27話　共同戦線Ⅱ　作：ヒラーズ

人選を始めて3日、約束の時間がやって来た。
そう、MA社の社会見学だ。

この会社に潜入し、特異点に降りかかる障害を排除しなければならない。
勿論、失敗はできない。失敗した場合は犯人を国外へ逃げさせてしまう。故にここは勝負と言う事だ。
問題は人選なのだが…

「此処がMA社か～！初めて来たよ☆」
「社会見学は卒業前の学生で必ずある事柄なのデース！」
「ここが、お母様の会社と組んでいる企業…」
「「「……」」」

何で特異点達なのだ…！
私の場合は遊音が駄々をこねて仕方なくだが、他二人の事情を知らない。

「これはどういうことだ？」
「ごめん、エリスが言う事聞かなくて…」
「お嬢様は親の仇討ちをしたいって…どうやら僕の計画に感づいたらしくて」

クソ…！予想外だ！

「ところでハッキング班はどうした？ソルはあっちだが…」
「私は独自で作り上げた特殊AIに任せてある。安心して、コンピューターウィルスは全く効かないから」
「僕の方もサポートAIに任せてるよ」
「……」

不安だ！紛れもなく不安だ！！
いや、サポートAI達がハッキングに徹してくれるなら大丈夫だと思うが、特異点達を護衛しながら潜入できるか？

『九重氏、ソルです。二人が持っているサポートAIのハッキング助力により、予定より早くハッキングができそうです』
「わかった。できるだけ情報を多く確保してくれ」
『承知いたしました』

こちらも犯人の特定と捕らえる事ができれば、残りはこちらで何とかできる。

「行くよ～三人とも～！置いてっちゃうよ☆」
「……はぁ」

とても嫌な予感がするのは気のせいだろうか？失敗させないように努力はするが。

＊

それから様々な見学を行った。午前中はこの会社の設立の歴史を解説しながら建物を見て回るだけだが、午後からは一部の工場の見学だった。
主にカードを生成する施設だ。

「すご～い！今作られてるの《アクセスコード・トーカー》じゃん！」
「こっちは【星杯】カテゴリなのデ～ス！」
「…」

あっちはあっちで興奮してるな。
運よく案内役が遊音達に向いている間、こちらも行動できそうだ。

「…済まない、トイレは何処でしょう？」
「おっと、すいませんね。向こうとなります」

まんまと案内させてくれたな？その良心、利用させてもらうぞ。
遊音達と別れ、案内人を背後から奇襲し、気絶させる。
バレないようにロッカー室に隠して。

「よし、ステルス装置は持ったな？」
「ああ、こっちもばっちりだ」
「よし、行動開始だ」
「「了解」」

＊

一方、MA社の研究室にて、一人の男性研究員が報告を待ち、いくら時間が経ってもコルモグループの社長の死亡報告がない事に苛立ちが露わになっていた。

「どうなっている…！モストロルムの生体反応がいきなり消えているではないか…！！まさか、黒泉に気づかれたか！？」

（だとすれば拙いな…。すぐに此処を嗅ぎつけてくる。MA社を兵器開発の会社に戻して、他国との衝突に備える計画がお釈迦になる可能性が出たな…だが、前の配信には茜、黒泉…そしてあのレクス公国の科学者「白皇九重」の出現。この短い期間で最も遭遇してはいけない存在が彼女だ。レクス公国を敵に回した国は滅亡の末路しか辿らんという…）

「だが、ここで制作中の生物兵器を解き放つわけにもいかんし…何よりこの会社はまだ利用価値がある。それをみすみす手放すなど問題外だ。よくもやってくれたな、コルモの令嬢め…！」

しかし、それだけはない問題も出てきていた。
彼が使用しているパソコンにエラーメッセージが大量に送られてきている。

「クソ！何者かが情報を抜こうとハッキングを仕掛けてきたな？返り討ちにしてくれる！！」

男性研究員がハッキングしてくる相手と格闘をし始める。
徐々に最大の脅威が迫ってきていると知らずに。