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001:名もなき決闘者 作:天2
☆☆☆
この世界は1枚のカードに似ている
表に踏み出せば幸福という名の翼を得(え)
裏に踏み外せば絶望の濁流に落ちる
そんなか細く頼りないカードの縁(ふち)を
我々は皆
希望と恐怖を抱えながら
怖ず怖ずと歩んでいるに過ぎないのだ
☆☆☆
この世界を支配しているのは『デュエル』だ。
デュエルとは身体に宿る『魔力(ヘカ)』を用いてカードに宿るモンスターや魔法や罠をこの世に顕現させ行う闘いの儀式。
それは世界中で大人から子供まで日常的に『行われている』。だが『楽しまれている』かと問われれば、答えはNOだ。
ここではありとあらゆる物事がデュエルの勝敗によって決定される。それは飲んだお茶の代金をどちらが支払うかというような他愛もない出来事も、国家間の紛争のような抜き差しならない事柄も、等しくである。
どんなに理不尽なことであろうと、デュエルの結果次第ではそれが罷り通ってしまう。どれほど非道な結果になろうとも負けた側は涙を飲むしかない。例えそのデュエルに賭けられているのが、金であろうと愛であろうと命であろうと。
デュエルは不変かつ絶対の『理(ことわり)』なのだ。
そしてここにもその理によって今まさに絶望の濁流へ突き落とされようとしている少年が1人いた。
膝を硬い靴裏に叩かれて、少年はその場に倒れてしまった。
すでに両手を手錠で拘束されているため、受け身も取れず盛大に地面に頬擦りすることになる。
「オラァ! ちんたらしてんじゃねぇよ! きびきび歩けッ! このウスノロがッ!!」
頭の両サイドを刈り上げたモヒカン頭の大柄な男が、床に突っ伏す彼に罵声を浴びせる。少年を蹴倒したこの男のしゃべる度に、歯滓にまみれた口から唾が飛んで少年の背中を汚す。
ゆっくりと顔を上げた少年は、どこか中性的な顔立ちだった。
伸び放題に伸びた感じの長い黒髪から相手を射抜くように真っ直ぐな瞳が覗く。
歳は10代後半くらい。身長は特別高くはないが低くもなく、少し痩せ気味な体型。薄汚れてはいるが見ようによってはそれなりに整った容姿ではある。
「なんだァ、テメェ、その目はよォ!? なんか俺様に文句でもありそうな顔付きじゃあねェーかよ!?」
少年のその眼差しが気に入らなかったのだろう、男が顔を赤くする。
だが少年は視線を外すことなく口を開く。
「俺は……これから何処に連れて行かれるんだ?」
男の怒りに染まった頬などまるで気にする素振りもなく少年は訊く。
しかしそれは火に油を注ぐ行為でしかない。男のこめかみに青筋が浮かんだ。
「テメェ……この刈田(かりた)様を虚仮にしてんのか……アァ!?」
「虚仮になんかしていない。あんたになんか興味はないさ。俺が知りたいのは、これから何処に行くかだけだ」
「テメェッ!!」
刈田と名乗る男は激昂し再び少年を蹴りつける。
今度は横倒しに地面に倒れる少年。
「テメェみてェな何の役にも立たねェカス野郎の行き先なんざァ『サテライト』に決まってんだろうがッ! ゴミはちゃあんとゴミ捨て場に捨てなきゃあならねェからなッ! 当たり前のことだッ!」
地面に倒れたまま少年は考える。
男の言葉はある意味で正しい。自分が社会にとって何の役にも立たないのは確かだろう。
なにせ自分には『記憶がない』。社会通念とか一般的な知識はあるのだが、自分に関する記憶だけがすっぽりと抜け落ちていた。それこそ自身の名前すら分からない有り様だ。気付いたら街の中に立ち尽くしていた。
どうすれば良いのか、何処へ行けば良いのか分からず、行き場を失って街を彷徨っていたところを彼らに捕まり、留置場らしき所に入れられて数日。行き先は収容所かと思っていたが、言われてみれば犯罪者というわけではないのだから街からの追放措置というわけか。収容所とどちらがマシだったかはよく分からないが。
「テメェらにもちったぁマシな魔力でもありゃあ使い道もあっただろうによォ! 金もネェ、知識もネェ、技能もネェ、おまけに魔力もネェとくりゃあ、テメェらみてぇな奴らにゃゴミ溜め以外に行き場所なんざネェってこったッ!」
少年が歩かされている列には他にも何人か同じように歩かされていた。
身なりからして、少年と似たり寄ったりの浮浪者達か。
確かに皆、留置場内で何らかの機械で何やら検査をいくつか受けた。あれが内在する魔力を測定する検査だったのだろう。当然検査結果を知らされるなんてことはなかったが、この感じでは少年の魔力量も大した値ではなかったのだろう。魔力が高ければどんなことに役に立つのか想像もつかないが、この世界では魔力の低い人間には価値などないことは知っていた。
自分達はこれから一緒に護送車か何かに詰め込まれサテライトへと運ばれるのだろう。
確かにまるでゴミ清掃車だ。ならばさしずめ刈田達はゴミの回収業者といったところか。
そんなことをぼんやりと考えていると、刈田とは別の回収業者の男に首根っこを捕まれ引き起こされた。
「ぐずぐずするな、立て。立って歩け」
無理矢理立たされて突き出される。列を乱すなということだろう。列を乱したのは少年ではないのだが。
チラリとそちらを伺うと、刈田はまだ苛立ちを抑えられないようにこちらを見ていた。
「このゴミ野郎が……ッ! 向こうに着いたら地獄を見せてやるから覚えてろよ……ッ!」
どうやら完全に逆恨みを買ってしまったらしい。口振りから彼も一緒にサテライトへ来るようだし、これは面倒なことになりそうだ。
サテライトは、土地としては王都『ドミノ』の一部であるのは間違いない。
しかし都市部とは海峡を隔てた飛び地にあり、ドミノとは連絡橋1本でしか往き来できない。その橋上も海上も警備は厳重であり、許可なくサテライトからドミノ都市部へ入ることは事実上不可能とされている。
何故なら、元々はドミノの旧市街地であったサテライトは現在ドミノ都市部の清浄化に伴って排斥された社会不適合者達の巣窟となり完全にスラム化しているからだ。そして政府は現在も都市部の治安維持を名目にそういった人々をサテライトに送り続けている。
サテライトはまさにドミノ都市部のゴミ捨て場というわけである。
結果、政府から見捨てられたその地はインフラ整備や医療体制はおろか完全な無法地帯となり果てているらしい。そこに送られた人々がどんな生活を送ることになるのか、想像に難くない。
少年は内心嘆息しながら列に戻ることにした。
逃げ出せるものなら逃げ出したいが、両手を拘束され武器になりそうなものもない現状ではそれは難しそうだ。
少年には自らが並ぶその列が処刑台に向かって伸びているようにしか思えなかった。
しかしそんな灰色の景色の中に、一際鮮やかな『赤』を見つけて少年は息を飲んだ。
「ーーー見つけた」
少女だった。
そう、思わず見とれてしまうほどに美しい少女だった。
見たところ歳は10歳かそこら。深紅のゴスロリ調のドレスに身を包み、サテライト行きの列の傍にどこか気品のある笑みを薄く浮かべながら軽やかに佇んでいる。
肌は白くまるで陶磁器のようだが、髪は対照的に鮮明な赤色。綺麗に撫で付けられ頭の上で結われている。濃い化粧をしているわけではないのに唇はぽってりと紅く艶やか。
何故こんな少女がこんな所にいるのか。
檻の中というわけではないが、ここはまだ留置場の敷地内だ。一般人がおいそれと入って来られる場所ではない。
明らかに彼女は異質だった。
少年と同じ浮浪児にしては彼女のの身なりは整いすぎていたし、ただ佇んでいるだけで何か気品のようなものを感じる。
薄汚れた卑しき者達の中にドレス姿の美少女。まるで雑巾の中のビロード、屑山の中のルビー。その違和感はまだ死神でも現れた方がしっくりくるというものだった。
彼女の存在に気付いた者達が次々にその動きを止める。
列の者達はもちろん回収業者の職員達ですら、あまりの事態に目を丸くしていた。
誰かが我に返るより先に彼女は動き始めた。まるで踊るような軽やかな足取りで少年に歩み寄る。
そして未だ呆気に取られる少年の前まで来ると親しげに笑んだ。
「久しぶりじゃのうーーー『斯波ユーイ』よ」
肌がぞわりと波打った。
鈴の鳴るような声色。そのわりに随分と老成した喋り方。
当然聞き覚えのある声ではない。
だが彼女の言葉には明らかに確信があった。彼女は少年のことを知っている。
「斯波(しば)……ユーイ……、それが俺の名前なのか……?」
得体の知れない少女である。恐怖が無いわけではない。しかしそれよりも自分のことが分かるかもしれないという期待が勝り、少年ーーー斯波ユーイは少女に念押しするように尋ねていた。
そうして口に出してみて、思っていた以上に以前の記憶がないことに自分がストレスを感じていたのだと気付き驚く。
考えてみれば当たり前のことだが、記憶がないというのは自分という存在を肯定する礎がないということだ。今にも崩れそうな足場の吊り橋を渡っているのと同じ。それはサテライトへ連行されるよりも遥かに確かな恐怖でしかなかった。
少女は勿体つけるようにたっぷりと間を空けて頷く。
その表情にはやはり笑みしかない。
「……ということは、俺が記憶喪失なのも承知の上ということか?」
ユーイが言うと、少女はくすりと笑みを深めた。
「なるほど、記憶はなくとも頭のキレは変わらぬか。興味深いな」
普通、自分の名前はこれか等とあんな質問をすれば多少なりとも顔に疑念が浮かぶはずだ。だが彼女はそれをあっさりと認めた。ユーイが記憶を失っていることを知っていなければ、あんな反応にはならない。
「君は以前の俺を知っている。そして俺が記憶を無くしていることも。君は何者だ? まさか只の美少女ってわけじゃあないんだろ?」
「儂を美少女と言うてくれるとは、中々口も上手くなったものよ。そうさの、儂のことは『人形(ドール)』とでも呼ぶが良い」
確かに彼女の容姿はまるでビスク・ドールのように恐ろしく整っている。しかし、だからといって『人形(ドール)』とは。
あからさまな偽名を名乗って彼女はユーイの反応を楽しむように下から覗き込む。
少女ーーードールの身長はユーイの胸の辺りまでしかない。当然、視線はユーイを見上げる形になるわけだが、こう近くで接しているとどうにも見下されている感が否めない。彼女の居丈高な物言いのせいだろうか。
「君の名前なんてどうでもいいが、その様子では俺の失った記憶について君の口から説明してくれるというわけではないようだな」
「儂としては主(ぬし)との逢瀬をゆっくり茶でも飲みながら楽しみたいところではあるが、状況は差し迫っておるでな。そうもいかんようじゃ」
確かにこうしてユーイとドールが会話している間に周りはその異様にざわつき始めている。回収業者の職員達も集まり出した
周りに注意を向けるユーイに、しかしドールは首を振る。
「いや、差し迫っておると言ったのは彼奴らのことではない」
「なに?」
「ーーー儂の『追っ手』の方じゃ」
彼女がそう言った途端、近くにあったコンクリートの壁が轟音と共に爆ぜるようにして砕けた。
コンクリートの塊がガラガラと転がり、砂埃が辺りを包み込む。
ユーイはとっさにドールの手を掴み、庇うように自分の後ろへと寄せた。
崩れた壁からぬっと現れたのは、人型の巨大な牛だった。
体長4~5メートルはあるだろうか。鎧を着て、手には大人1人分はあろうかという大きさの斧を握っている。
「《ミノタウルス》だ……」
誰かがそう呟いたのが聞こえた。
「ククク、こんなゴミ屑共の中にもそれなりに教養がある輩もいるらしい。オレの使うカードを知っているとはな」
立ち込める砂埃の中から1人の青年が現れた。
茶色い髪、整った顔立ち、身長は180センチ前後。まるでモデルのような均整の取れた容姿だが、その眼光は刃のように鋭い。
着ているのは詰襟の学生服であり年齢はユーイと然程変わるとは思えないが、纏っている雰囲気はまるで違う。その目や表情は、そこに雑然と立ち尽くす者達を等しく見下している。
ふとその視線がユーイに止まる。
「そこに居たか。遂に追い詰めたぞ、ドール」
違った。彼の視線の先はユーイではなくドールだった。青年にとってはユーイなどいないも同然とばかりに続ける。
「いい加減俺の手を煩わせるのは止めろ。一緒に来てもらうぞ、多少手荒なことをしてでもな」
先ほどドールの言っていた追っ手というのは彼のことで間違いないらしい。
それを受けてユーイは背後のドールを振り返った。
「え?」
しかしそこにいるはずのドールの姿はない。
先ほどまで、確かに彼女の手を握っていたはずの自らの手はいつの間にか代わりに空を握っていた。
「その程度の脅しに屈する儂と思うてか。随分と安く見られたものじゃな」
まるで消えるようにしてその手からすり抜けたドールは、既にユーイの前に出ていた。
「そう怪訝そうにするな。なに、手品のようなものじゃ。手品ついでに儂の用件も終えさせてもろうたがの」
そう言ってドールがにやりと笑う。
見るとユーイの両手を拘束していた手錠がない。代わりに上部がドーム状になった腕輪がその左手首に付けられていた。ドーム部分の手の甲側にはカードの束が差し込まれている。
「これは……デッキとデュエルディスクか!?」
ユーイに以前の記憶はないが、それが何であるかは一目で分かった。
それはこの世界で生きる上で命の次に不可欠なもの。自らの意思を通す剣であり、自らを害す物に抗う盾。闘う術(すべ)そのもの。
「これを俺が君に預けていただと!?」
「そうじゃ。主は『決闘者(デュエリスト)』じゃ」
『デュエリスト』はデュエルをする者。
魔力はこの世界の全ての人間が有している。故に、そういう意味では全人類がデュエリストであると言える。
しかしドールが言っているのは、そういう意味ではない。デュエリストの中には生まれた時からデュエルに魅入られているとしか思えない生き方を運命付けられている者達がいる。謂わば生粋のデュエリスト。生まれながらに闘いの運命を背負う者。ドールは、ユーイもその1人だと言っているのだ。
「儂が主に預けられておった物は3つ全て返した。これで主に会いに来た用件は済んだわけじゃが、ジャアハイサヨウナラとは行くまいの……」
ドールの視線の先には追っ手の青年。薄笑みを浮かべながら、一番上までしっかりと止められていた詰襟のボタンをぱちりと外す。
そしてその傍らには獰猛な鼻息を荒くするミノタウルス。
ドールの言の通り、どちらも彼女を取り逃がす気は毛頭なさそうだ。
「終わりだ、ドール。大人しく俺に捕まるなら良し。抵抗するならーーー」
青年が左腕を胸の高さに構える。そこにはユーイの物とは違うタイプのデュエルディスクが装着されている。
「デュエルで力付くーーーってわけか」
意気を上げる青年に対して、ドールはそれでも涼しい顔をしている。少なくとも表面上に焦りはない。ただただ美しいままだ。
「どうする気だ? 何か抵抗する手立てはあるのか?」
ドールは見たところ手ぶらだ。デッキやデュエルディスクはおろか武器になりそうなものすら持ってはいない。もっとも彼女が武器を手にしたところでデュエリスト相手に何ができるわけでもないだろうが。
ドールも追っ手の青年もユーイにとっては得体の知れない他人だ。どうなろうと知ったことではない。
だが流石に見た目年端も行かない少女が目の前で拐われるのを見殺しにするのは、あまり気分の良いものではない。
必要ならば手を貸そうかとユーイがその真意を聞き出そうとすると、ドールはきょとんとした顔で小首を傾げた。
「何を言うとる? 儂はデュエルなぞせん。あやつと闘うのは主ぞ」
とっておきのギャグがスベッた奴でも見るようにドールは眉を下げる。
「……何だって?」
「預かっていたものなら返したと言うとろう。デッキもデュエルディスクも『ピース』も。主が儂を守って闘うのにこれ以上不足はあるまい?」
「『ピース』?」
そこで初めて握りしめていた拳の中に何か硬い感触がするのに気付いた。
ゆっくりと開けて見ると、それはクッキーほどの大きさの金色の板だ。太さは1センチほど、歪な六芒星を思わせる形で、真ん中に目のようなマークが付いている。
「……これは何かの欠片……? いや、パズルのピースか?」
不思議なことにユーイには一目でそれが立体パズルの1ピースであることが解った。
ドールが満足気に頷く。
と同時に激しい立ち眩みがユーイを襲った。
「な、なんだ……これは……!?」
急激に視界が歪む。
いや、見えているものが歪んでいるのではない。脳にいきなり凄まじい量の情報が流れ込み、処理が追い付かないために視神経が混乱を起こしているのだ。
次から次へと頭の中にデュエルに関する知識や経験が流れ込んでくる。
不思議と確信があった。これは以前ユーイ自身が経験し学んできた闘いの記憶なのだと。
体感では数十時間、実際にユーイが放心していたのは数十秒程度。記憶の奔流は身体の細胞を隅々まで染み着くように満たしていく。
まるで脳に直接響くようにドールの言葉が聞こえる。
「それは『斯波ユーイ』というパズルの1ピース。今は失われた主の過去と未来を導く一欠片じゃ。取り戻せ、デュエリストとしての主を。儂はそのために来たのじゃから……」
ただ立ち尽くすユーイを慈しむようにドールは見上げていた。
その様子を苛立たし気に追っ手の青年が見やる。
「その薄汚い雑魚が俺の相手をするだと? 巫山戯たガキだとは思っていたが、追い詰められていよいよ頭がおかしくなったか?」
「儂は大真面目じゃぞ。というより、ユーイのデュエリストとしてのリハビリに貴様程度では分不相応かもしれんがの」
青年の挑発めいた言葉に、ドールは余裕綽々といった風にけらけらと笑う。
対して青年の方はぎりと奥歯を鳴らす。
「貴様……ッ、この俺が誰なのか知らないらしいな……ッ!」
頭に血が昇りそうになるのを、彼は努めて押さえつけた。
この辺りの感情のコントロールはデュエリストとしての彼の技量の高さを窺わせる。
怒りに歪みそうになる表情に無理矢理笑みを作り、彼は両手を広げた。
「よかろう、そいつとデュエルしてやる。だが、このデュエルに俺が勝ったら貴様は無駄な抵抗などせず大人しくこちらの言うことを聞くことを誓ってもらおうか」
「構わぬ。その代わりこちらが勝てば貴様のデュエリストとしての命を戴くぞ」
ドールの言葉に青年は面白い冗談を聞いたようにくつくつと笑う。
「そんな可能性など万に一つもないがな。良いだろう。絶望を見せてくれるーーー」
未だ立ち尽くすユーイとその勝利を信じて疑わないドールに、青年は嗜虐的な笑みを浮かべた。
「ーーーこの『海馬セト』がなッ!!」
この世界は1枚のカードに似ている
表に踏み出せば幸福という名の翼を得(え)
裏に踏み外せば絶望の濁流に落ちる
そんなか細く頼りないカードの縁(ふち)を
我々は皆
希望と恐怖を抱えながら
怖ず怖ずと歩んでいるに過ぎないのだ
☆☆☆
この世界を支配しているのは『デュエル』だ。
デュエルとは身体に宿る『魔力(ヘカ)』を用いてカードに宿るモンスターや魔法や罠をこの世に顕現させ行う闘いの儀式。
それは世界中で大人から子供まで日常的に『行われている』。だが『楽しまれている』かと問われれば、答えはNOだ。
ここではありとあらゆる物事がデュエルの勝敗によって決定される。それは飲んだお茶の代金をどちらが支払うかというような他愛もない出来事も、国家間の紛争のような抜き差しならない事柄も、等しくである。
どんなに理不尽なことであろうと、デュエルの結果次第ではそれが罷り通ってしまう。どれほど非道な結果になろうとも負けた側は涙を飲むしかない。例えそのデュエルに賭けられているのが、金であろうと愛であろうと命であろうと。
デュエルは不変かつ絶対の『理(ことわり)』なのだ。
そしてここにもその理によって今まさに絶望の濁流へ突き落とされようとしている少年が1人いた。
膝を硬い靴裏に叩かれて、少年はその場に倒れてしまった。
すでに両手を手錠で拘束されているため、受け身も取れず盛大に地面に頬擦りすることになる。
「オラァ! ちんたらしてんじゃねぇよ! きびきび歩けッ! このウスノロがッ!!」
頭の両サイドを刈り上げたモヒカン頭の大柄な男が、床に突っ伏す彼に罵声を浴びせる。少年を蹴倒したこの男のしゃべる度に、歯滓にまみれた口から唾が飛んで少年の背中を汚す。
ゆっくりと顔を上げた少年は、どこか中性的な顔立ちだった。
伸び放題に伸びた感じの長い黒髪から相手を射抜くように真っ直ぐな瞳が覗く。
歳は10代後半くらい。身長は特別高くはないが低くもなく、少し痩せ気味な体型。薄汚れてはいるが見ようによってはそれなりに整った容姿ではある。
「なんだァ、テメェ、その目はよォ!? なんか俺様に文句でもありそうな顔付きじゃあねェーかよ!?」
少年のその眼差しが気に入らなかったのだろう、男が顔を赤くする。
だが少年は視線を外すことなく口を開く。
「俺は……これから何処に連れて行かれるんだ?」
男の怒りに染まった頬などまるで気にする素振りもなく少年は訊く。
しかしそれは火に油を注ぐ行為でしかない。男のこめかみに青筋が浮かんだ。
「テメェ……この刈田(かりた)様を虚仮にしてんのか……アァ!?」
「虚仮になんかしていない。あんたになんか興味はないさ。俺が知りたいのは、これから何処に行くかだけだ」
「テメェッ!!」
刈田と名乗る男は激昂し再び少年を蹴りつける。
今度は横倒しに地面に倒れる少年。
「テメェみてェな何の役にも立たねェカス野郎の行き先なんざァ『サテライト』に決まってんだろうがッ! ゴミはちゃあんとゴミ捨て場に捨てなきゃあならねェからなッ! 当たり前のことだッ!」
地面に倒れたまま少年は考える。
男の言葉はある意味で正しい。自分が社会にとって何の役にも立たないのは確かだろう。
なにせ自分には『記憶がない』。社会通念とか一般的な知識はあるのだが、自分に関する記憶だけがすっぽりと抜け落ちていた。それこそ自身の名前すら分からない有り様だ。気付いたら街の中に立ち尽くしていた。
どうすれば良いのか、何処へ行けば良いのか分からず、行き場を失って街を彷徨っていたところを彼らに捕まり、留置場らしき所に入れられて数日。行き先は収容所かと思っていたが、言われてみれば犯罪者というわけではないのだから街からの追放措置というわけか。収容所とどちらがマシだったかはよく分からないが。
「テメェらにもちったぁマシな魔力でもありゃあ使い道もあっただろうによォ! 金もネェ、知識もネェ、技能もネェ、おまけに魔力もネェとくりゃあ、テメェらみてぇな奴らにゃゴミ溜め以外に行き場所なんざネェってこったッ!」
少年が歩かされている列には他にも何人か同じように歩かされていた。
身なりからして、少年と似たり寄ったりの浮浪者達か。
確かに皆、留置場内で何らかの機械で何やら検査をいくつか受けた。あれが内在する魔力を測定する検査だったのだろう。当然検査結果を知らされるなんてことはなかったが、この感じでは少年の魔力量も大した値ではなかったのだろう。魔力が高ければどんなことに役に立つのか想像もつかないが、この世界では魔力の低い人間には価値などないことは知っていた。
自分達はこれから一緒に護送車か何かに詰め込まれサテライトへと運ばれるのだろう。
確かにまるでゴミ清掃車だ。ならばさしずめ刈田達はゴミの回収業者といったところか。
そんなことをぼんやりと考えていると、刈田とは別の回収業者の男に首根っこを捕まれ引き起こされた。
「ぐずぐずするな、立て。立って歩け」
無理矢理立たされて突き出される。列を乱すなということだろう。列を乱したのは少年ではないのだが。
チラリとそちらを伺うと、刈田はまだ苛立ちを抑えられないようにこちらを見ていた。
「このゴミ野郎が……ッ! 向こうに着いたら地獄を見せてやるから覚えてろよ……ッ!」
どうやら完全に逆恨みを買ってしまったらしい。口振りから彼も一緒にサテライトへ来るようだし、これは面倒なことになりそうだ。
サテライトは、土地としては王都『ドミノ』の一部であるのは間違いない。
しかし都市部とは海峡を隔てた飛び地にあり、ドミノとは連絡橋1本でしか往き来できない。その橋上も海上も警備は厳重であり、許可なくサテライトからドミノ都市部へ入ることは事実上不可能とされている。
何故なら、元々はドミノの旧市街地であったサテライトは現在ドミノ都市部の清浄化に伴って排斥された社会不適合者達の巣窟となり完全にスラム化しているからだ。そして政府は現在も都市部の治安維持を名目にそういった人々をサテライトに送り続けている。
サテライトはまさにドミノ都市部のゴミ捨て場というわけである。
結果、政府から見捨てられたその地はインフラ整備や医療体制はおろか完全な無法地帯となり果てているらしい。そこに送られた人々がどんな生活を送ることになるのか、想像に難くない。
少年は内心嘆息しながら列に戻ることにした。
逃げ出せるものなら逃げ出したいが、両手を拘束され武器になりそうなものもない現状ではそれは難しそうだ。
少年には自らが並ぶその列が処刑台に向かって伸びているようにしか思えなかった。
しかしそんな灰色の景色の中に、一際鮮やかな『赤』を見つけて少年は息を飲んだ。
「ーーー見つけた」
少女だった。
そう、思わず見とれてしまうほどに美しい少女だった。
見たところ歳は10歳かそこら。深紅のゴスロリ調のドレスに身を包み、サテライト行きの列の傍にどこか気品のある笑みを薄く浮かべながら軽やかに佇んでいる。
肌は白くまるで陶磁器のようだが、髪は対照的に鮮明な赤色。綺麗に撫で付けられ頭の上で結われている。濃い化粧をしているわけではないのに唇はぽってりと紅く艶やか。
何故こんな少女がこんな所にいるのか。
檻の中というわけではないが、ここはまだ留置場の敷地内だ。一般人がおいそれと入って来られる場所ではない。
明らかに彼女は異質だった。
少年と同じ浮浪児にしては彼女のの身なりは整いすぎていたし、ただ佇んでいるだけで何か気品のようなものを感じる。
薄汚れた卑しき者達の中にドレス姿の美少女。まるで雑巾の中のビロード、屑山の中のルビー。その違和感はまだ死神でも現れた方がしっくりくるというものだった。
彼女の存在に気付いた者達が次々にその動きを止める。
列の者達はもちろん回収業者の職員達ですら、あまりの事態に目を丸くしていた。
誰かが我に返るより先に彼女は動き始めた。まるで踊るような軽やかな足取りで少年に歩み寄る。
そして未だ呆気に取られる少年の前まで来ると親しげに笑んだ。
「久しぶりじゃのうーーー『斯波ユーイ』よ」
肌がぞわりと波打った。
鈴の鳴るような声色。そのわりに随分と老成した喋り方。
当然聞き覚えのある声ではない。
だが彼女の言葉には明らかに確信があった。彼女は少年のことを知っている。
「斯波(しば)……ユーイ……、それが俺の名前なのか……?」
得体の知れない少女である。恐怖が無いわけではない。しかしそれよりも自分のことが分かるかもしれないという期待が勝り、少年ーーー斯波ユーイは少女に念押しするように尋ねていた。
そうして口に出してみて、思っていた以上に以前の記憶がないことに自分がストレスを感じていたのだと気付き驚く。
考えてみれば当たり前のことだが、記憶がないというのは自分という存在を肯定する礎がないということだ。今にも崩れそうな足場の吊り橋を渡っているのと同じ。それはサテライトへ連行されるよりも遥かに確かな恐怖でしかなかった。
少女は勿体つけるようにたっぷりと間を空けて頷く。
その表情にはやはり笑みしかない。
「……ということは、俺が記憶喪失なのも承知の上ということか?」
ユーイが言うと、少女はくすりと笑みを深めた。
「なるほど、記憶はなくとも頭のキレは変わらぬか。興味深いな」
普通、自分の名前はこれか等とあんな質問をすれば多少なりとも顔に疑念が浮かぶはずだ。だが彼女はそれをあっさりと認めた。ユーイが記憶を失っていることを知っていなければ、あんな反応にはならない。
「君は以前の俺を知っている。そして俺が記憶を無くしていることも。君は何者だ? まさか只の美少女ってわけじゃあないんだろ?」
「儂を美少女と言うてくれるとは、中々口も上手くなったものよ。そうさの、儂のことは『人形(ドール)』とでも呼ぶが良い」
確かに彼女の容姿はまるでビスク・ドールのように恐ろしく整っている。しかし、だからといって『人形(ドール)』とは。
あからさまな偽名を名乗って彼女はユーイの反応を楽しむように下から覗き込む。
少女ーーードールの身長はユーイの胸の辺りまでしかない。当然、視線はユーイを見上げる形になるわけだが、こう近くで接しているとどうにも見下されている感が否めない。彼女の居丈高な物言いのせいだろうか。
「君の名前なんてどうでもいいが、その様子では俺の失った記憶について君の口から説明してくれるというわけではないようだな」
「儂としては主(ぬし)との逢瀬をゆっくり茶でも飲みながら楽しみたいところではあるが、状況は差し迫っておるでな。そうもいかんようじゃ」
確かにこうしてユーイとドールが会話している間に周りはその異様にざわつき始めている。回収業者の職員達も集まり出した
周りに注意を向けるユーイに、しかしドールは首を振る。
「いや、差し迫っておると言ったのは彼奴らのことではない」
「なに?」
「ーーー儂の『追っ手』の方じゃ」
彼女がそう言った途端、近くにあったコンクリートの壁が轟音と共に爆ぜるようにして砕けた。
コンクリートの塊がガラガラと転がり、砂埃が辺りを包み込む。
ユーイはとっさにドールの手を掴み、庇うように自分の後ろへと寄せた。
崩れた壁からぬっと現れたのは、人型の巨大な牛だった。
体長4~5メートルはあるだろうか。鎧を着て、手には大人1人分はあろうかという大きさの斧を握っている。
「《ミノタウルス》だ……」
誰かがそう呟いたのが聞こえた。
「ククク、こんなゴミ屑共の中にもそれなりに教養がある輩もいるらしい。オレの使うカードを知っているとはな」
立ち込める砂埃の中から1人の青年が現れた。
茶色い髪、整った顔立ち、身長は180センチ前後。まるでモデルのような均整の取れた容姿だが、その眼光は刃のように鋭い。
着ているのは詰襟の学生服であり年齢はユーイと然程変わるとは思えないが、纏っている雰囲気はまるで違う。その目や表情は、そこに雑然と立ち尽くす者達を等しく見下している。
ふとその視線がユーイに止まる。
「そこに居たか。遂に追い詰めたぞ、ドール」
違った。彼の視線の先はユーイではなくドールだった。青年にとってはユーイなどいないも同然とばかりに続ける。
「いい加減俺の手を煩わせるのは止めろ。一緒に来てもらうぞ、多少手荒なことをしてでもな」
先ほどドールの言っていた追っ手というのは彼のことで間違いないらしい。
それを受けてユーイは背後のドールを振り返った。
「え?」
しかしそこにいるはずのドールの姿はない。
先ほどまで、確かに彼女の手を握っていたはずの自らの手はいつの間にか代わりに空を握っていた。
「その程度の脅しに屈する儂と思うてか。随分と安く見られたものじゃな」
まるで消えるようにしてその手からすり抜けたドールは、既にユーイの前に出ていた。
「そう怪訝そうにするな。なに、手品のようなものじゃ。手品ついでに儂の用件も終えさせてもろうたがの」
そう言ってドールがにやりと笑う。
見るとユーイの両手を拘束していた手錠がない。代わりに上部がドーム状になった腕輪がその左手首に付けられていた。ドーム部分の手の甲側にはカードの束が差し込まれている。
「これは……デッキとデュエルディスクか!?」
ユーイに以前の記憶はないが、それが何であるかは一目で分かった。
それはこの世界で生きる上で命の次に不可欠なもの。自らの意思を通す剣であり、自らを害す物に抗う盾。闘う術(すべ)そのもの。
「これを俺が君に預けていただと!?」
「そうじゃ。主は『決闘者(デュエリスト)』じゃ」
『デュエリスト』はデュエルをする者。
魔力はこの世界の全ての人間が有している。故に、そういう意味では全人類がデュエリストであると言える。
しかしドールが言っているのは、そういう意味ではない。デュエリストの中には生まれた時からデュエルに魅入られているとしか思えない生き方を運命付けられている者達がいる。謂わば生粋のデュエリスト。生まれながらに闘いの運命を背負う者。ドールは、ユーイもその1人だと言っているのだ。
「儂が主に預けられておった物は3つ全て返した。これで主に会いに来た用件は済んだわけじゃが、ジャアハイサヨウナラとは行くまいの……」
ドールの視線の先には追っ手の青年。薄笑みを浮かべながら、一番上までしっかりと止められていた詰襟のボタンをぱちりと外す。
そしてその傍らには獰猛な鼻息を荒くするミノタウルス。
ドールの言の通り、どちらも彼女を取り逃がす気は毛頭なさそうだ。
「終わりだ、ドール。大人しく俺に捕まるなら良し。抵抗するならーーー」
青年が左腕を胸の高さに構える。そこにはユーイの物とは違うタイプのデュエルディスクが装着されている。
「デュエルで力付くーーーってわけか」
意気を上げる青年に対して、ドールはそれでも涼しい顔をしている。少なくとも表面上に焦りはない。ただただ美しいままだ。
「どうする気だ? 何か抵抗する手立てはあるのか?」
ドールは見たところ手ぶらだ。デッキやデュエルディスクはおろか武器になりそうなものすら持ってはいない。もっとも彼女が武器を手にしたところでデュエリスト相手に何ができるわけでもないだろうが。
ドールも追っ手の青年もユーイにとっては得体の知れない他人だ。どうなろうと知ったことではない。
だが流石に見た目年端も行かない少女が目の前で拐われるのを見殺しにするのは、あまり気分の良いものではない。
必要ならば手を貸そうかとユーイがその真意を聞き出そうとすると、ドールはきょとんとした顔で小首を傾げた。
「何を言うとる? 儂はデュエルなぞせん。あやつと闘うのは主ぞ」
とっておきのギャグがスベッた奴でも見るようにドールは眉を下げる。
「……何だって?」
「預かっていたものなら返したと言うとろう。デッキもデュエルディスクも『ピース』も。主が儂を守って闘うのにこれ以上不足はあるまい?」
「『ピース』?」
そこで初めて握りしめていた拳の中に何か硬い感触がするのに気付いた。
ゆっくりと開けて見ると、それはクッキーほどの大きさの金色の板だ。太さは1センチほど、歪な六芒星を思わせる形で、真ん中に目のようなマークが付いている。
「……これは何かの欠片……? いや、パズルのピースか?」
不思議なことにユーイには一目でそれが立体パズルの1ピースであることが解った。
ドールが満足気に頷く。
と同時に激しい立ち眩みがユーイを襲った。
「な、なんだ……これは……!?」
急激に視界が歪む。
いや、見えているものが歪んでいるのではない。脳にいきなり凄まじい量の情報が流れ込み、処理が追い付かないために視神経が混乱を起こしているのだ。
次から次へと頭の中にデュエルに関する知識や経験が流れ込んでくる。
不思議と確信があった。これは以前ユーイ自身が経験し学んできた闘いの記憶なのだと。
体感では数十時間、実際にユーイが放心していたのは数十秒程度。記憶の奔流は身体の細胞を隅々まで染み着くように満たしていく。
まるで脳に直接響くようにドールの言葉が聞こえる。
「それは『斯波ユーイ』というパズルの1ピース。今は失われた主の過去と未来を導く一欠片じゃ。取り戻せ、デュエリストとしての主を。儂はそのために来たのじゃから……」
ただ立ち尽くすユーイを慈しむようにドールは見上げていた。
その様子を苛立たし気に追っ手の青年が見やる。
「その薄汚い雑魚が俺の相手をするだと? 巫山戯たガキだとは思っていたが、追い詰められていよいよ頭がおかしくなったか?」
「儂は大真面目じゃぞ。というより、ユーイのデュエリストとしてのリハビリに貴様程度では分不相応かもしれんがの」
青年の挑発めいた言葉に、ドールは余裕綽々といった風にけらけらと笑う。
対して青年の方はぎりと奥歯を鳴らす。
「貴様……ッ、この俺が誰なのか知らないらしいな……ッ!」
頭に血が昇りそうになるのを、彼は努めて押さえつけた。
この辺りの感情のコントロールはデュエリストとしての彼の技量の高さを窺わせる。
怒りに歪みそうになる表情に無理矢理笑みを作り、彼は両手を広げた。
「よかろう、そいつとデュエルしてやる。だが、このデュエルに俺が勝ったら貴様は無駄な抵抗などせず大人しくこちらの言うことを聞くことを誓ってもらおうか」
「構わぬ。その代わりこちらが勝てば貴様のデュエリストとしての命を戴くぞ」
ドールの言葉に青年は面白い冗談を聞いたようにくつくつと笑う。
「そんな可能性など万に一つもないがな。良いだろう。絶望を見せてくれるーーー」
未だ立ち尽くすユーイとその勝利を信じて疑わないドールに、青年は嗜虐的な笑みを浮かべた。
「ーーーこの『海馬セト』がなッ!!」
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Amazonのアソシエイトとして、管理人は適格販売により収入を得ています。
また拙作を書き始めました。
プロットは壮大なのに根気が続かないワタクシです。あるあるですね。
ヨロシクお願いいたします。
次回、遊戯王LOTD
「最強VS最弱」
お楽しみに!! (2020-10-20 08:00)
初代と5Dsの雰囲気を出した新作。早速セトと名乗るデュエリストと闘うこととなりましたが、果たしてユーイさんは勝てるのか?
次回も楽しみに待ってます。 (2020-10-20 15:49)
コメントありがとうございます!大変励みになります!
タイトルからも分かる通り、遊戯王シリーズ全てを又にかけた作品にするつもりです。これからもよろしくお願いします。
(2020-10-20 18:47)