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13:覚醒の兆し 作:天
《幻想の呪縛》に捕らわれたモンスターは、効果だけではなく攻撃も封じられる。美少女決闘者のフィールドモンスターは《捕食植物キメラフレシア》のみなので、これ以上のアクションは起こせない。
「これで私はターンエンド」
美少女決闘者はそれ以上の行動を諦めてターンを終了するしかなかった。
これでフィールドの状況は以下の通りとなる。
美少女決闘者(LP3200)
エクストラ
捕食植物キメラフレシア(ATK2000)
魔法・罠
伏せカード1枚
ユーイ(LP4000)
メイン
白牙のグレート・ホワイト(ATK1600)
開闢の騎士(ATK800)
魔法・罠
神剣ーフェニックス・ブレード(装備/開闢の騎士)
幻想の呪縛(永続/捕食植物キメラフレシア)
今のところ優勢にデュエルを進められてはいるが、ユーイは美少女決闘者の実力を過小評価はしていない。
先のターン、《捕食植物キメラフレシア》を融合召喚するまでの流れは秀逸だった。通常、融合召喚には融合素材となるモンスター一対と融合カードの最低計3枚のカードが必要になる。この消費を如何に抑えるかが融合使いの腕の見せ所であるのだが、その意味では消費枚数こそ同じ2枚だが手札コストのみで《捕食植物オフリス・スコーピオ》1枚から素材と融合カードを揃えた彼女の方が先のクローディアが見せた融合召喚より技術的に上であると言える。
(この女、『手強い』ッ! クローディア先生とどちらがって話なら分からないが、とにかくかなりの実力者だッ! それにこのモンスターも厄介だッ! 1ターンに1体、自身よりレベルの低いモンスターを除外するだってッ!?《捕食植物キメラフレシア》のレベルは7・・・ッ! レベル5以上のモンスターを召喚できない俺にとっては、まさに『天敵』だッ! そして彼女はそれを『知っていて』出してきているッ! 今はたまたま《幻想の呪縛》が手札にあったから防げたが、いつまでもこれだけで凌げるとは思えないッ! 今の内に倒しておかなければ必ず脅威になるッ!!)
「俺のターン! ドロー!」
ユーイが勢いを込めてカードをドローする。
その姿に、美少女決闘者は強い視線を送る。おもむろに彼女が口を開いた。
「今・・・キミが優勢に立っているのが・・・『たまたま』だと思っているのなら、それは違うわ」
「・・・なんだって?」
思わぬ言葉にユーイが眉を寄せる。
まるでユーイの心中を読んだような言葉だ。
「こんな言葉を知ってる?『真の王は引きたいカードをドローできる』」
「・・・・」
「決闘王は『運命』をも操り、ドローで好きなカードを引くことができる・・・という意味よ。デュエルとは『精神力』の闘い。どんなカードを引くか・・・それも決闘者の精神の強さに左右される」
彼女の言葉は不思議なほど心に染み込む。
「重要なのは『精神力』の強さなのよ。強い『精神力』こそが『運命』を引き寄せ導く。『運命』を凌駕する『精神力』があれば、思い通りのカードをドローできる」
声なのか口調なのか。あるいはこれがカリスマと呼ばれる力なのかもしれない。彼女の口から紡がれる言葉はユーイの心臓を揺さぶるようだ。心がざわつく。
「全ては必然。デュエルの勝敗はそうなるべくしてなる。デュエルには確率とか偶然とか・・・そういうものはないのよ」
デュエルの勝敗を決する要素は三つある。デッキ、タクティクス、そして運。少なくともユーイは今までそう考えていた。
(それは間違いだったのか・・・。強い決闘者とは、その『心の力』でその運さえも味方につける・・・と?)
ユーイはチラリといま引いたカードに目をやる。引いたのは手札増強系の罠カード。少なくとも《捕食植物キメラフレシア》を倒すのに使えるカードではない。
(ここであのモンスターを倒せるカードを引けなかったのは、俺の精神力が劣っているから・・・?)
しかしユーイは強く首を振る。
(いや、惑わされるなッ! 彼女はこちらの動揺を誘っているだけだッ! ここで良いカードを引けなかったからといって俺が彼女に劣っているわけじゃあないッ! こいつを倒す算段はすでについている!)
ユーイは彼女に反応を返さず、ドローしたカードを手札に収める。
そして手札ではなく、墓地のカード効果を発動させた。
「俺は墓地の《超戦士の魂》の効果を発動させるッ! このカードは自身を墓地から除外することで、デッキから《開闢の騎士》か《宵闇の騎士》をサーチすることができるッ! 俺がサーチするのは《宵闇の騎士》だッ!」
墓地から《白牙のグレート・ホワイト》を特殊召喚するために送られた《超戦士の魂》が除外され、ユーイはデッキから《宵闇の騎士》を手札に加える。
「次の一手を呼び込むカードをすでに墓地へ・・・。抜け目のないこと・・・」
ユーイのサーチした《宵闇の騎士》は対となる《開闢の騎士》と全く同じステータスを持つ戦士族モンスター。戦闘能力自体は低い。
しかしその戦闘能力の低さこそが今は重要なのだ。
「そしてその《宵闇の騎士》を召喚ッ!」
ユーイのフィールドに白い鎧の小柄な騎士が召喚される。さすがにその鎧の色以外は《開闢の騎士》にそっくりだ。
宵闇の騎士(星4/ATK500)
そのモンスターを目にした途端、美少女決闘者は目を輝かせた。ユーイの意図にいち早く気付いたからだ。
「攻撃力500のモンスター・・・ッ! ということは・・・ッ!」
「ああ、当然ご存知だよな・・・ッ! 魅せてやるぜッ!」
ユーイがバッと手を掲げる。
「現れろ!未来を導くサーキット!」
空中にゲートが出現した。
ゲートに表示された矢印は下方向が色づいている。
「アローヘッド確認! 召喚条件は、攻撃力500以下のモンスター1体! 俺は《宵闇の騎士》をリンクマーカーにセット!」
フィールドの《宵闇の騎士》が白い粒子となり、その矢印に吸い込まれて行った。
矢印にしっかりとした色が付く。
美少女決闘者もリンク召喚を目にするのは二度目だが、その美しさに息を飲む。
これは融合召喚にはない美しさだ。
ユーイは構わずリンク召喚を決行する。
「サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れろ、リンク1!《ブリッツ・マジシャン》!!」
ユーイのエクストラゾーンに《ブリッツ・マジシャン》がリンク召喚された。
その真後ろに位置するのは《開闢の騎士》だ。何かがガチリと連結するように鳴った。
ブリッツ・マジシャン(リンク1/ATK300)
フィールドにふわりと降り立った《ブリッツ・マジシャン》は珍しそうに目をパチクリさせて言う。
『ありゃりゃ? 今度はピンチらないんらね~』
どんな状況でも《ブリッツ・マジシャン》はあっけらかんとしている。その明るさにユーイは何となく安心を感じた。
「そうでもない。あのモンスターはかなり厄介だぜ」
ユーイの言葉に《ブリッツ・マジシャン》は目下の標的である《捕食植物キメラフレシア》を見やる。
《捕食植物キメラフレシア》は状況が分かっているのか分かっていないのかウネウネと触手を動かしているだけ。
『なにこれキモ・・・』
《ブリッツ・マジシャン》の手厳しい一言。
「キモいとは非道いな。これでも私の主力モンスターなんだけれど」
美少女決闘者は苦笑しながら《ブリッツ・マジシャン》に話しかける。
《ブリッツ・マジシャン》が『キモいもんはキモいんら』と辟易した顔を見せると、彼女は覆面の下でクスクス笑う。
その様子をユーイは驚いた面持ちで見ていた。
(驚いたな、こんなにフラットに《ブリッツ・マジシャン》と意思を通わせた人は初めてだ。この女、本当に何者だ・・・?)
そんなユーイの視線に気付いたのか、彼女が言う。
「これがキミの切り札―――リンク召喚なのね。確かに見させてもらったわ。さて、次は何を魅せてくれるのかしら?」
言われてユーイは襟を正すように気持ちを切り替える。
「そんなに焦らなくても魅せてやるよ。いくぞ、《ブリッツ・マジシャン》ッ!」
『はいな~!』
ユーイの魔力に呼応して、《ブリッツ・マジシャン》が力を溜め始める。
美少女決闘者はそれを楽しそうに眺めている。
「《ブリッツ・マジシャン》のモンスター効果ッ!リンク先の《開闢の騎士》の攻撃力をその守備力の数値までアップさせるッ! そして更にその変化した数値分、攻撃力がアップ!!〝紫電潮流〟ッ!!」
《ブリッツ・マジシャン》が杖を振るうとその先から電撃が迸り、《開闢の騎士》の剣へと宿る。
これがクローディア戦でもフィニッシュを飾った《ブリッツ・マジシャン》お得意の二段パンプコンボ〝紫電潮流(ブリッツ・ドライブ)〟である。
開闢の騎士(ATK800→2000→3200)
《神剣ーフェニックス・ブレード》を装備していたため変化する数値が抑えられ、クローディアとのデュエルの時には劣るものの、それでも《開闢の騎士》の攻撃力は3200に達した。《幻想の呪縛》に捕らわれている《捕食植物キメラフレシア》を倒すには充分なパワーだ。
「バトルだッ!《開闢の騎士》の攻撃ッ!〝紫電・雷刃(ブリッツ・サンダー・スラッシュ)〟!!」
《開闢の騎士》が《ブリッツ・マジシャン》の魔力が帯電した剣を振り上げ、《捕食植物キメラフレシア》目掛けて飛びかかる。
対する《捕食植物キメラフレシア》は《幻想の呪縛》に封じられ迎撃することすらままならないでいる。このままなら《開闢の騎士》に一刀両断され美少女決闘者は大ダメージを受けること必至だ。
しかし――――
「――――そのコンボはすでに見ているッ!」
振り下ろされた剣が《捕食植物キメラフレシア》に触れるより一瞬早く、美少女決闘者が伏せカードを発動させた。
と同時に《開闢の騎士》の体は突如出現した無数の蔦(つた)によってがんじからめに捕らわれてしまった。
「なんだッ!?」
美少女決闘者のフィールドでは、その罠カードが翻っていた。
「永続罠《捕食蔦(プレデター・バイン)》ッ! 自分フィールドに「捕食植物」モンスターが存在する時、その数まで相手モンスターの攻撃と表示変更を封じる永続罠カードよッ!」
《捕食蔦》は《幻想の呪縛》と同じ呪縛系の罠カードだ。
攻撃力ダウンや効果の無効化といった付加効果はないが、自分フィールドに複数の「捕食植物」がいれば一度に複数の相手モンスターを縛ることが可能なのが利点となる。
「く・・・ッ!」
『うそ~~』
《ブリッツ・マジシャン》が落胆を見せる。
《開闢の騎士》は何とか蔦から抜け出そうともがくが、逆に蔦は体に食い込むばかりだ。
先ほど《捕食植物キメラフレシア》に施した技を、まさにやり返された格好だった。
「呪縛はキミだけの専売特許ではないわ」
今のユーイの手の内に《捕食植物キメラフレシア》を倒す術は他にはない。《開闢の騎士》を封じられてはこのターン手も足も出ない。
「くっ、俺は《白牙のグレート・ホワイト》を守備表示に変更し、カードを1枚伏せてターンエンドだ・・・」
今は《捕食植物キメラフレシア》の攻撃を封じられてはいるが、万が一のために《白牙のグレート・ホワイト》は守備表示にしておく。伏せたのは先ほど引いたばかりの手札増強系の罠カード。今はこのくらいしかできることはない。
美少女決闘者の目がキラリと光る。
「デュエルには『流れ』というものが存在するわ。この『流れ』を自分の方へより引き寄せた方が勝つ。そしてそれを引き寄せるのもまた『心の力』・・・」
デッキに手をかける。
「キミの『精神力』・・・弱まっているんじゃあない?」
そしてそのままドローした。
そのカードを確認して、彼女は確信する。『流れ』は間違いなく自分に来ている、と。
「今、私の『精神力』は確実にキミのそれを上回っているッ! 私のドローしたカードは《サイクロン》ッ! このカードを発動し、《幻想の呪縛》を破壊するッ!」
美少女決闘者が《サイクロン》を発動すると、一陣の旋風が巻き起こり、《捕食植物キメラフレシア》を縛っていた《幻想の呪縛》を粉々に吹き飛ばした。
「な、なにィーーーッ!?」
全ては《ブリッツ・マジシャン》と《開闢の騎士》のコンボを《捕食蔦》によって防がれたことで狂った。あれで『流れ』が美少女決闘者に傾いた。
(いや、違う! あのカードは最初からずっと伏せられていた! 発動しようと思えばいつでもできたのだッ! 最初から『流れ』は俺に傾いてなどいなかった! 彼女はこのタイミングであのカードを発動することで、中立だった『流れ』を自分の方へと引き寄せたのだッ! デュエルは『精神力』の闘いッ! 彼女の『精神力』が『運命』を導いたッ!!)
縛られていた体が自由になり《捕食植物キメラフレシア》がシャーと唸りを上げる。
これで《捕食植物キメラフレシア》を邪魔立てするものは何もなくなった。攻撃力も元に戻り、封じられていた効果も有効になる。
捕食植物キメラフレシア(ATK2000→2500)
「いくわよッ、《捕食植物キメラフレシア》のモンスター効果ッ! 1ターンに1度、このカードよりもレベルの低いモンスター1体を除外するッ! 除外するのは、当然《開闢の騎士》ッ!」
《捕食植物キメラフレシア》が大口を開けて触手を伸ばす。対する《開闢の騎士》は未だ《捕食蔦》に縛られたままで逃げることもできない。
「くっ、罠カード発動!《苦渋の黙札》ッ!」
苦し紛れという感じでユーイが罠カードを発動させた。
と同時に、今まさに《捕食植物キメラフレシア》に襲われんとしていた《開闢の騎士》が蔦だけを残してストンと消えてしまう。
標的を突然失った《捕食植物キメラフレシア》も?マークを浮かべている。
「・・・《苦渋の黙札》は自分フィールドのモンスター1体をリリースすることで、そのモンスターとレベル・種族・属性が同じモンスター1体をデッキ・墓地から選び手札に加える。俺はこのカードを発動することで《開闢の騎士》をリリースした」
《捕食植物キメラフレシア》の除外効果はモンスターを対象に取る効果だ。効果発動後に対象のモンスターがフィールドにいなくなってしまえば不発になる。
ユーイはそれを狙って《開闢の騎士》をあえてリリースすることで、この効果によるダメージを最小限に抑えたのだ。
(サクリファイス・エスケープ・・・。一度除外されてしまうと再利用は困難。それならばまだ自分から墓地に送ってしまった方がいい・・・ってところか)
美少女決闘者は心中でこの罠カード発動をそう評価した。
点数を付けるなら60点くらいか。
(悪くはないけれど、でもこれは『逃げ』の一手。『攻め』でもなければ『防御』でもない『逃げ』。それでは『運命』は手繰り寄せられないッ!)
そんなことを考えている内に、ユーイはデッキからレベル4の闇属性・戦士族モンスター1体をデッキから手札に加えたようだ。
それには構わず美少女決闘者はバトルを宣言する。
「行きなさいッ!《捕食植物キメラフレシア》ッ!!」
《捕食植物キメラフレシア》は奇声を上げながらユーイのフィールドに迫る。
『ぴぇ~~!!』
悲鳴を上げるのは最前線の《ブリッツ・マジシャン》だ。
自分の数十倍はありそうな巨体が襲ってくるのだから無理はないが、《ブリッツ・マジシャン》が恐れているのはそれだけが理由ではない。
《捕食植物キメラフレシア》には戦闘の際、相手モンスターの攻撃力を1000下げ、自身の攻撃力を1000上げる効果がある。《ブリッツ・マジシャン》が攻撃の標的になった時点でこの効果が適用され、その攻撃力は0にまで下がっていた。
ブリッツ・マジシャン(ATK300→0)
捕食植物キメラフレシア(ATK2500→3500)
元々《ブリッツ・マジシャン》の攻撃力は1000未満。1000ポイントも下げられれば当然0になってしまう。
攻撃力0ということは、《ブリッツ・マジシャン》にはもはや抵抗するだけの力すらないということだ。それはもうただの幼児でしかない。
「《ブリッツ・マジ――――」
「薙ぎ払えッ!!」
心配するユーイの声を掻き消すように美少女決闘者のよく通る声が響き渡る。
と同時に《捕食植物キメラフレシア》が触手を振り回し、《ブリッツ・マジシャン》がその餌食になる。
『きゃぅ!』
太い触手の一撃をまともに受けて、弾かれた《ブリッツ・マジシャン》が宙を舞う。
「――――ッ!?」
吹き飛ばされるその小さな体を見上げて、しかしユーイは不意の目眩を覚えた。
倒れそうになる体を膝をついて支える。
その間に《ブリッツ・マジシャン》はその姿を掻き消していく。
ユーイ(LP4000→500)
攻撃力0対攻撃力3500の対決。
それはもう勝負とは言えなかった。それはもはやただの蹂躙。象が蟻を踏み潰すに等しい。
当然それによって発生したダメージも凄まじいものだ。
ユーイは3500もの大ダメージを受け、膝ま付いたまま立ち上がることができない。
しかしユーイが立ち上がれないのはLPのダメージだけが原因ではなかった。
ユーイにとって《ブリッツ・マジシャン》はただのモンスターではない。これまで何度となくピンチも勝利の喜びも分かち合ってきた戦友であり、最も信頼できるパートナー。それがこうも無惨にやられたのだ。そのショックは計り知れない。
そんなユーイを美少女決闘者は強い瞳で見つめていた。
(自分のモンスターを信頼する気持ちは理解できる。まして高レベルモンスターを召喚できない彼にとって、それをカバーしてくれていた《ブリッツ・マジシャン》への執着は一際だったことだろう。それをああいう風に吹き飛ばした私は、あるいは血も涙もない女だと彼からなじられるかもしれない。けれど私は決闘者として、決して手は抜けない。それが私の決闘者としての矜持・・・)
美少女決闘者は落胆するユーイの姿に緩みそうになる闘志をそう引き締め直した。
そして努めて冷静に分析する。
(《ブリッツ・マジシャン》は確かに優秀なモンスターだ。1体のモンスターでリンク召喚でき、敵の弱体化と高い爆発力を一度に発揮することができる。しかし初見ならばともかく一度手の内がバレれば対処はそう難しくない。このモンスター1本で闘っていけるほど、デュエル・アカデミアは甘くない)
未だ立ち上がれないユーイの背中は最初よりも幾分小さく見えた。
美少女決闘者はその姿に小さな落胆を感じていた。
(あの時――――入学試験で彼を初めて見た時、『彼には何かある』と感じた。あの時の感覚は間違いだったのだろうか。今の彼には過ぎた期待だったのだろうか)
美少女決闘者がそう自分の感覚に疑いを持ち始めた時、彼女は(あれ?)と感じた。
指先で目を少しこすってみる。
(なんだか・・・奇妙だわ。さっきまで小さいと感じていた彼の姿が、その・・・なんだか少し『大きく』なったような・・・。そう・・・まさか、なんだけれど・・・)
ほんの先ほどまで小さく見えていたユーイの背中が少しだけだが大きくなったような気がする。
これは初めての感覚だ。
美少女決闘者が戸惑っていると、ゆっくりとユーイが立ち上がり始めた。まるで幽霊が立ち上がるようにゆらりと。だが、奇妙な威圧感がある。
(・・・威圧感?)
ふと美少女決闘者が自分が感じている感覚が威圧感だと気付いた時、ユーイがゆっくりと口を開いた。
「アンタのおかげだ・・・」
「・・・ッ」
「アンタが《ブリッツ・マジシャン》を完膚なきまでに吹っ飛ばしてくれたおかげだっつってんだぜ。おかげで『オレ』を呼び起こすことができた」
完全に起き上がったユーイは先ほどまでとはまるで別人のようだった。
(口調が変わった・・・? いえ、口調だけじゃあない・・・雰囲気も・・・それに・・・この『プレッシャー』は・・・ッ!)
眼光が鋭くなったとか甘さが消えたとか、変わったところはいくつかあるが、それよりも明らかに違う点があった。
ユーイの放つ異様なプレッシャーに美少女決闘者は一歩後ずさる。
(私が気圧されている・・・ッ!? なんなの・・・この・・・彼から感じられる異様な威圧感は・・・ッ! これは・・・まるでクローディア先生を相手にしているような・・・ッ!)
まるで何が起こったのかは分からないが、ユーイが突然変貌したのは確かだ。それも何か『危険』な方向にだ。
「まだデュエルは終わってはいない。さぁ、続けようぜ」
ユーイがにやりと笑い、美少女決闘者は奥歯を噛む。
確かにまだデュエルは終わっていない。途中でデュエルを投げ出すなど決闘者としてあるまじきことだ。
「いいわ! キミの変貌が何なのか、このデュエルに勝ったらじっくりと聞かせてもらうッ!」
ユーイの残りLPは500。風前の灯火だ。対してこちらはまだかなり余裕がある。もはやこのデュエルの勝敗は決したも同然。
(けれど私はまた期待している・・・。彼に起こった変化が、まだ何か更なる先を見せてくれるような気がする・・・)
「GOOD・・・!」
ユーイが恐ろしいほどにこやかに笑む。
その笑顔が、このデュエルはこのままでは終わらないと語っていた。
「これで私はターンエンド」
美少女決闘者はそれ以上の行動を諦めてターンを終了するしかなかった。
これでフィールドの状況は以下の通りとなる。
美少女決闘者(LP3200)
エクストラ
捕食植物キメラフレシア(ATK2000)
魔法・罠
伏せカード1枚
ユーイ(LP4000)
メイン
白牙のグレート・ホワイト(ATK1600)
開闢の騎士(ATK800)
魔法・罠
神剣ーフェニックス・ブレード(装備/開闢の騎士)
幻想の呪縛(永続/捕食植物キメラフレシア)
今のところ優勢にデュエルを進められてはいるが、ユーイは美少女決闘者の実力を過小評価はしていない。
先のターン、《捕食植物キメラフレシア》を融合召喚するまでの流れは秀逸だった。通常、融合召喚には融合素材となるモンスター一対と融合カードの最低計3枚のカードが必要になる。この消費を如何に抑えるかが融合使いの腕の見せ所であるのだが、その意味では消費枚数こそ同じ2枚だが手札コストのみで《捕食植物オフリス・スコーピオ》1枚から素材と融合カードを揃えた彼女の方が先のクローディアが見せた融合召喚より技術的に上であると言える。
(この女、『手強い』ッ! クローディア先生とどちらがって話なら分からないが、とにかくかなりの実力者だッ! それにこのモンスターも厄介だッ! 1ターンに1体、自身よりレベルの低いモンスターを除外するだってッ!?《捕食植物キメラフレシア》のレベルは7・・・ッ! レベル5以上のモンスターを召喚できない俺にとっては、まさに『天敵』だッ! そして彼女はそれを『知っていて』出してきているッ! 今はたまたま《幻想の呪縛》が手札にあったから防げたが、いつまでもこれだけで凌げるとは思えないッ! 今の内に倒しておかなければ必ず脅威になるッ!!)
「俺のターン! ドロー!」
ユーイが勢いを込めてカードをドローする。
その姿に、美少女決闘者は強い視線を送る。おもむろに彼女が口を開いた。
「今・・・キミが優勢に立っているのが・・・『たまたま』だと思っているのなら、それは違うわ」
「・・・なんだって?」
思わぬ言葉にユーイが眉を寄せる。
まるでユーイの心中を読んだような言葉だ。
「こんな言葉を知ってる?『真の王は引きたいカードをドローできる』」
「・・・・」
「決闘王は『運命』をも操り、ドローで好きなカードを引くことができる・・・という意味よ。デュエルとは『精神力』の闘い。どんなカードを引くか・・・それも決闘者の精神の強さに左右される」
彼女の言葉は不思議なほど心に染み込む。
「重要なのは『精神力』の強さなのよ。強い『精神力』こそが『運命』を引き寄せ導く。『運命』を凌駕する『精神力』があれば、思い通りのカードをドローできる」
声なのか口調なのか。あるいはこれがカリスマと呼ばれる力なのかもしれない。彼女の口から紡がれる言葉はユーイの心臓を揺さぶるようだ。心がざわつく。
「全ては必然。デュエルの勝敗はそうなるべくしてなる。デュエルには確率とか偶然とか・・・そういうものはないのよ」
デュエルの勝敗を決する要素は三つある。デッキ、タクティクス、そして運。少なくともユーイは今までそう考えていた。
(それは間違いだったのか・・・。強い決闘者とは、その『心の力』でその運さえも味方につける・・・と?)
ユーイはチラリといま引いたカードに目をやる。引いたのは手札増強系の罠カード。少なくとも《捕食植物キメラフレシア》を倒すのに使えるカードではない。
(ここであのモンスターを倒せるカードを引けなかったのは、俺の精神力が劣っているから・・・?)
しかしユーイは強く首を振る。
(いや、惑わされるなッ! 彼女はこちらの動揺を誘っているだけだッ! ここで良いカードを引けなかったからといって俺が彼女に劣っているわけじゃあないッ! こいつを倒す算段はすでについている!)
ユーイは彼女に反応を返さず、ドローしたカードを手札に収める。
そして手札ではなく、墓地のカード効果を発動させた。
「俺は墓地の《超戦士の魂》の効果を発動させるッ! このカードは自身を墓地から除外することで、デッキから《開闢の騎士》か《宵闇の騎士》をサーチすることができるッ! 俺がサーチするのは《宵闇の騎士》だッ!」
墓地から《白牙のグレート・ホワイト》を特殊召喚するために送られた《超戦士の魂》が除外され、ユーイはデッキから《宵闇の騎士》を手札に加える。
「次の一手を呼び込むカードをすでに墓地へ・・・。抜け目のないこと・・・」
ユーイのサーチした《宵闇の騎士》は対となる《開闢の騎士》と全く同じステータスを持つ戦士族モンスター。戦闘能力自体は低い。
しかしその戦闘能力の低さこそが今は重要なのだ。
「そしてその《宵闇の騎士》を召喚ッ!」
ユーイのフィールドに白い鎧の小柄な騎士が召喚される。さすがにその鎧の色以外は《開闢の騎士》にそっくりだ。
宵闇の騎士(星4/ATK500)
そのモンスターを目にした途端、美少女決闘者は目を輝かせた。ユーイの意図にいち早く気付いたからだ。
「攻撃力500のモンスター・・・ッ! ということは・・・ッ!」
「ああ、当然ご存知だよな・・・ッ! 魅せてやるぜッ!」
ユーイがバッと手を掲げる。
「現れろ!未来を導くサーキット!」
空中にゲートが出現した。
ゲートに表示された矢印は下方向が色づいている。
「アローヘッド確認! 召喚条件は、攻撃力500以下のモンスター1体! 俺は《宵闇の騎士》をリンクマーカーにセット!」
フィールドの《宵闇の騎士》が白い粒子となり、その矢印に吸い込まれて行った。
矢印にしっかりとした色が付く。
美少女決闘者もリンク召喚を目にするのは二度目だが、その美しさに息を飲む。
これは融合召喚にはない美しさだ。
ユーイは構わずリンク召喚を決行する。
「サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れろ、リンク1!《ブリッツ・マジシャン》!!」
ユーイのエクストラゾーンに《ブリッツ・マジシャン》がリンク召喚された。
その真後ろに位置するのは《開闢の騎士》だ。何かがガチリと連結するように鳴った。
ブリッツ・マジシャン(リンク1/ATK300)
フィールドにふわりと降り立った《ブリッツ・マジシャン》は珍しそうに目をパチクリさせて言う。
『ありゃりゃ? 今度はピンチらないんらね~』
どんな状況でも《ブリッツ・マジシャン》はあっけらかんとしている。その明るさにユーイは何となく安心を感じた。
「そうでもない。あのモンスターはかなり厄介だぜ」
ユーイの言葉に《ブリッツ・マジシャン》は目下の標的である《捕食植物キメラフレシア》を見やる。
《捕食植物キメラフレシア》は状況が分かっているのか分かっていないのかウネウネと触手を動かしているだけ。
『なにこれキモ・・・』
《ブリッツ・マジシャン》の手厳しい一言。
「キモいとは非道いな。これでも私の主力モンスターなんだけれど」
美少女決闘者は苦笑しながら《ブリッツ・マジシャン》に話しかける。
《ブリッツ・マジシャン》が『キモいもんはキモいんら』と辟易した顔を見せると、彼女は覆面の下でクスクス笑う。
その様子をユーイは驚いた面持ちで見ていた。
(驚いたな、こんなにフラットに《ブリッツ・マジシャン》と意思を通わせた人は初めてだ。この女、本当に何者だ・・・?)
そんなユーイの視線に気付いたのか、彼女が言う。
「これがキミの切り札―――リンク召喚なのね。確かに見させてもらったわ。さて、次は何を魅せてくれるのかしら?」
言われてユーイは襟を正すように気持ちを切り替える。
「そんなに焦らなくても魅せてやるよ。いくぞ、《ブリッツ・マジシャン》ッ!」
『はいな~!』
ユーイの魔力に呼応して、《ブリッツ・マジシャン》が力を溜め始める。
美少女決闘者はそれを楽しそうに眺めている。
「《ブリッツ・マジシャン》のモンスター効果ッ!リンク先の《開闢の騎士》の攻撃力をその守備力の数値までアップさせるッ! そして更にその変化した数値分、攻撃力がアップ!!〝紫電潮流〟ッ!!」
《ブリッツ・マジシャン》が杖を振るうとその先から電撃が迸り、《開闢の騎士》の剣へと宿る。
これがクローディア戦でもフィニッシュを飾った《ブリッツ・マジシャン》お得意の二段パンプコンボ〝紫電潮流(ブリッツ・ドライブ)〟である。
開闢の騎士(ATK800→2000→3200)
《神剣ーフェニックス・ブレード》を装備していたため変化する数値が抑えられ、クローディアとのデュエルの時には劣るものの、それでも《開闢の騎士》の攻撃力は3200に達した。《幻想の呪縛》に捕らわれている《捕食植物キメラフレシア》を倒すには充分なパワーだ。
「バトルだッ!《開闢の騎士》の攻撃ッ!〝紫電・雷刃(ブリッツ・サンダー・スラッシュ)〟!!」
《開闢の騎士》が《ブリッツ・マジシャン》の魔力が帯電した剣を振り上げ、《捕食植物キメラフレシア》目掛けて飛びかかる。
対する《捕食植物キメラフレシア》は《幻想の呪縛》に封じられ迎撃することすらままならないでいる。このままなら《開闢の騎士》に一刀両断され美少女決闘者は大ダメージを受けること必至だ。
しかし――――
「――――そのコンボはすでに見ているッ!」
振り下ろされた剣が《捕食植物キメラフレシア》に触れるより一瞬早く、美少女決闘者が伏せカードを発動させた。
と同時に《開闢の騎士》の体は突如出現した無数の蔦(つた)によってがんじからめに捕らわれてしまった。
「なんだッ!?」
美少女決闘者のフィールドでは、その罠カードが翻っていた。
「永続罠《捕食蔦(プレデター・バイン)》ッ! 自分フィールドに「捕食植物」モンスターが存在する時、その数まで相手モンスターの攻撃と表示変更を封じる永続罠カードよッ!」
《捕食蔦》は《幻想の呪縛》と同じ呪縛系の罠カードだ。
攻撃力ダウンや効果の無効化といった付加効果はないが、自分フィールドに複数の「捕食植物」がいれば一度に複数の相手モンスターを縛ることが可能なのが利点となる。
「く・・・ッ!」
『うそ~~』
《ブリッツ・マジシャン》が落胆を見せる。
《開闢の騎士》は何とか蔦から抜け出そうともがくが、逆に蔦は体に食い込むばかりだ。
先ほど《捕食植物キメラフレシア》に施した技を、まさにやり返された格好だった。
「呪縛はキミだけの専売特許ではないわ」
今のユーイの手の内に《捕食植物キメラフレシア》を倒す術は他にはない。《開闢の騎士》を封じられてはこのターン手も足も出ない。
「くっ、俺は《白牙のグレート・ホワイト》を守備表示に変更し、カードを1枚伏せてターンエンドだ・・・」
今は《捕食植物キメラフレシア》の攻撃を封じられてはいるが、万が一のために《白牙のグレート・ホワイト》は守備表示にしておく。伏せたのは先ほど引いたばかりの手札増強系の罠カード。今はこのくらいしかできることはない。
美少女決闘者の目がキラリと光る。
「デュエルには『流れ』というものが存在するわ。この『流れ』を自分の方へより引き寄せた方が勝つ。そしてそれを引き寄せるのもまた『心の力』・・・」
デッキに手をかける。
「キミの『精神力』・・・弱まっているんじゃあない?」
そしてそのままドローした。
そのカードを確認して、彼女は確信する。『流れ』は間違いなく自分に来ている、と。
「今、私の『精神力』は確実にキミのそれを上回っているッ! 私のドローしたカードは《サイクロン》ッ! このカードを発動し、《幻想の呪縛》を破壊するッ!」
美少女決闘者が《サイクロン》を発動すると、一陣の旋風が巻き起こり、《捕食植物キメラフレシア》を縛っていた《幻想の呪縛》を粉々に吹き飛ばした。
「な、なにィーーーッ!?」
全ては《ブリッツ・マジシャン》と《開闢の騎士》のコンボを《捕食蔦》によって防がれたことで狂った。あれで『流れ』が美少女決闘者に傾いた。
(いや、違う! あのカードは最初からずっと伏せられていた! 発動しようと思えばいつでもできたのだッ! 最初から『流れ』は俺に傾いてなどいなかった! 彼女はこのタイミングであのカードを発動することで、中立だった『流れ』を自分の方へと引き寄せたのだッ! デュエルは『精神力』の闘いッ! 彼女の『精神力』が『運命』を導いたッ!!)
縛られていた体が自由になり《捕食植物キメラフレシア》がシャーと唸りを上げる。
これで《捕食植物キメラフレシア》を邪魔立てするものは何もなくなった。攻撃力も元に戻り、封じられていた効果も有効になる。
捕食植物キメラフレシア(ATK2000→2500)
「いくわよッ、《捕食植物キメラフレシア》のモンスター効果ッ! 1ターンに1度、このカードよりもレベルの低いモンスター1体を除外するッ! 除外するのは、当然《開闢の騎士》ッ!」
《捕食植物キメラフレシア》が大口を開けて触手を伸ばす。対する《開闢の騎士》は未だ《捕食蔦》に縛られたままで逃げることもできない。
「くっ、罠カード発動!《苦渋の黙札》ッ!」
苦し紛れという感じでユーイが罠カードを発動させた。
と同時に、今まさに《捕食植物キメラフレシア》に襲われんとしていた《開闢の騎士》が蔦だけを残してストンと消えてしまう。
標的を突然失った《捕食植物キメラフレシア》も?マークを浮かべている。
「・・・《苦渋の黙札》は自分フィールドのモンスター1体をリリースすることで、そのモンスターとレベル・種族・属性が同じモンスター1体をデッキ・墓地から選び手札に加える。俺はこのカードを発動することで《開闢の騎士》をリリースした」
《捕食植物キメラフレシア》の除外効果はモンスターを対象に取る効果だ。効果発動後に対象のモンスターがフィールドにいなくなってしまえば不発になる。
ユーイはそれを狙って《開闢の騎士》をあえてリリースすることで、この効果によるダメージを最小限に抑えたのだ。
(サクリファイス・エスケープ・・・。一度除外されてしまうと再利用は困難。それならばまだ自分から墓地に送ってしまった方がいい・・・ってところか)
美少女決闘者は心中でこの罠カード発動をそう評価した。
点数を付けるなら60点くらいか。
(悪くはないけれど、でもこれは『逃げ』の一手。『攻め』でもなければ『防御』でもない『逃げ』。それでは『運命』は手繰り寄せられないッ!)
そんなことを考えている内に、ユーイはデッキからレベル4の闇属性・戦士族モンスター1体をデッキから手札に加えたようだ。
それには構わず美少女決闘者はバトルを宣言する。
「行きなさいッ!《捕食植物キメラフレシア》ッ!!」
《捕食植物キメラフレシア》は奇声を上げながらユーイのフィールドに迫る。
『ぴぇ~~!!』
悲鳴を上げるのは最前線の《ブリッツ・マジシャン》だ。
自分の数十倍はありそうな巨体が襲ってくるのだから無理はないが、《ブリッツ・マジシャン》が恐れているのはそれだけが理由ではない。
《捕食植物キメラフレシア》には戦闘の際、相手モンスターの攻撃力を1000下げ、自身の攻撃力を1000上げる効果がある。《ブリッツ・マジシャン》が攻撃の標的になった時点でこの効果が適用され、その攻撃力は0にまで下がっていた。
ブリッツ・マジシャン(ATK300→0)
捕食植物キメラフレシア(ATK2500→3500)
元々《ブリッツ・マジシャン》の攻撃力は1000未満。1000ポイントも下げられれば当然0になってしまう。
攻撃力0ということは、《ブリッツ・マジシャン》にはもはや抵抗するだけの力すらないということだ。それはもうただの幼児でしかない。
「《ブリッツ・マジ――――」
「薙ぎ払えッ!!」
心配するユーイの声を掻き消すように美少女決闘者のよく通る声が響き渡る。
と同時に《捕食植物キメラフレシア》が触手を振り回し、《ブリッツ・マジシャン》がその餌食になる。
『きゃぅ!』
太い触手の一撃をまともに受けて、弾かれた《ブリッツ・マジシャン》が宙を舞う。
「――――ッ!?」
吹き飛ばされるその小さな体を見上げて、しかしユーイは不意の目眩を覚えた。
倒れそうになる体を膝をついて支える。
その間に《ブリッツ・マジシャン》はその姿を掻き消していく。
ユーイ(LP4000→500)
攻撃力0対攻撃力3500の対決。
それはもう勝負とは言えなかった。それはもはやただの蹂躙。象が蟻を踏み潰すに等しい。
当然それによって発生したダメージも凄まじいものだ。
ユーイは3500もの大ダメージを受け、膝ま付いたまま立ち上がることができない。
しかしユーイが立ち上がれないのはLPのダメージだけが原因ではなかった。
ユーイにとって《ブリッツ・マジシャン》はただのモンスターではない。これまで何度となくピンチも勝利の喜びも分かち合ってきた戦友であり、最も信頼できるパートナー。それがこうも無惨にやられたのだ。そのショックは計り知れない。
そんなユーイを美少女決闘者は強い瞳で見つめていた。
(自分のモンスターを信頼する気持ちは理解できる。まして高レベルモンスターを召喚できない彼にとって、それをカバーしてくれていた《ブリッツ・マジシャン》への執着は一際だったことだろう。それをああいう風に吹き飛ばした私は、あるいは血も涙もない女だと彼からなじられるかもしれない。けれど私は決闘者として、決して手は抜けない。それが私の決闘者としての矜持・・・)
美少女決闘者は落胆するユーイの姿に緩みそうになる闘志をそう引き締め直した。
そして努めて冷静に分析する。
(《ブリッツ・マジシャン》は確かに優秀なモンスターだ。1体のモンスターでリンク召喚でき、敵の弱体化と高い爆発力を一度に発揮することができる。しかし初見ならばともかく一度手の内がバレれば対処はそう難しくない。このモンスター1本で闘っていけるほど、デュエル・アカデミアは甘くない)
未だ立ち上がれないユーイの背中は最初よりも幾分小さく見えた。
美少女決闘者はその姿に小さな落胆を感じていた。
(あの時――――入学試験で彼を初めて見た時、『彼には何かある』と感じた。あの時の感覚は間違いだったのだろうか。今の彼には過ぎた期待だったのだろうか)
美少女決闘者がそう自分の感覚に疑いを持ち始めた時、彼女は(あれ?)と感じた。
指先で目を少しこすってみる。
(なんだか・・・奇妙だわ。さっきまで小さいと感じていた彼の姿が、その・・・なんだか少し『大きく』なったような・・・。そう・・・まさか、なんだけれど・・・)
ほんの先ほどまで小さく見えていたユーイの背中が少しだけだが大きくなったような気がする。
これは初めての感覚だ。
美少女決闘者が戸惑っていると、ゆっくりとユーイが立ち上がり始めた。まるで幽霊が立ち上がるようにゆらりと。だが、奇妙な威圧感がある。
(・・・威圧感?)
ふと美少女決闘者が自分が感じている感覚が威圧感だと気付いた時、ユーイがゆっくりと口を開いた。
「アンタのおかげだ・・・」
「・・・ッ」
「アンタが《ブリッツ・マジシャン》を完膚なきまでに吹っ飛ばしてくれたおかげだっつってんだぜ。おかげで『オレ』を呼び起こすことができた」
完全に起き上がったユーイは先ほどまでとはまるで別人のようだった。
(口調が変わった・・・? いえ、口調だけじゃあない・・・雰囲気も・・・それに・・・この『プレッシャー』は・・・ッ!)
眼光が鋭くなったとか甘さが消えたとか、変わったところはいくつかあるが、それよりも明らかに違う点があった。
ユーイの放つ異様なプレッシャーに美少女決闘者は一歩後ずさる。
(私が気圧されている・・・ッ!? なんなの・・・この・・・彼から感じられる異様な威圧感は・・・ッ! これは・・・まるでクローディア先生を相手にしているような・・・ッ!)
まるで何が起こったのかは分からないが、ユーイが突然変貌したのは確かだ。それも何か『危険』な方向にだ。
「まだデュエルは終わってはいない。さぁ、続けようぜ」
ユーイがにやりと笑い、美少女決闘者は奥歯を噛む。
確かにまだデュエルは終わっていない。途中でデュエルを投げ出すなど決闘者としてあるまじきことだ。
「いいわ! キミの変貌が何なのか、このデュエルに勝ったらじっくりと聞かせてもらうッ!」
ユーイの残りLPは500。風前の灯火だ。対してこちらはまだかなり余裕がある。もはやこのデュエルの勝敗は決したも同然。
(けれど私はまた期待している・・・。彼に起こった変化が、まだ何か更なる先を見せてくれるような気がする・・・)
「GOOD・・・!」
ユーイが恐ろしいほどにこやかに笑む。
その笑顔が、このデュエルはこのままでは終わらないと語っていた。
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