25話　突然の襲撃者　作：名無しのゴーレム

――――夢を見た。
それは在りし日への懐古。もしくは決して取り返しのつかない過去への後悔。



「それにしてもさ、姉さんって本当に何でもできるよな。」
「そうでもないだろ。機械いじりはできないし、掃除は強志に任せっぱなし。我ながらだらしないとは思うんだけどなあ…」
「まあ、確かにそこは何とかしてほしいけど…。でもさ、逆にそれ以外のことは完璧じゃん。デュエルだって滅茶苦茶強いし。どうしたら姉さんみたいになれるんだよ。」
「んー、そこはやっぱ才能かな。」
「…頼むからそんなへこむこと言わないでくれよ。それ、割と真剣に傷つくんだぞ…」
「ハハハ、悪い悪い。でもな、別に私は一人で何でもできるってわけじゃないんだぜ。お前がいるから私もここまでできるんだよ。」
「…？　人はいつも誰かに支えてもらって生きてるんだ、とかいう話か？」
「いや、ちょっと違うかな…。まあ、いつか強志も分かるようになるさ。…おっと、もうこんな時間か。じゃあ行って来る！」
「ああ、いってらっしゃい！」



「……夢か。」
目覚めると、俺は机の上で突っ伏していたことに気付いた。
「デッキは…」
周りを見渡すと、すぐ横に1つのデッキがあった。どうやら意識が途切れる前に完成したらしい。窓から朝の陽ざしが差し込んでいる。…さあ、今日も1日頑張るか。


「強志君、ちょっとケーキを買ってきてくれないか？」
「え？」
突然の仙波さんからの頼みに、思わず驚きの声を出してしまった。
「えーと、何か祝い事でもありましたっけ？　誰かの誕生日とか？」
「いや、そうじゃないんだけどね。遊勝塾に昨日の試合のお礼に行こうと思って、それに持っていくつもりなんだよ。」
「分かりました。任せてください。」
「ああ、頼んだよ。」
こうして、思いがけずに用事が出来てしまった。…できれば少し昼寝でもしようかと思っていたんだが。


「うーん、どれがいいのか…」
町の大きなスーパーで、俺はケーキ選びに苦戦していた。というのも、これまであまりケーキに縁がなかった俺にこの仕事はなかなかに無茶な話であった。
（ん～、やっぱり色々な種類を買っていけばいいか。　…あれは？）
ふと見てみると、目前に遊矢君がいた。ちょうどいい、彼に聞いてみよう。
「おーい、遊矢君！」
「え？　ああ、京子のところの塾の…」
「矢次　強志だよ。ちょうどよかった。今、遊勝塾に渡すケーキを選んでたんだ。どれがいいとか教えてくれないか？」
「はい。ええと…」
遊矢君に遊勝塾の皆の好みを教えてもらい、それを参考にしてケーキを選んでいく。どうやら遊矢君もケーキを買いに来たらしく、2人でどれが美味しそうかなどと話し合ったりした。


俺たちはケーキを選び終わり、スーパーを後にしていた。
「昨日のデュエル、凄かったね。生でペンデュラム召喚を見られてよかったよ。」
「いやー、でも美愛も凄かったですよ。まさかエクシーズとシンクロを同時に使うなんて。」
「あいつはうちの塾でもかなり強い方だからね。美愛のやつ、帰ってからも君とのデュエルが忘れられないようで、次は勝つって意気込んでたよ。」

俺たちがそんな会話をしながら歩いていると、やけに周りが騒々しいことに気付いた。
「？　…危ない！」
「え？　うわぁ！！」
咄嗟に遊矢君をこちらに引っ張った。その直後、遊矢君がいたところを1台のバイクが通り過ぎた。

「おい、お前、危ないだろ！」
バイクに向かって叫ぶと、相手はバイクをターンさせ、再びこちらへ走ってきた。
「ごらぁぁぁ！！やっと見つけたぞ！！」
バイクの乗り手、男がこちらに向けて叫んできた。何なんだあいつは？
「なあ、あいつは君の知り合いか？」
とりあえず遊矢君に尋ねておく。しかし、遊矢君はブンブンと首を横に振った。男はバイクを止めて、こちらに歩いてきた。
「…お前、一体何のつもりだ！」
どんな事情があるのかは知らないが、あちらは完全にこちらを轢くつもりで走ってきた。絶対に許すべきことではない。
「お前に用はない。用があるのは…そこのやつだ！」
男は真っ直ぐに遊矢君を指差した。
「お、俺？」
「とぼけるな！　てめえ、俺の妹を泣かせやがって…」
「はあ！？」
「デュエルだ！　俺が勝ったら、引きずってでもお前をあいつのところまで連れてって謝らせてやる！」
「いや、だから何のことだよ！　それにいきなりデュエルしろって…」
「どうした、怖気づいたか！　いつからそんな臆病者になった！」
「っ！　分かったよ。デュエルしてやる。」
「おい、遊矢君…あんな挑発に乗るなんて…」
それに、相手は多分人違い、もしくは逆恨みしている。どちらにしてもデュエルしてやる必要はない。
「分かってます。それでも、売られたデュエルを買わないわけにはいかないんです。」
そう言った遊矢君の目は、強い決意を示していた。
「…必ず勝つんだよ。負けたらどうなるか、分かったもんじゃないからね。」
「…はい。」
両者がデュエルディスクを構える。…勝てよ、遊矢君。



「「デュエル！」」