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第22話:闇に染まった虹彩 作:光芒
「これで終わりですわ! TG ブレード・ガンナーでダイレクトアタック! “シュート・ブレード”!」
TG ブレード・ガンナー ATK3300
チャレンジャーZのデュエルにおいてまず白星を上げたのは梓だった。【TG】モンスターからなる多段シンクロを得意とする彼女は、S召喚によって消費した手札をハイパー・ライブラリアンの効果で補いつつ、エースモンスターであるブレード・ガンナーを擁して有利にデュエルを進めていた。
「まずはチャレンジャーZの白朧院選手が1本取りました! 解説の風峰プロ、あなたが推薦したチャレンジャーZが有利にデュエルを進めていますね」
「そうですね。彼らはこの大会においては珍しい学校代表ではないチームですが、この大会を戦い抜くにつれてどんどん成長しています。彼らの中に眠る才能はまだまだこんなものではないと思いますよ」
「磁石の戦士マグネット・バルキリオン! “マグネット・ソード”で決めるんだなぁ!」
梓に次いで勝利を決めたのは盛雄である。【磁石の戦士】デッキは合体形であるマグネット・バルキリオンやマグネット・ベルセリオンはともかく、合体前のモンスターは通常モンスターであったり、攻守の値が低かったりするのだが、フィールド魔法である《マグネット・フィールド》などのサポートカードを駆使してテクニカルなデュエルで相手を翻弄した上での勝利であった。
この時点でチャレンジャーZが3人中2人勝ったことになり、勝ち上がりが確定する。相手チームの最期の一人は自分たちのチームの敗北が確定したことを知ると、せめて一矢報わねばと躍起になる。
―――遊季都くん、行くよ!
「覚醒竜姫-ラズべリアでダイレクトアタック!“紅蓮のメテオ・アロー”!
しかし、そんな相手の反撃を遊季都は許さなかった。ラズべリアの炎の剣が相手デュエリストの身体を斬りつける。ラズべリアの剣の一振りが相手を沈黙させた。
『試合終了! 3-0でチャレンジャーZの勝利! まさに今大会のダークホースたるこのチームはどこまで勝ち上がることができるのか!!』
(危なげないデュエルだったな。竜馬高校との熱戦や六錐高校との厳しい戦いがあいつらを成長させたとはいえ……このまま順当に行けば面白いことになるかもな)
割れんばかりの歓声がチャレンジャーZの勝利を祝う。つい数日前まで敵にしか見えなかった観客であるが、応援してくれるのであればその気持ちを拒む理由はない。クィーン・フォースのような優勝候補ではない自分たちがここまでの応援を貰うことに戸惑いつつ、三人は駆け寄ってハイタッチを交わす。
「やりましたね。赤崎さん、黒田さん」
「いいデュエルができたんだなぁ」
「みんな勝てて良かったですね。この勢いを持ったまま次も勝ち上がりましょう」
まだブロック代表を決める過程にすら至っていないため、ここで変に図に乗りすぎるのは良くないと思いつつも、勝利はやはり嬉しいものである。良い流れである時は素直にその流れに乗ることも悪いことではなかった。ここまで来たのであれば、全員で勝ち上がる。三人が思いを一つに重ねた時。
―――その余韻を破壊せんとばかりに一筋の流星がネオサイタマ・スタジアムのデュエルフィールドに轟音と共に堕ちてきた。
「!?」
その場にいた者は何が起きたのかすらわからなかった。ただ、流星となって堕ちたものの正体を遊季都たち三人、そして遊路は知っていた。紅と翠のオッドアイに鮮やかな紅水晶の身体、刃のように研ぎ澄まされた鱗に触れるもの全てを切り裂かんとする剣のような翼と爪。全てを虜にする美しさと全てを破壊する力を併せ持つそのドラゴン―――デュエルモンスターズの精霊・覇王星竜ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンのことを。
「あ、あれは……デュエルモンスターズでしょうか? 見たことないモンスターですが、一種のアトラクションだと思いますが……」
遊路の隣に座る実況が感じたままに疑問を言葉にする。呆然として状況を見守っていた遊路であるが、ザラメと契約しているからか、それとも自ら数多の修羅場を潜り抜けてきた経験からか。遊大もといドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンからは尋常ではない殺気を感じ取っていた。
「……げろ」
「風峰プロ?」
「今すぐここから逃げろ!!」
遊路がそう叫んだ瞬間。ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンは口を大きく開き、そこから真紅の光線を観客席の一部に放った。光に覆われた観客席およびそこにいた観客たちは瞬く間に紅水晶に囚われてしまった。一瞬の出来事にスタジアム全体から音という音が消える。まるで全ての生きとし生けるものが消え去ったかのような世界に、ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンの怒号の如き咆哮が響き渡った。
「ば、化け物……化け物だあああああっ!!」
「逃げろおおおっ!!」
「助けてえええ!!」
全てのものに畏怖の感情を植え付けるその咆哮は詰め寄せた数万人の観客をパニックに陥れるのには十分すぎるほどであった。ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンが自分たちを襲おうとしている―――それを知った観客たちは恐れ戦き、そして叫び声を上げながら一斉に逃げ惑う。老若男女などもはや関係ない。我先とばかりに逃げ出す人々がまるで巣を襲われた蜜蜂のように入り乱れる中、遊季都、梓、盛雄の三人は自然とドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンのところに駆け寄ろうとしていた。
「遊大さん! 遊大さんなんですよね!?」
―――ちょっと、どうちゃったの遊大くん! アタシたちのことわからなくなっちゃったの!?
遊季都が呼びかけると、ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンはまるでゴミを見るような眼で三人を睨みつけた。あまりにも冷酷な視線に遊季都は言葉を失う。
―――あれは、まさか……
「いったいどうしたんだなぁ! なんでこんなことを……!!」
―――あー、あれ。普通じゃないよー!
「バジル……それはどういうことですの?」
―――バジルの言ったままということだよ。彼は……正気じゃない。何者かに洗脳されている。
―――洗脳……そんなことができるのは……
ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンが遊季都たちの方へ向き直ると、その左肩に座っている者がいた。耳と鼻が鋭く尖り、両方の目玉が飛び出ている異様な外見の者。まるでファンタジーものの作品に出てくるゴブリンを彷彿とさせる容姿に、遊季都たちはそれが人間ではないということを即座に理解する。
―――アンタ、悪魔ね。アタシたちと同じ……
―――そうだ。我が名は《ジョロキア》。天界と人間界を滅ぼし、魔界の復活を目指さんとする者なり。
ジョロキアと名乗ったその悪魔はまるで自分が王になったかの如く尊大な物言いをする。
―――魔界の復活か。我らも天使たちの攻撃によって壊滅状態に陥った魔界を復興させんがために動いているが……
―――僕たち悪魔は人間からそのためのエネルギーを奪う手段としてデュエルモンスターズというゲームに関与しているんだけど。
―――直接人間を襲うっていうのは、ルール違反じゃないのー?
―――人間を傷つけることは……だめ。
ブルーハワイの言う通り、悪魔たちの目的はあくまでも天使によって荒廃させられた魔界の復活だ。人間の生み出す負の心を糧としている彼らはこの世界におけるポピュラーなゲームであるデュエルモンスターズのカードとなることで、デュエルを通して人間の負の心を集めることにしていた。
当然悪魔と契約した人間同士が敵対することもあるが、悪魔たちはデュエルモンスターズでの勝負によって勝敗を決めているため、人間に能力の対価を求めることはあっても、デュエルモンスターズ以外の方法では戦わない。それが悪魔たちの間に広まった暗黙のルールというものであった。
―――愚かな。そのようなゲームに頼っているから魔界の復活は進まないのだ。負の心など命を奪って得ればいいことだ。だから我は魔界復活のための手駒として異世界からこの精霊を召喚した。天界、そして人間界を滅ぼすためにな。
「そんな……遊大さんをそんなことのために利用したなんて……」
―――なんとでも言うがいい。どうせお前たちもここで魔界復活のための生贄になるのだ。この覇王星竜によってな!!
すると、ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンの身体がゆっくりと浮かび上がる。スタジアムの地面と天井の間くらいの高さにまで浮かび上がったその竜は、双眸で未だに逃げ惑う人々を憐れみをもって見下ろす。パニックになった観客たちが押し掛けるせいで、どの出口も人がすし詰め状態になってしまっており、そのため未だにスタジアムの中に取り残された人が多く存在していたのだ。
「慌てないで! 女性と子供を先に逃がすんだ!」
実況席を飛び出した遊路は、スタッフと共に避難誘導に勤しんでいたが、いくら避難の原則である「押さない」「駆けない」「喋らない」「戻らない」を知っていても、命の危険が迫る中でそれを実践できるだろうか。答えはノーだ。人が人を押しのけ合っては我先にと脱出を試みる人間たち。そんな恐怖に駆られた人間たちこそが悪魔の大好物なのである。
―――さあ覇王星竜ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンよ! この場にいる全ての者を取り込むのだ!!
ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンの身体が赤く光り輝く。本能で危険を察知した悪魔たちは皆がそれぞれの契約者を守ろうと全身全霊をもってバリアを生成する。
―――遊季都くんに手出しはさせない!!
―――皆、自分の契約者を守ることだけを考えろ!!
―――みんなを……守る……
「あいつ……一体何を……」
―――主様、わっちの後ろに隠れるのじゃ!
輝きが最高潮に達した瞬間であった。その身に溜め込んだエネルギーを波動に変えて覇王星竜ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンは一気に撃ち出した。悪魔の防壁によって守られていた遊季都、梓、盛雄の三人とザラメによって守られた遊路を除くここにいたすべての人間が、ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンの作り出す紅水晶によって閉じ込められてしまった。
ネオサイタマ・スタジアムはまさに真紅の結晶に覆われた城へと変貌を遂げていた。美しくも囚われた者の生命エネルギーを糧に輝く死の城へと。
「そんな、こんな……」
「酷い……あまりにも惨すぎます」
「みんな、捕まってしまったんだなぁ」
間一髪、助かった遊季都たちであるが、自分たちを除くすべての人間が生きながらに結晶に囚われる様はやはり見たくなどなかった。結晶に囚われている間は、動くことも話すこともできない。ただ延々と結晶の中でいずれ訪れる死の恐怖におびえ続けるだけであった。
「みんな、無事か!!」
「風峰プロ!!」
そんな中、ザラメを伴って遊路が三人の下に駆けつける。ザラメは悪魔の時の形態に戻っており、巨大な狐の姿になっては「下手に動けば喉元に食らいつく」とばかりに身を低く屈めては唸り声を上げ続けていた。
―――ほう、この者ら以外に無事だった者がいたと思ったら……貴様も悪魔と契約した者か。
―――お主か。高海 遊大を洗脳し、わっちらを敵として認識させたのは。随分と狡い真似をするのじゃな?
―――なんとでも言うがいい。我の手で魔界を再興し、そして三界を制する王となるのだ。生も死も……全てを我が物にするために。
(―――あの悪魔単体ならともかく、ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンめが相手にいる以上、わっちだけではまず勝てんじゃろうな。ならばこうするまでよ)
―――皆の者、彼奴等をここで野放しにするわけにはいかん! 全員悪魔の力を解放し、あやつを止めるのじゃ!
ザラメの号令と共に、ラズベリー、ポップロック、チャーハン、バジル、ブルーハワイら悪魔が実体化する。強力な精霊である遊大の力は悪魔以上であり、一対一であれば勝ち目は限りなく低いと言っていいだろう。しかし、それが一から二、二から三になればどうなるか。デュエルモンスターズ以外で戦うことは掟を破ることになるが、もはや掟になど構ってはいられない状況であった。
―――馬鹿め、覇王星竜の前では悪魔など無力!! 思い知らせてやるがいいい!!
次回 「絶望と救済」
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悪魔は悪魔でも過激派といった感じですね。同種族の悪魔さえ顧みない非道さはラすボス感が高いです。
総力戦とはいえ相手の強さはは考えるまでもなく強力。どう戦うのか…。 (2019-02-22 18:13)
確かに過激派な悪魔がいても不思議ではないですね。ジョロキアという名前もどことなくヤバさを演出しています。
悪魔の総力戦、どうなるのか? (2019-02-22 19:34)
味方側の悪魔がみんな美味しそうな食べ物の名前なので、明白に敵側であるとわかる名前にしてみました(ちなみに他の候補はハバネロ、ストレミングとかがありました)。ただブート・ジョロキアの異名が仰る通り悪魔の唐辛子なので、悪魔らしさは出せたと思います。
>悪魔は悪魔でも過激派といった感じですね。同種族の悪魔さえ顧みない非道さはラすボス感が高いです。
確かにジョロキアは魔界復活の過激派になりますね。ラズベリーたちが人間と契約して生まれる負の心を溜めて少しずつやっていこう、という姿勢に対してジョロキアは一々契約して負の心を少しずつ集めるのであれば、一度にたくさんの人間を傷つけて負の心をごっそり頂いてしまった方がいいだろう、というものですね。
ター坊さん
一応コラボ企画なのでパラレル設定ですけどね。ゴッズ本編と映画超融合みたいなものです。
>確かに過激派な悪魔がいても不思議ではないですね。ジョロキアという名前もどことなくヤバさを演出しています。
Devil Driver本編の悪魔がみんな話のわかる悪魔ばかりなので、こういう話の通じないド畜生がいてもいいんじゃないかと思いました。それでいて自分の力ではなくより強力な力を持った遊大にやらせてるあたりも狡猾です。
>悪魔の総力戦、どうなるのか?
おい、デュエルしろよ。
(2019-02-23 22:41)