１８：月の使者―ルナティックロイド―　作：ほーがん

第１８話「月の使者―ルナティックロイド―」



遊牙は目的地である「生体培養実験室」の前に来ていた。
「ルナ・・・ここに居るのか・・・。」
遊牙は扉の横のパネルに触れる。扉はスライドして遊牙を迎え入れた。
「・・・。」
ゆっくりと歩みを進める遊牙。しかし、中は薄暗く無数のガラス管が並んでいるだけだった。周りを見渡す。すると、突然D・ディスクの中から光が溢れ出した。
「なんだ・・・？」
その正体を探るべく、遊牙はD・ディスクからカードを取り出す。そして光を発している１枚を探し当てた。
「デッドジャック・・・これは一体・・・。うっ・・！！」
その瞬間、光は目開けられないほどに眩く輝きだした。


そして。光に包まれ、遊牙の姿は「生体培養実験室」から消えた。



目を開ける遊牙。そこは先ほどとは違う、暗闇に支配された空間。天井や壁など見当たらず、自分がどこに立っているのかすらも怪しいほどの深淵。
「どこかに・・・飛ばされたのか・・・？俺は・・・。」
すると手に持った《コープスナイト・デッドジャック》のカードが再び光を放ち、道筋を照らした。
導かれるようにその光の先へ進む遊牙。やがて一つの扉にたどり着いた。
「これは・・・。」
その扉には文字盤とパネルが。遊牙はその時、突然頭に浮かんだ言葉を文字盤に打ち込んだ。


『：MOON APOSTLE』


そして扉が開いた。

そこはとてつもなく広い空間。目の前には巨大な”蓋”のようなもの。その蓋の中心から小さな光が漏れている。
「ここは・・なんだ・・・。」
その時。
「ぐああっ！！！」
突然目の前に人が飛ばされて来た。その人物を見た遊牙は声を上げる。
「お前は・・・カゲロウ！？」
その人物、カゲロウは叫んだ。
「何故だ！！ノーン殿！！某との約定は偽りだったというのか！？世界の平和を目指しているのではなかったのか！！」
その視線の先。遊牙の探し求めていた人物が宙に浮かんでいた。
「ルナ！！！」
遊牙は叫ぶ。しかし、そのルナの姿をした人物は、遊牙の知る声とはまるで違う声で言い放つ。
『カゲロウ。時は満ちたのだ。後はこの肉体を覚醒を待つのみ。貴様との約定など、もはや意味は持たぬ。』
カゲロウは身体中に出来た傷を片手で抑えながら、腰の刀を抜いた。
「失望したぞ！！世界の平和を目指さぬというならば、某が貴様に従う理由はない！！某はここに反旗を掲げる！！」
ルナの姿借りた人物―ノーン―は手を前にかざした。その瞬間、カゲロウの手に持たれた刀の刃が砕け散る。
「なぬっ・・・！」
『カゲロウよ。貴様はもう少し賢い人間かと思っていたが、残念だ。賢さならまだヘラルドの方が上だな。』
カゲロウの体が宙に上がる。カゲロウはもがき抵抗を試みるが、その足はどんどん床から離れて行く。
『人間とは愚かな生き物だ。自らの弱さ、脆さを身をもって知るがいい。』
だが、その時。


「やめろ！！！」


遊牙の叫び。それと同時に遊牙の中の何かが動き出す。一瞬ノーンの手が緩み、カゲロウは解放された。
「ぐっ・・・少年・・・その力は一体・・・？」
遊牙は続けて叫んだ。
「お前はルナではない！！！お前が・・・お前がノーンか・・・！！」
その様子を見たノーンは無表情で答える。
『いかにも。余は全てを知る者。天にそびえる黄金の使者。』
遊牙は言った。
「ルナを返せ！！！」
ノーンは変わらぬ口調で言い放つ。
『この肉体を持ってして鍵とする。もはやこの肉体は余の肉体だ。』
遊牙は声を荒げる。
「ふざけるな！！ルナは誰の物でもない！！！」
突然、遊牙の周りに赤いオーラが立ち籠める。それを見たノーン驚き、言った。
『・・・！！・・・なるほど。自らの鱗片を進化させたか・・・。貴様を吸収すれば、余は彼奴の力を・・・赤き力を手に入れられるやも知れん・・・。貴様、余と決闘をせよ。』
「ルナを取り戻す！！！」
D・ディスクを構えた遊牙。しかし、その瞬間。かつてホーガンから聞いた言葉が脳裏を過る。


「「遊牙、絶対にルナにデュエルをさせるな。」」


遊牙の手が止まる。
「俺は！・・・俺は・・・デュエル・・・できない。」
その言葉にカゲロウは言った。
「今ここでノーンを打ち倒さなければ、奴は人間を滅ぼし、世界を混沌に陥れる！！今戦えるのは、少年！貴様しか居ないのだぞ！！」
遊牙は首を振った。
「しかし・・・。ただでさえ肉体を奪われている今、これ以上ルナの身に何かあったら、俺は・・・。」

その時だった。遊牙の頭に声が響いた。


『遊牙。』


「その声は・・・ルナ！！！」

『お願い。このままだと私は、ゲートを開ける鍵になってしまう。そうなれば、大好きなみんなを傷つけることになる。だから、ノーンを倒して。』

「だが、ルナはデュエルをしてはならないと、ホーガンから・・・。」

『私は一度『神の鉄槌』になりかけた存在。だから、ホーガンは本当の覚醒を阻止する為に、私を逃がした。デュエルしてはいけないというのもそれが原因・・・。お願い、ノーンを倒して。みんなの為に。』

遊牙は目を閉じる。

「・・・デュエルをしてノーンを倒した時、お前はどうなる。」

『・・・』

「お前は・・・無事に戻るのか・・・？」

『・・・ゲートが開いてしまえば、２０年前と同じ・・・ううん、もっと酷いことになる。』

「ルナ、お前は！！！」

『みんなを・・・みんなを守って。』

「お前はどうなるんだ！！ルナ！！！」

『・・・私の体がどうなるかは・・・わからない。でも。大丈夫。私きっと頑張るから。』


「・・・っ・・・絶対にお前を助ける・・・。絶対にお前を死なせはしない。これは俺の約束だ。だから、お前も約束してくれ。絶対に生きて帰ると。」

『・・・うん。』

「俺は必ずノーンを倒す。そして・・・お前を救い出す！！」


『ありがとう、遊牙。』



遊牙は再びD・ディスクを構えた。
「ノーン、俺とデュエルだ。」
ルナの姿をしたノーンは、その身に纏うバトルスーツの左腕に取り付けられた装置を展開させ、D・ディスクとした。
『貴様を倒し赤き力を手に入れ、その上でゲートを開く。そうすれば、閃光眼をも余の手に・・・全ては余の手に収まる。』
遊牙は静かに、しかし力強く言った。
「そんなことは、俺がさせない・・・！！！」


『デュエル！！！（LP４０００　VS　LP４０００）』


ノーンはその手を掲げ言った。
『余のターン。余は手札からフィールド魔法《グローリー・フルムーン》を発動。』

その瞬間、目の前の景色が月面へと変貌する。

「こ、これは・・・。」

ノーンは言った。

『これこそが美しき我が故郷。余は月世界より生まれし存在。天にそびえる黄金の使者。』

遊牙は不可解な顔をする。

「どういう意味だ。」

ノーンは語り出した。

『貴様らが神の鉄槌と呼ぶ存在。その正体は月の使者。余はその王となる存在。』

その言葉に遊牙は驚愕する。

「『神の鉄槌』は・・・月の・・・使者だと・・・！」

ノーンはデュエルを進めた。

『フィールド魔法《グローリー・フルムーン》が存在する限り、余の「月狂（ルナティック）」モンスターは召喚を無効化されず、相手の効果の対象にならない。』

そしてノーンは２枚のカードを手に持ち、それを遊牙に向け言い放つ。

『余はスケール１の《月狂傀儡（ルナティック・ロイド）―カリスト（☆９／光／天使／ペンデュラム／１００・１００）》とスケール９の《月狂傀儡―イオ（☆１／光／天使／ペンデュラム／１００・１００）》でペンデュラムスケールをセッティング。』

ノーンを中心に彫刻のような姿をした天使が、柱のように浮かぶ。

「これは・・・カケルの言っていた・・・！！」

遊牙は身を構えた。

『これにより、余はレベル２から８までのモンスターを同時に特殊召喚できる。ペンデュラム召喚。我が元へ降り立て。《月狂傀儡―ガニメデ（☆５／光／天使／ペンデュラム／２０００・２０００）》。』

ノーンのフィールドに輝く杯を携えた天使が舞い降りた。

『《月狂傀儡―ガニメデ》の効果発動。このモンスターの特殊召喚に成功した場合、デッキから１枚ドローする。』

デッキに手を伸ばし、ノーンはカードを引いた。

『余はカードを１枚セットし、ターンエンド。』



遊牙は警戒の目を向ける。

「この威圧感、一体どんな力を隠している・・・！俺のターン！！」

遊牙は手札のカードを１枚取り出し言った。

「俺はお前の《月狂傀儡―ガニメデ》をリリースし、お前のフィールドに《コープスナイト・フラーケン（☆５／闇／アンデット／チューナー／２０００・２０００）》を特殊召喚する！！」

ノーンのフィールドから杯を持つ天使が消え、屈強な闇の騎士が出現した。

『ほう。貴様のカード・・・鱗片が混じっているな。』

ノーンの呟きにも構わず、遊牙は続ける。

「そして手札から《コープスナイト・アイン（☆２／闇／アンデット／０・６００）》を召喚！」

華奢な体つきの女騎士が遊牙の前に出現する。しかし、その瞬間ノーンのフィールドでカードが開く。

『罠カード《月世界の釣鐘》を発動。相手フィールドにモンスターが召喚・特殊召喚された場合、手札またはエクストラデッキに表側表示で存在する「月狂」モンスターを１体を対象に発動できる。そのモンスター特殊召喚する。余は《月狂傀儡―ガニメデ》をエクストラデッキから特殊召喚。』

杯を持った彫刻の天使は、ノーンのフィールドに舞い戻る。

『さらに、《月世界の釣鐘》は相手が召喚・特殊召喚したモンスターを全て破壊する。』

遊牙のフィールド、そしてノーンのフィールドに存在する闇の騎士は、彫刻の天使が放った光を受け消滅した。

『そして余は《月狂傀儡―ガニメデ》の効果により、カードをドローする。』

「くっ・・・！俺は手札の《コープスナイト・エレン（☆３／闇／アンデット／１２００・０）》を守備表示で特殊召喚！」

遊牙のフィールドに幼い姿の女騎士が膝を付いた。

「このカードは自分の「コープスナイト」が破壊されたターン、手札から特殊召喚できる！そして墓地の《コープスナイト・フラーケン》の効果発動！このカードは自分フィールドの「コープスナイト」１体の攻撃力を０にすることで、デュエル中１度だけ墓地から特殊召喚できる！《コープスナイト・エレン》の攻撃力を０にし、蘇れ、《コープスナイト・フラーケン》！」

屈強な腕を振るい、闇の騎士は墓地から復活した。

「さらに《コープスナイト・アイン》の効果発動！墓地に存在するこのカードを除外する事で、自分フィールドの「コープスナイト」１体のレベルを１つ変更できる！俺はこの効果で《コープスナイト・フラーケン》のレベルを５から４に変更する！」

遊牙は手をかざし叫んだ。

「俺はレベル３の《コープスナイト・エレン》にレベル４となった《コープスナイト・フラーケン》をチューニング！！」

４つの光の輪となった『フラーケン』に『エレン』の体が包まれて行く。


「闇の甲冑よ！鋼の闘志をその身に宿し、敵を切り裂く騎士となれ！シンクロ召喚！現れろ！《コープスナイト・デッドジャック（☆７／闇／アンデット／シンクロ／２５００・２０００）》！！」

光を断ち切るように剣を振り下ろし、誇り高き騎士はフィールドに降り立った。


「バトルだ！《コープスナイト・デッドジャック》で《月狂傀儡―ガニメデ》を攻撃！！」

騎士は剣を構え、高速で駆け出す。だがその瞬間、ノーンが口を開いた。

『余は《月狂傀儡―カリスト》のペンデュラム効果を発動。１ターンに１度、自分の「月狂」モンスターが攻撃対象となった場合、その攻撃を無効にする。』

浮かぶ彫刻の天使が光り、騎士の動きを止める。

「くっ・・・！俺は、ターンエンド・・・！！」

遊牙は苦い顔をする。額には汗を伝え、ノーンを睨んだ。


『余のターン。』

ノーンはカードを引く。そのカードを確認したノーンは、一瞬だけ表情を変えた。

『お前も奴を見定めようと言うのだな・・・。余は《月狂傀儡―イオ》のペンデュラム効果を発動。１ターンに１度、自分の「月狂」モンスター１体を選択し、そのモンスターのレベルを倍にする。余は《月狂傀儡―ガニメデ》のレベルを倍にし、レベル５からレベル１０へ変更する。』

対になる彫刻の天使のうち、１つが光を放ち、杯を持つ天使に星を与えた。

「レベルを倍に・・・。何を考えている・・・！」

遊牙の手に力が入る。ノーンは手札のカードを掲げ高らかに言い放つ。


『そして、余はレベル１０となった《月狂傀儡―ガニメデ》を除外。月影に眠りし狂乱の龍よ！破戒の女神の加護を受け、久遠の鎖を解き放て！これが余に与えられし覚醒の証！！』


天より無数の鎖が降り、杯を持つ天使の周りを囲む。天使の姿は光と共に消え、その鎖の中に月面から巨大な石盤が現れた。


『降誕せよ！！《月狂眼の覚醒龍（☆８／闇／ドラゴン／ペンデュラム／３０００・２５００）》！！』


石盤を砕き、黒き翼が広がる。鎖は四方に散り、その龍は段々と姿を現した。


「なんだ、このドラゴンは・・・！！」



次回第１９話「覚醒の証・月狂眼の覚醒龍」