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HOME > 遊戯王SS一覧 > Scar /11:幸運が微笑む者

Scar /11:幸運が微笑む者 作:げっぱ

目の前で、スカーの姿が消える。

弾丸の嵐に飲まれ、地面を削った勢いで巻き上げられた土が、視界を塞いでいく。
流れ弾に襲われながらも、アンは目を離す事ができなかった。

悲鳴を漏らす暇さえなかったのか。それほどの威力が何もかもを奪っていったのか。
けたたましい暴虐に晒された彼がどうなってしまっているのか。
アンにそれを想像するだけの知識は無い。だが、死と直結するものである事は理解できている。

スカーの死。

否が応でも考えてしまうその事に、手が震えた。全身の温もりの全てが消えていくような感覚。
口の中が乾いて仕方がない。胸の辺りが、何者かに握り潰されているのではないかと思うように痛む。

銃撃が止む。弾丸がぶつかり合い、軽い金属音を鳴らして転がる。
爆ぜた土塊が落ちてパラパラと散る。もうもうと立ち込める土煙。
「安全地帯」のカードで守られているアンの周りだけ、それらから隔絶され、まるで無関係のように無事であった。

アン「ス、カー」

掠れた声で呼ぶ。返事はない。

アン「スカー……!」

それでも尚、声を震わして呼ぶ。気が狂いそうな中、その事を認めてしまえば、本当に狂ってしまう。
目の奥が熱くなってくる。

風が吹き、流されていく砂礫。



晴れていくその中で、屹立するスカー。

全くの無傷で、ただ変わらずに、スティーラーを睨み付けるその姿があった。



アン「ス、スカー……」

スカー「フィールドなんて、一掃されて当然……防御手段はあらゆる場所に持ってこそデュエリストだ」

背後で驚くアンを余所に、是非も無しと言いたげに吐き捨てるスカー。
心臓に悪い事をすると、内心スカーを恨みながら、その言葉に対して頭を働かせる。
スティーラーに対する言葉と思いきや、それはアンに対しても言っていると、アンはよく分かった。

スカーの教えだ。万全なフィールドなどこの世には存在しない。どこかに必ず綻びがあり、そこを突かれて崩れ去る。
故にフィールドを過信してはならない。手札、墓地……フィールド以外にも防御や阻害の手段を用意できるようにするべし、と。

スカーは攻撃を受けるその直前に、手札のカードをデュエルディスクに置いていた。

スカー「相手モンスターの攻撃宣言時に、俺の手札とライフが相手よりも少ない場合に「クリスカー」の効果を発動できる」

スカー「手札のこのカードを表側攻撃表示で特殊召喚し、攻撃対象を自身に移し替えてダメージ計算を行う」

完全に晴れたデュエルフィールドの、何もいなかったはずのモンスターゾーンに当たるスカーの正面。
そこには、バッサリと袈裟斬りを食らったかのような傷跡で一部分が禿げた、丸くて赤い毛むくじゃらの変なモンスターがいた。
「スカーソルジャー」との関係を思わせるマスクもあるが、何故か帽子のように被っていた。
「ガトリング・ドラゴン」の銃弾と思しき弾丸をプッと吐き出し、「ガトリング・ドラゴン」を睨み付ける。


「クリスカー」 炎 ☆1 ATK/300 DEF/200
悪魔族/効果
このカード名のカードの①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:相手モンスターの攻撃宣言時、自分の手札及びLPが相手よりも少ない場合に発動できる。このカードを手札から表側攻撃表示で特殊召喚し、その相手モンスターの攻撃対象をこのカードに移し替えてダメージ計算を行う。
②:このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動する。自分は500LPを回復する。
③:相手モンスターの直接攻撃宣言時に、墓地のこのカードを除外して発動できる。手札から「SS」モンスター1体を選んで特殊召喚する。


「お前が浴びるはずの「ガトリング・ドラゴン」の銃撃の全てをそいつが受ける事で生き延びたか。運の良い奴だ」

「だが攻撃対象を変更するだけで、戦闘破壊耐性は無く、また攻撃表示であるために戦闘ダメージは受ける」

まるで平然としていた様子の「クリスカー」だったが、流石にルールを覆す事はできない。
緊張が抜けたかのように力が抜け、炎に包まれて消滅した。


「クリスカー」破壊!


スカー「「クリスカー」が戦闘で破壊された時、俺はライフを500回復する」LP:6000→3700→4200

「なら次だ。「ツインバレル」でダイレクトアタック」

「ガトリング・ドラゴン」に続いて「ツインバレル・ドラゴン」が、スカーに狙いを定めて撃鉄を起こす。
攻撃手段がそのまま物理的なダメージとしてプレイヤーを襲うのであれば、銃撃と言う点では威力の差など僅かなものでしかない。
直撃を受けてしまえば最悪死に、良くてデュエルの続行が困難になる。避けなければならないのは同じだ。

スカー「直接攻撃宣言時に、墓地の「SSS-カウンター・ストライク」を除外し、その効果を発動する!」

スカー「更にチェーンして、墓地の「クリスカー」を除外して効果発動! 手札から「SS」1体を特殊召喚する!」

スカーが「クリスカー」のカードを墓地から除外スロットへ送ると、小さな炎のヴィジョンが発生する。
死して燃え尽きぬ「クリスカー」の執念か、そこはそのモンスターが息絶えた場所だった。

スカー「俺の手札は1枚……「SS-グラッジ」を守備表示で特殊召喚!」

炎は膨れるように燃え盛り、人間大になったかと思えば一瞬の内に消えた。
代わりに奇術のように現れる、右腕を失った傷だらけの戦士。
しかし着けた仮面越しでも見える目に宿した闘志は、そんなハンディキャップなどまるで意に介していない。


「SS-グラッジ」 炎 ☆4 ATK/1200 DEF/1100
戦士族/効果
①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に、以下の効果から1つを選んで発動する。
 ●手札を1枚捨てる。墓地からレベル4「SS」モンスター1体を選んで特殊召喚する。このターン、自分はX召喚を行えない。
 ●1000LPを払う。デッキから1枚ドローし、手札を1枚捨てる。


スカー「そして「カウンター・ストライク」の効果が適用され、このターン、俺の「SS」モンスターは戦闘では破壊されない!」

スカー「続いて、特殊召喚に成功した「グラッジ」の効果発動! 俺の手札は無い為、ライフを払う効果を選ぶ」LP:4200→3200

スカー「デッキから1枚ドローし、手札を1枚捨てる。よってドローしたカードはそのまま捨てられる」捨てたカード→「SSS-カウンター・ストライク」

スカー「そして今捨られてた2枚目の「カウンター・ストライク」の効果で、1枚ドローしライフを1000回復する!」LP:3200→4200

「上手く壁を用意したか。ここで死んでおけば苦しまずに済んだものを」

言いながらも、その言葉に憐れみや煩わしさの類は感じられない。

「戦闘破壊できないなら攻撃する意味はない。バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2にカードを2枚伏せて、ターンを終了する」

まるで見逃しただけだと言わんばかりに、「ツインバレル・ドラゴン」の撃鉄が戻っていった。


先攻:スカー / 手札:1 / LP:4200
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
恨…SS-グラッジ ATK/1400(1200) DEF/1300(1100) 守備
□|□| □ |□|□
□|□|恨|□|□

□|□|双|ガ|□
■|■| □ | □|□
双…ツインバレル・ドラゴン ATK/1700 DEF/200 攻撃
ガ…ガトリング・ドラゴン ATK/2600 DEF/1200 攻撃
■…リバースカード
後攻:スティーラー / 手札:1 / LP:8000


スカー「俺のターン、ドロー」

何とか生き残ったものの、スカーのフィールドはすっかり荒らされ、ライフを削られた上に、手札まで消費してしまった。
と言っても、「カウンター・ストライク」の効果を使わず、「グラッジ」の戦闘破壊を受け入れていれば、「ウィーカーズ・ハビタット」の効果で「スカーソルジャー」のサーチができた。
重要な手札の補充を諦めてまで「グラッジ」を守ったのは……と言うより、フィールドにモンスターを維持したのは、警戒したからだ。

「ツインバレル・ドラゴン」と「ガトリング・ドラゴン」の効果の成功や、「ハーピィの羽根帚」を引いた事や融合の準備が整っていた事。
中々に揃うものではない。それこそ確率で言えばどれほど試行回数を重ねなければならないだろう。
それが全て、物理的1ターンキルが可能な後攻に揃うのは、余程の強運と言って差し支えない。
それが理由と言うわけではないが、敢えて付け加えるのであれば、スカーが培った直感が告げていた。

融合。1ターンキル。それを繋ぐカード、「融合解除」があると。


「融合解除」 速攻魔法
①:フィールドの融合モンスター1体を対象として発動できる。その融合モンスターを持ち主のエクストラデッキに戻す。その後、エクストラデッキに戻したそのモンスターの融合召喚に使用した融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、その一組を自分フィールドに特殊召喚できる。


勿論、ただの勘に過ぎない以上は、単純にそれを握られていたら困るだけの話だ。結局、警戒するに越した事は無い。
だが、スティーラーの淀み無い手付きや、まるで結果が決まっているかのような口振りは気になる。

結果が決まっている、強運…………。

アン「スカー! 頑張って……!」

余計な事を考え始めたスカーの内心を見透かすようなタイミングで、アンは幼いなりに激励する。
振り返れば、不安げな顔。しかし、スカーの勝利を確かに信じる眼差しをぶつけてくる。

…………疑心暗鬼も過ぎると、スカーは頭を振る。運次第であろう何であろうと、今となっては関係ない。
そして状況を打破すべく、ドローカードを見ながら思考を巡らす。
土壇場でも巡らせる余地があるドローをするだけ、スカー自身も悪運を持っていると言えよう。
ならばぶつけて見せよう。「強運」と「悪運」はどちらが勝るか、見物ですらある。

スカー「メインフェイズに移行し、「SS-ヘイト」を召喚!」

召喚される、小柄で杖を衝き、仮面を着けた傷だらけの戦士。その右脚は無く、現れるなりその場に座り込む。
しかし「グラッジ」同様、身の欠損を物ともしない強い眼差しで、相手モンスター各々を睨み付ける。


「SS-ヘイト」 炎 ☆4 ATK/1000 DEF/1200
戦士族/効果
①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に、以下の効果から1つを選んで発動する。この効果を発動するターンに、自分は「SS」カードの効果しか発動できない。
 ●手札を1枚捨て、相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊する。
 ●1000LPを払う。自分の墓地から「SS」モンスターを2体選んで手札に加える。
②:このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから1枚ドローする。


スカー「召喚に成功した「ヘイト」の効果発動。二つの効果の内、ライフを払う効果を選んで発動する」

スカー「ライフを1000払い、自分の墓地の「SS」を2体選んで手札に加える」

スカー「手札に加えるのは「SS-ヴェンジェンス」と「SS-ネメシス」!」LP:4200→3200

スカー「そして俺のフィールドに「SS」が2体以上存在する場合、1ターンに1度だけこのカードを手札から特殊召喚できる!」

スカー「来い、「SS-ヴィンディクト」!」

突如、炎のヴィジョンが舞い上がる。その中からぬらりと現れた剣が、振り回されるように暴れて炎を散らす。
そうして現れるのは、鎧を纏い、仮面を着けた小柄な戦士。身に着ける物全てが傷だらけの戦士だった。


「SS‐ヴィンディクト」 炎 ☆7 ATK/1500 DEF/1700
戦士族/特殊召喚/効果
このカードは通常召喚できない。このカードは「SS」カードの効果でのみ特殊召喚できる。このカード名のカードの①の効果は1ターンに1度しか発動できない。
①:自分フィールドに「SS」モンスターが2体以上存在する場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
②:このカードが特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選んで発動する。
 ●手札を1枚捨てる。自分フィールドの「SS」モンスター1体と相手フィールドのカード1枚を選んで手札に戻す。
 ●1000LPを払う。このカードを破壊し、自分の墓地から「SS‐ヴィンディクト」以外の「SS」モンスター1体を選んで特殊召喚する。
③:フィールドから墓地へ送られたこのカードが墓地に存在する自分のスタンバイフェイズ開始時に1度だけ発動できる。手札を1枚捨て、ライフを1000払う。このカードを墓地から特殊召喚する。


「特殊召喚手段を持つ最上級モンスターか。攻撃力と守備力は下級モンスターと同じだが……」

スカー「特殊召喚に成功した「ヴィンディクト」の効果発動! 二つの効果の内、手札を捨てる効果を選ぶ!」

スカー「手札を1枚捨て、自分フィールドの「SS」モンスター1体と相手フィールドのカード1枚を選んで手札に戻す!」

効果の説明を聞いたスティーラーの眉が、ピクリと動いた。

「……ならば「ガトリング・ドラゴン」を対象にリバースカード、速攻魔法「融合解除」を発動する」

「「ガトリング・ドラゴン」をエクストラデッキに戻し、その融合素材となったモンスター一組を特殊召喚できる」

スティーラーはデュエルディスクの「ガトリング・ドラゴン」のカードをエクストラデッキに戻し、墓地から二枚のカードを代わりに置く。

「墓地の「リボルバー・ドラゴン」と「ブローバック・ドラゴン」を特殊召喚」

「ガトリング・ドラゴン」のヴィジョンは光に包まれて消滅し、代わりに現れるのは、似たような2体の機械のモンスター。

方や名前の通りリボルバーのような銃口を頭と腕の代わりに持つ、「リボルバー・ドラゴン」。
全てのシリンダーをカラカラと回し、電子音のような耳障りな鳴き声を上げる。


「リボルバー・ドラゴン」 闇 ☆7 ATK/2600 DEF/2200
①:1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。コイントスを3回行い、その内2回以上が表だった場合、そのモンスターを破壊する。


方や腕が無く、細身の銃身を頭に持つ、「ブローバック・ドラゴン」。
低い唸り声と共に頭部の一部分を後ろにスライドさせる。と、空薬莢が排出され、鈍い音を立てて地面に落ちてめり込んだ。


「ブローバック・ドラゴン」 闇 ☆6 ATK/2300 DEF/1200
①:1ターンに1度、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
コイントスを3回行い、その内2回以上が表だった場合、そのカードを破壊する。


スカーが睨んだ通り、スティーラーは「融合解除」を握っていた。
サーチを狙って「グラッジ」を見捨てていれば、そのまま「ガトリング・ドラゴン」と変わらぬ攻撃手段の持ち主共の攻撃で死んでいたに違いない。

アン「でも「ヴィンディクト」のバウンス対象は「こーかかいけつじ」に選ぶから、出てきたどちらかをバウンスできる!」

スカー「そうだ。「リボルバー・ドラゴン」と「ヘイト」を選んで手札に戻す!」捨てたカード「SS-ネメシス」

スティーラーは黙って「リボルバー・ドラゴン」のカードを手札に戻す。
スカーも同じく、「ヘイト」のカードを手札に戻した。

スティーラーが初めて反応を示した理由はこれだろう。「融合解除」を除去に対するエスケープ手段にしようと目論んでいたに違いない。
しかし対象を取らない除去に対しては無力に近い。
「融合解除」を温存して「ガトリング・ドラゴン」を失うか、「融合解除」を消費して「ブローバック・ドラゴン」を残すか。
この土壇場でその選択を迫れたのは非常に大きい。

「そしてお前の手札には「SS-ヴェンジェンス」がいる……」

スカー「「SS」モンスターの効果で手札を捨てた時、このカードを特殊召喚できる。もう一度だ、「ヴェンジェンス」!」

スカーの声に応えるように、炎が燃える。その中から身を乗り出して蘇る、割れたマスクの戦士。
傷だらけの全身に、新しい銃創が増えていた。それをなぞり、怒りに満ちた雄叫びを上げる。

スカー「特殊召喚に成功した「ヴェンジェンス」の効果の内、ライフを払う効果を選んで発動する」

スカー「デッキから2枚ドロー!」LP3200→2200

スカー「そして手札から「SS」モンスター1体を捨てるか、手札を2枚捨てる。俺は「SS-ヘイト」を捨てる」捨てたカード→「SS-ヘイト」

「フィールドをあれほど剥がしてやったと言うのにしぶとい奴だ」

スカー「……フィールド魔法「ウィーカーズ・ハビタット」の効果で、「SS」の攻撃力は600ずつアップする」


先攻:スカー / 手札:2 / LP:2200
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
恨…SS-グラッジ ATK/1800(1200) DEF/1700(1100) 守備
執心…SS-ヴィンディクト ATK/2100(1500) DEF/2300(1700) 攻撃
執念…SS-ヴェンジェンス ATK/2400(1800) DEF/1900(1300) 攻撃
□| . □ .| □ | . □. |□
□|執念|恨|執心|□

□|□|双|ブ|□
□|■| □ |□ |□
双…ツインバレル・ドラゴン ATK/1700 DEF/200 攻撃
ブ…ブローバック・ドラゴン ATK/2300 DEF/1200 攻撃
■…リバースカード
後攻:スティーラー / 手札:2 / LP:8000


スカー「「グラッジ」を攻撃表示に変更し、バトルフェイズだ。「ヴェンジェンス」で「ブローバック・ドラゴン」を攻撃する」

「ヴェンジェンス」は叫びながら、「ブローバック・ドラゴン」へと接近する。
「ブローバック・ドラゴン」はその巨体故に小回りが利かず、駆ける「ヴェンジェンス」に狙いが定まらない。
そうしている間に懐に入った「ヴェンジェンス」は、跳び上がり、胸元から取り出したナイフを擦れ違い様に機械龍の銃口に突き刺す。
その勢いのままにスライド部分に飛び乗ると、一息に、鉄拳を打ち込んだ。拉げる頭部。

「ヴェンジェンス」が跳んで離れると、間も無く「ブローバック・ドラゴン」は火花を散らし、爆裂した。


「ブローバック・ドラゴン」破壊!


「くっ……」LP:8000→7900

流石にヴィジョンに巻き込まれては堪らないようで、スティーラーはすかさず飛び退いて回避する。

スカー「次だ、攻撃力が上がった「グラッジ」で「ツインバレル・ドラゴン」を攻撃」

続いて「グラッジ」も「ツインバレル・ドラゴン」目掛けて駆け抜け、反応すらも許さず、左フックを叩き込む。
頭部が圧し折れ、部品をばら撒きながら、「ツインバレル・ドラゴン」のヴィジョンは砕け散った。


「ツインバレル・ドラゴン」破壊!


「…………」LP:7900→7800

スカー「これでお前を守るモンスターは居ない。「ヴィンディクト」、ダイレクトアタックだ!」

がら空きにフィールドへ、「ヴィンディクト」が跳び出していく。
それに合わせて、スティーラーは残るリバースカードを発動した。

「攻撃宣言時にリバースカードオープン。永続罠カード「リビングデッドの呼び声」発動。対象は「ブローバック・ドラゴン」だ」


「リビングデッドの呼び声」 永続罠
①:自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。


そのカードは、つい先日に戦ったハンターのウルフも使用した汎用的なカード。
デッキの内容を殆ど問わずに入れられるため、多くの『カオスクロス』の構成員が使っていた。その利便性は見ての通りだ。

蘇生を止めたいところだが、その手段が今の手札にはない。見逃すしかない。

「何もないようだな。なら、「ブローバック・ドラゴン」を特殊召喚させてもらう」

カードの効果が適用され、ヴィジョンによって反映される。

「ヴィンディクト」の行く手を遮るかのように、カードのイラストにあるような十字状の墓石が現れ、地面に突き刺さる。
その目の前の地面が盛り上がり、突き破って叫びながら現れる「ブローバック・ドラゴン」。
「ヴェンジェンス」にやられた箇所が気になるのか、調子を確かめるようにスライドを何度か動かす。


「ブローバック・ドラゴン」復活!


スカー「攻撃力が上がった「ヴィンディクト」でも勝てない……攻撃は止めだ。バトルフェイズを終了する」

スカー「メインフェイズ2にリバースカードを2枚セットし、ターンを終了する」

相手のカードを使わせたとは言え、まともなダメージを負わせる事はできなかった。
その上で除去能力を持ったモンスターを残してしまった。
リバースカードである程度はどうにかできるが、それも運任せだ。


先攻:スカー / 手札:0 / LP:2200
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
恨…SS-グラッジ ATK/1800(1200) DEF/1700(1100) 攻撃
執心…SS-ヴィンディクト ATK/2100(1500) DEF/2300(1700) 攻撃
執念…SS-ヴェンジェンス ATK/2400(1800) DEF/1900(1300) 攻撃
■| .□ .| □ |. □ .|■
□|執念|恨|執心|□

□| □ |□|ブ|□
□|呼|□| □ |□
ブ…ブローバック・ドラゴン ATK/2300 DEF/1200 攻撃
呼…リビングデッドの呼び声 対象:ブローバック・ドラゴン
後攻:スティーラー / 手札:2 / LP:7800


「俺のターン、ドロー。スタンバイ、メインフェイズへ移行し、「ブローバック・ドラゴン」の効果を発動する」

「相手フィールドのカード1枚を対象とし、コイントスを三回行い、表が二回出ればそのカードを破壊する」

「対象はこちらから見て右側のリバースカードだ」

手始めとばかりに「ブローバック・ドラゴン」の効果を使用し、除去を試みるスティーラー。
確率は単純に50%。どう転んでもおかしくはない数値だが、これまでに散々良い目を引いているのだから、そろそろ外すのを祈りたい。

スティーラーがヴィジョンのコインを弾き、一度目のコイントスが行われる。地面に落ちたコインが見せるのは太陽の絵柄。表だ。
続いて二度目のコイントス。軽快な音を響かせて落ちたコインの面は、太陽の絵柄。

「効果の成功は決まったが、ルールで三度目のコイントスだ」

言いながら、手元に戻ったコインを後方へとぞんざいに弾き飛ばす。
明後日の方向に飛んで行ったコインが何の絵柄を示したか見えるはずもないが、デュエルディスクに表示される限りでは太陽の絵柄が出たらしい。

「よって、そのカードは破壊される」

効果の成否が決まり、後は処理するだけ。「ブローバック・ドラゴン」は頭部をスライドさせて弾丸を装填し、間髪入れず発砲する。
大砲でも放ったかのような轟音と共に飛び出た弾丸は、狙い通り指定のリバースカードに命中して粉々に砕いた。


「テラ・フォーミング」破壊!


砕けたヴィジョンから身を守りながら、スカーは辟易する。
これで三度目のギャンブルの成功。ここまでくれば、もはや勝負を運に持ち込んでも勝ち目がないような気さえする。
しかしそうとも限らず、破壊されたカードは紛れもないブラフ。
絶対に破壊されてはならないカードを選ばれていないだけ、スカーはまだツイていると言える。

「外れか……まあいい。2枚目の「融合」を発動」

然したる問題も無いと言う風に、スティーラーは次の手を進める。

「手札の「リボルバー・ドラゴン」とフィールドの「ブローバック・ドラゴン」を墓地へ送り、再び「ガトリング・ドラゴン」を融合召喚」

スカー「もう1枚の「融合」カード……!」

光に包まれて消滅する「ブローバック・ドラゴン」の代わりに、今一度現れる「ガトリング・ドラゴン」。
未だ暴れ足りないのか、不本意な退場に怒っているのか、機械の龍は三つ首から銃弾の嵐を吐き散らす。


「ガトリング・ドラゴン」融合召喚!


「「ガトリング・ドラゴン」の効果発動」

そして淀み無い宣言。
とは言え、スカーのフィールドのモンスターは3体。それらを一掃するには、再びコイントスを全て成功させなければならない。
だと言うのに、スティーラーの動きには緊張も躊躇いも無い。

手にしたヴィジョンのコインを、軽く弾いて地面に落とす。太陽の絵柄
それが消え、再び現れたコインをキャッチし、同じように軽く弾いて地面に落とす。太陽の絵柄。
最後のコイントスも軽い調子で、そして当然のように太陽の絵柄。

僅かの間に、死刑宣告はなった。

アン「また、全部成功……」

スカー「クッ……!」

スカーは効果の破壊に巻き込まれないように、またカードで守られているとは言えどもアンを巻き込まないように、すぐさま駆け出す。
それに合わせて、フィールドの「スカーソルジャー」たちも、機械龍に背中を見せないようにしながらスカーについて行く。
遅れて、「ガトリング・ドラゴン」の銃身が回転を始める。銃口から火を吹き、たちまち傷だらけの戦士たちを千切り、消していく。


「SS-グラッジ」「SS-ヴィンディクト」「SS-ヴェンジェンス」破壊!


寸での所で横へ飛び退いたスカーは、またも命辛々生き延びる。
巻き起こった土煙を払いながら、スティーラーへと対峙する。

「無駄な足掻きを繰り返すな」

スカー「黙れ」

「生憎だが黙るのはお前の方だ。今度こそ、な」

「バトルフェイズに入る。「ガトリング・ドラゴン」でダイレクトアタック」

銃身の熱も冷め切らぬ内に、「ガトリング・ドラゴン」は次の攻撃準備を始める。

スカー「攻撃宣言に対しリバースカードオープン! 通常罠カード「SSS-反撃の時」!」


「SSS-反撃の時」 通常罠
①:相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在せず、自分の手札とLPがそれぞれ相手より少ない場合に発動できる。デッキから「SS」モンスターを2体選んで特殊召喚する。


スカー「相手フィールドにのみモンスターが存在する状態で、俺の手札とライフが相手より少ない場合に発動できる!」

スカー「デッキから「SS」モンスター2体を特殊召喚する! デッキから「SS-ヘイト」2体を守備表示で特殊召喚!」

叫ぶスカーの目の前に、二つの炎が現れる。
轟々と燃える二つの炎は、やがて消え去り、そして現れる杖を傍らに座り込む「ヘイト」が2体。
キュルキュルと回り続ける「ガトリング・ドラゴン」の銃身を、一切の恐れも無く睨み続ける。

「なるほど」

状況を見て、スティーラーは零す。

「「ガトリング・ドラゴン」の効果を全て成功させなければ、お前はそのカードを発動できなかったのか」

スカー「だがお前は成功させたんだ」

全てはスカーが賭けた通りに運んだ。

これまでの流れから言って、間違いなくスティーラーは「ガトリング・ドラゴン」でモンスターの殲滅を狙う。
そして見事、スカーのフィールドのモンスターを全滅させた。ここまでは賭けた通りだ。
そこに辿り着くまでに「ブローバック・ドラゴン」の効果の対象が違っていたり、スティーラーが1枚の手札を残していたりと、随分と運に助けられているが……。

全てのギャンブルを成功させているスティーラーと比べれば、どちらも似たようなものであろう。

「…………「SS-ヘイト」は召喚・特殊召喚に成功した時、効果を発動する」

スカー「特殊召喚に成功した「ヘイト」2体を、共にライフを払う効果を選んで発動する」

スカー「ライフを1000ずつ払い、俺の墓地から「ネメシス」と「ヴィンディクト」、「グリーフ」と「ヴェンジェンス」を手札に加える」LP:2200→1200→200

「戦闘ダメージを与えられない上に、「SS-ヘイト」を戦闘破壊すればドローとサーチを許す……バトルフェイズを終了する」

デュエルディスクの情報を確認しながら、スティーラーはフェイズを移行する。
運もさる事ながら、公開情報の確認を怠らない辺り、その腕の高さがよく分かる。

「メインフェイズ2に入り、「リビングデッドの呼び声」を墓地へ送って通常魔法「マジック・プランター」を発動」

「俺のフィールドに表側表示で存在する永続罠カード1枚を墓地へ送り、デッキから2枚ドローする」


「マジック・プランター」 通常魔法
①:自分フィールドの表側表示の永続罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。


スカー「何……?」

それだけに、このタイミングでの「マジック・プランター」の発動には違和感を覚えた。
ドローソースは、何らかの制約や理由がない限り、ドローしたカードによって更なる手が打てる可能性を考えれば、攻める前に発動するのが定石だ。
「ブローバック・ドラゴン」を融合素材にした後の「リビングデッドの呼び声」はもう用済みであるから、バトルフェイズに入る前の「ガトリング・ドラゴン」の効果の前後いずれかに発動すれば良かったのだ。

スカーが違和感を拭い切れないのを余所に、スティーラーは新たに得た手札から1枚のカードを発動する。

「手札から永続魔法カード「未来融合-フューチャー・フュージョン」を発動」


「未来融合-フューチャー・フュージョン」 永続魔法
①:このカードの発動後1回目の自分スタンバイフェイズに発動する。自分のエクストラデッキの融合モンスター1体をお互いに確認し、そのモンスターによって決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。
②:このカードの発動後2回目の自分スタンバイフェイズに発動する。このカードの①の効果で確認したモンスターと同名の融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。


「リバースカードを1枚セットし、ターンを終了する」


先攻:スカー / 手札:4 / LP:200
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
憎…SS-ヘイト ATK/1400(1000) DEF/1600(1200) 守備×2
□| □ | □|□|□
□|憎|憎|□|□

□|□|ガ| □ |□
□|■| □ |未|□
ガ…ガトリング・ドラゴン ATK/2600 DEF/1200
未…未来融合-フューチャー・フュージョン ターン:0
■…リバースカード
後攻:スティーラー / 手札:0 / LP:7800


スカー「俺のターン、ドロー」

ターンを終える前にスティーラーが発動したカード、「未来融合-フューチャー・フュージョン」。
その名の通り未来のターンで融合を行うカードだ。ターンのラグがある以上速効性こそないが、手札を消耗せずに融合とデッキの圧縮を行える利点が存在する。
放っておけば再び「ガトリング・ドラゴン」かそれに並ぶ強力なモンスターを呼ばれてしまうため、早めに除去しておきたいが……。

その前に立ちはだかる「ガトリング・ドラゴン」をどうにかせねば、そもそもとして2ターン後が訪れるかどうかが疑問だ。

スカー「スタンバイ、メインフェイズに移行し、手札の「ヴィンディクト」の効果を発動」

アン「スカーのフィールドに「スカーソルジャー」が2体存在するから、また特殊召喚できる!」

手始めに、もう一度「ヴィンディクト」を展開する。
呼び出された「ヴィンディクト」の鎧は至る所がへこんでいた。「ヴィンディクト」は気に入らなさそうにそこを撫でる。

スカー「特殊召喚に成功した「ヴィンディクト」の二つの効果の内、手札を捨てる効果を選んで発動する」

スカー「手札を1枚捨て、俺のフィールドから「SS」モンスター1体と、相手フィールドのカード1枚を選んで手札に戻す」

リバースカードを発動する気配はない。

スカー「「ガトリング・ドラゴン」と「SS-ヘイト」1体を手札に戻す!」捨てたカード→「SS-ネメシス」

「エクストラデッキから特殊召喚された「ガトリング・ドラゴン」は手札に戻らず、エクストラデッキに戻る」

切り札をあっさり除去され、自分を守るモンスターが無くなったと言うのに、これと言って困った様子は見せない。
それだけあのリバースカード1枚で防げる自信があるのだろうか。

スカー「次に、「SS-グリーフ」を召喚」

呼び出された「グリーフ」のヴィジョンは、感覚を確かめるように指を折り曲げて音を鳴らす。
それからいつものように猫背になって、スカーの指示を待つ。

スカー「召喚に成功した「グリーフ」の二つの効果の内、手札を捨てる効果を選んで発動する」

スカー「手札を1枚捨て、俺のフィールドの「SS」モンスターの数×1000ポイントライフを回復する」捨てたカード→「SS-ヘイト」

スカー「俺のフィールドには「ヘイト」「ヴィンディクト」「グリーフ」の3体、よって3000回復する!」LP:200→3200

スカー「そして俺が「SS」モンスターの効果で手札を捨てた場合に、手札のこのカードを特殊召喚できる!」

スカー「もう一度、行け! 「SS-ヴェンジェンス」!」

舞い上がる炎から、「ヴェンジェンス」が飛び出す。
今にもスティーラーに飛び掛かりそうな形相を割れたマスクから覗かせ、怒りを孕んだ絶叫を上げる。

スカー「特殊召喚に成功した「ヴェンジェンス」の効果発動! 二つの効果の内…………」

手札を捨てる効果を発動して、スティーラーのリバースカードを「未来融合」諸共破壊し、全員で直接攻撃して勝利。
それがスカーが描いていた絵図だ。躊躇う事は無い。

しかし、拭い切れない違和感が、スカーの頭に纏わりついて離れない。

スティーラーはカードの効果を確認していた。今まで発動していない「ヘイト」が戦闘破壊された時の効果も把握している。
「ヴェンジェンス」の除去効果も理解していると考えて間違いないだろう。
にも拘わらず、「未来融合」を発動するだろうか。破壊される事を承知で発動した?
それともやはり、あのリバースカードで守る算段なのだろうか。
「未来融合」を守れたとしても、その後の直接攻撃はどうやって防ぐ?
「未来融合」を守るカードではないとして、そもそも除去される前提であれば、攻撃を防ぐ事を放棄している事になる。
除去されても攻撃を防げるカードなのだろうか。とすれば、「未来融合」も含めて除去を誘うブラフとも考えられる。
或いはフリーチェーンの妨害カード。そちらの方が可能性としては高いか。
攻撃反応系の防御カードであれば、この考えの全てがひっくり返る事になる。

何より、スティーラーの様子。自らの勝利は揺るがないと言わんばかりの、スカーの攻めの姿勢に対して何ら反応を示さない態度。
少なくとも、何があろうともこのターンを生き残る自信があるのだろう。それさえもポーカーフェイスか。


アン「スカー!」


アンに呼ばれ、スカーはハッとする。
その方を見れば、アンが不思議そうにスカーを見つめていた。

アン「どうしたの?」

スカー「…………いや、なんでもない」

……不確定な情報に踊らされても仕方がない。今、思い付いた事の中から、可能性の高いものを抽出する。
このターンに勝負が決まらないのであれば、スカーが優先するべきは、次のターンの自分の生存。
今の手札ではそれが不安定だ。となれば打つ手は一つ。

スカー「……ライフを1000払い、ドローする効果を選ぶ。その効果で2枚ドロー」LP:3200→2200

スカー「その後、手札から2枚目の「SS-ヴィンディクト」を捨てる」捨てたカード→「SS-ヴィンディクト」

臆病風に吹かれたのではないものと願いつつ、ドローしたカードを吟味する。
攻め手には使えないが、次のターンを十分乗り切れるカードだ。

スカー「「ヘイト」を攻撃表示に変え、バトルフェイズに入る。「グリーフ」でダイレクトアタック」

念の為リバースカードが「リビングデッドの呼び声」のような蘇生カードである事を警戒し、攻撃力が一番低い「グリーフ」に攻撃を命じる。
攻撃宣言と共に、「グリーフ」はスティーラーへと突進していく。
モンスターの総攻撃力は「ウィーカーズ・ハビタット」の効果を含めて8500。初期ライフでさえ消し飛ぶ数値だ。
これが通ればスカーの勝ちだが……。

「攻撃宣言時にリバースカードオープン。通常罠カード「和睦の使者」発動」

「このターンの間、俺は一切の戦闘ダメージを受けず、俺のモンスターは戦闘破壊されない……まあ後半の効果は関係ないがな」


「和睦の使者」 通常罠
①:このターン、自分は全ての戦闘ダメージを受けず、自分のモンスターは戦闘では破壊されない。


カードの発動直後、「グリーフ」が殴り掛かる。
と、その拳はスティーラーに届かず、その目の前で靄のようなものに阻まれて止まる。

やはり、フリーチェーンの時間稼ぎのカードだった。あのカードならば確かに除去の対象にされても、チェーンして発動してしまえばいい。
もしもスカーが「ヴェンジェンス」の効果を除去にしていたならば、スカーは次への備えも無いままにターンを終えていただろう。
その場合は「未来融合」を破壊できているので、今後の展開次第ではどうとも言えないが、取りあえずは正解と言ったところか。

「勘の良い奴だ。「未来融合」と言う餌まで与えたのに、露骨過ぎたようだな」

またしても無感情に、このやり取りさえも意味のない物のようにぼやく。

攻撃に失敗した「グリーフ」が戻るが、これ以上の攻撃は無駄でしかない。

スカー「…………バトルフェイズを終了。カードを2枚セットし、ターンエンド」


先攻:スカー / 手札:0 / LP:2200
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
■…リバースカード
憎…SS-ヘイト ATK/1800(1000) DEF/2000(1200) 攻撃
執心…SS-ヴィンディクト ATK/2300(1500) DEF/2500(1700) 攻撃
不幸…SS-グリーフ ATK/1600(800) DEF/2300(1500) 攻撃
執念…SS-ヴェンジェンス ATK/2600(1800) DEF/2100(1300) 攻撃
■| .□ . | □ | . □. | .■
□|執心|憎|不幸|執念

□|□|□| □ |□
□|□|□|未|□
未…未来融合-フューチャー・フュージョン ターン:0
後攻:スティーラー / 手札:0 / LP:7800


「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズに「未来融合」の効果を発動する」

「エクストラデッキの「ガトリング・ドラゴン」を見せ、その融合素材である「リボルバー・ドラゴン」と「ブローバック・ドラゴン」をデッキから墓地へ送る」

表側になっている「未来融合」のヴィジョンが傾き、横になる。カウントが進んだ証明だ。
スティーラーのデッキから2枚のカードが墓地へ送られる。これで次のターンに、再び「ガトリング・ドラゴン」が現れてしまう。

「メインフェイズ。手札から通常魔法「オーバーロード・フュージョン」を発動」

「墓地の融合素材となるモンスターを除外し、闇属性で機械族の融合モンスターを融合召喚する」


「オーバーロード・フュージョン」 通常魔法
①:自分のフィールド・墓地から、機械族・闇属性の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。


アン「融合……という事は、3体目の「ガトリング・ドラゴン」が……!」

スカー「「未来融合」で墓地へ送ったカードをそのまま融合素材にできるコンボ……!」

「融合」「未来融合」に続く三種類目の融合カード。
次々と追い打ちをかけるように「ガトリング・ドラゴン」を展開する手段を引き込むスティーラーの運の強さに、スカーは忌々し気に苦鳴を漏らす。
しかし、リバースカードではそれを防ぐ事はできない。

地の底より不気味に響く、組み立てられるかのような金属音を止められない。

「俺の墓地の、最初に墓地へ送られた「リボルバー・ドラゴン」と「ブローバック・ドラゴン」を除外し、「ガトリング・ドラゴン」を融合召喚」

スティーラーの眼前の地面が罅割れ、そこから「ガトリング・ドラゴン」の三つ首が現れ暴れる。
身を捩るようにして地面の亀裂を広げ、車輪に付いた刺を利用して這い出した。


「ガトリング・ドラゴン」融合召喚!


「「ガトリング・ドラゴン」の効果発動。コイントスを行う」

宣言と共に、スティーラーの手にヴィジョンのコインが現れる。

「殲滅してしまえばまたさっきのようなカードを発動されてしまう……だが、今お前のフィールドにいるモンスターは4体」

「「ガトリング・ドラゴン」の効果が全て成功しても、モンスターが1体残り、あのカードを発動される事は無い」

スカー「まるで成功するのが決まっているような口ぶりだな」

「そうだ」

スティーラーは差も当然と答える。

「このデュエルは、全てが決まっている」

感情の無い声音で言葉を続け、指先のコインを弾く。
スカーとアンが抱いた疑問を口にする間も与えずに、コイントスの結果が出る。太陽の絵柄。
間髪入れずに行われた続く二度のコイントスも、同じように太陽の絵柄。

最早異様としか言いようのない雰囲気が漂う中、「ガトリング・ドラゴン」のみがその使命を果たすべく銃身を回転させる。

「破壊の対象は「SS-ヘイト」「SS-ヴィンディクト」「SS-ヴェンジェンス」の3体だ」

対象の指定と同時に、「ガトリング・ドラゴン」は狙いも定めずに火を吹く。
抉り削り取られる地面が三本の線を引き、その先にはスカーたち。

「グリーフ」に抱えられ、スカーはその場から離れる。
直後、三人の戦士を襲う銃弾の波。飲み込まれたか、削り取られたか、経過はどうあれ、跡形も無く消えた。


「SS-ヘイト」「SS-ヴィンディクト」「SS-ヴェンジェンス」効果破壊!


「グリーフ」によってその暴虐から免れたスカーは、破壊された戦士たちの最期に歯を食い縛る。

スカー「…………だが、俺の場にはまだモンスターが残っている」

「それも今から、ライフ諸共もぎ取ってやる。バトルフェイズだ。「ガトリング・ドラゴン」で「SS-グリーフ」を攻撃」

銃身の熱が冷める間も無く、「ガトリング・ドラゴン」は再び弾丸を吐き散らかした。
咄嗟に、「グリーフ」のヴィジョンはスカーの首根っこを乱雑に掴み、同じように乱雑に遠くへと放る。
その空中で、スカーはがむしゃらにカードを発動する。

スカー「リバースカードオープン! 永続罠「SSS-逆襲の傷跡」を発動!」

カードの効果が適用される音が響く。
受け身を取り、地面を転がり、起き上がって元居た場所を見る頃には、既に「グリーフ」の姿は無かった。
代わりに、戦闘によって減るはずだったスカーのライフは変動していない。

「…………カードを発動したのか」

デュエルディスクを確認しながら、スティーラーはぼやく。
それに対し、デュエルディスクに付いた土を払いながら、スカーは改めてカードの説明をする。

スカー「永続罠「SSS-逆襲の傷跡」。その効果により、俺の「SS」の戦闘で自分が受けるダメージは0になる」


「SSS-逆襲の傷跡」 永続罠
①:自分フィールドの「SS」モンスターが行う戦闘で自分が受ける戦闘ダメージは0になる。
②:自分の「SS」モンスターが戦闘を行ったダメージ計算終了時に発動する。次の自分のターン終了時までそのモンスターの攻撃力は1000アップする。


スカー「そして「SS」が戦闘で破壊され墓地へ送られた時、「ウィーカーズ・ハビタット」の効果発動」

スカー「デッキから「SS」モンスター1体を手札に加える。手札に加えるのは、2体目の「グラッジ」だ」

「本当に、しぶとい奴だ。バトルフェイズを終了し、そのままターンエンド」


先攻:スカー / 手札:1 / LP:2200
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
■…リバースカード
逆…SSS-逆襲の傷跡
■|□|□|□|逆
□|□|□|□| □

□|□|ガ| □ |□
□|□| □ |未|□
ガ…ガトリング・ドラゴン ATK/2600 DEF/1200 攻撃
未…未来融合-フューチャー・フュージョン ターン:1
後攻:スティーラー / 手札:0 / LP:7800


スカー「俺のターン、ドロー」

どうにか1ターンを耐えた物の、状況は依然として不利に近い。
スティーラーの場には再び「ガトリング・ドラゴン」が聳え、次のターンには「未来融合」によってもう1体現れる。

この男は強いと言わざるを得ない。
ギャンブル効果を成功させる運も、ドローの運も、それらのみならずデュエルセンスも、極めて高いと言える。
次のターン、生半可な状態で迎えてしまえば、今度こそ全てを剥ぎ取られてしまうに違いない。

サーチした「グラッジ」、ドローしたカード、墓地のカード。
これらの情報を擦り合わせ、次も耐え忍ぶか、このターンで決着を付けなければならない。少なくともその気概で挑まなければならない。
そして悲しい話だが、その末路は全て、スカーの運に懸かっていた。

「このデュエルは、全てが決まっている」。スティーラーの言葉が今になって思考に引っかかる。
スティーラーの豪運の前では、スカーの敗北は決定しているも同じだから、諦めろと言うのか。
それとも、運などと言う不確かなものは無いと言いたいのか。

スカー「……フッ」

不意に、スカーは可笑しくなった。
運だの何だの、無関係とまでは言わない。だが、それに囚われているのは馬鹿馬鹿しい。
決まっていようと不確定であろうと、手繰り寄せない限りにはその結末など分かりはしないのだ。

スカー「スタンバイフェイズからメインフェイズに移行し、「SS-グラッジ」を召喚!」

誰もいなくなったフィールドに隻腕の戦士が立つ。
残る左腕を軽く解すと、それを聳える機械龍へと構える。

スカー「「グラッジ」の召喚成功時に、ライフを払う効果を選んで発動」

スカー「ライフを1000払い、カードを1枚ドローし、手札を1枚捨てる」LP:2200→1200 捨てたカード→「SSS-逆襲の傷跡」

手札交換のための効果だが、スカーは迷わずドローしたカードをそのまま墓地へ送った。
これにより、元々ドローしていたカードの効果の発動条件を満たすのだ。

スカー「そして俺が「SS」モンスターの効果で手札を捨てた場合、手札の「ヴェンジェンス」を特殊召喚できる」

スカー「出ろ、2体目の「ヴェンジェンス」!」

「グラッジ」の隣りに炎が巻き起こり、その中から「ヴェンジェンス」が飛び出す。
先に立った戦士のように、雄叫びを上げて戦意を示す。

スカー「「ヴェンジェンス」が特殊召喚に成功した時に効果発動。ライフを払い、2枚ドロー!」LP:1200→200

スカー「……その後、手札から「SS」モンスター、「SS-ネメシス」を捨てる」

スカー「この力で貫き拓く……「ヴェンジェンス」に装備魔法「SSS-フレイム・スピア」を装備!」

なけなしのライフまで使い、手繰り寄せたそのカードをデュエルディスクに置く。
目の前に炎が現れ、棒状に伸びていくそれを、「ヴェンジェンス」は無造作に掴み取った。


「SSS-フレイム・スピア」 装備魔法
「SS」モンスターにのみ装備可能。
①:装備モンスターの攻撃力は500アップし、装備モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
②:1ターンに1度、装備モンスター以外の自分フィールドの「SS」モンスター1体をリリースし、以下の効果から1つを選んで発動できる。●デッキからカードを1枚ドローする。●自分のLPを1000回復する。


スカー「装備モンスターの攻撃力は500アップし、貫通効果を得る!」

アン「「ウィーカーズ・ハビタット」の効果と合わせて、「ヴェンジェンス」の攻撃力は2700!」

「この状況で「ガトリング・ドラゴン」の攻撃力を超えてきた、だと……」

スティーラーの鉄面皮が崩れた。明らかな優位であったにも関わらず逆転されれば、当然であるが。

スカー「バトルフェイズだ。「ヴェンジェンス」! 「ガトリング・ドラゴン」を攻撃しろ!」

指令を受け、「ヴェンジェンス」は炎の槍を携えて駆ける。
左手で懐からナイフを二つ取り出し、迎撃すべく回転を始めていた「ガトリング・ドラゴン」の左右の銃身目掛け投擲。
突き刺さったナイフが冷却を阻み、その間に残った頭部が火を吹く。

だが一つの直線運動で、正気の範疇ではない「ヴェンジェンス」の動きを捉えられるはずがない。
右に左に、低い姿勢で銃弾を躱す。遂に目の前に辿り着くと、跳躍。

半分に割れた仮面が隠さずに見せる狂気の怒り。

真下から一閃。「ガトリング・ドラゴン」の頭部に炎の槍を突き刺した。


「ガトリング・ドラゴン」破壊!


「クッ……!」LP:7800→7700

スカー「そしてダメージ計算終了時に「SSS-逆襲の傷跡」の二つ目の効果発動!」

スカー「「SS」モンスターが戦闘を行った場合、次の自分のターン終了時までそのモンスターの攻撃力を1000アップする! これで「ヴェンジェンス」の攻撃力は3700!」

スカー「そしてお前を守るモンスターは居ない! 「グラッジ」、ダイレクトアタックだ!」

砕け散った「ガトリング・ドラゴン」のヴィジョンから炎の槍を回収し、戻ってきた「ヴェンジェンス」と入れ替わりに「グラッジ」が飛び出す。
遮るものがなくなった今、その拳はスティーラーへと向かう。
逃げる暇も与えずに、その横っ面を殴り抜いた。

「ぐはっ!」LP:7700→6100

スティーラーは殴られた勢いで吹き飛ばされ、スティールライドへと強かに体を打ち付ける。
だがすぐに、ふらつきながらも立ち直り、スカーを睨みながら血反吐を吐き捨てた。

スカー「「グラッジ」のダメージ計算終了時に、「逆襲の傷跡」の効果で攻撃力1000アップ」

スカー「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に「フレイム・スピア」の効果発動。装備モンスター以外の俺のフィールドの「SS」モンスター1体をリリースし、1枚ドローするかライフを1000回復する」

スカー「俺は「グラッジ」をリリースし、1枚ドローする!」

「グラッジ」のヴィジョンが消え、代わりに炎が現れ、「フレイム・スピア」の穂先に吸い込まれた。
途端に火の粉が弾け、その一片がデッキトップへと落ち、淡く光る。
そのカードをドローしたスカーは、一瞥するとそのままデュエルディスクにセットした。

スカー「リバースカードを1枚セットし、ターンエンド」


先攻:スカー / 手札:0 / LP:200
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
■…リバースカード
逆…SSS-逆襲の傷跡
槍…SSS-フレイム・スピア 装備対象:SSS-ヴェンジェンス
執念…SSS-ヴェンジェンス ATK/3500(1800) DEF/1500(1300)攻撃
■|■| .槍 .|□|逆
□|□|執念|□| □

□|□|□| □|□
□|□|□|未|□
未…未来融合-フューチャー・フュージョン ターン:1
後攻:スティーラー / 手札:0 / LP:6100


「俺のターン、ドロー……」

「スタンバイフェイズに「未来融合」のカウントが一つ進み……二つ目の効果が発動する」

発動から2ターン目を迎え、「未来融合」のヴィジョンが傾き、逆さになる。

「発動時に対象とした融合モンスター、「ガトリング・ドラゴン」を融合召喚」

遠くどこからか「ガトリング・ドラゴン」の駆動音が轟く。
「未来融合」のヴィジョンが輝きを放ち、その中から機械の龍が四度目の見参を果たす。


「ガトリング・ドラゴン」融合召喚!


「「ガトリング・ドラゴン」の効果発動だ」

「ガトリング・ドラゴン」の効果は無差別破壊。コイントスで表が出た数に達するまで、敵味方を問わず破壊しなければならない。
スカー、スティーラー共にモンスターが1体ずつしかいない現状で使うのは、ヤケクソや暴挙にも等しい行動だ。
確率的に考えれば「ガトリング・ドラゴン」も巻き込まれるが、そうならなかった場合は一巻の終わりだ。

スカー「させるか! リバースカードオープン、通常罠「ブレイクスルー・スキル」!」

スカー「フィールドのモンスター1体の効果をターン終了時まで無効にする。対象にするのは「ガトリング・ドラゴン」!」


「ブレイクスルー・スキル」 通常罠
①:相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。
②:自分ターンに墓地のこのカードを除外し、相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。その相手の効果モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。


スカー「効果を無効にされたため、「ガトリング・ドラゴン」の効果は不発となる!」

「クッ……手札から2体目の「ツインバレル」を召喚する!」

呼び出された2体目の「ツインバレル・ドラゴン」は、撃鉄を鳴らして「ヴェンジェンス」を威嚇する。
その効果は既知であり、それもまた成功してしまえばスカーの負けは決まってしまう。

「「ツインバレル」が召喚に成功した時、「SS-ヴェンジェンス」を対象にして効果発動」

スカー「チェーンしてリバースカードオープン! 「ヴェンジェンス」を対象に通常罠「スキル・プリズナー」発動!」


「スキル・プリズナー」 通常罠
①:自分フィールドのカード1枚を対象として発動できる。このターン、そのカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする。
②:墓地のこのカードを除外し、自分フィールドのカード1枚を対象として発動できる。このターン、そのカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。


スカー「自分フィールドのカード1枚を対象とし、このターン、そのカードを対象とするモンスター効果を無効にする!」

スカー「「ツインバレル・ドラゴン」の効果は対象を取る効果、よって「スキル・プリズナー」によって無効化される!」

「ガトリング・ドラゴン」を中心として対象を取らない除去ばかりを繰り出すため、半ばブラフとしてずっと前に伏せたそのカード。
だがその素材モンスターや下位のモンスターは対象を取るものばかりで、いつかはと思っていたが、まさか本当に役に立つとは驚いた。

一方、二つの効果を防がれ、スティーラーの表情はどんどんと険しくなっていく。

「……ターンを終了する」

スカー「ターン終了時に、前のターンに適用された「逆襲の傷跡」の効果がなくなり、「ヴェンジェンス」の攻撃力は元に戻る」


先攻:スカー / 手札:0 / LP:200
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
槍…SSS-フレイム・スピア 装備対象:SSS-ヴェンジェンス
執念…SSS-ヴェンジェンス ATK/2500(1800) DEF/1500(1300)攻撃
□|□| .槍 .|□|逆
□|□|執念|□| □

□|双|ガ| □ |□
□| □ |□ |未|□
ガ…ガトリング・ドラゴン ATK/2600 DEF/1200 攻撃
双…ツインバレル・ドラゴン ATK/1700 DEF/200 攻撃
未…未来融合-フューチャー・フュージョン 対象:ガトリング・ドラゴン
後攻:スティーラー / 手札:0 / LP:6100


スカー「俺のターン、ドロー!」

ドローしたカードを見、攻めには使えないカードであると判断する。
ここでこそ更に追撃できるカードが欲しかったが、決して無駄なカードではない。

スカー「……バトルフェイズだ、「ヴェンジェンス」で「ツインバレル・ドラゴン」を攻撃!」

本当ならば「ガトリング・ドラゴン」を倒したいところだが、それができない以上は別の物を削るしかない。

「ヴェンジェンス」は獣の如き勢いで「ツインバレル・ドラゴン」に迫り、下から斬り上げるように槍を振る。
鉄の体を炎の熱で溶かし、滑らかに両断して伏せた。

「うおおっ……!」LP:6100→5300

スカー「ダメージ計算終了時に「逆襲の傷跡」の効果で、「ヴェンジェンス」の攻撃力が更に1000アップする!」

散った炎と砕けたヴィジョンの破壊を受け、苦鳴を漏らすスティーラー。
然程傷を負ったわけではないようだが、膝を衝いた。

「何故だ……」

ぽつりと、スティーラーは言った。

「何故抗える……果てのない戦いに、強大な相手に、奪われ続けて、それでも何故戦い続けられる?」

「お前の相手は俺だけでは済まない。『カオスクロス』はお前を追い回し、必ず全てを奪うぞ」

「それが分かっていながら、何故だ。その闘志の源はなんだ!」

デュエルを進行する以外に殆ど喋らなかったスティーラーが、余裕が無くなったのか、感情を露わにして饒舌に喋り始めた。
その問いは『カオスクロス』に属する者とは思えない、「相手を知ろうとする」ものだった。

だとしても答える義理は無いが……スカーはスティーラーを睨みながら、返す。

スカー「このデッキの一番上のカード……それをドローすれば『カオスクロス』を潰せるなら、いくらでもそうする」

スカー「ライフが尽きるまで……傷の、復讐を果たすまで……」

スカー「お前たちに解るものか」

スティーラーが目を見開いた。

スカー「リバースカードを1枚セットし、ターン終了だ」
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