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012:侵す力と護る力 作:天2
012:侵す力と護る力
「スキル……だと……?」
ユーイが手を掲げそう呟くのを聞いて、瓜生は思わず驚愕に顔を歪めた。
気付くとユーイの周りの砂埃が舞い上がり始めている。
それは瞬く間に渦を成し、砂嵐のようにユーイの姿を隠してしまう。
「まさか……あんなガキが……『あの人』と同じスキル使いだっつーのか……?」
スキル使いーーー。
それはデュエリストとしてある一定の壁を突破した覚醒者達。スキルを使えるということは、即ちデュエリストとしての力量が1つ上のステージにあるということ。
そのアドバンテージは計り知れない。
「スキルは手札を1枚多く持っているようなものだーーーと言う者もおる。じゃが、実際スキル使いが得るアドバンテージはそんなものの比ではない。スキルを使える者と使えぬ者の差は雲泥じゃよ」
ドールが独り言のように言うその声は、激しくなる風音に掻き消され、なんとかハヤトに聞こえるくらいだった。当然、よりユーイの近くにいる瓜生には聞こえない。
フィールドを覆いユーイを隠す砂嵐がキラキラと輝きを伴っている。世界魔力の粒子が、ユーイの手に集められているのだ。
もはやゴウゴウと唸りを上げる風音の中、何故かユーイの声だけがはっきりと皆の耳に響いた。
「“掴め”ーーー『ストーム・アクセス』!!」
瞬間、目を焼かれるほどの閃光が放たれ、砂嵐が一斉に弾けて止んだ。
咄嗟に目を閉じた瓜生が恐る恐る目を開けると、ユーイは未だ輝きを放つカードをその手にしていた。
「な、なんだそりゃあーーー」
「これが『ストーム・アクセス』によって生まれた新たな力だ」
スキル『ストーム・アクセス』はユーイのLPが1000以下の時にのみ発動でき、その能力は新たなるサイバースリンクモンスターを生み出すというもの。
ユーイは徐々に輝きを弱めていくそのカードをEXデッキに加える。
「バカな……。カードを生み出すだと……!」
瓜生のリアクションは、やはり死の物真似師と似たり寄ったりのもの。
デュエリストであれば誰でも、その人智を超えた性能に畏怖を覚えるのだろう。
「これでアンタを倒す道のりが見えたぜ」
ユーイの言葉に瓜生の心臓がドクリと跳ねる。間違いようもなく、それは恐怖から来る鼓動であった。
バッとユーイが手を振る。
それは脳裏で組み立てられた勝利の方程式を顕現させるための狼煙。
「まずはフィールドの伏せカードを発動! 永続罠《エンジェル・リフト》!」
フィールドに伏せられていたカードが表になる。
それは天使が亡者を導いているイラストの罠カードだった。
†
《エンジェル・リフト》
永続罠
自分の墓地のレベル2以下のモンスター1体を選択し、表側攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上から離れた時、このカードを破壊する。
†
「俺はこのカードの効果で、墓地の《ドングルドングリ》を特殊召喚する! 蘇れ《ドングルドングリ》!」
《エンジェル・リフト》は墓地のレベル2以下のモンスターを特殊召喚する蘇生罠カード。
ユーイの選択した《ドングルドングリ》はレベル1なので、この蘇生効果を受けられる。
小さな天使達が現れ、それらに導かれるようにして《ドングルドングリ》が再びユーイのフィールドにその可愛らしい姿を現した。
ドングルドングリ:ATK0
「そして《ドングルドングリ》のモンスター効果が発動!《ドングルトークン》を特殊召喚する!」
《ドングルドングリ》には特殊召喚成功時に《ドングルトークン》を生み出すモンスター効果がある。
1ターン目と同様に《ドングルドングリ》からUSBアダプタ部分が独立して《ドングルトークン》となった。
ドングルトークン:ATK0
「行くぜ、まずは1回目だ。現れろ、未来を導くサーキット!!」
ユーイの手から光が走り、中空にサーキットを描き出す。
点滅しているのは右下のマーカーだ。
「召喚条件は、レベル3以下のモンスター1体! 俺は《ドングルトークン》をリンクマーカーにセット!」
《ドングルトークン》が黒い矢となり、そのマーカーに吸い込まれた。
「リンク召喚!! 現れろ、リンク1《ホーリー・リンク・キャット》!!」
サーキットから現れたのは、キャラクター風にデフォルメされた無邪気げな可愛らしい白いネコのリンクモンスター。《リンクリボー》と同じように尾の先にリンクマーカーのような矢印がある。
†
《ホーリー・リンク・キャット》
リンク・効果モンスター(オリジナル)
リンク1/光属性/サイバース族/攻 400
【リンクマーカー:右下】
レベル3以下のモンスター1体
このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードがリンク召喚に成功した時、墓地のモンスターを任意の数除外して発動できる。除外したモンスターの数と同じレベルの通常モンスター1体を手札・デッキから、このカードのリンク先に特殊召喚する。
(2):自分フィールドのこのカード以外のリンクモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターのリンクマーカーを1つ選択し、そのリンクマーカーをターン終了時まで左右どちらかの向きに変更する。
†
リンク召喚された《ホーリー・リンク・キャット》はEXモンスターゾーンで首輪の鈴をチャリンと鳴らしくるんと転がると、愛らしい仕草でご主人の命令を待っている。
それに応えるように、ユーイは間髪入れずその効果発動を命じた。
「墓地の《ドット・スケーパー》を除外して《ホーリー・リンク・キャット》のリンク召喚時効果を発動! デッキからレベル1の通常モンスター《プロトロン》をリンク先に特殊召喚する! “ホーリー・チャイム”!!」
《ホーリー・リンク・キャット》はリンク召喚に成功した時、墓地のモンスターを除外し、その除外したモンスターの数と同じレベルの通常モンスターを手札・デッキからリンク先に特殊召喚する効果を持っている。
ユーイは墓地の《ドット・スケーパー》1体を除外したため、レベル1の通常モンスター1体を特殊召喚することができる。
《ホーリー・リンク・キャット》が招き猫のように前足を揺らすと、首輪の鈴が鳴り響く。
ユーイがデッキから選んだのは《プロトロン》。鈴の音に誘われて、黒くて丸い原初の電子生命体がユーイのモンスターゾーンに現れる。
†
《プロトロン》
通常モンスター
星1/地属性/サイバース族/攻 100/守 100
電子空間で見つかる原種。その情報量は未知数。
†
「更に除外された《ドット・スケーパー》の効果! このカードを特殊召喚する!」
ユーイのモンスターゾーンに更に《ドット・スケーパー》が蘇る。
《ドット・スケーパー》は、墓地に送られた場合と除外された場合にフィールドに特殊召喚することができるモンスターだ。展開力を重視するユーイのデッキの連続特殊召喚を支える、使い勝手の良いモンスターと言える。
これでユーイのフィールドには総勢5体のモンスターが並んだ。
「チィ、雑魚ばかり次から次へと……!」
元より《ロックアウト・ガードナー》がいたとは言え、《エンジェル・リフト》1枚からのこの展開力は瓜生の目には異常に映ったらしい。
しかしユーイの連続召喚はまだ終わりではない。
「再び現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件はサイバース族モンスター2体! 《プロトロン》と《ドット・スケーパー》をリンクマーカーにセット!」
空に再びサーキットが描かれる。今度は左右のリンクマーカーに2体のモンスターが茶色い矢となり吸い込まれた。
「リンク召喚! 現れろ、リンク2《ハニーボット》!!」
そして現れ出たのは、蜂を模したスーツに身を包んだ少女のサイバースリンクモンスター。
†
《ハニーボット》
リンク・効果モンスター
リンク2/光属性/サイバース族/攻1900
【リンクマーカー:左/右】
サイバース族モンスター2体
(1):このカードのリンク先のモンスターは効果の対象にならず、戦闘では破壊されない。
†
リンクモンスターはEXモンスターゾーンか、リンクモンスターのリンク先にのみ特殊召喚が可能だ。
《ハニーボット》も《ホーリー・リンク・キャット》のリンク先のメインモンスターゾーンに浮く。
「攻撃力1900……。少しはマシなのが出てきたが……」
《ハニーボット》の攻撃力は1900。まだ下級モンスタークラスとは言え、それなりの攻撃力ではある。
《ダイオウギシキムシ》の攻撃力は上回っているが、それでも《エビルドーザー》には遠く及ばない。
「心配はいらない。まだ俺は《ストーム・アクセス》で手にしたカードを見せちゃいないからな」
そしてユーイは最後に1枚残った手札をデュエルディスクに置く。
「《サイバース・ウィザード》を通常召喚! そして三度現れろ、未来を導くサーキット!!」
《サイバース・ウィザード》がフィールドに現れると、すかさずこのターン三度目のサーキットを出現させる。
点滅しているのは、上下右下の3ヶ所のリンクマーカー。
「アローヘッド確認! 召喚条件は、光属性モンスターを含むサイバース族モンスター2体以上! 俺は《サイバース・ウィザード》・《ロックアウト・ガードナー》・《ドングルドングリ》の3体をリンクマーカーにセット!」
《サイバース・ウィザード》は白、《ロックアウト・ガードナー》は茶色、《ドングルドングリ》は黒。それぞれが渦巻く矢となり、3ヶ所のリンクマーカーへと吸い込まれた。
《サイバース・ウィザード》は光属性。他の2体は他属性のため、このターンに《サイバース・ウィザード》を引いていなければ、このリンク召喚は不可能だった。
だが実際にユーイは《サイバース・ウィザード》を引き、『ストーム・アクセス』はこのリンクモンスターをユーイに与えたのだ。
「リンク召喚!! 現れろ、リンク3《ライトニングコード・トーカー》!!」
サーキットより現れたのは、新たなる『コード・トーカー』。
どこまでも暗く光を吸い込む黒の《ダークコード・トーカー》とは対照的に、《ライトニングコード・トーカー》は日を受けると仄かに煌めく白銀の鎧に身を包んだ騎士の如きリンクモンスターだった。
その鎧には竜を思わせる装飾が施され、手に持つのは一点の曇りもなき白銀の大盾。黒い大剣を担いだ《ダークコード・トーカー》が暗黒騎士ならば、白銀の大盾を掲げるこちらは聖騎士か守護騎士かといった様相だ。
†
《ライトニングコード・トーカー》
リンク・効果モンスター(オリジナル)
リンク3/光属性/サイバース族/攻2300
【リンクマーカー:上/下/右下】
光属性モンスターを含むサイバース族モンスター2体以上
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分メインフェイズに発動できる。このカードのリンク先の光属性モンスターの数まで、相手フィールドの表側表示モンスターを選んで破壊する。
(2):自分フィールドのモンスターが効果の対象になった場合に発動できる。その効果を無効にする。そのモンスターがリンクモンスターだった場合、このカードの攻撃力はそのリンクモンスターのリンクマーカーの数×1000アップする。
†
《ライトニングコード・トーカー》が降り立ったのは、《ハニーボット》左側のメインモンスターゾーンであり、必然的に《ホーリー・リンク・キャット》の下(後ろ)に位置する。つまりこれら3体のリンクモンスターで直角三角形を形成するかたちだ。
リンク1、リンク2、リンク3と三連続のリンク召喚を決めたユーイだったが、そんな彼を見やり瓜生は口の端を上げる。
「スキルでカードを生み出すと聞いた時は驚いたが、何のことはねェな。テメェの展開もここで終わりだろ。たかが攻撃力2300のモンスターじゃあ、俺の《エビルドーザー》には敵わんぜ!?」
ユーイの怒涛の連続召喚には流石に肝を冷やしたらしく、その表情には安堵の色が濃い。
確かにユーイには切れる手札はもうない。展開そのものはここで打ち止めだ。
しかしそれでユーイの攻めが終わったわけではない。
「《ホーリー・リンク・キャット》の更なる効果! 自分フィールドのリンクモンスター1体のリンクマーカーの向きを左右どちらかに変更する!」
《ホーリー・リンク・キャット》の(2)の効果を発動する。
それは、リンクマーカーの向きを変更するという珍しい効果。
リンクモンスターにとってリンクマーカーの向きは非常に重要だ。EXモンスターゾーンか他のリンクモンスターのリンク先にしか特殊召喚できないリンク召喚の特性上、リンクマーカーの先がモンスターゾーンでなかったり既に他のモンスターがいて空いていなかったりすると、リンクモンスターは存在することさえできない。また多くのリンクモンスターがリンク先に関する効果を備えており、その向きによっては戦局を左右することも少なくないのである。
「俺は《ライトニングコード・トーカー》を効果対象に選択し、その右下のリンクマーカーを右向きに変更する!」
《ホーリー・リンク・キャット》の効果を受け、《ライトニングコード・トーカー》の右下のリンクマーカーが時計の針が戻るように右向きへと指す方向を変える。
これにより《ライトニングコード・トーカー》のリンクマーカーは上の《ホーリー・リンク・キャット》と右の《ハニーボット》を指し、《ハニーボット》とは『相互リンク状態』となった。
「リンクモンスターの矢印を変えた……? それが何だってーーー」
「ーーー『世界が変わる』のさ」
《ライトニングコード・トーカー》のリンクマーカーを変えた意図にピンと来てない様子の瓜生に、ユーイが大仰に答える。
「鳥にとって翼が命であるように、リンクモンスターにとってリンクマーカーは命みたいなものだ。ただ45°向きが変わるだけで、リンクモンスターは新たな命を吹き込まれたように描ける世界が変わる。それをーーーアンタのフィールドで見せてやるよ」
ユーイが手を突き出して命じる。
「《ライトニングコード・トーカー》の効果発動! 1ターンに1度、リンク先の光属性モンスターの数まで相手フィールドの表側表示モンスターを選び、そのモンスターを破壊する!!」
「何だとッ!?」
《ライトニングコード・トーカー》の全身から光のオーラが沸き上がる。
《ホーリー・リンク・キャット》によりリンクマーカーを右向きに変更されたことで、《ライトニングコード・トーカー》のリンク先には《ホーリー・リンク・キャット》と《ハニーボット》ーーー2体の光属性モンスターが存在する。
つまり、このターンの間ならばこの効果で破壊できる相手モンスターは2体ということになる。
「貫けッ! “ライトニング・アローズ”!!」
閃光の矢ーーー。
一瞬何かが閃いたと思った瞬間に、既に2本の光の矢は放たれ、瓜生の2体のモンスターを貫いていた。
身体を串刺しにされた《エビルドーザー》と《ダイオウギシキムシ》は、断末魔の暇もなく消滅してしまう。
それは瓜生の顔を青くするのに充分な光景だった。
虎の子のエースモンスター達は、その攻撃力に関わらず何の抵抗もできぬまま問答無用で果ててしまった。先ほどまでとはまるで逆の立場になったことは、すっかり空になった瓜生のフィールドを見るまでもなく明らかだった。
《ライトニングコード・トーカー》の放った2本の光矢は、フィールドの様子という意味では確かに世界をひっくり返したと言えた。
瓜生は苦々しげに顔を歪める。
「意趣返ししたつもりか……!」
先のターン、ユーイの《ダークコード・トーカー》達は《エビルドーザー》に殲滅された。そして今度はその《エビルドーザー》達が《ライトニングコード・トーカー》により殲滅させられたのだ。確かに意趣返しと捉えられても可笑しくないほど擦(なぞ)ったやり返しだった。
それをユーイは余裕たっぷりに認める。
「『力は苛烈なほど良い』んだろう?」
「ぐッ……!」
屈辱に喉を鳴らす瓜生だったが、それを飲み込むと一転して頬を吊り上げた。
「だが、この瞬間《エビルドーザー》のもう1つの効果が発動する!《エビルドーザー》は戦闘・効果で破壊された場合、相手フィールドのモンスター1体を道連れにし、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与えることができるんだ! ヒャハハハ、この効果でテメェの《ライトニングコード・トーカー》を破壊すりゃあ、俺の勝ちだぜッ!!」
《エビルドーザー》とは『邪悪』・『うたた寝する者』という意味がある。つまり邪悪がうたた寝していられるほど邪悪な存在というわけだ。そのモンスター効果は、まさにその名を裏切らない凶悪なものだった。
生まれ出た時には相手モンスターを全て破壊し、死する時には相手を道連れにしつつダメージまで与える。まるで一生を掛けて他者を侵し尽くす破壊の化身と言えた。
「死してなお侵せ!《エビルドーザー》!!」
意気揚々と既にフィールドにはいない《エビルドーザー》に命じる瓜生だったーーーが、その顔に困惑が滲み出る。
「どうした!? 何故何も起きない!?」
瓜生のフィールドに変化はない。
通常ならば《エビルドーザー》の効果が発動し《ライトニングコード・トーカー》が破壊されるエフェクトが発生するはずなのに、何も起こらないのだ。
それを見て、したり顔を浮かべたのはユーイだった。
「残念ながらその効果じゃあ《ライトニングコード・トーカー》は破壊できないぜ」
「テメェ……! 何をしやがった!?」
「これは《ハニーボット》の効果だ。《ハニーボット》のリンク先のモンスターは効果の対象にならないのさ。俺が《エビルドーザー》の破壊効果を見逃すとでも思ったか?」
《ハニーボット》のリンクマーカーは《ライトニングコード・トーカー》に向いている。よって、そのモンスターゾーンにいる限り《ライトニングコード・トーカー》は効果の対象にはならず、それを対象に取る効果は発動すらできないのだ。
そして《エビルドーザー》の(2)の破壊効果は相手モンスターを対象に取る効果なのだった。
「くっ……このために《ハニーボット》を出していやがったのか! だが、その程度で《エビルドーザー》の効果を防いだつもりか!? テメェこそ、《ライトニングコード・トーカー》は破壊できずとも《ハニーボット》なら破壊できることにオレが気付かないとでも思うのか!?」
地面から染み出すようにして、幽霊のようになった《エビルドーザー》が沸き上がってくる。それは《エビルドーザー》の(2)の効果の破壊エネルギーが、発生源の姿を模した形となって可視化したものだ。
「やれ!《ハニーボット》を破壊しろ!!《エビルドーザー》!!」
破壊対象を《ハニーボット》に変えたことで、《エビルドーザー》の効果が正常に発動したのだ。《ハニーボット》の護る力はあくまでリンク先のモンスターにしか及ばず、自身を護ることはできない。
幽体《エビルドーザー》が《ハニーボット》に牙を剥く。
攻撃力1900の《ハニーボット》を破壊すれば、ユーイに降りかかるダメージはその半分の950。残りLP800のユーイならば充分倒せる。
勝利を確信して瓜生が喜色を満面に出そうとしてーーー
しかしそれもユーイに遮られた。
「残念ながらそれも読んでいる!!」
苦もなく《ハニーボット》を押し潰すはずだった幽体《エビルドーザー》の特攻は、しかし白銀の盾によって阻まれていた。
盾が光のバリアを発生させ、破壊エネルギーを阻み跳ね返す。
「ここで《ライトニングコード・トーカー》だと!?」
「ああ!《ライトニングコード・トーカー》の更なる効果!《ライトニングコード・トーカー》は自分のモンスターが効果の対象となった場合、その効果を無効にできる!!」
《ライトニングコード・トーカー》の光のバリアが《ハニーボット》を優しく包み込む。
それは『仲間を護る』と『敵を排除する』という2つの意志を反映した力強い光。
その光の波動を受けて、幽体《エビルドーザー》は煙のように霧散していった。
「どのみち無駄だったようだな。だがこれで分かっただろう、『侵す力』と『護る力』ーーー本当に強いのはどちらか」
「な、ぐ……ぐぬぬ……」
万策尽きた瓜生はもはや言葉もなく唇を噛むのみ。
「ーーーそして誰かを護るというその強い意志は、護る者にまた新たな力を与えてくれる」
盾を下ろし守備態勢を解除した《ライトニングコード・トーカー》が更に白銀のオーラに包まれる。
ライトニングコード・トーカー
ATK2300→4300
「《ライトニングコード・トーカー》の攻撃力は護ったリンクモンスターのリンクマーカーの数×1000アップする」
《ライトニングコード・トーカー》の力は、まさにユーイの信念を具現化していた。
『弱者を護る力』が『世界を変える新たな力』を生み出す。
「ーーーバトルだ」
ユーイの言葉に反応して《ライトニングコード・トーカー》が盾に隠されていた剣を出す。
その刃もまたーーー変えるべき世界を斬り裂く輝きを放っていた。
「“ファイナル・ライトニングコード”」
世界を真っ白い光が包み込んだ。
瓜生のLPを、音もなく白銀の刃が斬り裂いていった。
瓜生:LP4000→0
「スキル……だと……?」
ユーイが手を掲げそう呟くのを聞いて、瓜生は思わず驚愕に顔を歪めた。
気付くとユーイの周りの砂埃が舞い上がり始めている。
それは瞬く間に渦を成し、砂嵐のようにユーイの姿を隠してしまう。
「まさか……あんなガキが……『あの人』と同じスキル使いだっつーのか……?」
スキル使いーーー。
それはデュエリストとしてある一定の壁を突破した覚醒者達。スキルを使えるということは、即ちデュエリストとしての力量が1つ上のステージにあるということ。
そのアドバンテージは計り知れない。
「スキルは手札を1枚多く持っているようなものだーーーと言う者もおる。じゃが、実際スキル使いが得るアドバンテージはそんなものの比ではない。スキルを使える者と使えぬ者の差は雲泥じゃよ」
ドールが独り言のように言うその声は、激しくなる風音に掻き消され、なんとかハヤトに聞こえるくらいだった。当然、よりユーイの近くにいる瓜生には聞こえない。
フィールドを覆いユーイを隠す砂嵐がキラキラと輝きを伴っている。世界魔力の粒子が、ユーイの手に集められているのだ。
もはやゴウゴウと唸りを上げる風音の中、何故かユーイの声だけがはっきりと皆の耳に響いた。
「“掴め”ーーー『ストーム・アクセス』!!」
瞬間、目を焼かれるほどの閃光が放たれ、砂嵐が一斉に弾けて止んだ。
咄嗟に目を閉じた瓜生が恐る恐る目を開けると、ユーイは未だ輝きを放つカードをその手にしていた。
「な、なんだそりゃあーーー」
「これが『ストーム・アクセス』によって生まれた新たな力だ」
スキル『ストーム・アクセス』はユーイのLPが1000以下の時にのみ発動でき、その能力は新たなるサイバースリンクモンスターを生み出すというもの。
ユーイは徐々に輝きを弱めていくそのカードをEXデッキに加える。
「バカな……。カードを生み出すだと……!」
瓜生のリアクションは、やはり死の物真似師と似たり寄ったりのもの。
デュエリストであれば誰でも、その人智を超えた性能に畏怖を覚えるのだろう。
「これでアンタを倒す道のりが見えたぜ」
ユーイの言葉に瓜生の心臓がドクリと跳ねる。間違いようもなく、それは恐怖から来る鼓動であった。
バッとユーイが手を振る。
それは脳裏で組み立てられた勝利の方程式を顕現させるための狼煙。
「まずはフィールドの伏せカードを発動! 永続罠《エンジェル・リフト》!」
フィールドに伏せられていたカードが表になる。
それは天使が亡者を導いているイラストの罠カードだった。
†
《エンジェル・リフト》
永続罠
自分の墓地のレベル2以下のモンスター1体を選択し、表側攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上から離れた時、このカードを破壊する。
†
「俺はこのカードの効果で、墓地の《ドングルドングリ》を特殊召喚する! 蘇れ《ドングルドングリ》!」
《エンジェル・リフト》は墓地のレベル2以下のモンスターを特殊召喚する蘇生罠カード。
ユーイの選択した《ドングルドングリ》はレベル1なので、この蘇生効果を受けられる。
小さな天使達が現れ、それらに導かれるようにして《ドングルドングリ》が再びユーイのフィールドにその可愛らしい姿を現した。
ドングルドングリ:ATK0
「そして《ドングルドングリ》のモンスター効果が発動!《ドングルトークン》を特殊召喚する!」
《ドングルドングリ》には特殊召喚成功時に《ドングルトークン》を生み出すモンスター効果がある。
1ターン目と同様に《ドングルドングリ》からUSBアダプタ部分が独立して《ドングルトークン》となった。
ドングルトークン:ATK0
「行くぜ、まずは1回目だ。現れろ、未来を導くサーキット!!」
ユーイの手から光が走り、中空にサーキットを描き出す。
点滅しているのは右下のマーカーだ。
「召喚条件は、レベル3以下のモンスター1体! 俺は《ドングルトークン》をリンクマーカーにセット!」
《ドングルトークン》が黒い矢となり、そのマーカーに吸い込まれた。
「リンク召喚!! 現れろ、リンク1《ホーリー・リンク・キャット》!!」
サーキットから現れたのは、キャラクター風にデフォルメされた無邪気げな可愛らしい白いネコのリンクモンスター。《リンクリボー》と同じように尾の先にリンクマーカーのような矢印がある。
†
《ホーリー・リンク・キャット》
リンク・効果モンスター(オリジナル)
リンク1/光属性/サイバース族/攻 400
【リンクマーカー:右下】
レベル3以下のモンスター1体
このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードがリンク召喚に成功した時、墓地のモンスターを任意の数除外して発動できる。除外したモンスターの数と同じレベルの通常モンスター1体を手札・デッキから、このカードのリンク先に特殊召喚する。
(2):自分フィールドのこのカード以外のリンクモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターのリンクマーカーを1つ選択し、そのリンクマーカーをターン終了時まで左右どちらかの向きに変更する。
†
リンク召喚された《ホーリー・リンク・キャット》はEXモンスターゾーンで首輪の鈴をチャリンと鳴らしくるんと転がると、愛らしい仕草でご主人の命令を待っている。
それに応えるように、ユーイは間髪入れずその効果発動を命じた。
「墓地の《ドット・スケーパー》を除外して《ホーリー・リンク・キャット》のリンク召喚時効果を発動! デッキからレベル1の通常モンスター《プロトロン》をリンク先に特殊召喚する! “ホーリー・チャイム”!!」
《ホーリー・リンク・キャット》はリンク召喚に成功した時、墓地のモンスターを除外し、その除外したモンスターの数と同じレベルの通常モンスターを手札・デッキからリンク先に特殊召喚する効果を持っている。
ユーイは墓地の《ドット・スケーパー》1体を除外したため、レベル1の通常モンスター1体を特殊召喚することができる。
《ホーリー・リンク・キャット》が招き猫のように前足を揺らすと、首輪の鈴が鳴り響く。
ユーイがデッキから選んだのは《プロトロン》。鈴の音に誘われて、黒くて丸い原初の電子生命体がユーイのモンスターゾーンに現れる。
†
《プロトロン》
通常モンスター
星1/地属性/サイバース族/攻 100/守 100
電子空間で見つかる原種。その情報量は未知数。
†
「更に除外された《ドット・スケーパー》の効果! このカードを特殊召喚する!」
ユーイのモンスターゾーンに更に《ドット・スケーパー》が蘇る。
《ドット・スケーパー》は、墓地に送られた場合と除外された場合にフィールドに特殊召喚することができるモンスターだ。展開力を重視するユーイのデッキの連続特殊召喚を支える、使い勝手の良いモンスターと言える。
これでユーイのフィールドには総勢5体のモンスターが並んだ。
「チィ、雑魚ばかり次から次へと……!」
元より《ロックアウト・ガードナー》がいたとは言え、《エンジェル・リフト》1枚からのこの展開力は瓜生の目には異常に映ったらしい。
しかしユーイの連続召喚はまだ終わりではない。
「再び現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件はサイバース族モンスター2体! 《プロトロン》と《ドット・スケーパー》をリンクマーカーにセット!」
空に再びサーキットが描かれる。今度は左右のリンクマーカーに2体のモンスターが茶色い矢となり吸い込まれた。
「リンク召喚! 現れろ、リンク2《ハニーボット》!!」
そして現れ出たのは、蜂を模したスーツに身を包んだ少女のサイバースリンクモンスター。
†
《ハニーボット》
リンク・効果モンスター
リンク2/光属性/サイバース族/攻1900
【リンクマーカー:左/右】
サイバース族モンスター2体
(1):このカードのリンク先のモンスターは効果の対象にならず、戦闘では破壊されない。
†
リンクモンスターはEXモンスターゾーンか、リンクモンスターのリンク先にのみ特殊召喚が可能だ。
《ハニーボット》も《ホーリー・リンク・キャット》のリンク先のメインモンスターゾーンに浮く。
「攻撃力1900……。少しはマシなのが出てきたが……」
《ハニーボット》の攻撃力は1900。まだ下級モンスタークラスとは言え、それなりの攻撃力ではある。
《ダイオウギシキムシ》の攻撃力は上回っているが、それでも《エビルドーザー》には遠く及ばない。
「心配はいらない。まだ俺は《ストーム・アクセス》で手にしたカードを見せちゃいないからな」
そしてユーイは最後に1枚残った手札をデュエルディスクに置く。
「《サイバース・ウィザード》を通常召喚! そして三度現れろ、未来を導くサーキット!!」
《サイバース・ウィザード》がフィールドに現れると、すかさずこのターン三度目のサーキットを出現させる。
点滅しているのは、上下右下の3ヶ所のリンクマーカー。
「アローヘッド確認! 召喚条件は、光属性モンスターを含むサイバース族モンスター2体以上! 俺は《サイバース・ウィザード》・《ロックアウト・ガードナー》・《ドングルドングリ》の3体をリンクマーカーにセット!」
《サイバース・ウィザード》は白、《ロックアウト・ガードナー》は茶色、《ドングルドングリ》は黒。それぞれが渦巻く矢となり、3ヶ所のリンクマーカーへと吸い込まれた。
《サイバース・ウィザード》は光属性。他の2体は他属性のため、このターンに《サイバース・ウィザード》を引いていなければ、このリンク召喚は不可能だった。
だが実際にユーイは《サイバース・ウィザード》を引き、『ストーム・アクセス』はこのリンクモンスターをユーイに与えたのだ。
「リンク召喚!! 現れろ、リンク3《ライトニングコード・トーカー》!!」
サーキットより現れたのは、新たなる『コード・トーカー』。
どこまでも暗く光を吸い込む黒の《ダークコード・トーカー》とは対照的に、《ライトニングコード・トーカー》は日を受けると仄かに煌めく白銀の鎧に身を包んだ騎士の如きリンクモンスターだった。
その鎧には竜を思わせる装飾が施され、手に持つのは一点の曇りもなき白銀の大盾。黒い大剣を担いだ《ダークコード・トーカー》が暗黒騎士ならば、白銀の大盾を掲げるこちらは聖騎士か守護騎士かといった様相だ。
†
《ライトニングコード・トーカー》
リンク・効果モンスター(オリジナル)
リンク3/光属性/サイバース族/攻2300
【リンクマーカー:上/下/右下】
光属性モンスターを含むサイバース族モンスター2体以上
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分メインフェイズに発動できる。このカードのリンク先の光属性モンスターの数まで、相手フィールドの表側表示モンスターを選んで破壊する。
(2):自分フィールドのモンスターが効果の対象になった場合に発動できる。その効果を無効にする。そのモンスターがリンクモンスターだった場合、このカードの攻撃力はそのリンクモンスターのリンクマーカーの数×1000アップする。
†
《ライトニングコード・トーカー》が降り立ったのは、《ハニーボット》左側のメインモンスターゾーンであり、必然的に《ホーリー・リンク・キャット》の下(後ろ)に位置する。つまりこれら3体のリンクモンスターで直角三角形を形成するかたちだ。
リンク1、リンク2、リンク3と三連続のリンク召喚を決めたユーイだったが、そんな彼を見やり瓜生は口の端を上げる。
「スキルでカードを生み出すと聞いた時は驚いたが、何のことはねェな。テメェの展開もここで終わりだろ。たかが攻撃力2300のモンスターじゃあ、俺の《エビルドーザー》には敵わんぜ!?」
ユーイの怒涛の連続召喚には流石に肝を冷やしたらしく、その表情には安堵の色が濃い。
確かにユーイには切れる手札はもうない。展開そのものはここで打ち止めだ。
しかしそれでユーイの攻めが終わったわけではない。
「《ホーリー・リンク・キャット》の更なる効果! 自分フィールドのリンクモンスター1体のリンクマーカーの向きを左右どちらかに変更する!」
《ホーリー・リンク・キャット》の(2)の効果を発動する。
それは、リンクマーカーの向きを変更するという珍しい効果。
リンクモンスターにとってリンクマーカーの向きは非常に重要だ。EXモンスターゾーンか他のリンクモンスターのリンク先にしか特殊召喚できないリンク召喚の特性上、リンクマーカーの先がモンスターゾーンでなかったり既に他のモンスターがいて空いていなかったりすると、リンクモンスターは存在することさえできない。また多くのリンクモンスターがリンク先に関する効果を備えており、その向きによっては戦局を左右することも少なくないのである。
「俺は《ライトニングコード・トーカー》を効果対象に選択し、その右下のリンクマーカーを右向きに変更する!」
《ホーリー・リンク・キャット》の効果を受け、《ライトニングコード・トーカー》の右下のリンクマーカーが時計の針が戻るように右向きへと指す方向を変える。
これにより《ライトニングコード・トーカー》のリンクマーカーは上の《ホーリー・リンク・キャット》と右の《ハニーボット》を指し、《ハニーボット》とは『相互リンク状態』となった。
「リンクモンスターの矢印を変えた……? それが何だってーーー」
「ーーー『世界が変わる』のさ」
《ライトニングコード・トーカー》のリンクマーカーを変えた意図にピンと来てない様子の瓜生に、ユーイが大仰に答える。
「鳥にとって翼が命であるように、リンクモンスターにとってリンクマーカーは命みたいなものだ。ただ45°向きが変わるだけで、リンクモンスターは新たな命を吹き込まれたように描ける世界が変わる。それをーーーアンタのフィールドで見せてやるよ」
ユーイが手を突き出して命じる。
「《ライトニングコード・トーカー》の効果発動! 1ターンに1度、リンク先の光属性モンスターの数まで相手フィールドの表側表示モンスターを選び、そのモンスターを破壊する!!」
「何だとッ!?」
《ライトニングコード・トーカー》の全身から光のオーラが沸き上がる。
《ホーリー・リンク・キャット》によりリンクマーカーを右向きに変更されたことで、《ライトニングコード・トーカー》のリンク先には《ホーリー・リンク・キャット》と《ハニーボット》ーーー2体の光属性モンスターが存在する。
つまり、このターンの間ならばこの効果で破壊できる相手モンスターは2体ということになる。
「貫けッ! “ライトニング・アローズ”!!」
閃光の矢ーーー。
一瞬何かが閃いたと思った瞬間に、既に2本の光の矢は放たれ、瓜生の2体のモンスターを貫いていた。
身体を串刺しにされた《エビルドーザー》と《ダイオウギシキムシ》は、断末魔の暇もなく消滅してしまう。
それは瓜生の顔を青くするのに充分な光景だった。
虎の子のエースモンスター達は、その攻撃力に関わらず何の抵抗もできぬまま問答無用で果ててしまった。先ほどまでとはまるで逆の立場になったことは、すっかり空になった瓜生のフィールドを見るまでもなく明らかだった。
《ライトニングコード・トーカー》の放った2本の光矢は、フィールドの様子という意味では確かに世界をひっくり返したと言えた。
瓜生は苦々しげに顔を歪める。
「意趣返ししたつもりか……!」
先のターン、ユーイの《ダークコード・トーカー》達は《エビルドーザー》に殲滅された。そして今度はその《エビルドーザー》達が《ライトニングコード・トーカー》により殲滅させられたのだ。確かに意趣返しと捉えられても可笑しくないほど擦(なぞ)ったやり返しだった。
それをユーイは余裕たっぷりに認める。
「『力は苛烈なほど良い』んだろう?」
「ぐッ……!」
屈辱に喉を鳴らす瓜生だったが、それを飲み込むと一転して頬を吊り上げた。
「だが、この瞬間《エビルドーザー》のもう1つの効果が発動する!《エビルドーザー》は戦闘・効果で破壊された場合、相手フィールドのモンスター1体を道連れにし、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与えることができるんだ! ヒャハハハ、この効果でテメェの《ライトニングコード・トーカー》を破壊すりゃあ、俺の勝ちだぜッ!!」
《エビルドーザー》とは『邪悪』・『うたた寝する者』という意味がある。つまり邪悪がうたた寝していられるほど邪悪な存在というわけだ。そのモンスター効果は、まさにその名を裏切らない凶悪なものだった。
生まれ出た時には相手モンスターを全て破壊し、死する時には相手を道連れにしつつダメージまで与える。まるで一生を掛けて他者を侵し尽くす破壊の化身と言えた。
「死してなお侵せ!《エビルドーザー》!!」
意気揚々と既にフィールドにはいない《エビルドーザー》に命じる瓜生だったーーーが、その顔に困惑が滲み出る。
「どうした!? 何故何も起きない!?」
瓜生のフィールドに変化はない。
通常ならば《エビルドーザー》の効果が発動し《ライトニングコード・トーカー》が破壊されるエフェクトが発生するはずなのに、何も起こらないのだ。
それを見て、したり顔を浮かべたのはユーイだった。
「残念ながらその効果じゃあ《ライトニングコード・トーカー》は破壊できないぜ」
「テメェ……! 何をしやがった!?」
「これは《ハニーボット》の効果だ。《ハニーボット》のリンク先のモンスターは効果の対象にならないのさ。俺が《エビルドーザー》の破壊効果を見逃すとでも思ったか?」
《ハニーボット》のリンクマーカーは《ライトニングコード・トーカー》に向いている。よって、そのモンスターゾーンにいる限り《ライトニングコード・トーカー》は効果の対象にはならず、それを対象に取る効果は発動すらできないのだ。
そして《エビルドーザー》の(2)の破壊効果は相手モンスターを対象に取る効果なのだった。
「くっ……このために《ハニーボット》を出していやがったのか! だが、その程度で《エビルドーザー》の効果を防いだつもりか!? テメェこそ、《ライトニングコード・トーカー》は破壊できずとも《ハニーボット》なら破壊できることにオレが気付かないとでも思うのか!?」
地面から染み出すようにして、幽霊のようになった《エビルドーザー》が沸き上がってくる。それは《エビルドーザー》の(2)の効果の破壊エネルギーが、発生源の姿を模した形となって可視化したものだ。
「やれ!《ハニーボット》を破壊しろ!!《エビルドーザー》!!」
破壊対象を《ハニーボット》に変えたことで、《エビルドーザー》の効果が正常に発動したのだ。《ハニーボット》の護る力はあくまでリンク先のモンスターにしか及ばず、自身を護ることはできない。
幽体《エビルドーザー》が《ハニーボット》に牙を剥く。
攻撃力1900の《ハニーボット》を破壊すれば、ユーイに降りかかるダメージはその半分の950。残りLP800のユーイならば充分倒せる。
勝利を確信して瓜生が喜色を満面に出そうとしてーーー
しかしそれもユーイに遮られた。
「残念ながらそれも読んでいる!!」
苦もなく《ハニーボット》を押し潰すはずだった幽体《エビルドーザー》の特攻は、しかし白銀の盾によって阻まれていた。
盾が光のバリアを発生させ、破壊エネルギーを阻み跳ね返す。
「ここで《ライトニングコード・トーカー》だと!?」
「ああ!《ライトニングコード・トーカー》の更なる効果!《ライトニングコード・トーカー》は自分のモンスターが効果の対象となった場合、その効果を無効にできる!!」
《ライトニングコード・トーカー》の光のバリアが《ハニーボット》を優しく包み込む。
それは『仲間を護る』と『敵を排除する』という2つの意志を反映した力強い光。
その光の波動を受けて、幽体《エビルドーザー》は煙のように霧散していった。
「どのみち無駄だったようだな。だがこれで分かっただろう、『侵す力』と『護る力』ーーー本当に強いのはどちらか」
「な、ぐ……ぐぬぬ……」
万策尽きた瓜生はもはや言葉もなく唇を噛むのみ。
「ーーーそして誰かを護るというその強い意志は、護る者にまた新たな力を与えてくれる」
盾を下ろし守備態勢を解除した《ライトニングコード・トーカー》が更に白銀のオーラに包まれる。
ライトニングコード・トーカー
ATK2300→4300
「《ライトニングコード・トーカー》の攻撃力は護ったリンクモンスターのリンクマーカーの数×1000アップする」
《ライトニングコード・トーカー》の力は、まさにユーイの信念を具現化していた。
『弱者を護る力』が『世界を変える新たな力』を生み出す。
「ーーーバトルだ」
ユーイの言葉に反応して《ライトニングコード・トーカー》が盾に隠されていた剣を出す。
その刃もまたーーー変えるべき世界を斬り裂く輝きを放っていた。
「“ファイナル・ライトニングコード”」
世界を真っ白い光が包み込んだ。
瓜生のLPを、音もなく白銀の刃が斬り裂いていった。
瓜生:LP4000→0
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感想など何でも良いので、コメントお待ちしております。
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(2020-12-14 22:45)