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HOME > 遊戯王SS一覧 > プロローグ:虹彩の皇子

プロローグ:虹彩の皇子 作:光芒







 普段は青く美しいはずの空は炎と煙で暗黒に染まっていた。翼と爪によって引き裂かれ、紅蓮の炎で焼き払われた多くの命が転がる大地。そこに立つのは1体のドラゴン。全身が剣のように鋭く尖った紅の鎧を纏ったそのドラゴンは世にも珍しい二色の眼で失われた命の残骸を何も言わず見つめていた。

「素晴らしい……素晴らしいぞ! “異世界の竜”よ! 天界の軍団をたった1体で殲滅するとは……!」

 そんなドラゴンの横に立つのは全身をローブで覆った一人の男。鼻と耳は尖り、目はまるで出目金のように飛び出た異様な外見の男は黒焦げの亡骸を踏みつけては一人歓喜に浸る。

「これで私の願いが叶う……天界も魔界も、貴様の力があれば私のものに……さあ、異世界の竜よ! 次は人間の世界に赴け。人々の絶望と苦しみを糧に集まる悪魔を、生き残った悪魔を滅ぼすのだ!!」





















「デュエルモンスターズ」――――I2(インダストリアル・イリュージョン)社の創始者であるペガサス・J・クロフォードに生み出されたカードゲームは、力と豊かさの象徴である。
 発売当初は一ゲームに過ぎなかったデュエルモンスターズであるが、今や人々の生活に浸透し、一大産業としての地位を獲得。学校の教育や政治的な場面にも組み込まれている。
 デュエルモンスターズで戦う者―――「デュエリスト」はアスリートや芸能人の類の職業として認められ、破格の賞金や名誉の為に人々は熱き戦いを繰り広げる。そんなカードゲームに性別・年齢・国籍を問わず、誰もが夢中になっていた。

「これで終わりだ!!」
「きゃああっ!!」

 しかし、世界的な文化となったデュエルモンスターズにも負の一面は確かに存在する。プロデュエリストのようにデュエルで生計を立てるものは誰もがルールを守った正しいデュエルを行っており、そんなプロに憧れる大多数のデュエリストは真っ当なデュエルを行っている。
 だが、全てのデュエリストが全て正しいものであるとは限らない。一部のならず者たちはデュエルモンスターズを強盗や暴行といった犯罪行為のために利用している。もちろん警察などが法を犯したデュエリストを取り締まっているが、減るどころか増える一方のデュエル犯罪は留まるところを知らない。

「俺の勝ちだな。さて、約束を守って貰おうか」
「や、約束……?」

 現にこの街の路地裏でもならず者たちによる犯罪行為が行われようとしていた。このならず者たちは男子中学生を連れ込んでは金銭を巻き上げようとしたのだが、咄嗟のところで割り込んだ正義感の強い女子高生とデュエルをすることになった。女子高生が勝てば、自分たちの罪を認めて警察に行くという約束の下に。
 しかし、このデュエルはならず者のリーダー格の男が女子高生を下す形で終わった。そして男たちはデュエルの前に交わさなかった約束を女子高生に求めてきた。

「俺たちが勝ったらなんでもしてくれるって約束……したよなぁ?」
「そ、そんな約束してません!!」
「うるせえ! デュエルってもんはなぁ……勝者が絶対なんだよ! おい、やれ」

 そう言って男の取り巻きたちが女子高生を取り押さえると、制服に手をかける。女子高生は泣き叫びながら助けを呼ぼうとするが、人気の少ない路地裏だ。そう簡単に助けが来てくれるわけがない。最もそれを見越した上でこの路地裏でのデュエルに至ったのだが。

「へへっ、意外といい身体してるじゃねえか……今度は身体でデュエルと行こうぜぇ……」
「嫌……やめ……やめて……」

 抵抗を試みた女子高生は顔を男に平手打ちされたことですっかり動けなくなってしまっていた。下衆な笑みを浮かべながら、目と頬を真っ赤に腫らした半裸の女子高生に襲い掛かろうとする男。だが、男たちは何処からともなく感じる異様な威圧感に気が付いた。まるで自分たちが蛇に睨まれた蛙のように思えた男たちはその威圧感の出元を探そうとする。





―――そこで……何をしているんですか?―――





 一度確認し、誰もいなかったはずの後方には一人の少年が立っていた。まるで燃え盛る炎のように真っ赤な髪にルビーような右目とエメラルドのような左目、間近で見ても女性のように美しい顔立ちの美少年だった。

「なんだてめえ、どっから現れた!!」
「どこからでもいいでしょう? ただあなたたちがこれからしようとしていることには嫌悪感を感じ得ません。今なら厳重注意だけで済ませてあげます。彼女を解放し、ここから立ち去ってください」
「見慣れない学校の制服だな……お前が何者かは知らないが、ここを去った方がいいのはお前だぜ? 言っておくが、俺はこの辺で一番デュエルが強いんだ!」
「……そうですか。だから?」

 そう言って少年の口元が緩む。まるで汚物を見るような顔をした少年の表情は男たちの逆鱗に触れる。

「てめえ……いいぜ。だったらデュエルで痛い目に遭わせてやるぜ!!」

 男はデュエルディスクを展開する。自分のデュエルの腕には疑いはない。どんな相手であろうと自分に勝てるものなどそうはいない。男には絶対の自信があった。だが、その自信は数分で粉々に打ち砕かれた。

「なんだ……このモンスターは……!? こんなモンスター見たことねえぞ!」

 男たちの前に現れたのはルビーのように紅く輝く水晶の鎧を身に纏った1体のドラゴンであった。翠の左目と紅の右目が対峙する男を捉えるが、その眼光はソリッドビジョンのそれではなく、まるで本当に生きているかのような生気が感じられた。

「このモンスターは言わば俺自身。俺の怒りがモンスターとなってあなたたちを撃ち滅ぼす。バトルです、モンスターであなたの《ダーク・ホルス・ドラゴン》を攻撃します」

??? ATK3000 VS ダーク・ホルス・ドラゴン ATK3000

「攻撃力は同じ……相討ち狙いか? だが、やらせねえ! 罠カード発動!《聖なるバリア-ミラーフォース》! 相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」
「やはり攻撃反応罠……無駄ですよ。ミラーフォースの発動にチェーンしてモンスターの効果を発動します。魔法・罠・効果モンスターの効果の発動を無効にし、相手フィールドのカードを全て破壊します」
「なっ……!?」

チェーン2(少年):???
チェーン1(男):聖なるバリア-ミラーフォース

 真紅の竜から放たれた強烈なオーラが、男のフィールドの全てのカードを悉く破壊する。万全と思われた男のフィールドは瞬く間に一枚のカードも存在しない更地へと変えられてしまった。

「そしてこの効果を発動したターン、このモンスターの攻撃力・守備力は倍になります」

??? ATK3000/DEF3000→ATK6000/DEF6000

「攻撃力6000だと!?」

??? ATK6000

男 LP8000→LP2000

「ぐあああっ!!」
「これで終わりです。《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》でダイレクトアタック。“螺旋のストライクバースト”」

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK2500

男 LP2000→LP0







「バカな……俺が後攻ワンキルを食らうなんて……」
「このデュエルは俺の勝ちですね。ではその子を解放してあげてください」
「……いいぜ、わかったよ。だがなぁ……お前はそのまま帰させねえぞ!!」

 デュエルに敗れた男の取り巻きたちが一斉に少年に襲い掛かった。しかし、少年は全く動じることなく男の一人の鉄パイプ攻撃を受ける。だが、少年は全く痛がる素振りを見せず、流血すらも起こらない。それどころか少年を殴った鉄パイプの方が大きく湾曲している始末であった。

「なっ……!?」
「この程度の鉄パイプで俺を何とかできると本気で思っているの? デュエリストならデュエルで決着をつけるものだけど……」
「お、お前なんなんだ! 一体何がどうなって……」
「そういえば自己紹介がまだだったね。俺は―――人間じゃないんだ」

 自分は人間ではない―――そんな正気を疑うかのような言葉を発した直後である。少年の身体は真紅の炎に包まれ、やがて1体のドラゴンへと変化していた。そのドラゴンは今のデュエルで男のミラーフォースの発動を無効にし、男のモンスターを全て破壊し尽くしたモンスターと全く同じモンスターであった。

「に、人間がモンスターに変わった……!?」
「そんなんハッタリだ! ソリッドビジョンに決まってる!!」

 そう言って男の一人がドラゴンに向かって転がっていた空き缶を投げつける。ソリッドビジョンであれば空き缶はドラゴンに当たらず反対側に通り抜けるはずであった。しかし、投げつけたその空き缶はドラゴンに当たって跳ね返る。物が当たるということは、自分たちの目の前にいるドラゴンが現実のものであることを意味していた。

―――今、何かした? 蚊に刺されたほどの衝撃も感じなかったけど。

 そしてそのドラゴンからは、さっきまでそこに立っていた少年と同じ声変りを迎える前の少年もしくは少年役を演じているような女性声優が出すような中性的な美しい声が聞こえた。男たちは改めて今自分の前にいるそれが、少年=ドラゴンということを確信する。

「ば、化物だああああ!!」
「逃げろ!! 殺されるぅぅぅ!!」

 現実ではまずあり得ないであろうことに直面した男たちは半狂乱になっては、泣きわめきながらその場から逃げ出していった。少年からしてみれば、別に取って食おうなどとも思っていなかったのだが。男たちがその場からいなくなったタイミングを見計らって、ドラゴンはすぐに元の少年の姿に戻る。彼は制服についた埃を手で叩いて落とすと、隅で蹲っている女子高生の下へと歩み寄った。

「……大丈夫?」
「……」

 手を差し伸べた少年の言葉に女子高生は全く反応しなかった。ボタンが乱雑に引き千切られたワイシャツの隙間からは女子高生の白い肌と胸の谷間が露出している。少年が止めに入るのが僅かでも遅くなっていれば、彼女はこの程度では済まなかっただろう。
 だが、未遂に終わったとはいえ、このような目に遭ってしまったことは女子高生の心に傷として遺る。殴られた傷の痛みは時間と共に癒えるかもしれないが、心の傷は生涯消えることがないのだ。

「酷い目に遭わせてしまったね……だから、せめてもの償いをさせてください」

 そう言うと、少年の身体を紫色のオーラが覆い始める。そして彼の右手からはキラキラと輝く光の粒のようなものが女子高生に降り注いだ。



―――我が内に眠りし紫毒の竜よ。その毒を以てこの者の傷を癒せ―――



 紫色の粒を浴びた女子高生の身体からは傷が瞬く間に消えていく。そして男たちによって破られた制服も新品同様の綺麗なものになっていた。

「えっ?」

 毒を以て毒を制す。彼の使った魔法のような力は殴られた傷や破られた制服を戻すだけではなく、彼女の心をも癒していった。正気を取り戻した女子高生が顔を上げると、目の前には見るも美しい美少年の姿。彼の持つ翠と紅の瞳を見た女子高生は思わずその胸が高鳴るのを感じた。

「身体と衣服、心の傷はある程度癒えたと思います。最も今の記憶までは消すことはできませんが……」
「あ、あの……あなたは?」
「……名乗るほどのものではありません。それでは」

 そう言って名も名乗らずにその場を去っていく少年。日向に出て太陽の光を浴びた彼の真紅の髪が煌めいていた。女子高生はそんな彼を姿が見えなくなるまで追っていた。

「お……王子様……」

 その日以降、街では一種の都市伝説が広まった。法を犯す者、道を外した者に何処からともなく現れては裁きを下す一人の少年の存在を。そして人々はその外見からその少年のことをこう呼んだ。





―――『虹彩の皇子』と。













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ヒラーズ
ここも遂に始まった!
今年は見逃せないものが多くなりそうです。 (2019-01-03 07:36)
ター坊
始まったのか、新たな戦いが!早くも!
正体は明らかに彼ですが早速不良を蹴散らしましたね。
よく考えたら普通に悪魔と渡り合えそうで怖い。
(2019-01-03 07:42)
光芒
ヒラーズさん
こちらも始まりました。あまり大それたことは言えませんが、皆様に楽しんで頂けるような作品を作り上げたいと思います。

ター坊さん
始まりました、新たな戦いが。早くも。

>正体は明らかに彼ですが早速不良を蹴散らしましたね。
まあ今の彼なら不良なんて恐れるに足らずなわけで……

>よく考えたら普通に悪魔と渡り合えそうで怖い。
この作品では悪魔や天使よりも格上という設定になっています。それでいいかどうかはわかりませんが(殴
(2019-01-04 09:58)

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