side恭治：思い出クッキング　作：名無しのゴーレム

「……お、見えてきたな。」


ここまで長かったな……2人を送る最中に奴らに襲われて一時はどうなるかと思ったが、何とか無事に帰ってこれた。


「……にしても、あれは何だったんだ？」


あの時、確かに後ろに他のアカデミアのデュエリストがいたはずなのに、結局そいつらは俺たちのところに来ることはなかった。誰かが足止めしてくれたのか……？


「……よし、到着。あいつら、もう寝てるのかねぇ？」




「……ん。ああ、恭治か。おかえり。」


俺を出迎えたのは強志1人だった。……凉花は寝ちまったか。


「おう、ただいま。何もなかったか？」
「大丈夫だったよ。そっちは？」
「1回襲撃にあったが、何とか無事だった。2人もきちんと送り届けて来たぜ。」
「ありがとう。……なあ、交代で仮眠を取らないか？ さすがに徹夜はキツいだろ？」
「そうだな。じゃあ強志が先に寝といてくれ。」
「……いいのか？ 恭治だって疲れてるだろうに。」
「生憎、一徹二徹は経験済みだ。それに、やりたいこともあるしな。」
「やりたいこと？」
「秘密だよ。あとの楽しみにしてな。」
「……変なことはするなよ？」


……おいおい、どんだけ信用されてないんだよ。




「……よいしょっ、と。」


強志が寝息を立て始めたのを見て、俺はD・ホイールに積んであった『それ』を取り出した。


「……よかった、動くみたいだ。」


ガスをセットして操作すると、『それ』……カセットコンロに火がついた。


「ええと、材料は……お、これはいいな。」


食糧が蓄えられていた場所からいくらか持ち出し、これまたどこかから拝借した器具を用いて調理していく。


（……こんな風に料理するのはいつ以来だったか。特に、『これ』はだいぶん久しぶりになるな……）






ーーそう、『これ』は俺が初めて作った料理だった。あれは何年前の話か……



『……恭治！ あんた、また近所で悪さしたね！』
『か、母ちゃん！ ……な、何のことだよ。』
『誤魔化したって無駄だよ！ さあ、さっさと白状しなさい！』
『うう……でも、あれは先に向こうが手を出してきたんだ！ だから……』
『だからじゃない！ ……いいかい、どんなことがあってもやり返したら相手と同類になっちまうんだ。だからやられても報復するじゃなくて、きちんと話し合って分かり合うんだ。いいね？』
『えー……』
『返事は？』
『わ、分かったよ！』




ーーハッ、今思えばお袋との約束は破ってばかりだな。我ながら親不孝なもんだ。あの時はまだ俺もガキで、お袋もピンピンしてたよな。でも、その少し後くらいからーー







『……母ちゃん、大丈夫か？』
『ああ、心配要らないよ。風音はどうしてる？』
『外で遊んでるよ。……店は休むんだよな？』
『そう、するしかないね……あ、もうこんな時間かい。昼ご飯を作らないと……うっ。』
『まったく、動ける体じゃないだろ。……昼飯、俺が作るよ』
『……え？ 恭治、あんた何を作る気だい？』
『そりゃあ、えっと……』






『……どうしよう。』
『ただいま〜！ あ、お兄ちゃん。何してるの？』
『げ、風音！ ……こっちを見るな！』
『え？ ……うわぁ、何これ！？ お兄ちゃんが作ったの？』
『……そうだよ。』
『これ、食べれるの？』
『…………』
『おや、風音。お帰りなさい。』
『お母さん、ただいま！』
『母ちゃん！？ 身体は大丈夫なのか？』
『あんたに心配されなくても、この通りピンピンして……ううっ。』
『お母さん！？』
『やっぱり駄目なんじゃないか！？ ほら、早くベッドに……』
『それは？ あんたが作ったのかい？』
『うう……母ちゃんの真似してみたけど、全然上手くいかなかったんだ。ごめん、食べ物をこんなにしちゃって……』
『……まずは一口、と。』
『……なっ！？ 何やってんだよ母ちゃん！ そんなの食べたら……』
『うん、美味い。さすがは私の息子だよ。』
『へ？ ……そんなわけないだろ。おれだって味見したけど、とても食えたもんじゃあ……』
『何言ってんだい。……あんたが私のことを思って作ってくれた物がマズイわけないだろう？』
『母ちゃん……』




ーーあの時の俺でも、その言葉がどういう意味なのかは察することは出来た。だから俺は毎日料理の練習をするようになったんだ。いつか、お袋に本当の意味で美味いと言わせてやろう、そう思って……だが、それが叶うことはなかったんだ。しばらくして、お袋が倒れて入院することになった、そのせいで……





『ねぇ、お兄ちゃん。これからどうなるの……？』
『……分かんねぇよ。何とかするしかないだろ。母ちゃんの治療費を稼ぐためにもこの食堂を開ける。……俺たちだけでな。』
『で、でも……』
『でもじゃない。……大丈夫だ、俺だってだいぶん料理の腕も上がってきたし、風音は母ちゃんからずっと教わってきただろ？』
『……分かった。一緒に頑張ろうね、お兄ちゃん。』
『ああ。』





ーー実のところ、食堂を続けたところでお袋の治療費を賄いきれないことは分かりきった話だった。それを解決するために、俺は……





『……お兄ちゃん！？ それ、本気で言ってるの！？』
『こんなこと、冗談で言う訳ないだろ。……俺はプロデュエリストになる。そのための手段も見つけてある。しばらく家には帰れそうにないが……大丈夫、風音なら上手くやれるさ。』
『ま、待ってよ！ 私1人でこの店を開けるなんて……それに、プロになるのがどれだけ難しいか分かってる？ しかも、それをコモンズからなんて……』
『前例がない訳じゃない。……分かってくれ。お袋の病気を治すには、こうでもしないと無理なんだよ……』
『……絶対よ？ 絶対、プロになってね？』
『……ああ、俺を信じろ。』







「……なんつって、今はこんなところに居るんだよな。」



我ながらどうしてこうなったか今いち分からないが、目標へ近づいているようには思えない。こんなんじゃあ、風音に顔向け出来ないな……



（……シティに帰ったら、1度風音に謝るか。あいつには辛い思いさせちまったしな。あとは、お袋のお見舞いにも行かないと……）



「……ん？ おい、米が無いのかよ。まいったなぁ……仕方ねぇ、このパンで済ませるか。」



となると少し味が変わっちまうが、まあ大丈夫だろう。いよいよ仕上げを……




「……恭治？ 何やってんだよ。」
「ん、強志か。随分早いんだな。」
「早いって……3時間は経ってるぞ。まさかお前、ずっとそれを作ってたのか？」



3時間、か。ハッ、『これ』の調理に没頭して時間を忘れてたって訳だ。……よし、これだけやれば十分だな。



「……さて、じゃあ俺も一眠りしようかな。凉花が起きたら一緒に『それ』を食っときな。力が出るぜ。」
「恭治……ありがとう。」
「気にすんな、俺が久しぶりに食べたくなっただけだからな。……ちゃんと俺の分も残しとけよ！」
「分かってるよ。……じゃあ、おやすみ。」
「……おう。」





「あ、強志。」
「どうかしたか？」
「……恭治特製のカレー、きちんと味わいやがれよ？」