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016:炎(ほむら)の刃 作:天2
016:炎の刃
城之内のフィールドには、超重量の《キューブ・ボム》に押し潰され身動きの取れない《エヴォルテクター エヴァック》と、今まさにその重荷から解き放たれようやく立ち上がることのできた《焔聖騎士-リナルド》。
対してトランプのフィールドはもぬけの殻も同然。
一見すると城之内が優勢に見えるが、追い詰められているのは彼の方だ。
次の城之内のスタンバイフェイズに《キューブ・ボム》が炸裂し《エヴァック》が破壊されるのは、魔法・罠除去の速攻魔法を引き当てない限り確実。そして《エヴァック》が破壊されれば、その攻撃力分ーーー1500のダメージが城之内を襲う。
残りLP2100の城之内にとっては看過できないダメージ量だ。
しかし城之内にそれを阻止する手立てはなく、このターンにできることはもうなかった。
城之内:LP2100/手札3
●モンスター
エヴォルテクター エヴァック:ATK1500
焔聖騎士-リナルド:ATK500
●魔法・罠
伏せカード1枚
トランプ:LP4000/手札4
●モンスター
なし
●魔法・罠
キューブ・ボム:装備(エヴォルテクター エヴァック)
「オレのターン、ドロー!」
薄笑いを浮かべたトランプがデッキからカードをドローする。
その薄笑いに闘志を刺激されたように城之内はトランプを指差し吠える。
「テメー、さっきからずっと出すモンスターは守備表示ばっかじゃねーか! テメーもデュエリストなら、バシッと正々堂々攻撃して来たらどうだッ! オレのモンスターの攻撃力はたったの500だぜ!? そんなモンスターにも攻撃をビビってんのか!?」
しかし城之内のそんな言葉を意に介す風もなくトランプは馬鹿にしたように嗤う。
「ハッ! そんな見え見えの挑発に乗ると思うか? オレはお前ら戦闘バカとは違うんだよ」
言って城之内のフィールドに伏せられたカードを指差す。
「おかげで確信できた。お前のその伏せカードは、召喚反応型または攻撃反応型の罠カード。そうだろう?」
「ぐ……ッ」
城之内は言葉を詰まらせ、自らが伏せたそのカードに視線を向ける。
†
《落とし穴》
通常罠
(1):相手が攻撃力1000以上のモンスターの召喚・反転召喚に成功した時、そのモンスター1体を対象として発動できる。その攻撃力1000以上のモンスターを破壊する。
†
伏せカードは、トランプが指摘した通りモンスターが召喚された時に発動しそのモンスターを破壊する罠カードだった。
城之内の顔に浮かんだ伏せカードが言い当てられた動揺を見て取り、トランプは笑む。
「確かにここでオレが攻撃力1100以上のモンスターを召喚し《リナルド》を攻撃しておけば、次のお前のスタンバイフェイズに《キューブ・ボム》が《エヴァック》を道連れに爆発し、それでゲームエンドにできる」
このまま次の城之内のスタンバイフェイズまで待てば《キューブ・ボム》の効果により城之内に1500ダメージを与えられるのは、ほぼ確定している。しかしそれだけでは城之内のLPは600残ってしまう。
そこでこのターンに攻撃力1100以上のモンスターで攻撃力500の《リナルド》を撃破しておけば城之内のLPを600以上削っておけるため、次のスタンバイフェイズでトランプは勝利することができるわけだ。
「だがオレはセットモンスターや伏せカードといった不確定要素を無視して突進するしか能のないお前らとは違う。そんな地雷など踏まずともオレの優位は変わらないのだから、そんなリスクを自ら進んで負うような真似はしないんだよ」
もし城之内がモンスター除去の罠を張っていた場合、それを踏めば今の優位性を失いかねない。ならば次のスタンバイフェイズに勝利するチャンスを逃そうとも、ここではその危険を犯さないという堅実さをトランプは選んだ。
それは城之内がかなり高い確率で罠を張っていると見た冷静な分析に基づいた選択だった。
そしてそれは確かに今の城之内には欠けているクレバーさでもあった。
確かな差を見せつけられた形の城之内は表情を固くする。
それを見やり、トランプは更に気を良くしたようだ。頬を紅潮させ、悦に浸る。
「良いことを教えてやろう。オレはシティにいた頃、それなりに名の通った連続爆弾魔だった」
唐突に語られ始めたトランプの恐るべき過去に、流石の城之内も絶句する。
「爆弾魔……だと?」
城之内もシティにいた頃はそれなりに悪さをしていた自覚はあるが、言ってもそれは街の悪ガキと呼ばれる程度のものだった。
だが『爆弾魔』というのはそれとはレベルが違う。明確な重犯罪者だ。
驚く城之内にトランプはますます笑みを深くする。
「『9人』ーーーこれが何の数字か分かるか?」
城之内は答えない。だが何となく答えは分かっていた。
それを察しているようにトランプは顔を歪める。
「その通り、オレが爆弾で吹っ飛ばしてやった人数さ」
まるで獲得したトロフィーを自慢するかのように語る。
その表情は懐かしむようでもあり、誇るようでもある。
「特に最後の『観覧車爆破』ーーーあれは良い作品になったな」
そう言われて、城之内の中で何かが繋がったような感覚がある。
「……思い出した。確かに1年くらい前に遊園地の観覧車が爆破された事件があったな」
城之内家の家計は苦しく、彼自身も食っていくために新聞配達のアルバイトをやっていた。仕事柄新聞記事を目にする機会が多く、そのため意外にも時事ネタには明るいのだ。
確かにその事件について記事を読んだ記憶がある。
「あれはアンタの仕業だったのか……」
「あれはいま思い出しても最高だったぜ。想定より乗客が少なかったのは残念だったが、恐怖に戦慄(おのの)きながらも逃げたくても逃げられない絶望に突き落とされた奴らの表情といったらーーー思い出しただけで興奮するぜぇ」
言葉の通り恍惚とした表情を浮かべる爆弾魔トランプ。
あの事件は観覧車のゴンドラに爆弾が仕掛けられ、トランプゲームの『時計(クロック)』に見立てられて順にゴンドラごと爆破されていくというものだった。
おそらく犯人であるトランプは騒然となる現場の近くでその様子を観察していたのだろう。
楽しい思い出になるはずだった遊園地が、たった一瞬で地獄と化した。
爆弾が仕掛けられていることを知らされた乗客達は、狭いゴンドラの中で逃げ出すこともできず計り知れない恐怖に苛まれたはずだ。そして犠牲となった人々の中には、確かまだ小さな子供もいた。
理知的に見えていたトランプの顔が歪んだ嗜好を持つ醜い怪物のそれに変わる。
「このクソ野郎が……!」
城之内の胸にふつふつと怒りがこみ上げてきた。
何人もの命を奪い沢山の人を傷付けてきただけでなく、それをまるで過去の栄光のように語るこの男を決して許してはならないと思う。
「セキュリティに追われこのサテライトに行き着いてしばらく爆弾魔稼業からは遠退いていたが、そろそろまた殺りたいと思っていたところだ。まずはお前を記念すべき10人目の生け贄にしてやるよ!」
自分の勝利を微塵も疑っていない顔で、トランプが手札を切る。
「永続魔法《悪夢の拷問部屋》を発動! こいつはお前に戦闘ダメージ以外のダメージが発生した時、更に追加で300ダメージを与える永続魔法だ!」
†
《悪夢の拷問部屋》
永続魔法
相手ライフに戦闘ダメージ以外のダメージを与える度に、相手ライフに300ポイントダメージを与える。
「悪夢の拷問部屋」の効果では、このカードの効果は適用されない。
†
例え《キューブ・ボム》の効果に追加して《悪夢の拷問部屋》が発動したとしても、次のスタンバイフェイズで城之内のLPが0になることはない。残りLP300でなんとか踏みとどまれる。
しかし精神的に追い込まれるのは確かだ。そしてトランプの狙いもそこにあった。
「せっかく記念の10人目だ、じわじわ追い詰めてやる。お前の苦痛に歪む顔をじっくりと堪能させてもらうぜ。そしてモンスターをセットしターンエンドだ」
睨み付ける城之内など意に介かず、例の如くモンスターを裏側守備でセットした。
トランプがセットしたのは数ターン前に《パラサイト・プリンター》でサーチした《スフィア・ボム》。
城之内の手札には《リナルド》でサルベージした《エヴォルテクター シュバリエ》があることは分かっている。次のターン、城之内が先程同様《リナルド》で《スフィア・ボム》を引き受け《シュバリエ》で直接攻撃するという戦術で来るかもしれないが、それでもトランプのLPを削りきることは出来ない。そうなれば更に次のスタンバイフェイズに《リナルド》共々《スフィア・ボム》が爆発してフィニッシュとなる算段だ。
トランプ:LP4000/手札3
●モンスター
セットモンスター:DEF?
●魔法・罠
キューブ・ボム:装備(エヴォルテクター エヴァック)
悪夢の拷問部屋:永続魔法
城之内:LP2100/手札4
●モンスター
エヴォルテクター エヴァック:ATK1500
焔聖騎士-リナルド:ATK500
●魔法・罠
伏せカード1枚
城之内のターン。
いよいよ城之内は追い込まれていた。このドローフェイズで何か逆転のきっかけを掴まなければ、その先には絶望しかない。
もしこのドローで魔法・罠除去の速攻魔法を引いたなら、また数ターンの延命は出来るかもしれない。しかし、それはただの一時しのぎにしかならない。
一気に逆転を狙うなら、もっと根本的な解決を望めるカードを引くしかないのだ。
城之内は自らのデッキに視線を落とす。
先述の通りこのデッキは城之内が心血注いで作り上げたものではない。死の物真似師から勝手に頂戴しただけの、他人のデッキなのだ。
城之内の使っているデッキは、それをベースに手元に残っていたカードをいくつか混ぜた混成デッキだった。
(昔、誰かが言ってたな……デュエリストが心の底から信じればデッキは必ず応えてくれるって。『オレのデッキ』じゃあねーからオレの想いに応えてくれねーのかと思ってたが、もしかしたら心から信じられてなかったのはオレの方だったのかもしれねー)
デュエリストとデッキは、例えれば親子のような関係と言える。
デュエリストは自らの使いたいカードややりたい動きーーー謂わば思考そのものを注ぎ込んでデッキを構築する。それは自らの魂を分け与えることと同義であり、それを使い続けることによって試行錯誤しながら少しずつ形にしていくものだ。それ故、デッキは使い手の心を映し出す鏡となる。
人も同じだ。産み出したからといって親子になるわけではない。命を育て育てられることにより、時間をかけて互いに絆を育んで初めて親子になる。だからこそ血の繋がり以上に精神的繋がりーーー『信頼』を紡ぐことができるのだ。
だが、まだ出会ったばかりの城之内とこのデッキとでは、その信頼が足りていない。
出会っただけでは、親子はもちろん友にすらなれるわけではないのだ。
このデッキの親は城之内とは別にいて、いつかその親にこのデッキを返したいとは思っている。
そのためにも今ここでこの爆弾魔に負けるわけにはいかなかった。
城之内は心の中で祈るようにデッキに語りかける。
(確かにオレはオメーの主人じゃあねー。だけどオレはこんなとこで負けるわけにはいかねーんだ。ぶん殴ってでも止めてー奴がいるんだ。オレの命も心も全部オメーに託す。頼む、力を貸してくれ!)
それはユーイとドールに頭を下げた時と同じように。
命と心を預けるという最大限の信頼を以て城之内はデッキに願う。
そしてデッキに手をかけた。
このドローに全てが掛かる。
「オレのターン……ドローッ!!」
恐る恐る見たそのカードはーーー。
「ーーーこの瞬間《キューブ・ボム》の効果が起動するッ!《エヴォルテクター エヴァック》を爆殺ッ!!」
城之内のドローカードが魔法・罠除去の速攻魔法ではないと判断したトランプが意気揚々と宣言する。
城之内がそれにリアクションを見せることはなく、例の如くアラートと共に《キューブ・ボム》は爆発、その爆熱風が城之内を襲った。
「ぐぁああああーーーッ!!」
城之内:LP2100→600
「お前に効果ダメージを与えたことで《悪夢の拷問部屋》の効果も発動! 更に300ダメージを受けてもらうぞッ!」
トランプのフィールドで表側表示になっている《悪夢の拷問部屋》のカードから影のように黒い鞭が伸び、追い討ちをかけるように傷付いた城之内の身体を打つ。
「ぐッ……!」
城之内:LP600→300
このコンボにより城之内のLPはまさに風前の灯となってしまった。
戦闘ダメージだろうと効果ダメージだろうと次にダメージを受ければ敗北はほぼ確実だろう。
「フハハハッ、良いカードを引けなくて残念だったな! こうなってはもうお前に勝ち目はないぞ城之内!! 諦めてサレンダーなどするなよ、お前はオレの時限爆弾モンスターで吹っ飛ぶ運命なんだからなッ!!」
爆風と鞭で打ち据えられた城之内は、しかし強い瞳をトランプに向けていた。それはとても勝負を諦めた者の目ではない。
「なッ……、なんだその目はッ!? 状況が分かっていないのかッ!?」
トランプと違い戦闘でしか相手のLPを削れないビートダウンデッキの城之内では、どう足掻こうとセットされている《スフィア・ボム》を攻撃せずには勝つことはできない。だが当然攻撃すれば次のスタンバイフェイズに《スフィア・ボム》の効果ダメージが城之内を襲う。
八方塞がりーーーそのはずだった。
だが城之内は決して諦めたりはしない。
いやむしろその意気を取り戻しているようにすら見えた。
「状況なら、たぶんテメーより分かってるぜ」
「なに?」
「オレがテメーに勝つっつー状況がな!」
勢いよくその言葉を突きつけて、城之内はドローしたカードをそのままディスクに挿入した。
「こいつがオレの想いにデッキが出してくれた答えだッ!!」
城之内のフィールドに魔法カードが発動する。
それは2体のモンスターが渦を巻いているイラストのカード。
「魔法カードーーー《融合》!!」
†
《融合》
通常魔法
(1):自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
†
「《融合》だと!?」
このデュエルが始まってから初めてトランプの顔から薄笑いが消えた。
「説明する必要もねーだろーが《融合》は2体以上のモンスターを合体させて新たなモンスターを融合召喚する魔法カードだ! オレはこのカードの力で、フィールドの《焰聖騎士ーリナルド》と手札の《エヴォルテクター シュバリエ》を融合!!」
城之内のフィールドに召喚されたわけではないのに《エヴォルテクター シュバリエ》が姿を現す。そしてフィールドの《リナルド》と渦を巻いて溶け合っていった。
そして城之内は叫ぶ。
《エヴォルテクター シュバリエ》と《焰聖騎士ーリナルド》の融合した、新たな炎の戦士の名を。
「融合召喚!! 燃え盛れ勇ましき炎!! レベル5《勇炎の剣士》!!」
渦の中から飛び出してきたのは、猛る炎のように赤い鎧を着た剣闘士の如き剣士だった。
鋼のように鍛え上げられた肉体と熱い闘志を見に纏い、『勇炎』と刻まれた剣を敵であるトランプに向けるその姿はまさに歴戦の勇士そのものだ。
†
《勇炎の剣士》
融合・効果モンスター(オリジナル)
星5/炎属性/戦士族/攻1800/守1600
炎属性モンスター+戦士族モンスター
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):上記のモンスターを素材としてこのカードが融合召喚に成功した場合に発動できる。デッキから装備魔法カード1枚を選んでこのカードに装備する。
(2):このカードが戦闘を行った自分バトルフェイズ中にこのカードの装備カード1枚を墓地に送って発動できる。このカードはこのバトルフェイズ中、もう1度攻撃できる。
(3):このカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。EXデッキから効果を持たない戦士族融合モンスター1体を特殊召喚する。
†
その射るような厳しい視線を受けて、流石のトランプも少したじろぐ。
「ビビるのはまだ早いぜ!《勇炎の剣士》のモンスター効果発動! デッキから《聖剣ガラティーン》を装備する!」
《勇炎の剣士》は融合召喚に成功するとデッキから装備魔法を1枚サーチして装備することができる。
城之内が選んだ装備魔法は《聖剣ガラティーン》。《聖剣ガラティーン》は戦士族モンスターの攻撃力を1000アップさせることができる聖なる剣だ。
†
《聖剣ガラティーン》
装備魔法
戦士族モンスターにのみ装備可能。
このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):「聖剣ガラティーン」は自分フィールドに1枚しか表側表示で存在できない。
(2):装備モンスターの攻撃力は1000アップし、自分スタンバイフェイズ毎に200ダウンする。
(3):フィールドの表側表示のこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、自分フィールドの戦士族の「聖騎士」モンスター1体を対象として発動できる。その自分の戦士族の「聖騎士」モンスターにこのカードを装備する。
†
《勇炎の剣士》の手に、刀身が青白く輝く《聖剣ガラティーン》が握られる。『勇炎』の剣と《聖剣ガラティーン》の二刀流である。
勇炎の剣士:ATK1800→2800
「攻撃力2800だと!?」
攻撃力2800は城之内が召喚したモンスターの中ではここまでで最高の攻撃力だ。
「だが融合モンスターだろうと何だろうと、オレの時限爆弾モンスターに攻撃しなければならないことに変わりはないッ! 攻撃力を上げたところで、お前が食らうダメージが増えるだけだッ!」
「んなこと分かってらー! だからお望み通り攻撃してやんぜ! バトルだッ、行け《勇炎の剣士》ッ!!」
バトル宣言を行った城之内に反応して、《勇炎の剣士》がフンと気合いを入れる。『勇炎』の剣から炎が吹き出し《聖剣ガラティーン》にもそれが宿った。瞬く間に周りを熱気が包む。
裂帛(れっぱく)の気合いと共に二振りの剣を交差するように一気に振り抜くと、鋒から炎が放たれXの形の刃となってセットモンスターへと迫る。
しかしセットモンスターがリバースし《スフィア・ボム》がその姿を現すと、例の如く炎の刃は在らぬ方向へと飛んで行き、《スフィア・ボム》は無傷で《勇炎の剣士》に取り付いた。
「馬鹿の一つ覚えだなッ!! 何度やろうと犠牲になるモンスターが変わっただけで、結果は変わらんぞッ!!」
予想通りの結果を得たトランプが安堵を抑えてはしゃぐように唾を飛ばす。
しかし今度は城之内に焦りはなかった。
「へッ、同じじゃあねーよ! 見せてやるぜ《勇炎の剣士》の力をなッ!」
「なにッ!?」
《スフィア・ボム》は《勇炎の剣士》の胴を抱えるようにして腹にがっしと取り付いている。しかしそれで《勇炎の剣士》の自由が阻害されているわけではない。
厳しい表情のまま《勇炎の剣士》は剣の束であっさりと《スフィア・ボム》を叩き落とした。
「!?」
見た光景を疑うように目を丸くするトランプに城之内が嗤う。
「《勇炎の剣士》のもう1つの効果を発動させた!《勇炎の剣士》は攻撃を行ったバトルフェイズに装備カード1枚を墓地に送ることで、もう1回だけ攻撃ができるんだよ!」
《スフィア・ボム》の効果は相手モンスターの装備カードとなるというもの。当然《勇炎の剣士》第2の効果発動のコストに、それを墓地に送ることもできる。
城之内はこの効果を利用することで《勇炎の剣士》2回目の攻撃権を得ると共に装備カード扱いの《スフィア・ボム》を処理したのだ。
「これで《勇炎の剣士》はもう1度攻撃ができるようになり、もし次のスタンバイフェイズが来てももう爆発することはねーってわけだ。これで心おきなく攻撃ができるぜ」
「バカなッ!」
今度ははっきりと動揺を表すトランプに城之内は拳を突き刺す。
「テメーに傷つけられた全ての人達の怒りと痛みを知れッ!《勇炎の剣士》でダイレクトアタック!!」
《勇炎の剣士》が再び炎を巻き上げる。
心なしかその表情は怒りに燃えているようであり、その炎も先ほどより勢いが高まっているようであった。
双剣に宿る炎が刃となりトランプを襲う。
「ーーー“闘気炎斬剣・双竜”!!」
トランプの身体が真っ赤な高熱の刃にX形に斬り付けられる。
「ぎゃぁああああーーー!!」
直接攻撃のダメージはモンスターが撃破された時とは比べ物にならない痛みだ。
まるで本当に身体を斬り裂かれ肉を焼かれたかのような痛みと熱。
トランプは汗と涎を垂らしながらのたうち回る。
この攻撃には、トランプがこれまで害してきた人々を想う城之内の心がこれでもかと込められていた。心と魔力とは密接な関係にあり、本気の心が込められた攻撃は通常の攻撃以上の痛みを相手に与えるのだ。
トランプ:LP4000→1200
苦痛に悶えるトランプが顔だけを向けて城之内を睨む。
「テ、テメェ……! クソッ! このオレに……こ、こんなッ! ただでは済まさんッ! ブッ殺してやる……ブッ殺してやるぞッ!!」
地面に転がりながら恨み言を喚くその姿に、これまで常に薄笑いを浮かべてデュエルを行っていた彼の冷静さは最早なかった。
その様子を見下ろす城之内にも、それに反論する怒りも相手に大打撃を与えた喜びもない。
むしろ哀れみに沈んでいるように見える。
「いやテメーはもう詰んでるぜ。テメーの時限爆弾モンスターじゃあ、もう《勇炎の剣士》を倒すことはできねーからな」
ようやく幻痛が止んだのかトランプはゆっくりと立ち上がる。その表情は苦々しげ。
「オレはこれでターンエンドだ」
城之内:LP300/手札3
●モンスター
勇炎の剣士:ATK2800
●魔法・罠
伏せカード1枚
聖剣ガラティーン:装備(勇炎の剣士)
トランプ:LP1200/手札3
●モンスター
なし
●魔法・罠
悪夢の拷問部屋:永続魔法
城之内の指摘は的を射ていた。
トランプの時限爆弾モンスターは、全て相手モンスターの攻撃をトリガーとする効果の受動的なモンスター達だ。その肝である相手モンスターに装備される効果を永続的に無効化された以上、時限爆弾モンスターのみでは最早《勇炎の剣士》を攻略することはできない。
形勢は完全に逆転していた。
トランプの手札に更に形勢を逆転できるカードはない。
この状況を打破するには、先ほどの城之内同様このドローに全てを賭けるしかない。
(クソッ! 何が詰んでるだ……! いいぜ、引いてやるよ! 形勢逆転のカードをな! テメェに出来て、オレに出来ないわけがないんだッ!! このカードで必ず絶望を見せつけてやるッ!!)
城之内は勝負の掛かったドローで見事《融合》という形勢逆転のカードを引き当てた。
何のカードをドローするのかは確かに運だが、ドローにも魔力は関係するとされている。曰く、より強い魔力の持ち主は運すらも味方につけると。
(これまでいくつもの修羅場をくぐり抜けてきたこのオレが、こんな頭の悪そうなガキに魔力で負けているはずがないんだッ!!)
知性派を自負するトランプにとって、馬鹿に負けることは耐え難い屈辱。魔力に於いても、少しでも劣るなど許しがたいことだった。
「オレのターン! ドローだッ!!」
意を決して引き抜いたカードを見る。
トランプの口元が緩んだ。
「クククク、まさかこの局面でこのカードを引くとは、運命というやつを信じたくなってきたぞ!」
その様子に城之内は警戒感を強める。
トランプが起死回生を見込める一手を得たのは間違いない。
何を出してくるのか、その動きに注視する。
「見て驚くがいい! オレが召喚するのはーーーこのモンスターだッ!!」
トランプがドローしたカードをディスクに叩きつける。
どんな凶悪なモンスターを召喚するのかと身構えていたが、現れたシルエットは意外にも小さかった。
「出でよッ《時の魔術師》!!」
トランプが召喚したのは、時計をマスコット化したようなモンスターだった。
†
《時の魔術師》
効果モンスター
星2/光属性/魔法使い族/攻 500/守 400
(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。コイントスを1回行い、裏表を当てる。当たった場合、相手フィールドのモンスターを全て破壊する。ハズレの場合、自分フィールドのモンスターを全て破壊し、自分は表側表示で破壊されたモンスターの攻撃力を合計した数値の半分のダメージを受ける。
†
起死回生を掛けたモンスターの割りに攻撃力はたったの500で、トランプが言うように見て驚くようなモンスターではない。
しかし城之内の反応は顕著だった。
「《時の魔術師》……だと……」
目を丸くして驚く城之内をトランプはニヤニヤとねぶるように嗤う。
徐々に城之内の目が鋭くなった。
「テメー、そのカードをどこで手に入れやがった……?」
まるで容疑者を尋問するかのような低く抑えた声色。
対するトランプは茶化すように笑みを深くする。
「予想はついてるんだろう? 蛭谷さんにもらったんだよ、グールズに入った時にな」
城之内の顔が怒りに真っ赤に染まった。
「蛭谷……ィ! 野郎、オレから奪ったカードを部下に配ってやがるのか……!」
《時の魔術師》は元々城之内のカードだった。蛭谷が城之内を騙して盗み出したデッキに入っていたカード。それも大切なダチとの友情を象徴する大事な1枚だったのだ。
それをあろうことか蛭谷はまるで褒美を遣わすように部下に切り売りしていたのだ。
死の物真似師のように自分で使うために他人のカードを奪うことも許せないが、これはそれすら凌駕するカードに対する情がまるで感じられない非道な仕打ちだった。
蛭谷にとって城之内のカードはただの戦利品であり、戦利品を仲間で分配するのは当然のことなのだ。
「よく分かったぜ、アイツがオレやオレのデッキに何の感情もないってことがなッ! だがそれでオレの戦意を喪失させるのがテメーの狙いだっつーんなら、残念だったな逆効果だぜ! 今のでオレの闘志は完全に燃え上がっちまった! テメーに勝って、何がなんでもアイツを1発ぶん殴ってやるってなッ!」
城之内が拳を握りしめる。甲に血管が浮き出るほど強く握られたその拳は、まるで炎を帯びているかのように熱い。
だがそれでもトランプは嗤う。
「戦意喪失がオレの狙い? 違うね。もはやそんな小細工など必要ない。このデュエル、オレは戦術面でお前より上をいっていた。だがお前のたった1枚のドローでそれは瓦解した。認めよう、あの瞬間お前は『運』でオレを上回った」
「まるでオレがテメーに勝ってるのは運だけみてーな言い方だな」
『運』を強調するトランプの口調に苦笑する。
トランプはあっさりと首肯した。
「そうだ。お前がオレを上回っているのは、まさにその『運』の部分だけだ。だがオレはそれすらも許すことができない。お前のようなマヌケ野郎が『運』だけとは言えオレの上にいることが我慢ならない」
「ならどうするっつーんだ?」
トランプはたったいま召喚した《時の魔術師》を見やる。
「運比べといこうじゃないか! オレの運とお前の運、どちらが上か! この《時の魔術師》の効果でなッ!!」
《時の魔術師》は強力な効果を秘めたモンスターだ。
しかしその効果はかなり運に左右される効果でもある。
「そういうことか……」
元々このカードの持ち主である城之内にもトランプの意図は伝わった。
《時の魔術師》の効果は、コイントスを行いその当たりハズレで発揮される力が変わる。
当たれば相手モンスターを全滅させるが、ハズレれば自分のモンスターが全滅する。非常にリスキーな効果なのだ。
「当たればお前の《勇炎の剣士》は破壊されオレの勝ち、ハズレれば《時の魔術師》が破壊されお前の勝ちが決まる。頭の悪そうなお前でもこれなら分かりやすいだろ」
《勇炎の剣士》さえ破壊してしまえば、城之内のフィールドはガラ空き。残りLP300の城之内なら、攻撃力500の《時の魔術師》でも直接攻撃で葬り去ることができる。
一方で《時の魔術師》が破壊されれば、トランプのフィールドの方がガラ空きになり、これ以上打つ手のないトランプは次の城之内のターンで《勇炎の剣士》の直接攻撃を防ぐことはできない。
「チッ、イチイチこっちをディスってくんのは気に食わねーが、確かにシンプルな展開だぜ。いいぜ、やってみろよ」
「言われるまでもないッ!《時の魔術師》よ、運命の針を回せッ!!」
《時の魔術師》が手に持つ杖を掲げると、杖の先に取り付けられたルーレットの針が回り出す。当たりの面に針が止まるか、ハズレの面に止まるか。ルーレットの確率は2分の1。
トランプは固唾を飲んで回る針の行方を注視していた。
このルーレットの結果に全てが掛かっていた。
そして針が止まった先はーーー
「ーーー『当たり』だッ!!」
トランプが喜びの声を上げた。
言葉通り、ルーレットの針は当たりの面に止まっている。
「《勇炎の剣士》を時の濁流で押し流せッ!“タイム・マジック”!!」
《時の魔術師》の秘めたる力ーーーそれは『時の加速』。当たりを引き当てたことで、その効果が城之内のフィールドのみを襲う。
城之内のフィールドに流れる時間が急速な勢いで加速していく。
それは急速に変化していく《勇炎の剣士》の姿に表れていた。
《勇炎の剣士》の闘志を表して勇ましく燃え上がっていた炎がまるでガスの切れたライターのように燻って消えていく。赤き鎧も剣も経年劣化で錆び付き、筋骨隆々だった身体は老人のように痩せ衰え、終いには立つことさえできなくなり風化して崩れ落ちてしまった。
更地となった城之内のフィールドに、トランプの笑い声が木霊する。
「ギャーハハハッ!! 最後に幸運を掴み取るのは、やはりこのオレだったなッ!! これで最後だッ!《時の魔術師》で直接攻ーーー」
歓喜し《時の魔術師》に直接攻撃の宣言を行おうとするトランプの眼前が、突如真っ赤に染まる。
城之内のフィールドに炎が柱のように立ち上ったのだ。
「なッ!?」
そしてその炎柱から、再び炎を纏った剣士が現れた。
「《勇炎の剣士》!? な、何故だ!? そいつは確かに破壊されたはずーーー」
現れた剣士は確かに《勇炎の剣士》によく似ていた。着ている鎧も容姿もそっくり。唯一違うのは持っている剣の文字が『炎』であるという点くらいか。
だが城之内は首を振る。
「《勇炎の剣士》じゃねーよ。こいつの名前は《炎の剣士》。オレがこのデッキで最も信頼を置くモンスターだ」
「《炎の剣士》ーーーだと?」
†
《炎の剣士》
融合モンスター
星5/炎属性/戦士族/攻1800/守1600
「炎を操る者」+「伝説の剣豪 MASAKI」
†
《炎の剣士》がステータスも含め《勇炎の剣士》に似ているのも無理はない。元々《勇炎の剣士》はこの《炎の剣士》の派生モンスターだからだ。
《炎の剣士》が成長し、様々な効果を身に付けたのが《勇炎の剣士》と言える。
そしてこの《炎の剣士》がフィールドに現れた理由もその《勇炎の剣士》の効果によるものだった。
「《勇炎の剣士》が戦闘・効果で破壊された場合、EXデッキから効果を持たない戦士族融合モンスター1体を特殊召喚することができる。この効果でオレはEXデッキから《炎の剣士》を特殊召喚したっつーわけだ」
何が起こったのか理解したトランプの顔から徐々に色が失われていく。
「バカな、それじゃあーーー」
「ああ。《時の魔術師》の効果がどちらに転んだところでテメーの勝ちはなかったんだよ」
《時の魔術師》の効果で《勇炎の剣士》を破壊したところで、《炎の剣士》が特殊召喚されてしまえば攻撃力500の《時の魔術師》では攻撃力1800の《炎の剣士》を倒すことはできない。
バトルはキャンセルするしかない。
「き、貴様……最初から分かっていて……!」
「そういうこった!」
歯噛みするトランプに、指で鼻を持ち上げあっかんべーしておどける城之内。
明らかに馬鹿にされているが、もうトランプになす術はない。
「テメーみてーなクソ野郎に幸運の女神様が微笑むわきゃねーだろーが。行くぜ、オレのターン!《炎の剣士》で《時の魔術師》を攻撃するぜ!!」
もう何もできないトランプを見限り、城之内がターンを進める。
ドローフェイズに引いたカードももう必要はなく、即バトルフェイズに移った。
《炎の剣士》が剣を構え、炎が迸る。
(すまねぇ《時の魔術師》……! 今だけは耐えてくれッ!)
《炎の剣士》の刃の餌食に指定された《時の魔術師》に心の中で謝りながら、城之内は最後のバトルを宣言する。
ーーー “闘気炎斬剣” ーーー
炎の必殺剣が《時の魔術師》を斬り裂いた。
「ぎぃやああああーーー!!」
トランプ:LP1200→0
LPを失ったトランプは炎に巻かれながら崩れ落ちた。
城之内のフィールドには、超重量の《キューブ・ボム》に押し潰され身動きの取れない《エヴォルテクター エヴァック》と、今まさにその重荷から解き放たれようやく立ち上がることのできた《焔聖騎士-リナルド》。
対してトランプのフィールドはもぬけの殻も同然。
一見すると城之内が優勢に見えるが、追い詰められているのは彼の方だ。
次の城之内のスタンバイフェイズに《キューブ・ボム》が炸裂し《エヴァック》が破壊されるのは、魔法・罠除去の速攻魔法を引き当てない限り確実。そして《エヴァック》が破壊されれば、その攻撃力分ーーー1500のダメージが城之内を襲う。
残りLP2100の城之内にとっては看過できないダメージ量だ。
しかし城之内にそれを阻止する手立てはなく、このターンにできることはもうなかった。
城之内:LP2100/手札3
●モンスター
エヴォルテクター エヴァック:ATK1500
焔聖騎士-リナルド:ATK500
●魔法・罠
伏せカード1枚
トランプ:LP4000/手札4
●モンスター
なし
●魔法・罠
キューブ・ボム:装備(エヴォルテクター エヴァック)
「オレのターン、ドロー!」
薄笑いを浮かべたトランプがデッキからカードをドローする。
その薄笑いに闘志を刺激されたように城之内はトランプを指差し吠える。
「テメー、さっきからずっと出すモンスターは守備表示ばっかじゃねーか! テメーもデュエリストなら、バシッと正々堂々攻撃して来たらどうだッ! オレのモンスターの攻撃力はたったの500だぜ!? そんなモンスターにも攻撃をビビってんのか!?」
しかし城之内のそんな言葉を意に介す風もなくトランプは馬鹿にしたように嗤う。
「ハッ! そんな見え見えの挑発に乗ると思うか? オレはお前ら戦闘バカとは違うんだよ」
言って城之内のフィールドに伏せられたカードを指差す。
「おかげで確信できた。お前のその伏せカードは、召喚反応型または攻撃反応型の罠カード。そうだろう?」
「ぐ……ッ」
城之内は言葉を詰まらせ、自らが伏せたそのカードに視線を向ける。
†
《落とし穴》
通常罠
(1):相手が攻撃力1000以上のモンスターの召喚・反転召喚に成功した時、そのモンスター1体を対象として発動できる。その攻撃力1000以上のモンスターを破壊する。
†
伏せカードは、トランプが指摘した通りモンスターが召喚された時に発動しそのモンスターを破壊する罠カードだった。
城之内の顔に浮かんだ伏せカードが言い当てられた動揺を見て取り、トランプは笑む。
「確かにここでオレが攻撃力1100以上のモンスターを召喚し《リナルド》を攻撃しておけば、次のお前のスタンバイフェイズに《キューブ・ボム》が《エヴァック》を道連れに爆発し、それでゲームエンドにできる」
このまま次の城之内のスタンバイフェイズまで待てば《キューブ・ボム》の効果により城之内に1500ダメージを与えられるのは、ほぼ確定している。しかしそれだけでは城之内のLPは600残ってしまう。
そこでこのターンに攻撃力1100以上のモンスターで攻撃力500の《リナルド》を撃破しておけば城之内のLPを600以上削っておけるため、次のスタンバイフェイズでトランプは勝利することができるわけだ。
「だがオレはセットモンスターや伏せカードといった不確定要素を無視して突進するしか能のないお前らとは違う。そんな地雷など踏まずともオレの優位は変わらないのだから、そんなリスクを自ら進んで負うような真似はしないんだよ」
もし城之内がモンスター除去の罠を張っていた場合、それを踏めば今の優位性を失いかねない。ならば次のスタンバイフェイズに勝利するチャンスを逃そうとも、ここではその危険を犯さないという堅実さをトランプは選んだ。
それは城之内がかなり高い確率で罠を張っていると見た冷静な分析に基づいた選択だった。
そしてそれは確かに今の城之内には欠けているクレバーさでもあった。
確かな差を見せつけられた形の城之内は表情を固くする。
それを見やり、トランプは更に気を良くしたようだ。頬を紅潮させ、悦に浸る。
「良いことを教えてやろう。オレはシティにいた頃、それなりに名の通った連続爆弾魔だった」
唐突に語られ始めたトランプの恐るべき過去に、流石の城之内も絶句する。
「爆弾魔……だと?」
城之内もシティにいた頃はそれなりに悪さをしていた自覚はあるが、言ってもそれは街の悪ガキと呼ばれる程度のものだった。
だが『爆弾魔』というのはそれとはレベルが違う。明確な重犯罪者だ。
驚く城之内にトランプはますます笑みを深くする。
「『9人』ーーーこれが何の数字か分かるか?」
城之内は答えない。だが何となく答えは分かっていた。
それを察しているようにトランプは顔を歪める。
「その通り、オレが爆弾で吹っ飛ばしてやった人数さ」
まるで獲得したトロフィーを自慢するかのように語る。
その表情は懐かしむようでもあり、誇るようでもある。
「特に最後の『観覧車爆破』ーーーあれは良い作品になったな」
そう言われて、城之内の中で何かが繋がったような感覚がある。
「……思い出した。確かに1年くらい前に遊園地の観覧車が爆破された事件があったな」
城之内家の家計は苦しく、彼自身も食っていくために新聞配達のアルバイトをやっていた。仕事柄新聞記事を目にする機会が多く、そのため意外にも時事ネタには明るいのだ。
確かにその事件について記事を読んだ記憶がある。
「あれはアンタの仕業だったのか……」
「あれはいま思い出しても最高だったぜ。想定より乗客が少なかったのは残念だったが、恐怖に戦慄(おのの)きながらも逃げたくても逃げられない絶望に突き落とされた奴らの表情といったらーーー思い出しただけで興奮するぜぇ」
言葉の通り恍惚とした表情を浮かべる爆弾魔トランプ。
あの事件は観覧車のゴンドラに爆弾が仕掛けられ、トランプゲームの『時計(クロック)』に見立てられて順にゴンドラごと爆破されていくというものだった。
おそらく犯人であるトランプは騒然となる現場の近くでその様子を観察していたのだろう。
楽しい思い出になるはずだった遊園地が、たった一瞬で地獄と化した。
爆弾が仕掛けられていることを知らされた乗客達は、狭いゴンドラの中で逃げ出すこともできず計り知れない恐怖に苛まれたはずだ。そして犠牲となった人々の中には、確かまだ小さな子供もいた。
理知的に見えていたトランプの顔が歪んだ嗜好を持つ醜い怪物のそれに変わる。
「このクソ野郎が……!」
城之内の胸にふつふつと怒りがこみ上げてきた。
何人もの命を奪い沢山の人を傷付けてきただけでなく、それをまるで過去の栄光のように語るこの男を決して許してはならないと思う。
「セキュリティに追われこのサテライトに行き着いてしばらく爆弾魔稼業からは遠退いていたが、そろそろまた殺りたいと思っていたところだ。まずはお前を記念すべき10人目の生け贄にしてやるよ!」
自分の勝利を微塵も疑っていない顔で、トランプが手札を切る。
「永続魔法《悪夢の拷問部屋》を発動! こいつはお前に戦闘ダメージ以外のダメージが発生した時、更に追加で300ダメージを与える永続魔法だ!」
†
《悪夢の拷問部屋》
永続魔法
相手ライフに戦闘ダメージ以外のダメージを与える度に、相手ライフに300ポイントダメージを与える。
「悪夢の拷問部屋」の効果では、このカードの効果は適用されない。
†
例え《キューブ・ボム》の効果に追加して《悪夢の拷問部屋》が発動したとしても、次のスタンバイフェイズで城之内のLPが0になることはない。残りLP300でなんとか踏みとどまれる。
しかし精神的に追い込まれるのは確かだ。そしてトランプの狙いもそこにあった。
「せっかく記念の10人目だ、じわじわ追い詰めてやる。お前の苦痛に歪む顔をじっくりと堪能させてもらうぜ。そしてモンスターをセットしターンエンドだ」
睨み付ける城之内など意に介かず、例の如くモンスターを裏側守備でセットした。
トランプがセットしたのは数ターン前に《パラサイト・プリンター》でサーチした《スフィア・ボム》。
城之内の手札には《リナルド》でサルベージした《エヴォルテクター シュバリエ》があることは分かっている。次のターン、城之内が先程同様《リナルド》で《スフィア・ボム》を引き受け《シュバリエ》で直接攻撃するという戦術で来るかもしれないが、それでもトランプのLPを削りきることは出来ない。そうなれば更に次のスタンバイフェイズに《リナルド》共々《スフィア・ボム》が爆発してフィニッシュとなる算段だ。
トランプ:LP4000/手札3
●モンスター
セットモンスター:DEF?
●魔法・罠
キューブ・ボム:装備(エヴォルテクター エヴァック)
悪夢の拷問部屋:永続魔法
城之内:LP2100/手札4
●モンスター
エヴォルテクター エヴァック:ATK1500
焔聖騎士-リナルド:ATK500
●魔法・罠
伏せカード1枚
城之内のターン。
いよいよ城之内は追い込まれていた。このドローフェイズで何か逆転のきっかけを掴まなければ、その先には絶望しかない。
もしこのドローで魔法・罠除去の速攻魔法を引いたなら、また数ターンの延命は出来るかもしれない。しかし、それはただの一時しのぎにしかならない。
一気に逆転を狙うなら、もっと根本的な解決を望めるカードを引くしかないのだ。
城之内は自らのデッキに視線を落とす。
先述の通りこのデッキは城之内が心血注いで作り上げたものではない。死の物真似師から勝手に頂戴しただけの、他人のデッキなのだ。
城之内の使っているデッキは、それをベースに手元に残っていたカードをいくつか混ぜた混成デッキだった。
(昔、誰かが言ってたな……デュエリストが心の底から信じればデッキは必ず応えてくれるって。『オレのデッキ』じゃあねーからオレの想いに応えてくれねーのかと思ってたが、もしかしたら心から信じられてなかったのはオレの方だったのかもしれねー)
デュエリストとデッキは、例えれば親子のような関係と言える。
デュエリストは自らの使いたいカードややりたい動きーーー謂わば思考そのものを注ぎ込んでデッキを構築する。それは自らの魂を分け与えることと同義であり、それを使い続けることによって試行錯誤しながら少しずつ形にしていくものだ。それ故、デッキは使い手の心を映し出す鏡となる。
人も同じだ。産み出したからといって親子になるわけではない。命を育て育てられることにより、時間をかけて互いに絆を育んで初めて親子になる。だからこそ血の繋がり以上に精神的繋がりーーー『信頼』を紡ぐことができるのだ。
だが、まだ出会ったばかりの城之内とこのデッキとでは、その信頼が足りていない。
出会っただけでは、親子はもちろん友にすらなれるわけではないのだ。
このデッキの親は城之内とは別にいて、いつかその親にこのデッキを返したいとは思っている。
そのためにも今ここでこの爆弾魔に負けるわけにはいかなかった。
城之内は心の中で祈るようにデッキに語りかける。
(確かにオレはオメーの主人じゃあねー。だけどオレはこんなとこで負けるわけにはいかねーんだ。ぶん殴ってでも止めてー奴がいるんだ。オレの命も心も全部オメーに託す。頼む、力を貸してくれ!)
それはユーイとドールに頭を下げた時と同じように。
命と心を預けるという最大限の信頼を以て城之内はデッキに願う。
そしてデッキに手をかけた。
このドローに全てが掛かる。
「オレのターン……ドローッ!!」
恐る恐る見たそのカードはーーー。
「ーーーこの瞬間《キューブ・ボム》の効果が起動するッ!《エヴォルテクター エヴァック》を爆殺ッ!!」
城之内のドローカードが魔法・罠除去の速攻魔法ではないと判断したトランプが意気揚々と宣言する。
城之内がそれにリアクションを見せることはなく、例の如くアラートと共に《キューブ・ボム》は爆発、その爆熱風が城之内を襲った。
「ぐぁああああーーーッ!!」
城之内:LP2100→600
「お前に効果ダメージを与えたことで《悪夢の拷問部屋》の効果も発動! 更に300ダメージを受けてもらうぞッ!」
トランプのフィールドで表側表示になっている《悪夢の拷問部屋》のカードから影のように黒い鞭が伸び、追い討ちをかけるように傷付いた城之内の身体を打つ。
「ぐッ……!」
城之内:LP600→300
このコンボにより城之内のLPはまさに風前の灯となってしまった。
戦闘ダメージだろうと効果ダメージだろうと次にダメージを受ければ敗北はほぼ確実だろう。
「フハハハッ、良いカードを引けなくて残念だったな! こうなってはもうお前に勝ち目はないぞ城之内!! 諦めてサレンダーなどするなよ、お前はオレの時限爆弾モンスターで吹っ飛ぶ運命なんだからなッ!!」
爆風と鞭で打ち据えられた城之内は、しかし強い瞳をトランプに向けていた。それはとても勝負を諦めた者の目ではない。
「なッ……、なんだその目はッ!? 状況が分かっていないのかッ!?」
トランプと違い戦闘でしか相手のLPを削れないビートダウンデッキの城之内では、どう足掻こうとセットされている《スフィア・ボム》を攻撃せずには勝つことはできない。だが当然攻撃すれば次のスタンバイフェイズに《スフィア・ボム》の効果ダメージが城之内を襲う。
八方塞がりーーーそのはずだった。
だが城之内は決して諦めたりはしない。
いやむしろその意気を取り戻しているようにすら見えた。
「状況なら、たぶんテメーより分かってるぜ」
「なに?」
「オレがテメーに勝つっつー状況がな!」
勢いよくその言葉を突きつけて、城之内はドローしたカードをそのままディスクに挿入した。
「こいつがオレの想いにデッキが出してくれた答えだッ!!」
城之内のフィールドに魔法カードが発動する。
それは2体のモンスターが渦を巻いているイラストのカード。
「魔法カードーーー《融合》!!」
†
《融合》
通常魔法
(1):自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
†
「《融合》だと!?」
このデュエルが始まってから初めてトランプの顔から薄笑いが消えた。
「説明する必要もねーだろーが《融合》は2体以上のモンスターを合体させて新たなモンスターを融合召喚する魔法カードだ! オレはこのカードの力で、フィールドの《焰聖騎士ーリナルド》と手札の《エヴォルテクター シュバリエ》を融合!!」
城之内のフィールドに召喚されたわけではないのに《エヴォルテクター シュバリエ》が姿を現す。そしてフィールドの《リナルド》と渦を巻いて溶け合っていった。
そして城之内は叫ぶ。
《エヴォルテクター シュバリエ》と《焰聖騎士ーリナルド》の融合した、新たな炎の戦士の名を。
「融合召喚!! 燃え盛れ勇ましき炎!! レベル5《勇炎の剣士》!!」
渦の中から飛び出してきたのは、猛る炎のように赤い鎧を着た剣闘士の如き剣士だった。
鋼のように鍛え上げられた肉体と熱い闘志を見に纏い、『勇炎』と刻まれた剣を敵であるトランプに向けるその姿はまさに歴戦の勇士そのものだ。
†
《勇炎の剣士》
融合・効果モンスター(オリジナル)
星5/炎属性/戦士族/攻1800/守1600
炎属性モンスター+戦士族モンスター
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):上記のモンスターを素材としてこのカードが融合召喚に成功した場合に発動できる。デッキから装備魔法カード1枚を選んでこのカードに装備する。
(2):このカードが戦闘を行った自分バトルフェイズ中にこのカードの装備カード1枚を墓地に送って発動できる。このカードはこのバトルフェイズ中、もう1度攻撃できる。
(3):このカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。EXデッキから効果を持たない戦士族融合モンスター1体を特殊召喚する。
†
その射るような厳しい視線を受けて、流石のトランプも少したじろぐ。
「ビビるのはまだ早いぜ!《勇炎の剣士》のモンスター効果発動! デッキから《聖剣ガラティーン》を装備する!」
《勇炎の剣士》は融合召喚に成功するとデッキから装備魔法を1枚サーチして装備することができる。
城之内が選んだ装備魔法は《聖剣ガラティーン》。《聖剣ガラティーン》は戦士族モンスターの攻撃力を1000アップさせることができる聖なる剣だ。
†
《聖剣ガラティーン》
装備魔法
戦士族モンスターにのみ装備可能。
このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):「聖剣ガラティーン」は自分フィールドに1枚しか表側表示で存在できない。
(2):装備モンスターの攻撃力は1000アップし、自分スタンバイフェイズ毎に200ダウンする。
(3):フィールドの表側表示のこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、自分フィールドの戦士族の「聖騎士」モンスター1体を対象として発動できる。その自分の戦士族の「聖騎士」モンスターにこのカードを装備する。
†
《勇炎の剣士》の手に、刀身が青白く輝く《聖剣ガラティーン》が握られる。『勇炎』の剣と《聖剣ガラティーン》の二刀流である。
勇炎の剣士:ATK1800→2800
「攻撃力2800だと!?」
攻撃力2800は城之内が召喚したモンスターの中ではここまでで最高の攻撃力だ。
「だが融合モンスターだろうと何だろうと、オレの時限爆弾モンスターに攻撃しなければならないことに変わりはないッ! 攻撃力を上げたところで、お前が食らうダメージが増えるだけだッ!」
「んなこと分かってらー! だからお望み通り攻撃してやんぜ! バトルだッ、行け《勇炎の剣士》ッ!!」
バトル宣言を行った城之内に反応して、《勇炎の剣士》がフンと気合いを入れる。『勇炎』の剣から炎が吹き出し《聖剣ガラティーン》にもそれが宿った。瞬く間に周りを熱気が包む。
裂帛(れっぱく)の気合いと共に二振りの剣を交差するように一気に振り抜くと、鋒から炎が放たれXの形の刃となってセットモンスターへと迫る。
しかしセットモンスターがリバースし《スフィア・ボム》がその姿を現すと、例の如く炎の刃は在らぬ方向へと飛んで行き、《スフィア・ボム》は無傷で《勇炎の剣士》に取り付いた。
「馬鹿の一つ覚えだなッ!! 何度やろうと犠牲になるモンスターが変わっただけで、結果は変わらんぞッ!!」
予想通りの結果を得たトランプが安堵を抑えてはしゃぐように唾を飛ばす。
しかし今度は城之内に焦りはなかった。
「へッ、同じじゃあねーよ! 見せてやるぜ《勇炎の剣士》の力をなッ!」
「なにッ!?」
《スフィア・ボム》は《勇炎の剣士》の胴を抱えるようにして腹にがっしと取り付いている。しかしそれで《勇炎の剣士》の自由が阻害されているわけではない。
厳しい表情のまま《勇炎の剣士》は剣の束であっさりと《スフィア・ボム》を叩き落とした。
「!?」
見た光景を疑うように目を丸くするトランプに城之内が嗤う。
「《勇炎の剣士》のもう1つの効果を発動させた!《勇炎の剣士》は攻撃を行ったバトルフェイズに装備カード1枚を墓地に送ることで、もう1回だけ攻撃ができるんだよ!」
《スフィア・ボム》の効果は相手モンスターの装備カードとなるというもの。当然《勇炎の剣士》第2の効果発動のコストに、それを墓地に送ることもできる。
城之内はこの効果を利用することで《勇炎の剣士》2回目の攻撃権を得ると共に装備カード扱いの《スフィア・ボム》を処理したのだ。
「これで《勇炎の剣士》はもう1度攻撃ができるようになり、もし次のスタンバイフェイズが来てももう爆発することはねーってわけだ。これで心おきなく攻撃ができるぜ」
「バカなッ!」
今度ははっきりと動揺を表すトランプに城之内は拳を突き刺す。
「テメーに傷つけられた全ての人達の怒りと痛みを知れッ!《勇炎の剣士》でダイレクトアタック!!」
《勇炎の剣士》が再び炎を巻き上げる。
心なしかその表情は怒りに燃えているようであり、その炎も先ほどより勢いが高まっているようであった。
双剣に宿る炎が刃となりトランプを襲う。
「ーーー“闘気炎斬剣・双竜”!!」
トランプの身体が真っ赤な高熱の刃にX形に斬り付けられる。
「ぎゃぁああああーーー!!」
直接攻撃のダメージはモンスターが撃破された時とは比べ物にならない痛みだ。
まるで本当に身体を斬り裂かれ肉を焼かれたかのような痛みと熱。
トランプは汗と涎を垂らしながらのたうち回る。
この攻撃には、トランプがこれまで害してきた人々を想う城之内の心がこれでもかと込められていた。心と魔力とは密接な関係にあり、本気の心が込められた攻撃は通常の攻撃以上の痛みを相手に与えるのだ。
トランプ:LP4000→1200
苦痛に悶えるトランプが顔だけを向けて城之内を睨む。
「テ、テメェ……! クソッ! このオレに……こ、こんなッ! ただでは済まさんッ! ブッ殺してやる……ブッ殺してやるぞッ!!」
地面に転がりながら恨み言を喚くその姿に、これまで常に薄笑いを浮かべてデュエルを行っていた彼の冷静さは最早なかった。
その様子を見下ろす城之内にも、それに反論する怒りも相手に大打撃を与えた喜びもない。
むしろ哀れみに沈んでいるように見える。
「いやテメーはもう詰んでるぜ。テメーの時限爆弾モンスターじゃあ、もう《勇炎の剣士》を倒すことはできねーからな」
ようやく幻痛が止んだのかトランプはゆっくりと立ち上がる。その表情は苦々しげ。
「オレはこれでターンエンドだ」
城之内:LP300/手札3
●モンスター
勇炎の剣士:ATK2800
●魔法・罠
伏せカード1枚
聖剣ガラティーン:装備(勇炎の剣士)
トランプ:LP1200/手札3
●モンスター
なし
●魔法・罠
悪夢の拷問部屋:永続魔法
城之内の指摘は的を射ていた。
トランプの時限爆弾モンスターは、全て相手モンスターの攻撃をトリガーとする効果の受動的なモンスター達だ。その肝である相手モンスターに装備される効果を永続的に無効化された以上、時限爆弾モンスターのみでは最早《勇炎の剣士》を攻略することはできない。
形勢は完全に逆転していた。
トランプの手札に更に形勢を逆転できるカードはない。
この状況を打破するには、先ほどの城之内同様このドローに全てを賭けるしかない。
(クソッ! 何が詰んでるだ……! いいぜ、引いてやるよ! 形勢逆転のカードをな! テメェに出来て、オレに出来ないわけがないんだッ!! このカードで必ず絶望を見せつけてやるッ!!)
城之内は勝負の掛かったドローで見事《融合》という形勢逆転のカードを引き当てた。
何のカードをドローするのかは確かに運だが、ドローにも魔力は関係するとされている。曰く、より強い魔力の持ち主は運すらも味方につけると。
(これまでいくつもの修羅場をくぐり抜けてきたこのオレが、こんな頭の悪そうなガキに魔力で負けているはずがないんだッ!!)
知性派を自負するトランプにとって、馬鹿に負けることは耐え難い屈辱。魔力に於いても、少しでも劣るなど許しがたいことだった。
「オレのターン! ドローだッ!!」
意を決して引き抜いたカードを見る。
トランプの口元が緩んだ。
「クククク、まさかこの局面でこのカードを引くとは、運命というやつを信じたくなってきたぞ!」
その様子に城之内は警戒感を強める。
トランプが起死回生を見込める一手を得たのは間違いない。
何を出してくるのか、その動きに注視する。
「見て驚くがいい! オレが召喚するのはーーーこのモンスターだッ!!」
トランプがドローしたカードをディスクに叩きつける。
どんな凶悪なモンスターを召喚するのかと身構えていたが、現れたシルエットは意外にも小さかった。
「出でよッ《時の魔術師》!!」
トランプが召喚したのは、時計をマスコット化したようなモンスターだった。
†
《時の魔術師》
効果モンスター
星2/光属性/魔法使い族/攻 500/守 400
(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。コイントスを1回行い、裏表を当てる。当たった場合、相手フィールドのモンスターを全て破壊する。ハズレの場合、自分フィールドのモンスターを全て破壊し、自分は表側表示で破壊されたモンスターの攻撃力を合計した数値の半分のダメージを受ける。
†
起死回生を掛けたモンスターの割りに攻撃力はたったの500で、トランプが言うように見て驚くようなモンスターではない。
しかし城之内の反応は顕著だった。
「《時の魔術師》……だと……」
目を丸くして驚く城之内をトランプはニヤニヤとねぶるように嗤う。
徐々に城之内の目が鋭くなった。
「テメー、そのカードをどこで手に入れやがった……?」
まるで容疑者を尋問するかのような低く抑えた声色。
対するトランプは茶化すように笑みを深くする。
「予想はついてるんだろう? 蛭谷さんにもらったんだよ、グールズに入った時にな」
城之内の顔が怒りに真っ赤に染まった。
「蛭谷……ィ! 野郎、オレから奪ったカードを部下に配ってやがるのか……!」
《時の魔術師》は元々城之内のカードだった。蛭谷が城之内を騙して盗み出したデッキに入っていたカード。それも大切なダチとの友情を象徴する大事な1枚だったのだ。
それをあろうことか蛭谷はまるで褒美を遣わすように部下に切り売りしていたのだ。
死の物真似師のように自分で使うために他人のカードを奪うことも許せないが、これはそれすら凌駕するカードに対する情がまるで感じられない非道な仕打ちだった。
蛭谷にとって城之内のカードはただの戦利品であり、戦利品を仲間で分配するのは当然のことなのだ。
「よく分かったぜ、アイツがオレやオレのデッキに何の感情もないってことがなッ! だがそれでオレの戦意を喪失させるのがテメーの狙いだっつーんなら、残念だったな逆効果だぜ! 今のでオレの闘志は完全に燃え上がっちまった! テメーに勝って、何がなんでもアイツを1発ぶん殴ってやるってなッ!」
城之内が拳を握りしめる。甲に血管が浮き出るほど強く握られたその拳は、まるで炎を帯びているかのように熱い。
だがそれでもトランプは嗤う。
「戦意喪失がオレの狙い? 違うね。もはやそんな小細工など必要ない。このデュエル、オレは戦術面でお前より上をいっていた。だがお前のたった1枚のドローでそれは瓦解した。認めよう、あの瞬間お前は『運』でオレを上回った」
「まるでオレがテメーに勝ってるのは運だけみてーな言い方だな」
『運』を強調するトランプの口調に苦笑する。
トランプはあっさりと首肯した。
「そうだ。お前がオレを上回っているのは、まさにその『運』の部分だけだ。だがオレはそれすらも許すことができない。お前のようなマヌケ野郎が『運』だけとは言えオレの上にいることが我慢ならない」
「ならどうするっつーんだ?」
トランプはたったいま召喚した《時の魔術師》を見やる。
「運比べといこうじゃないか! オレの運とお前の運、どちらが上か! この《時の魔術師》の効果でなッ!!」
《時の魔術師》は強力な効果を秘めたモンスターだ。
しかしその効果はかなり運に左右される効果でもある。
「そういうことか……」
元々このカードの持ち主である城之内にもトランプの意図は伝わった。
《時の魔術師》の効果は、コイントスを行いその当たりハズレで発揮される力が変わる。
当たれば相手モンスターを全滅させるが、ハズレれば自分のモンスターが全滅する。非常にリスキーな効果なのだ。
「当たればお前の《勇炎の剣士》は破壊されオレの勝ち、ハズレれば《時の魔術師》が破壊されお前の勝ちが決まる。頭の悪そうなお前でもこれなら分かりやすいだろ」
《勇炎の剣士》さえ破壊してしまえば、城之内のフィールドはガラ空き。残りLP300の城之内なら、攻撃力500の《時の魔術師》でも直接攻撃で葬り去ることができる。
一方で《時の魔術師》が破壊されれば、トランプのフィールドの方がガラ空きになり、これ以上打つ手のないトランプは次の城之内のターンで《勇炎の剣士》の直接攻撃を防ぐことはできない。
「チッ、イチイチこっちをディスってくんのは気に食わねーが、確かにシンプルな展開だぜ。いいぜ、やってみろよ」
「言われるまでもないッ!《時の魔術師》よ、運命の針を回せッ!!」
《時の魔術師》が手に持つ杖を掲げると、杖の先に取り付けられたルーレットの針が回り出す。当たりの面に針が止まるか、ハズレの面に止まるか。ルーレットの確率は2分の1。
トランプは固唾を飲んで回る針の行方を注視していた。
このルーレットの結果に全てが掛かっていた。
そして針が止まった先はーーー
「ーーー『当たり』だッ!!」
トランプが喜びの声を上げた。
言葉通り、ルーレットの針は当たりの面に止まっている。
「《勇炎の剣士》を時の濁流で押し流せッ!“タイム・マジック”!!」
《時の魔術師》の秘めたる力ーーーそれは『時の加速』。当たりを引き当てたことで、その効果が城之内のフィールドのみを襲う。
城之内のフィールドに流れる時間が急速な勢いで加速していく。
それは急速に変化していく《勇炎の剣士》の姿に表れていた。
《勇炎の剣士》の闘志を表して勇ましく燃え上がっていた炎がまるでガスの切れたライターのように燻って消えていく。赤き鎧も剣も経年劣化で錆び付き、筋骨隆々だった身体は老人のように痩せ衰え、終いには立つことさえできなくなり風化して崩れ落ちてしまった。
更地となった城之内のフィールドに、トランプの笑い声が木霊する。
「ギャーハハハッ!! 最後に幸運を掴み取るのは、やはりこのオレだったなッ!! これで最後だッ!《時の魔術師》で直接攻ーーー」
歓喜し《時の魔術師》に直接攻撃の宣言を行おうとするトランプの眼前が、突如真っ赤に染まる。
城之内のフィールドに炎が柱のように立ち上ったのだ。
「なッ!?」
そしてその炎柱から、再び炎を纏った剣士が現れた。
「《勇炎の剣士》!? な、何故だ!? そいつは確かに破壊されたはずーーー」
現れた剣士は確かに《勇炎の剣士》によく似ていた。着ている鎧も容姿もそっくり。唯一違うのは持っている剣の文字が『炎』であるという点くらいか。
だが城之内は首を振る。
「《勇炎の剣士》じゃねーよ。こいつの名前は《炎の剣士》。オレがこのデッキで最も信頼を置くモンスターだ」
「《炎の剣士》ーーーだと?」
†
《炎の剣士》
融合モンスター
星5/炎属性/戦士族/攻1800/守1600
「炎を操る者」+「伝説の剣豪 MASAKI」
†
《炎の剣士》がステータスも含め《勇炎の剣士》に似ているのも無理はない。元々《勇炎の剣士》はこの《炎の剣士》の派生モンスターだからだ。
《炎の剣士》が成長し、様々な効果を身に付けたのが《勇炎の剣士》と言える。
そしてこの《炎の剣士》がフィールドに現れた理由もその《勇炎の剣士》の効果によるものだった。
「《勇炎の剣士》が戦闘・効果で破壊された場合、EXデッキから効果を持たない戦士族融合モンスター1体を特殊召喚することができる。この効果でオレはEXデッキから《炎の剣士》を特殊召喚したっつーわけだ」
何が起こったのか理解したトランプの顔から徐々に色が失われていく。
「バカな、それじゃあーーー」
「ああ。《時の魔術師》の効果がどちらに転んだところでテメーの勝ちはなかったんだよ」
《時の魔術師》の効果で《勇炎の剣士》を破壊したところで、《炎の剣士》が特殊召喚されてしまえば攻撃力500の《時の魔術師》では攻撃力1800の《炎の剣士》を倒すことはできない。
バトルはキャンセルするしかない。
「き、貴様……最初から分かっていて……!」
「そういうこった!」
歯噛みするトランプに、指で鼻を持ち上げあっかんべーしておどける城之内。
明らかに馬鹿にされているが、もうトランプになす術はない。
「テメーみてーなクソ野郎に幸運の女神様が微笑むわきゃねーだろーが。行くぜ、オレのターン!《炎の剣士》で《時の魔術師》を攻撃するぜ!!」
もう何もできないトランプを見限り、城之内がターンを進める。
ドローフェイズに引いたカードももう必要はなく、即バトルフェイズに移った。
《炎の剣士》が剣を構え、炎が迸る。
(すまねぇ《時の魔術師》……! 今だけは耐えてくれッ!)
《炎の剣士》の刃の餌食に指定された《時の魔術師》に心の中で謝りながら、城之内は最後のバトルを宣言する。
ーーー “闘気炎斬剣” ーーー
炎の必殺剣が《時の魔術師》を斬り裂いた。
「ぎぃやああああーーー!!」
トランプ:LP1200→0
LPを失ったトランプは炎に巻かれながら崩れ落ちた。
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(2021-01-09 22:29)