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20:生きとし生ける者の希望 作:ほーがん
第20話「生きとし生ける者の希望」
街のはずれ。木造の小屋。フードを被った一人の人物は外に出て、言った。
「・・・そろそろ行かなくちゃ。」
その後ろ、小屋の中の男は口を開く。
「本当に行っちまうのか。身体は、本当に平気なんだな。」
フードの人物は振り向かずに言う。
「これが運命さ。僕もいよいよ覚悟を決める時だ。月の住人の為にも、僕の為にも。そして・・・。」
袖を捲る。そこには紋章のようなものが刻まれていた。
「・・・”こいつ”の為にも。」
後ろの男は言った。
「また、会えるか・・・。」
今度は振り向き、フードを外した。
「ああ、もちろん。僕らは友達だ。今まで世話になった。ありがとう。」
男は頷く。再びフードを被ったその人物は歩き出した。そして、最後に言葉を付け加える。
「本当にありがとう。君も、もう居るべき場所へ帰った方がいい。きっと彼女は君の事を待っているよ、ドレガン。」
「・・・また会おう、ヨシト。」
そして、同時刻。
『全ての形在りし者達よ!!世界の終焉訪れし時、その無力さに打ち拉がれん!!おお神よ!!世界に混沌を齎し、新たな時代の礎とならん!!』
世界の終わりを司る、究極の終焉。その姿はこの世界を包み、破壊と混沌に染めてゆく。
『我が神!!!《月狂女神―ディスノミア(☆12/神/幻神獣族/0・0)》』
地を裂き、宙を焦がすその姿。そびえる女神は破滅を齎し、世界を滅亡へと導く。遊牙は後ずさりをするように身を震わせた。
「これが・・・神・・・・。」
ノーンは言う。
『創造の果てに待つものは破壊と終焉!形あるものには必ず終わりが存在する!我が神ディスノミアは全てを破壊し、世界を終局へと導く究極の破壊神!!何者も及ばぬ、神の領域の存在だ!!』
遊牙は歯を食いしばる。
「だが、攻撃力は0・・・。俺にダメージを与えることはできない。」
しかし、ノーンは高らかに言い放った。
『我が神に攻撃など不要!!《月狂女神―ディスノミア》はいかなる場合においても破壊することは出来ず、自分への全てのダメージを0にする!!そして、1ターンに1度、相手の手札・フィールド・墓地に存在するカードを全て除外する!!』
「なんだと!!」
破滅の女神は手に持つ杖を振る、月面に凄まじい突風が吹き荒れ、遊牙のカードは吹き飛ばされた。
「そんな・・・。俺の仲間達が・・・。」
ノーンは笑う。
『ふははは!!これが神の力!!《月狂女神―ディスノミア》の効果はまだ続く!!自分のバトルフェイズを放棄しエンドフェイズに移行する事で、相手のライフポイントを1にする!!!』
「ライフポイントを1にするだと!!!」
女神はその杖を振り上げる。その瞬間遊牙に向かって黒い雨が降り注ぐ。その無数の雨粒は鋭利な針となって遊牙の身体を貫いた。
「ぐはっ・・・。(LP1000→1)」
身体中が引き裂かれ、遊牙の意識が遠のく。血に濡れた遊牙は膝を折り、倒れ込んだ。
『そして《月狂女神―ディスノミア》が存在する限り、相手がモンスターの召喚及びカードの発動を行う度に、相手に2000ポイントのダメージを与える!!さらに相手のエンドフェイズを迎えた瞬間《月狂女神―ディスノミア》の攻撃力・守備力は5000ポイントアップする!!!これが、神!!!何者も寄せ付けぬ絶対的な力!!!己の弱さ、無力さを身をもって知れ!!!これが貴様の限界だ!!!』
薄れ行く意識。滲んで行く血溜まり。
「・・・俺は・・・勝てないのか・・・。」
遊牙は、指先に力が入らなくなってゆくのを感じた。
「・・・なんの為に・・・俺は・・・。」
そう。全てはあの約束から始まった。あの日のあの場所。ルナと出会ったあの時から。
「・・・ルナ・・・俺は・・・俺は・・・。」
遊牙は立ち上がろうとした。しかし無数の針に貫かれた身体は、もはやもがく力すら残されていない。
「・・・俺は・・・」
そして、遊牙は力尽き目を閉じた。
不自然に青々とした芝生の上。遊牙は寝転がり、灰色の空を見つめていた。
そこへ一人の男が近づく。
「どうしたんだ、遊牙。」
その言葉に遊牙はぽつりと呟く。
「どうして、空は灰色なんだ?」
男は遊牙の横に寝そべった。腕を枕にし、同じように空を見上げる。
「昔は青かったんだ、昔はな。」
「どのくらい昔?」
遊牙は目線を変えずに口を開いた。
「そうだな、今から15年くらい前か。ちょうど、遊牙やみんなが産まれる少し前だ。そのころは空は青くて綺麗なもんだった。今みたいにずっと雲が覆ってるなんてことは滅多になかったな。」
男は懐かしむように言った。
そして、男は遊牙の方を向き口を開いた。
「なぁ、遊牙。なんで人は生まれて来ると思う?」
遊牙は突然の質問に困惑する。男は笑って、言葉を続けた。
「人はみんな生まれた時から迷子なんだ。何かを探して歩き続ける迷子。それは、夢だったり、生きる意味だったり、もしかしたら今日の夕飯かもしれない。」
遊牙は怪訝な顔をする。
「でも、皆に共通する事は、幸せを目指しているということ。この世に生まれたからには幸せになりたい・・・。そう思うのが人ってもんだ。」
遊牙は黙って、男の言葉を聞いた。
「遊牙にとっての幸せって、何だろうな?」
その男の隣に、一人の少年がやってくる。
「僕も知りたいな。遊牙の幸せを。」
遊牙はその顔を見て声を漏らす。
「ウェイス・・・。」
またひとり少女が遊牙のそばにやって来る。
「私も知りたーい!」
「エリー・・・。」
次々に集まって来る仲間達。遊牙にとってかけがえのない、40人の家族。
「遊牙。」
「遊牙。」
「遊牙!」
「遊牙・・・。」
そして、遊牙は口を開く。
「俺にとっての幸せは・・・皆と笑って過ごせること。カケルや凛香。ガネリおばさん。街の皆。そして・・・ルナと。」
遊牙の隣の男、ジャックスは言った。
「俺達はもう、お前に会うことはできない。でも、俺達はずっとお前のそばに居る。俺達はいつまでもお前と一緒だ。」
その言葉に周りの仲間達も次々に頷く。
「僕らが付いてるよ、遊牙。」
ウェイスは遊牙の手を握る。
「ウェイス・・・俺は・・・。」
ジャックスは立ち上がり、座り込んでいる遊牙に手を差し伸べた。
「さぁ、遊牙。お前の幸せを叶えに行こう。大丈夫。いつだってお前には俺達が付いてる。」
遊牙は言った。
「俺に・・・できるだろうか。もう一度立ち上がって戦うことが・・・。」
ジャックスは遊牙を見つめる。
「お前がそう願うなら、きっとできるさ。」
遊牙はジャックスの手を取る。
「俺は・・・戦う。もう一度立ち上がって・・・!」
ジャックスは手を引っ張り上げ遊牙を立たせた。そして笑顔で言った。
「ありがとう遊牙。俺達の分まで生きてくれて。さぁ、行こう。お前の信じる未来へ。」
そして、遊牙は立ち上がった。
『ば、馬鹿な!!まだ立ち上がる力が残されているのか!!』
ノーンの言葉を受け、遊牙は言い放つ。
「俺は・・・もう倒れはしない!!!俺の信じる未来へ、俺は突き進む!!!だから待っていてくれ、ルナ・・・。俺は必ずノーンに勝つ!!」
しかしノーンはその言葉を笑う。
『余には破壊の女神《月狂女神―ディスノミア》がいる!!貴様には一片の希望たりとも残されては居ない!!!』
遊牙は叫ぶ。
「希望なら・・・俺が作り出す!!!俺のターン・・・!!!」
その瞬間、遊牙のデッキが光る。遊牙はその光るカードへ手を伸ばした。
「俺が進むこと止めなければ・・・希望は必ずそこにある・・・!!!ドロー!!!」
そして、引かれるカード。遊牙はそのカードを見る事無くD・ディスクにセッティングした。
「・・・俺は手札から《アライブメイト・ルナ(☆2/光/天使/チューナー/0・0)》を召喚!!!」
現れたのは白い髪の美しい少女。ワンピースを身に纏ったその少女は静かに遊牙の前に舞い降りた。
『なんだそのモンスターは・・・!!だが、この瞬間《月狂女神―ディスノミア》の効果発動!!2000のダメージを受けよ!!!』
女神は杖を振り、針の雨を飛ばした。だが、白き少女に近づいた瞬間、針の雨は消え失せてゆく。
『な、なぜだ!!神の力が及ばぬ存在などありえん!!!』
遊牙は静かに言う。
「《アライブメイト・ルナ》の召喚を無効化することはできず、このモンスターの召喚に成功したターン自分が受ける全てのダメージは0になる。そして!!《アライブメイト・ルナ》の効果発動!!」
白き少女は月面に向けて手をかざした。
「《アライブメイト・ルナ》の召喚に成功した時、墓地または除外されている《コープスナイト・デッドジャック》を特殊召喚できる!!次元の狭間から蘇れ、我が信頼する切り札よ!!」
空間を切り裂くように、闇の騎士は姿を現す。白き少女に並んだ騎士は遊牙の方へ振り向いた。
(遊牙、それでいい。これがお前の信じる未来なら、俺はどこまでも共に行こう!!)
遊牙は頷く。ノーンは焦るように言った。
『だが、その程度の力で我が神を倒す事はできない!!!我が神はいかなる力も寄せ付けん!!!どんなものも神の領域を超えることはできない!!!』
遊牙は高らかに叫んだ。
「これが、俺の全て!!未来を切り開く究極の力!!俺はレベル7の《コープスナイト・デッドジャック》にレベル2の《アライブメイト・ルナ》をチューニング!!!」
少女は光り輝く白い輪になる。闇の騎士は月面を蹴り飛び上がると、その輪の中へ飛び込んだ。
「誇り高き甲冑よ!!命の柱をその手に束ね、生きとし生ける者の希望とならん!!幾多の悲しみを乗り越え、光誕せよ!!」
凄まじい光の中、新たな騎士がその翼を広げる。
「《コープスナイトロード・ジャックス・デッドエンド(☆9/光/アンデット/シンクロ/3000・2500)》!!!
そして。ついに誕生する。光の剣を携え、輝く翼を広げた誇り高き騎士は、その威厳溢れる姿をもって遊牙の前へ光臨した。
「・・・これが、俺の未来だ。」
『な・・・なんだこのモンスターは・・・!!!うぅうううっ!!!』
その時、ノーンの身体に新たな変化が現れる。白い翼は消滅し、6本目の指も同時に消え失せて行く。
『ぐっ・・・今になって抵抗しようというのか!!!もはや貴様の肉体は余のものだぞ!!!余を・・・余を追い出そうというのか!!!』
遊牙は叫んだ。
「ルナ!!!今救いに行く!!!《コープスナイトロード・ジャックス・デッドエンド》の効果発動!!このカードのシンクロ召喚に成功した時、フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!!砕け散れ、《グローリー・フルムーン》!!」
光の騎士は剣を振るい、月面に突き刺した。その瞬間周りの景色は砕け、元の地下の風景が戻った。
『我が誇り高き故郷を!!貴様!!!』
遊牙はさらに言い放つ。
「《コープスナイトロード・ジャックス・デッドエンド》のさらなる効果!!1ターンに1度、相手フィールドのカード1枚を選択し、そのカードの効果を無効にする!!この効果で《月狂女神―ディスノミア》の効果は無効だ!!!」
光の騎士は剣から閃光を放つ。その眩い光に女神はうろたえ、その能力を失った。
『あってはならん・・・!!我が神を越えるなど!!!』
そして、遊牙は破壊の女神を指差し叫んだ。
「世界に破滅など、絶対に訪れさせはしない!!!バトルだ!!《コープスナイトロード・ジャックス・デッドエンド》で《月狂女神―ディスノミア》を攻撃!!!」
光の騎士は剣を構え、そびえる神に向かって飛び出す。
『神を超えるなどあってはならない!!!余は手札の《月狂傀儡―エウロパ(☆4/光/天使/ペンデュラム/0・1900)》の効果を発動!!!我が神《月狂女神―ディスノミア》が戦闘を行う場合、このカードを手札から除外することで、その攻撃力を4000ポイントアップする!!!(ATK0→4000)』
女神は天使を彫刻を手に持ち、光の騎士を向かえ撃つ。だが、遊牙も同時に叫びを上げた。
「この瞬間《コープスナイトロード・ジャックス・デッドエンド》の効果発動!!このカードが戦闘を行う場合、フィールドのモンスター全てを除外できる!!!」
光の騎士は剣を振りかざし、女神の頭上へと飛び上がる。女神はその杖を振り、光の騎士の一撃を受け止める。光の騎士は剣を捨て、女神の懐へ飛び込んだ。やがて両者は眩い光に包まれ、凄まじいエネルギーを放ちながらフィールドから消滅した。
『うおおおぉぉっ!!!おのれぇえええ!!!』
ノーンは叫びを上げる。その瞬間、ノーンの精神はルナの肉体から徐々に離れ、その姿を現した。
それはなんとも不完全な姿。黒い片翼に4本の指。まるで悪魔のような醜い形相。
『馬鹿な!!我が神が・・・我が神が!!!だが、全ては無駄だ!!!《月狂傀儡―エウロパ》の効果を使用した次のターン、相手は500のダメージを受ける!!!貴様のフィールド・手札にカードはない!!貴様にはどうあっても勝利は訪れない!!!』
遊牙は目を閉じ言った。
「《コープスナイトロード・ジャックス・デッドエンド》の効果発動。フィールドのこのカードが除外された時、自分はデッキからカードを1枚ドローする。そしてドローしたカードが「コープスナイト」モンスターだった場合、その攻撃力を500アップして特殊召喚する!」
精神体となったノーンは叫んだ。
『無駄だ!!!貴様に勝利はない!!!余は・・余は王となるのだ!!!』
遊牙は目を開く、そしてカードをドローした。
「俺が引いたカードは・・・・《コープスナイト・ウェイス(☆4/闇/アンデット/1700・0)》!!!」
遊牙の前に、銀の剣を携えた騎士が降り立つ。
「その攻撃力は《コープスナイトロード・ジャックス・デッドエンド》の効果によって500アップする!!!(ATK1700→2200)」
その騎士、ウェイスは振り向き頷く。
「ありがとう、ウェイス・・・。これが俺の最後の攻撃!!!」
ノーンはうろたえ叫んだ。
『ならぬ!!!余が、余が負けるなど!!!』
遊牙はノーンを指差し叫ぶ。
「《コープスナイト・ウェイス》でノーンにダイレクトアタック!!!」
ウェイスは剣を構え飛び出した。ノーンは断末魔を上げる。
『余は王となるのだ!!!もう誰も余を見下すことのない世界を作り上げるのだ!!!』
そして。ウェイスの一閃は、ノーンの精神体を切り裂いた。
『余は王となる・・・!!!王となるのだぁぁあああぁぁぁ!!!(LP2000→0)』
『勝者:霧野遊牙』
ノーンが敗北したと同時に、宙に浮かんでいたルナのバトルスーツが停止しルナはそのまま落下する。
「ルナ!!!」
走ろうとする遊牙。だが、すでに満身創痍の遊牙に走る力は残されていなかった。その時。
「!!」
現れたのは光輝く白い龍。その龍は優しくルナを受け止め、その翼で包み込んだ。
「もうやめよう、ノーン。」
遊牙の後ろに現れた人物。精神体のノーンはその姿を見て叫んだ。
『貴様は・・・ヨシト!!!何故だ!!!何故、貴様が生きている!!!』
その人物、ヨシトは被っていたフードを外した。
「僕は君を止めるためにこの星へやって来たんだ、ノーン。月狂眼をこの星へ落とし、僕の友達を、月の住人をこの世界へ解き放った・・・。君はそこまでこの世界を滅ぼしたいのかい?」
ノーンは言った。
『貴様のような生まれつきの王族に分かるものか!!!この世に醜く生まれ、蔑まれ、見下され生きて来た余の思いが!!!憎しみが!!!破滅の女神の力をもってすれば貴様も月の住人も終わりだ!!!もはや誰も余を見下す事は無い!!!』
ヨシトは言った。
「だれも君を見下してなどいない。君は自ら、他人と関わることを止めてしまったんだ。他人と触れ合うことを恐れ、自ら遠ざけたんだ。」
ノーンはわめく。
『ふざけるな!!!余は余は!!!』
その時、ノーンの目の前に黒き龍が現れる。黒き龍は鎖を放ち、ノーンを囲んだ。
『な、何をする!!!貴様は余が支配する!!余が貴様の主であるぞ!!!』
黒き龍は怒号を上げると、ノーンの精神体に噛み付いた。
『余は・・・余は王となって!!!あああぁぁぁあああぁぁぁっ!!!』
最後の叫びと共にノーンは、黒き龍に取り込まれた。
「ノーン・・・。本当に君って奴は・・・。」
ヨシトは目を閉じ、呟いた。
光の龍は遊牙の元にルナを運んだ。遊牙の腕の中、ルナは薄く目を開ける。
「遊・・・牙・・・。」
遊牙はルナを思い切り抱きしめた。
「・・・っ・・・もう、お前を放しはしない・・・ルナ・・・!!」
ルナは遊牙の胸の中で小さく口を開いた。
「ありがとう・・・遊牙。信じてたよ・・・。」
ルナは震える手で、同じように遊牙を抱きしめた。二人を見たヨシトは遊牙の身体に手をかざした。
すると、遊牙の全身の傷がみるみる内に消えてゆく。ヨシトは遊牙に言った。
「君のおかげだ。君が僕とジャックスの約束を果たしてくれた。ありがとう。」
遊牙は言う。
「あなたは・・・。」
ヨシト微笑む。
「僕は・・・ジャックスの・・・君の友達だ。」
その時。黒き龍が四方に鎖を放ち、叫びを上げた。
「まずい、月狂眼が暴走を始めている!!」
ヨシトは立ち上がる。
「君たちは行け!!ここは僕はなんとかする!!」
遊牙は叫ぶ。
「これからどうなるんだ!!一体何が起こっている!!!」
ヨシトは振り向く。
「おそらくノーンを取り込んだ影響だ!!このまま暴走が続けば、再びゲートが開いてしまう!!」
それを聞き遊牙は言った。
「俺にできることはないのか!!!」
ヨシトは叫んだ。
「君には君の使命がある!!早くここから抜け出し、残っている人々を避難させること!!!そして僕の使命は、月狂眼を止めることだ!!」
袖を捲り、腕の紋章を掲げる。ヨシトは言った。
「赤き力宿りし、我が右腕に従え!!!《閃光眼の革命龍》!!!」
ヨシトの言葉に応え、光の龍は翼を広げる。黒き龍の鎖を砕きながら、光の龍は飛び出した。
「さぁ、はやく!!」
遊牙は頷き、ルナを抱きかかえた。
その様子をずっと見ていたカゲロウは、既に出口へと続く扉を開けていた。
「少年、見事な戦いだったぞ!!さぁ、こっちだ!!」
カゲロウに続いてその地下空間を出ようとする刹那、遊牙は振り向く。
「また・・・会えるか。」
ヨシトは遊牙に目をやり、口を開く。
「ああ、きっと会えるさ。」
遊牙は頷き、その地下空間を後にした。
「ジャックス・・・約束を守ってくれて、ありがとう。」
ヨシトは微笑み、そう呟いた。
次回第21話「戻ってゆく日常」
街のはずれ。木造の小屋。フードを被った一人の人物は外に出て、言った。
「・・・そろそろ行かなくちゃ。」
その後ろ、小屋の中の男は口を開く。
「本当に行っちまうのか。身体は、本当に平気なんだな。」
フードの人物は振り向かずに言う。
「これが運命さ。僕もいよいよ覚悟を決める時だ。月の住人の為にも、僕の為にも。そして・・・。」
袖を捲る。そこには紋章のようなものが刻まれていた。
「・・・”こいつ”の為にも。」
後ろの男は言った。
「また、会えるか・・・。」
今度は振り向き、フードを外した。
「ああ、もちろん。僕らは友達だ。今まで世話になった。ありがとう。」
男は頷く。再びフードを被ったその人物は歩き出した。そして、最後に言葉を付け加える。
「本当にありがとう。君も、もう居るべき場所へ帰った方がいい。きっと彼女は君の事を待っているよ、ドレガン。」
「・・・また会おう、ヨシト。」
そして、同時刻。
『全ての形在りし者達よ!!世界の終焉訪れし時、その無力さに打ち拉がれん!!おお神よ!!世界に混沌を齎し、新たな時代の礎とならん!!』
世界の終わりを司る、究極の終焉。その姿はこの世界を包み、破壊と混沌に染めてゆく。
『我が神!!!《月狂女神―ディスノミア(☆12/神/幻神獣族/0・0)》』
地を裂き、宙を焦がすその姿。そびえる女神は破滅を齎し、世界を滅亡へと導く。遊牙は後ずさりをするように身を震わせた。
「これが・・・神・・・・。」
ノーンは言う。
『創造の果てに待つものは破壊と終焉!形あるものには必ず終わりが存在する!我が神ディスノミアは全てを破壊し、世界を終局へと導く究極の破壊神!!何者も及ばぬ、神の領域の存在だ!!』
遊牙は歯を食いしばる。
「だが、攻撃力は0・・・。俺にダメージを与えることはできない。」
しかし、ノーンは高らかに言い放った。
『我が神に攻撃など不要!!《月狂女神―ディスノミア》はいかなる場合においても破壊することは出来ず、自分への全てのダメージを0にする!!そして、1ターンに1度、相手の手札・フィールド・墓地に存在するカードを全て除外する!!』
「なんだと!!」
破滅の女神は手に持つ杖を振る、月面に凄まじい突風が吹き荒れ、遊牙のカードは吹き飛ばされた。
「そんな・・・。俺の仲間達が・・・。」
ノーンは笑う。
『ふははは!!これが神の力!!《月狂女神―ディスノミア》の効果はまだ続く!!自分のバトルフェイズを放棄しエンドフェイズに移行する事で、相手のライフポイントを1にする!!!』
「ライフポイントを1にするだと!!!」
女神はその杖を振り上げる。その瞬間遊牙に向かって黒い雨が降り注ぐ。その無数の雨粒は鋭利な針となって遊牙の身体を貫いた。
「ぐはっ・・・。(LP1000→1)」
身体中が引き裂かれ、遊牙の意識が遠のく。血に濡れた遊牙は膝を折り、倒れ込んだ。
『そして《月狂女神―ディスノミア》が存在する限り、相手がモンスターの召喚及びカードの発動を行う度に、相手に2000ポイントのダメージを与える!!さらに相手のエンドフェイズを迎えた瞬間《月狂女神―ディスノミア》の攻撃力・守備力は5000ポイントアップする!!!これが、神!!!何者も寄せ付けぬ絶対的な力!!!己の弱さ、無力さを身をもって知れ!!!これが貴様の限界だ!!!』
薄れ行く意識。滲んで行く血溜まり。
「・・・俺は・・・勝てないのか・・・。」
遊牙は、指先に力が入らなくなってゆくのを感じた。
「・・・なんの為に・・・俺は・・・。」
そう。全てはあの約束から始まった。あの日のあの場所。ルナと出会ったあの時から。
「・・・ルナ・・・俺は・・・俺は・・・。」
遊牙は立ち上がろうとした。しかし無数の針に貫かれた身体は、もはやもがく力すら残されていない。
「・・・俺は・・・」
そして、遊牙は力尽き目を閉じた。
不自然に青々とした芝生の上。遊牙は寝転がり、灰色の空を見つめていた。
そこへ一人の男が近づく。
「どうしたんだ、遊牙。」
その言葉に遊牙はぽつりと呟く。
「どうして、空は灰色なんだ?」
男は遊牙の横に寝そべった。腕を枕にし、同じように空を見上げる。
「昔は青かったんだ、昔はな。」
「どのくらい昔?」
遊牙は目線を変えずに口を開いた。
「そうだな、今から15年くらい前か。ちょうど、遊牙やみんなが産まれる少し前だ。そのころは空は青くて綺麗なもんだった。今みたいにずっと雲が覆ってるなんてことは滅多になかったな。」
男は懐かしむように言った。
そして、男は遊牙の方を向き口を開いた。
「なぁ、遊牙。なんで人は生まれて来ると思う?」
遊牙は突然の質問に困惑する。男は笑って、言葉を続けた。
「人はみんな生まれた時から迷子なんだ。何かを探して歩き続ける迷子。それは、夢だったり、生きる意味だったり、もしかしたら今日の夕飯かもしれない。」
遊牙は怪訝な顔をする。
「でも、皆に共通する事は、幸せを目指しているということ。この世に生まれたからには幸せになりたい・・・。そう思うのが人ってもんだ。」
遊牙は黙って、男の言葉を聞いた。
「遊牙にとっての幸せって、何だろうな?」
その男の隣に、一人の少年がやってくる。
「僕も知りたいな。遊牙の幸せを。」
遊牙はその顔を見て声を漏らす。
「ウェイス・・・。」
またひとり少女が遊牙のそばにやって来る。
「私も知りたーい!」
「エリー・・・。」
次々に集まって来る仲間達。遊牙にとってかけがえのない、40人の家族。
「遊牙。」
「遊牙。」
「遊牙!」
「遊牙・・・。」
そして、遊牙は口を開く。
「俺にとっての幸せは・・・皆と笑って過ごせること。カケルや凛香。ガネリおばさん。街の皆。そして・・・ルナと。」
遊牙の隣の男、ジャックスは言った。
「俺達はもう、お前に会うことはできない。でも、俺達はずっとお前のそばに居る。俺達はいつまでもお前と一緒だ。」
その言葉に周りの仲間達も次々に頷く。
「僕らが付いてるよ、遊牙。」
ウェイスは遊牙の手を握る。
「ウェイス・・・俺は・・・。」
ジャックスは立ち上がり、座り込んでいる遊牙に手を差し伸べた。
「さぁ、遊牙。お前の幸せを叶えに行こう。大丈夫。いつだってお前には俺達が付いてる。」
遊牙は言った。
「俺に・・・できるだろうか。もう一度立ち上がって戦うことが・・・。」
ジャックスは遊牙を見つめる。
「お前がそう願うなら、きっとできるさ。」
遊牙はジャックスの手を取る。
「俺は・・・戦う。もう一度立ち上がって・・・!」
ジャックスは手を引っ張り上げ遊牙を立たせた。そして笑顔で言った。
「ありがとう遊牙。俺達の分まで生きてくれて。さぁ、行こう。お前の信じる未来へ。」
そして、遊牙は立ち上がった。
『ば、馬鹿な!!まだ立ち上がる力が残されているのか!!』
ノーンの言葉を受け、遊牙は言い放つ。
「俺は・・・もう倒れはしない!!!俺の信じる未来へ、俺は突き進む!!!だから待っていてくれ、ルナ・・・。俺は必ずノーンに勝つ!!」
しかしノーンはその言葉を笑う。
『余には破壊の女神《月狂女神―ディスノミア》がいる!!貴様には一片の希望たりとも残されては居ない!!!』
遊牙は叫ぶ。
「希望なら・・・俺が作り出す!!!俺のターン・・・!!!」
その瞬間、遊牙のデッキが光る。遊牙はその光るカードへ手を伸ばした。
「俺が進むこと止めなければ・・・希望は必ずそこにある・・・!!!ドロー!!!」
そして、引かれるカード。遊牙はそのカードを見る事無くD・ディスクにセッティングした。
「・・・俺は手札から《アライブメイト・ルナ(☆2/光/天使/チューナー/0・0)》を召喚!!!」
現れたのは白い髪の美しい少女。ワンピースを身に纏ったその少女は静かに遊牙の前に舞い降りた。
『なんだそのモンスターは・・・!!だが、この瞬間《月狂女神―ディスノミア》の効果発動!!2000のダメージを受けよ!!!』
女神は杖を振り、針の雨を飛ばした。だが、白き少女に近づいた瞬間、針の雨は消え失せてゆく。
『な、なぜだ!!神の力が及ばぬ存在などありえん!!!』
遊牙は静かに言う。
「《アライブメイト・ルナ》の召喚を無効化することはできず、このモンスターの召喚に成功したターン自分が受ける全てのダメージは0になる。そして!!《アライブメイト・ルナ》の効果発動!!」
白き少女は月面に向けて手をかざした。
「《アライブメイト・ルナ》の召喚に成功した時、墓地または除外されている《コープスナイト・デッドジャック》を特殊召喚できる!!次元の狭間から蘇れ、我が信頼する切り札よ!!」
空間を切り裂くように、闇の騎士は姿を現す。白き少女に並んだ騎士は遊牙の方へ振り向いた。
(遊牙、それでいい。これがお前の信じる未来なら、俺はどこまでも共に行こう!!)
遊牙は頷く。ノーンは焦るように言った。
『だが、その程度の力で我が神を倒す事はできない!!!我が神はいかなる力も寄せ付けん!!!どんなものも神の領域を超えることはできない!!!』
遊牙は高らかに叫んだ。
「これが、俺の全て!!未来を切り開く究極の力!!俺はレベル7の《コープスナイト・デッドジャック》にレベル2の《アライブメイト・ルナ》をチューニング!!!」
少女は光り輝く白い輪になる。闇の騎士は月面を蹴り飛び上がると、その輪の中へ飛び込んだ。
「誇り高き甲冑よ!!命の柱をその手に束ね、生きとし生ける者の希望とならん!!幾多の悲しみを乗り越え、光誕せよ!!」
凄まじい光の中、新たな騎士がその翼を広げる。
「《コープスナイトロード・ジャックス・デッドエンド(☆9/光/アンデット/シンクロ/3000・2500)》!!!
そして。ついに誕生する。光の剣を携え、輝く翼を広げた誇り高き騎士は、その威厳溢れる姿をもって遊牙の前へ光臨した。
「・・・これが、俺の未来だ。」
『な・・・なんだこのモンスターは・・・!!!うぅうううっ!!!』
その時、ノーンの身体に新たな変化が現れる。白い翼は消滅し、6本目の指も同時に消え失せて行く。
『ぐっ・・・今になって抵抗しようというのか!!!もはや貴様の肉体は余のものだぞ!!!余を・・・余を追い出そうというのか!!!』
遊牙は叫んだ。
「ルナ!!!今救いに行く!!!《コープスナイトロード・ジャックス・デッドエンド》の効果発動!!このカードのシンクロ召喚に成功した時、フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!!砕け散れ、《グローリー・フルムーン》!!」
光の騎士は剣を振るい、月面に突き刺した。その瞬間周りの景色は砕け、元の地下の風景が戻った。
『我が誇り高き故郷を!!貴様!!!』
遊牙はさらに言い放つ。
「《コープスナイトロード・ジャックス・デッドエンド》のさらなる効果!!1ターンに1度、相手フィールドのカード1枚を選択し、そのカードの効果を無効にする!!この効果で《月狂女神―ディスノミア》の効果は無効だ!!!」
光の騎士は剣から閃光を放つ。その眩い光に女神はうろたえ、その能力を失った。
『あってはならん・・・!!我が神を越えるなど!!!』
そして、遊牙は破壊の女神を指差し叫んだ。
「世界に破滅など、絶対に訪れさせはしない!!!バトルだ!!《コープスナイトロード・ジャックス・デッドエンド》で《月狂女神―ディスノミア》を攻撃!!!」
光の騎士は剣を構え、そびえる神に向かって飛び出す。
『神を超えるなどあってはならない!!!余は手札の《月狂傀儡―エウロパ(☆4/光/天使/ペンデュラム/0・1900)》の効果を発動!!!我が神《月狂女神―ディスノミア》が戦闘を行う場合、このカードを手札から除外することで、その攻撃力を4000ポイントアップする!!!(ATK0→4000)』
女神は天使を彫刻を手に持ち、光の騎士を向かえ撃つ。だが、遊牙も同時に叫びを上げた。
「この瞬間《コープスナイトロード・ジャックス・デッドエンド》の効果発動!!このカードが戦闘を行う場合、フィールドのモンスター全てを除外できる!!!」
光の騎士は剣を振りかざし、女神の頭上へと飛び上がる。女神はその杖を振り、光の騎士の一撃を受け止める。光の騎士は剣を捨て、女神の懐へ飛び込んだ。やがて両者は眩い光に包まれ、凄まじいエネルギーを放ちながらフィールドから消滅した。
『うおおおぉぉっ!!!おのれぇえええ!!!』
ノーンは叫びを上げる。その瞬間、ノーンの精神はルナの肉体から徐々に離れ、その姿を現した。
それはなんとも不完全な姿。黒い片翼に4本の指。まるで悪魔のような醜い形相。
『馬鹿な!!我が神が・・・我が神が!!!だが、全ては無駄だ!!!《月狂傀儡―エウロパ》の効果を使用した次のターン、相手は500のダメージを受ける!!!貴様のフィールド・手札にカードはない!!貴様にはどうあっても勝利は訪れない!!!』
遊牙は目を閉じ言った。
「《コープスナイトロード・ジャックス・デッドエンド》の効果発動。フィールドのこのカードが除外された時、自分はデッキからカードを1枚ドローする。そしてドローしたカードが「コープスナイト」モンスターだった場合、その攻撃力を500アップして特殊召喚する!」
精神体となったノーンは叫んだ。
『無駄だ!!!貴様に勝利はない!!!余は・・余は王となるのだ!!!』
遊牙は目を開く、そしてカードをドローした。
「俺が引いたカードは・・・・《コープスナイト・ウェイス(☆4/闇/アンデット/1700・0)》!!!」
遊牙の前に、銀の剣を携えた騎士が降り立つ。
「その攻撃力は《コープスナイトロード・ジャックス・デッドエンド》の効果によって500アップする!!!(ATK1700→2200)」
その騎士、ウェイスは振り向き頷く。
「ありがとう、ウェイス・・・。これが俺の最後の攻撃!!!」
ノーンはうろたえ叫んだ。
『ならぬ!!!余が、余が負けるなど!!!』
遊牙はノーンを指差し叫ぶ。
「《コープスナイト・ウェイス》でノーンにダイレクトアタック!!!」
ウェイスは剣を構え飛び出した。ノーンは断末魔を上げる。
『余は王となるのだ!!!もう誰も余を見下すことのない世界を作り上げるのだ!!!』
そして。ウェイスの一閃は、ノーンの精神体を切り裂いた。
『余は王となる・・・!!!王となるのだぁぁあああぁぁぁ!!!(LP2000→0)』
『勝者:霧野遊牙』
ノーンが敗北したと同時に、宙に浮かんでいたルナのバトルスーツが停止しルナはそのまま落下する。
「ルナ!!!」
走ろうとする遊牙。だが、すでに満身創痍の遊牙に走る力は残されていなかった。その時。
「!!」
現れたのは光輝く白い龍。その龍は優しくルナを受け止め、その翼で包み込んだ。
「もうやめよう、ノーン。」
遊牙の後ろに現れた人物。精神体のノーンはその姿を見て叫んだ。
『貴様は・・・ヨシト!!!何故だ!!!何故、貴様が生きている!!!』
その人物、ヨシトは被っていたフードを外した。
「僕は君を止めるためにこの星へやって来たんだ、ノーン。月狂眼をこの星へ落とし、僕の友達を、月の住人をこの世界へ解き放った・・・。君はそこまでこの世界を滅ぼしたいのかい?」
ノーンは言った。
『貴様のような生まれつきの王族に分かるものか!!!この世に醜く生まれ、蔑まれ、見下され生きて来た余の思いが!!!憎しみが!!!破滅の女神の力をもってすれば貴様も月の住人も終わりだ!!!もはや誰も余を見下す事は無い!!!』
ヨシトは言った。
「だれも君を見下してなどいない。君は自ら、他人と関わることを止めてしまったんだ。他人と触れ合うことを恐れ、自ら遠ざけたんだ。」
ノーンはわめく。
『ふざけるな!!!余は余は!!!』
その時、ノーンの目の前に黒き龍が現れる。黒き龍は鎖を放ち、ノーンを囲んだ。
『な、何をする!!!貴様は余が支配する!!余が貴様の主であるぞ!!!』
黒き龍は怒号を上げると、ノーンの精神体に噛み付いた。
『余は・・・余は王となって!!!あああぁぁぁあああぁぁぁっ!!!』
最後の叫びと共にノーンは、黒き龍に取り込まれた。
「ノーン・・・。本当に君って奴は・・・。」
ヨシトは目を閉じ、呟いた。
光の龍は遊牙の元にルナを運んだ。遊牙の腕の中、ルナは薄く目を開ける。
「遊・・・牙・・・。」
遊牙はルナを思い切り抱きしめた。
「・・・っ・・・もう、お前を放しはしない・・・ルナ・・・!!」
ルナは遊牙の胸の中で小さく口を開いた。
「ありがとう・・・遊牙。信じてたよ・・・。」
ルナは震える手で、同じように遊牙を抱きしめた。二人を見たヨシトは遊牙の身体に手をかざした。
すると、遊牙の全身の傷がみるみる内に消えてゆく。ヨシトは遊牙に言った。
「君のおかげだ。君が僕とジャックスの約束を果たしてくれた。ありがとう。」
遊牙は言う。
「あなたは・・・。」
ヨシト微笑む。
「僕は・・・ジャックスの・・・君の友達だ。」
その時。黒き龍が四方に鎖を放ち、叫びを上げた。
「まずい、月狂眼が暴走を始めている!!」
ヨシトは立ち上がる。
「君たちは行け!!ここは僕はなんとかする!!」
遊牙は叫ぶ。
「これからどうなるんだ!!一体何が起こっている!!!」
ヨシトは振り向く。
「おそらくノーンを取り込んだ影響だ!!このまま暴走が続けば、再びゲートが開いてしまう!!」
それを聞き遊牙は言った。
「俺にできることはないのか!!!」
ヨシトは叫んだ。
「君には君の使命がある!!早くここから抜け出し、残っている人々を避難させること!!!そして僕の使命は、月狂眼を止めることだ!!」
袖を捲り、腕の紋章を掲げる。ヨシトは言った。
「赤き力宿りし、我が右腕に従え!!!《閃光眼の革命龍》!!!」
ヨシトの言葉に応え、光の龍は翼を広げる。黒き龍の鎖を砕きながら、光の龍は飛び出した。
「さぁ、はやく!!」
遊牙は頷き、ルナを抱きかかえた。
その様子をずっと見ていたカゲロウは、既に出口へと続く扉を開けていた。
「少年、見事な戦いだったぞ!!さぁ、こっちだ!!」
カゲロウに続いてその地下空間を出ようとする刹那、遊牙は振り向く。
「また・・・会えるか。」
ヨシトは遊牙に目をやり、口を開く。
「ああ、きっと会えるさ。」
遊牙は頷き、その地下空間を後にした。
「ジャックス・・・約束を守ってくれて、ありがとう。」
ヨシトは微笑み、そう呟いた。
次回第21話「戻ってゆく日常」
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