EP28　容疑者･赤崎 遊季都！？　作：ター坊

「凄いデュエルでしたね」
「はい。恐らくＡブロックは間違いなくクイーン・フォースですわね」
「きっと、そうだろうなぁ」
遊季都達はＡブロックを観戦し終わって、感想を口々に語りながら帰り道に着いていた。今日の戦いはクイーン・フォース以外は平凡といった感じで特筆することがなく、Ａブロックの勝ち抜けはクイーン・フォースで決まりだろうと感じさせるものだった。
「明日はどうしましょうか？僕達の番まであと３日…結構ありますよね」
「うーん、確か明日のＢブロックはギャラクシー・ガールズが出るけど…」
「是非参りましょう！」
「は、白朧院さん？」
「あ、いえ…。プロのユッキーさんをリーダーに据えたチームですからＢブロックを勝ち抜く可能性が高いので、その研究、そう！研究のためです！」
「は、はぁ…」
何故かテンションの上がる梓の挙動を不思議に思う遊季都だったが、梓の言うことにも理がある。
「それじゃあ、明日もあの公園で集合しましょう」
遊季都のその言葉で今日は解散となった。



遊季都の帰宅後。相変わらず小町は布団で横になっていた。
「ばっちゃん、大丈夫？」
「ああ、ああ。大丈夫だとmいたたたた…！」
「ばっちゃん無理しないで」
「お婆様。今日はアタシがご飯作りますから」
「ラズベリーちゃん…すまんねぇ」
【えっ？ラズベリーって料理出来るの？】
【そのくらい魔法で余裕♪】
【あー、なるほど】
遊季都達は小町の部屋を出て台所に向かった。
「さて、作る料理は…これにしよう。じゃ、あとよろしく♪」
ラズベリーがレシピ本の料理を指差すと冷蔵庫がひとりでに開いて必要な食材が浮遊し、包丁やフライパンも浮いて野菜を切ったり炒めたり各々が動き出す。
「まるでポルターガイストみたいだな…。僕は…手伝えそうな事もないし…」
遊季都はテレビのリモコンを手に取りあちこちチャンネルを回す。
《今日のぶらりロー》ﾋﾟｯ
《コンビニ強盗が逃ぼ》ﾋﾟｯ
《喰らえ！シャイニ》ﾋﾟｯ
《本日よりデュエル甲子園が開幕となりました。それでは本日のデュエルのダイジェストをお送りします》
遊季都は今日生で見たデュエルをもう一度眺める。自分もまた、こうして放送されるのかなと考えながら。








しかしこの時、遊季都にとんでもない事件に巻き込まれようとは本人はもちろん、誰も予見出来なかった。









翌日、遊季都達は約束通り公園に集合したが、そこに思いもしない人物が現れた。
「ちょっと君」
「はい？」
遊季都に話し掛けたのは二組の警察官だった。
「間違いない！コイツが犯人だ！！」
「えっ！？」
そう言って警察官の一人が遊季都を後ろに手を回して押し倒す。
「ええっ！？お巡りさん、待って下さい！！赤崎さんが何をしたと言うんですか！？」
「うるさい！邪魔するなら公務執行妨害でお前らも逮捕するぞ！！」
警察官達は梓の制止も聞かないまま乱暴に遊季都を連れ去ってしまった。その場に残ったのは突然の事に呆気に取られる梓と盛雄と遊季都の手荷物だけだった。






「なんだと？」
梓と盛雄は自分達ではどうしたら良いか分からず、自分達の周りで最も頼りになる人物･遊路にすがった。遊路は特別解説の仕事前の待機中だったが、梓と盛雄の動揺ぶりに只事ではないと察したルナが二人を控え室まで連れてきたのだ。
「遊季都がそんな事に…」
「風峰プロ！私達どうしたら良いか…！こうしてる間にも赤崎さんが！」
「…よし。梓、とりあいず落ち着くんだ」
「す、すみません。取り乱して…」
「とりあいず経緯とかの情報が欲しいな…。ルナ」
「はっ！」
「警備の仕事は他の奴に任せていいから遊季都の身に何が起きたのか調べてくれるか？出来れば…仕事が終わる夕方くらいまでに」
「了解しました」
ルナは軽く頭を下げた後、控え室を後にした。
「あの…」
「ああ、大丈夫。とりあいず今は情報を見ないと動きようがないから、夕方くらいになったらもう一度来てくれ」
「…分かりました」
話の最中、扉が開く。
「風峰プロ。そろそろスタンバイお願いします！」
「あ、はーい」
イベントのスタッフが遊路を呼びに来た。
「それじゃあ」
「…」
「大丈夫。遊季都は、いや、チャレンジャーＺは絶対終わらせない」
遊路は梓の肩を叩いて控え室を出た。






移動中の廊下にて。
【…主殿】
【ザラメか。どうした？】
【先程の盛雄とかいう小僧の持つ鞄から悪魔の気配が】
【そうか…】








夕方。Ｂブロックトーナメントの第１回戦は問題なく終わったが…
「…」
「…」
梓と盛雄は遊季都の身が気になってデュエルの研究はおろか楽しんで観戦することすら出来なかった。重い足取りで遊路の控え室に入る。
「梓、盛雄」
そこには遊路とルナがいた。
「あの…」
「ああ。だいたい分かったぞ」
「えぇ！？ほ、本当だか？」
「まぁとりあいず見てくれ」
遊路が手招くままに梓と盛雄が近付くと、二人はパソコンの画面を見せられる。
「まず、これが遊季都が捕まる原因になった映像だ」
遊路がとある画像ファイルをクリックすると衝撃の映像が再生される。
撮影場所は何処かのコンビニだろうか。防犯カメラの映像のようでレジの辺りを上から撮っている。
「ここ(=会場)から徒歩２０分くらいのコンビニだ」
「こんな映像を何処で…」
「ルナの仲間には随分お世話になっててな。大企業や省庁、警察とか色んな所に潜入してもらって情報を得てるんだ」
「ええっ！？」
「まぁそんな事より問題はここから。よく見てろよ」
レジ前の通路に現れたのは大柄の男性店員。客足が無くなったのを見計らってモップで掃除を始めた。すると

ダンッ

突然、小柄な人が店員に飛び蹴りを食らわせて転倒させた。
「え！？これって…」
「ああ…。そのまさかだ」
その小柄な人が転んだ店員に馬乗りになると首を掴みながら何回も顔を殴打する。店員が動かなくなると小柄な人は立ち上がりカメラの前で勝ち誇ったような笑みを見せつける。
「そんな…！」
「う、嘘だぁ…こ、こんなのって…」
その邪悪な笑みを浮かべるのは間違いなく赤崎遊季都だった。その後、遊季都はレジ周りにあったお菓子を鷲掴みにして画面外へと逃げ去った。
仲間のとんでもない姿を目の当たりにして力が抜けたのか、梓と盛雄はガクリとソファーに腰掛ける。
「風峰プロ…これ、きっと合成ですよね…？」
「…残念ながら加工された跡はないから本物だ」
「そんな…」
梓の声が徐々に涙ぐんでいく。
「だが、この映像はおかしい」
「え？」
遊路の一言に梓と盛雄は頭を上げる。
「でも合成じゃない…って」
「ああ。けど、もしこれが本当に遊季都だとすると説明が付かない事が３つあるんだ」
「３つ？」
「１つ。ルナ、このやられた店員で分かってることは？」
「はい。彼は大沼将吾。身長１９２cm。近くの大学に通っている学生で、空手サークルに所属しています。現在は鼻や頬骨を折る重傷を負って入院中です」
「小柄な遊季都が自分よりも大柄の、しかも格闘技経験者にあそこまで一方的に暴行できるとは思えない」
「赤崎くんは、優しいからなぁ…」
「２つ。何か悪事をするなら顔を隠すなり正体をバレないようにするのが普通だが、この遊季都はむしろ見せびらかしている」
「確かに…。まるで自分の悪事をアピールしているようにも思えますわ…」
「そして３つ。時間を見てくれ」
遊路が指差す所を見ると、時刻の表示は17:49となっている。
「これが何か…？」
「一応範囲を広げて遊季都の行動を調べてもらったんだが、遊季都は16:30発の快速電車に乗って自宅方面に帰ったみたいだ」
「はい。確かに私達も赤崎さんとはそのくらいの時間に別れた気がします」
「赤崎くんだけ逆方向だもんなぁ」
「だけど問題はここからだ。遊季都を乗せた電車は次の駅に向かう途中、走って１０分後に機械のトラブルがあって１時間止まり、その間電車の中に閉じ込められていたんだ」
「…あっ！」
「白朧院さん？」
「もしそのトラブル解決後に電車で戻ったとしても、17:49に強盗をできる訳がない…」
「そういう事だ」
そう。遊季都は16:30~17:40まで電車内に拘束されていたのだ。犯行を記録した時刻17:49までは９分。その９分間で、動いた電車で次の駅まで移動し、そこから下車・乗り継ぎして元の駅に戻ってダッシュでコンビニに向かって強盗…とは物理的に不可能という事になる。
「それでは…この映像の赤崎さんは一体…」
「そう。人間の理屈じゃ分からない。じゃあ、別の存在の理屈ならどうだ？ザラメ。それにカバンの中にいる奴らも話を聴かせてくれ」
遊路がそう言うと遊路のポケットから１枚、遊季都のカバンのチャックが開いて３枚のカードが飛び出してきた。それらのカードが光ると人の形になり、ラズベリー･ポップロック･チャーハンとザラメが人間となって現れる。
「ほげぇっ！？風峰プロまで…ラズベリーさんみたいな悪魔を持ってたのかぁ？」
「ああ。当然、マスコミには口外しないでくれよ？」
少し冗談めいた口調で遊路が言う。
「さて、悪魔全員に聞くけどこれはやっぱり同業の仕業なのか？」
「うん。昨日は遊季都とずっといた」
「我も同意だ。恐らく幻影かその類いを作れる者のやった事だろう」
「…」
「ん？ラズベリーと言うたか、どうしたのじゃ？」
「実は…ちょーっと心当たりがある人間がいるんだよね」
「ラズベリーさん、もしかしてその人間ってコイツの事か？」
遊路は先程とは別の映像を再生して全員に見せる。
「そうそう、コイツ！」
「えっ！？そんな…」
その映像に映し出された人物はあまりにも意外で、梓も盛雄も驚くばかりであった。
「近くの防犯カメラに映ってて怪しいと思ってたが…」
「ですがオーナー。悪魔の契約者が判明したところで赤崎遊季都の無実の証明をするのは困難だと思われますが…」
ルナの言う通り、もし仮に悪魔の契約者を警察に突き出して《コイツが悪魔の力を使って遊季都を陥れた》と言ったところで信じては貰えないだろう。だが、遊路の頭の中にはそこを補うアイデアは既にあった。
「その辺は大丈夫だ。…こういう時こそ名声が役立つ」
「風峰プロ、一体どうすれば赤崎くんを助けれるかなぁ…？」
「ああ。少し荒っぽいが…」
遊路は自分の作戦を語る。
「…とまぁ、これで遊季都を解放する、という訳だ」
「わーぉ。人間のくせになかなかエグいね」
「まぁ死人が出なければ良い訳だからな」
「…あの風峰プロ」
「どうした？」
「差し出がましいようですが…、１つお願いがあります」
梓は自分の思いを遊路に打ち明けた。