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【DAY3】カゼミネと邂逅 作:ギガプラント
~あの頃の話~
「『また』って。私達何処かでデュエルしたことあったかな?」
まあこういう反応になるだろう。俺にとってどれだけ衝撃的なデュエルであろうと、彼女にとっては大会で戦った対戦相手の一人でしかない。
そんな俺の事を覚えていないのは至極当然である。
俺が自分が何者かを告げると、彼女は楽し気に笑顔を見せた。
「成程!つまりリベンジマッチがしたいってことね。そういうことなら大歓迎!」
話が早くて助かる。
「って言いたいところなんだけど…。」
「う~ん…ごめんね。今日はもう帰らなきゃいけなくて…ちょっと時間がないんだよね。」
「な、なんですと…?」
最寄りの駅に向かう彼女の隣を歩く。
聞くところによると、帰路に就く最中に先程の連中に絡まれたらしい。
家に人を待たせており、今日は早めに帰らないと怒られてしまうとの事。
今からまたデュエルをしている時間は、残念ながら無いと申し訳なさそうに語った。
しかしながらこちらもはいそうですかと諦める訳にはいかない。
奇跡的な偶然で巡り会った彼女との再戦の機会を易々と逃がす訳にはいかないのだ。
なんとか時間を作ってくれるよう頼めないかと思考を巡らせていたところ、意外にも彼女の方から提案をしてきた。
「そうだ!あのね、近いうちにこの近くにできた新しいカードショップに行こうと思ってるんだけど、よかったら一緒に来てくれないかな?」
「え?」
「君が強いのはさっきので分かってるから、大歓迎!」
強いと言われる事は昔から度々あったが、この人に言われると少しだけ気分が違った。
何せ一度負けているからな…。
「そういうことなら一緒に行かせてもらうよ。ありがとうな。」
「よし決まり!といっても具体的な日程とか決まってないから、追って連絡するね。」
都合の良い日は具体的に決まっていないのだという。忙しい人なのだろうか。
あれだけの強さという事もあり、デュエル部もみっちりと時間を使っているのかもしれない。
因みに俺はデュエル部の助っ人的な立場で参加しただけだったので、一般的なデュエル部の基準というのはよく分かっていない。
「あ、でも手加減とかしないからね。遠慮なく行くわよ!」
「当然、寧ろ手加減なんてこっちから願い下げさ。」
「おお!流石男の子だね。」
「男とか女とかそういう事じゃないと思うが…」
なんにせよまた彼女と戦うチャンスを得られた訳だ。
姉さんには最後まで勝てなかったが、今度はそうはいかない。
次こそ負けない。
俺は数日後に行われるであろう彼女との戦いに備え、再びデュエルの熱を燃やした。
~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~
アナウンサー「昨夜0時丁度、新東京エリアの廃屋にて時限爆弾のような物が爆発し火災が発生した事件におきまして、警察は今日現場検証をして現場の状況や爆発の原因などを詳しく調べるとのことです。」
アナウンサー「また、昨日ShinTokyo-Duelist Museum(シントーキョー・デュエリストミュージアム)で行われたデュエルモンスターズ・カテゴリアワード中に作動した脅迫文プログラムに『シンヤ0ジ』との記載があり、こちらとの関連性も併せて…」
遊季都「………」
ラズベリー「ただの空き家とはいえ、派手にぶっ飛ばしてくれたわねぇ…。」
遊季都「怪我人は一人も出なかったらしいけど……でも。」
ラズベリー「0時ぴったり……やっぱり無関係じゃなさそうよね。」
カゼミネ オレト タタカエ
シンヤ0ジニ ハジマリノバショデ マッテイル
コンドコソ オレガ オマエヲタオス
コナカッタバアイハ
コノビジュツカンヲバクハスル
コレハオドシデハナイ
結局その日遊路や警察は犯人にも始まりの場所にもたどり着けなかった。
美術館の爆破を宣言した脅迫状だが、館内を捜索した結果そこからは何も見つからなかった。
多くの者は質の悪い悪戯と判断し、少しだけ肩の力を抜いていたところである。
そして深夜0時、日付が変わると同時に爆発は起きた。
但しその場所は美術館から数百メートル程離れた場所に在った空き家だった。
爆発による火災により建物はほぼ全焼したが、廃屋という事もあり怪我人は一人も出ておらず、他の民家が隣接していたわけでもないのでその他に被害は出なかったという。
小町「物騒だねぇ……遊季都は大丈夫だったかい?」
遊季都「僕はただ美術館に居ただけだったから大丈夫。心配しないでばっちゃん。」
小町「そんなら良かった。命あっての物種だからね。」
遊季都「うん。」
遊季都がそう笑いかけた瞬間だった。
ニュース番組の雰囲気が急に張り詰めたものになる。
アナウンサー「速報です。只今入りました情報によりますと、今日未明ShinTokyo-Duelist Museum(シントーキョー・デュエリストミュージアム)にて、新たな脅迫文章のプログラムが送られていた事が分かりました。」
遊季都「なんだって!?」
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
イタズラデハナイコトガワカッタダロウ
オレハイツデモココヲバクハデキル
オマエガコナケレバコノビジュツカンハオワリダ
オレハゼッタイニミツカラナイ
ドレダケケイサツガウゴコウト、メノマエニイルオレヲミツケルコトスラデキナイ
ムダナコトハカンガエルナ
カゼミネ、ハヤクオレノモトヘコイ
ソシテオレトタタカエ
コンヤアオウ
―ネバギバチャレンジャー―
PCに表示した脅迫状を読み上げた遊路は溜息をつく。
遊路「だから戦いたいなら直接かかって来いというのに…全く。」
遊路「これは何処に?」
浜池「ええっと…館長室の私のデスクです。昨日はこんなもの無かったのに…。」
桜庭「館長室は基本的に館長以外入りませんし…誰かが忍び込んだりしてもすぐに見つかると思うんですけどねぇ。」
遊路「監視カメラとかは?」
桜庭「そっちもさっき警察の人に調べてもらいましたけど…怪しい人は誰も。ま~ったくどうやって忍び込んだんでしょう?」
遊路「そうですか…」
遊路は昨日に引き続き美術館「ShinTokyo-Duelist Museum(シントーキョー・デュエリストミュージアム)」に来ている。
朝方から事件関連で色々と忙しかったのだが、緊急の用事があると急遽招集されたのだ。
爆発物が見つからなったとはいえ美術館の入場は未だに規制されている。
万一この後爆破されてしまう可能性を考えて、一部の貴重品を回収する事になったそうなのだが、その際に浜池館長が見覚えのない不審なディスクを見つけたとのこと。
念の為にネットワークから孤立したPCで再生してみた結果、この脅迫文が現れたという。
浜池「まだこの美術館は狙われているのでしょうか…。」
桜庭「でも、昨日あれだけ調べて何も見つからなかったんですし…此処は大丈夫じゃないですかね?」
浜池「だといいのですけど…。」
遊路「………」
三人の後ろから一人の警官が声をかける
警察「館長さん。少々お時間宜しいでしょうか。」
浜池「あ、はい。…すみません失礼します。」
部屋を後をする浜池館長を見送る二人。
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
ポップロック「…爆弾の置き場所間違えた、という訳では無さそうだ。」
チャーハン「うん。」
遊季都「昨日の今日でまた新しい脅迫状を送るなんて…。美術館には誰も入れなかった筈なのに。」
チャーハン「誰にも気づかれずに忍び込んだ…」
ラズベリー「…そう、ね。」
珍しく歯切れの悪いラズベリーに目を向けると、いつもより覇気が薄く見える。
遊季都「…ラズベリー?」
ラズベリー「遊季都君……ちょっと気になる事があるんだけど。」
遊季都「えっ…?」
すっかり失念していた可能性に遊季都は気づくことになる。
ラズベリー「今回の事件、悪魔絡みかも…。」
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
桜庭「館長、すっかり滅入ってたなぁ…。」
遊路「すみません、俺が…」
桜庭「あぁ~っと風峰プロを責めた訳じゃないです!」
桜庭「ただ、あんなに滅入ってた館長初めて見たんで……」
閉まった扉を見ながら桜庭は続ける。
桜庭「昔はあんなに明るかったのになぁ…。」
遊路「浜池さんと昔馴染みなんですか?」
桜庭「あぁまあ一応。って言っても家が近かったってだけですよ。此処で働くようになるまでは全然話した事も無かったです。」
聞くところによると桜庭は遊路と同い年らしい。近所のお姉さんといった感じだろうか。
桜庭「今はあんな感じなんで想像つかないかもですけど、学生の頃は凄かったんですよ。高校の頃なんてデュエルの大会で常連だったんですから。」
遊路「えっ?デュエルするんですか?」
桜庭「うーん、今はもうやってないんじゃないですかねぇ。昨日みたいな解説役をするくらいで。」
遊路「……」
桜庭「あの頃はもっと明るくて…笑顔が眩しい感じで、キャピキャピしてたというか…。三度の飯よりデュエル!みたいなそんな感じでした。」
桜庭「あぁっと!今のオフレコでお願いしますね!恥ずかしいんで!」
遊路「は、はい。」
遊路(明るかった…か。どうも想像できんな。)
遊路「でも……」
遊路(知っているような気がするのは何故なんだろうな…。)
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
昨日の活気が嘘であるかのように重苦しい空気が流れる美術館。
今では一部の関係者と警察以外に人気は無く、脅迫文の存在もあってか皆ピリピリとしており、
美術館本来の優美な雰囲気も消え失せている。
当然ながら現在も一般開放はされていないのだが、赤崎遊季都はその目の前に居た。
遊季都「…悪魔が絡んでるってのは分かったけど、本当にここにいるの?」
ポップロック【我もにわかには信じられんな。昨日そのような気配は感じなかった。】
チャーハン【…うん】コクリ
ラズベリー【最初は気のせいだと思ったんだけどね……でもアタシしか感知できなかったって事は、やっぱりそういうことよね…。】
~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~
話は赤崎家での会話に遡る。
ラズベリー「…昨日、ほんの一瞬だけどあそこで悪魔の気配を感じたの。」
ポップロック「…何?」
ラズベリー「それともう一つ、さっきテレビやってた脅迫状にもあったように、相手は身を隠すことに随分自信があるみたいじゃない?」
遊季都「確かに……今思えばちょっと不自然なくらい。でもそれが何か関係あるの?」
ラズベリー「絶対に他人から見つからない……そんな能力(ちから)を持った悪魔に心当たりがあるのよ。」
ラズベリー「そしてそいつは恐ろしい程に気配を操る事に長けてる。…アタシだけに気づかせたのも、恐らくはわざとね。」
ポップロック「我等三体の内、其方にだけ察知させるよう気配をコントロールしたというのか…。」
チャーハン「でも、なんで…。」
ラズベリー「多分………いや十中八九誘われてる。自分のところまで私を誘きだそうとしているのよ。……そういう奴だから。」
ポップロック「成程な…。」
遊季都「チャーハンみたくラズベリーと知り合いの悪魔って事…?」
ラズベリー「できることなら知り合いたくも無かったけどね…。」
ラズベリーは一つ大きめの溜め息をついた。
遊季都(一体どんな関係だったんだろう…?)
ラズベリー「今美術館に行けばきっと堂々と待ってると思うわ…。どうするかは遊季都君に任せるけど。」
十数秒の思考の末、遊季都は顔を上げて答えた。
遊季都「…僕、行くよ。もしかしたら何か手掛かりが得られるかもしれないし。それに悪魔の力が関わってるなら、僕達じゃないとなんとかできないかもしれないから。」
遊季都「僕にしかできない事なら……できる限りやりたいんだ。」
若干不安気ながらも、遊季都ははっきりと言い切った。
ラズベリー「……ふふ。」
遊季都「ラズベリー?」
ラズベリー「もぉ~格好良いこと言っちゃって~!逞しくなったな~!」(ギューーー)
遊季都「うわぁ!ちょっ止め…ムギュ……」
初めて彼女と逢った頃の遊季都ならばこの言葉は出なかっただろう。
最古参であるラズベリーは遊季都の成長を強く感じ、つい湧き出てくる喜びを熱い抱擁に乗せたのだった。
チャーハン「ラズベリー様……遊季都息してない。」
ラズベリー「あ、やば……」
~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~
遊季都「ラズベリー…分かる?」
ラズベリー【あっち。】
ラズベリーが指し示す方向に、とりあえず遊季都は歩きだす。正面出入り口を通りすぎ、建物の裏側まで来たところだ。主に関係者用の駐車場と思われるスペースに辿り着く。
ラズベリー【…居る。今日は全く気配を消してない。寧ろ見つけてくれと言わんばかりに嫌な感じがビンビンしてくるわ。】
ポップロック【っ!我も感じた。すぐそばに急に存在感が……!】
遊季都「あっ……!」
壁に寄りかかり空を仰ぐ悪魔が其処に居た。
見た目は20後半~30代前半の目鼻立ちが非常に整った美青年。
日本ではまず見る事は殆どないであろう、中世の貴族のようなやたらと豪華なフォーマルな衣装に身を包んでいる。
こちらに気づいた悪魔は、咥えていた薔薇を右手に持ち替えると、優美な動きで華麗に一礼する。
悪魔「待っていたよ。マイプリンセス。」
悪魔「どうやら僕の愛のコールは無事届いてくれていたようだね。」
ラズベリーは周りに人の目が無い事を確認すると、人間形態へと姿を変える。
悪魔「おおうビューティフル…!人の形でもやはり君は美しいね。マイプリンセス。」
ラズベリー「その呼び方反吐が出るから止めてくれる?」
悪魔「おおっとお気に召さなかったか。ではこういうのはどうだろう?『マイハニー』」
ラズベリー「マイハニーでもマイエンジェルでもマイスィートアンドロメダでもお断りよ。」
悪魔「おいおい勘弁してくれ。この僕が君をエンジェルだなんて形容する訳ないだろう?」
遊季都「………!」
悪魔「久しいね。君に逢えるなんて…僕はなんて幸せ者だろう…!」
ラズベリー「…アンタに逢うなんて、アタシ今世界一ツイてないかもね。」
悪魔「そんな君も素敵だよハニー。」
ラズベリー「吐き気がするから口を閉じてくれる…?」
遊季都「ラズベリー……この人が…。」
ラズベリー「そうよ。このキザ男が例の悪魔。…間違いなく今回の犯人の後ろにいるでしょうね。」
悪魔「ラズベリー?……成程名前か!知っているぞ。ラズベリーとは人間世界における果実の一つだ。うむ、可憐な君にぴったりの名だ。素晴らしい。」
ラズベリー「そんな話をする為に呼んだ訳じゃないでしょう?早く聞かせてほしいんだけど…。アタシを此処に誘い出した理由。」
悪魔「やれやれせっかちだな。久しぶりの再会だというのに。もう少し再会を喜び合おうじゃないか。」
ラズベリー「生憎こっちは全く喜んでないの。」
悪魔「これは手厳しい……。だが本題に移るにはそこの彼にも挨拶しなければならないな。」
遊季都「えっ!?」
予想外の名指しに遊季都は目を丸くする。
ラズベリー「…遊季都君に何の用かしら。」
悪魔「ユキト…それが君の名か。」
悪魔「まずは自己紹介させて頂こう。……といっても人間に僕の名は認識できぬか。」
悪魔「ならば『ブルーベリー』……そう名乗らせてもらおう。」
ラズベリー「………」
たった今彼自身で考えたのであろう、明らかに自分を意識した名前を耳にし、ラズベリーは不服そうに睨みつける。
遊季都「それで、僕に何の用ですか…?」
ブルーベリー「知っているとは思うが、僕は昨日の事件の犯人『ネバギバチャレンジャー』と契約している。」
遊季都はゴクリと唾を飲み込む。
ほぼ分かり切っていた情報とはいえ改めて聞くと少しだけ怖い。
続けて彼が言い放つ言葉に遊季都は更に動揺する事になる。
ブルーベリー「警察関係者に『ネバギバチャレンジャー』に関する調査をやめるよう働きかけて貰いたいんだ。」
遊季都「なっ…!?」
ラズベリー「…言いたいことは色々あるけど一応聞いてあげるわ。どうして?」
ブルーベリー「愛さ。故郷を想う愛、同胞を想う愛、勿論キミに対するこの溢れんばかりの愛。理由なんてそれで充分じゃないかい?」
ラズベリー「アタシは真面目な話をしているつもりなんだけど。」
少し眉を顰めたが、ラズベリーは動じずにスルーする。
ブルーベリー「失礼。これ以上は本当に嫌われてしまいそうだ。」
心配しなくとも随分前から本当に嫌っているわ……といつもなら返しているところだが、ラズベリーは黙って言葉を待つ。
ブルーベリー「余計な希望の芽は摘んでおきたいのさ。ちゃんとカゼミネが始まりの場所に来るようにね。」
遊季都「希望の芽って…どういうことですか。」
ブルーベリー「僕等のような『この世界にとって異形である存在』が関わっている事は誰も知らないだろう?故に期待してしまうと思ったんだ。」
ブルーベリー「『始まりの場所に行かずとも犯人が捕まれば全て解決する』とね。」
飄々とした態度のまま彼は続ける。
ブルーベリー「だが人間が幾ら力を尽くそうとも、悪魔たる僕が付いている以上主を捕まえる事は不可能だ。」
ブルーベリー「君は風峰遊路とコンタクトが取れるだろう?だから伝えてほしいんだ。主を捕まえる事は絶対に不可能だから調査を打ち切ってくれとね。」
遊季都「嫌です!絶対に不可能なんてやってみないと分からない!」
ブルーベリー「ならどうやって捕まえるというのかな?『今、目の前にいる主を認識すらできない』君と同じ人間が。」
遊季都「えっ……?」
何を言っているのか、遊季都には理解できなかった。
ラズベリー「……やっぱり。」
ブルーベリー「君なら分かるだろうラズベリー?」
遊季都「ラズベリー…?」
ラズベリー「アイツが持つ、絶対に他人から見つからない能力…〔真昼の恒星(ミッドデイ・ティンクル)〕よ。」
ブルーベリー「ユキト。空を見てみるといい。」
遊季都「空?」
反射的に顏を上げて空を仰ぐ。しかしそこにはなんの変哲も無い空があるだけだった。
ブルーベリー「ユキト、君にはこの空の遥か遠くにある星の輝きが見えるかい?」
遊季都「星って、こんな真昼間に星なんて見える訳…。」
ブルーベリー「そうだ。強い陽光に紛れて星を見る事などとてもできない。」
ブルーベリー「だが間違いなく星はそこにある。同じように今此処に僕の主も居るのさ。君が認識できていないだけでね。」
遊季都「そんな…!」
遊季都は改めて目の前を見渡す。
しかしブルーベリーを名乗る悪魔以外、誰一人としてそこには居なかった。
ブルーベリー「この能力を受けた者は誰にも見えない。触れない。感じ取る事すらできない。」
ブルーベリー「でも確かに此処に『居る』。」
遊季都は恐怖した。
死人こそ出していないものの、建物を爆破させた犯人が今目の前にいるというのだ。
しかしその存在は全く知覚できない。
一瞬はったりなのでは?とも考えたが、今朝の脅迫状の一件、そしてラズベリー自身の口から語られた事でその信憑性は充分過ぎる程あった。
ブルーベリー「分かって貰えただろうか?この美術館を守りたければ、カゼミネが始まりの場所に来る以外無いのだよ。」
遊季都「っ……!」
ブルーベリー「いきなりこんな事を頼んですまないと思っている。ただせめてこの事を伝えては貰えないだろうか?」
ブルーベリー「物騒な脅迫状など送っておいてこんな事を言うのも難だが、主の望みはあくまでカゼミネと戦う事だけなのだよ。」
遊季都(戦う事が目的……なら遊路さんが始まりの場所に辿り着けなかったとして…)
ブルーベリー「ふふ、君は考えが顔に出るタイプのようだな。」
遊季都「!?」
ブルーベリー「残念ながら僕の主はためらわないだろう。目的が達成されなければ、躊躇なくその引き金は引かれる…この美術館は火の海に包まれる事になる。」
ラズベリー「傍迷惑なご主人様ね。」
ブルーベリー「ラズベリー、君からも頼んでは貰えないか?僕を相手に『犯人を捜し出す』という行為がどれだけ無意味か分からなくはないだろう。」
ラズベリー「アンタに加担して遊季都君を説得しろって事?まっぴら御免よ。」
ブルーベリー「…意外だな。君が人間の味方をするなんて。」
ブルーベリー「今の僕等は人間と契約しなければまともに存在する事すら危うい。故に人間と共に居る事について何ら疑問は無い。」
ブルーベリー「ただ今の君からは『魔界への執着』や『天使への復讐心』よりも先に、君を取り巻く環境・人・世界、そういった物に対する深い『愛』を感じるよ。一体この人間界でどんな生活をしてきたのか、興味深いね。」
ラズベリー「っ!?…勝手に分析して一人で納得しないでくれる?」
ブルーベリー「…まぁいいさ。ユキト、頼まれてくれるかな?」
遊季都「そ、そんなに戦いたいのなら!勿体付けずにその始まりの場所っていうのを教えてくれれば良いじゃないですか!!」
ブルーベリー「…始まりの場所に余計な外野はいらない。それが主の意向なんだ。」
遊季都「でも、分からない場所にどうやって…」
ブルーベリー「『分からない筈が無い』」
遊季都「っ!」
ブルーベリー「今のは主の言葉だ。」
ブルーベリー「まぁ僕も本気で君がそこまでしてくれるだろうとは思っていなかったさ。けど、今君が知り得た情報を伝えない理由も無いだろう?何せ風峰遊路……彼も君と同じ契約者なのだから。」
遊季都「遊路さんの事まで…!?」
ブルーベリー「悪魔の気配を感じ取るのは僕の得意分野なんだ。気配を消す事もね。」
ブルーベリー「頼んだよ。ユキト。」
遊季都「………」
ブルーベリーは何も言えなくなってしまった遊季都の肩に手をかけようと手を伸ばす。
パシン!
ラズベリー「アタシの大事な遊季都君に触らないで…!」
ブルーベリーは一瞬、目を見開く。
ブルーベリー「…すまない。軽率な行動だった。心の底から謝罪しよう。」
ブルーベリー「お詫びの意味も兼ねて、もう一日だけ猶予を作ろう。今夜は『美術館には』手を出さない。但し明後日の0時が本当のタイムリミットだ。それまでにカゼミネが始まりの場所に辿りつけなければ確実に此処は爆破する。」
ブルーベリー「但し先程の件については宜しく頼むよ。」
ブルーベリー「おっと……名残惜しいがそろそろ時間のようだ。僕はともかく主は暇じゃないのでね。」
言い終えるとその場で振り返る。
ラズベリー「ちょっと!!」
ブルーベリー「君が今日中に伝えてくれると信じてる。」
ブルーベリー「ラズベリー。次に会う時はゆっくりと話をしようじゃないか。会えなかった空白の時間、君がどうしていたか聞かせてほしい。」
ブルーベリーはそのまま歩き去り、建物の角を曲がって見えなくなった。
全く見えないが彼の主も一緒にいたのだろう。
遊季都はその場に立ちすくみ、追いかける事ができなかった。
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ブルーベリーとラズベリーの因縁も気になります。本編とは異なるifストーリーならではの展開は面白いです。 (2019-09-02 23:37)
本家っぽい能力と名前を意識してみました。悪いことし放題な能力ですね。
この二人の因縁については……詳しく書くかは未定です(おい) (2019-09-03 00:43)
ブルーベリー本人もそうですが、主からも同様の気味の悪さが伝わってきますね。
リミットが1日延びましたが、それまでに遊季都君たちはどのような選択を取るのか。なんとなくですが、遊路君に全部話せばすぐに解決してくれるような気がしますw (2019-09-05 01:38)
悪魔のちからでもあっさり解決できないよう厄介めの能力になりました。
今回は殆ど遊季都君のターンでしたが、一応本作は遊路氏が主役なので、この後頑張って貰うことになると思います。 (2019-09-05 08:53)