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HOME > 遊戯王SS一覧 > Scar / 3:スカー

Scar / 3:スカー 作:げっぱ

デュエルを終え、男はアンにデッキの見直しを命じた。
実際に動かしてみて必要なカード、不要なカードの見極めがある程度できただろう。
先ほどのデュエルのように、全てが上手くいく事など殆どないのだ。
命が懸かっている以上、事故を軽減するのは当然だ。と言う説明をすれば、アンはすぐに納得した。

アン「ねえ」

それが一区切りついた時、アンはデッキを置いて男を呼ぶ。
アンにアドバイスしながらも、同時に自分のデッキを調整していた男は、同じようにデッキを置き、アンへと向き直る。

男「どうした?」

アン「あなたは、これからどうするの?」

男「『カオスクロス』を潰す」

即答であった。答える速さもさる事ながら、その語気にも、男の揺るぎない強い意志が感じ取れる。
それほどまでに、男の因縁は深い。どうしても果たさなければならない復讐があるのだから。

それを聞いて、アンは顔を伏せる。何かを決めあぐねいているような、そんな様子でもある。
アンはデッキを手に取り、シャッフルを始める。おもむろに止めたと思えば、その一番上のカードをめくった。
何の因果か「隻眼の水龍」のカード。それを見て、アンは覚悟を決めたらしい。

一呼吸挟んで顔を上げ、男に頼む。

アン「私も一緒に行っちゃ、だめ?」

その願いは、男にも察しがついていた。そしてその答えは、男の意思に関わらず、既に決まっていた。
男の推測では、アンは今まで一人で生きていた。しかし、住み家の近くに『カオスクロス』の構成員が現れた。
その構成員は男が倒してしまい、そうなれば新たな構成員が調査に派遣されるだろう。もうあの場所には住めない。となれば、生活の場所を移さなければならない。
その最中、幼い少女はどれだけ狙われる事だろう。如何に男の付け焼刃を駆使したところで、狩られるのが関の山だ。

当然、男が行く先だって修羅の道だ。しかし、アンを一人にするのに比べれば、男自身の手で守れるだけマシと言うもの。

この少女を救ってしまった時点で、男に選択肢など無いのだった。

男「好きにしろ」

アン「好きにする」

味気ないやり取りで、男の連れ添いが決まった。

アン「アン」

男「なに?」

アン「私の名前。アン」

唐突な自己紹介で、そう言えばこの少女の名前を知らなかったなと、男は自分に半ば呆れる。
そんな様でよくもデュエルができたものだが、思えばデュエル中に相手の名を呼ぶ方が珍しいのだ。

アン「あなたは?」

男「名前は無い。捨てた」

事も無げに、男は言った。

アン「捨てた……?」

男「ああ。大事なものだった。『カオスクロス』との傷付くだけの戦いには、持っていけなかった」

アン「……そっか」

アンも、何か察したらしく、それ以上は追及しなかった。

その日、二人は眠くなるまでデッキを調整した。

   *   *   *

朝になり、二人がまずやった事と言えば、穴を掘る事だった。
傍に穴を掘り、焚き火の燃えカスをそこに放って埋める。
野宿の痕を消す事で、追跡を逃れる意味がある。生活の痕を残せば、『カオスクロス』が追ってくる事があるのだ。

男「だから、気を付けろ」

アン「わかった」

拾い切れなかった燃えカスを、足で払って地面と馴染ませるところまで見せる。
アンは男の一挙手一投足に注視し、頷き、憶えようと努力している。

男「これくらいでいい」

アン「うん」

それから朝食をとり、デッキの不備がない事を確認して、デュエルディスクにセット。
男は荷物を肩に背負って、アンを見下ろす。

男「よし、行くぞ」

アン「うん……」

歯切れの悪い返答だったが、まさか今になって同行が嫌になったと言う事もあるまい。恐らくは旅の不安が出ているだけだ。
男は敢えて構わず、歩き始める。


アン「ねえ……スカー!」


何歩か歩いたところでアンが男を、恐らく呼び止めた。
男は振り返り、動かないアンに問いかける。

男「それは、俺の事か?」

アン「うん。名前、無いって言ったから」

アン「それで、「スカーソルジャー」を使うから」

アン「だめ? いや?」

言葉の裏などまるでない、無感情な声音でアンは尋ねた。
アンは分かっていないだろうが、「スカー」とは傷跡の意だ。アンに他意は無く、単純に呼び名があれば苦労しないと考えただけだろう。また、男に相応しいと言えば、それ以上の言葉は無い。
偶然か、ある意味必然か……とにかく男は、少しだけ微笑んだ。


「いや」


スカー「それでいい」


嫌味などではなく、男……スカーは素直に、その命名を受け取った。
アンは嬉しそうにはにかみ、小さな歩幅で、スカーに歩み寄る。
そうして二人は並んで、地平線をなぞる赤い空と黒い雲に向かって歩き始めた。
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