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HOME > 遊戯王SS一覧 > 【DAY5】カゼミネと回復

【DAY5】カゼミネと回復 作:ギガプラント



~あの頃の話~











「それじゃ!またね。」


「あぁ。」


「うぅ~次こそ絶対勝ちますからね~!!」


「あぁ、できるものならやってみてくれ。」




彼女との戦いの日々は続いた。
一度たりとも勝つことはできなかったが不思議と不快にはならなかった。しかしまた戦いたい、次こそは勝ちたいという欲は尽きることがなかった。
さっきまで彼女がいたその方向を見つめる。

いつか俺が勝つ時が来たら、彼女はどんな顔をするんだろうか。
怒る?……いや性格的にそれはないだろう。
泣く……のも想像できない。
悔しがる?……くらいはしそうなものだ。




それとも俺の事を……認めてくれたりするんだろうか?




…この胸を高鳴らせる感情もあまり悪くない。
一度も勝たせてはくれない彼女だが、俺を奮い立たせる確かなものがあった。











だからこそ、決めた。







デュエルに熱くなりきれていなかった俺だが、これは間違いなく俺自身の感情であり意志だ。
彼女に伝える……この胸の内を。




微かに震える指を抑えながら、メールの送信ボタンを押した。





そして…………
















from:○○
Re:
メールありがとう。
ごめんなさい、貴方とはもう会いません。
あのショップにももう二度と顔を出すことはないと思います。
急に一方的にこんなことを言って本当にごめんなさい。もう私の事は忘れてください。

さようなら












~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~












遊路「ん……」











目覚めた遊路の視線の先には無機質な白い天井が広がっていた。僅かながら眩しさに目を細める。



遊路「ここは……。」



少しだけ痛む頭をおさえる。
少し前に強く頭を打ったような…朧気な記憶でなんとか思い出そうと頭をフル回転させる。




美羽「遊路!!」

遊路「あっ……」




眠たいのか少しうとうととしていた美羽が、遊路を見るなり一気に顔が明るくなる。


美羽「良かった……目を覚ましたんだね。どこか痛いとこない?」

遊路「少し頭が痛むだけでなんとも……っ!」


そこで漸く遊路は意識を失った時の事を思い出す。


遊路「美術館!一体どうなったんだ!?……ここは……。」

美羽「落ち着いて遊路。一つずつちゃんと話すから。」





少し冷静になれば直ぐに判ることだった。
ここは病院だ。恐らく美術館に近い新東京地区の大型病院だろう。
しかし自分がここに運ばれた経緯には全く覚えがなかった。


遊路「…一体何がどうなったんだ?」

美羽「うん……あのね…。」



停電による扉のロックによりデュエルフィールドスペースに閉じ込められた遊路達は、天井付近に設置されたエアダクトからなんとか外に出られないかと考えた。高さはそこそこあるが、三人で力を合わせれば届かないこともない。爆破予告の時刻も迫っており他に手立ても思い付かなかった為、下から「三宅プロ」「遊路」「みねこ」の順に人間タワーを形成した。
ここまでは遊路も覚えている。


遊路「そうだ…あの時バランスを崩して…。」

美羽「うん。そのまま気を失っちゃったの。」

遊路「その後どうなったんだ…?」

美羽「…あの三宅ってプロデュエリストがまだ続けるって言って、遊路の代わりにスタッフさんを一人捕まえてまたタワーを作り出したの。……みんな危ないって止めたんだけど。」





~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~




浜池「み、三宅さん……まだやる気ですか!?」

三宅「ったりめえだろ!生き埋めになってもいいのか!」

美羽「そ、それはよくないけど…!」

桜庭「危ないですって!次また倒れたら怪我じゃすまないかもしれないじゃないすか!」

三宅「じゃあ死んでもいいってのか!?それとも他になんか手があんのか?あぁ!?」

桜庭「それはその……えーっと…モゴモゴ」

美羽「……でも」

美羽(遊路…。)



みねこ「…みねこ、もう一回頑張ってみる。」

浜池「駄目よ!また落ちたりしたら…!」

みねこ「でも!早く外に出てお医者さんに診せないとゆーじさんが!」

浜池「それは……」




~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~




遊路「心配かけたな…。」

美羽「ううん。遊路はみんなの為に頑張ってくれたんだもん。」

遊路「三宅プロも……頑張ってくれたんだな。」

美羽「その後、もう一回頑張ってみたんだけど、三宅プロの方に限界が来てたみたいで…。」




~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~



三宅「クッソ……ぐっ!」

浜池「三宅さん……それ以上は本当に…。」


暗闇の中二人分の体重を支えつつバランスを取り続ける、そんなことを一時間以上も続けていれば気力も体力も底をついてしまう。


三宅「畜生……!」

みねこ「らんじろー君……ごめんね。みねこがもっとおっきければ…。」



~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~


美羽「もう0時まで時間も無かったんだけど…やっぱり何もできなくて…。」

遊路「…うん。」


~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~





みねこ「あぁ~んもう11時59分だよ~!!」



周りのスタッフ達も慌てふためいている。




浜池「お願い……どうか」

桜庭「あわわわわ!どうすればどうすれば!」

美羽「とにかく何処か安全なところに!」

桜庭「ここにそんなとこないですよおおおおお!!!」

三宅「クソッ……俺はこんなことじゃ……!」

浜池「お願い……!!」

美羽「遊路…!」


気を失った遊路の頭を守るように抱えこむ。


美羽(何があっても遊路だけは守るんだから……!!)

浜池「お願い!!!!」






23:59:57










23:59:58










23:59:59










00:00:00





















00:00:01






美羽「えっ……?」










~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~






遊路「何も……起きなかったのか?」



美羽「うん……全く何も…。最初は誤差か何かなのかとも思ってたんだけど…。結局そのまま1時間以上何も起こらなかったんだ。」

遊路(妙だな……どうして今回だけ。)

美羽「1時半か2時頃だったかな。電気が復旧して出られるようになったんだ。そして遊路と私はそのままこの病院まで来たってわけ。」

遊路「そうか…大変な時に一人にしてすまなかったな。」

美羽「ううん。こうして起きてくれたんだもん。」


改めてほっと息を吐き出す。


遊路「しかし随分と早く電気が復旧したな。電波が届かなくて外には全然連絡取れなかったのに。」

美羽「あの時美術館全ての扉が電子ロックされていたらしくて、外に出ていた警察の人とかは早い段階から動いていたみたいだよ。」

遊路(あれ?そういえばあの時…。)



美羽「犯人は実際に犠牲者を出すのは躊躇した…のかな?これで終わりならいいんだけど。」

遊路は病室に設置されたテレビをつける。





アナウンサー「…にて新たな脅迫文プログラムが確認されたとの事です。」





ヨテイヲヘンコウスル

コンヤ0ジ アラタメテ ハジマリノバショヘ

―ネバギバチャレンジャー―






遊路「…そう上手くはいかないらしいな。」

既に脅迫文に驚かなくなっている事にため息を漏らす遊路。


遊路(それにしても今回のメッセージ……何か違和感があるぞ?なんでこんな…)





美羽「いつまで続けるんだろう…。それにカゼミネって誰なの…。」





美羽は立ち上がる。

美羽「ふぅ…私、先生呼んでくるね。遊路が目を覚ましたって伝えてこなきゃ。」

遊路「あぁ…ありがとう。」





--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---





その後改めて遊路の身体を調べたところ、骨や脳に異常は見られなかった為、安静にしていれば直ぐに退院できるとのことだった。
心の何処かで安心しきれていなかった美羽は、そこで初めて本当に安堵した。




遊路「…………」


美羽「それじゃあ、私は一旦家に戻るけど…大丈夫?」

遊路「あぁ、こっちのことは心配しないでくれ。」





遊季都「あの……失礼します。」
ラズベリー【な~んだ、意外とピンピンしてんのね。】


美羽「遊季都君。来てくれたんだ。」

遊季都「美羽さん、こんにちは。えーっと、その……今」

遊路「大丈夫だぞ。遠慮しないで入ってこい。」

美羽「うん。私はもう帰るところだけど、遊路のこと宜しくね。」

遊季都「はい。」



横を通り抜けていく美羽を見送る遊季都。




遊季都「遊路さん……その、昨晩は…。」

遊路「ははは、酷い目に遭ったよ。といっても俺は途中から意識が飛んでしまっていたんだけどな。」

遊季都「具合の方はどうですか?」

遊路「まだちょっとだけ痛むけどな。大したことはないさ。」


遊季都「良かった……テレビをつけたら急に遊路さん達が美術館に閉じ込められたなんて聞こえてきて、正直気が気じゃありませんでした。」



誰にも見られていないことを確認すると、3体の悪魔は人間の姿を見せる。



ラズベリー「ホントびっくりしたよね~」
チャーハン「……うん。」
ポップロック「ブルーベリー……一体何を企んでいる…。」



遊路「そういえば昨日の一件、ずっと中継されていたんだってな。」


遊季都「停電が起きたのはあの美術館だけだったんです。そして偶然テレビ局のカメラがその瞬間を中継してて。」

遊路「成程な…そりゃ一気に大騒ぎにもなるか。」

ラズベリー「それにしても停電にして閉じ込めるなんて大掛かりな事するわね……ホント何考えてるのかしら。」

ホップロック「…爆破はしなかったのであろう?」

チャーハン「何のためにあんなことをしたのか分からない。」


遊季都「…遊路さん?何を見てるんですか?」

手元の端末とにらめっこしている遊路に気づいた遊季都が声をかける。

遊路「これか?今日また送られてきた脅迫文だ。……といっても今回は脅迫文って感じはしないけどな。」


ヨテイヲヘンコウスル

コンヤ0ジ アラタメテ ハジマリノバショヘ

―ネバギバチャレンジャー―


遊路「どうも違和感があるんだよな…。」

遊季都「そうですか?」

遊路「なんだか妙にあっさりしてないか?今まではもっとこう……挑発的というか偉そうというか、そんな感じだったのに。」

遊季都「言われてみれば……そうですけど。」

遊路「…昨日の不可解な行動にしても、何か想定外の事態になったのかもしれないな。」

チャーハン「想定外?」




遊季都「もしかして……」
















遊季都「停電が起きたのは偶然って事は考えられませんか?」












遊路「偶然?」

遊季都「それなら美術館を爆破させなかった理由も思い当たるんです。」

ラズベリー「どういうこと?」

遊季都「もし停電が偶然だったとしたら、遊路さんが閉じ込められた事は犯人にとっても想定外ってことになりますよね?」

遊季都「昨日は遊路さん…または美羽さんは『始まりの場所』に行くどころか外にも出られない状態だった。犯人はそれを知ったから一日猶予を延ばしたんじゃないでしょうか。」

ラズベリー「確かに……あいつ、ブルーベリーは主の望みはあくまでカゼミネと戦う事って言ってたもんね。」

チャーハン「…ニュースを見れば状況は分かる。」

ポップロック「更に言えば閉じ込められているのは美術館……」

遊季都「戦おうとしている遊路さん達が爆発に巻き込まれたりすれば、始まりの場所どころじゃなくなります。」

遊路「成程な。停電に犯人が関わっていない可能性は否定できんな。……けど、館長権限のパスワードが書き換えられていたんだ。誰かが人為的に引き起こしたのは間違いないだろう。」

遊季都「パスワードが……」

遊路「なんにせよ……やっぱり始まりの場所だな。」



ガチャ


遊季都「ん?また誰か…」

ラズベリー「やっば!一旦退避!」

面会の許可を貰った際、ラズベリー達は姿を現していない。
誰かに見つかると面倒な事になりかねないので、3体は瞬時にカードの姿に戻る。





大和「どどざまあああああ!!!!」




勢いよく病室に駆け込んできたのは遊路の娘大和。
ベッドに座る遊路にタックルするが如く飛びつく。




遊路「おおぅ大和か…。」

大和「どどさま、ご無事で…ううぅ…。」

遊路「よぅしよぅし…。」

遊路は少しだけ驚いた様子を見せたものの、直ぐに優しい父親の顔に戻る。



遊月「こら大和、病院では走ってはいけませんよ。」


続いて遊月が顔を見せる。


遊路「来てくれたんだな。」

遊月「美羽様から目を覚まされたと聞き飛んで参りました。ご無事で何よりです。あ、どうも」


遊季都「ど、どうも。お邪魔してます。」


この言い方が適切かどうか些か怪しいが、遊季都はとりあえずこう返す事にした。


大和「とと様…お身体の具合は…。」

遊路「見ての通りピンピンしてるぞ。直ぐにでも退院できそうだ。」

大和「うぅ…ズビズビ。昨日、ニュースがやってて…とと様が、死んじゃうんじゃないかって…わたくし、わたくし…。」


遊路「すまない…大和達にも心配かけたな。」


遊月「遊路様……。」

遊路「遊月、一晩中不安にさせてごめん。」

遊月「いえ、私は遊路様なら大丈夫と信じておりました。」

そう返す遊月の瞳もやや潤んでいる。


遊路「あぁ、ありがとう。」


遊路はベッドの上から手を伸ばして遊月の頭を撫でる。


遊月「ですが忘れないで下さいまし。美羽様や私だけでなく、大和や雛里…沢山の家族が遊路様を慕っております。」

遊月「どうかご無理はなさらないでください。」







遊季都(僕、ここにいていいのかな…?)

ラズベリー【蚊帳の外って感じよねぇ…。】








遊路「っとすまない遊季都。」

遊季都「い、いえ!僕の事はお気になさらず!っていうか、そろそろ失礼します!」

遊月「あら、林檎を持ってきたんです。ささっと剥いてしまいますので、よかったらご一緒にどうですか?」

遊路「お、こりゃあ美味そうだ。遠慮せず食っていけ。」

遊季都「は、はあ…じゃあ頂きます。」





--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---





遊月「それで大和ったら珍しくまだ起きていたものですから、寝かせようとしたのですが…テレビを見て固まってるんですもの。びっくりしました。」

遊季都「大々的に生中継してましたからね…停電で美術館に人が閉じ込められたって。」

大和「…ごめんなさいかか様。でも、わたくしとと様に何かあったのかと思って、眠れなくて。」

遊路「ん?どうして分かったんだ?」

大和「だってとと様はいつも遅くなったりお泊りしてくる時は連絡を下さいます。なのに昨日は夜になっても何も連絡が無いし、かか様もそわそわとしていらっしゃいました。」

遊月「ま、まあ…。」

遊路「しっかり顔に出てたって事か。こりゃあ一本取られたな。」

遊月「うぅ…ですが確かに私も不思議に思っておりました。昨夜は忙しくなる事は分かっておりましたが、帰って来るのか来ないのか…その連絡もありませんでしたので。」

遊路「現場検証が始まった時にはもうあの部屋に入ってたからな……あの部屋外に電波が届かなくて、そこからは知っての通り外に出られなくなってどこにも連絡できなかったんだ。本当心配かけてすまなかった。」

遊月「いえ、気になさらないでください。」


遊路「っと、悪いちょっとトイレに行ってくる。待っててくれ。」




遊路は愛娘に手を振りながら病室を出る。












遊路(状況は変わらず…か。)

遊路(死にかけた割には合わないぞ……全く。)

遊路(今度からはもっと頻繁に連絡するようにしないとな。今回も遊月達に必要以上に心配を…)











遊路「ん?」










~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~





美羽「うん……全く何も…。最初は誤差か何かなのかとも思ってたんだけど…。
【結局そのまま1時間以上何も起こらなかった】
んだ。」





遊路「しかし随分と早く電気が復旧したな。
【電波が届かなくて】
外には全然連絡取れなかったのに。」





遊季都「もし停電が偶然だったとしたら、遊路さんが
【閉じ込められた事は犯人にとっても想定外】
ってことになりますよね?」





遊路「なんだか妙にあっさりしてないか?今まではもっとこう……
【挑発的というか偉そうというか、】
そんな感じだったのに。」





遊月「うぅ…ですが確かに私も不思議に思っておりました。昨夜は忙しくなる事は分かっておりましたが、帰って
【来るのか来ないのか】
…その連絡もありませんでしたので。」





遊路「現場検証が始まった時にはもうあの部屋に入ってたからな……あの部屋外に電波が届かなくて、そこからは知っての通り
【外に出られなくなって】
どこにも連絡できなかったんだ。本当心配かけてすまなかった。」





~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~








遊路「まさか……もしそうだとしたら…。」
















遊路「犯人は……あの中に…?」










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tres(トレス)
遊路君が気を失っている間、爆破されることなく生き延びてたようです。しかしまだ戦いが終わったわけではありませんね、不明な点も多いままです。
が、犯人の正体には近付きつつある気がしますね。あの中にいるとしたら…あの人かなって勝手に思ってます。 (2020-02-28 19:12)
ギガプラント
コメントありがとうございます。
こんな情報量で目星がついてるのは素直に凄いですw後々でも是非聞いてみたいですねw
もしかしたら次回あたりで犯人は明かされる……かもです。 (2020-02-29 02:33)

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