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【DAY4】カゼミネと活路 作:ギガプラント
~あの頃の話~
「邪帝ガイウスでダイレクトアタック。」
「うわ~ん!また負けました~!」
カードショップの一室でまた声があがる。
「うーん、今のはちょっといけそうだったんだけどね。今の盤面が作れたなら最初から飛ばしていって良かったかもね。」
「くぅ~!はい!頑張ります先輩!」
この後輩少女と戦うのも何度目か。
因みに俺は一度たりとも負けていない。
筋は悪くない。だがそれでも平凡に毛が生えた程度だ。こういっては難だが俺を負かす程の実力は無いだろう。
しかしながら戦う度に少しずつだが腕を上げているようにも思える。油断は禁物だ。
とまぁ俺が何故ここまで彼女と戦ってきたかというと…。
「よし、次こそ絶対勝つ…!」
「ふふ~ん、そう簡単にはやらせないわよ?」
「せんぱ~い!ファイトです!」
後輩に勝つことを条件に出された彼女とのデュエル。難なくクリアし遂に彼女へのリベンジマッチが叶った訳だが…。
~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~
「俺のターン……ドロー!」
(くっ……このカードでは…。)
「ターンエンド…。」
「私のターン!これで最後!攻撃!」
「…俺の敗けか。」
あっさり過ぎる程に俺はまたも敗北を喫した。
正直ショックは大きかった。もしかしたらあれは偶然だったんじゃかいかと心の何処かで思っていたのかもしれない。しかし彼女の強さは夢でも幻でもなく本物だった。その力は間違いなく俺のそれを超えており、現実に俺のライフを削り取る。
次の瞬間、テーブルの下で拳を握り締めていた俺に彼女はこう言った。
「ようし、じゃあまた私の可愛い後輩ちゃんの対戦相手になってあげてね?」
「…えっ?」
「ふふん♪ゲームオーバーになったらまた最初のステージからよ?」
「次は負けませんよ~!」
俺と違って彼女は呑気なものだった。あちらからすればただ一度ゲームに勝ったというだけなんだろう。
~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~
「ダイレクトアタック!」
「くっ……ここまでか…!」
そうして俺は後輩女子と彼女と交互に戦っている。一勝でもすればこのループも何か変わるような気がしたが、いつでも結果は後輩女子には勝ち、彼女には敗けといった具合、ずっと変わらなかった。
しかしそんな中確かに変わっていたものがある。それは意外にも…
「よし!次だ!今度こそ勝たせてもらうぞ…!」
「おぉ…!熱くなってきたね。でもそう簡単には勝たせてあげないよ。」
「せんぱ~い!頑張って!いつか私が勝つその時まで~!」
「行くぞ。俺のターン!」
同じような戦いを繰り返すだけだったのだが、不思議と飽きがくることはなかった。
寧ろ俺はあの時、間違いなくデュエルを楽しんでいたんだと思う。その理由まではよく分からなかったが。
「なんかさ」
「え?」
「君、初めてあった時より良い顔してるね。」
満面の笑みで彼女はそう言った
「な、なんだ急に…。」
「ううん。ただちょっと思っただけ。」
心臓が熱くなった。心の奥底が揺さぶられたような感じがした。
軽く一呼吸してそれを静める。
「あれ~?どうかしました~?顔赤いですよ~?」
「もしかして疲れちゃった?ずーっとデュエルし通しだもんね。」
「だ、大丈夫だなんでもない。俺はまず魔法カード……」
落ち着け俺。顔がなんだっていうんだ。集中を切らして勝てる相手じゃないぞ。
気を取り直して戦う。けれどやはりまた一歩及ばない。反省点を軽く頭に染み込ませてまた後輩女子とのデュエルが始まる。
そんな日々が何日も続いた。
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
遊路「パスワードが書き換えられたって……」
美羽「ドアが開けられないってこと!?」
みねこ「うっそん!!みねこ達みんな閉じ込められちゃったのぉ!!?」
浜池「どうして……」
三宅「おぉい!館長!」
足音がズカズカと近づいてくる。方向からして三宅プロだろう。
桜庭「あ痛て!」
三宅「ったく突っ立ってんなグズ!」
桜庭「なんも見えないんだから仕方ないじゃないすか~」
途中で誰かにぶつかったらしい。イライラした声が聞こえる。
三宅「なんなんだこれは!聞いてねえぞ!」
浜池「す、すみませ……」
遊路「落ち着いてくれ三宅プロ。無闇に動き回ると危ないぞ。」
三宅「んだコラ!?さてはてめぇの仕業か風峰遊路?」
遊路「違う…俺にもよく判っていないんだ。ただ急に停電が起きて…」
みねこ「かんちょーさんでも電気つけられないんだって~!アセアセ」
三宅「なんだと!?なんでそんな……」
三宅「ふざけんな!0時になったら爆発すんだろ!?このままじゃ全員生き埋めじゃねーえか!!」
美羽「遊路…!」
遊路「一旦落ち着いてくれ。館長、やっぱり駄目ですか?」
浜池「何度試しても駄目です……館長権限で電源管理ができる筈なんですけど、パスワードが入力できないと…。」
美羽「他に手はないんですか!?」
浜池「…外からなら、なんとかなるとは思いますが。」
遊路「なら……先ずは外に連絡を…。」
浜池「すみません、此処電波届かないんです。」
美羽「そんな!?」
みねこ「えー?ってホントだー!全然繋がらな~い!」
遊路(なんてこった…。)
三宅「あぁもうなんでもいい!外からぶっ壊すなりしてとっとと出られるようにしろ!」
美羽「ちょっと…!そんな無茶な…!!」
三宅「じゃあどうすんだよ!死にてえのか!?」
美羽「っ……。」
浜池「…この美術館の壁や天井は特殊合金を使った特別製なんです。このまま此処にいればいつかは助けが来るとは思いますが、0時にはとても…。」
みねこ「あわわわわピンチピンチ!!」
三宅「クソっ!」
遊路(これもネバギバチャレンジャーの仕業だっていうのか…!?)
遊路(こんなことならザラメを連れてくるんだった…!)
事件当初の状況の完全再現という名目での検証であった為、遊路もそれに習って『S・HERO』以外のカードは持ち合わせていない。今頃は自宅で二人の愛娘にモフモフされているかもしれない。
桜庭「あー俺等ここで終わりなんすか……?そんなぁ…。」
浜池「…………」
遊路(落ち着け……0時までまだ数時間はある。手はある筈だ。)
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
シントーキョーデュエルミュージアムは警察関係者によって包囲されていた。
電話が繋がらず、隔壁が閉じられ停電が起きているこの異様な状況に違和感を持った警察が最低限の安全を確保しようと行ったことだが、全くもって根本的な解決には至っていない。何しろ詳しい状況が掴めない為、変に行動を起こす訳にはいかないのだ。
ただでさえ電子ロックの解除や内壁の破壊には高度な技術が必要であり、たった数時間でそれを揃えるのはかなり厳しいものがあるのに、それを独断で進めるわけにはいかない。
無力を痛感する苛立ちと爆発の恐怖で現場はピリついていた。
「中からの通信はまだないのか!」
「窓くらいはなんとかなるんじゃないですか?」
「窓のドアも特殊合金のシャッターがかかってるから無理だ。ダイナマイトでも使わなきゃ傷一つつかない。」
「中に!中に旦那がいるんです!無事なんですよね!?」
「落ち着いて!テープの中に入らないで下さ~い!」
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
雛里(スヤスヤ……)
大和「………」
風峰家。
子供が起きているには遅い時間、テレビの音だけが部屋に響いていた。
遊月「あれ?大和、起きていたんですか?」
大和「………」
遊月「いけませんよ夜更かしをしては。とと様達は夜中まで帰ってきませんから……」
大和「………」
遊月「大和?」
大和「かか様……」
アナウンサー「美術館は防犯用の防壁が全て下ろされた状態で完全に停電しており、外からの干渉が非常に難しいとのことです」
アナウンサー「先日行われたカテゴリアワードにてShinTokyo-Duelist Museum
を爆破する旨の脅迫文が送られており、警察では関連性を調べております。」
アナウンサー「尚、美術館内に取り残されている人の中には、プロデュエリストの風峰遊路選手、三宅蘭次郎選手等も含まれ……」
遊月「えっ……?」
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
遊路達が閉じ込められてから何時間か経った頃。
始めは戸惑いを隠しきれなかった人達も少しずつだが落ち着きを取り戻している。
美羽「…………」
浜池「…………」
みねこ「…………」
桜庭「…………」
遊路(やっぱり救助を待つのは得策じゃないか…。)
遊路(このままじゃ……!!)
三宅「おい、風峰遊路か。」
遊路「ん…?三宅プロか…。」
遊路「悪い……今は助けを待つ以外…」
三宅「…ホントにどうしようもねーのかよ?」
暗闇の中で聞こえた声は意外にも落ち着いていた。
遊路「えっ?」
三宅「ぶっ壊せねえのは分かった。けどよ、こういうデケえ建物ってなぁなんか抜け道みてぇのがあったりするんじゃねえのか?」
遊路「抜け道って…ゲームじゃあるまいし流石に無いんじゃないか?」
三宅「抜け道ってか……なんか、あんだろこう……天井から他の部屋とかに繋がってるやつ!」
遊路「エアダクトのことか?あるかもしれんがとても外にまでは…。」
三宅「んなもんやってみなきゃ分かんねーだろうが。それに他の部屋に行けるだけでも大分違うだろ。」
遊路「……そうだな。何もしないよりはマシだ。」
無意味かもしれない。徒労に終わるかもしれない。しかし何もしなければ何も変わることはない。
遊路は頭を切り替えると再び浜池館長に呼び掛ける。
遊路「浜池館長!ちょっといいですか?」
浜池「えっ…?はい、此処にいます。」
何分暗闇の為逐一位置確認が必要となる。
先程三宅プロがスムーズに近づいてきたのは、遊路の携帯の僅かな光を辿ったのだろう。
遊路「この部屋ってエアダクトか何かありませんか?もしかしたら別の部屋に繋がっているかもと思って。」
浜池「エアダクト…ですか?う、うーん何処かにあったかしら…?」
桜庭「ああああ!そういえばありましたねダクト!確か、あっちの壁の上んとこに!」
桜庭がライトの小さな光を天井付近に照らしていく。
そしてある一点でそれが止まった。
桜庭「あそこあそこ!ありました……けど。」
みねこ「おぉー高いねー。」
美羽「流石にあそこまで登るのは…。」
確かにそこにはギリギリ人一人通れそうなエアダクトが設置されていた。
しかし当然ながらその場所は天井付近であり、それなりの高さがある。ざっと見積もっても5m以上はあるだろう。
浜池「あそこに入るのは難しいと思います。……それに入れたとして外に出られるかどうか。」
三宅「でも他に手は無えんだろ!?じゃあやるしかねえだろうが!生き埋めになりてえのか!」
浜池「い、いえ…。」
美羽(爆弾魔みたいな脅し方だなぁ…。)
三宅「誰か一人でも外に……いや別の部屋に行けりゃあ外に電話が繋がるかもしれねぇ。」
遊路「しかしあの高さだ……どうしたものか。」
みねこ「ゆーじさんゆーじさん。あれ見て見て!」
遊路「あれは…。」
中継される前提のデュエルフィールドが設置された部屋ということで、天井からは幾つもの照明器具がぶら下がっており、それ等を細かく調節できるようにする為か多くの鉄柱のようなものがアスレチックの如く張り巡らされている。
みねこ「上に登れさえすればヒョイヒョイって行けるんじゃないかなぁ?」
遊路「確かに不可能ではなさそうだ。」
遊路(しかし誰が行く?俺が行くにしても辿り着けるか…?そもそもあの高さまでどうやって…。)
みねこ「みねこが行ってくる!」
遊路「え?」
みねこ「う~んと…肩車に肩車してもらえばあそこに手が届くと思う。あとはヒョイヒョイって!」
三宅「おい、お前本当に行けるのか?今適当な事言ったらぶっ飛ばすぞ。」
みねこ「うん!任せてらんじろー君!みねこ木登りとかは得意だから!」
遊路「…正直こんな危険な事は頼みたくないんだが、他に手は無さそうだな。」
ざっと見て回ったところ脚立のような物は無い。高さを確保するには二重肩車くらいしか方法が無いのだが、言うまでもなく危険極まりない。
そして実際に登るとなると小柄な人物の方が好ましい。暗いので全員の体格を把握しているわけではないが、この中で一番小柄で体重が軽そうなのは美羽、次点でみねこだろう。
暗闇で天井を伝ってエアダクトに侵入するなんて軽業のような真似は、とてもじゃないが美羽にできると思えない。
そう考えると他に選択肢は無かった。
三宅「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!」
遊路「だ、大丈夫か!?無理はするな!」
三宅「今無理しねえで……いつすんだ……よおおお!!!!」
遊路「のぉっと!!」
みねこ「あわわ」
暗闇に包まれたデュエルフィールドルームの隅では、奇妙な組体操が行われていた。
みねこを肩に乗せた遊路を肩車した三宅の図。最下段の三宅プロが渾身の力で立ち上がったところである。
三宅「俺は……こんなところじゃ……終われねえんだ……よ!!!」
桜庭「ひあぁ!?気ぃつけてください!」
美羽「遊路…!」
浜池「っ………!」
遊路「みねこ…さ……どうだ?」
みねこ「うーん…!まだ…届か…ない!」
二人分の体重を支える三宅プロは勿論、不安定な体制でみねこを支える遊路、そしてそんな二人の上で手を伸ばすみねこの負担も半端ではない。
三宅「風峰遊路……てめぇ、肩に脚乗せて立て!」
遊路「おい、そんな事したらさらに負担が…!」
三宅「るっせえ!……だったら早くしろってんだよ。……この体制……あと何分もつか…わ…かんねえ…ぞ!!」
遊路「分かった……みねこさん!聞いてのとおりだ!」
みねこ「りょおか~い!」
美羽「遊路、気をつけて!!」
遊路「あぁ……俺だってこんなところで…負けるわけには……」
遊路「いか……」
遊路「!!」
遊路は渾身の集中力と底力を捻り出していた。
しかし彼はここ三日働きづめである。
本質的には神でも悪魔でもなくただの人間である遊路には当然限界というものがあった。
不安定な塔はほんの一瞬力の均衡が崩れるだけで脆く崩れ去る。
遊路(まずい…!!)
三宅プロの肩の上で大きくバランスを崩す。
空中で手探りながらみねこの身体を見つけ出し、なんとか支える事に成功した。
しかし遊路が後方に倒れ混んだ事実は変わらない。
幾つかの小さな明かりに照らされたまま、タワーは後方に傾いていく。
美羽「遊路!!」
桜庭「んなあ!?」
浜池「いやっ!!」
遊路「カハッ」
強い衝撃と同時に声にならない音が喉の奥から溢れ出る。
遊路の意識はそこで完全に途切れた。
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