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第9話「軍議晩餐」 作:えのきっち
時に、蟲惑魔の食事事情について気になった人もそろそろ出てくるだろう。蠱毒が始まる前までは、普通に人間を誘い捕食していた。しかし、蠱毒が始まってからは森も穏やかでなくなり、人間も寄り付かなくなってしまった。だから、ごちそうが欲しければ蟲惑魔を喰らうしかないのだ。ならば、私のような蟲惑魔を食べない蟲惑魔はどうするか?残念なことに、現在進行形で倹約生活を謳歌している。ホールティアは植物だからまだ栄養補給は容易だけど、私は昆虫だから同じく昆虫でも食べないとやっていけないのだ。
「今日のごはん!共鳴虫8匹、共振虫10匹、ちょっと頑張ってグレート・モスを1匹!」
無論、この森には蠱惑魔以外も生息している。だからこうやって時々昆虫を捕まえて食べているのだ。蟲惑魔ほどの栄養はもちろんないが妥協も大切。……なんで蟲惑魔に含まれる栄養を知っているのかって?それはまた今度。
「1匹しかいないの!?これじゃ私のお腹膨れないわよ!」
「文句を言うなアトラ。ただでさえ他の虫は淘汰されて個体数が少ないんだ。狩りの苦労を知ってから文句を言ってくれ」
「蟲惑魔ぐらい狩ってるわよ!……最近は貴女たちに合わせてるだけで」
もちろんアトラはこの程度じゃ満足してくれない。たくさん食べてきた子ほど胃袋は大きいのだ。でも、そんな子を宥めることのできる大先輩が今ここにいる。
「ありがとうトリオン。それじゃあ、あとは私に任せてちょうだい。軽くだけど盛り付けてあげるわ」
シトリスはサバイバル方面の知識も豊富だ。いつも素材を取ってきたらすぐに調理してくれる。昔、人間を拾った時に料理とやらを教えてもらったらしい(教えてもらうだけもらった後に美味しくいただいたそうな……)。あ、料理の様子は『めしてろ』になるらしいから割愛ね。
「3人ともおいで。料理ができたわ」
「わあっ!グレート・モスの活け造り?よくできるねこんなの」
「おいしそ……ちが、美味しそうじゃない!」
「痩せ我慢は身体に毒だよアトラ」
私たちの晩御飯。人間からしたら虫を食べるっていうのは異質な文化だけど、こんな姿でも私たちは昆虫、植物の類だから案外普通なのだ。……お腹が空いてるのか、アトラはすぐに食いついた。すごい勢いで減っていく。早くしないと私たちの分まで無くなりそうだ。
「……そろそろ本題に移りましょうか。食べながらでいいから聞いてちょうだい」
シトリスが私たちに声をかける。そうだ。私たちはここでご飯を食べに来たのではない。刺身となった共鳴虫を口に頬張りながら私はシトリスの方を向いた。
「まずは貴女が知りたがっていた森の情勢ね。今はまだ群雄割拠しているけど、その中でいくつか頭ひとつ抜けている蟲惑魔がいるわね」
「はむはむ……ここにくる前にティオとジーナに会ったけど、その子たちもその部類?」
「彼女達も今力を伸ばしているわね。ただ、さらに上がいるわ」
あの2人よりもさらに上。想像もしたくない。蟲惑魔でコミュニティを作り、団体で動いているパターンも考えられる。ただ、今は聞かないことには始まらない。
「まずは、原住種でランカの蟲惑魔。彼女は新種を配下に加えて森全体を支配しようと目論んでいるわ」
「はいはーい!私が食べたヒメカやハギもその一種よねー?」
「当たりよ」
アトラが言っていたのはランカのことだったのか。事の辻褄が一致して少し納得した。
「次にセラの蟲惑魔。知っての通り、あの子は自身固有のテリトリーを有していて、そのテリトリーは彼女の能力と言っても過言ではないわ。徐々にそれを拡大していっているから要警戒よ」
蟲惑の園、と聞いたらわかるだろうか。それが彼女のテリトリー。モウセンゴケの蟲惑魔である彼女は蠱毒以前より大きな力を持っていることで有名だった。その強さが今、猛威を振い出したということだ。流石にセラの存在は有名だし私も認知している。
「なーんかアレね……滅茶苦茶強いって感じじゃなさそうね。他にないわけ?」
アトラが退屈そうに投げかける。それもそうだ、アトラもこんなんではあるが一応強豪の部類。それは自信の表れなのだろう。シトリスは渋りながらも、そして再び口を開いた。
「……最後に、圧倒的な力を持つ蟲惑魔がいるわ。貴女と同じ昆虫型よ。それも、蜘蛛」
「シトリス、それって」
アトラの余裕そうな顔が一気に崩れた。その顔は、焦りにも近かったし怖れにも近かった。
「……ご馳走様。その話はしないでちょうだい」
急ぐようにアトラは食事をやめて去っていった。何か引っ掛かる点でもあるのだろうか?むしろ引っ掛かるのは私の方だ。あのアトラがあそこまでの反応を示すとなると俄然気になってくる。シトリスは「やっぱり」といった表情で頭を抱えている。
「ねえシトリス、私たちにだけでもいいから話してくれない?流石に気になるよ」
「そうね、でもアトラにこの話はあまり聞かせてあげないであげてね。……アティプスの蟲惑魔。恐らく、彼女が今の森で1番強いんじゃないかしら」
同じ蜘蛛の蟲惑魔、と言っていた。アトラのことだからまたライバルか何かだと思っているのだろう。大方ボロ負けしてトラウマ気味だとかそこいらか。でも、真実は違った。
「……そして、アティプスはアトラの実姉よ。蠱毒が始まってからは疎遠になってるの」
「お姉さんなの!?それはまあ、因縁があるというか……複雑なんだね」
アトラとアティプスの間に何があったのか。それを知る術はない。でも、今はそれを詮索しようとは思わない。
「とりあえずありがとう。そしてシトリス、私たちは次は何をすべきか?まずは誰から手をつければいい?」
「うーん……まずはセラの場所に向かうべきじゃないかしら?あの子を落ち着かせないと、いずれまた染まるわ」
「ありがとう。トリオン、聞いたね?明日には出発しようか」
「早いね……でも即断は大事だね。私は賛成」
もしかしたら説得できるかもしれない。最悪の場合は想定しなければだけど、そこまでを想定するほど余裕はない。動かなければ。黙ってもいられない。
「元気があるわね。とりあえず今日は遅いからもう寝なさい。蟲惑魔とて、睡眠は大切よ」
簡易的な食卓を離れて私たちは寝床に向かう。だが、去る直前にシトリスは何かを呟いていた。
「……ランカの一味に何か異変が。事が動くわね」
言葉の真相がなんなのか。きっと聞いても何もわからないのだろう。何より、今は少し眠たいのだ……
「今日のごはん!共鳴虫8匹、共振虫10匹、ちょっと頑張ってグレート・モスを1匹!」
無論、この森には蠱惑魔以外も生息している。だからこうやって時々昆虫を捕まえて食べているのだ。蟲惑魔ほどの栄養はもちろんないが妥協も大切。……なんで蟲惑魔に含まれる栄養を知っているのかって?それはまた今度。
「1匹しかいないの!?これじゃ私のお腹膨れないわよ!」
「文句を言うなアトラ。ただでさえ他の虫は淘汰されて個体数が少ないんだ。狩りの苦労を知ってから文句を言ってくれ」
「蟲惑魔ぐらい狩ってるわよ!……最近は貴女たちに合わせてるだけで」
もちろんアトラはこの程度じゃ満足してくれない。たくさん食べてきた子ほど胃袋は大きいのだ。でも、そんな子を宥めることのできる大先輩が今ここにいる。
「ありがとうトリオン。それじゃあ、あとは私に任せてちょうだい。軽くだけど盛り付けてあげるわ」
シトリスはサバイバル方面の知識も豊富だ。いつも素材を取ってきたらすぐに調理してくれる。昔、人間を拾った時に料理とやらを教えてもらったらしい(教えてもらうだけもらった後に美味しくいただいたそうな……)。あ、料理の様子は『めしてろ』になるらしいから割愛ね。
「3人ともおいで。料理ができたわ」
「わあっ!グレート・モスの活け造り?よくできるねこんなの」
「おいしそ……ちが、美味しそうじゃない!」
「痩せ我慢は身体に毒だよアトラ」
私たちの晩御飯。人間からしたら虫を食べるっていうのは異質な文化だけど、こんな姿でも私たちは昆虫、植物の類だから案外普通なのだ。……お腹が空いてるのか、アトラはすぐに食いついた。すごい勢いで減っていく。早くしないと私たちの分まで無くなりそうだ。
「……そろそろ本題に移りましょうか。食べながらでいいから聞いてちょうだい」
シトリスが私たちに声をかける。そうだ。私たちはここでご飯を食べに来たのではない。刺身となった共鳴虫を口に頬張りながら私はシトリスの方を向いた。
「まずは貴女が知りたがっていた森の情勢ね。今はまだ群雄割拠しているけど、その中でいくつか頭ひとつ抜けている蟲惑魔がいるわね」
「はむはむ……ここにくる前にティオとジーナに会ったけど、その子たちもその部類?」
「彼女達も今力を伸ばしているわね。ただ、さらに上がいるわ」
あの2人よりもさらに上。想像もしたくない。蟲惑魔でコミュニティを作り、団体で動いているパターンも考えられる。ただ、今は聞かないことには始まらない。
「まずは、原住種でランカの蟲惑魔。彼女は新種を配下に加えて森全体を支配しようと目論んでいるわ」
「はいはーい!私が食べたヒメカやハギもその一種よねー?」
「当たりよ」
アトラが言っていたのはランカのことだったのか。事の辻褄が一致して少し納得した。
「次にセラの蟲惑魔。知っての通り、あの子は自身固有のテリトリーを有していて、そのテリトリーは彼女の能力と言っても過言ではないわ。徐々にそれを拡大していっているから要警戒よ」
蟲惑の園、と聞いたらわかるだろうか。それが彼女のテリトリー。モウセンゴケの蟲惑魔である彼女は蠱毒以前より大きな力を持っていることで有名だった。その強さが今、猛威を振い出したということだ。流石にセラの存在は有名だし私も認知している。
「なーんかアレね……滅茶苦茶強いって感じじゃなさそうね。他にないわけ?」
アトラが退屈そうに投げかける。それもそうだ、アトラもこんなんではあるが一応強豪の部類。それは自信の表れなのだろう。シトリスは渋りながらも、そして再び口を開いた。
「……最後に、圧倒的な力を持つ蟲惑魔がいるわ。貴女と同じ昆虫型よ。それも、蜘蛛」
「シトリス、それって」
アトラの余裕そうな顔が一気に崩れた。その顔は、焦りにも近かったし怖れにも近かった。
「……ご馳走様。その話はしないでちょうだい」
急ぐようにアトラは食事をやめて去っていった。何か引っ掛かる点でもあるのだろうか?むしろ引っ掛かるのは私の方だ。あのアトラがあそこまでの反応を示すとなると俄然気になってくる。シトリスは「やっぱり」といった表情で頭を抱えている。
「ねえシトリス、私たちにだけでもいいから話してくれない?流石に気になるよ」
「そうね、でもアトラにこの話はあまり聞かせてあげないであげてね。……アティプスの蟲惑魔。恐らく、彼女が今の森で1番強いんじゃないかしら」
同じ蜘蛛の蟲惑魔、と言っていた。アトラのことだからまたライバルか何かだと思っているのだろう。大方ボロ負けしてトラウマ気味だとかそこいらか。でも、真実は違った。
「……そして、アティプスはアトラの実姉よ。蠱毒が始まってからは疎遠になってるの」
「お姉さんなの!?それはまあ、因縁があるというか……複雑なんだね」
アトラとアティプスの間に何があったのか。それを知る術はない。でも、今はそれを詮索しようとは思わない。
「とりあえずありがとう。そしてシトリス、私たちは次は何をすべきか?まずは誰から手をつければいい?」
「うーん……まずはセラの場所に向かうべきじゃないかしら?あの子を落ち着かせないと、いずれまた染まるわ」
「ありがとう。トリオン、聞いたね?明日には出発しようか」
「早いね……でも即断は大事だね。私は賛成」
もしかしたら説得できるかもしれない。最悪の場合は想定しなければだけど、そこまでを想定するほど余裕はない。動かなければ。黙ってもいられない。
「元気があるわね。とりあえず今日は遅いからもう寝なさい。蟲惑魔とて、睡眠は大切よ」
簡易的な食卓を離れて私たちは寝床に向かう。だが、去る直前にシトリスは何かを呟いていた。
「……ランカの一味に何か異変が。事が動くわね」
言葉の真相がなんなのか。きっと聞いても何もわからないのだろう。何より、今は少し眠たいのだ……
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