07話　開講　作：名無しのゴーレム

――翌日。
京子が学校に行っている間に、俺と仙波さんは塾の準備をしていた。
「そう言えば、ここの塾生って何人くらいなんですか？」
俺は講義の資料を見ながら、少し気になったことを聞いてみた。
「4人だよ。」
「…だいぶ少ないですね。じゃあもしかして講師は…」
「ああ、前までは俺1人だけだったよ。」
そんなので経営できるのか…そう思ったが、口には出さないことにした。
「そもそもデュエル塾ってどんなことを教えるんですか？」
「まあ、塾によってまちまちだが、基本的なルールからデッキ構築、戦略の組み立て方までさまざまなことを取り扱うのがデュエル塾、といったところかな。」
「へぇ～、じゃあこの塾ではどんなことを中心に教えているんですか？」
「ん～、まずはルール、そしてマナーを教えているな。」
「他には？」
俺のなにげない問いに、仙波さんは少し困ったような顔をして答えた。
「…まあ、なんというか、うちの塾は自習に重きを置いていてね。だから教えるというよりも少しアドバイスをするといった方が正しいんだよ。」
「…そうなんですか。」
自習中心の塾、か。俺は塾に行ったことがないから何とも言えないが、たぶん珍しいタイプの塾だろう。

そして夕方。京子が2人の男子学生を連れて帰ってきた。
「ただいま！」
「おかえり、京子。」
「おかえり。」
俺と仙波さんは塾の中で3人を出迎えた。
「ほら、郁哉、幹治、この人がうちの塾の新しい講師、矢次　強志さんだよ。」
男子学生の1人は値踏みするような目で、もう1人は少し怯えるような目で、それぞれ俺のことを見ていた。
「矢次　強志です。塾の講師を務めるのは初めてですが、精一杯みなさんのサポートをしますので、よろしくお願いします。」
俺の自己紹介を聞いて、2人は、
「神宮寺　郁哉（じんぐうじ　いくや）です。」
「い、伊沢　幹治（いざわ　みきはる）です！　よろしくお願いします！」
…なんというか、対照的だな、この2人。
「じゃあ自己紹介も終わったところで、講義を始めようか。」
仙波さんの号令で3人がそれぞれの席に着きだした。俺も資料を取り出して講義にのぞんだ。

キーンコーンカーン コーン…
講義終了を告げるチャイムが鳴った。
「ふぅ～。やっと終わった！」
京子が嬉しそうにしている。…なんというか、こんなに短時間なんだな、講義って。初めて教える立場に立って必死だったからかもしれないが。
「あの…矢次先生…」
か細い声の聞こえた方を見てみると、そこには伊沢君が立っていた。
「あの、えっと…」
「エクシーズ召喚を使えるって本当なんですか？」
伊沢君の声を遮るようにして、神宮寺君が俺に質問してきた。
「ああ、使えるよ。えっと、伊沢君、何か質問かい？」
「いや…今郁哉君がしたのと同じことが聞きたかったんです…」
…やっぱり珍しいんだな、エクシーズ召喚。
「先生、俺とデュエルしてくれませんか？」
神宮寺君が俺に提案する。俺は別にいいが…
「おーい、強志君。ちょっといいかな。」
仙波さんが俺に呼びかける。一体何の用だろう。
「何かありましたか？」
「ああ、新しい資料を買おうと思ってね。それがエクシーズ召喚についてのものだから、一度君にもどれがいいか見てもらいたくてね。」
なるほど。でも…神宮寺君の方を振り返ると、しかたないという表情で、
「…分かりました。行ってください。」
と言った。
「すまないね。また今度誘ってくれるかな？」
「…はい、分かりました。」
俺は職員室（兼仙波さんの書斎）の方へと向かった。
「幹治、郁哉、デュエルしよう！」
「京子、さっきの小テストのやり直しは？」
「お、お父さん…それは後でやるから…」
「いや、今からしておくんだ。じゃないと忘れてしまうだろう？」
「ううー…」
…あいつ、もしかして3人の中で1番不真面目なんじゃないか？