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第20話:明かされる事実 作:光芒
「ラズべリアでドクロバット・ジョーカーを攻撃! 紅蓮のメテオアロー!!」
剣を構えたラズべリアはその身を灼熱の炎で包み込み、紅蓮の弓矢となってドクロバット・ジョーカーに襲い掛かった。自分よりも強大な相手をも貫かんとする矢がまるで猛る龍の如く遊大を飲み込もうとした瞬間である。
―――っ!?
ラズべリアの前に右目を星型の眼帯で覆ったピエロのようなモンスターが現れたのは。そのモンスターは人を食ったような笑みを浮かべながら、飄々とジャグリングを繰り返していた。
「ラズべリア!?」
「残念。ラズべリアの攻撃宣言の前に、俺は手札からこのカードの効果を発動していたんだ。このカード《Emダメージ・ジャグラー》のね」
《Emダメージ・ジャグラー》
効果モンスター(準制限カード)
星4/光属性/魔法使い族/攻1500/守1000
「Emダメージ・ジャグラー」の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分にダメージを与える魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、このカードを手札から捨てて発動できる。その発動を無効にし破壊する。
(2):自分または相手のバトルフェイズにこのカードを手札から捨てて発動できる。このターン自分が受ける戦闘ダメージを1度だけ0にする。
(3):自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「Emダメージ・ジャグラー」以外の「Em」モンスター1体を手札に加える。
「ダメージ・ジャグラーをバトルフェイズにこのカードを手札から捨てることで、このターン俺が受けるダメージを1度だけ0にできるんだ」
遊大の手札は残り1枚だったため、遊季都の焔獄の暴風の効果で破壊されたオッドアイズ・リジェネレイトの効果でドローしたカードがこのダメージ・ジャグラーだったことになる。攻撃力1500のため、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンのP効果でサーチできるカードではあるが、このタイミングでピンポイントにダメージ・ジャグラーを引き当てられるというのはさすがに遊大の運の強さを感じずにはいられなかった。
「このターンで決められると思ったのに……」
「まあ俺としてもそう簡単に終わらせる訳にはいかないということだよ」
「僕はバトルフェイズを終了します。そしてこのままターンエンドです」
遊季都 LP1450 手札1枚
デッキ:31 モンスター:1(覚醒竜姫-ラズべリア)魔法・罠:0 墓地:6 Pゾーン:青/赤 除外:3 EXデッキ:13(0)
遊大 LP3150 手札0枚
デッキ:36 モンスター:0 魔法・罠:0 墓地:5 Pゾーン:青/赤 除外:1 EXデッキ:14(8)
(ライフはまだ俺の方が上だけど、ラズべリアの2つ目の効果はテキストを見る限り、相手ターンでも発動することができるはず)
仮にここで起死回生のモンスターを出したところでバトルフェイズ前までにラズべリアを除去することができなければ、ラズべリアの効果で返り討ちに遭うだけだろう。手札においてもわずか1枚の差であるが、その1枚の差が大きくなるのがデュエルモンスターズである。決して楽観視はできなかった。
(泣いても笑っても、これが最後のドローになるだろうね)
☆TURN04(遊大)
「俺のターン、ドロー!!」
どちらに転んでもこのターンもしくは次のターンでこのデュエルの決着が付く。そう確信した遊大はデッキに思いを込めてカードをドローする。仮にここで自分が敗れたとしても、せめて後悔のないデュエルにしよう。その真っすぐな思いにデッキは応えた。
「俺のフィールドにモンスターが存在せず、俺のEXデッキにオッドアイズモンスターが表側表示で3体以上存在する時、このカードはリリースなしで召喚することができる! 来い!《EMオッドアイズ・ワルキューレ》!」
現れたのはオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンをモチーフにした真紅の鎧を纏った戦乙女だった。精霊であるスターヴ・ヴェノムの力で女性になっていた時の遊大と瓜二つのモンスターはラズべリアとは対照的に全身を鎧で覆った厳格そうな剣士であった。ラズべリアとは何から何まで対照的なその女剣士は細く長い剣を構えてラズべリアと対峙する。
《EMオッドアイズ・ワルキューレ》
ペンデュラム・効果モンスター(オリジナルカード)
星7/闇属性/天使族/攻2500/守2000
【Pスケール:青10/赤10】
「EMオッドアイズ・ワルキューレ」のP効果は1ターンに1度までしか発動できない。
(1):自分フィールドにモンスターが存在せず、自分のPゾーンにこのカード以外のカードが存在しない場合に発動できる。自分のデッキ・EXデッキから「オッドアイズ」Pモンスター1体を選んで手札に加える。この効果を発動したターン、自分は「オッドアイズ」モンスターしか特殊召喚できない。
【モンスター効果】
(1):自分フィールドにモンスターが存在せず、自分のEXデッキに「オッドアイズ」Pモンスターが3体以上存在する場合、このカードはリリースなしで召喚できる。
(2):このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合に発動できる。このカードの攻撃力をバトルフェイズ終了時まで自分の墓地・EXデッキに存在する「オッドアイズ」モンスターの数×300ポイントアップする。
(3):1ターンに1度、自分のフィールド・墓地に存在する「オッドアイズ」カード1枚をゲームから除外して発動できる。このターン、自分の「オッドアイズ」カードは相手の効果では破壊されない。
「オッドアイズ・ワルキューレの効果を発動! 墓地のオッドアイズ・リジェネレイトを除外し、このターン俺のオッドアイズカードは相手の効果では破壊されなくなる!」
「破壊耐性……これじゃラズべリアの効果で破壊することができない……」
「ラズべリアは効果で相手モンスターを破壊できなければ攻撃力を上げることができない」
―――アタシの効果の隙を突いてきたかぁ。でも遊季都くんへの愛なら負けるつもりはないから!
こんな時でもいつも通りなラズべリアの前向きさは見習いたいものだが、デュエルモンスターズにおいて愛の強さなど当然関係はない。それよりもここでオッドアイズ・ワルキューレの効果でオッドアイズカードに効果破壊耐性を付与することの意味がわからない遊季都ではなかった。
(ラズべリアとワルキューレの攻撃力は同じ……ここでラズべリアの効果を防いできたということは攻めてくる!)
「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移行する! EMオッドアイズ・ワルキューレで覚醒竜姫-ラズべリアを攻撃!」
「やっぱり相討ち覚悟で……迎撃しろ! ラズべリア!」
―――任せて!
EMオッドアイズ・ワルキューレ ATK2500 VS 覚醒竜姫-ラズべリア ATK2500
オッドアイズ・ワルキューレとラズべリアの2体のモンスターは互いの剣技を活かして丁々発止の打ち合いを繰り返す。しかし、この2体のモンスターの攻撃力は同じ。デュエルモンスターズのルールでは攻撃力が同じモンスター同士が戦闘を行った場合、そのモンスターは破壊される。
「この瞬間、戦闘を行うオッドアイズ・ワルキューレの効果を発動!」
「ラズべリアと同じ、戦闘を行う時に発動する効果……」
「このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合、このカードの攻撃力はバトルフェイズ終了時まで墓地とEXデッキに表側表示で存在するオッドアイズモンスターの数×300ポイントアップする!」
遊大のEXデッキにはペンデュラム・ドラゴン、ファントム・ドラゴン、アークペンデュラム・ドラゴン、ジークペンデュラム・ドラゴン、ドラグーン、ミノタウロスの計6体のオッドアイズが眠っていた。戦いで命を落とした者を導く戦乙女の名を冠するオッドアイズの剣に同胞の魂が力となって宿っていく。
EMオッドアイズ・ワルキューレ ATK2500→ATK4300
「攻撃力……4300!?」
「オッドアイズ・ワルキューレ! ラズべリアを切り伏せろ! “螺旋のスパイラル・スラッシュ”!」
EMオッドアイズ・ワルキューレ ATK4300 VS 覚醒竜姫-ラズべリア ATK2500
亡き朋友の力が込められたワルキューレの剣が振り下ろされる。一閃―――ラズべリアの身体をその剣ごと切り裂いた。その一撃で深手を負ったラズべリアは苦笑いを浮かべながら消えていく。
「ラズべリア!!」
―――あっちゃあ……アタシの負けかぁ。ごめんね、遊季都くん。
遊季都 LP1450→LP0
*
「……っ、及ばなかった。白朧院さんや黒田くんのためにも勝ちたかったのに。やっぱり強いですね、遊大さん」
「いや、勝てたのは運が良かったからだよ。あそこでダメージ・ジャグラーを惹けていなかったら終わっていたし、オッドアイズ・ワルキューレを出せていなければまた次のターンでラズべリアの攻撃を受けて追い込まれていた。このデュエルに関しては、あまり勝ちとは言い切れないかな……」
「勝っても素直に勝ちを喜ばないんですね」
「いや、追い込まれた上での勝利は嬉しいよ? でも、理想的な勝ち方じゃなかったかな。こんなデュエルをしていたらこの人に怒られちゃうし……」
そう言って遊大は首から下げていたペンダントを開く。ペンダントの中には一人の美しい女性の写真。その写真に向かって微笑んでいる遊大の隙を突いて遊季都たちもこっそりをそれを覗き込んだ。
「ちょっと、何見てるのさ!?」
「今のお方は……まさか遊大さんの恋人なのではありませんか?」
「凄い美人なんだなぁ……オイラこんな美人見たことないぞぉ」
「あはは……鋭いね白朧院さん。確かにこの人は俺の恋人だけど、同時に俺のデュエルの師匠でもあるんだ」
「デュエルの師匠?」
「うん、この人のようなデュエリストになりたい。この人を目指したから今の俺があるんだよ」
遊大曰く、写真の女性はわずか7歳でプロデュエリストになり、世界中でその名を轟かせていたという。そのあまりに鮮烈なデュエルから、同世代の少年少女の間では伝説の存在にまでなっていたという。
(遊大さんにそんな人が……)
―――愛の力って奴だね。その人を想う気持ちが遊大くんをそこまで強くしたんだよ。遊季都くんも早く彼女作らないとダメだよ?
(それと僕の彼女がどう繋がるのさ!)
―――どうしてもリアルの彼女ができなかった場合はアタシでもいいよ? アタシだったら遊季都くんのためにデュエルも夜のお相手も……
(わーっ!わーっ!)
―――にゅふふ~。照れてる遊季都くんかーわーいいー!
遊季都とラズベリーが漫才のようなやり取りを繰り返している中、遊大は改めてこの遊季都とのデュエルを思い出していた。自分はアカデミア入学以降、様々な試練を乗り越えてはデュエルモンスターズの精霊として持てる力の大半を解放している。しかし、遊季都たちチャレンジャーZの三人はまだ入学して半年も経過していない。つまり同じ一年生とはいえ、過ごしている時間は遊大の方が長いのだ。そんな自分を遊季都は追い込み、梓と盛雄は秘められた実力の片鱗を覗かせているのである。
(今の彼らはまだ成長段階にある。もしみんなが本当に強いデュエリストになったら……今日のようなことにはならなかっただろうね。俺たちのような若いデュリストを成長させる舞台を、いつか作れるといいな)
*
「遊季都くん、ちょっと出てくるね」
「小町にはちょっと遅くなると伝えておいて」
「すまんな、苦労を掛ける」
「えっ? あっ、うん……」
遊大とデュエルをしたその日の夕刻、ラズベリーたちは人間の姿で実体化すると、ぞろぞろと家を後にしていった。ラズベリーが派手なランジェリーを買いに行ったり、ポップロックが図書館に本を読みに行ったりするために外出することはあっても、3体の悪魔が連れ添って出かけることはとても珍しいことであった。
(一体どうしたんだろう……)
心配する遊季都を余所にラズベリーたちが向かったのは遊路の家であった。事前に遊路たちには話が付けてあるようで、遊月の歓待を受けたラズベリーたちは家の二階にある客間へと通された。
「あっ、ラズベリーたちだー」
「先にお邪魔しているよ」
そこではバジルとブルーハワイがティーカップ片手に全員が揃うのを待っていた。悪魔と人間は基本的に異なる存在だが、人の姿を取っているがために味覚が人間に近づくのであろうか。美羽の淹れたお茶の虜になっているようだった。
「アタシが言うのもなんだけどさ、アンタたちこの世界に馴染むの早いよね」
「人間たちの言葉にこんなものがある。郷に入れば郷に従え、というものがね。この世界で魔界復活のための力を蓄えるにはこうするのがいいという結論に至ったのさ」
「バジルはおいしいものが食べれればそれでいいけどねー」
「どうやら全員揃ったようじゃな。急に呼び立ててすまなかったのう」
一連の出来事に関係している悪魔たちが全員揃ったタイミングを見計らってザラメが部屋に現れる。遊路の多忙もあってしばらく出会っていなかった悪魔たちであったが、殊更ザラメに会うのは久しぶりのように思えた。
「しばらくぶりだなザラメ。そういえば最近お前の波動を感じなかったがどこへ行っていたんだ」
「実は主に頼まれてわっちは探りを入れていたのじゃ。この人間界はもちろん、あちらの方もな」
「あちら……? ってまさか」
あちら、と言って人差し指で天を指すザラメ。彼女の言うあちらとは他ならぬ天界のことを指しており、その天界の天使たちによって悪魔たちの住む魔界が壊滅状態に追いやられている。そんな天界に悪魔がノコノコと向かっていったらどういうことになるか。言葉にせずともラズベリーたちはその危険性を理解していた。
「そうじゃ、わっちら悪魔が天界に踏み込めば怪我では済まないからのう。じゃが今わっちはこうして傷一つ負わずお主らの前におる。それが何を意味するかわかるか?」
「……天使から攻撃を受けなかった、ってことだね?」
「ああ。正確に言えば、天使たちはわっちのような悪魔に攻撃を仕掛けることができなかったと言うべきじゃな」
「ねえ、どうして攻撃できなかったのー?」
「……わっちも足を踏み入れてみて驚きを隠せなかった。天界が……ほぼ壊滅状態に追いやられていたのじゃからな」
「は?」
天界が壊滅―――魔界を攻撃して悪魔たちの大半を討ち取った天界をそこまで追い込む。その言葉にラズベリーたちは顔を見合わせる。そして、悪魔はおろか天使たちをも上回る力を持った存在を彼女たちは知っている。その推測を確信に変える証言をザラメは得ていた。
「これは天界の様子を見張っていた別の悪魔から得た情報じゃ。これは主らの主人には内密にしておいて欲しいのじゃが……天界を壊滅状態に追い込んだのは、真紅の竜とそれに付き従っている者だったという。真紅の竜は言わずともわかるじゃろう?」
「真紅の竜は遊大くん。じゃあその付き従っていたのは……」
悪魔たちの中で点と点が線でつながった。そして彼女たちは全てを把握した。“真紅の竜”こと覇王星竜ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴン=遊大に嘘を吹き込み、悪夢を見せてこの世界に連れてきた者。真紅の竜に”付き従っている者”こそが一連の出来事の黒幕であるということを。そして精霊にそれだけの力を及ぼせるその者こそが、自分たちと同じ悪魔であるということを。
●次回予告
国広 陸
「遊季都たちチャレンジャーZはデュエル甲子園の試合に臨んでいた。遊路さんや遊大に鍛えられたこともあって優位にデュエルを進めていくチャレンジャーZの三人。遊大も遊大でフリーのジャーナリストに化けて取材と称してこの大会のことを調べているみたいだな。俺らの世界でもこういう大会を開けるとデュエリストのレベルアップに繋げられるかもしれないな!」
次回 忍び寄る者
国広 陸
「ん? なんだお前、遊大になんの用だよ?」
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さて・・・天界が壊滅状態となっているという訳だが、戦いもすごい方向へ行きそうだな。まるで魔界戦記ディスガイア並みの壮大感を感じます。 (2019-02-16 08:02)
本当だったらここで遊季都を勝たせても良かったんですが、クィーン・フォースを圧倒した遊大にこの時点の遊季都が勝ってしまうと強さのバランスがおかしくなってしまうのではないかな、と思ってこの結果に落ち着きました。
>さて・・・天界が壊滅状態となっているという訳だが、戦いもすごい方向へ行きそうだな。まるで魔界戦記ディスガイア並みの壮大感を感じます。
ディスガイアはよく知らないのでよくわかりませんが、ここから物語は佳境へと向かっていきます。最終決戦の時も近いです。
(2019-02-16 16:55)
殆ど一枚の差で遊大君の勝利となりました。しかし二人をあっさり倒した彼をギリギリまで追い詰めた遊季都君もよくやりました。
さてかなり重要そうな展開になりました。次回に期待ですね。 (2019-02-16 21:53)
結果的に負けてしまいましたが、遊季都はまだまだ物語の途中のため成長過程の状態なんですよね。それで遊大に敗北を覚悟させたのだからかなりの腕前になっています。つまりDevil Driverが完結する頃には遊大より強くなる可能性も秘めていたりします。
ちなみにここでプロローグの冒頭の情景が役立ちました。これで物語開始時に何が起きていたのかがわかりやすくなったと思います。 (2019-02-18 00:28)