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0018:煉獄へのいざない 作:天2
0018:煉獄へのいざない
オレが テメェを 追い詰めるのは
この果てなき渇きを
満たす方法を
それ以外に 知らないからだ
☆☆☆
サテライトの暗く狭い路地を3人分の荒い息が走り抜けていく。
サテライトの路地は無計画に建てられた建物のせいで入り組み雑多に物が散らかっているため走りにくいが、身を隠すには適している。
「はぁ、はぁ、何とか巻いたか?」
乱暴に触れば今にも崩れそうな外壁に寄りかかるようにしゃがみ込み、肩で息をする城之内が問うがそれに応える者はいない。
「いや、まだだな」
そう遠くないところから自分達を探す奴らの声が尚も聞こえている。
追っ手はまだ諦めてくれてはいないようだ。
「クソッ、しつけー奴らだぜ」
悪態をつくが、その声に力はない。
後ろを振り返ると、追い付いてきたユーイとハヤト。2人共自分と同じく疲労困憊の様子。
日はすでに落ちており、普段なら闇が辺りを包み込む時刻。
しかし今夜は月が明るく、こうして近付けば滴り落ちる汗の一雫すら目視できる。
「……彼らも必死なんだな。ボスの命令は絶対だから、オレ達を逃がせばどんな仕置きが待っているか分からない」
決して運動能力に恵まれてはいないハヤトだが、ここまでは何とか城之内達に食らいついてきている。その顔色は青くすでに限界に近い様子ではあるが、それでも決して城之内達から離れないという強い気持ちは感じる。
(根性のある奴だぜ。……なら、問題はむしろこっちか)
グールズの兵隊達に追い回されている今の状況は穏やかな性格のハヤトにとって辛いはずだ。だが弱音も吐かずパニックにもならずに着いてきてくれる。そのことに城之内は感嘆を覚える。
ハヤトはまだ大丈夫だ。
だがーーーと、城之内は一言も発しようとしないもう1人の仲間ーーーユーイに視線を向けた。
普通ならハヤトよりも体力がありそうなユーイだが、今その顔は青ざめながらも暗い陰を落としていた。荒い息を短く繰り返し、顔を上げることもできないでいる。その疲弊度は城之内やハヤトと比べ物にならない。
(ヤベーな……。思った以上にキてる。ユーイがこの調子じゃあオレが何とかするしかねーが、正直どうすれば良いのかさっぱり思いつかねー)
思っていた以上に自分達がユーイに依存していた事実を今更ながら実感する。情けないことだが、ユーイが指針を示してくれないとどう動けば良いか見当も付かないのだ。
グールズが蛭谷の命令で動いているように、城之内を含むチームの頭はユーイだった。
立場で言えば、ユーイがリーダーで、ドールが参謀といったところか。
(2人の内、どっちかだけでも健在ならこんな闇雲に逃げなくても良いのに……)
ユーイの消耗度は先の通りだ。
だがその背に負ぶわれているドールの状態は更に深刻だった。
走ったわけでもないのにその額には玉の汗が光り、元より白い肌が更に真っ白に冷めている。苦しげな浅い呼吸を繰り返し、眉間には深い皺が刻まれていた。
どう見ても普通の状態ではない。すぐにでも医者に診せなければ、もしかしたら生死に関わるかもしれないくらいだ。
(どうしてこうなっちまったんだ……!)
城之内は悔恨する。
全ては彼らの前に1人の青年が立ちはだかったことから始まった。
☆☆☆
遡ること2時間程前ーーー。
ユーイ達は今夜のねぐらを探して街を彷徨っていた。
無論サテライトに宿などなく、ハヤトの住んでいたところはグールズの息がかかっているため使えない。仕方なく主人がおらず、それでいて落ち着くことのできる建物を探して歩き回ることになった。
幸い季節は温暖で、毛布等の防寒がなくとも凍死する心配はない。グールズの連中に見つかりにくい屋内ならば何処でも良かった。
しかしユーイの推測よりグールズの動きは迅速だった。
まるでこちらの動きを完全に予測していたかのように居場所を掴まれ、彼らはユーイ達の前に現れたのだ。
最初に姿を現したのは、パーカーのフードを目深に被った青年だった。
「ようやく見つけたぜ」
妙にしゃがれた声でそいつが呟く。
(こちらの予測を遥かに上回る早さで現れたくせに『ようやく』かよ……)
一目見て追っ手だと気付いたユーイ達は身構える。
「たった1人でのこのこと現れるとは、良い度胸じゃあねーか! いいぜ、オレが相手になってーーー」
威勢を張り上げ、デュエルディスクを構えようとする城之内を制したのはユーイだった。
その表情には強い警戒が浮かんでいる。
「どうやら1人ってわけじゃあないらしいぜ、城之内くん。囲まれている」
ユーイの言葉にパーカーの青年がにやりと嗤ったのが雰囲気で解る。
「よく気付いたな。出てこい、テメェら」
その言葉を合図に、周りの建物や路地からぞろぞろと人が現れ出てきた。
歳も身なりもそれぞれの輩達。だが共通してその面構えは敵対的だ。グールズの構成員であろうことは疑いようがない。
「マジかよ。いつの間にこんな……ッ!」
ユーイ達とてそう迂闊ではない。ねぐらを探す間も人通りのある道もグールズらしきグループの気配も避けて行動してきた。
城之内が驚愕するのも無理はないが、結果はいま眼前でユーイ達を取り囲む男達の姿から明らかだ。
「どうやら儂らは、あやつの意のまま此処に追い込まれておったようじゃの」
大きな音を立てることで魚を網の方へと誘導し、一網打尽にする漁法がある。ユーイ達はそれと同じようにまんまと彼らの罠に嵌まってしまったようだ。
「心配するな、こいつらはテメェらを逃がさないためのただの壁。闘うのはあくまで俺1人だ」
どうやら彼らのリーダーらしき青年がそう言ってデュエルディスクを構える。
彼の指示でここまでユーイ達を翻弄したのなら大した手腕だが、1人でデュエルの相手をすると言うその実力は果たしてどれほどのものなのか。
「1人でオレ達の相手をするだと? ナメられたもんだぜ! ならここはこの城之内サマが相手してやんぜッ!!」
「テメェが?」
ずいと前に出る城之内を値踏みするように青年は小首を傾げる。
「……違うな」
「あ?」
青年は残念そうに首を振る。
「俺の獲物はテメェじゃあない。そっちの黒髪、瓜生をやったリンク使いってのはテメェだろ」
城之内を無視して青年はユーイを指し示す。
指名された形のユーイは顔を険しくし、青年へと視線を飛ばす。
「良い顔をするじゃあねェか。デュエリストはそうじゃなくちゃあいけねェ。狩れて当たり前の雑魚をいくら喰ったところで、オレの飢えは満たされねェからなッ!」
愉しそうに青年は被っていたフードを脱ぐ。
白藍色の髪が揺れ、青年の素顔が露になった。目は鋭いが意外と美形だ。
目を引くのは、額から右目を通り頬にかけて走る黄色いライン。これは一度何らかの罪によりセキュリティに捕まった証。監視と脱走防止のためにセンサーが組み込まれたマーカーだ。
青年は嗤っていた。まるで目の前の特上ステーキに舌舐めずりするかのように。
「喰い尽くしてやるぜッ! この『鬼柳キョウスケ』がなッ!!」
瞬間、『鬼柳(きりゅう)』と名乗った青年から重く暗いオーラが吹き出した。
「なッ……ぐぅ……ッ!!」
まるでここだけ重力が変わったかのような圧力に、はっきり『雑魚』と呼ばれた城之内も言い返すことができない。
「こやつ……ッ、今までの輩とは明らかにレベルが違う……ッ!」
圧されているのはドールやハヤトも同様だった。肩を上から押さえ付けられているようで、気を抜けば膝を折ってしまいそうになる。
叩き付けられる鬼柳の闘気は、肌が震えるという程度では到底ない。肌にまとわりつくようで、それでいて灼かれているかのような感覚をユーイも受けていた。
(この凄まじい魔力の波動……ッ! ただでやり過ごせるような相手じゃあないッ! 闘うしかないッ!!)
鬼柳の放つオーラの正体は、彼の持つ魔力の波動。
鬼柳は特別なにかをしたわけではない。ただ自らに流れる魔力を外側に解放しただけ。
ただそのあまりの濃度に、まるでオーラが視覚化されたように感じられ、意図せずこちらが威圧されてしまったのだ。
これほどの力を持つ相手に下手な小細工は通じないだろう。真っ直ぐ全力でぶつかり、正面から打ち倒すしか突破する術はない。
ユーイは決意を固めて前に出る。
「ユーイ……ッ!!」
今日はこれで3戦目。前の2戦もそう容易い闘いではなかった。当然消耗も著しい。
だがこの闘いを避けて通るわけにはいかない。
それを分かっている城之内達は、心配はすれどユーイを止めることはできなかった。このとんでもない魔力の相手に対抗できるのはユーイ以外にいないのだから。
ユーイは進み、鬼柳と十数メートルの距離を取り対峙した。
「鬼柳ーーーって言ったな。アンタ程の魔力の持ち主が何故グールズなんかの尖兵なんてやってる? それともその魔力もモーメントで増幅させた結果なのか?」
ユーイは瓜生の時と同じ質問を口にする。
グールズのやっていることーーー特にモーメントに関することは明確な悪だ。ユーイにはその悪に加担する人間の意図が解らない。
瓜生のように正しさより力を求めるからか、ハヤトのように止むに止まれぬ理由によるものか、それとも城之内と闘ったトランプのように悪の道にしか居場所がないからか。
だが鬼柳はその問いにヘラヘラした薄笑いで応える。
「グールズにいる理由だと? ハッ! 理由なんざねェよ。グールズに身を置いてるのは、ただのお遊びみてェなもんだ。オレの目的は、オレを満足させられるデュエリストと命そのものを賭けそいつを削り合い摩耗し合う、そういうギリギリのデュエルをすることーーーそれだけだッ」
『グールズなど、ただの遊び』。その言葉に辺りを取り囲む兵隊達からざわめきが起こるのも構わず鬼柳は叫ぶ。
「平和主義とやらを掲げるマヌケ共ならこう言うかもなッ! 何故そんなにも戦いを求めるのかーーーてなァ! だがオレにしてみれば、そっちの方が不気味だぜッ! デュエリストに生まれ落ちて何故戦いを求めねェ!? 戦いを求めるのはデュエリストの本能だッ!!」
高揚しながら自らの主張を声高に述べる鬼柳を、ユーイは静かに見据えていた。
その意見を血迷った妄言と切って捨てることはできない。何故ならユーイ自身、デュエリストは闘いを求めるものという部分には共感できるからだ。
だが絶対に認められないこともある。
「確かにデュエリストとはデュエルを求めるものだ。だがそれは誰かを傷付けるための戦いなんかじゃあない。それじゃあただの暴力と変わらないじゃあないか。デュエルとは、互いのプライドと魂を掛けて闘う、正に『決闘』なんだッ。浅ましい暴悪と断じて同じなんかじゃあないッ!!」
まるで命の瀬戸際まで互いを追い込むような鬼柳のデュエル感に、ユーイは激しい拒否感を示した。
デュエルが闘争の一種であることは否定できないが、ユーイにとってそれはもっと高尚なコミュニケーションとしての側面が強かった。『戦い』ではなく『闘い』。ただ相手を蹂躙するためではなく、互いにリスペクトを持ち相手を認め合い高め合う、そういうものであるべきなのだ。謂わば『魂の交歓』といったところか。
ユーイと鬼柳のデュエル感には大きな隔たりがある。
しかし鬼柳はそれを愉快そうに嗤っていた。
「ここまで違うとどれだけ言葉を尽くそうが平行線だ。だがお互いの主張が真っ向から対立してるってのも悪くねェ。戦いの良いスパイスになるってもんだぜ」
鬼柳は再びディスクを掲げた。
「おしゃべりは終わりだ。始めようぜ、オレ達の戦いをよッ! テメェの味を見せてみやがれッ!!」
ユーイも仕方なくそれに従う。
元より魔力の少ないユーイには、前の2戦の消耗がここにきてずしりと身体にのし掛かってきている。できることなら避けたいデュエルだが、鬼柳の脅威はそういうわけには行かせてはくれない。
丹田に活を入れ、ユーイも内なる魔力を高めていく。
ーーー「デュエル!!」ーーー
ユーイ:LP4000
鬼柳:LP4000
互いにデッキから初手を引き抜く。
「先攻はオレが貰うぜッ!」
先攻は鬼柳。
初手からカードを3枚選ぶと、ディスクにセットする。
「カードを2枚伏せ、《インフェルニティ・デーモン》を召喚するぜッ」
鬼柳のフィールドに伏せカードが2枚出現し、更に山羊面に燃えるような赤い鬣(たてがみ)の悪魔が姿を現した。
†
《インフェルニティ・デーモン》
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1800/守1200
(1):手札が0枚の場合にこのカードをドローした時、このカードを相手に見せて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
(2):このカードが特殊召喚に成功した時に発動できる。デッキから「インフェルニティ」カード1枚を手札に加える。この効果は自分の手札が0枚の場合に発動と処理ができる。
†
「ククク、これでターン終了だ……!」
鬼柳:LP4000/手札2
●モンスター
インフェルニティ・デーモン:ATK1800
●魔法・罠
伏せカード2枚
ユーイ:LP4000/手札5
●モンスター
なし
●魔法・罠
なし
「俺のターン、ドロー!」
後攻のユーイがデッキからカードをドローする。
《インフェルニティ・デーモン》の攻撃力は1800。下級モンスターとしてはそれなりだが、超えるのはそう難しい数値ではない。
(2枚の伏せカードは気がかりだが、出し惜しみしていてはいつやられるか分からないッ。ここはこちらから攻めるしかないッ)
「俺は手札から《ドラコネット》を召喚!」
ユーイが召喚したのは、まるで飛竜のような形をした電子生命体型のサイバースモンスター。
†
《ドラコネット》
効果モンスター
星3/闇属性/サイバース族/攻1400/守1200
(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札・デッキからレベル2以下の通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
†
「《ドラコネット》の召喚時効果! 俺はデッキから《ビットロン》を特殊召喚する!」
†
《ビットロン》
通常モンスター
星2/地属性/サイバース族/攻 200/守2000
電子空間で見つけた新種。その情報量は少ない。
†
《ドラコネット》は召喚に成功すると、手札・デッキからレベル2以下の通常モンスターを特殊召喚することができる。
特殊召喚できるのはレベルの低い通常モンスターのみとは言え、召喚するだけでアドバンテージを稼げるのは手軽だし、特殊召喚する通常モンスターによっては様々なコンボの基点になることができる優秀なモンスターだ。
更にその効果で特殊召喚したのは、飛行機のような形の電子生命体。
守備力はそれなりだがレベルも攻撃力も低く、攻撃性能は期待できない。だがリンク召喚の素材としてなら、それらは関係ない。
ユーイは空に手をかざした。
「現れろッ、未来を導くサーキット!」
その先の空にサーキットが描かれる。
鬼柳はそれを見上げて「ホウ……」と唸った。
「召喚条件はリンクモンスター以外のモンスター2体! 俺は《ドラコネット》と《ビットロン》をリンクマーカーにセット!」
ユーイがEXデッキからリンクマーカーを選び出したことで、それに対応した右下・左下のリンクマーカーが点灯し、《ドラコネット》が黒、《ビットロン》は茶色の矢となってそれに吸い込まれる。
「リンク召喚! 現れろ、リンク2《I:Pマスカレーナ》!!」
サーキットから飛び出してきたのは、猫をモチーフにした衣装のスポーティーな女性のモンスター。舌を出す悪戯な笑顔には、周りを自在に翻弄する女泥棒のような魔性の魅力がある。
†
《I:Pマスカレーナ》
リンク・効果モンスター
リンク2/闇属性/サイバース族/攻 800
【リンクマーカー:左下/右下】
リンクモンスター以外のモンスター2体
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手メインフェイズに発動できる。このカードを含む自分フィールドのモンスターをリンク素材としてリンク召喚する。
(2):このカードをリンク素材としたリンクモンスターは相手の効果では破壊されない。
†
しかしその攻撃力は僅か800。これも戦闘タイプのモンスターではない。
ということは、ユーイの展開はこれで終わりではない。
「俺は更にモンスターを特殊召喚する! 来い、《リンク・インフライヤー》!」
ユーイが更に手札からモンスターを特殊召喚する。
現れたのはグライダーのような形のサイバースモンスターだ。
†
《リンク・インフライヤー》
効果モンスター
星2/風属性/サイバース族/攻 0/守1800
このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。
(1):このカードはフィールドのリンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに手札から特殊召喚できる。
†
《リンク・インフライヤー》は《I:Pマスカレーナ》のリンク先のメインモンスターゾーンに浮く。
《リンク・インフライヤー》はフィールドのリンクモンスターのリンク先に特殊召喚できるモンスターだ。その特性上、フィールドにリンクモンスターがいなければ特殊召喚できないため、ユーイは先に《I:Pマスカレーナ》をリンク召喚しておいたのだ。
「再び現れろッ、未来を導くサーキット!!」
ユーイが再びサーキットを描き出す。
《I:Pマスカレーナ》はリンク2のモンスター。《リンク・インフライヤー》と合計すれば、リンク3のモンスターをリンク召喚可能だ。
そしてこの状況でユーイが喚び出すリンクモンスターは1つしかない。
「召喚条件は闇属性モンスターを含む効果モンスター2体以上! リンク2の《I:Pマスカレーナ》と《リンク・インフライヤー》をリンクマーカーにセット!」
《I:Pマスカレーナ》が2本の黒い矢、《リンク・インフライヤー》が緑の矢に姿を変え、上・右下・左下の3箇所のマーカーへとセットされる。
「サーキットコンバイン! リンク召喚!! 現れろッ、リンク3《ダークコード・トーカー》!!」
現れたのは、黒き甲冑の騎士然としたユーイのエースリンクモンスター。
ダークコード・トーカー:ATK2300
黒き大剣を担ぐその漆黒の姿は否応にも見る者に威圧感を与える。
鬼柳もその圧力をビリビリと肌で感じ取っていた。
口元が笑みに歪む。
「これがテメェの力ーーーリンク召喚ってやつか……! 良いじゃねェかッ! 喰いがいがあるぜッ!!」
まるで手強い相手に悦びを感じるように、頬を紅潮させ興奮した口振り。
だが、それは《ダークコード・トーカー》の威圧を受けてもまだ余裕がある証拠でもある。
「この一撃でその余裕を消し飛ばしてやるッ! バトルだッ!《ダークコード・トーカー》で《インフェルニティ・デーモン》に攻撃ッ!」
《ダークコード・トーカー》は黒剣を構えると、鬼柳の顔に張り付く笑みを消し去るべく《インフェルニティ・デーモン》に挑む。
「“ダークコード・エンド”!!」
《ダークコード・トーカー》の振り上げた剣は必殺の威力を秘めた終劇の剣。
まさに一刀のもとに《インフェルニティ・デーモン》を断ち斬った。
「ぐッ……!」
鬼柳:LP4000→3500
この攻撃に反応して伏せカードが発動することを警戒していたユーイだったが、意外にも最初のバトルはあっさりと《ダークコード・トーカー》に軍配が上がった。
(あの伏せカードは攻撃反応型やフリーチェーンの罠じゃあないのか。何らかの発動条件があるカードなのかもしれないな)
「……カードを2枚伏せてターンエンドだ」
ユーイも同じく伏せカードを2枚出してターンを終了する。
鬼柳の伏せカードが即座に発動できるカードでなかったのは幸いだったが、発動条件があるカードは強力な効果を秘めている可能性が高い。防御を張っておく意義はあるだろう。
ユーイ:LP4000/手札2
●モンスター
ダークコード・トーカー:ATK2300
●魔法・罠
伏せカード2枚
鬼柳:LP3500/手札2
●モンスター
なし
●魔法・罠
伏せカード2枚
オレが テメェを 追い詰めるのは
この果てなき渇きを
満たす方法を
それ以外に 知らないからだ
☆☆☆
サテライトの暗く狭い路地を3人分の荒い息が走り抜けていく。
サテライトの路地は無計画に建てられた建物のせいで入り組み雑多に物が散らかっているため走りにくいが、身を隠すには適している。
「はぁ、はぁ、何とか巻いたか?」
乱暴に触れば今にも崩れそうな外壁に寄りかかるようにしゃがみ込み、肩で息をする城之内が問うがそれに応える者はいない。
「いや、まだだな」
そう遠くないところから自分達を探す奴らの声が尚も聞こえている。
追っ手はまだ諦めてくれてはいないようだ。
「クソッ、しつけー奴らだぜ」
悪態をつくが、その声に力はない。
後ろを振り返ると、追い付いてきたユーイとハヤト。2人共自分と同じく疲労困憊の様子。
日はすでに落ちており、普段なら闇が辺りを包み込む時刻。
しかし今夜は月が明るく、こうして近付けば滴り落ちる汗の一雫すら目視できる。
「……彼らも必死なんだな。ボスの命令は絶対だから、オレ達を逃がせばどんな仕置きが待っているか分からない」
決して運動能力に恵まれてはいないハヤトだが、ここまでは何とか城之内達に食らいついてきている。その顔色は青くすでに限界に近い様子ではあるが、それでも決して城之内達から離れないという強い気持ちは感じる。
(根性のある奴だぜ。……なら、問題はむしろこっちか)
グールズの兵隊達に追い回されている今の状況は穏やかな性格のハヤトにとって辛いはずだ。だが弱音も吐かずパニックにもならずに着いてきてくれる。そのことに城之内は感嘆を覚える。
ハヤトはまだ大丈夫だ。
だがーーーと、城之内は一言も発しようとしないもう1人の仲間ーーーユーイに視線を向けた。
普通ならハヤトよりも体力がありそうなユーイだが、今その顔は青ざめながらも暗い陰を落としていた。荒い息を短く繰り返し、顔を上げることもできないでいる。その疲弊度は城之内やハヤトと比べ物にならない。
(ヤベーな……。思った以上にキてる。ユーイがこの調子じゃあオレが何とかするしかねーが、正直どうすれば良いのかさっぱり思いつかねー)
思っていた以上に自分達がユーイに依存していた事実を今更ながら実感する。情けないことだが、ユーイが指針を示してくれないとどう動けば良いか見当も付かないのだ。
グールズが蛭谷の命令で動いているように、城之内を含むチームの頭はユーイだった。
立場で言えば、ユーイがリーダーで、ドールが参謀といったところか。
(2人の内、どっちかだけでも健在ならこんな闇雲に逃げなくても良いのに……)
ユーイの消耗度は先の通りだ。
だがその背に負ぶわれているドールの状態は更に深刻だった。
走ったわけでもないのにその額には玉の汗が光り、元より白い肌が更に真っ白に冷めている。苦しげな浅い呼吸を繰り返し、眉間には深い皺が刻まれていた。
どう見ても普通の状態ではない。すぐにでも医者に診せなければ、もしかしたら生死に関わるかもしれないくらいだ。
(どうしてこうなっちまったんだ……!)
城之内は悔恨する。
全ては彼らの前に1人の青年が立ちはだかったことから始まった。
☆☆☆
遡ること2時間程前ーーー。
ユーイ達は今夜のねぐらを探して街を彷徨っていた。
無論サテライトに宿などなく、ハヤトの住んでいたところはグールズの息がかかっているため使えない。仕方なく主人がおらず、それでいて落ち着くことのできる建物を探して歩き回ることになった。
幸い季節は温暖で、毛布等の防寒がなくとも凍死する心配はない。グールズの連中に見つかりにくい屋内ならば何処でも良かった。
しかしユーイの推測よりグールズの動きは迅速だった。
まるでこちらの動きを完全に予測していたかのように居場所を掴まれ、彼らはユーイ達の前に現れたのだ。
最初に姿を現したのは、パーカーのフードを目深に被った青年だった。
「ようやく見つけたぜ」
妙にしゃがれた声でそいつが呟く。
(こちらの予測を遥かに上回る早さで現れたくせに『ようやく』かよ……)
一目見て追っ手だと気付いたユーイ達は身構える。
「たった1人でのこのこと現れるとは、良い度胸じゃあねーか! いいぜ、オレが相手になってーーー」
威勢を張り上げ、デュエルディスクを構えようとする城之内を制したのはユーイだった。
その表情には強い警戒が浮かんでいる。
「どうやら1人ってわけじゃあないらしいぜ、城之内くん。囲まれている」
ユーイの言葉にパーカーの青年がにやりと嗤ったのが雰囲気で解る。
「よく気付いたな。出てこい、テメェら」
その言葉を合図に、周りの建物や路地からぞろぞろと人が現れ出てきた。
歳も身なりもそれぞれの輩達。だが共通してその面構えは敵対的だ。グールズの構成員であろうことは疑いようがない。
「マジかよ。いつの間にこんな……ッ!」
ユーイ達とてそう迂闊ではない。ねぐらを探す間も人通りのある道もグールズらしきグループの気配も避けて行動してきた。
城之内が驚愕するのも無理はないが、結果はいま眼前でユーイ達を取り囲む男達の姿から明らかだ。
「どうやら儂らは、あやつの意のまま此処に追い込まれておったようじゃの」
大きな音を立てることで魚を網の方へと誘導し、一網打尽にする漁法がある。ユーイ達はそれと同じようにまんまと彼らの罠に嵌まってしまったようだ。
「心配するな、こいつらはテメェらを逃がさないためのただの壁。闘うのはあくまで俺1人だ」
どうやら彼らのリーダーらしき青年がそう言ってデュエルディスクを構える。
彼の指示でここまでユーイ達を翻弄したのなら大した手腕だが、1人でデュエルの相手をすると言うその実力は果たしてどれほどのものなのか。
「1人でオレ達の相手をするだと? ナメられたもんだぜ! ならここはこの城之内サマが相手してやんぜッ!!」
「テメェが?」
ずいと前に出る城之内を値踏みするように青年は小首を傾げる。
「……違うな」
「あ?」
青年は残念そうに首を振る。
「俺の獲物はテメェじゃあない。そっちの黒髪、瓜生をやったリンク使いってのはテメェだろ」
城之内を無視して青年はユーイを指し示す。
指名された形のユーイは顔を険しくし、青年へと視線を飛ばす。
「良い顔をするじゃあねェか。デュエリストはそうじゃなくちゃあいけねェ。狩れて当たり前の雑魚をいくら喰ったところで、オレの飢えは満たされねェからなッ!」
愉しそうに青年は被っていたフードを脱ぐ。
白藍色の髪が揺れ、青年の素顔が露になった。目は鋭いが意外と美形だ。
目を引くのは、額から右目を通り頬にかけて走る黄色いライン。これは一度何らかの罪によりセキュリティに捕まった証。監視と脱走防止のためにセンサーが組み込まれたマーカーだ。
青年は嗤っていた。まるで目の前の特上ステーキに舌舐めずりするかのように。
「喰い尽くしてやるぜッ! この『鬼柳キョウスケ』がなッ!!」
瞬間、『鬼柳(きりゅう)』と名乗った青年から重く暗いオーラが吹き出した。
「なッ……ぐぅ……ッ!!」
まるでここだけ重力が変わったかのような圧力に、はっきり『雑魚』と呼ばれた城之内も言い返すことができない。
「こやつ……ッ、今までの輩とは明らかにレベルが違う……ッ!」
圧されているのはドールやハヤトも同様だった。肩を上から押さえ付けられているようで、気を抜けば膝を折ってしまいそうになる。
叩き付けられる鬼柳の闘気は、肌が震えるという程度では到底ない。肌にまとわりつくようで、それでいて灼かれているかのような感覚をユーイも受けていた。
(この凄まじい魔力の波動……ッ! ただでやり過ごせるような相手じゃあないッ! 闘うしかないッ!!)
鬼柳の放つオーラの正体は、彼の持つ魔力の波動。
鬼柳は特別なにかをしたわけではない。ただ自らに流れる魔力を外側に解放しただけ。
ただそのあまりの濃度に、まるでオーラが視覚化されたように感じられ、意図せずこちらが威圧されてしまったのだ。
これほどの力を持つ相手に下手な小細工は通じないだろう。真っ直ぐ全力でぶつかり、正面から打ち倒すしか突破する術はない。
ユーイは決意を固めて前に出る。
「ユーイ……ッ!!」
今日はこれで3戦目。前の2戦もそう容易い闘いではなかった。当然消耗も著しい。
だがこの闘いを避けて通るわけにはいかない。
それを分かっている城之内達は、心配はすれどユーイを止めることはできなかった。このとんでもない魔力の相手に対抗できるのはユーイ以外にいないのだから。
ユーイは進み、鬼柳と十数メートルの距離を取り対峙した。
「鬼柳ーーーって言ったな。アンタ程の魔力の持ち主が何故グールズなんかの尖兵なんてやってる? それともその魔力もモーメントで増幅させた結果なのか?」
ユーイは瓜生の時と同じ質問を口にする。
グールズのやっていることーーー特にモーメントに関することは明確な悪だ。ユーイにはその悪に加担する人間の意図が解らない。
瓜生のように正しさより力を求めるからか、ハヤトのように止むに止まれぬ理由によるものか、それとも城之内と闘ったトランプのように悪の道にしか居場所がないからか。
だが鬼柳はその問いにヘラヘラした薄笑いで応える。
「グールズにいる理由だと? ハッ! 理由なんざねェよ。グールズに身を置いてるのは、ただのお遊びみてェなもんだ。オレの目的は、オレを満足させられるデュエリストと命そのものを賭けそいつを削り合い摩耗し合う、そういうギリギリのデュエルをすることーーーそれだけだッ」
『グールズなど、ただの遊び』。その言葉に辺りを取り囲む兵隊達からざわめきが起こるのも構わず鬼柳は叫ぶ。
「平和主義とやらを掲げるマヌケ共ならこう言うかもなッ! 何故そんなにも戦いを求めるのかーーーてなァ! だがオレにしてみれば、そっちの方が不気味だぜッ! デュエリストに生まれ落ちて何故戦いを求めねェ!? 戦いを求めるのはデュエリストの本能だッ!!」
高揚しながら自らの主張を声高に述べる鬼柳を、ユーイは静かに見据えていた。
その意見を血迷った妄言と切って捨てることはできない。何故ならユーイ自身、デュエリストは闘いを求めるものという部分には共感できるからだ。
だが絶対に認められないこともある。
「確かにデュエリストとはデュエルを求めるものだ。だがそれは誰かを傷付けるための戦いなんかじゃあない。それじゃあただの暴力と変わらないじゃあないか。デュエルとは、互いのプライドと魂を掛けて闘う、正に『決闘』なんだッ。浅ましい暴悪と断じて同じなんかじゃあないッ!!」
まるで命の瀬戸際まで互いを追い込むような鬼柳のデュエル感に、ユーイは激しい拒否感を示した。
デュエルが闘争の一種であることは否定できないが、ユーイにとってそれはもっと高尚なコミュニケーションとしての側面が強かった。『戦い』ではなく『闘い』。ただ相手を蹂躙するためではなく、互いにリスペクトを持ち相手を認め合い高め合う、そういうものであるべきなのだ。謂わば『魂の交歓』といったところか。
ユーイと鬼柳のデュエル感には大きな隔たりがある。
しかし鬼柳はそれを愉快そうに嗤っていた。
「ここまで違うとどれだけ言葉を尽くそうが平行線だ。だがお互いの主張が真っ向から対立してるってのも悪くねェ。戦いの良いスパイスになるってもんだぜ」
鬼柳は再びディスクを掲げた。
「おしゃべりは終わりだ。始めようぜ、オレ達の戦いをよッ! テメェの味を見せてみやがれッ!!」
ユーイも仕方なくそれに従う。
元より魔力の少ないユーイには、前の2戦の消耗がここにきてずしりと身体にのし掛かってきている。できることなら避けたいデュエルだが、鬼柳の脅威はそういうわけには行かせてはくれない。
丹田に活を入れ、ユーイも内なる魔力を高めていく。
ーーー「デュエル!!」ーーー
ユーイ:LP4000
鬼柳:LP4000
互いにデッキから初手を引き抜く。
「先攻はオレが貰うぜッ!」
先攻は鬼柳。
初手からカードを3枚選ぶと、ディスクにセットする。
「カードを2枚伏せ、《インフェルニティ・デーモン》を召喚するぜッ」
鬼柳のフィールドに伏せカードが2枚出現し、更に山羊面に燃えるような赤い鬣(たてがみ)の悪魔が姿を現した。
†
《インフェルニティ・デーモン》
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1800/守1200
(1):手札が0枚の場合にこのカードをドローした時、このカードを相手に見せて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
(2):このカードが特殊召喚に成功した時に発動できる。デッキから「インフェルニティ」カード1枚を手札に加える。この効果は自分の手札が0枚の場合に発動と処理ができる。
†
「ククク、これでターン終了だ……!」
鬼柳:LP4000/手札2
●モンスター
インフェルニティ・デーモン:ATK1800
●魔法・罠
伏せカード2枚
ユーイ:LP4000/手札5
●モンスター
なし
●魔法・罠
なし
「俺のターン、ドロー!」
後攻のユーイがデッキからカードをドローする。
《インフェルニティ・デーモン》の攻撃力は1800。下級モンスターとしてはそれなりだが、超えるのはそう難しい数値ではない。
(2枚の伏せカードは気がかりだが、出し惜しみしていてはいつやられるか分からないッ。ここはこちらから攻めるしかないッ)
「俺は手札から《ドラコネット》を召喚!」
ユーイが召喚したのは、まるで飛竜のような形をした電子生命体型のサイバースモンスター。
†
《ドラコネット》
効果モンスター
星3/闇属性/サイバース族/攻1400/守1200
(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札・デッキからレベル2以下の通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
†
「《ドラコネット》の召喚時効果! 俺はデッキから《ビットロン》を特殊召喚する!」
†
《ビットロン》
通常モンスター
星2/地属性/サイバース族/攻 200/守2000
電子空間で見つけた新種。その情報量は少ない。
†
《ドラコネット》は召喚に成功すると、手札・デッキからレベル2以下の通常モンスターを特殊召喚することができる。
特殊召喚できるのはレベルの低い通常モンスターのみとは言え、召喚するだけでアドバンテージを稼げるのは手軽だし、特殊召喚する通常モンスターによっては様々なコンボの基点になることができる優秀なモンスターだ。
更にその効果で特殊召喚したのは、飛行機のような形の電子生命体。
守備力はそれなりだがレベルも攻撃力も低く、攻撃性能は期待できない。だがリンク召喚の素材としてなら、それらは関係ない。
ユーイは空に手をかざした。
「現れろッ、未来を導くサーキット!」
その先の空にサーキットが描かれる。
鬼柳はそれを見上げて「ホウ……」と唸った。
「召喚条件はリンクモンスター以外のモンスター2体! 俺は《ドラコネット》と《ビットロン》をリンクマーカーにセット!」
ユーイがEXデッキからリンクマーカーを選び出したことで、それに対応した右下・左下のリンクマーカーが点灯し、《ドラコネット》が黒、《ビットロン》は茶色の矢となってそれに吸い込まれる。
「リンク召喚! 現れろ、リンク2《I:Pマスカレーナ》!!」
サーキットから飛び出してきたのは、猫をモチーフにした衣装のスポーティーな女性のモンスター。舌を出す悪戯な笑顔には、周りを自在に翻弄する女泥棒のような魔性の魅力がある。
†
《I:Pマスカレーナ》
リンク・効果モンスター
リンク2/闇属性/サイバース族/攻 800
【リンクマーカー:左下/右下】
リンクモンスター以外のモンスター2体
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手メインフェイズに発動できる。このカードを含む自分フィールドのモンスターをリンク素材としてリンク召喚する。
(2):このカードをリンク素材としたリンクモンスターは相手の効果では破壊されない。
†
しかしその攻撃力は僅か800。これも戦闘タイプのモンスターではない。
ということは、ユーイの展開はこれで終わりではない。
「俺は更にモンスターを特殊召喚する! 来い、《リンク・インフライヤー》!」
ユーイが更に手札からモンスターを特殊召喚する。
現れたのはグライダーのような形のサイバースモンスターだ。
†
《リンク・インフライヤー》
効果モンスター
星2/風属性/サイバース族/攻 0/守1800
このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。
(1):このカードはフィールドのリンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに手札から特殊召喚できる。
†
《リンク・インフライヤー》は《I:Pマスカレーナ》のリンク先のメインモンスターゾーンに浮く。
《リンク・インフライヤー》はフィールドのリンクモンスターのリンク先に特殊召喚できるモンスターだ。その特性上、フィールドにリンクモンスターがいなければ特殊召喚できないため、ユーイは先に《I:Pマスカレーナ》をリンク召喚しておいたのだ。
「再び現れろッ、未来を導くサーキット!!」
ユーイが再びサーキットを描き出す。
《I:Pマスカレーナ》はリンク2のモンスター。《リンク・インフライヤー》と合計すれば、リンク3のモンスターをリンク召喚可能だ。
そしてこの状況でユーイが喚び出すリンクモンスターは1つしかない。
「召喚条件は闇属性モンスターを含む効果モンスター2体以上! リンク2の《I:Pマスカレーナ》と《リンク・インフライヤー》をリンクマーカーにセット!」
《I:Pマスカレーナ》が2本の黒い矢、《リンク・インフライヤー》が緑の矢に姿を変え、上・右下・左下の3箇所のマーカーへとセットされる。
「サーキットコンバイン! リンク召喚!! 現れろッ、リンク3《ダークコード・トーカー》!!」
現れたのは、黒き甲冑の騎士然としたユーイのエースリンクモンスター。
ダークコード・トーカー:ATK2300
黒き大剣を担ぐその漆黒の姿は否応にも見る者に威圧感を与える。
鬼柳もその圧力をビリビリと肌で感じ取っていた。
口元が笑みに歪む。
「これがテメェの力ーーーリンク召喚ってやつか……! 良いじゃねェかッ! 喰いがいがあるぜッ!!」
まるで手強い相手に悦びを感じるように、頬を紅潮させ興奮した口振り。
だが、それは《ダークコード・トーカー》の威圧を受けてもまだ余裕がある証拠でもある。
「この一撃でその余裕を消し飛ばしてやるッ! バトルだッ!《ダークコード・トーカー》で《インフェルニティ・デーモン》に攻撃ッ!」
《ダークコード・トーカー》は黒剣を構えると、鬼柳の顔に張り付く笑みを消し去るべく《インフェルニティ・デーモン》に挑む。
「“ダークコード・エンド”!!」
《ダークコード・トーカー》の振り上げた剣は必殺の威力を秘めた終劇の剣。
まさに一刀のもとに《インフェルニティ・デーモン》を断ち斬った。
「ぐッ……!」
鬼柳:LP4000→3500
この攻撃に反応して伏せカードが発動することを警戒していたユーイだったが、意外にも最初のバトルはあっさりと《ダークコード・トーカー》に軍配が上がった。
(あの伏せカードは攻撃反応型やフリーチェーンの罠じゃあないのか。何らかの発動条件があるカードなのかもしれないな)
「……カードを2枚伏せてターンエンドだ」
ユーイも同じく伏せカードを2枚出してターンを終了する。
鬼柳の伏せカードが即座に発動できるカードでなかったのは幸いだったが、発動条件があるカードは強力な効果を秘めている可能性が高い。防御を張っておく意義はあるだろう。
ユーイ:LP4000/手札2
●モンスター
ダークコード・トーカー:ATK2300
●魔法・罠
伏せカード2枚
鬼柳:LP3500/手札2
●モンスター
なし
●魔法・罠
伏せカード2枚
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54 | 005:嵐を掴む手 | 574 | 1 | 2020-10-28 | - | |
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