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015:時計じかけの刺客 作:天2
015:時計じかけの刺客
☆☆☆
刃に灯した火を振るい
地平を灼いて 空を染め
嘗(かつ)ての友の
影を炙り出す
☆☆☆
時間は少し巻き戻り、ユーイ達と城之内が別れた後、城之内もまたユーイ達と同様に情報収集に奔走していた。
しかしこちらも向こうと同様、めぼしい情報は得られていなかった。
ドールを連れていない分、人に声をかけるペースはこちらの方が上だったが、人々の反応は判で押したように同じで、蛭谷に関しては皆一様に口を閉ざす。
「流石におかしいだろ、この反応の鈍さは……」
がむしゃらに街を走り回っていた城之内にも流石に疲れが見え始めていた。諦めの気持ちが首をもたげ始める。
その辺りの瓦礫に腰を下ろし、空を見上げる。サテライトの空も、生まれた街の空と何も変わらない。
シティにいた頃、生活は荒んでいたが仲間とつるんで暴れていれば嫌なことも辛いことも忘れられた。
道から外れることはしていないつもりだが、それでも今にして思えば馬鹿なことをしていたと思うし、迷惑をかけた人もいただろう。だが仲間と一緒に過ごした日々という点に於いてだけは、良い思い出だ。そしてその思い出の中には、蛭谷も確かにいたのだ。
「蛭谷……。テメェ、ここで一体何やってんだよ。何処にいやがるんだ……!」
歯噛みするように呟く城之内の前に進み出た者がいた。
顔を上げると、ロングパーカーを着た細身に長身の男。顎がしゃくれた面長で眼鏡をかけている。
「お前か? 蛭谷さんを嗅ぎ回ってるっていうガキは……。何者だ?」
「……アンタこそ誰だ?」
座っている城之内と立っている長身の男。その目線の落差以上に見下した目でこちらを見下ろす男を、すぐにいけ好かない奴だと判断して城之内は警戒心を視線に込める。
男はそんな城之内を鼻で笑い飛ばす。
「質問に質問で返すなよ。見た目通りの低脳だな」
城之内は視線を逸らさず立ち上がり、へらへらと笑い返した。
「そういうテメェは蛭谷の犬か? まんまと誘(おび)き出されて来やがって」
「アァ? 何だと?」
眉を寄せる男に城之内はにやりと笑って見せる。
「蛭谷は一匹狼ってタイプじゃねぇ。徒党を組んで周りを操るのを好む奴だ。アイツがここで何をやってるのか知らねぇが、奴の名前がこれだけ広まってるなら絶対に自分のチームを作ってるはず。オレがこんだけ方々で名前を聞いて回れば、その内の誰かの耳には入って必ずそっちからアプローチしてくると思ったぜ」
闇雲に街の人々に話を訊いても埒が明かないと考えた城之内は途中で作戦を変えたのだ。
とにかく足を使って色々な場所で蛭谷の名前を出すことで、彼のチームのメンバーの目に止まるようアピールした。チームのリーダーのことを探っている奴がいるとなれば、その正体を確かめようとしてくる奴が必ず出てくるはず。そいつを逆に捕まえて吐かせた方が手っ取り早いと考えたのだ。
このタイミングで現れたこの男は、まんまと城之内の作戦に乗せられたことになる。
「なるほど、猿知恵だけは働くらしいな。なら、その猿並みの脳ミソを精一杯動かしてとっととさっきの質問に答えろ。何者だ、お前?」
男は指でくいと眼鏡を押さえながら再度質問を繰り返す。
冷静を装ってはいるが、こめかみに浮かび上がる青筋が彼が怒りを抑えているのをありありと物語っている。インテリを気取ったこういうタイプは、相手の作戦に乗せられるのを最も嫌う。ましてや相手は頭を金色に染めているような下劣極まりない輩。屈辱を感じないわけがない。
その下劣極まりない少年は堂々と名乗りを上げる。
「オレは城之内カツヤだ! 蛭谷の奴に聞きゃあすぐに分かるはずだぜ! シティからわざわざ会いに来てやったんだから歓迎しろよ!」
城之内が名乗ると、一瞬男がフリーズする。
それから城之内の顔をまじまじと見つめ、クツクツと笑い出した。
「……何か可笑しなことでも言ったかよ?」
怪訝そうにする城之内に、男は一転親近感を込めた笑顔を向ける。
「そうか、お前が『城之内カツヤ』か! お前のことはよく蛭谷さんから聞いてるぜ! シティ時代の話の時はほとんどお前の話ばかりだ!」
「ーーー!」
男の言葉に、城之内の顔に一瞬喜色が浮かぶ。
蛭谷は城之内との絆を完全に忘れてしまったわけではなかったのだ。ならば、まだ昔のように笑い合うことができる関係に戻れるかもしれない。
そう期待した。
そしてその期待はすぐに裏切られた。
「本当に蛭谷さんはよくお前の話をするよ! ーーー今まで見てきた中で一番の『マヌケ』だってな!」
言われた瞬間、頭が真っ白になった。
「なん……だと……」
「すぐに他人を信じ過ぎるせいで、騙していても騙しがいがなかったとよ! 仲間のフリをしながら、友情がどうだ絆がどうだと薄らサムいことを言われた時は、何度吹き出しそうになったか分からないとも言ってたな! 極めつけは、命の次に大事なデッキを盗まれたっていうのに最後の最後まで蛭谷さんを信じていたらしいじゃねぇか! この話にはオレらも何度も笑わせてもらったぜ!」
確かに、デッキを盗まれたことが分かった時点で一番怪しかったのは蛭谷だった。事実、そう城之内に訴えてきた奴もいた。
だが、城之内は蛭谷を庇った。何か根拠があったわけじゃない。ただ単純に蛭谷が自分にそんなことをするとは信じたくなかっただけだ。
城之内は最後蛭谷が姿を消すまで、彼を信じていた。親友だと思っていたから。
「蛭谷……!」
だが今ようやく分かった。
蛭谷は城之内を裏切ったわけではない。最初から仲間なんかじゃあなかったのだ。友達ですらなかったのだ。少なくとも蛭谷にとっては。
騙されていたことには怒りを感じる。
だが、その事実を知ったところで城之内のやるべきことが変わるわけではない。
城之内の目的は、デッキを取り戻すことと蛭谷がしているであろう悪事を止めること。そのためには奴の居場所を突き止めなければ始まらない。
城之内はデュエルディスクを構える。
「オレを蛭谷の所へ案内しろ。断るってんなら、デュエルで無理矢理にでも居場所を吐いてもらうぜ!」
男はにやにやとした笑みのまま同じようにデュエルディスクを掲げた。
「当然断る。わざわざサテライトまで蛭谷さんを追ってくるとはご苦労なことだったが、お前の旅はここまでだ。オレ達グールズの障害になりそうな芽は、今ここで摘み取られる運命なのだ」
「グールズ……。そいつが蛭谷の作ったチームの名前か? どういう意味だか知らねぇが、なんか嫌な感じのする名前だぜ。どうせろくでもないことやってんだろーから、ついでにオレがぶっ潰してやる」
「ククク、身の程も分からんカスが。お前はこの『クロック・トランプ』様が粉々に吹き飛ばしてくれる!」
2人の闘志がぶつかり合い弾けた。
ーーーデュエルーーー
トランプ:LP4000
城之内:LP4000
先攻は『トランプ』と名乗った男。
デッキから5枚の手札を抜き出して確認する。
「クロック・トランプっつーのか、アンタ。随分と何かを連想させる名前だな」
城之内が言う。台詞に対してちゃかすような雰囲気は薄い。
この国は多民族国家だ。様々な人種が入り交じって暮らしている。
当然、人々の名前も多種多様。所謂『日本的』な名前も多いが、『洋風』だったり『中華風』だったりする名前も少なくはない。
だが、クロック(=時計)・トランプなんてのは明らかな偽名だ。
「いつだったかダチに教えてもらったことがあるぜ。『クロック(時計)』ーーートランプを使うゲームだろ?」
『クロック』はトランプを使って行うカードゲームの一種である。トランプを時計の文字盤に見立てて並べ、めくりながら位置を動かしK(キング)を4枚集める1人遊び(ソリティア)ゲーム。
「何か意味があるのか?」
偽名にしろそれを名前に付けるからには、何かそこに込められた想いがあると考えておかしくはない。
しかし当のトランプは肩を竦める。
「『クロック』が好きなだけだ。意味なんてない。オレの名前にもーーーお前が蛭谷さんを追ってここまで来たことにもな」
言って、トランプは手札からモンスターカードをデュエルディスクに裏側で置く。
「オレはモンスターをセットし、ターンエンドだ」
トランプのモンスターゾーンに裏側守備表示のモンスターカードが現れた。
トランプ:LP4000/手札4
●モンスター
セットモンスター:DEF?
●魔法・罠
なし
城之内:LP4000/手札5
●モンスター
なし
●魔法・罠
なし
「ヘッ、威勢のわりに守備表示かよ。随分と消極的な初動じゃねーか」
トランプの初動は守備モンスターを出しただけのシンプルなもの。それを見て城之内は笑う。
だがトランプは余裕綽々に返す。
「オレは攻撃しか能のないお前達脳筋どもとは違うんだよ」
「んだとー! ならその守備モンスターごとオレのモンスターでぶっ倒してやらー! オレのターン! ドロー!」
トランプの挑発に簡単に乗り、城之内が闘志を漲らせてドローする。
そのカードを見て心の中で「ヨシ!」と拳を握った。
引いたカードは攻撃力の高い下級モンスター。これで攻撃すれば、相当守備に特化したモンスターでない限り撃破できるはずだ。
「オレは手札から《エヴォルテクター シュバリエ》を召喚ッ!」
城之内がモンスターカードをデュエルディスクに置くと、真紅の鎧に身を包んだ剣士がフィールドへ躍り出た。
†
《エヴォルテクター シュバリエ》
デュアル・効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻1900/守 900
(1):このカードはフィールド・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。
(2):フィールドの通常モンスター扱いのこのカードを通常召喚としてもう1度召喚できる。その場合このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●自分フィールドの表側表示の装備カード1枚を墓地へ送り、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。 その相手のカードを破壊する。
†
《エヴォルテクター シュバリエ》は、攻撃力1900を有する炎の騎士。繰り出す炎の魔法と剣技は大抵の下級モンスターならば退けられる威力を持つ。
「バトルだッ!《エヴォルテクター シュバリエ》でセットモンスターに攻撃!」
《エヴォルテクター シュバリエ》が右手に剣、左手に火炎を発し、裏側守備のモンスターカードへと迫る。
しかしトランプは慌てるどころかにやりと笑い、手をかざす。
するとセットモンスターが反転し、その姿を現した。
出現したのは、球体に蜘蛛のような脚のついた機械型のモンスター。
†
《スフィア・ボム 球体時限爆弾》
効果モンスター
星4/闇属性/機械族/攻1400/守1400
(1):裏側守備表示のこのカードが相手モンスターに攻撃されたダメージ計算前に発動する。このカードを装備カード扱いとしてその攻撃モンスターに装備する。
(2):このカードの効果でこのカードを装備した次の相手スタンバイフェイズに発動する。装備モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与える。
†
その守備力は、《エヴォルテクター シュバリエ》の攻撃力には及ばない1400。このままならば《エヴォルテクター シュバリエ》の剣に両断されるのを待つのみだ。
しかし実際にはそうはならなかった。
剣が届く直前に《スフィア・ボム》が《エヴォルテクター シュバリエ》に飛びつき、抱きつくようにして取り付いたのだ。
「な、なんだ!?」
身体をがっちりと拘束されてしまった《エヴォルテクター シュバリエ》の攻撃は不発になる。
「ククク、これが《スフィア・ボム 球体時限爆弾》のモンスター効果だ。セット状態で攻撃を受けた《スフィア・ボム》は、ダメージ計算をすることなく装備カードとなり攻撃モンスターに取り付く。そして次のお前のスタンバイフェイズに爆発し、装備モンスターの攻撃力分のダメージをお前に与えるのさ」
「なんだと!?」
《エヴォルテクター シュバリエ》の攻撃が終わったことで、城之内のバトルフェイズは終了となる。
「良いことを教えてやろうか。《スフィアボム》は装備カード扱いとしてお前の《エヴォルテクター シュバリエ》に装備されている状態だ。お前の手札にもし魔法・罠カードの除去カードがあるなら、早々にこのカードを破壊しておくことを薦めるぜ。でなきゃ次のお前のスタンバイフェイズに《エヴォルテクター シュバリエ》の攻撃力分ーーーつまり1900のダメージがお前を襲うことになるからな!」
「くッ、んなこた言われなくても分かってらー!」
トランプの煽りに悪態で返すが、城之内の手札に件(くだん)の類いのカードはない。
仕方なく城之内はターンを終了するしかなかった。
「カードを1枚伏せてターンエンドだ……」
城之内:LP4000/手札4
●モンスター
エヴォルテクター シュバリエ:ATK1900
●魔法・罠
伏せカード1枚
トランプ:LP4000/手札4
●モンスター
なし
●魔法・罠
スフィア・ボム:装備(エヴォルテクター シュバリエ)
「クックッ、どうやら手札に除去カードはないらしいな。好都合だ」
すぐに《スフィア・ボム》を排除しない城之内の態度から、トランプはそう判断した。
除去カードがないなら良し、もしそれがあって《スフィア・ボム》を排除されるようならそれなりの対処法を用意していたが、杞憂になったようだ。
トランプのターン。ほくそ笑みながら、デッキからカードをドローする。
そしてすぐさま魔法カードを発動した。
「魔法カード《パラサイト・プリンター》を発動。このカードは、モンスターに装備カードとして装備されているモンスターカードと同名のカード1枚をデッキから手札に加えることができる魔法カードだ」
†
《パラサイト・プリンター》
通常魔法(オリジナル)
(1):フィールドのモンスターに装備カード扱いで装備されているモンスターカード1枚を対象に発動できる。そのカードと同名のモンスター1体をデッキから手札に加える。
†
トランプのフィールドにプリンターが出現する。
「このカードの効果により、オレは2枚目の《スフィア・ボム 球体時限爆弾》を手札に加える」
フィールド上に装備カード扱いとなっているモンスターは《スフィア・ボム》しか存在しない。よって対象は《スフィア・ボム》一択。
《パラサイト・プリンター》がジジジと《スフィア・ボム》のイラストを印刷する。それがカードとなりトランプの手札に加わった。
「く……また《スフィア・ボム》が出てくるってわけかよ!」
「そういうことだ。オレはモンスターをセットし、カードを1枚伏せてターンエンド。さぁ、何か手を打たなければ一度もバトルすることなく爆死することになるぜ?」
トランプはハハハハッと高笑いする。
トランプ:LP4000/手札4
●モンスター
セットモンスター:DEF?
●魔法・罠
スフィア・ボム:装備(エヴォルテクター シュバリエ)
伏せカード1枚
城之内:LP4000/手札4
●モンスター
エヴォルテクター シュバリエ:ATK1900
●魔法・罠
伏せカード1枚
《エヴォルテクター シュバリエ》に取り付く《スフィア・ボム》は、このスタンバイフェイズに爆発する。
それを回避する残り唯一のチャンスがこのドローフェイズだ。ここで魔法・罠カード除去系の速攻魔法を引き当てる以外に爆発を阻止する方法はもうない。
「頼むッ!」
城之内は祈る気持ちでカードをドローした。
恐る恐る引いたカードを確認すると、それはモンスターカードだった。
「残念!《スフィア・ボム》の効果が発動する!」
落胆が表情にあからさまに出ていたのか、トランプが答えも聞かずに宣言する。
と、その《スフィア・ボム》がピピピピという機械音を鳴らし始めた。
「オイオイ、マジかよ……!」
本能的に恐怖を煽る音に、城之内が顔を青くする。
しかしそれに構わず《スフィア・ボム》は鳴り続けーーー
ピピピピ…ピピピ…ピピ……ピーーーッ!
ーーー爆発した。
「ぐあああーーーッ!!」
《エヴォルテクター シュバリエ》を巻き込んで爆発した《スフィア・ボム》の破片が爆風に飛ばされ、五月雨のように城之内を襲う。
城之内:LP4000→2100
まるで精神が切り刻まれるような痛み。これが実体だったなら、今頃城之内の身体は血塗れだっただろう。
デュエルに於いてのダメージも小さくない。
攻撃力の高い《エヴォルテクター シュバリエ》を選んだことが逆に災いして、LPの半分近くが吹き飛んでしまった。
そして先のターン、トランプがセットしたモンスターは十中八九2枚目の《スフィア・ボム》だろう。攻撃力の高いモンスターで迂闊には攻撃できない。もしあんな爆発を連続して食らったら、城之内のLPはもう保たないからだ。
「だが今ので《スフィア・ボム》の能力は見切ったぜ。その攻略法もな」
「ほう?」
その威力を実際に体験してみて、城之内には《スフィア・ボム》攻略の目星が見えていた。
それを告げられてもトランプに動揺はない。むしろそれを楽しむかのように薄笑いを浮かべている。
「そのスカした面を歪ませてやるぜ! オレは《エヴォルテクター エヴェック》を召喚!」
城之内がデュエルディスクにモンスターカードを置く。それは先ほどのドローで引いたばかりのカード。
召喚されたのは、その名の通り《エヴォルテクター シュバリエ》に酷似したモンスターだった。同じデザインの赤い鎧を着込んだ戦士。ただ手に持つ武器がモーニングスターに変わっている。
†
《エヴォルテクター エヴェック》
デュアル・効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻1500/守1000
(1):このカードはフィールド・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。
(2):フィールドの通常モンスター扱いのこのカードを通常召喚としてもう1度召喚できる。その場合このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、「エヴォルテクター エヴェック」以外の自分の墓地の、戦士族・炎属性モンスターまたはデュアルモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。このカード名のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。
†
「そしてオレのフィールドに戦士族・炎属性のモンスターがいることで、手札から《焔聖騎士-リナルド》を特殊召喚する!」
続けて城之内が手札のモンスターを特殊召喚する。
それは炎髪炎眼の黒馬に跨がった赤髪の青年騎士。
†
《焔聖騎士-リナルド》
効果モンスター
星1/炎属性/戦士族/攻 500/守 200
このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドに戦士族・炎属性モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。この方法で特殊召喚したこのカードはチューナーとして扱う。
(2):このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のカード及び除外されている自分のカードの中から、「焔聖騎士-リナルド」以外の戦士族・炎属性モンスター1体または装備魔法カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。
†
「この瞬間《リナルド》のモンスター効果が発動するぜ! 墓地から《エヴォルテクター シュバリエ》を手札に回収する!」
《焔聖騎士-リナルド》は、フィールドに戦士族・炎属性モンスターが存在すれば手札から特殊召喚でき、それに成功すると墓地から戦士族・炎属性モンスターか装備魔法かを手札に回収する効果を持っている。
ステータスこそ低いものの手軽に特殊召喚が可能でアドバンテージも取れる優秀なモンスターだ。
だが何故城之内がこのカードをいま使うのかーーーその答えはまさにその攻撃力の低さにあった。
「《スフィア・ボム》は攻撃してきたモンスターにしか取り付けねぇ。しかもその効果は強制効果だ、セット状態で攻撃されれば必ず効果が発動してしまう。なら、わざと攻撃力の低いモンスターで攻撃すればこっちのダメージを抑えながら《スフィア・ボム》を排除できるっつー寸法よ! どうだ、まさに肉を切らせて骨を断つ作戦だぜ!」
《焔聖騎士-リナルド》の攻撃力は500。通常なら《スフィア・ボム》の守備力1400には届かず攻撃したところで弾き返されて終わりだが、セット時に攻撃されれば強制的に発動してしまう《スフィア・ボム》の効果を逆手に取り《リナルド》に取り付かせてしまえば次のスタンバイフェイズに受けるダメージは500で済む。
《リナルド》を囮にダメージを最小限に抑えつつ、フィールドががら空きになったトランプに《エヴォルテクター エヴァック》で直接攻撃を仕掛けられるという算段だ。
「行くぜ、バトルだッ!《焔聖騎士-リナルド》でセットモンスターに攻撃ッ!」
《焔聖騎士-リナルド》が剣を抜き騎馬を駆けさせる。剣を振るうと、まるで燃え上がるように刀身が炎を纏った。
その《リナルド》の敵意に反応して、トランプのセットモンスターがリバースする。
しかし現れ出たモンスターは城之内が想像していたのとは違うシルエットだった。
「《スフィア・ボム》じゃない!?」
†
《キューブ・ボム 立方体時限爆弾》
効果モンスター(オリジナル)
星4/闇属性/機械族/攻1500/守1500
(1):裏側守備表示のこのカードが相手モンスターに攻撃されたダメージ計算前に発動する。このカードを装備カード扱いとしてその攻撃モンスターに装備する。
(2):このカードの装備モンスターは攻撃できず、リリースできない。
(3):このカードの効果でこのカードを装備した次の相手スタンバイフェイズに発動する。装備モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与える。
†
現れたモンスターは球体ではなく、立方体の形をしていた。大きさも《スフィア・ボム》に比べて一回り以上大きい。
「裏側守備表示で攻撃を受けたことにより、《キューブ・ボム》は《焔聖騎士-リナルド》に装備される!」
《スフィア・ボム》の時と同じく《焔聖騎士-リナルド》の炎剣は《キューブ・ボム》には届かず、逆にその巨体は《リナルド》の背に重くのし掛かり騎馬ごとその身体を押し潰してしまう。
「くっ、だが想定内だぜ!《リナルド》はやられちまうかもしれないが、《エヴォルテクター エヴァック》の直接攻撃でこっちもアンタのLPを大きく削り取れる!」
(すまねぇ《リナルド》!)と犠牲の役割を負わせてしまった《リナルド》に心の中で謝りながら、城之内は《エヴォルテクター エヴァック》に直接攻撃を指示する。
それを受けて《エヴァック》はモーニングスターに炎を宿らせる。
『焔聖騎士』ではないが、《エヴォルテクター エヴァック》も炎属性を司る戦士だ。武器に炎を纏わせて威力を高めることなど造作もない。
だが、それはトランプにとっても想定内だった。
「やはり所詮は猿知恵だったなッ! 甘いんだよッ! 罠発動ッ!《強引な仕立て屋》ッ!!」
トランプのフィールドで翻ったのは罠カード。
†
《強引な仕立て屋》
通常罠(オリジナル)
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象に発動できる。フィールドの装備カード1枚を選び、そのモンスターに対象条件を無視して装備する。
†
と同時に《リナルド》を押し潰していた《キューブ・ボム》が一瞬消え、次の瞬間には攻撃体勢に入っていた《エヴォルテクター エヴァック》の頭上に現れていた。それはそのまま《エヴァック》の背に落下し、これを押し潰す。
「《強引な仕立て屋》は装備カードの対象を別のモンスターに移し変える罠カードだ! これで《キューブ・ボム》の装備対象を《焔聖騎士-リナルド》から《エヴォルテクター エヴァック》に変更した! そして《キューブ・ボム》の装備モンスターは攻撃することができなくなる! つまりこのターン、《エヴァック》でオレを追撃することはできなくなったわけだッ!!」
更に次の城之内のスタンバイフェイズに爆殺されるのが《リナルド》から《エヴァック》へと変更されることになり、受けるダメージも500から1500へと増えることになる。
城之内の立てた作戦は見透かされていただけじゃなく、完璧に対策されていたのである。
☆☆☆
刃に灯した火を振るい
地平を灼いて 空を染め
嘗(かつ)ての友の
影を炙り出す
☆☆☆
時間は少し巻き戻り、ユーイ達と城之内が別れた後、城之内もまたユーイ達と同様に情報収集に奔走していた。
しかしこちらも向こうと同様、めぼしい情報は得られていなかった。
ドールを連れていない分、人に声をかけるペースはこちらの方が上だったが、人々の反応は判で押したように同じで、蛭谷に関しては皆一様に口を閉ざす。
「流石におかしいだろ、この反応の鈍さは……」
がむしゃらに街を走り回っていた城之内にも流石に疲れが見え始めていた。諦めの気持ちが首をもたげ始める。
その辺りの瓦礫に腰を下ろし、空を見上げる。サテライトの空も、生まれた街の空と何も変わらない。
シティにいた頃、生活は荒んでいたが仲間とつるんで暴れていれば嫌なことも辛いことも忘れられた。
道から外れることはしていないつもりだが、それでも今にして思えば馬鹿なことをしていたと思うし、迷惑をかけた人もいただろう。だが仲間と一緒に過ごした日々という点に於いてだけは、良い思い出だ。そしてその思い出の中には、蛭谷も確かにいたのだ。
「蛭谷……。テメェ、ここで一体何やってんだよ。何処にいやがるんだ……!」
歯噛みするように呟く城之内の前に進み出た者がいた。
顔を上げると、ロングパーカーを着た細身に長身の男。顎がしゃくれた面長で眼鏡をかけている。
「お前か? 蛭谷さんを嗅ぎ回ってるっていうガキは……。何者だ?」
「……アンタこそ誰だ?」
座っている城之内と立っている長身の男。その目線の落差以上に見下した目でこちらを見下ろす男を、すぐにいけ好かない奴だと判断して城之内は警戒心を視線に込める。
男はそんな城之内を鼻で笑い飛ばす。
「質問に質問で返すなよ。見た目通りの低脳だな」
城之内は視線を逸らさず立ち上がり、へらへらと笑い返した。
「そういうテメェは蛭谷の犬か? まんまと誘(おび)き出されて来やがって」
「アァ? 何だと?」
眉を寄せる男に城之内はにやりと笑って見せる。
「蛭谷は一匹狼ってタイプじゃねぇ。徒党を組んで周りを操るのを好む奴だ。アイツがここで何をやってるのか知らねぇが、奴の名前がこれだけ広まってるなら絶対に自分のチームを作ってるはず。オレがこんだけ方々で名前を聞いて回れば、その内の誰かの耳には入って必ずそっちからアプローチしてくると思ったぜ」
闇雲に街の人々に話を訊いても埒が明かないと考えた城之内は途中で作戦を変えたのだ。
とにかく足を使って色々な場所で蛭谷の名前を出すことで、彼のチームのメンバーの目に止まるようアピールした。チームのリーダーのことを探っている奴がいるとなれば、その正体を確かめようとしてくる奴が必ず出てくるはず。そいつを逆に捕まえて吐かせた方が手っ取り早いと考えたのだ。
このタイミングで現れたこの男は、まんまと城之内の作戦に乗せられたことになる。
「なるほど、猿知恵だけは働くらしいな。なら、その猿並みの脳ミソを精一杯動かしてとっととさっきの質問に答えろ。何者だ、お前?」
男は指でくいと眼鏡を押さえながら再度質問を繰り返す。
冷静を装ってはいるが、こめかみに浮かび上がる青筋が彼が怒りを抑えているのをありありと物語っている。インテリを気取ったこういうタイプは、相手の作戦に乗せられるのを最も嫌う。ましてや相手は頭を金色に染めているような下劣極まりない輩。屈辱を感じないわけがない。
その下劣極まりない少年は堂々と名乗りを上げる。
「オレは城之内カツヤだ! 蛭谷の奴に聞きゃあすぐに分かるはずだぜ! シティからわざわざ会いに来てやったんだから歓迎しろよ!」
城之内が名乗ると、一瞬男がフリーズする。
それから城之内の顔をまじまじと見つめ、クツクツと笑い出した。
「……何か可笑しなことでも言ったかよ?」
怪訝そうにする城之内に、男は一転親近感を込めた笑顔を向ける。
「そうか、お前が『城之内カツヤ』か! お前のことはよく蛭谷さんから聞いてるぜ! シティ時代の話の時はほとんどお前の話ばかりだ!」
「ーーー!」
男の言葉に、城之内の顔に一瞬喜色が浮かぶ。
蛭谷は城之内との絆を完全に忘れてしまったわけではなかったのだ。ならば、まだ昔のように笑い合うことができる関係に戻れるかもしれない。
そう期待した。
そしてその期待はすぐに裏切られた。
「本当に蛭谷さんはよくお前の話をするよ! ーーー今まで見てきた中で一番の『マヌケ』だってな!」
言われた瞬間、頭が真っ白になった。
「なん……だと……」
「すぐに他人を信じ過ぎるせいで、騙していても騙しがいがなかったとよ! 仲間のフリをしながら、友情がどうだ絆がどうだと薄らサムいことを言われた時は、何度吹き出しそうになったか分からないとも言ってたな! 極めつけは、命の次に大事なデッキを盗まれたっていうのに最後の最後まで蛭谷さんを信じていたらしいじゃねぇか! この話にはオレらも何度も笑わせてもらったぜ!」
確かに、デッキを盗まれたことが分かった時点で一番怪しかったのは蛭谷だった。事実、そう城之内に訴えてきた奴もいた。
だが、城之内は蛭谷を庇った。何か根拠があったわけじゃない。ただ単純に蛭谷が自分にそんなことをするとは信じたくなかっただけだ。
城之内は最後蛭谷が姿を消すまで、彼を信じていた。親友だと思っていたから。
「蛭谷……!」
だが今ようやく分かった。
蛭谷は城之内を裏切ったわけではない。最初から仲間なんかじゃあなかったのだ。友達ですらなかったのだ。少なくとも蛭谷にとっては。
騙されていたことには怒りを感じる。
だが、その事実を知ったところで城之内のやるべきことが変わるわけではない。
城之内の目的は、デッキを取り戻すことと蛭谷がしているであろう悪事を止めること。そのためには奴の居場所を突き止めなければ始まらない。
城之内はデュエルディスクを構える。
「オレを蛭谷の所へ案内しろ。断るってんなら、デュエルで無理矢理にでも居場所を吐いてもらうぜ!」
男はにやにやとした笑みのまま同じようにデュエルディスクを掲げた。
「当然断る。わざわざサテライトまで蛭谷さんを追ってくるとはご苦労なことだったが、お前の旅はここまでだ。オレ達グールズの障害になりそうな芽は、今ここで摘み取られる運命なのだ」
「グールズ……。そいつが蛭谷の作ったチームの名前か? どういう意味だか知らねぇが、なんか嫌な感じのする名前だぜ。どうせろくでもないことやってんだろーから、ついでにオレがぶっ潰してやる」
「ククク、身の程も分からんカスが。お前はこの『クロック・トランプ』様が粉々に吹き飛ばしてくれる!」
2人の闘志がぶつかり合い弾けた。
ーーーデュエルーーー
トランプ:LP4000
城之内:LP4000
先攻は『トランプ』と名乗った男。
デッキから5枚の手札を抜き出して確認する。
「クロック・トランプっつーのか、アンタ。随分と何かを連想させる名前だな」
城之内が言う。台詞に対してちゃかすような雰囲気は薄い。
この国は多民族国家だ。様々な人種が入り交じって暮らしている。
当然、人々の名前も多種多様。所謂『日本的』な名前も多いが、『洋風』だったり『中華風』だったりする名前も少なくはない。
だが、クロック(=時計)・トランプなんてのは明らかな偽名だ。
「いつだったかダチに教えてもらったことがあるぜ。『クロック(時計)』ーーートランプを使うゲームだろ?」
『クロック』はトランプを使って行うカードゲームの一種である。トランプを時計の文字盤に見立てて並べ、めくりながら位置を動かしK(キング)を4枚集める1人遊び(ソリティア)ゲーム。
「何か意味があるのか?」
偽名にしろそれを名前に付けるからには、何かそこに込められた想いがあると考えておかしくはない。
しかし当のトランプは肩を竦める。
「『クロック』が好きなだけだ。意味なんてない。オレの名前にもーーーお前が蛭谷さんを追ってここまで来たことにもな」
言って、トランプは手札からモンスターカードをデュエルディスクに裏側で置く。
「オレはモンスターをセットし、ターンエンドだ」
トランプのモンスターゾーンに裏側守備表示のモンスターカードが現れた。
トランプ:LP4000/手札4
●モンスター
セットモンスター:DEF?
●魔法・罠
なし
城之内:LP4000/手札5
●モンスター
なし
●魔法・罠
なし
「ヘッ、威勢のわりに守備表示かよ。随分と消極的な初動じゃねーか」
トランプの初動は守備モンスターを出しただけのシンプルなもの。それを見て城之内は笑う。
だがトランプは余裕綽々に返す。
「オレは攻撃しか能のないお前達脳筋どもとは違うんだよ」
「んだとー! ならその守備モンスターごとオレのモンスターでぶっ倒してやらー! オレのターン! ドロー!」
トランプの挑発に簡単に乗り、城之内が闘志を漲らせてドローする。
そのカードを見て心の中で「ヨシ!」と拳を握った。
引いたカードは攻撃力の高い下級モンスター。これで攻撃すれば、相当守備に特化したモンスターでない限り撃破できるはずだ。
「オレは手札から《エヴォルテクター シュバリエ》を召喚ッ!」
城之内がモンスターカードをデュエルディスクに置くと、真紅の鎧に身を包んだ剣士がフィールドへ躍り出た。
†
《エヴォルテクター シュバリエ》
デュアル・効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻1900/守 900
(1):このカードはフィールド・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。
(2):フィールドの通常モンスター扱いのこのカードを通常召喚としてもう1度召喚できる。その場合このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●自分フィールドの表側表示の装備カード1枚を墓地へ送り、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。 その相手のカードを破壊する。
†
《エヴォルテクター シュバリエ》は、攻撃力1900を有する炎の騎士。繰り出す炎の魔法と剣技は大抵の下級モンスターならば退けられる威力を持つ。
「バトルだッ!《エヴォルテクター シュバリエ》でセットモンスターに攻撃!」
《エヴォルテクター シュバリエ》が右手に剣、左手に火炎を発し、裏側守備のモンスターカードへと迫る。
しかしトランプは慌てるどころかにやりと笑い、手をかざす。
するとセットモンスターが反転し、その姿を現した。
出現したのは、球体に蜘蛛のような脚のついた機械型のモンスター。
†
《スフィア・ボム 球体時限爆弾》
効果モンスター
星4/闇属性/機械族/攻1400/守1400
(1):裏側守備表示のこのカードが相手モンスターに攻撃されたダメージ計算前に発動する。このカードを装備カード扱いとしてその攻撃モンスターに装備する。
(2):このカードの効果でこのカードを装備した次の相手スタンバイフェイズに発動する。装備モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与える。
†
その守備力は、《エヴォルテクター シュバリエ》の攻撃力には及ばない1400。このままならば《エヴォルテクター シュバリエ》の剣に両断されるのを待つのみだ。
しかし実際にはそうはならなかった。
剣が届く直前に《スフィア・ボム》が《エヴォルテクター シュバリエ》に飛びつき、抱きつくようにして取り付いたのだ。
「な、なんだ!?」
身体をがっちりと拘束されてしまった《エヴォルテクター シュバリエ》の攻撃は不発になる。
「ククク、これが《スフィア・ボム 球体時限爆弾》のモンスター効果だ。セット状態で攻撃を受けた《スフィア・ボム》は、ダメージ計算をすることなく装備カードとなり攻撃モンスターに取り付く。そして次のお前のスタンバイフェイズに爆発し、装備モンスターの攻撃力分のダメージをお前に与えるのさ」
「なんだと!?」
《エヴォルテクター シュバリエ》の攻撃が終わったことで、城之内のバトルフェイズは終了となる。
「良いことを教えてやろうか。《スフィアボム》は装備カード扱いとしてお前の《エヴォルテクター シュバリエ》に装備されている状態だ。お前の手札にもし魔法・罠カードの除去カードがあるなら、早々にこのカードを破壊しておくことを薦めるぜ。でなきゃ次のお前のスタンバイフェイズに《エヴォルテクター シュバリエ》の攻撃力分ーーーつまり1900のダメージがお前を襲うことになるからな!」
「くッ、んなこた言われなくても分かってらー!」
トランプの煽りに悪態で返すが、城之内の手札に件(くだん)の類いのカードはない。
仕方なく城之内はターンを終了するしかなかった。
「カードを1枚伏せてターンエンドだ……」
城之内:LP4000/手札4
●モンスター
エヴォルテクター シュバリエ:ATK1900
●魔法・罠
伏せカード1枚
トランプ:LP4000/手札4
●モンスター
なし
●魔法・罠
スフィア・ボム:装備(エヴォルテクター シュバリエ)
「クックッ、どうやら手札に除去カードはないらしいな。好都合だ」
すぐに《スフィア・ボム》を排除しない城之内の態度から、トランプはそう判断した。
除去カードがないなら良し、もしそれがあって《スフィア・ボム》を排除されるようならそれなりの対処法を用意していたが、杞憂になったようだ。
トランプのターン。ほくそ笑みながら、デッキからカードをドローする。
そしてすぐさま魔法カードを発動した。
「魔法カード《パラサイト・プリンター》を発動。このカードは、モンスターに装備カードとして装備されているモンスターカードと同名のカード1枚をデッキから手札に加えることができる魔法カードだ」
†
《パラサイト・プリンター》
通常魔法(オリジナル)
(1):フィールドのモンスターに装備カード扱いで装備されているモンスターカード1枚を対象に発動できる。そのカードと同名のモンスター1体をデッキから手札に加える。
†
トランプのフィールドにプリンターが出現する。
「このカードの効果により、オレは2枚目の《スフィア・ボム 球体時限爆弾》を手札に加える」
フィールド上に装備カード扱いとなっているモンスターは《スフィア・ボム》しか存在しない。よって対象は《スフィア・ボム》一択。
《パラサイト・プリンター》がジジジと《スフィア・ボム》のイラストを印刷する。それがカードとなりトランプの手札に加わった。
「く……また《スフィア・ボム》が出てくるってわけかよ!」
「そういうことだ。オレはモンスターをセットし、カードを1枚伏せてターンエンド。さぁ、何か手を打たなければ一度もバトルすることなく爆死することになるぜ?」
トランプはハハハハッと高笑いする。
トランプ:LP4000/手札4
●モンスター
セットモンスター:DEF?
●魔法・罠
スフィア・ボム:装備(エヴォルテクター シュバリエ)
伏せカード1枚
城之内:LP4000/手札4
●モンスター
エヴォルテクター シュバリエ:ATK1900
●魔法・罠
伏せカード1枚
《エヴォルテクター シュバリエ》に取り付く《スフィア・ボム》は、このスタンバイフェイズに爆発する。
それを回避する残り唯一のチャンスがこのドローフェイズだ。ここで魔法・罠カード除去系の速攻魔法を引き当てる以外に爆発を阻止する方法はもうない。
「頼むッ!」
城之内は祈る気持ちでカードをドローした。
恐る恐る引いたカードを確認すると、それはモンスターカードだった。
「残念!《スフィア・ボム》の効果が発動する!」
落胆が表情にあからさまに出ていたのか、トランプが答えも聞かずに宣言する。
と、その《スフィア・ボム》がピピピピという機械音を鳴らし始めた。
「オイオイ、マジかよ……!」
本能的に恐怖を煽る音に、城之内が顔を青くする。
しかしそれに構わず《スフィア・ボム》は鳴り続けーーー
ピピピピ…ピピピ…ピピ……ピーーーッ!
ーーー爆発した。
「ぐあああーーーッ!!」
《エヴォルテクター シュバリエ》を巻き込んで爆発した《スフィア・ボム》の破片が爆風に飛ばされ、五月雨のように城之内を襲う。
城之内:LP4000→2100
まるで精神が切り刻まれるような痛み。これが実体だったなら、今頃城之内の身体は血塗れだっただろう。
デュエルに於いてのダメージも小さくない。
攻撃力の高い《エヴォルテクター シュバリエ》を選んだことが逆に災いして、LPの半分近くが吹き飛んでしまった。
そして先のターン、トランプがセットしたモンスターは十中八九2枚目の《スフィア・ボム》だろう。攻撃力の高いモンスターで迂闊には攻撃できない。もしあんな爆発を連続して食らったら、城之内のLPはもう保たないからだ。
「だが今ので《スフィア・ボム》の能力は見切ったぜ。その攻略法もな」
「ほう?」
その威力を実際に体験してみて、城之内には《スフィア・ボム》攻略の目星が見えていた。
それを告げられてもトランプに動揺はない。むしろそれを楽しむかのように薄笑いを浮かべている。
「そのスカした面を歪ませてやるぜ! オレは《エヴォルテクター エヴェック》を召喚!」
城之内がデュエルディスクにモンスターカードを置く。それは先ほどのドローで引いたばかりのカード。
召喚されたのは、その名の通り《エヴォルテクター シュバリエ》に酷似したモンスターだった。同じデザインの赤い鎧を着込んだ戦士。ただ手に持つ武器がモーニングスターに変わっている。
†
《エヴォルテクター エヴェック》
デュアル・効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻1500/守1000
(1):このカードはフィールド・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。
(2):フィールドの通常モンスター扱いのこのカードを通常召喚としてもう1度召喚できる。その場合このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、「エヴォルテクター エヴェック」以外の自分の墓地の、戦士族・炎属性モンスターまたはデュアルモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。このカード名のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。
†
「そしてオレのフィールドに戦士族・炎属性のモンスターがいることで、手札から《焔聖騎士-リナルド》を特殊召喚する!」
続けて城之内が手札のモンスターを特殊召喚する。
それは炎髪炎眼の黒馬に跨がった赤髪の青年騎士。
†
《焔聖騎士-リナルド》
効果モンスター
星1/炎属性/戦士族/攻 500/守 200
このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドに戦士族・炎属性モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。この方法で特殊召喚したこのカードはチューナーとして扱う。
(2):このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のカード及び除外されている自分のカードの中から、「焔聖騎士-リナルド」以外の戦士族・炎属性モンスター1体または装備魔法カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。
†
「この瞬間《リナルド》のモンスター効果が発動するぜ! 墓地から《エヴォルテクター シュバリエ》を手札に回収する!」
《焔聖騎士-リナルド》は、フィールドに戦士族・炎属性モンスターが存在すれば手札から特殊召喚でき、それに成功すると墓地から戦士族・炎属性モンスターか装備魔法かを手札に回収する効果を持っている。
ステータスこそ低いものの手軽に特殊召喚が可能でアドバンテージも取れる優秀なモンスターだ。
だが何故城之内がこのカードをいま使うのかーーーその答えはまさにその攻撃力の低さにあった。
「《スフィア・ボム》は攻撃してきたモンスターにしか取り付けねぇ。しかもその効果は強制効果だ、セット状態で攻撃されれば必ず効果が発動してしまう。なら、わざと攻撃力の低いモンスターで攻撃すればこっちのダメージを抑えながら《スフィア・ボム》を排除できるっつー寸法よ! どうだ、まさに肉を切らせて骨を断つ作戦だぜ!」
《焔聖騎士-リナルド》の攻撃力は500。通常なら《スフィア・ボム》の守備力1400には届かず攻撃したところで弾き返されて終わりだが、セット時に攻撃されれば強制的に発動してしまう《スフィア・ボム》の効果を逆手に取り《リナルド》に取り付かせてしまえば次のスタンバイフェイズに受けるダメージは500で済む。
《リナルド》を囮にダメージを最小限に抑えつつ、フィールドががら空きになったトランプに《エヴォルテクター エヴァック》で直接攻撃を仕掛けられるという算段だ。
「行くぜ、バトルだッ!《焔聖騎士-リナルド》でセットモンスターに攻撃ッ!」
《焔聖騎士-リナルド》が剣を抜き騎馬を駆けさせる。剣を振るうと、まるで燃え上がるように刀身が炎を纏った。
その《リナルド》の敵意に反応して、トランプのセットモンスターがリバースする。
しかし現れ出たモンスターは城之内が想像していたのとは違うシルエットだった。
「《スフィア・ボム》じゃない!?」
†
《キューブ・ボム 立方体時限爆弾》
効果モンスター(オリジナル)
星4/闇属性/機械族/攻1500/守1500
(1):裏側守備表示のこのカードが相手モンスターに攻撃されたダメージ計算前に発動する。このカードを装備カード扱いとしてその攻撃モンスターに装備する。
(2):このカードの装備モンスターは攻撃できず、リリースできない。
(3):このカードの効果でこのカードを装備した次の相手スタンバイフェイズに発動する。装備モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与える。
†
現れたモンスターは球体ではなく、立方体の形をしていた。大きさも《スフィア・ボム》に比べて一回り以上大きい。
「裏側守備表示で攻撃を受けたことにより、《キューブ・ボム》は《焔聖騎士-リナルド》に装備される!」
《スフィア・ボム》の時と同じく《焔聖騎士-リナルド》の炎剣は《キューブ・ボム》には届かず、逆にその巨体は《リナルド》の背に重くのし掛かり騎馬ごとその身体を押し潰してしまう。
「くっ、だが想定内だぜ!《リナルド》はやられちまうかもしれないが、《エヴォルテクター エヴァック》の直接攻撃でこっちもアンタのLPを大きく削り取れる!」
(すまねぇ《リナルド》!)と犠牲の役割を負わせてしまった《リナルド》に心の中で謝りながら、城之内は《エヴォルテクター エヴァック》に直接攻撃を指示する。
それを受けて《エヴァック》はモーニングスターに炎を宿らせる。
『焔聖騎士』ではないが、《エヴォルテクター エヴァック》も炎属性を司る戦士だ。武器に炎を纏わせて威力を高めることなど造作もない。
だが、それはトランプにとっても想定内だった。
「やはり所詮は猿知恵だったなッ! 甘いんだよッ! 罠発動ッ!《強引な仕立て屋》ッ!!」
トランプのフィールドで翻ったのは罠カード。
†
《強引な仕立て屋》
通常罠(オリジナル)
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象に発動できる。フィールドの装備カード1枚を選び、そのモンスターに対象条件を無視して装備する。
†
と同時に《リナルド》を押し潰していた《キューブ・ボム》が一瞬消え、次の瞬間には攻撃体勢に入っていた《エヴォルテクター エヴァック》の頭上に現れていた。それはそのまま《エヴァック》の背に落下し、これを押し潰す。
「《強引な仕立て屋》は装備カードの対象を別のモンスターに移し変える罠カードだ! これで《キューブ・ボム》の装備対象を《焔聖騎士-リナルド》から《エヴォルテクター エヴァック》に変更した! そして《キューブ・ボム》の装備モンスターは攻撃することができなくなる! つまりこのターン、《エヴァック》でオレを追撃することはできなくなったわけだッ!!」
更に次の城之内のスタンバイフェイズに爆殺されるのが《リナルド》から《エヴァック》へと変更されることになり、受けるダメージも500から1500へと増えることになる。
城之内の立てた作戦は見透かされていただけじゃなく、完璧に対策されていたのである。
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城之内の攻撃は見透かされて通用しないぞッ!
果たして城之内に起死回生の手はあるのか!?
次回、遊戯王LOTD!!
「炎(ほむら)の刃」
熱き魂を刃に乗せ、斬り裂け《炎の剣士》!!
(2021-01-03 22:45)
今年も作品投稿を楽しみに待っております。
さて、城之内君のデュエルが開始しましたね。デッキは炎の剣士デッキと呼ぶべき男らしいカッコ良いデッキですね。
対するトランプさんはありそうでなかったボムデッキ。使うと楽しそうで見ていてワクワクします。
あっという間にLPを半分以上削られた城之内君。なんとか逆転して欲しいですね。
次回も楽しみに待っています。 (2021-01-05 17:34)
コンドルさん、コメントありがとうございます。
城之内と言えば《炎の剣士》というわけで、使用デッキは炎属性戦士族にしました。作中使っているデッキは他人のもので、彼が組んだものではありませんが。
トランプ戦は次回で早々に決着させるつもりです。どのように逆転するか、お楽しみ下さい
(2021-01-07 11:14)