる!!」
ヘラルドは驚愕する。
「な、何!?ランクアップだと・・・!!」
凛香は力を振り絞り、叫んだ。
「私はランク6の《始祖鳥竜アーケオルス》でオーバーレイネットワークを再構築!!」
原始の鳥獣は天高く飛び上がり、光の渦へ飛び込む。
「6500万年の時を越え、王者の牙は蘇る。大地を揺るがすその咆哮に万物よ跪け!ランクアップ・エクシーズチェンジ!太古の覇王、《怒濤恐竜 ガルノダウラス(炎/恐竜/エクシーズ/★8/3300・600)》!!!」
爆炎を纏い無数の牙を携えた恐獣は大地を踏み砕き、現代の世界に降臨した。
「まだ、そんな手を残していたか・・・。だが、高々は攻撃力3300!!我が諦観の化身の足下にも及ばない!!」
ヘラルドの言葉に、凛香は怯まなかった。
「私は・・・《怒濤恐竜 ガルノダウラス》で《諦観の化身―マリス・ギアレス レジグネーション―》を攻撃!!」
炎熱の恐獣は怒号を上げると一直線に駆け出した。
「馬鹿な!!気が狂ったか!!?」
凛香は叫んだ。
「私は負けない・・・!!負けないんだから!!《怒濤恐竜 ガルノダウラス》の効果発動!!このカードが相手モンスターと戦闘する場合、オーバーレイユニットを全て使う事でフィールドのモンスターを全て破壊できる!!」
ヘラルドは焦りを見せる。
「ぐっ・・・!!貴様!!我が神を!!!」
凛香は諦観の化身を指差した。
「行けぇぇぇ!!《怒濤恐竜 ガルノダウラス》!!私たちの未来を阻む、あの壁を噛み砕けぇぇ!!」
炎熱の恐獣は、諦観の化身に噛み付くとその炎を最大限に燃やした。化身はその爪を振るい恐獣に突き刺したが、その炎はフィールドを埋め尽くし爆発、そこに存在する全てのモンスターを吹き飛ばした。
「おのれぇぇぇあああ!!!我が神を!!!だが、諦観の化身にはまだ効果がある!!《諦観の化身―マリス・ギアレス レジグネーション―》がフィールドを離れた時、除外されている「マリス・ギア」を効果を無効にし攻撃力・守備力を3000にして、可能な限り特殊召喚する!!!」
怒り狂うヘラルド。爆発の粉塵が消えた後、その場には攻撃力3000になった5体の悪魔が不気味な笑みと共に並んでいた。
「はぁっ・・・どうだ!!これこそが絶望!!希望は消え去り、待っているのは死の恐怖だけ!!諦めろ!!全てを諦めろ!!」
ヘラルドの叫びが轟く。しかし、凛香の目は絶望になど染まってはいない。
「私はリバースカードを発動!罠カード《ライトニング・バックアップ》!このターンに発動した速攻魔法1枚を手札に戻す!《RUM―ダイナソー・フォース》を手札に戻す!」
凛香の墓地が光る。迫り出たカードを取った凛香はそれをそのまま発動した。
「私は再び《RUM―ダイナソー・フォース》を発動!墓地の《怒濤恐竜 ガルノダウラス》を素材に2つランクの高いエクシーズモンスターにランクアップする!!」
墓地より飛び出た炎熱の恐獣は光の渦へ飛び込み、その姿を変える。
「大地は謳う。真の王者はここにあり。星の脈動よ、奇跡の生命を今生み出さん!!ランクアップ・エクシーズチェンジ!!!これが勝利への切り札!!」
凛香はそのカードを高く掲げた。
「《偉大恐竜 グランド・セイスモー(★10/地/恐竜/エクシーズ/4000・4000)》!!!」
かつて世界を闊歩していた、大地の王者。長い首と戴く冠。威厳に溢れるその姿は信じる者を勝利へ導く。
「ば、馬鹿な・・・!!攻撃力4000だと・・・!!!」
凛香は笑う。
「《偉大恐竜 グランド・セイスモー》の効果発動!オーバーレイユニットを1つ使う事でエクストラデッキに存在する恐竜族エクシーズモンスターの効果を、1度だけ使用できる!」
大地の王者は光の球を取り込むとその効果を発揮した。
「私が選ぶモンスターは・・・・。《氷結恐竜 クリオロフォ(水/恐竜/★6/2200・2000)》!このカードはオーバーレイユニットを使うことで、相手モンスター全ての攻撃力・守備力を0にする・・・!」
ヘラルドの表情が崩れ始める。
「そ、そんな・・・認めん・・・我は認めん・・・!!!」
5体の悪魔は凍り付き、その力を完全に失った。凛香は震える手で指差した。
「これが・・・私の・・・最後の・・・攻撃!!《偉大恐竜 グランド・セイスモー》で《マリス・ギア フィアー》を攻撃!!」
ヘラルドは叫ぶ。
「嫌だぁぁぁあああ!!!我が・・・我が・・・!!!負けるなどぉぉぉおお!!!」
「『スタンピング・ノックダウン』!!!」
大地の王者の巨大な足に、凍り付いた悪魔は踏み潰され砕け散った。
「あああぁぁぁっ!!!(LP1400→0)」
ヘラルドは吹き飛び、床へ叩き付けられた。
『勝者:牧瀬凛香』
「勝っ・・・た・・・。」
とたんに足の力が抜ける凛香。それと同時に後ろの壁は床へ戻り、一人の人物が現れ倒れかけた凛香を支えた。
「よく頑張ったわよ、あなたは。」
その人物を顔を見た凛香は擦れた声で呟く。
「あなたは・・・ミ・・シェル・・・。」
ミシェルは凛香を抱きしめた。
「本当に強い子ね・・・。」
その時。
「認めん・・・我は・・・認めん・・・!!!」
立ち上がったヘラルド。その体は完全に女性の姿となり、白い翼と6本の指、額の目を持った姿だった。
「ヘラルド・・・。その姿は・・・・。」
ミシェルはヘラルドを睨む。
「神が・・・神が敗北するなど・・・ありえん・・・!!」
怒りの形相でヘラルドは叫んだ。
「2番隊、1番隊!!この小娘を殺せ!!早く殺すのだ!!」
だが、その叫びと同時にヘラルドの後ろから声が響いた。
「知ったこっちゃあねぇな、変態野郎!!」
その声に振り向くヘラルド。その声を発した人物を見てヘラルドは驚愕する。
「リチャード・・・なんのつもりだ!!!」
その声の主、2番隊の隊長、リチャード・ベンは言った。
「今までよくも俺達を騙してくれたな・・・!!」
ヘラルドは怒号を上げる。
「何を言っている、早くあの小娘を始末しろ!!」
リチャードは言った。
「木嶋から聞いたぜ。お前の本当の目的、そしてノーンとか言う奴のこともな!!」
その名前にヘラルドは困惑する。
「何!?木嶋だと!?あの男は確かに始末したはず!!!」
その時、リチャードの後ろから3人の人影が現れた。
「ヘラルド、てめぇの味方はもう居ない。」
現れた人物の姿を見たヘラルドは叫んだ。
「な、何故だ!!?木嶋直都!!何故生きている!!」
その3人の内の1人、カケルが言う。
「地獄の底から戻って来てやったぜ!!」
薄く開けた目で3人を見た凛香は呟く。
「・・・カケル・・・よ・・かった・・・。」
カケルの隣、ホーガンが口を開く。
「ヘラルド・・・。これがお前の目的か。人を超え、自らが『神の鉄槌』になる、これがか。」
ヘラルドは狂ったようにわめく。
「ホーガン・・・!!!そうか・・・全ては貴様の仕業か!!『0041』が生きていたのも、『0042』が脱出したのも貴様がぁぁああああ!!うぉっ!!!」
その瞬間、ヘラルドの右腕が弾け飛んだ。
「なんだ!!どうしたというのだ!!あああっ!!!」
爛れ落ちて行く皮膚。白い翼は捥げ、額の眼球が潰れる。
「なぜだ!!!なぜ!!我は・・・我は神になれないというのか・・・!!」
ヘラルドの頭に声が響く。
『ヘラルド。』
「そ、その声はノーン様!!これは一体どういう事ですか・・・!!!」
その声は冷淡に言う。
『愚かな奴だ、ヘラルド。』
「な、何をおっしゃいますか!?わ、私めは、ノーン様の御側に居るためにぃ!!ああっ!!」
突き放すように、その声は言った。
『元々人間である貴様が、神の鉄槌の鱗片を取り込み、進化できると思ったか。』
ヘラルドの顔に汗が伝い、血と混じる。
「で、できるはずです!!確率は低くとも、不可能では無いはず!!」
その声は言う。
『では、運が悪かったという事だな、ヘラルド。今までご苦労だった。』
ヘラルドはすがりつくように言った。
「まっ、待って!!待って下さいノーン様!!!いやだ!!こんなのいやだ!!!」
『鍵の準備は終わった。貴様の仕事も終わったと言う事だ。後は好きに死んでよいぞ、ヘラルド。』
それを最後にその声は途絶え、2度と聞こえる事は無かった。
「いやだぁぁ!!!死にたくない!!!俺は!!神になって!!かみになって!!じにだぐない!!!たすけて!!ノーンさまぁぁあああ!!!」
凄まじい断末魔と共にヘラルドの体は崩れ落ち、肉塊が当たりに散らばる。唯一形を残したのは金属に置き換えた左腕のみだった。
「さらばだ・・・ヘラルド。」
ホーガンは目を閉じ、そう呟いた。
次回18話「月の使者—ルナティックロイド—」
排気口を這いながら進む、カケルとホーガン、そして木嶋の三人。
その道中、木嶋が口を開いた。
「少し・・・やりてぇ事がある。」
その言葉に二人の動きが止まる。
「どうしたんだよ?」
カケルの問いに、木嶋は真剣な顔で答えた。
「俺を、1番隊の元へ行かせてくれ。」
ホーガンが訊ねる。
「一体、何をする気だ?」
木嶋は言った。
「みんなに・・・真実を伝えるんだ。」
「私の・・・ターン!!」
凛香は震える手でカードを引く。
「私は手札から、魔法カード《化石調査》を発動!デッキからレベル6以下の恐竜族モンスターを手札に加える!私はこの効果で《暗黒ロロフス(☆4/地/恐竜/1200・700)》を手札に加える!」
その瞬間、ヘラルドが口を開く。
「この瞬間、2体の「マリス・ギア」の効果発動!相手が魔法カードを発動した時、自分フィールドのモンスターを全て破壊する!」
ヘラルドの言葉と同時に、2体の悪魔は黒い霧となり空中でもがいた後に消え去った。
「どういうこと・・・?一体何を企んで・・・。でも、相手にモンスターは居なくなった。これは攻め込むチャンスよ・・・!」
ヘラルドは言う。
「大きな力には犠牲が付き物だ。さっきも言っただろう。」
凛香は手札のカードを見つめる。
「お願い、私を助けて・・・。手札から《暗黒ロロフス(☆4/地/恐竜/1200・700)》を召喚!」
特徴的なトサカを持つ恐竜は、ホーンのような音を鳴らし凛香の前に現れる。
「《暗黒ロロフス》の効果発動!このカードの召喚に成功した時、墓地のレベル4の恐竜族モンスターを守備表示で特殊召喚できる!戻って来て!《速攻のディノニス》!」
凛香の墓地から、獰猛な肉食恐竜が牙を光らせ復活する。
「さらに《速攻のディノニス》の効果発動!このカードが墓地から特殊召喚に成功した時、レベル4以下の恐竜族モンスターのレベルを2つ上げる事ができる!私はこの効果で《暗黒ロロフス》と《速攻のディノニス》自身のレベルを4から6に変更する!」
ヘラルドは呟く。
「また同じレベルのモンスターが2体か・・・。」
凛香は荒い息を抑えながら言った。
「私は、レベル6になった《暗黒ロロフス》と《速攻のディノニス》でオーバーレイ!」
レベルの上がった2体の恐竜は光の渦へ飛び込み、オーバーレイネットワークを構築する。
「羽ばたく翼の始祖たる者よ!大空を見据え、地面を蹴り上げ未来へ飛び立て!エクシーズ召喚!現れよ!《始祖鳥竜アーケオルス(★6/風/恐竜/エクシーズ/2600・1400)》!!」
鮮やかな翼を広げ、原始の鳥獣がその姿を現した。
「バトルよ!《始祖鳥竜アーケオルス》でダイレクトアタック!『エアエッジ・ダイビング』!!!」
原始の鳥獣は地面を蹴り上げ、上空へと羽ばたく。そして一気に急降下すると、翼に備えた爪をヘラルドに突き立てた。
「ぐっ・・・!!(LP4000→1400)」
ダメージによろけるヘラルド。凛香は言った。
「これで・・・勝負はまだ分からないわね・・・!」
しかし。ヘラルドは笑っていた。
「ふふふ・・・やはり愚かだと言うんだ。このカードのトリガーを引いてしまったんだからな・・・!私は手札から罠カード《充填されゆく悪意—マリス・インジェクション—》を発動!!」
凛香は驚愕する。
「手札から罠カード・・・!?」
ヘラルドは笑いながら言う。
「このカードは、自分フィールドにモンスターが存在しない状態で自分が戦闘ダメージを受けた時、手札から発動できる!自分の墓地から「マリス・ギア」モンスターを攻撃表示で特殊召喚する!蘇れ、《マリス・ギア フィアー》!!」
墓地から黒い霧が溢れ出る。それは悪魔の姿となってヘラルドの場に復活した。
「この効果で特殊召喚した「マリス・ギア」の攻撃力・守備力は3000になる!!」
悪魔は笑い声を上げる。その手には巨大な鉈が握られた。
「そんな・・・また、モンスターが・・・。」
苦しい顔をする凛香。さらにヘラルドは言葉を続ける。
「そして《充填されゆく悪意―マリス・インジェクション―》を発動したターンのエンドフェイズ、自分のライフポイントは半分になる!だが、分かっているな・・・?永続魔法《エロージョン・ヘイトレッド》の効果によりライフを削られるのはお前だ!!」
歯を食いしばる凛香。その額には汗が伝う。
「私は・・・。私は・・・カードを1枚セットして・・・。」
ヘラルドは卑劣な笑みを浮かべる。
「さぁ、ターンエンドしろ!!」
凛香は震える唇で、言葉を紡いだ。
「ターン・・・エンド・・・。」
凛香の言葉にヘラルドは高らかに笑った。
「ふはははっ!!ターンエンドと言ったな!!さぁ、《充填されゆく悪意―マリス・インジェクション―》の効果を喰らえ!!」
悪魔は黒い霧に姿を変え、凛香にまとわりつく。凛香はその黒い霧にもがき喘いだ。
「あっ・・・!ぐっ・・・!こ、こんな・・・ことで・・わ、私は・・・・。」
黒い霧は、凛香を解放する。それと同時に凛香は倒れ込んだ。
「うぐっ・・・。(LP1000→500)」
ヘラルドは関心したような声で言う。
「ほう、案外耐えるものだな。だが、それがいつまで続くか。」
凛香はかすれた声で言う。
「わ・・・たしは・・・。負けない・・・。絶対生きて・・生きて・・・帰るの・・・。」
ふらつく足で凛香は立ち上がる。視界は霞み、荒い息を吐く。ヘラルドは満身創痍の凛香とは対照的に勢いよくカードを引いた。
「私のターン、ドロー!もはや猶予など与えん!バトルだ!《マリス・ギア フィアー》で《始祖鳥竜アーケオルス》を攻撃!!」
悪魔はカラカラと奇妙な笑い声を上げると鉈を引き摺り走り出した。
「『ドレッド・アプローチ』!!!」
鉈を振り上げる悪魔。しかし、凛香は黙ってはいなかった。
「私は、《始祖鳥竜アーケオルス》の効果発動・・・!1ターンに1度・・・オーバーレイユニットを1つ使うことで・・・。このターン、私のフィールドの、恐竜族モンスターは・・・戦闘・効果では、破壊されない・・・!」
しかし、ヘラルドの侵攻は止まらない。
「だが、破壊を免れようとも、ダメージまでは防げまい!!」
振り下ろされる鉈。その斬撃の余波は一直線に凛香へと向かう。
「あああっ・・・!!!(LP500→100)」
衝撃は凛香の体を吹き飛ばし、後方の壁に叩き付けた。凛香の意識は遠のき、口からは血を吐いた。
「かはっ・・・。」
凛香は両膝を付き、うつ伏せに倒れ込んだ。
「自分がどれだけ小さい存在か分かったか?お前の命など、簡単に握り潰せる!夢も希望も途絶え、待っているのは死の絶望だけだ!!」
凛香の目から生気が薄れる。
「(私・・・死ぬのかな・・・。)」
「(ごめんね・・・遊牙・・・カケル・・・ルナ・・・約束・・・守れなかった・・・。)」
「(ガネリおばさん・・・街のみんな・・・もう・・・体が動かないの・・・。)」
「(これで・・・よかったのかな・・・。)」
「(これで・・・。)」
凛香の脳裏に記憶のヴィジョンが過る。今まで出会って来た人々。過ごした時間。そして・・・。
遊牙、カケル、ガネリおばさんの顔。家族であり、大切な仲間達。
ルナの笑顔。
「これで・・・いいわけ・・・無いでしょ・・・!!」
凛香の目に生気が戻る。床を踏みしめ、ゆっくりと立ち上がる。口から伝う血を手の甲で拭き、ヘラルドを睨みつけた。
「約束は・・・絶対に守る・・・それが・・それが・・・私の・・・私達の信念・・・。」
ヘラルドは驚いた様子で言う。
「ま、まだ立つのか・・・!だが、その威勢も何時まで続くか!お前の体はすでに限界なはずだ!」
凛香は擦れた声で叫ぶ。
「限界だろうと・・・!私は諦めない・・・。あんたには・・・屈しない・・・!!」
ヘラルドは気に食わないといった表情で言い放つ。
「ちっ、私は《マリス・ギア フィアー》の効果発動!このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合、デッキから1枚ドローする!」
ヘラルドは引いたカードを確認しニヤリと笑った。
「これで・・・お前の命も本当に終わりだ・・・!!私はフィールド・手札・墓地の《マリス・ギア フィアー》《マリス・ギア ディスクリミネーター》《マリス・ギア グラッジ(☆10/闇/悪魔/?・?)》《マリス・ギア アヴァージョン(☆10/闇/悪魔/?・?)》《マリス・ギア アングザイェティ(☆10/闇/悪魔/?・?)》をゲームから除外し、手札からこのモンスターを特殊召喚する!!」
ヘラルドのフィールドと墓地の悪魔は黒い霧となり巨大な竜巻と化して行く。
「蔓延る悪意、憎悪、不条理!溢れ出る負の感情を糧とし、世界に終焉を齎せ!!これが希望を打ち砕く究極の”悪”!!!」
黒い竜巻はやがて、巨大な悪魔の姿を形成して行く。
「轟誕せよ!!《諦観の化身—マリス・ギアレス レジグネーション—(☆12/闇/悪魔/?・?)》」
6本の指と巨大な角。3つの目に黒い翼。女性の姿を象ったその悪魔は凄まじい叫びを上げ、フィールド全体を威圧する。
「なに・・・これ・・・・。」
ヘラルドは言った。
「ひははは!!!これこそが我が”超越”の象徴!!人間を超え、神として君臨する者の姿!!『神の鉄槌』の遺伝子により私が生み出した、世界最凶のモンスターだ!!」
その時、ヘラルドの体に変化が訪れる。ヘラルドの右手に6本目の指が生え始めた。
「あはははぁ!!!私は、私は進化するぅ!!!人を捨て、新たな進化の段階へ足を踏み入れるのだぁ!!!」
凛香は荒い息を吐きながら、呟く。
「はぁっ・・・やっぱり・・・狂ってるよ・・・あんた・・。」
そんな呟きを気にもせず、ヘラルドは叫ぶ。
「《諦観の化身―マリス・ギアレス レジグネーション―》の効果発動!!このカードの攻撃力・守備力はこのカードの召喚時に除外した「マリス・ギア」モンスターの数×1000の数値になる!!よって攻撃力・守備力は5000だ!!」
ヘラルドの額が割れ3つ目の眼球が形成されてゆく。ヘラルドの声は段々と女性に近い声に変わっていった。
「さらに《諦観の化身―マリス・ギアレス レジグネーション―》は魔法・罠の効果を受けない!!そして我のターンのエンドフェイズ毎にその攻撃力は倍になる!!我はターンエンド!!(ATK5000→10000)」
そしてとうとう、ヘラルドの背に白い翼が出現した。
「なる・・・!!なるぞ・・・!!我は『神の鉄槌』に!!いや、それをも超え、我は真の『神』になる!!ノーン様の傍らに立ち、共に世界を支配するのだぁ!!」
凛香は口を開いた。
「私は・・・恐竜が大好き・・・。」
その言葉にヘラルドは怪訝な顔をした。
「は?なんだ?」
構わず凛香は言葉を続けた。
「今から何億年も前に・・・この地上で暮らしてた・・・強くて、たくましい恐竜達・・・。私も恐竜みたいに強くなれたらって・・・。そんな、彼らの事を知るうちに・・・私は・・・思ったの・・・。」
凛香はヘラルドを睨む。
「この世に、”神”なんか居ないって。」
ヘラルドは叫ぶ。
「今更、なんのたわごとだ!!我の姿を見てなお”神”は居ないとほざくのか!!」
凛香は静かに続ける。
「隕石の衝突・・・。火山活動の活発化・・・。恐竜絶滅の原因は諸説ある。そんな自然の脈動が、誰かに操られてるなんて、私は考えられない・・・。自然の流れだけは・・・。」
凛香は自分のデッキに手を伸ばした。
「誰にも分からない・・・。誰にも・・・決めることなんてできない!私の・・・ターン!」
凛香は引いたカードを確認する。それを見た凛香は小さく笑った。
「そうよ・・・。どうなるかなんて、誰にも決められないんだから・・・!速攻魔法《RUM—ダイナソー・フォース》発動!!!」
凛香は引いたカードをD・ディスクにセッティングする。
「《RUM―ダイナソー・フォース》は自分フィールドまたは墓地に存在する恐竜族エクシーズモンスター1体を選択して、そのモンスターより2つ高いランクの恐竜族エクシーズモンスターにランクアップさせる!!」
ヘラルドは驚愕する。
「な、何!?ランクアップだと・・・!!」
凛香は力を振り絞り、叫んだ。
「私はランク6の《始祖鳥竜アーケオルス》でオーバーレイネットワークを再構築!!」
原始の鳥獣は天高く飛び上がり、光の渦へ飛び込む。
「6500万年の時を越え、王者の牙は蘇る。大地を揺るがすその咆哮に万物よ跪け!ランクアップ・エクシーズチェンジ!太古の覇王、《怒濤恐竜 ガルノダウラス(炎/恐竜/エクシーズ/★8/3300・600)》!!!」
爆炎を纏い無数の牙を携えた恐獣は大地を踏み砕き、現代の世界に降臨した。
「まだ、そんな手を残していたか・・・。だが、高々は攻撃力3300!!我が諦観の化身の足下にも及ばない!!」
ヘラルドの言葉に、凛香は怯まなかった。
「私は・・・《怒濤恐竜 ガルノダウラス》で《諦観の化身―マリス・ギアレス レジグネーション―》を攻撃!!」
炎熱の恐獣は怒号を上げると一直線に駆け出した。
「馬鹿な!!気が狂ったか!!?」
凛香は叫んだ。
「私は負けない・・・!!負けないんだから!!《怒濤恐竜 ガルノダウラス》の効果発動!!このカードが相手モンスターと戦闘する場合、オーバーレイユニットを全て使う事でフィールドのモンスターを全て破壊できる!!」
ヘラルドは焦りを見せる。
「ぐっ・・・!!貴様!!我が神を!!!」
凛香は諦観の化身を指差した。
「行けぇぇぇ!!《怒濤恐竜 ガルノダウラス》!!私たちの未来を阻む、あの壁を噛み砕けぇぇ!!」
炎熱の恐獣は、諦観の化身に噛み付くとその炎を最大限に燃やした。化身はその爪を振るい恐獣に突き刺したが、その炎はフィールドを埋め尽くし爆発、そこに存在する全てのモンスターを吹き飛ばした。
「おのれぇぇぇあああ!!!我が神を!!!だが、諦観の化身にはまだ効果がある!!《諦観の化身―マリス・ギアレス レジグネーション―》がフィールドを離れた時、除外されている「マリス・ギア」を効果を無効にし攻撃力・守備力を3000にして、可能な限り特殊召喚する!!!」
怒り狂うヘラルド。爆発の粉塵が消えた後、その場には攻撃力3000になった5体の悪魔が不気味な笑みと共に並んでいた。
「はぁっ・・・どうだ!!これこそが絶望!!希望は消え去り、待っているのは死の恐怖だけ!!諦めろ!!全てを諦めろ!!」
ヘラルドの叫びが轟く。しかし、凛香の目は絶望になど染まってはいない。
「私はリバースカードを発動!罠カード《ライトニング・バックアップ》!このターンに発動した速攻魔法1枚を手札に戻す!《RUM―ダイナソー・フォース》を手札に戻す!」
凛香の墓地が光る。迫り出たカードを取った凛香はそれをそのまま発動した。
「私は再び《RUM―ダイナソー・フォース》を発動!墓地の《怒濤恐竜 ガルノダウラス》を素材に2つランクの高いエクシーズモンスターにランクアップする!!」
墓地より飛び出た炎熱の恐獣は光の渦へ飛び込み、その姿を変える。
「大地は謳う。真の王者はここにあり。星の脈動よ、奇跡の生命を今生み出さん!!ランクアップ・エクシーズチェンジ!!!これが勝利への切り札!!」
凛香はそのカードを高く掲げた。
「《偉大恐竜 グランド・セイスモー(★10/地/恐竜/エクシーズ/4000・4000)》!!!」
かつて世界を闊歩していた、大地の王者。長い首と戴く冠。威厳に溢れるその姿は信じる者を勝利へ導く。
「ば、馬鹿な・・・!!攻撃力4000だと・・・!!!」
凛香は笑う。
「《偉大恐竜 グランド・セイスモー》の効果発動!オーバーレイユニットを1つ使う事でエクストラデッキに存在する恐竜族エクシーズモンスターの効果を、1度だけ使用できる!」
大地の王者は光の球を取り込むとその効果を発揮した。
「私が選ぶモンスターは・・・・。《氷結恐竜 クリオロフォ(水/恐竜/★6/2200・2000)》!このカードはオーバーレイユニットを使うことで、相手モンスター全ての攻撃力・守備力を0にする・・・!」
ヘラルドの表情が崩れ始める。
「そ、そんな・・・認めん・・・我は認めん・・・!!!」
5体の悪魔は凍り付き、その力を完全に失った。凛香は震える手で指差した。
「これが・・・私の・・・最後の・・・攻撃!!《偉大恐竜 グランド・セイスモー》で《マリス・ギア フィアー》を攻撃!!」
ヘラルドは叫ぶ。
「嫌だぁぁぁあああ!!!我が・・・我が・・・!!!負けるなどぉぉぉおお!!!」
「『スタンピング・ノックダウン』!!!」
大地の王者の巨大な足に、凍り付いた悪魔は踏み潰され砕け散った。
「あああぁぁぁっ!!!(LP1400→0)」
ヘラルドは吹き飛び、床へ叩き付けられた。
『勝者:牧瀬凛香』
「勝っ・・・た・・・。」
とたんに足の力が抜ける凛香。それと同時に後ろの壁は床へ戻り、一人の人物が現れ倒れかけた凛香を支えた。
「よく頑張ったわよ、あなたは。」
その人物を顔を見た凛香は擦れた声で呟く。
「あなたは・・・ミ・・シェル・・・。」
ミシェルは凛香を抱きしめた。
「本当に強い子ね・・・。」
その時。
「認めん・・・我は・・・認めん・・・!!!」
立ち上がったヘラルド。その体は完全に女性の姿となり、白い翼と6本の指、額の目を持った姿だった。
「ヘラルド・・・。その姿は・・・・。」
ミシェルはヘラルドを睨む。
「神が・・・神が敗北するなど・・・ありえん・・・!!」
怒りの形相でヘラルドは叫んだ。
「2番隊、1番隊!!この小娘を殺せ!!早く殺すのだ!!」
だが、その叫びと同時にヘラルドの後ろから声が響いた。
「知ったこっちゃあねぇな、変態野郎!!」
その声に振り向くヘラルド。その声を発した人物を見てヘラルドは驚愕する。
「リチャード・・・なんのつもりだ!!!」
その声の主、2番隊の隊長、リチャード・ベンは言った。
「今までよくも俺達を騙してくれたな・・・!!」
ヘラルドは怒号を上げる。
「何を言っている、早くあの小娘を始末しろ!!」
リチャードは言った。
「木嶋から聞いたぜ。お前の本当の目的、そしてノーンとか言う奴のこともな!!」
その名前にヘラルドは困惑する。
「何!?木嶋だと!?あの男は確かに始末したはず!!!」
その時、リチャードの後ろから3人の人影が現れた。
「ヘラルド、てめぇの味方はもう居ない。」
現れた人物の姿を見たヘラルドは叫んだ。
「な、何故だ!!?木嶋直都!!何故生きている!!」
その3人の内の1人、カケルが言う。
「地獄の底から戻って来てやったぜ!!」
薄く開けた目で3人を見た凛香は呟く。
「・・・カケル・・・よ・・かった・・・。」
カケルの隣、ホーガンが口を開く。
「ヘラルド・・・。これがお前の目的か。人を超え、自らが『神の鉄槌』になる、これがか。」
ヘラルドは狂ったようにわめく。
「ホーガン・・・!!!そうか・・・全ては貴様の仕業か!!『0041』が生きていたのも、『0042』が脱出したのも貴様がぁぁああああ!!うぉっ!!!」
その瞬間、ヘラルドの右腕が弾け飛んだ。
「なんだ!!どうしたというのだ!!あああっ!!!」
爛れ落ちて行く皮膚。白い翼は捥げ、額の眼球が潰れる。
「なぜだ!!!なぜ!!我は・・・我は神になれないというのか・・・!!」
ヘラルドの頭に声が響く。
『ヘラルド。』
「そ、その声はノーン様!!これは一体どういう事ですか・・・!!!」
その声は冷淡に言う。
『愚かな奴だ、ヘラルド。』
「な、何をおっしゃいますか!?わ、私めは、ノーン様の御側に居るためにぃ!!ああっ!!」
突き放すように、その声は言った。
『元々人間である貴様が、神の鉄槌の鱗片を取り込み、進化できると思ったか。』
ヘラルドの顔に汗が伝い、血と混じる。
「で、できるはずです!!確率は低くとも、不可能では無いはず!!」
その声は言う。
『では、運が悪かったという事だな、ヘラルド。今までご苦労だった。』
ヘラルドはすがりつくように言った。
「まっ、待って!!待って下さいノーン様!!!いやだ!!こんなのいやだ!!!」
『鍵の準備は終わった。貴様の仕事も終わったと言う事だ。後は好きに死んでよいぞ、ヘラルド。』
それを最後にその声は途絶え、2度と聞こえる事は無かった。
「いやだぁぁ!!!死にたくない!!!俺は!!神になって!!かみになって!!じにだぐない!!!たすけて!!ノーンさまぁぁあああ!!!」
凄まじい断末魔と共にヘラルドの体は崩れ落ち、肉塊が当たりに散らばる。唯一形を残したのは金属に置き換えた左腕のみだった。
「さらばだ・・・ヘラルド。」
ホーガンは目を閉じ、そう呟いた。
次回18話「月の使者—ルナティックロイド—」
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Amazonのアソシエイトとして、管理人は適格販売により収入を得ています。
とうとうヘラルドが退場しました。今までお疲れって感じですね(笑)。
グランド・セイスモーのモチーフは名前の通り、ジュラ紀に生息していた「セイスモサウルス」ですね。おっしゃる通りブラキオサウルスみたいな恐竜です。ブラキオよりも体は大きいです。ティラノはメジャー中のメジャーで遊戯王にもティラノのモンスターはたくさん居るので、あえてモチーフからは外してます。 (2015-06-13 08:36)