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Scar / 4:ハンター・ウルフ 作:げっぱ
左右には、干乾びかけている雑草がぽつぽつと見える、寂しい荒野。
罅が入ったコンクリートの道路の上を、スカーとアンは歩いていた。
スカーが先行し、アンが遅れて歩いている。その差、凡そ二歩分。
これは別に、男が先を歩いて安全を確認しているわけでも、旅の始まりであるにも関わらずの不仲でもない。
長らく歩き続けて、自然とこうなっていたのである。
歩き慣れているスカーと違って、アンは子供で体力が少なく、また遠出もした事がない。
時間が経つにつれてアンの歩みは遅くなり、それに気付いたスカーが歩幅を合わせて、それでも尚生まれた間は修正できない。
スカーの背後から、疲労交じりの長く深い呼吸が何度も聞こえる。
気まずくなり、足を止めて振り返って尋ねてみる。
スカー「大丈夫か?」
アン「……だいじょうぶ」
そうは言いながら、言葉は重い。アンの額に浮かぶ汗の量は尋常ではなく、足取りはどんどんと重くなっている。
じっと見てみれば、目の焦点も合っていないようにも見える。どう見ても、大丈夫な人間の姿ではない。
ここにきて、ついにスカーは痺れを切らした。
アンに詰め寄り、不思議そうに見上げるアンを無視して、その小さく軽い体を抱き上げる。
アン「わ……」
驚いて小さく声を上げるアンに構わず、スカーはアンを抱えたままに道路を外れ、荒野の適当な場所まで移動する。
都合の良い台になるものが無かったため、仕方なくその場にアンを下ろした。勿論、座らせる姿勢で、だ。
アン「あ、あの……」
恐る恐る、と言った様子で、アンはスカーを見つめる。
当のスカーと言えば、荷物から一枚の布を取り出し、軽く叩いてアンのすぐ背後の地面に広げていた。
そしてその上に自分の荷物を置き、アンに手を伸ばす。
反射的に体を震わすアン。スカーの手は、優しくアンの肩を掴み、またもう一方の手は、アンの背中に添えられた。
そして、至って優しく、労りながら、アンの体を横にさせる。アンの頭は、丁度スカーが置いた荷物の上に乗った。
枕代わりのそれは、色々なものが入っている所為で所々ごつごつとして、乗せ心地はあまり良くない。
しかしながら、そんなものは気にならないくらいに、スカーの優しさはアンに通じた。
スカー「誰も怒らないから、疲れたなら疲れたと言え」
アン「うん。ごめんなさい」
スカー「脚は痛くないか?」
アン「痛い」
スカーは「そうか」と返し、アンのぼろのズボンの裾を捲る。
十分に食事を得られていないアンの体は細く、触っても皮の後は骨しか感じない。何度か触ればようやく肉が見つかる程度だ。
だが今のアンの脚だけは、異常と解るくらいに腫れ上がっていた。
それを見たスカーは眉根を顰めた。そして、覚束ない手付きで揉み始める。
スカー「慣れてないんだ。痛いか?」
アン「痛い」
スカー「これくらいならどうだ」
アン「わかんない」
スカー「参ったな……」
頼もしい印象しかなかったスカーが、弱ったように眉を下げるのを見て、アンはつい笑ってしまった。
アンの囀るような笑い声で、スカーのその顔もすぐに戻ってしまったが、アンの笑いは止まらなかった。
アン「ごめんなさい」
スカー「何が」
アン「ありがとう」
スカー「何が?」
その時、二人はまるで気付かなかった。
自分たちの上空から見下ろす、液体金属のような異質な「表面」を持つ鷲の存在に。
* * *
その夜の事だった。二人は横に並び、眠っていた。スカーは体を横にし、アンに背中を向けて眠っている。
一方アンは、そのスカーの背中にすり寄るように眠っていた。スカーと似たような体勢になり、枕代わりの荷物から頭を離してまで。
ただし、スカーの配慮である布団代わりの布は、ちゃんと被ったまま。
周辺は風が吹く音しか聞こえない、静かな夜だった。
突如、スカーが目を見開き、覚醒するまでは。
スカーは素早く体勢を変え、地面にしっかりと耳を当てる。その地面を伝って聞こえるのは、アンの呼吸。そして、遠い地鳴り。
自走駆動の音、同時に、エンジン音。バイクが走行する音だ。
この世界でバイクや自動車を持てる者など数少ない。例外として、『カオスクロス』の構成員がいる。
『カオスクロス』は反逆者を「狩る」為の移動手段として、それらの乗り物を支給しているのだ。
これらの音は、即ち『カオスクロス』と言い換えても殆ど差し支えは無い。
普通ならば、即座に迎撃すべくその準備を始める。だが、スカーは安らかな寝息を立てるアンを見やる。
逃走も儘ならない疲労した状態のアンを傍に置きながら『カオスクロス』とデュエルをすればどうなるか。想像に難くない。
スカーは苦々しげに眉間に皺を寄せ、アンが被っている布を一思いに剥ぎ取った。
アン「ふわあっ……!?」
その拍子にアンは起き、みょうちきりんな声を上げる。構わず、スカーは自分とアンの体が布に隠れるように共に被る。
アン「なに、なに?」
スカー「喋るな、動くな」
鬼気迫る様相のスカーに、把握できないがこうせざるを得ない状況なのだと理解し、アンは押し黙る。ついでに、体を丸めてちゃんと隠れる。
間もなく、バイクのエンジン音が近くまで聞こえるようになり、二人からそれほど離れない場所で停車した。
場所を悟られないようにスカーは息を殺す。アンも見習って、息を止める。
「いないな……おい、本当にこの辺りなんだろうな?」
バイクが停車した位置と同じ場所で、若い男が誰かに話しかける。
しかし聞こえる限りの返答は無く、なのに男は「そうか……」とひとりごちる。
そしてスカーは、自分が気付かない間に、何者かに追跡されていた事をようやく知る。
野宿の痕を消したとはいえ、完全に誤魔化されるものではない。
見慣れた者にとっては、その後にどの方向へ歩いて行ったか、推察する事もできるはずだ。
そして、アンを引き連れた事によって、移動できる距離が普段の半分ほどになっている。追いつかれるのは当然とも言えた。
だがそれ以前に、普段ならば追跡に気付かないなどと言う失態は犯さない。
それをしてしまった理由と言えば、それもまた、間違いなくアンの存在だ。
今、スカーの懐で不安がるこの少女に気遣い、周囲への警戒が甘くなっていたのだ。
「まあ、この辺り一帯を燃やし尽くせばいいか」
その言葉に、スカーとアンの顔が歪んだ。
この破壊的な思想と躊躇いの無さは、デュエルディスクの装置による暴力に馴染んだ、紛れも無い『カオスクロス』の物。
捜索は、物言わぬ残骸となった後でも構わないと言うのか。
間もなく、デュエルディスクにカードがセットされる音が響く。
布に隠れたスカーたちには分かるはずもないが、その周囲に、数百もの火炎の球が飛来した。
それは、「デス・メテオ」のカード。一つ一つが隕石のように加速を得た火炎の玉は、地面に当たり、抉り、弾け、焼く。
熱風が吹き荒び、衝撃で地面が震え、例えばその場に居合わせたならば、この世の終わりとさえ思えるほど。
バイクに乗った『カオスクロス』の構成員を避けて、半径100mにも及ぶ範囲を破壊していく。
続けて発動される、「火炎地獄」のカード。放たれる炎は、「デス・メテオ」が起こした飛び火を飲み込み、地面を走って燃やす。
その炎は、発動者である構成員にまで襲い掛かった。当然である。「火炎地獄」のカードは、相手にダメージを与え、自分もダメージを受けるカードなのだから。
しかし、構成員は3枚目のカードを発動する。ダメージ効果を無効化する「ピケルの魔法陣」のカードだ。
その瞬間に、構成員を囲うような魔法陣のサークルが現れ、そこから浮き上がる光の壁が、「火炎地獄」の炎を弾いた。
そんな一瞬の手間の後に、カードによる破壊は終わり、そして漂う黒煙。
風に流されて消える黒煙の中を、構成員は見回す。
その中に、光輝く何かがあった。
構成員が注視するその輝きの中に、デュエルディスクを構えたスカーと、その傍で怯えながら横たわるアンの姿。
そして、二人を護るように前に出た、「ハネワタ」のヴィジョンがあった。役割を終えた「ハネワタ」は、周囲の炎と共に消える。
それを見つけた構成員は、口角を鋭く釣り上げる。
「驚いたねえ、まさか生きているとは! 中々の反応だ」
遂に『カオスクロス』の構成員と対峙したスカーは、結局はこの事態に陥ってしまった事に舌打ちを響かせた。
相手はバイクで移動し、素早く反逆者を発見して狩る、「ハンター」と呼ばれる構成員だ。
ハンターはデュエルディスクを装着しない。代わりに移動手段であるバイクが、デュエルディスクと一体化した特注品。
『カオスクロス』は「D(デュエル)・ホイール」と呼ぶそれが、奴らの武器なのだ。
「俺は『カオスクロス』のハンター、ウルフ」
ウルフ「お前だろう? 『カオスクロス』の構成員を倒した挙句、デッキまで奪った命知らずは」
ウルフ「いや、そんな事はどうでもいいか。俺の襲撃を回避した。それだけで『カオスクロス』への反逆は……」
そこで、ウルフの言葉は切れた。その視線はスカーの背後、アンへと注がれている。
咄嗟に庇うように、スカーはアンの前に出てその視線を遮る。
ウルフ「オイオイ、ガキも一緒かよ。それも女」
ウルフの口から、下卑た声が漏れ出る。
ウルフ「だったら、尚更お前は始末する。でもってそのガキは俺が貰っていこう」
ウルフ「女のガキは大好きなんだが、探しても中々見つからなくてなあ。しかも痩せこけちゃいるが美人。こいつは久々に楽しめそうだ!」
スカー「黙れ」
スカーの中に、真っ赤な殺意が煮え滾る。この男、ウルフは『カオスクロス』の構成員だ。それだけでスカーにとっては排除の対象となる。
だがそれ以前にこの男は、人間として屑であり、下衆であり、何より存在を赦し難い。
カードによる破壊に慣れ、他者から奪う事に躊躇いは無く、踏み躙る事に悦びを覚える。
それを止めるには、命ごと破壊する以外に無い。どの道、『カオスクロス』に与する者を見逃すつもりはないのだから。
スカー「二度と、喋れないようにしてやる」
スカーはデュエルディスクを胸の前に構え、ウルフを睨み付ける。
アン「ス、スカー……」
不安げに、アンが呼ぶ。スカーはちらりと振り返り、しかしすぐにウルフに視線を戻す。
ただ、一言だけ返して。
スカー「お前は守る」
その話を聞いていたウルフが、ゲラゲラと下品な高笑いを響かせる。
笑いを堪えきれないとでも言うように、D・ホイールのハンドルを何度も叩く。
ウルフ「泣かせるじゃねえか。大事な大事なベイビーちゃんを、命を懸けて守るんだろ?」
ウルフ「面白い面白い。やって見せろよカスが! デュエルモード、起動!」
ウルフは吠え、D・ホイールのエンジンを吹かす。
同時に、D・ホイールに搭載されたデュエルシステムが作動したのだろう、スカーのデュエルディスクが、正面のD・ホイールをデュエルの対象と認識した。
ウルフはアクセルを踏み締め、D・ホイールを走らせる。スカー達の隣を抜け、円のような軌道を描いて加速を付ける。
ハンターたちにとって、スピードは重要なものだ。デュエルの最中に相手を翻弄し、また逃亡を許さない。
十分な加速を得たウルフは、その勢いのままにスカーへと突っ込んできた。
アン「こっちに来る」
スカー「動くな」
だが、スカーは動かない。動いてアンの傍を離れるような事があれば、アンを危険に晒してしまうからだ。
また逆に、スカーが傍にいる限り、ウルフはアンに迂闊な真似はできない。
先ほどの装置を使ったやり取りで、デュエル外でのスカーの腕は把握したはずだからだ。
よって決着は当然のようにデュエルへと流れ込む。
ウルフ「さあ、始めようぜ!」
スカー&ウルフ「デュエル!」
宣言の瞬間、二人のデュエリストは擦れ違いながら初期手札のドローを交わす。
スピードから生み出される烈風を浴び、スカーの衣類がはためいた。
スカーのデュエルディスクには、後攻の表示。続いて、ライフポイントが表示される。
そしてウルフは、にたりと笑った。
ウルフ「デュエルが開始したこの瞬間、デッキからフィールド魔法「ライディング・ワールド-トップスピード」を発動!」
罅が入ったコンクリートの道路の上を、スカーとアンは歩いていた。
スカーが先行し、アンが遅れて歩いている。その差、凡そ二歩分。
これは別に、男が先を歩いて安全を確認しているわけでも、旅の始まりであるにも関わらずの不仲でもない。
長らく歩き続けて、自然とこうなっていたのである。
歩き慣れているスカーと違って、アンは子供で体力が少なく、また遠出もした事がない。
時間が経つにつれてアンの歩みは遅くなり、それに気付いたスカーが歩幅を合わせて、それでも尚生まれた間は修正できない。
スカーの背後から、疲労交じりの長く深い呼吸が何度も聞こえる。
気まずくなり、足を止めて振り返って尋ねてみる。
スカー「大丈夫か?」
アン「……だいじょうぶ」
そうは言いながら、言葉は重い。アンの額に浮かぶ汗の量は尋常ではなく、足取りはどんどんと重くなっている。
じっと見てみれば、目の焦点も合っていないようにも見える。どう見ても、大丈夫な人間の姿ではない。
ここにきて、ついにスカーは痺れを切らした。
アンに詰め寄り、不思議そうに見上げるアンを無視して、その小さく軽い体を抱き上げる。
アン「わ……」
驚いて小さく声を上げるアンに構わず、スカーはアンを抱えたままに道路を外れ、荒野の適当な場所まで移動する。
都合の良い台になるものが無かったため、仕方なくその場にアンを下ろした。勿論、座らせる姿勢で、だ。
アン「あ、あの……」
恐る恐る、と言った様子で、アンはスカーを見つめる。
当のスカーと言えば、荷物から一枚の布を取り出し、軽く叩いてアンのすぐ背後の地面に広げていた。
そしてその上に自分の荷物を置き、アンに手を伸ばす。
反射的に体を震わすアン。スカーの手は、優しくアンの肩を掴み、またもう一方の手は、アンの背中に添えられた。
そして、至って優しく、労りながら、アンの体を横にさせる。アンの頭は、丁度スカーが置いた荷物の上に乗った。
枕代わりのそれは、色々なものが入っている所為で所々ごつごつとして、乗せ心地はあまり良くない。
しかしながら、そんなものは気にならないくらいに、スカーの優しさはアンに通じた。
スカー「誰も怒らないから、疲れたなら疲れたと言え」
アン「うん。ごめんなさい」
スカー「脚は痛くないか?」
アン「痛い」
スカーは「そうか」と返し、アンのぼろのズボンの裾を捲る。
十分に食事を得られていないアンの体は細く、触っても皮の後は骨しか感じない。何度か触ればようやく肉が見つかる程度だ。
だが今のアンの脚だけは、異常と解るくらいに腫れ上がっていた。
それを見たスカーは眉根を顰めた。そして、覚束ない手付きで揉み始める。
スカー「慣れてないんだ。痛いか?」
アン「痛い」
スカー「これくらいならどうだ」
アン「わかんない」
スカー「参ったな……」
頼もしい印象しかなかったスカーが、弱ったように眉を下げるのを見て、アンはつい笑ってしまった。
アンの囀るような笑い声で、スカーのその顔もすぐに戻ってしまったが、アンの笑いは止まらなかった。
アン「ごめんなさい」
スカー「何が」
アン「ありがとう」
スカー「何が?」
その時、二人はまるで気付かなかった。
自分たちの上空から見下ろす、液体金属のような異質な「表面」を持つ鷲の存在に。
* * *
その夜の事だった。二人は横に並び、眠っていた。スカーは体を横にし、アンに背中を向けて眠っている。
一方アンは、そのスカーの背中にすり寄るように眠っていた。スカーと似たような体勢になり、枕代わりの荷物から頭を離してまで。
ただし、スカーの配慮である布団代わりの布は、ちゃんと被ったまま。
周辺は風が吹く音しか聞こえない、静かな夜だった。
突如、スカーが目を見開き、覚醒するまでは。
スカーは素早く体勢を変え、地面にしっかりと耳を当てる。その地面を伝って聞こえるのは、アンの呼吸。そして、遠い地鳴り。
自走駆動の音、同時に、エンジン音。バイクが走行する音だ。
この世界でバイクや自動車を持てる者など数少ない。例外として、『カオスクロス』の構成員がいる。
『カオスクロス』は反逆者を「狩る」為の移動手段として、それらの乗り物を支給しているのだ。
これらの音は、即ち『カオスクロス』と言い換えても殆ど差し支えは無い。
普通ならば、即座に迎撃すべくその準備を始める。だが、スカーは安らかな寝息を立てるアンを見やる。
逃走も儘ならない疲労した状態のアンを傍に置きながら『カオスクロス』とデュエルをすればどうなるか。想像に難くない。
スカーは苦々しげに眉間に皺を寄せ、アンが被っている布を一思いに剥ぎ取った。
アン「ふわあっ……!?」
その拍子にアンは起き、みょうちきりんな声を上げる。構わず、スカーは自分とアンの体が布に隠れるように共に被る。
アン「なに、なに?」
スカー「喋るな、動くな」
鬼気迫る様相のスカーに、把握できないがこうせざるを得ない状況なのだと理解し、アンは押し黙る。ついでに、体を丸めてちゃんと隠れる。
間もなく、バイクのエンジン音が近くまで聞こえるようになり、二人からそれほど離れない場所で停車した。
場所を悟られないようにスカーは息を殺す。アンも見習って、息を止める。
「いないな……おい、本当にこの辺りなんだろうな?」
バイクが停車した位置と同じ場所で、若い男が誰かに話しかける。
しかし聞こえる限りの返答は無く、なのに男は「そうか……」とひとりごちる。
そしてスカーは、自分が気付かない間に、何者かに追跡されていた事をようやく知る。
野宿の痕を消したとはいえ、完全に誤魔化されるものではない。
見慣れた者にとっては、その後にどの方向へ歩いて行ったか、推察する事もできるはずだ。
そして、アンを引き連れた事によって、移動できる距離が普段の半分ほどになっている。追いつかれるのは当然とも言えた。
だがそれ以前に、普段ならば追跡に気付かないなどと言う失態は犯さない。
それをしてしまった理由と言えば、それもまた、間違いなくアンの存在だ。
今、スカーの懐で不安がるこの少女に気遣い、周囲への警戒が甘くなっていたのだ。
「まあ、この辺り一帯を燃やし尽くせばいいか」
その言葉に、スカーとアンの顔が歪んだ。
この破壊的な思想と躊躇いの無さは、デュエルディスクの装置による暴力に馴染んだ、紛れも無い『カオスクロス』の物。
捜索は、物言わぬ残骸となった後でも構わないと言うのか。
間もなく、デュエルディスクにカードがセットされる音が響く。
布に隠れたスカーたちには分かるはずもないが、その周囲に、数百もの火炎の球が飛来した。
それは、「デス・メテオ」のカード。一つ一つが隕石のように加速を得た火炎の玉は、地面に当たり、抉り、弾け、焼く。
熱風が吹き荒び、衝撃で地面が震え、例えばその場に居合わせたならば、この世の終わりとさえ思えるほど。
バイクに乗った『カオスクロス』の構成員を避けて、半径100mにも及ぶ範囲を破壊していく。
続けて発動される、「火炎地獄」のカード。放たれる炎は、「デス・メテオ」が起こした飛び火を飲み込み、地面を走って燃やす。
その炎は、発動者である構成員にまで襲い掛かった。当然である。「火炎地獄」のカードは、相手にダメージを与え、自分もダメージを受けるカードなのだから。
しかし、構成員は3枚目のカードを発動する。ダメージ効果を無効化する「ピケルの魔法陣」のカードだ。
その瞬間に、構成員を囲うような魔法陣のサークルが現れ、そこから浮き上がる光の壁が、「火炎地獄」の炎を弾いた。
そんな一瞬の手間の後に、カードによる破壊は終わり、そして漂う黒煙。
風に流されて消える黒煙の中を、構成員は見回す。
その中に、光輝く何かがあった。
構成員が注視するその輝きの中に、デュエルディスクを構えたスカーと、その傍で怯えながら横たわるアンの姿。
そして、二人を護るように前に出た、「ハネワタ」のヴィジョンがあった。役割を終えた「ハネワタ」は、周囲の炎と共に消える。
それを見つけた構成員は、口角を鋭く釣り上げる。
「驚いたねえ、まさか生きているとは! 中々の反応だ」
遂に『カオスクロス』の構成員と対峙したスカーは、結局はこの事態に陥ってしまった事に舌打ちを響かせた。
相手はバイクで移動し、素早く反逆者を発見して狩る、「ハンター」と呼ばれる構成員だ。
ハンターはデュエルディスクを装着しない。代わりに移動手段であるバイクが、デュエルディスクと一体化した特注品。
『カオスクロス』は「D(デュエル)・ホイール」と呼ぶそれが、奴らの武器なのだ。
「俺は『カオスクロス』のハンター、ウルフ」
ウルフ「お前だろう? 『カオスクロス』の構成員を倒した挙句、デッキまで奪った命知らずは」
ウルフ「いや、そんな事はどうでもいいか。俺の襲撃を回避した。それだけで『カオスクロス』への反逆は……」
そこで、ウルフの言葉は切れた。その視線はスカーの背後、アンへと注がれている。
咄嗟に庇うように、スカーはアンの前に出てその視線を遮る。
ウルフ「オイオイ、ガキも一緒かよ。それも女」
ウルフの口から、下卑た声が漏れ出る。
ウルフ「だったら、尚更お前は始末する。でもってそのガキは俺が貰っていこう」
ウルフ「女のガキは大好きなんだが、探しても中々見つからなくてなあ。しかも痩せこけちゃいるが美人。こいつは久々に楽しめそうだ!」
スカー「黙れ」
スカーの中に、真っ赤な殺意が煮え滾る。この男、ウルフは『カオスクロス』の構成員だ。それだけでスカーにとっては排除の対象となる。
だがそれ以前にこの男は、人間として屑であり、下衆であり、何より存在を赦し難い。
カードによる破壊に慣れ、他者から奪う事に躊躇いは無く、踏み躙る事に悦びを覚える。
それを止めるには、命ごと破壊する以外に無い。どの道、『カオスクロス』に与する者を見逃すつもりはないのだから。
スカー「二度と、喋れないようにしてやる」
スカーはデュエルディスクを胸の前に構え、ウルフを睨み付ける。
アン「ス、スカー……」
不安げに、アンが呼ぶ。スカーはちらりと振り返り、しかしすぐにウルフに視線を戻す。
ただ、一言だけ返して。
スカー「お前は守る」
その話を聞いていたウルフが、ゲラゲラと下品な高笑いを響かせる。
笑いを堪えきれないとでも言うように、D・ホイールのハンドルを何度も叩く。
ウルフ「泣かせるじゃねえか。大事な大事なベイビーちゃんを、命を懸けて守るんだろ?」
ウルフ「面白い面白い。やって見せろよカスが! デュエルモード、起動!」
ウルフは吠え、D・ホイールのエンジンを吹かす。
同時に、D・ホイールに搭載されたデュエルシステムが作動したのだろう、スカーのデュエルディスクが、正面のD・ホイールをデュエルの対象と認識した。
ウルフはアクセルを踏み締め、D・ホイールを走らせる。スカー達の隣を抜け、円のような軌道を描いて加速を付ける。
ハンターたちにとって、スピードは重要なものだ。デュエルの最中に相手を翻弄し、また逃亡を許さない。
十分な加速を得たウルフは、その勢いのままにスカーへと突っ込んできた。
アン「こっちに来る」
スカー「動くな」
だが、スカーは動かない。動いてアンの傍を離れるような事があれば、アンを危険に晒してしまうからだ。
また逆に、スカーが傍にいる限り、ウルフはアンに迂闊な真似はできない。
先ほどの装置を使ったやり取りで、デュエル外でのスカーの腕は把握したはずだからだ。
よって決着は当然のようにデュエルへと流れ込む。
ウルフ「さあ、始めようぜ!」
スカー&ウルフ「デュエル!」
宣言の瞬間、二人のデュエリストは擦れ違いながら初期手札のドローを交わす。
スピードから生み出される烈風を浴び、スカーの衣類がはためいた。
スカーのデュエルディスクには、後攻の表示。続いて、ライフポイントが表示される。
そしてウルフは、にたりと笑った。
ウルフ「デュエルが開始したこの瞬間、デッキからフィールド魔法「ライディング・ワールド-トップスピード」を発動!」
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遊星以上に無口で無愛想ですが確かな優しさのある主人公ですね。さて、かなり小物臭がするウルフさんですが、その実力は如何に?って言うかアクセラレーション? (2015-12-07 15:44)
コメントありがとうございます。
スカーにはロリータ大好き疑惑があり、優しいのはアン限定だからと言う説がありますが、その真偽は話が展開すると同時に判明すると思います。ウルフさんは全身生身なので残念ながらバイクと合体はしませんが、一人アクセラレーションでデュエルを盛り上げてくれると信じています。 (2015-12-08 00:30)