第170話 人外の優しさ　作：ヒラーズ

内部に突入した俺達はある作戦を行っていた。
先ず、俺とハルがコールドスリープ装置のあるエリアに向かい、レンギアを回収する。ネクロとセージは部屋に入るためのセキュリティを解除する方に回る事と脱出通路を確保しておくことが作戦である。
ある意味では特殊部隊が行いそうな作戦（プラン）だが、そう言っているほど余裕ではない。
そしてこの作戦の最終目的は「世界樹の破壊」である。
「陸也君、君の話が正しければ残りの汚染率はこの「木」・・・いや「機」を破壊すれば汚染率は1％以下になるのかい？」
「ああ、この先にある巨大な機械からだが。ものすごい汚染率を感知した。最後の原因はコイツにある」
俺達は二手に分かれ、あちこちのエリアに移動する。
その途中だった。ハルの足がある部屋の前に止まる。
「・・・陸也さん」
「種保管室か・・・なるほど、レンギアを回収するついでだ」
俺は扉を蹴破り、中に入る。
中は沢山のカプセルが並べられており、その中に種らしき小さい物質がカプセル1つにつき10個ほど入っている。
「これが全部・・・陸也さんの言っていた「世界樹の種」？」
「そうだ、それにしても多いな。ふむ・・・全部は駄目だが、一つぐらいは貰っておくか」
「いいの？」
「あくまで保険だ、それ以外使わん」
俺はカプセルの一つを持ち出し部屋を出る。
するといきなり通信が入る。
『ネクロだ。セキュリティ管理室に入った。今陸也君達のいる部屋のセキュリティを全て解除したよ』
「でかしたネクロ。この先のセキュリティの解除も頼む」
『分かった』
そう言って通信が切られる。
「行くぞ、レンギアはこの先だ」
「うん・・・！」
俺達はコールドスリープ装置のある部屋まで走り抜け、他のセキュリティも難なく突破していった。














「ここにレンギアさんが・・・」
「入るぞ、油断するな」
俺は扉を開け、中に入る。
そしてその部屋の中には・・・。
「！これは・・・っ！」
「な・・・に？この人達は・・・！」
俺達が見たのは・・・無数の培養槽のあるとても広い空間だった。
まるでSF映画の世界に入り込んだような白い空間。
その中にある培養槽。中身を見たハルは驚いた。
「・・・！ぼくと同じ歳の人が入ってる・・・！？」
俺は近くにあった端末を弄り、生きているかを確認する。
「いや、正しく言うのであるならば、ここは世界樹の子供の「死 体安否室」だ。子供達全員、生きていない。生きているように見えているのは中の培養液の効果だ」
それを聞いたハルは絶望したような顔をし、培養槽に触れる。
「そんな・・・どうして・・・？皆は・・・死んじゃったの・・・？」
「・・・」
俺は考えた、そろそろ真実を話すべきかと。
だが、ネクロの言う通り。真実を受け入れなければ前へ進めない時もある。
俺は腹をくくり、ハルに話す。
「ハル・・・お前さんに伝えておかなければならない事がある」
「陸也さん・・・？」
「本当はお前さんの信頼を壊すような事を言うかも知れない・・・それでも、聞いてくれるか？」
俺は持っていたファイルをハルに渡す。
「これは？」
「お前さんらの正体が記載されている研究ファイルだ。探索中に見つけた。今まで黙っていて済まなかった」
「・・・」
ハルは黙ってファイルを開き、真実を見た。
とたんにファイルを床に落とし、座り込む。
その時の顔は悲しみの表情に変わり、涙が流れ、泣き出した。
「・・・嘘・・・だよね・・・？全部・・・全部・・・実験だったと言うの？ぼく達は・・・人間じゃないって言うの・・・？ぼく達の思い出は・・・全て・・・実験のためで、一緒に暮らそうとか・・・嘘だったの・・・？」
子供にはかなり重い真実だろう。だが、これが真実だ。
例え重かろうが・・・受け入れなければならない。
「・・・陸也さん、陸也さんも・・・ぼくを怪物だと思ってる・・・？」
「・・・」
「・・・」
互いに沈黙が続き、しびれを切らしたかのように、俺は言う。
「・・・嘘は言わん、俺は生まれも転生も人外だ。そしてお前さんを人外であろうと人間として見ている。俺は・・・ハルを怪物とは見ていなければ、思っていない」
「訳がわからないよ・・・どうして・・・陸也さんは平気なの・・・？」
「俺も・・・同じ人外だからだ」
俺は自分の過去を全て話した。
あまりの衝撃にハルは驚きを隠せず、沈黙する。
「それじゃあ・・・ぼく達をこんなことにした原因は・・・」
「お前さんらを創ったマザーにある。俺はそう睨んだ」
「・・・」
「ハルやセージは俺とネクロを何だと思う？人か？虫か？怪物か？それとも、お前さんら産まれ故郷たる世界樹を破壊しに来た「敵」か？」
「・・・っ！？」
「否定する気持ちは誰にだってある。この真実を嘘と唱える偽善者もいれば、正そうとする悪人もいる。ましてや」
続きを言った瞬間だった。

「違う！！」
「・・・」
「陸也さんやネクロさんは・・・敵じゃない・・・仲間・・・だよ」
「・・・」
「でも・・・ぼく、ちょっとだけ気づいてたんだ・・・周りの人達がぼくだけ、特別扱いしてくる事で少しずつだけど・・・ぼくは・・・「人間じゃない」って・・・」
「・・・ならそれでいい」
「え―――――」
「人間じゃないから何だ？特別扱いされてるから何だ？体の性質は違えど人間として「生きる」志は・・・変わらないのであろう？ならそれでいい、ハルはハルだ。意思を持たぬ操り人形でもなければ醜い怪物でもない」
その事にハルは顔を下に向け、喋る・・・その言葉は何かに対する抵抗であった。
「・・・ぼくは・・・世界樹を失ったら・・・どう生きればいいの・・・？」
「・・・それは俺が決める事じゃない。決めるのは・・・ハルであり、ハルの意思だ。世界樹の中で生涯を終わらせたければ勝手にやればいい、お前さんの命だ。誰も手を出さん」
俺はそう言って探索に戻ろうと足を動かそうとした瞬間だった。
「嫌だ！」
「・・・！」
ハルが怒号を上げ、俺の服を掴む。
「・・・ぼくは・・・死にたくない・・・！！」
「・・・」
「ぼくは・・・一人になりたくない！！逃げてばかりのあの時のぼくに戻りたくない！！」
「・・・なら変われ」
「・・・え？」
「逃げてばっかりの情けない自分と向き合い、変われ。そして後悔なく生き、生涯を遂げろ。お前さんにはそれほどの価値があるんだからな、まぁ俺が言うまでもないんだが・・・」
「自分と・・・向き合う・・・そして・・・変わる」
その言葉が後押しになったのか、ハルは涙を拭き、決心がついた顔になる。
「・・・うん！分かった！」
「・・・ったく、面倒い奴だよハルは」
『全くだよ、こっちもようやく泣き止んだ・・・面倒だねぇ』
ネクロ・・・お前さんも同じ事してたのかよ。
『全セキュリティは解除した。後は作戦通りだよ』
「分かった、脱出通路を確保に向かってくれ」
『了解、通信を終了する』

「やっぱり、陸也さん達は強いや。ぼくも・・・変わらなくちゃ」
決意が固まって何よりだが、作戦を忘れないでくれ。
「行くぞ」
「・・・うん！」
俺達は捜索を続行し、辺りを探す。














しばらくして最深部にて俺達は一つのコールドスリープ装置のカプセルを見つける。
「これか・・・ハル、中身が分かるか？」
俺が中身を覗き込むと、眠っていたのは白衣を着た青髪ロングの女性だった。
「うん、間違いないよ・・・レンギアさんだ！！」
俺が装置のカプセルを開けてレンギアを引きずり出す時だった。
「・・・え？」
ハルが何かに反応したのか、辺りを見渡す。
「どうした？」
「今・・・誰かぼくを呼んだ声が・・・」
【ハル・・・お帰り・・・待っていたわ】
「？」
ハルは何かに誘われるかのように最深部を後にし、ふらふらと歩き去る。
「お・・・おい！」
俺はレンギアを背負いながら、走りつつハルを追って行った。
一体どうしてしまったんだ！？








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