コラボ企画 最終話『またいつか』　作：名無しのゴーレム

凉花たちと合流し、やっと一安心出来るかと思ったそのとき、『そいつ』は現れた。


「……何をしに来た。」
『我らの使命は歪んだ世界を修正すること……だが。』
「……だが？」
『我らは貴様らに敗れた。なればこそ、我は我らとして問わねばなるまい。……貴様らは、自身の世界をどうするつもりだ？』
「……決まってる。マスターDを倒してその目論見を阻止する、そのために俺たちは戦っているんだ。」
『そうか。……貴様はどうなんだ？ 神の力を持つ者よ。』


俺は……


「……俺は、なくなってしまった平和な世界を取り戻す。」
『……それが答えか。先に言っておこう。貴様たちの世界は着実に滅びへの道を進みつつある。それも、いくつもの世界を巻き込むような規模でのものだ。故に我らはここへ来た。貴様らをまとめて葬り、世界の修正の手始めにしようと……そう、思っていた。』


……しかし、俺たちがそれを打ち負かしてしまった、と。


「……それで？ 結局お前は俺たちをどうしたいんだよ。」


焦ったそうにしながら恭治が尋ねる。


『……どうもしない。』
「……はあ？」
『言った通りの意味だ。我らは貴様らの世界には干渉しない。……だが、これはあくまで現在の決定だ。状況が変われば決定も揺らぐ……意味が分かるな？』
「……チャンスはくれてやる、だが失敗したら今度こそは……ってことか？」
『その認識で構わない。……我らは人間に期待することはない。何故なら、人など世界にとって膿でしかない、それが我らの共通認識だからだ。』


……理解出来ない、と言えば嘘になる。いつだって世界を危険にさらすのは俺たちだ。そういう視点で見ればこいつの意見もそう間違ったものではないのだろう。


「……それでも。」
『？』
「俺たちは絶対に、未来への希望を捨てない。」
『それは、人の愚かさを知った上での発言か。』
「ああ。……人は愚かなのかもしれない。でもな、それを正すことが出来るのも人なんだ。だから俺は信じたい。俺たちなら、それが出来るって……」
「……強志の言う通りだな。俺たちは諦めない。最後まで戦って、そして……俺たちの望む未来を掴み取ってみせる。」
『……そう、か。』


俺とユイの答えを聞き、『そいつ』は重々しく頷いた。もっとも、ただ真っ暗なその顔からは何の表情も読み取ることは出来ないが。


『……貴様たちは先ほどの戦いで力を示し、今の答えで意思を示した。それを信じるということではないが、我は我らの決定に従いこの場を立ち去るとしよう。』


『そいつ』の姿がだんだんと薄れていく。これで、今度こそ……


『……最後に、一つだけ言わせてもらおうか。』
「……何だ？」


まさに消えていくその中で、『そいつ』は確かにこちらを見据え言い放った。


『……貴様。』
「……え、俺か？」
『そうだ。』


……恭治に、何か用でもあるのか？


『貴様はもう少し考えて動いた方がいい。……何度世界に降り立ったかは覚えていないが、轢かれたのは初めてだ。』
「ん？ ……あ、もしかしてあの黒いのがお前だったのか！？」
『……そういうことだ。力尽くで止めるのも考えたが、それも馬鹿らしくなってしまった。』
「アハハ、悪りぃ悪りぃ。霧か何かだと思ってさ。」
『……もういい。二度と会わないことを祈っている。……特に貴様とはな。』


その言葉を最後に、『そいつ』はようやく消え去った。



「終わった……のか？」
「さっきの奴の話を信じるなら、そうなんだろうが……」
「……強志たちは、これからどうするんだ？」


これから、か……出来るのならば、早くエクシーズ次元に向かいたいが……


「凉花、どうだ？ 今なら転移は出来そうか？」
「どうでしょう……私たちを襲った『あれ』がいなくなった今なら成功するはずですが……」
「いや、この世界に来た皆が元の世界に帰る手段をことごとく失っていた。もしかしたら強志たちも……」
「でも、他の皆と違ってさっきのに襲われてこの世界に来たんでしょ？ なら大丈夫かも……」


……結局のところ、誰にも分からないということか。


「何悩んでんだよ。あんまり時間も無いんだろ？ なら急ぐべきじゃねえのか？」
「恭治。ですが、もしものことがあっては……」
「そんなこと言ってる場合かよ。……それに、ずっとここにいて解決する話か？ その間に全部終わってたら笑い話にもならねえだろ。」


……恭治の言う通りか。


「……さっき言ったばかりだしな。俺たちは希望を捨てない、って。……凉花、行けるか？」
「え？ ……転移はいつでも出来ます。でも……」
「悩んだって始まらないだろ？ 俺たちの世界を守るためにも、ここは賭けに出るべきじゃないか？」
「……分かりました。」






「……準備が出来ました。」


もう次元転移にも慣れたのか、凉花はわずか数分で準備を整えてしまった。


「よし、それじゃあ転移を始めよう。……ユイ、助けてくれて本当にありがとう。」
「気にしないでくれ。放っておいてもいつかはあいつらが来ていたんだから、むしろこっちが助けられたくらいだよ。」
「凉花、気を付けてね。」
「……ありがとうございます。美羽も、頑張ってくださいね。」
「……うん！」
「……なんか、俺だけ仲間外れにされてる気がするんだよな〜。まあ、仕方ないっちゃ仕方ないんだろうが。」
「あ、えっと……先ほどはありがとうございました。」
「ん？ ……ああ、気にしなくていいぞ。さっきのは街を走り回ってたらたまたま見かけただけだからな。それに……俺のしたいようにしただけだ。だから感謝される理由はないさ。」
「……それでも、ありがとうございました。」
「……やりづれぇな。シティにはこんなタイプのやつはいなかったからなぁ……」
「恭治、ボサッとしてないで早くこっちに来い！」
「おう！ ……じゃあな！」
「……はい！」




……こうやって次元を越えるのも3度目か。……今思えば、今回といいシンクロ次元の時といい、事故しか起きてないような気もするが。



「……なあ、強志。」
「？ ユイ、どうかしたか？」
「いや、ふと思ったんだけどさ。前の時は途中で打ち切りになって、今回は一緒に戦って……俺たち、まだきちんとデュエル出来てなかったなって。」
「……確かにな。なら、またいつかやろうぜ。お互いに抱えていること全部解決した後にでも、何にも邪魔されない、最高のデュエルを。」
「そうだな。……また、いつか。」
「ああ！」




「……お願い、銀河眼の光子竜皇、銀河眼の時空竜！」


凉花の呼びかけに応えるように、俺たちを光の球が包んでいく。しかし、今度のそれは……


「……凉花？ お前、そのカードは……」
「大丈夫ですよ。……私は、もう間違えませんから。」
「……そうか。なら心配はいらないな。」



光球はだんだんと上昇し、瞬く間にユイたちが見えなくなった。



「なんかさ、こうやって傍から見ると……お前らってただのカップルだよな。」
「「…………！？」」
「ハ、ハァ！？」
「い、いきなり何を言い出すんですか！？」
「いくらなんでも動揺しすぎだろ……図星だったか？」
「「そんな訳ないだろ（です）！！」」








「……上手く行った、のか？」
「……ここからじゃ分からないね。」
「そうだな……まあ、きっと大丈夫だろ。美羽、俺たちも皆のところに帰ろうか。」
「……うん！」