side凉花：地獄への帰還　作：名無しのゴーレム

『な、なんだよお前たちは！？』
『いや、助けてぇ！！』



ーー聞こえる。今でも忘れない、忘れられるはずがないその声が。……なぜなら、私はその時、その声に耳を塞いで身を隠していたのだから。



『ッ……ごめんなさい、ごめんなさい……』



……私には力がなかった。襲い来る敵を倒して、彼らを守るだけの力が……




『……お嬢様！ こちらにいらしたのですね！』
『……！！ あなたは！』


その地獄の中で私を見つけたのは、日頃私の世話をしてくれていたメイド長であった。


『見つかって良かった……お嬢様、早くここから……』


『……生き残りだ！ 追え！』


『！！ お嬢様、逃げましょう！』
『は、はい！！』


ーーこのままでは逃げきれない、それは内心で私たちが思い知っていたことであった。


『……くっ、このままでは……』


ーーその時、アカデミアのデュエリストを阻むようにして数人の男たちが現れた。


『ここは俺たちが食い止める！ お前たちはあっちに逃げろ！』
『……ありがとうございます！ お嬢様、行きましょう！』



ーー彼らのおかげで、私たちは無事に生き残りの集う難民キャンプに辿り着くことが出来たのであった。そして、その数時間後……



『……おお！ あいつらが帰って来たぞ！』


話を聞くと、あの時私たちを助けてくれた方たちが戻ってきたということであった。その時のお礼をしようと、私は彼らのところへと向かったが……


『どうだったんだ！ 今度こそ、あいつらを……』
『…………』
『……すまない。俺たちは、結局奴らに太刀打ち出来なかった……ッ！！』


彼らをよく見てみると、明らかに人数が減っていた。……つまりは、そういうことであったのだろう。


『……そ、そんな……』
『お嬢様……』


その時の絶望を、私はやはり忘れられない。迫り来る敵に、当時の私たちは無力であった。


『……お嬢様。こちらに来てくださいませんか？』
『……？』


メイド長に連れられるまま、私は一つのテントの中に入った。


『……これを。』
『え……！？ それは、ナンバーズ！？』


ーーそれは、普段お父様が肌身離さず持っていたものであった。私たちの一族が代々受け継ぎ封印を守ってきた、1枚1枚が強大な力を帯びたカードたち。


『……実は、お館様から預かってきたのです。お嬢様への伝言と共に……』
『伝言……？』
『はい。……これを使って、この世界を救う希望になれ。それが、お館様が最期に残したお言葉でした。』
『世界を救う、希望……』


……希望。それは奇しくも私が『彼女』に付けた名前の由来と同じものであった。私を守って行方が分からなくなってしまった、彼女と……


『……今からお嬢様には、この力を扱うための訓練をしていただきます。』
『……出来るんですか？ お父様のように、私もナンバーズを使いこなすことが……』
『そうなるまで訓練を続けてもらいます。……時間はありません。ここも、ずっと安全という訳ではありませんから。』
『……分かりました。』


ーー以前から、ナンバーズを受け継ぐ時のための精神の修養は積んでいた。しかし、実際にその力を扱いこなせるようになるまでには、さらに気が遠くなるような数の苦難を潜り抜けることが必要であった。……訓練が終了した頃には、アカデミアに対抗するレジスタンスが本格的に結成され、少しずつではあったが圧倒的な力の差も埋まりつつあった。





『……これで、奴らに対抗出来るのか。』


その頃には、アカデミアのデュエリストから手に入れたデュエルディスクを解析し、彼らと同様に倒した相手をカード化する機能を搭載したデュエルディスクが完成していた。


『……一体、これまでに何人が犠牲になったんだろうな。』
『……分からない。けれど、いつまでも奴らの好きにはさせない。』
『あ、あの！』


レジスタンスの一員であった2人の男に、私は思い切って話しかけてみた。


『……お前は？』
『私は、薙野 凉花と言います。お願いです、私もレジスタンスに入れてください！』
『……駄目だ。』
『そんな……どうしてですか！？』
『君は奴らの脅威を知らない。……もうこれ以上、犠牲になる人を増やしたくはないんだ。』
『わ、私は！ ナンバーズの力を使えます！ これならきっと、アカデミアのデュエリストにも対抗出来るはずです！』
『……ナンバーズ？ それは何だ？』
『それ自身が力を持つ、強力なカードたちのことです！ この力を使えば……』
『……だが、そんなもの聞いたことが……』
『……いいだろう。なら俺とデュエルしろ。』


男の1人はこう言うと私を睨みつけ、デュエルディスクを構えた。


『隼？ 何をする気だ？』
『ユートは黙っていろ。……こいつの力を測る。俺を倒せるようなら見込みはあるだろう。……無論、それが可能ならばの話だがな。』
『……分かりました。』


こうなることは予測出来ていた。彼を倒して私の力を証明する。そしてアカデミアと闘い、皆を、この世界を……



『『デュエル！！』』



凉花 LP4000 手札5枚
隼 LP4000 手札5枚


『先攻はくれてやる。……来い。』
『……私のターン。手札の銀河魔導師を捨て、銀河戦士を特殊召喚。銀河戦士の効果でデッキから銀河騎士を手札に加えます。さらに私の場に攻撃力2000の銀河戦士が存在することにより、手札からオーバーレイ・ブースターを特殊召喚。』
『レベル5を2体……さっそくか。』
『……行きます。レベルの銀河戦士とオーバーレイ・ブースターでオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ No.12 機甲忍者クリムゾン・シャドー！』
『……それがナンバーズか。エクシーズモンスター1体で奴らに勝てると思っているのか？』
『……カードを1枚セットして、ターンエンド。』


凉花 LP4000 手札2枚 モンスターゾーン No.12 機甲忍者クリムゾン・シャドー 魔法・罠ゾーン 伏せカード1枚
隼 LP4000 手札5枚


『俺のターン、ドロー。RR−スカル・イーグルを召喚。さらに手札から通常魔法、RR−コール発動。デッキから2体目のスカル・イーグルを特殊召喚。レベル3のデビル・イーグル2体でオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚！ 現れろ！ ランク3、RR−デビル・イーグル！ スカル・イーグルをオーバーレイユニットとしたデビル・イーグルの攻撃力は300ポイントアップする。』

RR−デビル・イーグル 攻撃力1000→1600

『デビル・イーグルの効果発動！ オーバーレイユニットを1つ取り除き、モンスター1体の攻撃力分のダメージを与える！ クリムゾン・シャドーの攻撃力、2400のダメージをくらえ！』

凉花 LP4000→1600

『…………』
『さらに装備魔法、ラプターズ・アルティメット・メイス発動！ デビル・イーグルの攻撃力を1000ポイントアップする！』

RR−デビル・イーグル 攻撃力1600→2600

『バトルだ！ デビル・イーグルでクリムゾン・シャドーを攻撃！』
『クリムゾン・シャドーの効果発動！ オーバーレイユニットを1つ取り除いて、このターンの間クリムゾン・シャドーの破壊を無効にします！』
『だが、ダメージは受けてもらう！』

凉花 LP1600→1400

『くっ……』
『カードを1枚セットしてターンエンドだ。』


凉花 LP1400 手札2枚 モンスターゾーン No.12 機甲忍者クリムゾン・シャドー 魔法・罠ゾーン 伏せカード1枚
隼 LP4000 手札2枚 モンスターゾーン RR−デビル・イーグル 魔法・罠ゾーン ラプターズ・アルティメット・メイス 伏せカード1枚


『私のターン、ドロー。通常魔法、フォトン・サンクチュアリ発動。2体のフォトントークンを特殊召喚。私の場にフォトンモンスターが存在することにより、銀河騎士をリリースなしで召喚します。さらにフォトントークン2体をリリースして、銀河眼の光子竜を特殊召喚。』


……そう、そして私は『あのカード』を出す。今も私を守ってくれている、あのカードを……


『レベル8の銀河騎士と銀河眼の光子竜でオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ 全てを照らす光の化身！ No.62 銀河眼の光子竜皇！』
『攻撃力、4000……』
『バトル！ 銀河眼の光子竜皇で……』




『隼！ 大変だ！』
『……何があった。』



突如、1人の男がこちらへと駆け寄ってきた。


『そ、それが……瑠璃が、どこにもいないんだ！』
『……なんだと！？ ……探しに行く！！』
『ま、待ってください！ デュエルは……』
『そんな場合ではない！ おい、瑠璃はいなくなるまでどこにいた！？』
『案内するよ。ついて来てくれ。』
『急ぐぞ！』




『……わ、私は、どうすれば……』
『……すまない。瑠璃は隼の妹なんだ。……俺も瑠璃を探しに行く。君はもう戻るといい。』
『そんな！ 私はレジスタンスに入って、アカデミアと戦わないといけないんです！』
『……それは、どうして？』
『……取り返したいんです。アカデミアに奪われた、私の家族と、大切な友達を……』
『ッ……それでも、奴らと戦って今まで何人の仲間が倒れてきたか知っているか？ 俺や隼も、いつそうなるか分からない。そんな戦場に、君は……』
『なら、私が皆を守ります！ もう誰も、私の目の前で犠牲にはしません！』
『……分かった。君の意思は本物だ。俺からも仲間に……』



その時、近くから爆発音が聞こえてきた。それは間違いなく、アカデミアの襲撃を告げるものであった。



『あっちは……！？』
『隼たちが向かった方角か！ くっ……早く応援に向かわないと！』
『私も行きます！』
『なっ……いいか、何があっても自分の身だけは守るんだ。危ないと感じたらすぐに逃げる、いいな？』
『はい、でも……それは皆さんと一緒にです！』
『……行くぞ！』
『はい！』




ーーそうして、ユートと共に私は戦場に出た。それが私にとって、この長い戦いの始まりでもあった……









「…………ん、？」
「……！！ 凉花！ よかった、無事なんだな！」
「……？ ここ、は……」


辺りを見渡すと、そこには積み重なった瓦礫の山が。……ああ、私は……




「……強志。私たちは、戻ってきたんですね。」
「……ああ。俺たちの故郷、ハートランドにな。」