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Scar / 5:略奪の調律 作:げっぱ
ウルフ「デュエルが開始したこの瞬間、デッキからフィールド魔法「ライディング・ワールド-トップスピード」を発動!」
スカー「…………」
アン「えっ?」
最初の手札の確認も儘ならないまま、予想外な宣言に、スカーは酷く眉間に皺を寄せ、アンは驚きの声を上げる。
当然だ。デュエルが開始した時に発動する効果など聞いた事がない。また、デッキから発動できるカードも同様に。
ウルフ「デュエル開始時に、デッキ・手札のこのカードを発動する事ができるのさ!」
ウルフ「今からここが俺のフィールドだァ!」
叫びウルフは、D・ホイールにセットされたデッキから、1枚のカードを抜き出す。そのカードを、フィールドゾーンにセットした。
その瞬間、装置を通して世界に変化が齎される。辺り一面の荒野は、整備されたサーキットのヴィジョンに書き換えられる。
一定の白線で二つに分けられたコース、そのど真ん中に、スカーとアンは放り出された。
「ライディング・ワールド-トップスピード」 フィールド
このカードはデュエル開始時に、自分のデッキ・手札から発動できる。「ライディング・ワールド-トップスピード」は1度のデュエルに1度しか発動できない。
①:このカードはフィールドを離れない。この効果は無効化されない。
②:このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、お互いにフィールド魔法カードを発動できない。
③:「Sp」魔法カード以外の魔法カードを発動する場合、自分用のスピードカウンターを2つ取り除かなければならない。
④:お互いのスタンバイフェイズ開始時に発動する。このカードにお互いの自分用の「スピードカウンター」を1つ乗せる(お互いに最大12個まで)。
⑤:このカードに乗っている自分用の「スピードカウンター」を任意の数だけ取り除いて発動できる。取り除いた数につき、以下の効果を適用する。
●2個:自分フィールドのモンスター1体を選ぶ。そのモンスターの攻撃力は500アップする。この効果は1ターンに1度だけ適用できる。
●5個:デッキから「Sp(スピードスペル)」魔法カードを1枚手札に加える。
●7個:自分の墓地のモンスター1体を選んで手札に加える。
●10個:フィールドのカードを1枚選んで破壊する。
アン「これが、フィールド魔法」
すっかり変わってしまった光景に、アンは恐怖を感じ、自然とスカーの方へとすり寄る。
スカーも自然と一歩下がり、いつでもアンを守れるように体勢を変える。
ウルフ「コイツはチャンスカードだ。これを上手く使ってせいぜい抵抗しろ。できなければ、死だ!」
D・ホイールの疾走を続けるウルフの挑発により、いよいよ以ってデュエルは開始された。
ウルフ「スタンバイフェイズ開始時に、「ライディング・ワールド-トップスピード」の効果発動!」
ウルフ「このカードにお互いの「スピードカウンター」を1つずつ乗せる!」
先攻:ウルフ / 手札:5 / LP:8000 ●←スピードカウンター
フィールド…ライディング・ワールド-トップスピード
□|□|□|□|□
□|□|□|□|□
□|□|□|□|□
□|□|□|□|□
後攻:スカー / 手札:5 / LP:8000 ●
スカーのデュエルディスクに、そしてウルフのD・ホイールのモニターに、スピードカウンターの存在が表示される。
ウルフ「さて、ラッキーだぜ、俺の先攻だ。俺はモンスターを1体セット!」
ウルフはドローした5枚の手札を、ハンドストッカーと呼ばれる手札置き場にセットする。
カードを確認し、その中から1枚を手に取り、モンスターゾーンに伏せた。その一連の流れを、右手のみで行う。
D・ホイールはデュエルモードを起動する事で、コンピューターに任せた自動走行に移行する。
両手を離さない限りには、バイクに乗りながらデュエルができる設計となっているのだ。
また、特殊装置によって発生している力場によって、カードが吹き飛ぶ心配も無い。
ウルフ「そしてリバースカードを1枚伏せて、ターンを終了する!」
先攻:ウルフ / 手札:3 / LP:8000 ●
フィールド…ライディング・ワールド-トップスピード
■…リバースカード
◆…リバースモンスター
□|□| ■|□|□
□|□|◆|□|□
□|□|□|□|□
□|□|□|□|□
後攻:スカー / 手札:5 / LP:8000 ●
スカー「俺のターン、ドロー」
ドローしたカード及び、最初の手札を見比べ、デュエルディスクでウルフが発動したフィールド魔法の効果を確認し、スカーは辟易する。
お互いに適用される効果ではあるが、つまりそれは、事情を把握しない相手に強制的に自分のルールを押し付ける事に他ならない。
その効果の利用はスカーも許されているが、そんな事は使用者であるウルフも織り込み済みだろう。
まず、二つ目の「お互いにフィールド魔法を発動できない」永続効果。
これにより、スカーの手札に既に存在する「SSS-ウィーカーズ・ハビタット」が無意味なカードとなってしまった。
開始時点から貴重な手札補充と戦力増強の手段を奪われている。手札を何よりも必要とする「SS」にとっては厳しい縛りだ。
そして三つ目の「「Sp」魔法カード以外の魔法カードを発動する場合、スピードカウンターを2つ取り除かなければならない」永続効果。
仕様上、スピードカウンターは往復で2つ溜まり、即ち殆ど1ターンに1度しか魔法カードを発動できない計算となる。
それは相手も同じだが、このようなカードを使用する以上は、それなりにデッキを整えている事だろう。
不愉快だ。
スカー「スタンバイフェイズだ」
ウルフ「おっと、スタンバイフェイズ開始時に「ライディング・ワールド」に、お互いのスピードカウンターが1つずつ乗るぜ!」
フェイズ移行と同時に、割り込むようにそれぞれのスピードカウンターが加算される。
これでスカーは「スピードカウンターを2つ取り除いて自分のモンスター1体の攻撃力を500アップする」効果が使用できるようになった。
だが、デュエルは序盤で、お互いに探り合う状況だ。特にウルフは手堅い様子見の構えで待ち受けている。
全力で相手するには余りにも危険すぎた。
スカー「メインフェイズに移行し、「SS-グラッジ」を召喚」
手始めに召喚したのは、全身に傷を負い、特に右腕を失っている、仮面を着けた戦士。
残された左腕を構え、仮面の奥から認識した敵を睨み付ける。
「SS-グラッジ」 炎 ☆4 ATK/1200 DEF/1100
戦士族/効果
①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に、以下の効果から1つを選んで発動する。
●手札を1枚捨てる。墓地からレベル4「SS」モンスター1体を選んで特殊召喚する。このターン、自分はX召喚を行えない。
●1000LPを払う。デッキから1枚ドローし、手札を1枚捨てる。
スカー「召喚に成功した「SS-グラッジ」の効果を発動。俺は二つの効果の内、ライフを1000払ってドローする効果を選ぶ」
ウルフ「ライフを払って無意味な手札交換か!」
スカーと同じく、D・ホイールのモニターでモンスター効果を確認したのだろう。
妨害は、無い。
スカー「その効果で俺はライフを1000払い、1枚ドロー」LP:8000→7000
スカー「そして、手札を1枚捨てる」捨てたカード→「SSS-ウィーカーズ・ハビタット」
スカー「俺が「SS」モンスターの効果で手札を捨てた場合、手札からこのモンスターを特殊召喚できる」
スカー「「SS-ヴェンジェンス」!」
スカーがモンスターゾーンにカードを配置すると同時に、炎のヴィジョンが舞い上がる。それを初めて見たアンは小さく悲鳴を上げた。
炎から身を乗り出すようにして現れる、半分に割れた仮面を着けた戦士。
傷だらけの体の中で特に目立つのは、仮面が割れている事によって見えた、ケロイド状の顔面。
その表情は悲しみに歪み、瞳は怒りを湛え、咆哮を撒き散らした。
「SS-ヴェンジェンス」 炎 ☆6 ATK/1800 DEF/1300
戦士族/効果
①:自分が「SS」モンスターの効果で手札を捨てた場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
②:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選んで発動する。
●手札を1枚捨てる。相手フィールドの魔法・罠カードを2枚まで選んで破壊する。
●1000LPを払う。デッキから2枚ドローし、手札から「SS」モンスター1体を捨てるか、手札を2枚捨てる。
ウルフ「半上級を特殊召喚するか……やるじゃねえか!」
だが、そうなってもウルフの余裕は崩れない。スカーも、表情は崩さない。
スカー「特殊召喚に成功した「ヴェンジェンス」の二つの効果の内、ライフを1000払う効果を発動する」
スカー「デッキからカードを2枚ドロー、その後手札から「SS」モンスター1体を捨てるか、手札を2枚捨てる」LP:7000→6000
スカー「俺は「SS」モンスター、「SS-アヴェンジャー」を捨てる」捨てたカード→「SS-アヴェンジャー」
ウルフ「手札交換ばかりしてよ、良いカードは引けたかよ!」
ウルフの挑発にも耳を貸さず、スカーは手札を見つめ、少しばかり思案する。
スカー「……バトルフェイズ。「SS-ヴェンジェンス」で、セットモンスターを攻撃」
割れた仮面の戦士は鬨のような絶叫を轟かせ、遥か遠くを激走するウルフのセットモンスターを追走する。
サーキットのコースを踏み砕き、「ヴェンジェンス」は跳躍。
瞬間、隠しナイフを引き抜き、その勢いのままに、セットモンスターのヴィジョンを刺し貫いた。
戦闘によってリバースしたモンスターは、金属質な金色の「表面」を持つ異質な鷲。
その見た目とは裏腹に、すんなりとナイフによって貫かれたそれ。
その個所は、まるで液体のようにぶきゅりと膨れ、体全体は液体のような流動を繰り返して震え、そして爆ぜて四散した。
セットモンスター「グレイドル・イーグル」撃破!
しかし、スカーはそのヴィジョンに違和感を持った。
普通ならば、ガラスが砕けるように「割れる」。そしてその破片は、デュエリストを容赦なく襲う。
だのに、今し方破壊したモンスターはそんな事も無く、特殊なヴィジョンを発生させた。
スカーのセンスが、妙に胸騒ぎを与えた。
ウルフ「ククク……今、破壊したな?」
モンスターを破壊されたと言うのに、突如、ウルフは嬉しそうに笑みをこぼした。
その不気味な様相もさる事ながら、先ほどの違和感も合わせて、スカーは怪訝そうに睨み付ける。
ウルフ「今、俺のモンスターを、「戦闘によって破壊した」なぁ!?」
その瞬間、四散したモンスターのヴィジョンが、まるで逆再生が如く集合を始め……。
なんとそれだけではなく、攻撃した「ヴェンジェンス」に纏わりついたのだ。
ウルフ「戦闘によって破壊された、「グレイドル・イーグル」の効果発動!」
ウルフ「このカードが戦闘及びモンスター効果によって破壊され墓地へ送られた場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる!」
ウルフ「このカードを装備カードとして、そのモンスターに装備する!」
纏わりつく「グレイドル・イーグル」の残骸を振り払おうと、「ヴェンジェンス」は必死にもがく。
しかしそれは液体の分際で離れないばかりか、どんどんと「ヴェンジェンス」の体を飲み込み、ついには覆ってしまう。
見えない「ヴェンジェンス」は纏わりついたそれを剥がすような仕草をするが、その動きもどんどんと無くなっていき、人の姿を残したまま沈黙。
動かなくなった「ヴェンジェンス」に纏わりついた液体は、なんと「ヴェンジェンス」の体に「染み込み」始めた。
液体が失せ、再び姿が見えるようになった「ヴェンジェンス」であるが……。
その姿は、戦闘でリバースした際に一瞬だけ見えた「グレイドル・イーグル」のように金属質な肌となり、また怒りを宿した眼は、意識を感じ取れない、光を反射する黒い球体となっていた。
背負った悲しみが失われるが如く、特徴と言えたケロイド状の肌は、凹凸の無い無機質な物へと変わり果てていた。
「SS-ヴェンジェンス」コントロール転移!
アン「「ヴェンジェンス」のコントロールが……どうして」
ウルフ「教えてやるよ、愛しのベビーちゃん! 「グレイドル・イーグル」が自身の効果で装備されている時、その装備モンスターのコントロールを得るのさ!」
「グレイドル・イーグル」 水 ☆3 ATK/1500 DEF/500
水族/効果
①:自分のモンスターゾーンのこのカードが戦闘またはモンスターの効果で破壊され墓地へ送られた場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。このカードを装備カード扱いとしてその相手モンスターに装備する。
②:このカードの効果でこのカードが装備されている場合、装備モンスターのコントロールを得る。このカードがフィールドから離れた時に装備モンスターは破壊される。
コントロールを奪う。その強さは、奇しくも同じ効果を持つカードを使用するに至ったアンもよく知っている事だった。
特にこの状況の場合は、相手の一番強いモンスターを奪う事で、その後の攻撃を防ぐ意味もある。
またコントロールを奪ったモンスターには何の制限も敷かれず、その点だけで言えば「超怪人ヴラド」を遥かに上回る。
スカー「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2」
しかしスカーは何事も無かったかのように、フェイズを移行する。
アン「どうするの、スカー」
スカー「どうもしない」
まるで諦めたかのような雑な返答だが、その表情に投げやりな様子は一切見られない。
スカーは迷わず、手札から一枚のカードを発動した。
スカー「俺のスピードカウンターを2つ取り除き、通常魔法「SSS-ウェイク・アップ」発動」
その瞬間、デュエルディスクに表示されたスカーのスピードカウンターが消えた。
スカー「俺が「SS」モンスターの効果で手札を捨て、LPを払ったターンにのみ発動できる」
スカー「「SS-グラッジ」「SS-ヴェンジェンス」両方の効果で俺はLPを払い、手札を捨てた。条件は満たしている」
スカー「よって俺は墓地から「SS」モンスター1体を、「SS-アヴェンジャー」を特殊召喚する!」
スカー「無念を背負い、起ち上がれ! 「SS-アヴェンジャー」!」
スカーの呼び声に伴い、またもや真っ赤な炎が巻き起こる。
その中から傷だらけの腕が伸び、這い出すのは、やはりして傷だらけの戦士。
その体が完全に炎から出ると同時に、炎はそれに吸収され、その瞳は真っ赤に変わる。
怒りの体現。そうとしか呼べない、復讐の戦士が起つ。
「SS-アヴェンジャー」 炎 ☆8 ATK/1900 DEF/1900
戦士族/効果
このカードは「SS」カードの効果でのみ特殊召喚できる。
①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選んで発動する。
●手札を1枚捨てる。相手フィールドのカード1枚を選んで破壊し、自分のライフを1000回復する。
●ライフを1000払う。デッキから1枚ドローする。そのカードが「SS」モンスターだった場合、そのカードを特殊召喚できる。
●手札を1枚捨て、ライフを1000払う。相手フィールドの表側表示モンスターの効果を無効にし、攻撃力・守備力を0にする。その後、このカードの攻撃力・守備力はフィールドのカードの数×300アップする。
スカー「そしてカードを1枚ドローし、ライフを1000回復する」LP:6000→7000
ウルフ「ヒュー。半上級の次は最上級かよ、えらく大盤振る舞いじゃねえか」
そう言いながら、スカーの不機嫌そうな鉄面皮と同じく、ウルフの飄々とした態度は崩れない。
所詮は攻撃力1900のモンスターであり、バトルフェイズが終了した今、戦闘破壊はされないと考えているのだろう。
スカー「特殊召喚された「SS-アヴェンジャー」の三つの効果の内、一つ目の効果を選んで発動する」
スカー「手札を1枚捨て、相手フィールドのカードを1枚選んで破壊する」捨てたカード→「SSS-カウンター・ストライク」
スカー「破壊するのは、お前のリバースカードだ」
スカー「やれ、「アヴェンジャー」! エナジーイーター!」
スカーが破壊対象を選択すると、「アヴェンジャー」のヴィジョンは左手を広げ、その手に炎を生み出す。
大振りなモーションで投擲すれば、それはまるで槍のような棒状となり、真っ直ぐにリバースカードを貫いた。
「グレイドル・スプリット」破壊!
そして破壊されたカードのヴィジョンが、割れたガラスのようになって、今度こそ使用者であるウルフに降りかかる……とは、ならなかった。
ウルフ「おっと、危ねえ!」
ウルフはハンドルを握り直し、余裕を持った動きで降りかかる破片を容易く躱していく。
また、ヴィジョンの欠片の中には、そもそもとしてD・ホイールのスピードに追い付けなかった物が多い。
これこそが、ハンターがD・ホイールと言う「足」を使う理由だ。
追跡し、逃走を許さず、降りかかるヴィジョンを回避して肉体的なダメージを防ぐ。
デュエルに勝利しようが敗北しようが、その結果など関係ない。無傷でデュエルを終え、逆に消耗した相手を、最後は狩るだけだ。
ウルフ「惜しい惜しい! もう少しで当たりそうだったぜぇー!」
恐らくはこのウルフも、そうして何人ものデュエリストたちを狩ったのだろう。
今までの経験からなる自身に満ちた挑発は、しかしてウルフが、ヴィジョンによる負傷は無いと言わしめているようでもある。
スカー「……そしてカードを破壊した事で、俺はライフを1000回復」LP:7000→8000
スカー「更に「SS」モンスターの効果で手札から捨てられた「SSS-カウンター・ストライク」の効果発動」
「SSS-カウンター・ストライク」 速攻魔法
①:自分フィールドの「SS」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで1000アップする。
①:このカードが「SS」モンスターの効果で手札から捨てられた場合に発動できる。デッキから1枚ドローし、自分のLPを1000回復する。
①:相手モンスターの攻撃宣言時に墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分フィールドの「SS」モンスターは戦闘では破壊されない。
スカー「デッキからカードを1枚ドローし、ライフを1000回復する」LP:8000→9000
「ライディング・ワールド」がスピードカウンターで制限するのは魔法カードの「発動」であり、効果の発動ではない事を、スカーは見抜いていた。
余裕を見せるウルフも、これには口笛を軽く鳴らして驚く。
ウルフ「やるじゃあねぇか。その穴に気付くとは、できるようだ」
スカー「カードを3枚セットして、ターンを終了する」
先攻:ウルフ / 手札:3 / LP:8000 ●●
フィールド…ライディング・ワールド-トップスピード
鷲…グレイドル・イーグル(装備) 対象:SS-ヴェンジェンス
執念…SS-ヴェンジェンス ATK/1800 DEF/1300 攻撃
□|□| 鷲 |□|□
□|□|執念|□|□
□|□|恨|復讐|□
■|■| □ | □ |■
恨…SS-グラッジ ATK/1200 DEF/1100 攻撃
復讐…SS-アヴェンジャー ATK/1900 DEF/1900 攻撃
■…リバースカード
後攻:スカー / 手札:2 / LP:9000
スカーがターンを終了する頃、周回を終えたウルフのD・ホイールが、再びスカーとアンに迫っていた。
正面でそれを迎える二人は、無意識の内に息を呑み、体を強張らせる。
ウルフ「人の褒め言葉は素直に受け取りな! 俺のターン、ドロー!」
余計な一言と共にドロー。同時に、ウルフとスカーが擦れ違う。
先ほどよりもスピードが乗った疾走が、またしてもスカーとアンの衣類を風で煽る。
ウルフ「スタンバイフェイズに移行し、その開始時に「ライディング・ワールド」にカウンターが乗る!」
これで「ライディング・ワールド-トップスピード」に乗ったウルフのスピードカウンターは、3つ。
対してスカーは魔法カードを発動してしまった為に1つ。
ウルフ「そしてメインフェイズ。ここらで俺も、手札交換をさせてもらおうか!」
ウルフ「フィールドに自分用のスピードカウンターが2つ以上存在する場合、このカードを発動できる!」
ウルフ「通常魔法「Sp-エンジェル・バトン」!」
「Sp-エンジェル・バトン」 通常魔法
このカードは自分用のスピードカウンターが2つ以上の場合にのみ発動できる。
①:デッキからカードを2枚ドローする。その後、手札を1枚墓地へ送る。
ウルフ「デッキからカードを2枚ドローし、手札を1枚墓地へ送る!」捨てたカード→「グレイドル・スライム」
ウルフが使用したカード。「ライディング・ワールド-トップスピード」に記された謎のカード群「Sp」の正体が明らかとなった。
その限りではないだろうが、大体はスピードカウンターを参照し発動条件を満たすタイプ。或いはそのスピードカウンターに関する効果を持つカードだ。
『カオスクロス』が開発し、試験的に投入した新たなカードだろう。
彼の組織は度々、そのように戦力の増強を図る。よって見知らぬカードを使われたところで、今更驚く事でもなかった。
或いは、『カオスクロス』ですら究明できない「奇跡」の存在をスカーが知るからこそか。
とは言え、これでウルフは手札を入れ替えた。その本人の顔には、笑みが浮かんでいる。
ウルフ「ほーう、良いカードを引いたぜ……ここは公平に、スピードカウンターを揃えてやる!」
ウルフ「こちらもスピードカウンターを2つ取り除き、手札から永続魔法「グレイドル・インパクト」を発動!」
「グレイドル・インパクト」 永続魔法
「グレイドル・インパクト」の①②の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
①:このカード以外の自分フィールドの「グレイドル」カード1枚と相手フィールドのカード1枚を対象としてこの効果を発動できる。そのカードを破壊する。
②:自分エンドフェイズにこの効果を発動できる。デッキから「グレイドル」カード1枚を手札に加える。
ウルフ「このカードは二つの効果を持つ。その中の一つ目の効果を発動だ!」
ウルフ「俺のフィールドのこのカード以外の「グレイドル」カードと相手のカードを1枚ずつ対象とし、破壊する!」
ウルフ「さあて俺のフィールドには……おっと、装備カード扱いの「グレイドル・イーグル」がいるなァ?」
わざとらしく、その存在を見せびらかす。鬱陶しい事この上ないが、確かにこのデュエルにおいて重要な事だ。
「グレイドル・イーグル」で相手のモンスターを奪い追撃ないし次のターンへの準備を阻害し、デュエルの進行を遅らせる。
それにより「ライディング・ワールド-トップスピード」にスピードカウンターが溜まりやすくなる。
モンスターを奪い過ぎた為に滞った場を「グレイドル・インパクト」で消化し、ついでに除去を行う。
実に噛み合ったデッキ構築。こちらは一方的に多くの枷を負うだけに、優位性は語るまでも無い。
ウルフ「当然ながら装備カード扱いとなっている「グレイドル・イーグル」も「グレイドル」カードとして扱われる!」
ウルフ「よって「グレイドル・イーグル」と、お前の場の、真ん中のリバースカードを対象とし、破壊!」
「グレイドル・イーグル」「SSS-逆襲の傷跡」破壊!
ウルフの宣言により、対象となったリバースカードのヴィジョンが破壊される。
その破片は、当然ながら衝撃に乗ってスカーとアンに襲い掛かり……。
アン「ひっ……」
悲鳴を上げても逃げる事は出来ず、アンに出来る事と言えば目を瞑って体を縮めるだけ。
最初のデュエルで味わった破壊の痛みを思い出し、それがいつ来るか、どれほどの痛みか、暗い思考の中で待つ。
だが、訪れたのは、何かが割れる音。
恐る恐る目を開けてみれば、遮るように立ち塞がるスカーの背中。デュエルディスクを正面に構える右腕と、振り抜いたような左腕。
スカーは逃げも恐れもせず、自分の全身を以ってヴィジョンの破壊からアンを庇い、自分にとって致命傷足り得るサイズの破片は腕で弾いて砕いたのだ。
だがそれでも、細かい破片がスカーの体を傷付ける。ぼろのような衣類に血が滲む。
アン「あ、ああ……スカー……!」
スカー「大丈夫か」
堪えるように息を吐き、何でもないようにアンに尋ねる。
アンは頷くしかできず、それを見たスカーは「そうか」と一言だけ言い、遠いウルフに視線を戻した。
ウルフ「健気な事だなあ! だがありがたい。俺だってできれば綺麗なままの方がいいからな!」
ウルフ「精々守ってくれよ、俺の為に! 「グレイドル・イーグル」がフィールドを離れた事により、装備モンスターである「SS-ヴェンジェンス」も破壊される!」
遅れて、「ヴェンジェンス」の肉体のヴィジョンは、まるで液体が如く流れ溶けて消えた。
「SS-ヴェンジェンス」破壊!
ウルフ「お次はコイツだ。「グレイドル・コブラ」を召喚!」
召喚されたモンスターは、太い銅を持つ紫色のコブラのモンスター。
その鱗はありながら、まるで一本の金属から模様を拵えたようにも見える。
何より異質なのは、地面に接している腹の部分が、見た目の金属質と異なり液体のように膨れて蠢く事か。
その名を冠する通り、能力共々「グレイドル・イーグル」と同じ性質であるようだ。
「グレイドル・コブラ」 水 ☆3 ATK/1000 DEF/1000
水族/効果
①:自分のモンスターゾーンのこのカードが戦闘または罠カードの効果で破壊され墓地へ送られた場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。このカードを装備カード扱いとしてその相手モンスターに装備する。
②:このカードの効果でこのカードが装備されている場合、装備モンスターのコントロールを得る。このカードがフィールドから離れた時に装備モンスターは破壊される。
ウルフ「バトルフェイズ! 「グレイドル・コブラ」で「SS-グリーフ」に攻撃!」
アン「自分から攻撃を」
言いながらもアンは気付いていた。戦闘でさえ破壊されればそれで良いのだから、相手に破壊されようが自分から突撃をしようが関係ないのだ。
「グレイドル・コブラ」は素早く地面を這い、攻撃対象である「グラッジ」に迫る。
両者の間合いは必殺となり、先手を取ったのは「グレイドル・コブラ」。
一瞬の溜めの後、全身のバネを使って液体を撒き散らしながら低い軌道で跳んだ。
「グラッジ」は左腕を振り被り、咆哮を轟かせ、その強襲を正面から迎え撃った。
大きく開いた口に、鋭い牙が覗く。「グラッジ」はその口の中に、恐れる事無く拳を叩き込む。
交差の結果、「グラッジ」の拳は「グレイドル・コブラ」の牙の全てを叩き折り、その脳天を貫いていた。
それだけでは終わらず、気色の悪い鳴き声を上げる「グレイドル・コブラ」のヴィジョンから素早く腕を引き抜き、今度は上から、その脳天を叩く。
頭部が拉げた「グレイドル・コブラ」のヴィジョンは、「グレイドル・イーグル」と同じように液体のように爆ぜて周囲に散った。
「グレイドル・コブラ」撃退!
ウルフ「当然ながら俺も戦闘ダメージを受けるが、戦闘で破壊された「グレイドル・コブラ」の効果発動!」LP:8000→7800
ウルフ「相手フィールドのモンスター1体を対象として、そのモンスターにこのカードを装備させる!」
ウルフ「対象は「SS-アヴェンジャー」!」
「グレイドル・コブラ」の残骸のヴィジョンは、またしても集合を始める。その対象は「アヴェンジャー」。
回避も儘ならず、瞬く間に「アヴェンジャー」は支配の液体に捕らわれる。もがけども暴れども、それが離れる事は決してない。
スカー「「アヴェンジャー」……」
スカーに、決定したコントロール奪取を止める手段は無い。
「アヴェンジャー」の動きはやがてなくなり、纏わりつく液体は、その体に染み込むように消える。
現れるのは、体中の傷を失い、滑らかにして金属質な表面を得た像のような「アヴェンジャー」。
「SS-アヴェンジャー」コントロール転移!
ウルフ「必要経費とは言え、受けたダメージは返してやる! コントロールを得た「SS-アヴェンジャー」で「SS-グラッジ」を攻撃だ!」
コントロールを奪われた「アヴェンジャー」の黒い球のような瞳に、驚く「グラッジ」が映る。
狙いを定めた「アヴェンジャー」の行動は早かった。左手に炎を宿す。
それがまともな形を取る前に、その腕は、仕返しとばかりに「グラッジ」の腹を貫いた。
貫通した「アヴェンジャー」の腕は、「グレイドル・コブラ」の頭部をしていた。
スカー「くっ……」LP:9000→8300
ウルフ「ヒャハハ! バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2! リバースカードを2枚セットして、ターンエンド!」
先攻:ウルフ / 手札:0 / LP:7800 ●
フィールド…ライディング・ワールド-トップスピード
■…リバースカード
イ…グレイドル・インパクト
蛇…グレイドル・コブラ(装備) 対象:SS-アヴェンジャー
復讐…SS-アヴェンジャー ATK/1900 DEF/1900 攻撃
□|■| イ |蛇|■
□|□|復讐| □ |□
□|□|□|□|□
■|□|□|□|■
■…リバースカード
後攻:スカー / 手札:2 / LP:8300 ●
スカー「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズ」
「ライディング・ワールド-トップスピード」に、互いのスピードカウンターが乗る。
スカー「メインフェイズに「SS-ヘイト」を召喚」
現れたヴィジョンは、杖を衝いた小柄で傷だらけの戦士。その右脚は無く、現れるなりその場に座り込んでしまう。
だがマスクから窺える眼は、裏切ってしまった復讐の同胞を強く睨み付けていた。
「SS-ヘイト」 炎 ☆4 ATK/1000 DEF/1200
戦士族/効果
①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に、以下の効果から1つを選んで発動する。この効果を発動するターンに、自分は「SS」カードの効果しか発動できない。
●手札を1枚捨て、相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊する。
●1000LPを払う。自分の墓地から「SS」モンスターを2体選んで手札に加える。
②:このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから1枚ドローする。
スカー「「SS-ヘイト」が召喚に成功した時、二つの効果から一つを選んで発動する」
スカー「俺はライフを1000払い、墓地から「SS」モンスター2体を選んで手札に加える効果を選ぶ」
スカー「手札に加えるのは、「SS-グラッジ」と「SS-ヴェンジェンス」」LP:8300→7300
ウルフ「チッ、手札を補充したか! だが通常召喚を行った今、攻撃力1000のモンスター1体でどうするのかねえ!」
ウルフ「また「ヴェンジェンス」を特殊召喚するか? 特殊召喚するためのカードはあるのかなァー!?」
ウルフの煽りも、二人にとっては鬱陶しい他には滑稽でしかない。
アンは、何か策があるからこそスカーがこのような行動を取るのだと考えた。
デュエルしている本人であるスカーは、言うに及ばず。反撃の手段は、一つの不安を除いて、頭の中にあるにはある。
とりあえず、そのルートを辿る。
スカー「そして俺が「SS」モンスターの効果でライフを払った場合、このカードを手札から特殊召喚できる」
スカー「「SS-ネメシス」!」
舞い上がる炎のヴィジョンから、力強く飛び出す何者か。
仮面を着けた戦士。傷だらけの戦士。炎の翼が生えた戦士。
それは火の粉を散らしながら一度だけ翼を羽ばたかせ、重々しく着地した。
「SS-ネメシス」 炎 ☆6 ATK/1900 DEF/1500
戦士族/効果
①:自分が「SS」モンスターの効果でLPを払った場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
②:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選んで発動する。
●手札を1枚捨てる。デッキから「SS」モンスター1体を選んで特殊召喚する。
●LPを1000払う。このターン、このカードは1度のバトルフェイズに2回攻撃できる。
ウルフ「ほうほう、もう一体の半上級モンスターか!」
スカー「「ネメシス」の特殊召喚成功時、手札を1枚捨ててデッキから「SS」モンスター1体を特殊召喚する効果を選んで発動!」捨てたカード→「SS-ヴェンジェンス」
スカー「来い、「SS-ヴィンディクト」!」
「ネメシス」の燃え盛る右翼が大きく膨らむ。
それが本人と同じ程となった時、その中から、傷だらけの仮面に傷だらけの鎧、そして傷だらけの剣が飛び出す。
それらを身に着けるのは小柄な戦士。剣を振り回し、纏わりつく火の粉を払う。
「SS‐ヴィンディクト」 炎 ☆7 ATK/1500 DEF/1700
戦士族/特殊召喚/効果
このカードは通常召喚できない。このカードは「SS」カードの効果でのみ特殊召喚できる。「SS-ヴィンディクト」の①の効果は1ターンに1度しか発動できない。
①:自分フィールドに「SS」モンスターが2体以上存在する場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
②:このカードが特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選んで発動する。
●手札を1枚捨てる。自分フィールドの「SS」モンスター1体と相手フィールドのカード1枚を選んで手札に戻す。
●1000LPを払う。このカードを破壊し、自分の墓地から「SS‐ヴィンディクト」以外の「SS」モンスター1体を選んで特殊召喚する。
③:フィールドから墓地へ送られたこのカードが墓地に存在する自分のスタンバイフェイズ開始時に1度だけ発動できる。手札を1枚捨て、ライフを1000払う。このカードを墓地から特殊召喚する。
スカー「特殊召喚した「ヴィンディクト」の二つの効果の内、ライフを1000払い、自身を破壊して、墓地の「ヴィンディクト」以外の「SS」モンスター1体を特殊召喚する効果を選んで発動する」
効果を発動した瞬間、「ヴィンディクト」の体が突如激しく燃え盛る。
炎に包まれながらも「ヴィンディクト」は声も上げず、その姿が見えなくなるまで、ただ敵を睨み付けていた。
スカー「仲間の想いを継いで甦れ、「SS-ヴェンジェンス」!」LP:7300→6300
「ヴィンディクト」のシルエットが消え、代わりに、別のシルエットが現れる。
ゆっくりと炎から現れ出でたのは、復讐の意思を取り戻した「ヴェンジェンス」であった。
感覚を確かめるようにケロイドの顔面を指でなぞり、それから強く、咆哮を上げた。
「SS-ヴェンジェンス」復活!
ウルフ「特殊召喚に成功したって事は……!」
スカー「当然、効果を発動する。二つの効果の内、手札を1枚捨てて相手フィールドの魔法・罠カードを2枚まで選んで破壊する」
スカー「破壊するのは「グレイドル・インパクト」と、装備カード扱いの「グレイドル・コブラ」だ」
スカー「「ヴェンジェンス」、行け!」
「ヴェンジェンス」は素早く二本の隠しナイフを引き抜き、指定された破壊対象のヴィジョンそれぞれに向かって投擲する。
それは二手に分かれ、方やカードのヴィジョンの中央を射止め、そこを中心として粉々に打ち砕く。
方や先は「アヴェンジャー」を支配してその体内に潜む「グレイドル・コブラ」。目に見えないヴィジョンの存在は、逆に迷いを取り払った。
放たれたナイフは「アヴェンジャー」の胸を深々と刺し貫き、意思を奪われているとは言え、流石に苦鳴が漏れた。
急所を攻撃されたからか、「アヴェンジャー」のヴィジョンは溶けるように崩れ、そのまま消えてしまった。
「グレイドル・コブラ」「グレイドル・インパクト」「SS-アヴェンジャー」破壊!
ウルフ「おっとぉ! まさか、「グレイドル・インパクト」が1ターンで破壊されちまうとはな!」
破壊されて砕けたヴィジョンを軽々と回避しながら、また表情の余裕も崩れない。
ウルフは言うが、スカーにとって不安は残る。破壊できなかった2枚のリバースカードが気になるのだ。
しかし「グレイドル・インパクト」は残せば毎ターンの除去かサーチを許してしまい、「グレイドル・コブラ」を残せば奪われた「アヴェンジャー」も残る。
後者の場合は「ネメシス」と相討ちが狙えたが、コントロールを奪う事に長けたデッキを相手に、自分の場のモンスターを減らすのは得策ではない。
ライフを多く使う「SS」にとっては、少しでも受けるダメージは減らしたかった。
現状の手札では、これ以上の展開ができない。スカーは割り切り、バトルフェイズに挑んだ。
スカー「バトルフェイズだ。「SS-ヘイト」でダイレクトアタック」
「ヘイト」は片足ながらも素早く起ち上がり、杖を巧みに使って攻撃対象となったウルフに切迫する。
ウルフ「ククッ……ダイレクトアタックか。通すわけにはいかねえなあ!」
ウルフ「リバースカード、永続罠「グレイドル・パラサイト」を発動!」
「グレイドル・パラサイト」 永続罠
「グレイドル・パラサイト」の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:相手モンスターの直接攻撃宣言時にこの効果を発動できる。自分フィールドにモンスターが存在しない場合、デッキから「グレイドル」モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。
②:自分の「グレイドル」モンスターの直接攻撃宣言時に、相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。相手フィールドにモンスターが存在しない場合、そのモンスターを相手フィールドに特殊召喚する。
やはり、と言いたげに、スカーは顔を歪めた。
警戒すべきリバースカードを無視した報いではあるが、状況からしてそうせざるを得なかったと言うのもある。
そしてその状況にスカーを追い込んだ事からして、ウルフの、下衆ながらもデュエリストとしての実力が窺えた。
ウルフ「がっかりするのは早いぜ! このカードは、相手モンスターの攻撃宣言時に自分フィールドにモンスターが存在しない場合、デッキから「グレイドル」モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚できる!」
ウルフ「ありがたい事に俺のフィールドの邪魔なモンスターは持ち主様が片付けてくれたんでな……よってデッキから「グレイドル・アリゲーター」を特殊召喚!」
表になったカードのヴィジョンの前に、不気味な液体が浮かんで現れる。
行く手を遮るようにして出現したそれを前に、「ヘイト」は思わずその場に留まり様子を見る。
それは激しく蠢き、ワニのようなモンスターの姿に変わった。
ただし先に出た二種の「グレイドル」と同じく、緑色の金属質の表面を持つ、生命然としないデザインだ。
特にその手足は、膨れるような流動を繰り返し、時折噴き出すように表面が突起し、不気味で仕方が無い。
「グレイドル・アリゲーター」 水 ☆3 ATK/500 DEF/1500
水族/効果
①:自分のモンスターゾーンのこのカードが戦闘または魔法カードの効果で破壊され墓地へ送られた場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。このカードを装備カード扱いとしてその相手モンスターに装備する。
②:このカードの効果でこのカードが装備されている場合、装備モンスターのコントロールを得る。このカードがフィールドから離れた時に装備モンスターは破壊される。
アン「また、同じ効果のモンスターが……これじゃ攻撃ができない」
ウルフ「さーて、どうする? これでも攻撃するか!」
スカー「「ヘイト」での攻撃を中止する」
それしかあるまいと、ウルフはにやりと笑う。
スカー「「SS-ネメシス」で「グレイドル・アリゲーター」を攻撃」
ウルフ「……ほう?」
コントロールを奪われる事も恐れず、スカーは別のモンスターでの攻撃を敢行する。
「ヘイト」と入れ替わる形で飛び出した「ネメシス」は、炎の翼をブースターの役割として加速を得、その勢いのまま「グレイドル・イーグル」に突っ込んだ。
衝突に際し、「グレイドル・アリゲーター」の金属質にして液体の体は木端微塵に四散した。
「グレイドル・アリゲーター」破壊!
ウルフ「ならば、戦闘で破壊された「グレイドル・アリゲーター」の効果発動! 「SS-ネメシス」のコントロールを得る!」LP:7800→6400
弾けた「グレイドル・アリゲーター」の液体が、「ネメシス」に飛びつく。
「ネメシス」の燃え盛る翼ごと包み込み、間もなく、同じようにその体を支配した。
炎の翼は失われ、代わりにそこにあったのは、銅像のような動きのない金属質な羽だった。
「SS-ネメシス」コントロール転移!
スカー「バトルフェイズを終了し、ターン終了」
先攻:ウルフ / 手札:0 / LP:6400 ●●
フィールド…ライディング・ワールド-トップスピード
■…リバースカード
パ…グレイドル・パラサイト
ア…グレイドル・アリゲーター(装備) 対象:SS-ネメシス
報復…SS-ネメシス ATK/1900 DEF/1500 攻撃
□|パ| ア |□|■
□| □ |報復|□|□
□|□|憎|執念|□
■|□| □ | □ |■
憎…SS-ヘイト ATK/1000 DEF/1200 攻撃
執念…SS-ヴェンジェンス ATK/1800 DEF/1300 攻撃
■…リバースカード
後攻:スカー / 手札:1 / LP:6300 ●●
ウルフ「俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズに「ライディング・ワールド」にスピードカウンターが乗るぜ!」
ウルフ「さあて……なら俺も、本気を出してやろうか!」
本気。確かにこのウルフと言う男は、一度として攻めの姿勢を見せた事は無い。
また返してくる手も、どこかスカーを試しているようでもあった。
確かに「グレイドル」と言うモンスター群の性質上、攻めよりも守りの方が向いているであろう。
だが、攻めの手段を持たないわけではないとしたならば。
ウルフ「メインフェイズに、自分フィールドの「グレイドル・パラサイト」と装備カード扱いの「グレイドル・アリゲーター」を対象にし、墓地の「グレイドル・スライム」の効果発動!」
アン「墓地の……?」
ウルフ「自分フィールドの「グレイドル」カード2枚を破壊する事で、自身を墓地から特殊召喚する! 出ろ、「グレイドル・スライム」!」
「グレイドル・アリゲーター」「グレイドル・パラサイト」「SS-ネメシス」破壊!
砕け散るカードのヴィジョンの中、モンスターの特殊召喚によって新たなヴィジョンが構築される。
ウルフが召喚したモンスター。それはサーキットのコースから突如溢れ出る水のようなヴィジョンを以って出現する。
金属の球。一見してそう比喩するべきヴィジョン。その上部から細く伸びた一部が、人の上半身のような形に変わる。
出でるのは、細身の人間。ただし異様に細身にして、金属質な表面が、明らかな異物であると知らしめていた。
「グレイドル・スライム」 水 ☆5 ATK0/ DEF/2000
水族/チューナー/効果
「グレイドル・スライム」の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが手札・墓地に存在する場合、自分フィールドの「グレイドル」カード2枚を対象として発動できる。そのカードを破壊し、このカードを特殊召喚する。
②:このカードの①の効果で特殊召喚に成功した時、自分の墓地の「グレイドル」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
ウルフ「この方法で特殊召喚した「グレイドル・スライム」の、二つ目の効果発動! 自分の墓地の「グレイドル」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する!」
ウルフ「「グレイドル・イーグル」を、守備表示!」
「グレイドル・スライム」の下半身に当たる膨れた部分の一部が分離し、空中で別の物体となる。
何度かの蠢きの後、それは「グレイドル・イーグル」へと変容した。
「グレイドル・イーグル」蘇生!
アン「でも、守備表示なら攻撃はできない」
スカー「ああ、「グレイドル・イーグル」はな……」
アン「え?」
スカー「「グレイドル・スライム」は、チューナーだ」
チューナー。聞いた事がない単語に、アンは首を捻る。
スカー「チューナーと、チューナー以外のモンスターを墓地へ送る事で、そのレベルの合計と同じ数値を持つシンクロモンスターをエクストラデッキから特殊召喚する」
スカー「エクシーズ召喚と同じ特別な召喚方法、それがシンクロ召喚だ……」
その言葉で、アンは全てを理解する。ウルフの場にはチューナーがいて、チューナー以外のモンスターがいる。
そして、チューナーである「グレイドル・スライム」がわざわざモンスターを特殊召喚する効果を有すると言う事は、そのレベルの合計で出せるモンスターが存在すると言う事。
今、然したる問題も無く、その準備が整ってしまった事を。
ウルフ「分かっているなら話が早い! 俺はレベル3の「グレイドル・イーグル」に、レベル5の「グレイドル・スライム」をチューニング!」
ウルフが指定した2体のモンスターは光のヴィジョンと変わり、そしてその周囲には、それぞれのレベルと同じ数の星が現れる。
二つの光は星を引き連れて、上空に浮かび、一列に連なった。
ウルフ「ここから先が略奪の時間だ! 濁流の如き侵略の手が、哀れなる反逆も知るべき恐怖も奪い去る!」
ウルフの口上と共に、星は二つの光を囲う一つのリングとなる。
リングは二つの光を纏めるように小さくなり、そしてヴィジョンが眩い閃光を放った。
ウルフ「シンクロ召喚! 象れ、超常の権化! レベル8、「グレイドル・ドラゴン」!」
光の中から、体の奥底まで響くような「鳴き声」が轟く。
強く羽ばたく音。巨体が撓る音。光が弾け、そこに鎮座する、機械とさえ見紛う金属像の如き巨大なドラゴンの異生命。
長く撓る首の先には、「グレイドル・アリゲーター」の頭が。
力強く羽ばたき暴風を生むのは、「グレイドル・イーグル」の翼が。
下り、長い尻尾は蛇の胴のようで、その先にあるのは「グレイドル・コブラ」の姿が。
形容しがたい、しかし例える事は出来る存在がそこにいた。「異質なる怪物」。
「グレイドル・ドラゴン」 水 ☆8 ATK/3000 DEF/2000
水族/シンクロ/効果
水族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
「グレイドル・ドラゴン」の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがS召喚に成功した時、そのS素材とした水属性モンスターの数まで相手フィールドのカードを対象として発動できる。そのカードを破壊する。
②:このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、このカード以外の自分の墓地の水属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。
アン「で、でかい……攻撃力、3000……」
余りのヴィジョン、そしてそれが持つステータスに、アンは思わず言葉を漏らした。
ウルフ「攻撃力だけじゃねえぜ! 「グレイドル・ドラゴン」がシンクロ召喚に成功した時、効果発動!」
ウルフ「シンクロ素材に使用した水属性モンスターの数まで相手フィールドのカードを対象にして、破壊する!」
ウルフ「使用したモンスターは「グレイドル・スライム」と「グレイドル・イーグル」の2体……よって2枚のカードを破壊できる!」
2枚のカード。それはスカーのモンスターの数と同じであり、リバースカードの数と同じである。
リバースカードを全て破壊されればスカーに防御の手段は無くなり、モンスターを全て破壊されればスカーは攻撃力3000のダイレクトアタックを受ける事になる。
攻撃力3000のダイレクトアタック。攻撃力と攻撃手段がそのまま物理的なダメージに直結するデュエルに措いて、致死にもなる数値だ。
デッキの相性や残された可能性などを毟り取り、デュエリストの死を以ってデュエルが終わりかねない。
アン「ス、スカー。逃げて……」
このままでは、スカーが自分を守って死にかねない。アンは瞬間的にそう考え、そして、そう口にした。
スカー「ああ。奴を始末した後に、な」
だがスカーの背中からは、逃亡の意思は欠片たりとも感じられない。
二週目を終えようと、三度スカーとアンの二人に迫るウルフから視線を離さない。
ウルフ「勇ましいこった! だったら遠慮なく、割らせてもらうとしよう!」
ウルフ「破壊するのは2枚のリバースカードだ! やれ、「グレイドル・ドラゴン」! コズミカル・ジャック!」
破壊対象が決まり、「グレイドル・ドラゴン」の黒い眼が光を反射する。
一度だけ翼を羽ばたかせ、巨体を仰け反らせ、鎌首をもたげる。
咆哮と共に吐き出したのは、液体金属のような水のブレス攻撃であった。
濁流は地面を穢しながら、しかし自由意思を持つかのように統率的に目標へと向かう破壊のヴィジョン。
二手に分かれたそれは、スカーの前方に映るリバースカードのヴィジョンを飲み込んだ。
暫くして地面に溶けるかのようにブレスが消えた後、沈んでいったリバースカードのヴィジョンは同様に消滅していた。
「SSS-リベンジ・オブ・スカーズ」「SSS-傷だらけのララバイ」破壊!
ウルフ「これで憂いは断った! バトルフェイズ! 「グレイドル・ドラゴン」で「SS-ヘイト」を攻撃!」
ウルフと並走する「グレイドル・ドラゴン」のヴィジョンは、一際強くコースを蹴り砕く。
突発的な加速を得た怪竜は、攻撃対象の「ヘイト」の肉体を真横気味に踏み付けた。
巨体が加速を得て激突する衝撃は「ヘイト」諸共にサーキットのコースを踏み砕き、クレーターを作り、破片を撒き散らす。
「SS-ヘイト」破壊!
スカー「グッ……「SS-ヘイト」が戦闘で破壊され墓地へ送られた時、1枚ドローする」LP:6300→4300
そしてその間に、ウルフはスカーの隣をすり抜け、三週目に臨む。
ウルフ「おっと、ドローを許しちまったか! だが、お前のモンスターたちは手札とライフを削って効果を適用するらしいな」
ウルフ「だったら今のダメージは、かなりの痛手なんじゃねーの? ぎゃは、ハーッハッハ!」
ウルフ「バトルフェイズを終了し、ターンエンド!」
先攻:ウルフ / 手札:1 / LP:6400 ●●●
フィールド…ライディング・ワールド-トップスピード
■…リバースカード
ド…グレイドル・ドラゴン ATK/3000 DEF/2000 攻撃
□|□| □ |□|■
□|□|ド|□|□
□|□|□|執念|□
□|□|□| □ |□
執念…SS-ヴェンジェンス ATK/1800 DEF/1300 攻撃
後攻:スカー / 手札:2 / LP:4300 ●●●
スカー「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズ」
スタンバイフェイズに移行し、「ライディング・ワールド-トップスピード」に4つ目の互いのスピードカウンターが乗る。
次のウルフのターンにスピードカウンターは5つとなり、スピードカウンターを消費する効果の内二つ目が使用可能になる。
次のターンになれば、ウルフは状況に応じた「Sp」カードを手札に加える事ができる。
対してスカーにはその利点が無く、また、ウルフのデッキが明らかになった今、一つ目の攻撃力を上げる効果は殆ど意味を為さない。
スカーにとって真の意味で利用価値のある次の効果まで必要なカウンター3つ。のんびりと待っていられる余裕はない。
アン「スカー」
不安げなアンの声に、スカーは振り向く。
アン「勝てる?」
スカー「勝つ」
しかし現状からして、アンの不安は尤もだった。
よって、デュエルのペースを握る所から改めて始めねばなるまい。
スカー「スタンバイフェイズに、フィールドから墓地へ送られた「SS-ヴィンディクト」の効果発動!」
スカー「手札を1枚捨て、ライフを1000払い、墓地のこのカードを特殊召喚する」LP:4300→3300 捨てたカード→「SSS-ウィーカーズ・ハビタット」
スカー「傷の復讐を思い出せ、「SS-ヴィンディクト」!」
巻き上がる炎のヴィジョン。その中から、「ヴィンディクト」が持つ傷だらけの剣が伸びる。
力強く振り回されたそれによって炎のヴィジョンは散って消え、代わりに「ヴィンディクト」の小柄な体が現れた。
「SS-ヴィンディクト」復活!
剣を構える「ヴィンディクト」の後ろで、スカーは深く呼吸する。
スカー「復讐は、これからだ」
スカー「…………」
アン「えっ?」
最初の手札の確認も儘ならないまま、予想外な宣言に、スカーは酷く眉間に皺を寄せ、アンは驚きの声を上げる。
当然だ。デュエルが開始した時に発動する効果など聞いた事がない。また、デッキから発動できるカードも同様に。
ウルフ「デュエル開始時に、デッキ・手札のこのカードを発動する事ができるのさ!」
ウルフ「今からここが俺のフィールドだァ!」
叫びウルフは、D・ホイールにセットされたデッキから、1枚のカードを抜き出す。そのカードを、フィールドゾーンにセットした。
その瞬間、装置を通して世界に変化が齎される。辺り一面の荒野は、整備されたサーキットのヴィジョンに書き換えられる。
一定の白線で二つに分けられたコース、そのど真ん中に、スカーとアンは放り出された。
「ライディング・ワールド-トップスピード」 フィールド
このカードはデュエル開始時に、自分のデッキ・手札から発動できる。「ライディング・ワールド-トップスピード」は1度のデュエルに1度しか発動できない。
①:このカードはフィールドを離れない。この効果は無効化されない。
②:このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、お互いにフィールド魔法カードを発動できない。
③:「Sp」魔法カード以外の魔法カードを発動する場合、自分用のスピードカウンターを2つ取り除かなければならない。
④:お互いのスタンバイフェイズ開始時に発動する。このカードにお互いの自分用の「スピードカウンター」を1つ乗せる(お互いに最大12個まで)。
⑤:このカードに乗っている自分用の「スピードカウンター」を任意の数だけ取り除いて発動できる。取り除いた数につき、以下の効果を適用する。
●2個:自分フィールドのモンスター1体を選ぶ。そのモンスターの攻撃力は500アップする。この効果は1ターンに1度だけ適用できる。
●5個:デッキから「Sp(スピードスペル)」魔法カードを1枚手札に加える。
●7個:自分の墓地のモンスター1体を選んで手札に加える。
●10個:フィールドのカードを1枚選んで破壊する。
アン「これが、フィールド魔法」
すっかり変わってしまった光景に、アンは恐怖を感じ、自然とスカーの方へとすり寄る。
スカーも自然と一歩下がり、いつでもアンを守れるように体勢を変える。
ウルフ「コイツはチャンスカードだ。これを上手く使ってせいぜい抵抗しろ。できなければ、死だ!」
D・ホイールの疾走を続けるウルフの挑発により、いよいよ以ってデュエルは開始された。
ウルフ「スタンバイフェイズ開始時に、「ライディング・ワールド-トップスピード」の効果発動!」
ウルフ「このカードにお互いの「スピードカウンター」を1つずつ乗せる!」
先攻:ウルフ / 手札:5 / LP:8000 ●←スピードカウンター
フィールド…ライディング・ワールド-トップスピード
□|□|□|□|□
□|□|□|□|□
□|□|□|□|□
□|□|□|□|□
後攻:スカー / 手札:5 / LP:8000 ●
スカーのデュエルディスクに、そしてウルフのD・ホイールのモニターに、スピードカウンターの存在が表示される。
ウルフ「さて、ラッキーだぜ、俺の先攻だ。俺はモンスターを1体セット!」
ウルフはドローした5枚の手札を、ハンドストッカーと呼ばれる手札置き場にセットする。
カードを確認し、その中から1枚を手に取り、モンスターゾーンに伏せた。その一連の流れを、右手のみで行う。
D・ホイールはデュエルモードを起動する事で、コンピューターに任せた自動走行に移行する。
両手を離さない限りには、バイクに乗りながらデュエルができる設計となっているのだ。
また、特殊装置によって発生している力場によって、カードが吹き飛ぶ心配も無い。
ウルフ「そしてリバースカードを1枚伏せて、ターンを終了する!」
先攻:ウルフ / 手札:3 / LP:8000 ●
フィールド…ライディング・ワールド-トップスピード
■…リバースカード
◆…リバースモンスター
□|□| ■|□|□
□|□|◆|□|□
□|□|□|□|□
□|□|□|□|□
後攻:スカー / 手札:5 / LP:8000 ●
スカー「俺のターン、ドロー」
ドローしたカード及び、最初の手札を見比べ、デュエルディスクでウルフが発動したフィールド魔法の効果を確認し、スカーは辟易する。
お互いに適用される効果ではあるが、つまりそれは、事情を把握しない相手に強制的に自分のルールを押し付ける事に他ならない。
その効果の利用はスカーも許されているが、そんな事は使用者であるウルフも織り込み済みだろう。
まず、二つ目の「お互いにフィールド魔法を発動できない」永続効果。
これにより、スカーの手札に既に存在する「SSS-ウィーカーズ・ハビタット」が無意味なカードとなってしまった。
開始時点から貴重な手札補充と戦力増強の手段を奪われている。手札を何よりも必要とする「SS」にとっては厳しい縛りだ。
そして三つ目の「「Sp」魔法カード以外の魔法カードを発動する場合、スピードカウンターを2つ取り除かなければならない」永続効果。
仕様上、スピードカウンターは往復で2つ溜まり、即ち殆ど1ターンに1度しか魔法カードを発動できない計算となる。
それは相手も同じだが、このようなカードを使用する以上は、それなりにデッキを整えている事だろう。
不愉快だ。
スカー「スタンバイフェイズだ」
ウルフ「おっと、スタンバイフェイズ開始時に「ライディング・ワールド」に、お互いのスピードカウンターが1つずつ乗るぜ!」
フェイズ移行と同時に、割り込むようにそれぞれのスピードカウンターが加算される。
これでスカーは「スピードカウンターを2つ取り除いて自分のモンスター1体の攻撃力を500アップする」効果が使用できるようになった。
だが、デュエルは序盤で、お互いに探り合う状況だ。特にウルフは手堅い様子見の構えで待ち受けている。
全力で相手するには余りにも危険すぎた。
スカー「メインフェイズに移行し、「SS-グラッジ」を召喚」
手始めに召喚したのは、全身に傷を負い、特に右腕を失っている、仮面を着けた戦士。
残された左腕を構え、仮面の奥から認識した敵を睨み付ける。
「SS-グラッジ」 炎 ☆4 ATK/1200 DEF/1100
戦士族/効果
①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に、以下の効果から1つを選んで発動する。
●手札を1枚捨てる。墓地からレベル4「SS」モンスター1体を選んで特殊召喚する。このターン、自分はX召喚を行えない。
●1000LPを払う。デッキから1枚ドローし、手札を1枚捨てる。
スカー「召喚に成功した「SS-グラッジ」の効果を発動。俺は二つの効果の内、ライフを1000払ってドローする効果を選ぶ」
ウルフ「ライフを払って無意味な手札交換か!」
スカーと同じく、D・ホイールのモニターでモンスター効果を確認したのだろう。
妨害は、無い。
スカー「その効果で俺はライフを1000払い、1枚ドロー」LP:8000→7000
スカー「そして、手札を1枚捨てる」捨てたカード→「SSS-ウィーカーズ・ハビタット」
スカー「俺が「SS」モンスターの効果で手札を捨てた場合、手札からこのモンスターを特殊召喚できる」
スカー「「SS-ヴェンジェンス」!」
スカーがモンスターゾーンにカードを配置すると同時に、炎のヴィジョンが舞い上がる。それを初めて見たアンは小さく悲鳴を上げた。
炎から身を乗り出すようにして現れる、半分に割れた仮面を着けた戦士。
傷だらけの体の中で特に目立つのは、仮面が割れている事によって見えた、ケロイド状の顔面。
その表情は悲しみに歪み、瞳は怒りを湛え、咆哮を撒き散らした。
「SS-ヴェンジェンス」 炎 ☆6 ATK/1800 DEF/1300
戦士族/効果
①:自分が「SS」モンスターの効果で手札を捨てた場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
②:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選んで発動する。
●手札を1枚捨てる。相手フィールドの魔法・罠カードを2枚まで選んで破壊する。
●1000LPを払う。デッキから2枚ドローし、手札から「SS」モンスター1体を捨てるか、手札を2枚捨てる。
ウルフ「半上級を特殊召喚するか……やるじゃねえか!」
だが、そうなってもウルフの余裕は崩れない。スカーも、表情は崩さない。
スカー「特殊召喚に成功した「ヴェンジェンス」の二つの効果の内、ライフを1000払う効果を発動する」
スカー「デッキからカードを2枚ドロー、その後手札から「SS」モンスター1体を捨てるか、手札を2枚捨てる」LP:7000→6000
スカー「俺は「SS」モンスター、「SS-アヴェンジャー」を捨てる」捨てたカード→「SS-アヴェンジャー」
ウルフ「手札交換ばかりしてよ、良いカードは引けたかよ!」
ウルフの挑発にも耳を貸さず、スカーは手札を見つめ、少しばかり思案する。
スカー「……バトルフェイズ。「SS-ヴェンジェンス」で、セットモンスターを攻撃」
割れた仮面の戦士は鬨のような絶叫を轟かせ、遥か遠くを激走するウルフのセットモンスターを追走する。
サーキットのコースを踏み砕き、「ヴェンジェンス」は跳躍。
瞬間、隠しナイフを引き抜き、その勢いのままに、セットモンスターのヴィジョンを刺し貫いた。
戦闘によってリバースしたモンスターは、金属質な金色の「表面」を持つ異質な鷲。
その見た目とは裏腹に、すんなりとナイフによって貫かれたそれ。
その個所は、まるで液体のようにぶきゅりと膨れ、体全体は液体のような流動を繰り返して震え、そして爆ぜて四散した。
セットモンスター「グレイドル・イーグル」撃破!
しかし、スカーはそのヴィジョンに違和感を持った。
普通ならば、ガラスが砕けるように「割れる」。そしてその破片は、デュエリストを容赦なく襲う。
だのに、今し方破壊したモンスターはそんな事も無く、特殊なヴィジョンを発生させた。
スカーのセンスが、妙に胸騒ぎを与えた。
ウルフ「ククク……今、破壊したな?」
モンスターを破壊されたと言うのに、突如、ウルフは嬉しそうに笑みをこぼした。
その不気味な様相もさる事ながら、先ほどの違和感も合わせて、スカーは怪訝そうに睨み付ける。
ウルフ「今、俺のモンスターを、「戦闘によって破壊した」なぁ!?」
その瞬間、四散したモンスターのヴィジョンが、まるで逆再生が如く集合を始め……。
なんとそれだけではなく、攻撃した「ヴェンジェンス」に纏わりついたのだ。
ウルフ「戦闘によって破壊された、「グレイドル・イーグル」の効果発動!」
ウルフ「このカードが戦闘及びモンスター効果によって破壊され墓地へ送られた場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる!」
ウルフ「このカードを装備カードとして、そのモンスターに装備する!」
纏わりつく「グレイドル・イーグル」の残骸を振り払おうと、「ヴェンジェンス」は必死にもがく。
しかしそれは液体の分際で離れないばかりか、どんどんと「ヴェンジェンス」の体を飲み込み、ついには覆ってしまう。
見えない「ヴェンジェンス」は纏わりついたそれを剥がすような仕草をするが、その動きもどんどんと無くなっていき、人の姿を残したまま沈黙。
動かなくなった「ヴェンジェンス」に纏わりついた液体は、なんと「ヴェンジェンス」の体に「染み込み」始めた。
液体が失せ、再び姿が見えるようになった「ヴェンジェンス」であるが……。
その姿は、戦闘でリバースした際に一瞬だけ見えた「グレイドル・イーグル」のように金属質な肌となり、また怒りを宿した眼は、意識を感じ取れない、光を反射する黒い球体となっていた。
背負った悲しみが失われるが如く、特徴と言えたケロイド状の肌は、凹凸の無い無機質な物へと変わり果てていた。
「SS-ヴェンジェンス」コントロール転移!
アン「「ヴェンジェンス」のコントロールが……どうして」
ウルフ「教えてやるよ、愛しのベビーちゃん! 「グレイドル・イーグル」が自身の効果で装備されている時、その装備モンスターのコントロールを得るのさ!」
「グレイドル・イーグル」 水 ☆3 ATK/1500 DEF/500
水族/効果
①:自分のモンスターゾーンのこのカードが戦闘またはモンスターの効果で破壊され墓地へ送られた場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。このカードを装備カード扱いとしてその相手モンスターに装備する。
②:このカードの効果でこのカードが装備されている場合、装備モンスターのコントロールを得る。このカードがフィールドから離れた時に装備モンスターは破壊される。
コントロールを奪う。その強さは、奇しくも同じ効果を持つカードを使用するに至ったアンもよく知っている事だった。
特にこの状況の場合は、相手の一番強いモンスターを奪う事で、その後の攻撃を防ぐ意味もある。
またコントロールを奪ったモンスターには何の制限も敷かれず、その点だけで言えば「超怪人ヴラド」を遥かに上回る。
スカー「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2」
しかしスカーは何事も無かったかのように、フェイズを移行する。
アン「どうするの、スカー」
スカー「どうもしない」
まるで諦めたかのような雑な返答だが、その表情に投げやりな様子は一切見られない。
スカーは迷わず、手札から一枚のカードを発動した。
スカー「俺のスピードカウンターを2つ取り除き、通常魔法「SSS-ウェイク・アップ」発動」
その瞬間、デュエルディスクに表示されたスカーのスピードカウンターが消えた。
スカー「俺が「SS」モンスターの効果で手札を捨て、LPを払ったターンにのみ発動できる」
スカー「「SS-グラッジ」「SS-ヴェンジェンス」両方の効果で俺はLPを払い、手札を捨てた。条件は満たしている」
スカー「よって俺は墓地から「SS」モンスター1体を、「SS-アヴェンジャー」を特殊召喚する!」
スカー「無念を背負い、起ち上がれ! 「SS-アヴェンジャー」!」
スカーの呼び声に伴い、またもや真っ赤な炎が巻き起こる。
その中から傷だらけの腕が伸び、這い出すのは、やはりして傷だらけの戦士。
その体が完全に炎から出ると同時に、炎はそれに吸収され、その瞳は真っ赤に変わる。
怒りの体現。そうとしか呼べない、復讐の戦士が起つ。
「SS-アヴェンジャー」 炎 ☆8 ATK/1900 DEF/1900
戦士族/効果
このカードは「SS」カードの効果でのみ特殊召喚できる。
①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選んで発動する。
●手札を1枚捨てる。相手フィールドのカード1枚を選んで破壊し、自分のライフを1000回復する。
●ライフを1000払う。デッキから1枚ドローする。そのカードが「SS」モンスターだった場合、そのカードを特殊召喚できる。
●手札を1枚捨て、ライフを1000払う。相手フィールドの表側表示モンスターの効果を無効にし、攻撃力・守備力を0にする。その後、このカードの攻撃力・守備力はフィールドのカードの数×300アップする。
スカー「そしてカードを1枚ドローし、ライフを1000回復する」LP:6000→7000
ウルフ「ヒュー。半上級の次は最上級かよ、えらく大盤振る舞いじゃねえか」
そう言いながら、スカーの不機嫌そうな鉄面皮と同じく、ウルフの飄々とした態度は崩れない。
所詮は攻撃力1900のモンスターであり、バトルフェイズが終了した今、戦闘破壊はされないと考えているのだろう。
スカー「特殊召喚された「SS-アヴェンジャー」の三つの効果の内、一つ目の効果を選んで発動する」
スカー「手札を1枚捨て、相手フィールドのカードを1枚選んで破壊する」捨てたカード→「SSS-カウンター・ストライク」
スカー「破壊するのは、お前のリバースカードだ」
スカー「やれ、「アヴェンジャー」! エナジーイーター!」
スカーが破壊対象を選択すると、「アヴェンジャー」のヴィジョンは左手を広げ、その手に炎を生み出す。
大振りなモーションで投擲すれば、それはまるで槍のような棒状となり、真っ直ぐにリバースカードを貫いた。
「グレイドル・スプリット」破壊!
そして破壊されたカードのヴィジョンが、割れたガラスのようになって、今度こそ使用者であるウルフに降りかかる……とは、ならなかった。
ウルフ「おっと、危ねえ!」
ウルフはハンドルを握り直し、余裕を持った動きで降りかかる破片を容易く躱していく。
また、ヴィジョンの欠片の中には、そもそもとしてD・ホイールのスピードに追い付けなかった物が多い。
これこそが、ハンターがD・ホイールと言う「足」を使う理由だ。
追跡し、逃走を許さず、降りかかるヴィジョンを回避して肉体的なダメージを防ぐ。
デュエルに勝利しようが敗北しようが、その結果など関係ない。無傷でデュエルを終え、逆に消耗した相手を、最後は狩るだけだ。
ウルフ「惜しい惜しい! もう少しで当たりそうだったぜぇー!」
恐らくはこのウルフも、そうして何人ものデュエリストたちを狩ったのだろう。
今までの経験からなる自身に満ちた挑発は、しかしてウルフが、ヴィジョンによる負傷は無いと言わしめているようでもある。
スカー「……そしてカードを破壊した事で、俺はライフを1000回復」LP:7000→8000
スカー「更に「SS」モンスターの効果で手札から捨てられた「SSS-カウンター・ストライク」の効果発動」
「SSS-カウンター・ストライク」 速攻魔法
①:自分フィールドの「SS」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで1000アップする。
①:このカードが「SS」モンスターの効果で手札から捨てられた場合に発動できる。デッキから1枚ドローし、自分のLPを1000回復する。
①:相手モンスターの攻撃宣言時に墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分フィールドの「SS」モンスターは戦闘では破壊されない。
スカー「デッキからカードを1枚ドローし、ライフを1000回復する」LP:8000→9000
「ライディング・ワールド」がスピードカウンターで制限するのは魔法カードの「発動」であり、効果の発動ではない事を、スカーは見抜いていた。
余裕を見せるウルフも、これには口笛を軽く鳴らして驚く。
ウルフ「やるじゃあねぇか。その穴に気付くとは、できるようだ」
スカー「カードを3枚セットして、ターンを終了する」
先攻:ウルフ / 手札:3 / LP:8000 ●●
フィールド…ライディング・ワールド-トップスピード
鷲…グレイドル・イーグル(装備) 対象:SS-ヴェンジェンス
執念…SS-ヴェンジェンス ATK/1800 DEF/1300 攻撃
□|□| 鷲 |□|□
□|□|執念|□|□
□|□|恨|復讐|□
■|■| □ | □ |■
恨…SS-グラッジ ATK/1200 DEF/1100 攻撃
復讐…SS-アヴェンジャー ATK/1900 DEF/1900 攻撃
■…リバースカード
後攻:スカー / 手札:2 / LP:9000
スカーがターンを終了する頃、周回を終えたウルフのD・ホイールが、再びスカーとアンに迫っていた。
正面でそれを迎える二人は、無意識の内に息を呑み、体を強張らせる。
ウルフ「人の褒め言葉は素直に受け取りな! 俺のターン、ドロー!」
余計な一言と共にドロー。同時に、ウルフとスカーが擦れ違う。
先ほどよりもスピードが乗った疾走が、またしてもスカーとアンの衣類を風で煽る。
ウルフ「スタンバイフェイズに移行し、その開始時に「ライディング・ワールド」にカウンターが乗る!」
これで「ライディング・ワールド-トップスピード」に乗ったウルフのスピードカウンターは、3つ。
対してスカーは魔法カードを発動してしまった為に1つ。
ウルフ「そしてメインフェイズ。ここらで俺も、手札交換をさせてもらおうか!」
ウルフ「フィールドに自分用のスピードカウンターが2つ以上存在する場合、このカードを発動できる!」
ウルフ「通常魔法「Sp-エンジェル・バトン」!」
「Sp-エンジェル・バトン」 通常魔法
このカードは自分用のスピードカウンターが2つ以上の場合にのみ発動できる。
①:デッキからカードを2枚ドローする。その後、手札を1枚墓地へ送る。
ウルフ「デッキからカードを2枚ドローし、手札を1枚墓地へ送る!」捨てたカード→「グレイドル・スライム」
ウルフが使用したカード。「ライディング・ワールド-トップスピード」に記された謎のカード群「Sp」の正体が明らかとなった。
その限りではないだろうが、大体はスピードカウンターを参照し発動条件を満たすタイプ。或いはそのスピードカウンターに関する効果を持つカードだ。
『カオスクロス』が開発し、試験的に投入した新たなカードだろう。
彼の組織は度々、そのように戦力の増強を図る。よって見知らぬカードを使われたところで、今更驚く事でもなかった。
或いは、『カオスクロス』ですら究明できない「奇跡」の存在をスカーが知るからこそか。
とは言え、これでウルフは手札を入れ替えた。その本人の顔には、笑みが浮かんでいる。
ウルフ「ほーう、良いカードを引いたぜ……ここは公平に、スピードカウンターを揃えてやる!」
ウルフ「こちらもスピードカウンターを2つ取り除き、手札から永続魔法「グレイドル・インパクト」を発動!」
「グレイドル・インパクト」 永続魔法
「グレイドル・インパクト」の①②の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
①:このカード以外の自分フィールドの「グレイドル」カード1枚と相手フィールドのカード1枚を対象としてこの効果を発動できる。そのカードを破壊する。
②:自分エンドフェイズにこの効果を発動できる。デッキから「グレイドル」カード1枚を手札に加える。
ウルフ「このカードは二つの効果を持つ。その中の一つ目の効果を発動だ!」
ウルフ「俺のフィールドのこのカード以外の「グレイドル」カードと相手のカードを1枚ずつ対象とし、破壊する!」
ウルフ「さあて俺のフィールドには……おっと、装備カード扱いの「グレイドル・イーグル」がいるなァ?」
わざとらしく、その存在を見せびらかす。鬱陶しい事この上ないが、確かにこのデュエルにおいて重要な事だ。
「グレイドル・イーグル」で相手のモンスターを奪い追撃ないし次のターンへの準備を阻害し、デュエルの進行を遅らせる。
それにより「ライディング・ワールド-トップスピード」にスピードカウンターが溜まりやすくなる。
モンスターを奪い過ぎた為に滞った場を「グレイドル・インパクト」で消化し、ついでに除去を行う。
実に噛み合ったデッキ構築。こちらは一方的に多くの枷を負うだけに、優位性は語るまでも無い。
ウルフ「当然ながら装備カード扱いとなっている「グレイドル・イーグル」も「グレイドル」カードとして扱われる!」
ウルフ「よって「グレイドル・イーグル」と、お前の場の、真ん中のリバースカードを対象とし、破壊!」
「グレイドル・イーグル」「SSS-逆襲の傷跡」破壊!
ウルフの宣言により、対象となったリバースカードのヴィジョンが破壊される。
その破片は、当然ながら衝撃に乗ってスカーとアンに襲い掛かり……。
アン「ひっ……」
悲鳴を上げても逃げる事は出来ず、アンに出来る事と言えば目を瞑って体を縮めるだけ。
最初のデュエルで味わった破壊の痛みを思い出し、それがいつ来るか、どれほどの痛みか、暗い思考の中で待つ。
だが、訪れたのは、何かが割れる音。
恐る恐る目を開けてみれば、遮るように立ち塞がるスカーの背中。デュエルディスクを正面に構える右腕と、振り抜いたような左腕。
スカーは逃げも恐れもせず、自分の全身を以ってヴィジョンの破壊からアンを庇い、自分にとって致命傷足り得るサイズの破片は腕で弾いて砕いたのだ。
だがそれでも、細かい破片がスカーの体を傷付ける。ぼろのような衣類に血が滲む。
アン「あ、ああ……スカー……!」
スカー「大丈夫か」
堪えるように息を吐き、何でもないようにアンに尋ねる。
アンは頷くしかできず、それを見たスカーは「そうか」と一言だけ言い、遠いウルフに視線を戻した。
ウルフ「健気な事だなあ! だがありがたい。俺だってできれば綺麗なままの方がいいからな!」
ウルフ「精々守ってくれよ、俺の為に! 「グレイドル・イーグル」がフィールドを離れた事により、装備モンスターである「SS-ヴェンジェンス」も破壊される!」
遅れて、「ヴェンジェンス」の肉体のヴィジョンは、まるで液体が如く流れ溶けて消えた。
「SS-ヴェンジェンス」破壊!
ウルフ「お次はコイツだ。「グレイドル・コブラ」を召喚!」
召喚されたモンスターは、太い銅を持つ紫色のコブラのモンスター。
その鱗はありながら、まるで一本の金属から模様を拵えたようにも見える。
何より異質なのは、地面に接している腹の部分が、見た目の金属質と異なり液体のように膨れて蠢く事か。
その名を冠する通り、能力共々「グレイドル・イーグル」と同じ性質であるようだ。
「グレイドル・コブラ」 水 ☆3 ATK/1000 DEF/1000
水族/効果
①:自分のモンスターゾーンのこのカードが戦闘または罠カードの効果で破壊され墓地へ送られた場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。このカードを装備カード扱いとしてその相手モンスターに装備する。
②:このカードの効果でこのカードが装備されている場合、装備モンスターのコントロールを得る。このカードがフィールドから離れた時に装備モンスターは破壊される。
ウルフ「バトルフェイズ! 「グレイドル・コブラ」で「SS-グリーフ」に攻撃!」
アン「自分から攻撃を」
言いながらもアンは気付いていた。戦闘でさえ破壊されればそれで良いのだから、相手に破壊されようが自分から突撃をしようが関係ないのだ。
「グレイドル・コブラ」は素早く地面を這い、攻撃対象である「グラッジ」に迫る。
両者の間合いは必殺となり、先手を取ったのは「グレイドル・コブラ」。
一瞬の溜めの後、全身のバネを使って液体を撒き散らしながら低い軌道で跳んだ。
「グラッジ」は左腕を振り被り、咆哮を轟かせ、その強襲を正面から迎え撃った。
大きく開いた口に、鋭い牙が覗く。「グラッジ」はその口の中に、恐れる事無く拳を叩き込む。
交差の結果、「グラッジ」の拳は「グレイドル・コブラ」の牙の全てを叩き折り、その脳天を貫いていた。
それだけでは終わらず、気色の悪い鳴き声を上げる「グレイドル・コブラ」のヴィジョンから素早く腕を引き抜き、今度は上から、その脳天を叩く。
頭部が拉げた「グレイドル・コブラ」のヴィジョンは、「グレイドル・イーグル」と同じように液体のように爆ぜて周囲に散った。
「グレイドル・コブラ」撃退!
ウルフ「当然ながら俺も戦闘ダメージを受けるが、戦闘で破壊された「グレイドル・コブラ」の効果発動!」LP:8000→7800
ウルフ「相手フィールドのモンスター1体を対象として、そのモンスターにこのカードを装備させる!」
ウルフ「対象は「SS-アヴェンジャー」!」
「グレイドル・コブラ」の残骸のヴィジョンは、またしても集合を始める。その対象は「アヴェンジャー」。
回避も儘ならず、瞬く間に「アヴェンジャー」は支配の液体に捕らわれる。もがけども暴れども、それが離れる事は決してない。
スカー「「アヴェンジャー」……」
スカーに、決定したコントロール奪取を止める手段は無い。
「アヴェンジャー」の動きはやがてなくなり、纏わりつく液体は、その体に染み込むように消える。
現れるのは、体中の傷を失い、滑らかにして金属質な表面を得た像のような「アヴェンジャー」。
「SS-アヴェンジャー」コントロール転移!
ウルフ「必要経費とは言え、受けたダメージは返してやる! コントロールを得た「SS-アヴェンジャー」で「SS-グラッジ」を攻撃だ!」
コントロールを奪われた「アヴェンジャー」の黒い球のような瞳に、驚く「グラッジ」が映る。
狙いを定めた「アヴェンジャー」の行動は早かった。左手に炎を宿す。
それがまともな形を取る前に、その腕は、仕返しとばかりに「グラッジ」の腹を貫いた。
貫通した「アヴェンジャー」の腕は、「グレイドル・コブラ」の頭部をしていた。
スカー「くっ……」LP:9000→8300
ウルフ「ヒャハハ! バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2! リバースカードを2枚セットして、ターンエンド!」
先攻:ウルフ / 手札:0 / LP:7800 ●
フィールド…ライディング・ワールド-トップスピード
■…リバースカード
イ…グレイドル・インパクト
蛇…グレイドル・コブラ(装備) 対象:SS-アヴェンジャー
復讐…SS-アヴェンジャー ATK/1900 DEF/1900 攻撃
□|■| イ |蛇|■
□|□|復讐| □ |□
□|□|□|□|□
■|□|□|□|■
■…リバースカード
後攻:スカー / 手札:2 / LP:8300 ●
スカー「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズ」
「ライディング・ワールド-トップスピード」に、互いのスピードカウンターが乗る。
スカー「メインフェイズに「SS-ヘイト」を召喚」
現れたヴィジョンは、杖を衝いた小柄で傷だらけの戦士。その右脚は無く、現れるなりその場に座り込んでしまう。
だがマスクから窺える眼は、裏切ってしまった復讐の同胞を強く睨み付けていた。
「SS-ヘイト」 炎 ☆4 ATK/1000 DEF/1200
戦士族/効果
①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に、以下の効果から1つを選んで発動する。この効果を発動するターンに、自分は「SS」カードの効果しか発動できない。
●手札を1枚捨て、相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊する。
●1000LPを払う。自分の墓地から「SS」モンスターを2体選んで手札に加える。
②:このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから1枚ドローする。
スカー「「SS-ヘイト」が召喚に成功した時、二つの効果から一つを選んで発動する」
スカー「俺はライフを1000払い、墓地から「SS」モンスター2体を選んで手札に加える効果を選ぶ」
スカー「手札に加えるのは、「SS-グラッジ」と「SS-ヴェンジェンス」」LP:8300→7300
ウルフ「チッ、手札を補充したか! だが通常召喚を行った今、攻撃力1000のモンスター1体でどうするのかねえ!」
ウルフ「また「ヴェンジェンス」を特殊召喚するか? 特殊召喚するためのカードはあるのかなァー!?」
ウルフの煽りも、二人にとっては鬱陶しい他には滑稽でしかない。
アンは、何か策があるからこそスカーがこのような行動を取るのだと考えた。
デュエルしている本人であるスカーは、言うに及ばず。反撃の手段は、一つの不安を除いて、頭の中にあるにはある。
とりあえず、そのルートを辿る。
スカー「そして俺が「SS」モンスターの効果でライフを払った場合、このカードを手札から特殊召喚できる」
スカー「「SS-ネメシス」!」
舞い上がる炎のヴィジョンから、力強く飛び出す何者か。
仮面を着けた戦士。傷だらけの戦士。炎の翼が生えた戦士。
それは火の粉を散らしながら一度だけ翼を羽ばたかせ、重々しく着地した。
「SS-ネメシス」 炎 ☆6 ATK/1900 DEF/1500
戦士族/効果
①:自分が「SS」モンスターの効果でLPを払った場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
②:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選んで発動する。
●手札を1枚捨てる。デッキから「SS」モンスター1体を選んで特殊召喚する。
●LPを1000払う。このターン、このカードは1度のバトルフェイズに2回攻撃できる。
ウルフ「ほうほう、もう一体の半上級モンスターか!」
スカー「「ネメシス」の特殊召喚成功時、手札を1枚捨ててデッキから「SS」モンスター1体を特殊召喚する効果を選んで発動!」捨てたカード→「SS-ヴェンジェンス」
スカー「来い、「SS-ヴィンディクト」!」
「ネメシス」の燃え盛る右翼が大きく膨らむ。
それが本人と同じ程となった時、その中から、傷だらけの仮面に傷だらけの鎧、そして傷だらけの剣が飛び出す。
それらを身に着けるのは小柄な戦士。剣を振り回し、纏わりつく火の粉を払う。
「SS‐ヴィンディクト」 炎 ☆7 ATK/1500 DEF/1700
戦士族/特殊召喚/効果
このカードは通常召喚できない。このカードは「SS」カードの効果でのみ特殊召喚できる。「SS-ヴィンディクト」の①の効果は1ターンに1度しか発動できない。
①:自分フィールドに「SS」モンスターが2体以上存在する場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
②:このカードが特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選んで発動する。
●手札を1枚捨てる。自分フィールドの「SS」モンスター1体と相手フィールドのカード1枚を選んで手札に戻す。
●1000LPを払う。このカードを破壊し、自分の墓地から「SS‐ヴィンディクト」以外の「SS」モンスター1体を選んで特殊召喚する。
③:フィールドから墓地へ送られたこのカードが墓地に存在する自分のスタンバイフェイズ開始時に1度だけ発動できる。手札を1枚捨て、ライフを1000払う。このカードを墓地から特殊召喚する。
スカー「特殊召喚した「ヴィンディクト」の二つの効果の内、ライフを1000払い、自身を破壊して、墓地の「ヴィンディクト」以外の「SS」モンスター1体を特殊召喚する効果を選んで発動する」
効果を発動した瞬間、「ヴィンディクト」の体が突如激しく燃え盛る。
炎に包まれながらも「ヴィンディクト」は声も上げず、その姿が見えなくなるまで、ただ敵を睨み付けていた。
スカー「仲間の想いを継いで甦れ、「SS-ヴェンジェンス」!」LP:7300→6300
「ヴィンディクト」のシルエットが消え、代わりに、別のシルエットが現れる。
ゆっくりと炎から現れ出でたのは、復讐の意思を取り戻した「ヴェンジェンス」であった。
感覚を確かめるようにケロイドの顔面を指でなぞり、それから強く、咆哮を上げた。
「SS-ヴェンジェンス」復活!
ウルフ「特殊召喚に成功したって事は……!」
スカー「当然、効果を発動する。二つの効果の内、手札を1枚捨てて相手フィールドの魔法・罠カードを2枚まで選んで破壊する」
スカー「破壊するのは「グレイドル・インパクト」と、装備カード扱いの「グレイドル・コブラ」だ」
スカー「「ヴェンジェンス」、行け!」
「ヴェンジェンス」は素早く二本の隠しナイフを引き抜き、指定された破壊対象のヴィジョンそれぞれに向かって投擲する。
それは二手に分かれ、方やカードのヴィジョンの中央を射止め、そこを中心として粉々に打ち砕く。
方や先は「アヴェンジャー」を支配してその体内に潜む「グレイドル・コブラ」。目に見えないヴィジョンの存在は、逆に迷いを取り払った。
放たれたナイフは「アヴェンジャー」の胸を深々と刺し貫き、意思を奪われているとは言え、流石に苦鳴が漏れた。
急所を攻撃されたからか、「アヴェンジャー」のヴィジョンは溶けるように崩れ、そのまま消えてしまった。
「グレイドル・コブラ」「グレイドル・インパクト」「SS-アヴェンジャー」破壊!
ウルフ「おっとぉ! まさか、「グレイドル・インパクト」が1ターンで破壊されちまうとはな!」
破壊されて砕けたヴィジョンを軽々と回避しながら、また表情の余裕も崩れない。
ウルフは言うが、スカーにとって不安は残る。破壊できなかった2枚のリバースカードが気になるのだ。
しかし「グレイドル・インパクト」は残せば毎ターンの除去かサーチを許してしまい、「グレイドル・コブラ」を残せば奪われた「アヴェンジャー」も残る。
後者の場合は「ネメシス」と相討ちが狙えたが、コントロールを奪う事に長けたデッキを相手に、自分の場のモンスターを減らすのは得策ではない。
ライフを多く使う「SS」にとっては、少しでも受けるダメージは減らしたかった。
現状の手札では、これ以上の展開ができない。スカーは割り切り、バトルフェイズに挑んだ。
スカー「バトルフェイズだ。「SS-ヘイト」でダイレクトアタック」
「ヘイト」は片足ながらも素早く起ち上がり、杖を巧みに使って攻撃対象となったウルフに切迫する。
ウルフ「ククッ……ダイレクトアタックか。通すわけにはいかねえなあ!」
ウルフ「リバースカード、永続罠「グレイドル・パラサイト」を発動!」
「グレイドル・パラサイト」 永続罠
「グレイドル・パラサイト」の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:相手モンスターの直接攻撃宣言時にこの効果を発動できる。自分フィールドにモンスターが存在しない場合、デッキから「グレイドル」モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。
②:自分の「グレイドル」モンスターの直接攻撃宣言時に、相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。相手フィールドにモンスターが存在しない場合、そのモンスターを相手フィールドに特殊召喚する。
やはり、と言いたげに、スカーは顔を歪めた。
警戒すべきリバースカードを無視した報いではあるが、状況からしてそうせざるを得なかったと言うのもある。
そしてその状況にスカーを追い込んだ事からして、ウルフの、下衆ながらもデュエリストとしての実力が窺えた。
ウルフ「がっかりするのは早いぜ! このカードは、相手モンスターの攻撃宣言時に自分フィールドにモンスターが存在しない場合、デッキから「グレイドル」モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚できる!」
ウルフ「ありがたい事に俺のフィールドの邪魔なモンスターは持ち主様が片付けてくれたんでな……よってデッキから「グレイドル・アリゲーター」を特殊召喚!」
表になったカードのヴィジョンの前に、不気味な液体が浮かんで現れる。
行く手を遮るようにして出現したそれを前に、「ヘイト」は思わずその場に留まり様子を見る。
それは激しく蠢き、ワニのようなモンスターの姿に変わった。
ただし先に出た二種の「グレイドル」と同じく、緑色の金属質の表面を持つ、生命然としないデザインだ。
特にその手足は、膨れるような流動を繰り返し、時折噴き出すように表面が突起し、不気味で仕方が無い。
「グレイドル・アリゲーター」 水 ☆3 ATK/500 DEF/1500
水族/効果
①:自分のモンスターゾーンのこのカードが戦闘または魔法カードの効果で破壊され墓地へ送られた場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。このカードを装備カード扱いとしてその相手モンスターに装備する。
②:このカードの効果でこのカードが装備されている場合、装備モンスターのコントロールを得る。このカードがフィールドから離れた時に装備モンスターは破壊される。
アン「また、同じ効果のモンスターが……これじゃ攻撃ができない」
ウルフ「さーて、どうする? これでも攻撃するか!」
スカー「「ヘイト」での攻撃を中止する」
それしかあるまいと、ウルフはにやりと笑う。
スカー「「SS-ネメシス」で「グレイドル・アリゲーター」を攻撃」
ウルフ「……ほう?」
コントロールを奪われる事も恐れず、スカーは別のモンスターでの攻撃を敢行する。
「ヘイト」と入れ替わる形で飛び出した「ネメシス」は、炎の翼をブースターの役割として加速を得、その勢いのまま「グレイドル・イーグル」に突っ込んだ。
衝突に際し、「グレイドル・アリゲーター」の金属質にして液体の体は木端微塵に四散した。
「グレイドル・アリゲーター」破壊!
ウルフ「ならば、戦闘で破壊された「グレイドル・アリゲーター」の効果発動! 「SS-ネメシス」のコントロールを得る!」LP:7800→6400
弾けた「グレイドル・アリゲーター」の液体が、「ネメシス」に飛びつく。
「ネメシス」の燃え盛る翼ごと包み込み、間もなく、同じようにその体を支配した。
炎の翼は失われ、代わりにそこにあったのは、銅像のような動きのない金属質な羽だった。
「SS-ネメシス」コントロール転移!
スカー「バトルフェイズを終了し、ターン終了」
先攻:ウルフ / 手札:0 / LP:6400 ●●
フィールド…ライディング・ワールド-トップスピード
■…リバースカード
パ…グレイドル・パラサイト
ア…グレイドル・アリゲーター(装備) 対象:SS-ネメシス
報復…SS-ネメシス ATK/1900 DEF/1500 攻撃
□|パ| ア |□|■
□| □ |報復|□|□
□|□|憎|執念|□
■|□| □ | □ |■
憎…SS-ヘイト ATK/1000 DEF/1200 攻撃
執念…SS-ヴェンジェンス ATK/1800 DEF/1300 攻撃
■…リバースカード
後攻:スカー / 手札:1 / LP:6300 ●●
ウルフ「俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズに「ライディング・ワールド」にスピードカウンターが乗るぜ!」
ウルフ「さあて……なら俺も、本気を出してやろうか!」
本気。確かにこのウルフと言う男は、一度として攻めの姿勢を見せた事は無い。
また返してくる手も、どこかスカーを試しているようでもあった。
確かに「グレイドル」と言うモンスター群の性質上、攻めよりも守りの方が向いているであろう。
だが、攻めの手段を持たないわけではないとしたならば。
ウルフ「メインフェイズに、自分フィールドの「グレイドル・パラサイト」と装備カード扱いの「グレイドル・アリゲーター」を対象にし、墓地の「グレイドル・スライム」の効果発動!」
アン「墓地の……?」
ウルフ「自分フィールドの「グレイドル」カード2枚を破壊する事で、自身を墓地から特殊召喚する! 出ろ、「グレイドル・スライム」!」
「グレイドル・アリゲーター」「グレイドル・パラサイト」「SS-ネメシス」破壊!
砕け散るカードのヴィジョンの中、モンスターの特殊召喚によって新たなヴィジョンが構築される。
ウルフが召喚したモンスター。それはサーキットのコースから突如溢れ出る水のようなヴィジョンを以って出現する。
金属の球。一見してそう比喩するべきヴィジョン。その上部から細く伸びた一部が、人の上半身のような形に変わる。
出でるのは、細身の人間。ただし異様に細身にして、金属質な表面が、明らかな異物であると知らしめていた。
「グレイドル・スライム」 水 ☆5 ATK0/ DEF/2000
水族/チューナー/効果
「グレイドル・スライム」の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが手札・墓地に存在する場合、自分フィールドの「グレイドル」カード2枚を対象として発動できる。そのカードを破壊し、このカードを特殊召喚する。
②:このカードの①の効果で特殊召喚に成功した時、自分の墓地の「グレイドル」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
ウルフ「この方法で特殊召喚した「グレイドル・スライム」の、二つ目の効果発動! 自分の墓地の「グレイドル」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する!」
ウルフ「「グレイドル・イーグル」を、守備表示!」
「グレイドル・スライム」の下半身に当たる膨れた部分の一部が分離し、空中で別の物体となる。
何度かの蠢きの後、それは「グレイドル・イーグル」へと変容した。
「グレイドル・イーグル」蘇生!
アン「でも、守備表示なら攻撃はできない」
スカー「ああ、「グレイドル・イーグル」はな……」
アン「え?」
スカー「「グレイドル・スライム」は、チューナーだ」
チューナー。聞いた事がない単語に、アンは首を捻る。
スカー「チューナーと、チューナー以外のモンスターを墓地へ送る事で、そのレベルの合計と同じ数値を持つシンクロモンスターをエクストラデッキから特殊召喚する」
スカー「エクシーズ召喚と同じ特別な召喚方法、それがシンクロ召喚だ……」
その言葉で、アンは全てを理解する。ウルフの場にはチューナーがいて、チューナー以外のモンスターがいる。
そして、チューナーである「グレイドル・スライム」がわざわざモンスターを特殊召喚する効果を有すると言う事は、そのレベルの合計で出せるモンスターが存在すると言う事。
今、然したる問題も無く、その準備が整ってしまった事を。
ウルフ「分かっているなら話が早い! 俺はレベル3の「グレイドル・イーグル」に、レベル5の「グレイドル・スライム」をチューニング!」
ウルフが指定した2体のモンスターは光のヴィジョンと変わり、そしてその周囲には、それぞれのレベルと同じ数の星が現れる。
二つの光は星を引き連れて、上空に浮かび、一列に連なった。
ウルフ「ここから先が略奪の時間だ! 濁流の如き侵略の手が、哀れなる反逆も知るべき恐怖も奪い去る!」
ウルフの口上と共に、星は二つの光を囲う一つのリングとなる。
リングは二つの光を纏めるように小さくなり、そしてヴィジョンが眩い閃光を放った。
ウルフ「シンクロ召喚! 象れ、超常の権化! レベル8、「グレイドル・ドラゴン」!」
光の中から、体の奥底まで響くような「鳴き声」が轟く。
強く羽ばたく音。巨体が撓る音。光が弾け、そこに鎮座する、機械とさえ見紛う金属像の如き巨大なドラゴンの異生命。
長く撓る首の先には、「グレイドル・アリゲーター」の頭が。
力強く羽ばたき暴風を生むのは、「グレイドル・イーグル」の翼が。
下り、長い尻尾は蛇の胴のようで、その先にあるのは「グレイドル・コブラ」の姿が。
形容しがたい、しかし例える事は出来る存在がそこにいた。「異質なる怪物」。
「グレイドル・ドラゴン」 水 ☆8 ATK/3000 DEF/2000
水族/シンクロ/効果
水族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
「グレイドル・ドラゴン」の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがS召喚に成功した時、そのS素材とした水属性モンスターの数まで相手フィールドのカードを対象として発動できる。そのカードを破壊する。
②:このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、このカード以外の自分の墓地の水属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。
アン「で、でかい……攻撃力、3000……」
余りのヴィジョン、そしてそれが持つステータスに、アンは思わず言葉を漏らした。
ウルフ「攻撃力だけじゃねえぜ! 「グレイドル・ドラゴン」がシンクロ召喚に成功した時、効果発動!」
ウルフ「シンクロ素材に使用した水属性モンスターの数まで相手フィールドのカードを対象にして、破壊する!」
ウルフ「使用したモンスターは「グレイドル・スライム」と「グレイドル・イーグル」の2体……よって2枚のカードを破壊できる!」
2枚のカード。それはスカーのモンスターの数と同じであり、リバースカードの数と同じである。
リバースカードを全て破壊されればスカーに防御の手段は無くなり、モンスターを全て破壊されればスカーは攻撃力3000のダイレクトアタックを受ける事になる。
攻撃力3000のダイレクトアタック。攻撃力と攻撃手段がそのまま物理的なダメージに直結するデュエルに措いて、致死にもなる数値だ。
デッキの相性や残された可能性などを毟り取り、デュエリストの死を以ってデュエルが終わりかねない。
アン「ス、スカー。逃げて……」
このままでは、スカーが自分を守って死にかねない。アンは瞬間的にそう考え、そして、そう口にした。
スカー「ああ。奴を始末した後に、な」
だがスカーの背中からは、逃亡の意思は欠片たりとも感じられない。
二週目を終えようと、三度スカーとアンの二人に迫るウルフから視線を離さない。
ウルフ「勇ましいこった! だったら遠慮なく、割らせてもらうとしよう!」
ウルフ「破壊するのは2枚のリバースカードだ! やれ、「グレイドル・ドラゴン」! コズミカル・ジャック!」
破壊対象が決まり、「グレイドル・ドラゴン」の黒い眼が光を反射する。
一度だけ翼を羽ばたかせ、巨体を仰け反らせ、鎌首をもたげる。
咆哮と共に吐き出したのは、液体金属のような水のブレス攻撃であった。
濁流は地面を穢しながら、しかし自由意思を持つかのように統率的に目標へと向かう破壊のヴィジョン。
二手に分かれたそれは、スカーの前方に映るリバースカードのヴィジョンを飲み込んだ。
暫くして地面に溶けるかのようにブレスが消えた後、沈んでいったリバースカードのヴィジョンは同様に消滅していた。
「SSS-リベンジ・オブ・スカーズ」「SSS-傷だらけのララバイ」破壊!
ウルフ「これで憂いは断った! バトルフェイズ! 「グレイドル・ドラゴン」で「SS-ヘイト」を攻撃!」
ウルフと並走する「グレイドル・ドラゴン」のヴィジョンは、一際強くコースを蹴り砕く。
突発的な加速を得た怪竜は、攻撃対象の「ヘイト」の肉体を真横気味に踏み付けた。
巨体が加速を得て激突する衝撃は「ヘイト」諸共にサーキットのコースを踏み砕き、クレーターを作り、破片を撒き散らす。
「SS-ヘイト」破壊!
スカー「グッ……「SS-ヘイト」が戦闘で破壊され墓地へ送られた時、1枚ドローする」LP:6300→4300
そしてその間に、ウルフはスカーの隣をすり抜け、三週目に臨む。
ウルフ「おっと、ドローを許しちまったか! だが、お前のモンスターたちは手札とライフを削って効果を適用するらしいな」
ウルフ「だったら今のダメージは、かなりの痛手なんじゃねーの? ぎゃは、ハーッハッハ!」
ウルフ「バトルフェイズを終了し、ターンエンド!」
先攻:ウルフ / 手札:1 / LP:6400 ●●●
フィールド…ライディング・ワールド-トップスピード
■…リバースカード
ド…グレイドル・ドラゴン ATK/3000 DEF/2000 攻撃
□|□| □ |□|■
□|□|ド|□|□
□|□|□|執念|□
□|□|□| □ |□
執念…SS-ヴェンジェンス ATK/1800 DEF/1300 攻撃
後攻:スカー / 手札:2 / LP:4300 ●●●
スカー「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズ」
スタンバイフェイズに移行し、「ライディング・ワールド-トップスピード」に4つ目の互いのスピードカウンターが乗る。
次のウルフのターンにスピードカウンターは5つとなり、スピードカウンターを消費する効果の内二つ目が使用可能になる。
次のターンになれば、ウルフは状況に応じた「Sp」カードを手札に加える事ができる。
対してスカーにはその利点が無く、また、ウルフのデッキが明らかになった今、一つ目の攻撃力を上げる効果は殆ど意味を為さない。
スカーにとって真の意味で利用価値のある次の効果まで必要なカウンター3つ。のんびりと待っていられる余裕はない。
アン「スカー」
不安げなアンの声に、スカーは振り向く。
アン「勝てる?」
スカー「勝つ」
しかし現状からして、アンの不安は尤もだった。
よって、デュエルのペースを握る所から改めて始めねばなるまい。
スカー「スタンバイフェイズに、フィールドから墓地へ送られた「SS-ヴィンディクト」の効果発動!」
スカー「手札を1枚捨て、ライフを1000払い、墓地のこのカードを特殊召喚する」LP:4300→3300 捨てたカード→「SSS-ウィーカーズ・ハビタット」
スカー「傷の復讐を思い出せ、「SS-ヴィンディクト」!」
巻き上がる炎のヴィジョン。その中から、「ヴィンディクト」が持つ傷だらけの剣が伸びる。
力強く振り回されたそれによって炎のヴィジョンは散って消え、代わりに「ヴィンディクト」の小柄な体が現れた。
「SS-ヴィンディクト」復活!
剣を構える「ヴィンディクト」の後ろで、スカーは深く呼吸する。
スカー「復讐は、これからだ」
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