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第5話「粘着質」 作:えのきっち
ここで蠱毒で生き残るための術を1つ教えておこう。一度戦った相手とは不用意に再戦を挑まないことだ。こちらが頑張って対策を講じたとしても、それは相手も同じで1度目と同じようには絶対にいかない。そもそも、戦うこと自体が生存から最も遠い行為であり、極力受けの姿勢を保つのが定石なのである。……定石、なのだが。
「昨日の恨みを晴らすときよ!勝負よトリオン!」
「はぁ」
多分これで三度目の戦闘。その相手は以前私が死にかけた相手。アトラの蟲惑魔である。
「……ホールティア。頼んでいい?」
ため息混じりで相棒に声をかける。
「はいはい」
面倒くさそうな返事をいただく。
「今日こそ……私の栄養になりなさいっ!」
一人だけ異常なテンション。
ホールティアはいつものように受けの態勢に入る。しかし彼女ではアトラの強力な一撃を防ぐことはできない。ならばどうすれば良いのか?防がなければ良い。「受ける」ではなく「受け流す」のが最適解。
「……今っ。悪いが転んでもらおうか」
「あっ!?しまっ__」
「はい、『粘着落とし穴』」
べちょっ、とわかりやすい音がした。間違いなくかかった。というか、その瞬間はしっかりと見ていたから疑いようもないのだが……
落とし穴を覗く。粘性の謎物質がしっかりとアトラを捕まえているはずだからしばらくは抜け出せないはずだろう。
「ひっ、冷たっ!やだやだ気持ち悪い!早く出しなさいよ!」
同情する。私だってあんなのに落ちたくはない。ベタついてて不快感しかない。……謎物質ってなんなのって?それはちょっと企業秘密。可哀想だし、条件付きで出してあげるとしよう。
「出してあげてもいいけど、今日はもう戦うのおしまいねー?」
「くっ……嫌よ、まだ私は負けてないじゃない!」
「ならダメだよ。そこでベタベタしててね」
「……ごめん出して!約束守るから!」
「よし」
ホールティアと二人でネバネバを除去しながら落とし穴を撤去していった。私の手にもネバネバが結構付いてしまうからあまり粘着落とし穴は使いたくないのだ。
酷い目にあった、と言わんばかりの表情をするアトラ。口約束ではあるが彼女はそういうのはしっかり守ってくれる。今日はもう戦闘をする必要はなさそうだ。……それはそれとして、アトラには聞かなきゃいけないことがある。根本的原因だ。
「あのさ、どうして私たちにそんなに構うの?戦闘なんてここじゃ意味ないじゃん」
「は?決まってるじゃない、あなた達二人が私を初めて倒した相手だからよ!」
ほぼ自爆だったような気もするが……指摘は野暮か。
「えと、つまり……ライバル視してるの?」
「それ以外に何があるのよ」
さて、どうやら前回の戦闘で彼女に勝利してしまったのが原因で、目をつけられてしまったようだ。これからは旅の道中で他の蟲惑魔だけでなく、常にアトラのことを気にしなければならなくなった。
「ところでアトラ」
ここでずっと黙って聞いていたホールティアが口を開いた。こういう時は決まって尋問になるのだが、今回は大丈夫だろうか?
「君は他の蟲惑魔と協力関係にあるか?例えば、先日交戦したハギとヒメカのような」
「んなわけ。私は誰にも媚びないし、誰とも馴れ合わないわ。というか今までずっと一人で戦ってたわよ?……まさかあなた達、勧誘しようとしてる?その手には乗らないわ」
「まさか。私達も君みたいな戦闘狂はごめんだ」
相変わらずホールティアは他人に対して厳しい。心なしかアトラの態度もキツくなってるし。しかし、おそらく今の彼女なら様々な情報を提供してくれるだろう。なんというか、戦闘時の張り詰めた雰囲気が抜けている。こちらに有意義な情報を一つでも聞き出せるようにうまく誘導してみるとするか。
「ねぇ、アトラはこの辺の蟲惑魔について何か知ってることはある?ほんとにちっちゃいことでもいいよ」
「あまり多くは教えてあげないけど、ヒメカもまた誰かの傀儡っぽそうだったわね。あれは多分別に頭がいるわ」
「そうそう!そんな感じに他にも」
「これ以上はダメよ。なんでも教えてあげたらアンタが有利になっちゃうじゃない」
……乗せてやれば調子に乗るかな、とか思ったけどそんなこともないらしい。私も考え方がホールティアに似てきたなあ。
アトラは何か少し考えた様子を見せ、そしてまた私たちに話した。
「ま、ここから先のことが知りたいなら『あの人』に頼んだら?この森の知識は彼女が一番なはずよ」
「……どの人?」
「えっ、知らない?シトリスよシトリス!ほら、ムシトリスミレの蟲惑魔よ!」
名前を言われてようやく思い出した。原住種の一人であり、また森の中でも指折りの実力を持つと言われる個体の一つ。情報を得るのならば確かに彼女を訪ねるのが一番早いかもしれない。
私たちは軽く礼を言い、すぐに出発の準備に取り掛かった。いくら強力な個体といえど、もしかしたらこの蠱毒で危険な目に遭っているかもしれない。せかせかとする私たちにアトラは尋ねた。
「……アンタ、戦闘はしない捕食はしない、一体どうする気なの?」
他の蟲惑魔からしたら私たちの行動は不合理なものだろう。私たちが意思のある生き物として生まれた以上、不合理なことに走ってしまうのも性。だからこそ私は自信満々で答えられる。
「決まってるじゃん!蠱毒を止めるんだよ!殺し合いなんか、そんなのダメだから!」
「あっそ。でも私は容赦なく勝ちにいくから。じゃ、せいぜい頑張りなさい」
そう言い残してアトラは足早に去ってしまった。蟲惑魔は基本あのように見境なく捕食するのが普通なのだろうか。いや、普通はそうだ。元来捕食者とはそういうものだ。おかしいとは思うけど……それでも私は私のすべき事を成さねば。
「トリオン。頭を悩ませてる暇はないよ。早くそのシトリスって蟲惑魔に会おう」
「そうだね。……仲間同士の殺し合いはもう嫌だから、ね」
「昨日の恨みを晴らすときよ!勝負よトリオン!」
「はぁ」
多分これで三度目の戦闘。その相手は以前私が死にかけた相手。アトラの蟲惑魔である。
「……ホールティア。頼んでいい?」
ため息混じりで相棒に声をかける。
「はいはい」
面倒くさそうな返事をいただく。
「今日こそ……私の栄養になりなさいっ!」
一人だけ異常なテンション。
ホールティアはいつものように受けの態勢に入る。しかし彼女ではアトラの強力な一撃を防ぐことはできない。ならばどうすれば良いのか?防がなければ良い。「受ける」ではなく「受け流す」のが最適解。
「……今っ。悪いが転んでもらおうか」
「あっ!?しまっ__」
「はい、『粘着落とし穴』」
べちょっ、とわかりやすい音がした。間違いなくかかった。というか、その瞬間はしっかりと見ていたから疑いようもないのだが……
落とし穴を覗く。粘性の謎物質がしっかりとアトラを捕まえているはずだからしばらくは抜け出せないはずだろう。
「ひっ、冷たっ!やだやだ気持ち悪い!早く出しなさいよ!」
同情する。私だってあんなのに落ちたくはない。ベタついてて不快感しかない。……謎物質ってなんなのって?それはちょっと企業秘密。可哀想だし、条件付きで出してあげるとしよう。
「出してあげてもいいけど、今日はもう戦うのおしまいねー?」
「くっ……嫌よ、まだ私は負けてないじゃない!」
「ならダメだよ。そこでベタベタしててね」
「……ごめん出して!約束守るから!」
「よし」
ホールティアと二人でネバネバを除去しながら落とし穴を撤去していった。私の手にもネバネバが結構付いてしまうからあまり粘着落とし穴は使いたくないのだ。
酷い目にあった、と言わんばかりの表情をするアトラ。口約束ではあるが彼女はそういうのはしっかり守ってくれる。今日はもう戦闘をする必要はなさそうだ。……それはそれとして、アトラには聞かなきゃいけないことがある。根本的原因だ。
「あのさ、どうして私たちにそんなに構うの?戦闘なんてここじゃ意味ないじゃん」
「は?決まってるじゃない、あなた達二人が私を初めて倒した相手だからよ!」
ほぼ自爆だったような気もするが……指摘は野暮か。
「えと、つまり……ライバル視してるの?」
「それ以外に何があるのよ」
さて、どうやら前回の戦闘で彼女に勝利してしまったのが原因で、目をつけられてしまったようだ。これからは旅の道中で他の蟲惑魔だけでなく、常にアトラのことを気にしなければならなくなった。
「ところでアトラ」
ここでずっと黙って聞いていたホールティアが口を開いた。こういう時は決まって尋問になるのだが、今回は大丈夫だろうか?
「君は他の蟲惑魔と協力関係にあるか?例えば、先日交戦したハギとヒメカのような」
「んなわけ。私は誰にも媚びないし、誰とも馴れ合わないわ。というか今までずっと一人で戦ってたわよ?……まさかあなた達、勧誘しようとしてる?その手には乗らないわ」
「まさか。私達も君みたいな戦闘狂はごめんだ」
相変わらずホールティアは他人に対して厳しい。心なしかアトラの態度もキツくなってるし。しかし、おそらく今の彼女なら様々な情報を提供してくれるだろう。なんというか、戦闘時の張り詰めた雰囲気が抜けている。こちらに有意義な情報を一つでも聞き出せるようにうまく誘導してみるとするか。
「ねぇ、アトラはこの辺の蟲惑魔について何か知ってることはある?ほんとにちっちゃいことでもいいよ」
「あまり多くは教えてあげないけど、ヒメカもまた誰かの傀儡っぽそうだったわね。あれは多分別に頭がいるわ」
「そうそう!そんな感じに他にも」
「これ以上はダメよ。なんでも教えてあげたらアンタが有利になっちゃうじゃない」
……乗せてやれば調子に乗るかな、とか思ったけどそんなこともないらしい。私も考え方がホールティアに似てきたなあ。
アトラは何か少し考えた様子を見せ、そしてまた私たちに話した。
「ま、ここから先のことが知りたいなら『あの人』に頼んだら?この森の知識は彼女が一番なはずよ」
「……どの人?」
「えっ、知らない?シトリスよシトリス!ほら、ムシトリスミレの蟲惑魔よ!」
名前を言われてようやく思い出した。原住種の一人であり、また森の中でも指折りの実力を持つと言われる個体の一つ。情報を得るのならば確かに彼女を訪ねるのが一番早いかもしれない。
私たちは軽く礼を言い、すぐに出発の準備に取り掛かった。いくら強力な個体といえど、もしかしたらこの蠱毒で危険な目に遭っているかもしれない。せかせかとする私たちにアトラは尋ねた。
「……アンタ、戦闘はしない捕食はしない、一体どうする気なの?」
他の蟲惑魔からしたら私たちの行動は不合理なものだろう。私たちが意思のある生き物として生まれた以上、不合理なことに走ってしまうのも性。だからこそ私は自信満々で答えられる。
「決まってるじゃん!蠱毒を止めるんだよ!殺し合いなんか、そんなのダメだから!」
「あっそ。でも私は容赦なく勝ちにいくから。じゃ、せいぜい頑張りなさい」
そう言い残してアトラは足早に去ってしまった。蟲惑魔は基本あのように見境なく捕食するのが普通なのだろうか。いや、普通はそうだ。元来捕食者とはそういうものだ。おかしいとは思うけど……それでも私は私のすべき事を成さねば。
「トリオン。頭を悩ませてる暇はないよ。早くそのシトリスって蟲惑魔に会おう」
「そうだね。……仲間同士の殺し合いはもう嫌だから、ね」
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