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23:試練の予兆 作:天
デュエルに勝ったことで、ユーイはセリナに歩み寄る。
「デュエルは俺の勝ちだ。さぁ、しゃべってもらうぞ。あんたが俺に近付いた目的を。一応言っておくが、嘘は通用しない。デュエルに誓いを立てているんだからな」
デュエル前に誓いを立てる行為は、天に誓いを立てるのと同じ。それを破った者には天罰が下る。それはルールではなく『理』。誰にも覆すことはできない。
《クリボーファング》の爪ラッシュを受けて倒れていたセリナが起き上がる。少々背中でも打ったのか、その動きは緩慢だ。
「『嘘』はつかないわ。そもそも私達にキミと敵対するつもりはない。『嘘』をつく理由がない」
「『私達』?仲間がいるのか?」
言葉尻を捕らえてユーイが訊く。
それを隠す素振りもなくセリナは頷いた。
「ええ、私達はチーム。数人の中心的な立場の人がいて、私達は彼らの指示で動いている。ある大きな目的のために」
(俺を狙っているのは『組織』というわけか。だが俺なんかを狙って、そいつらに何のメリットがあるというんだ)
ユーイは何ということはない普通の学生だ。後ろ楯と言えば響ヒスイくらいで、彼女にしてもただのアカデミア講師に過ぎない。その『組織』がユーイに近付いて何を得ようとしているのか、皆目見当もつかない。
眉をひそめるユーイに、セリナが逆に問う。
「影丸ユウリとのデュエル以後、キミは力を欲している。そうじゃあない?」
ユーイはセリナを見る。
確かにユーイはいま魔力の向上を望んでいる。これまで少ない魔力で強い決闘者を倒すにはどうしたらいいか、自分なりに工夫してきた。しかし、やはりそれには限界がある。ユーイがこれ以上にステップアップしていくには、やはり魔力の向上は不可欠だ。
「そして、そのことは私がキミに近付いたことと無関係ではない。何故なら私達の目下の目的はまさに『キミを強くする』ことだからよ」
「なんだと・・・?」
(この女、何を言っている・・・。さっきから言っていることが不可解すぎる・・・。まさかとは思うが、全部作り話なんじゃあないだろうな・・・)
ユーイが疑いの目を向けるが、セリナはそれを正面から受け止める。
デュエルで誓いを立てた以上、そんなことはあり得ないのだが、それでもにわかには信じがたい。
「キミが魔力を求める気持ちは理解できる。でも今のままではダメ。ただ闇雲に追い求めるだけでは、何も変わらないし何も変えられはしない」
「・・・あんた達には、何か具体案があると?」
「具体的な方法は私も知らされてはいない。でも助言ならできるわ」
セリナがぐっと顔を近付ける。
鼻と鼻が触れそうなほど近く、温かい息が頬にこそばゆい。
「キミは何故自分が他者より魔力量が少ないのか疑問に思ったことはない?」
セリナの距離感に戸惑いながらも、ユーイはその問いについて考える。
(疑問を抱いたことがなかったわけじゃあない。なんで自分だけが、と嘆いたこともあった。ヒスイは詳しく教えてはくれなかったし、いつしか自分には素養がないんだと受け入れていたが・・・)
「単純に俺にその素養がないってことじゃあないのか・・・?」
ユーイの出した答えに、セリナは小さく首を振る。
「確かに魔力には元々の素養も関係がないとは言えない。現に貴族達はその素養を求めて政略結婚を繰り返しているわけだし。でもね、『そうじゃあない』のよ、キミに決定的に欠けているものは」
「決定的に欠けているものだって?」
「魔力とは『精神のエネルギー』。そして『精神』とは、キミが生きてきた中で得た経験、学んだ知識、生まれた感情、そういったものが積み重なって構築されている。つまり『精神』とは、キミがどう生きてきたのかそのもの。勘の良いキミならば、もう分かるでしょう?魔力にとって最も重要な要素は『素養』なんかじゃあなく・・・、『記憶』なのよ」
『記憶』というフレーズに、ユーイの心臓がドクンと跳ねる。
「『記憶』のほとんどを失っている今のキミじゃあ、素養があろうがなかろうが、本当の力は発揮できない。綱渡りのロープの上では重量挙げはできないように。必要なのは力を発揮するための安定した土台。決闘者にとって、それがまさに『記憶』。素養だけなら、たった1年の記憶だけで私や影丸ユウリと対等に闘えていることを考えれば、キミにどれだけの素養が秘められているのか恐ろしいくらいよ」
『記憶』と魔力を繋げて考えたことなどなかった。言われてみれば、確かに『記憶』と『精神』は密接に関係している。デュエルが『精神』の闘いというのならば、『記憶喪失』がデュエルに何らかの影響を与えていてもおかしくはないのだ。
(逆に今までその可能性に何故思い至らなかったのか。そのことの方が不自然だ)
愕然とするユーイを哀れむようにセリナは眉を下げる。
「ショックを受けているのね。分かるわ、その気持ち。私も同じだったから・・・」
「同じ?」
「言ったでしょ、キミに興味があるって。あれは私個人の本心よ。――――私も『記憶喪失』だったから」
「えッ」とユーイが目を見開く。
セリナは表情を緩ませる。
「キミと私、よく似てるわ。実は私、この国の生まれじゃあないの。私の故郷は『輪の国』。そこではかつて戦争があって、私はその戦争孤児だったらしいわ。私もキミ同様『記憶喪失』の状態で見つかり、そして母様に拾われ育てられた」
その境遇は確かにユーイのそれに似ていた。
記憶喪失のユーイがヒスイに拾われたように、彼女はカミラ・ムークに拾われ育てられたという。
セリナは潤んだ瞳でユーイを見る。
その瞳には最早敵意など微塵も見えない。むしろすがり付くような儚さが揺れている。
「何も覚えていないということは『孤独』だわ。『孤独』は心を弱くする。自分という存在を支えるものがない心細さは、体験した者でなければ理解できない。私ならば、キミの『孤独』を分かってあげられる。私達の仲間になって、武藤ユーイ。私達ならば必ずキミの『記憶』を取り戻す手助けができるはず」
それは交渉とか勧誘とかじゃあなく、懇願に近い訴えだった。
しかしユーイはそんなセリナをそっと離す。
「やっぱりまだ信用できない?」
残念そうなセリナに、しかしユーイは頭を振る。
「確かにあんた達の組織はまだ信用できない。でも、さっきのデュエルで《月光蒼猫》を奪われた時に見せたあんたの激情・・・あれはあんたが本当に心から自分のモンスターに愛着を持っているってことだ。モンスターに愛を抱ける決闘者に悪い人はいない―――」
セリナの目を見る。彼女も真っ直ぐにユーイを見ている。そこにはこちらを騙そうとか唆そうとかいう悪意は見えない。
ユーイは好ましい笑みを浮かべた。
「―――あんたは良い人だ」
セリナの顔がパッと華やぐ。
「じゃあ―――」
「だが、今すぐに結論は出せない。俺があんた達の仲間になるって件はもう少し待ってくれないか」
当然と言えば当然の回答だった。
突然仲間になれ、と言われたところで「ハイ、分かりました」とは言えない。
それはセリナも了承していること。
「分かったわ。その件はとりあえず保留で構わない。でも、私がキミの味方であることだけは忘れないで」
ユーイがそれに頷くと、セリナは安心したような表情を浮かべる。
この出会いが何をもたらすのか、それはまだ分からない。
だが確かなことは、このデュエル・アカデミアで何かが動き出そうとしていること。そしてそれにすでにユーイも巻き込まれているということだ。
これから押し寄せるその波がどんな荒波なのかもまだ分からないが、流されず溺れてしまわないようにするには、強くなるしかない。
ユーイは固くそれを誓ったのであった。
ー ー ー ー ー ー ー ー
夜の帳がすでに落ちた暗い廊下を、セリナ・ムークは一人コツコツとヒールを鳴らしながら歩いていた。
ある扉の前で止まると、ノックする。木の乾いた音が静かな廊下に響く。
「どうぞ」と中から少女のような声がして、セリナはその扉を開けた。
中は、簡素な作りながら長く使われた木の温かみを感じる部屋。簡単な応接セットと大きな机、それ以外は本や資料が乱雑に詰められた棚で埋め尽くされている。個人の私室というよりは執務室といった感じ。
現に部屋の主は大量の書類に埋もれるデスクで、何やら書き物をしていた。それが一段落すると、彼女―――クローディア・デ・メディチはセリナに妖艶な笑みを向ける。
「どうだったノネ、武藤ユーイは?」
アカデミアでは教師や講師に個室となる執務室を貸与している。ここはその中のクローディア用の執務室である。
セリナは椅子に腰かけることなく、立ったままで私見を述べる。
「強いですね。さすがにクローディア先生や母様が目を付けられただけはあると思います。ただ、現時点では影丸ユウリや早乙女レイヤなどの上位成績者には少々及ばないかと」
「現時点では・・・ネ」
セリナの台詞には、言外に彼の成長力への期待が滲み出ていた。
それをクローディアも正確に読み取る。
「あなたも彼の成長力には気付いたみたいなノネ。それで『記憶』については?」
「『記憶』を取り戻すことの重要性は伝えられました。ただ、やはり記憶喪失以前についての情報は認識できないようにされているようです」
クローディアは口許に手をやる。
「認識阻害か・・・厄介なノネ」
武藤ユーイの『記憶喪失』はやはりただの記憶喪失ではないようだ。記憶を無くしているだけでなく、以前の自分に関することを伝えられたり知ったりしても自動的にそれを受け入れることができなくしてあるらしい。これはどう考えても自然な形での記憶喪失ではあり得ない。
「彼の記憶を取り戻すのは、やはり容易ではなさそうなノネ。となると―――カミラとイブキを呼び寄せる必要があるようなノネ」
クローディアの言葉に、セリナが慌てる。
「母様達をッ!?まさか何か手荒な手段を取るつもりでは―――」
その慌てようにクローディアは笑む。
「あら、あなたが他人を心配するなんて珍しいノネ。彼と直に触れ合って情でも移ったノネ?」
セリナは誰とでも仲良くなれる、というタイプではない。人に媚びず気高く生きる猫のように、むしろ他者との間には堅牢な壁を築く方だ。
そのセリナが手放しでユーイを心配している。どうやら似た境遇のユーイに少なからずシンパシーを感じているらしい。
(教師としては喜ばしい変化なノネ)
クローディアは幼い頃から知っているセリナの年頃らしい反応に、心中好ましく思う。
しかし、志を同じくする同志としては手放しで喜ぶばかりではいられない。
「今は我々と同舟というわけにはいかなくとも、武藤ユーイの性格からして、動乱が起これば我々と協力して事に当たるのは間違いないノネ。いずれ彼も同志となるのなら、心を通わせておくのも良いノネ。ただし、やはり彼にはその戦いを乗り越えるだけの力を身につけてもらなくてはならないノネ。そして悠長に彼の記憶が戻るのを待っている猶予はもう我々にはないノネ。多少の荒療治にはなるけれど、イブキ達に出張ってもらうことは必要なノネ」
諭すようにクローディアは言う。
多少の反論は覚悟していたが、セリナはそれ以上抵抗することはなかった。セリナ自身、クローディアの言い分に理があることは承知している。
アカデミアを巡る状況は、すでにそんなのっぴきならない段階まで至っているのだ。
(まさか死ぬようなことにはならないと思うが、クローディア先生の考えることだ、そうとも言い切れない。ユーイ・・・)
セリナはまだ何も知らないユーイの無事をただ祈るのみであった。
ー ー ー ー ー ー ー ー
「デュエルは俺の勝ちだ。さぁ、しゃべってもらうぞ。あんたが俺に近付いた目的を。一応言っておくが、嘘は通用しない。デュエルに誓いを立てているんだからな」
デュエル前に誓いを立てる行為は、天に誓いを立てるのと同じ。それを破った者には天罰が下る。それはルールではなく『理』。誰にも覆すことはできない。
《クリボーファング》の爪ラッシュを受けて倒れていたセリナが起き上がる。少々背中でも打ったのか、その動きは緩慢だ。
「『嘘』はつかないわ。そもそも私達にキミと敵対するつもりはない。『嘘』をつく理由がない」
「『私達』?仲間がいるのか?」
言葉尻を捕らえてユーイが訊く。
それを隠す素振りもなくセリナは頷いた。
「ええ、私達はチーム。数人の中心的な立場の人がいて、私達は彼らの指示で動いている。ある大きな目的のために」
(俺を狙っているのは『組織』というわけか。だが俺なんかを狙って、そいつらに何のメリットがあるというんだ)
ユーイは何ということはない普通の学生だ。後ろ楯と言えば響ヒスイくらいで、彼女にしてもただのアカデミア講師に過ぎない。その『組織』がユーイに近付いて何を得ようとしているのか、皆目見当もつかない。
眉をひそめるユーイに、セリナが逆に問う。
「影丸ユウリとのデュエル以後、キミは力を欲している。そうじゃあない?」
ユーイはセリナを見る。
確かにユーイはいま魔力の向上を望んでいる。これまで少ない魔力で強い決闘者を倒すにはどうしたらいいか、自分なりに工夫してきた。しかし、やはりそれには限界がある。ユーイがこれ以上にステップアップしていくには、やはり魔力の向上は不可欠だ。
「そして、そのことは私がキミに近付いたことと無関係ではない。何故なら私達の目下の目的はまさに『キミを強くする』ことだからよ」
「なんだと・・・?」
(この女、何を言っている・・・。さっきから言っていることが不可解すぎる・・・。まさかとは思うが、全部作り話なんじゃあないだろうな・・・)
ユーイが疑いの目を向けるが、セリナはそれを正面から受け止める。
デュエルで誓いを立てた以上、そんなことはあり得ないのだが、それでもにわかには信じがたい。
「キミが魔力を求める気持ちは理解できる。でも今のままではダメ。ただ闇雲に追い求めるだけでは、何も変わらないし何も変えられはしない」
「・・・あんた達には、何か具体案があると?」
「具体的な方法は私も知らされてはいない。でも助言ならできるわ」
セリナがぐっと顔を近付ける。
鼻と鼻が触れそうなほど近く、温かい息が頬にこそばゆい。
「キミは何故自分が他者より魔力量が少ないのか疑問に思ったことはない?」
セリナの距離感に戸惑いながらも、ユーイはその問いについて考える。
(疑問を抱いたことがなかったわけじゃあない。なんで自分だけが、と嘆いたこともあった。ヒスイは詳しく教えてはくれなかったし、いつしか自分には素養がないんだと受け入れていたが・・・)
「単純に俺にその素養がないってことじゃあないのか・・・?」
ユーイの出した答えに、セリナは小さく首を振る。
「確かに魔力には元々の素養も関係がないとは言えない。現に貴族達はその素養を求めて政略結婚を繰り返しているわけだし。でもね、『そうじゃあない』のよ、キミに決定的に欠けているものは」
「決定的に欠けているものだって?」
「魔力とは『精神のエネルギー』。そして『精神』とは、キミが生きてきた中で得た経験、学んだ知識、生まれた感情、そういったものが積み重なって構築されている。つまり『精神』とは、キミがどう生きてきたのかそのもの。勘の良いキミならば、もう分かるでしょう?魔力にとって最も重要な要素は『素養』なんかじゃあなく・・・、『記憶』なのよ」
『記憶』というフレーズに、ユーイの心臓がドクンと跳ねる。
「『記憶』のほとんどを失っている今のキミじゃあ、素養があろうがなかろうが、本当の力は発揮できない。綱渡りのロープの上では重量挙げはできないように。必要なのは力を発揮するための安定した土台。決闘者にとって、それがまさに『記憶』。素養だけなら、たった1年の記憶だけで私や影丸ユウリと対等に闘えていることを考えれば、キミにどれだけの素養が秘められているのか恐ろしいくらいよ」
『記憶』と魔力を繋げて考えたことなどなかった。言われてみれば、確かに『記憶』と『精神』は密接に関係している。デュエルが『精神』の闘いというのならば、『記憶喪失』がデュエルに何らかの影響を与えていてもおかしくはないのだ。
(逆に今までその可能性に何故思い至らなかったのか。そのことの方が不自然だ)
愕然とするユーイを哀れむようにセリナは眉を下げる。
「ショックを受けているのね。分かるわ、その気持ち。私も同じだったから・・・」
「同じ?」
「言ったでしょ、キミに興味があるって。あれは私個人の本心よ。――――私も『記憶喪失』だったから」
「えッ」とユーイが目を見開く。
セリナは表情を緩ませる。
「キミと私、よく似てるわ。実は私、この国の生まれじゃあないの。私の故郷は『輪の国』。そこではかつて戦争があって、私はその戦争孤児だったらしいわ。私もキミ同様『記憶喪失』の状態で見つかり、そして母様に拾われ育てられた」
その境遇は確かにユーイのそれに似ていた。
記憶喪失のユーイがヒスイに拾われたように、彼女はカミラ・ムークに拾われ育てられたという。
セリナは潤んだ瞳でユーイを見る。
その瞳には最早敵意など微塵も見えない。むしろすがり付くような儚さが揺れている。
「何も覚えていないということは『孤独』だわ。『孤独』は心を弱くする。自分という存在を支えるものがない心細さは、体験した者でなければ理解できない。私ならば、キミの『孤独』を分かってあげられる。私達の仲間になって、武藤ユーイ。私達ならば必ずキミの『記憶』を取り戻す手助けができるはず」
それは交渉とか勧誘とかじゃあなく、懇願に近い訴えだった。
しかしユーイはそんなセリナをそっと離す。
「やっぱりまだ信用できない?」
残念そうなセリナに、しかしユーイは頭を振る。
「確かにあんた達の組織はまだ信用できない。でも、さっきのデュエルで《月光蒼猫》を奪われた時に見せたあんたの激情・・・あれはあんたが本当に心から自分のモンスターに愛着を持っているってことだ。モンスターに愛を抱ける決闘者に悪い人はいない―――」
セリナの目を見る。彼女も真っ直ぐにユーイを見ている。そこにはこちらを騙そうとか唆そうとかいう悪意は見えない。
ユーイは好ましい笑みを浮かべた。
「―――あんたは良い人だ」
セリナの顔がパッと華やぐ。
「じゃあ―――」
「だが、今すぐに結論は出せない。俺があんた達の仲間になるって件はもう少し待ってくれないか」
当然と言えば当然の回答だった。
突然仲間になれ、と言われたところで「ハイ、分かりました」とは言えない。
それはセリナも了承していること。
「分かったわ。その件はとりあえず保留で構わない。でも、私がキミの味方であることだけは忘れないで」
ユーイがそれに頷くと、セリナは安心したような表情を浮かべる。
この出会いが何をもたらすのか、それはまだ分からない。
だが確かなことは、このデュエル・アカデミアで何かが動き出そうとしていること。そしてそれにすでにユーイも巻き込まれているということだ。
これから押し寄せるその波がどんな荒波なのかもまだ分からないが、流されず溺れてしまわないようにするには、強くなるしかない。
ユーイは固くそれを誓ったのであった。
ー ー ー ー ー ー ー ー
夜の帳がすでに落ちた暗い廊下を、セリナ・ムークは一人コツコツとヒールを鳴らしながら歩いていた。
ある扉の前で止まると、ノックする。木の乾いた音が静かな廊下に響く。
「どうぞ」と中から少女のような声がして、セリナはその扉を開けた。
中は、簡素な作りながら長く使われた木の温かみを感じる部屋。簡単な応接セットと大きな机、それ以外は本や資料が乱雑に詰められた棚で埋め尽くされている。個人の私室というよりは執務室といった感じ。
現に部屋の主は大量の書類に埋もれるデスクで、何やら書き物をしていた。それが一段落すると、彼女―――クローディア・デ・メディチはセリナに妖艶な笑みを向ける。
「どうだったノネ、武藤ユーイは?」
アカデミアでは教師や講師に個室となる執務室を貸与している。ここはその中のクローディア用の執務室である。
セリナは椅子に腰かけることなく、立ったままで私見を述べる。
「強いですね。さすがにクローディア先生や母様が目を付けられただけはあると思います。ただ、現時点では影丸ユウリや早乙女レイヤなどの上位成績者には少々及ばないかと」
「現時点では・・・ネ」
セリナの台詞には、言外に彼の成長力への期待が滲み出ていた。
それをクローディアも正確に読み取る。
「あなたも彼の成長力には気付いたみたいなノネ。それで『記憶』については?」
「『記憶』を取り戻すことの重要性は伝えられました。ただ、やはり記憶喪失以前についての情報は認識できないようにされているようです」
クローディアは口許に手をやる。
「認識阻害か・・・厄介なノネ」
武藤ユーイの『記憶喪失』はやはりただの記憶喪失ではないようだ。記憶を無くしているだけでなく、以前の自分に関することを伝えられたり知ったりしても自動的にそれを受け入れることができなくしてあるらしい。これはどう考えても自然な形での記憶喪失ではあり得ない。
「彼の記憶を取り戻すのは、やはり容易ではなさそうなノネ。となると―――カミラとイブキを呼び寄せる必要があるようなノネ」
クローディアの言葉に、セリナが慌てる。
「母様達をッ!?まさか何か手荒な手段を取るつもりでは―――」
その慌てようにクローディアは笑む。
「あら、あなたが他人を心配するなんて珍しいノネ。彼と直に触れ合って情でも移ったノネ?」
セリナは誰とでも仲良くなれる、というタイプではない。人に媚びず気高く生きる猫のように、むしろ他者との間には堅牢な壁を築く方だ。
そのセリナが手放しでユーイを心配している。どうやら似た境遇のユーイに少なからずシンパシーを感じているらしい。
(教師としては喜ばしい変化なノネ)
クローディアは幼い頃から知っているセリナの年頃らしい反応に、心中好ましく思う。
しかし、志を同じくする同志としては手放しで喜ぶばかりではいられない。
「今は我々と同舟というわけにはいかなくとも、武藤ユーイの性格からして、動乱が起これば我々と協力して事に当たるのは間違いないノネ。いずれ彼も同志となるのなら、心を通わせておくのも良いノネ。ただし、やはり彼にはその戦いを乗り越えるだけの力を身につけてもらなくてはならないノネ。そして悠長に彼の記憶が戻るのを待っている猶予はもう我々にはないノネ。多少の荒療治にはなるけれど、イブキ達に出張ってもらうことは必要なノネ」
諭すようにクローディアは言う。
多少の反論は覚悟していたが、セリナはそれ以上抵抗することはなかった。セリナ自身、クローディアの言い分に理があることは承知している。
アカデミアを巡る状況は、すでにそんなのっぴきならない段階まで至っているのだ。
(まさか死ぬようなことにはならないと思うが、クローディア先生の考えることだ、そうとも言い切れない。ユーイ・・・)
セリナはまだ何も知らないユーイの無事をただ祈るのみであった。
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- 11/23 18:46 評価 5点 《拡散する波動》「最上級の《魔法使い族》に全体攻撃を付与できる…
- 11/23 17:30 評価 10点 《ブラック・ガーデン》「 もはや悪用される為に存在するまであ…
- 11/23 16:59 デッキ トマホークべエルゼftk
- 11/23 14:54 デッキ リチュア
- 11/23 14:42 評価 6点 《狂戦士の魂》「総合評価:《ダーク・ドリアード》を使えばダメー…
- 11/23 13:56 評価 9点 《融合派兵》「融合素材に指定されているモンスターをリクルートす…
- 11/23 13:17 評価 9点 《BF-隠れ蓑のスチーム》「総合評価:トークン生成、自己再生ど…
- 11/23 11:06 デッキ 影霊衣教導
- 11/23 10:04 評価 9点 《PSYフレームギア・δ》「あらゆる魔法カードの発動を無効にし…
- 11/23 09:52 評価 6点 《ジェムナイトレディ・ローズ・ダイヤ》「《天使族》を素材に求む…
- 11/23 04:10 評価 9点 《交響魔人マエストローク》「破壊耐性を付与できる《No.12 機…
- 11/23 02:50 評価 6点 《ハネクリボー LV10》「「ハネクリボー」重視のデッキを作っ…
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それにしても度々彼女達が口にする『いずれ起こる戦い』とは一体何なのだろうか!?
次回、遊戯王戦記第24話「7つの国、7人の王、7つの宝具」
キミは魔力を感じたことはあるか!? (2018-04-22 15:23)