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【DAY5】カゼミネと隠れ蓑 作:ギガプラント
遊月「それではそろそろ」
遊路「あぁ。気を付けてな。」
大和「ととさまぁ…。」
遊月「大和。あまりとと様を困らせてはいけませんよ?今はゆっくり休ませてあげなくては。」
大和「はい…。」
遊路「悪いな大和。今度またどこか遊びにつれていってやるからな。」
遊季都「僕もそろそろ失礼します。」
遊路「そうか。遊季都もありがとう。」
遊季都「いえ。ではお大事に。……また何かあったら。」
遊路「……あぁ。」
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
遊路(もし犯人があの中に居るとすると……一体誰が…。)
遊路(駄目だ……やはり始まりの場所が分からないとどうしようもないか。)
遊路(それに『カゼミネ』ってのも…。)
遊路が目を瞑り考えに耽った瞬間、バーンと病室の扉が開かれる。
みねこ「ゆーじさーん!!」
遊路「おぉう!?」
みねこ「えっとあの、みねこお見舞いに来たの!大丈夫?ちゃんと動ける!?」
遊路「あ、あぁ大丈夫だから少し静かにな……ここ病院…。」
みねこ「あ、ごめんなさい……ペコリ」
ドウドウとみねこを落ち着かせる。
遊路「どうして此処が……ってそうか美羽か。」
みねこ「うんうん。ゆーじさんあの時みねこを助けて頭ゴッチンしちゃったから……ずっと心配だったの。そしたらるぅちゃんが病院教えてくれて…。」
遊路「成程な。俺なら見ての通り大丈夫だ。」
みねこ「良かったよぉ……全然動かないって言ってたから、みねこてっきりもうお化けになっちゃったのかと思っちゃった…。」
遊路「はは、お化けになってたら今頃病室にはいないだろうな。」
遊路「でもまぁ確かにあの時は完全に意識が飛んでたな。すまない、みねこさんにも心配かけたな。」
みねこ「みねこるぅちゃんにも酷いことしちゃった……ゆーじさんに怪我させて。」
遊路「そんな大袈裟な…」
みねこ「おーげさじゃないもん!だってるぅちゃんずぅーーーっと泣いてたんだよ!」
遊路「あ……」
遊路(そういえば……少し目が腫れてたな…。)
みねこ「るぅちゃんにも、もっともっとごめんなさいしなくちゃ…。」
遊路「大丈夫だよ。」
遊路「あの時ちょっと何かが違ったら、怪我してたのはみねこさんの方だったかもしれないんだ。」
遊路「それにあんな状況なら危険な事でもせざるをえなかった。みねこさんが皆を助けようとしてくれた事は俺も美羽もちゃんと分かってるよ。」
みねこ「るぅちゃんも…?」
遊路「あぁ、俺が保証する。俺がちょっと怪我したからって美羽はみねこさんを責めたりはしないから。」
遊路「だから……そんなに気を落とさないでな。」
みねこ「うん……うん!」
みねこはいつも通りの笑顔を見せる。
みねこ「みねこちょっと怖かったんだ。るぅちゃんは久しぶりにできたお友達だったから。」
遊路(久しぶり?)
みねこ「あ、みねこね、みんなと比べてちょっと変だから全然友達居なくて……学校でもいつも一人だったの。…なんとなぁく分かるんだ。みんな結構『春風さんって面白いねー』って言ってくれるんだけど、ホントはみねこの事あんまり好きじゃないみたい。」
みねこ「でもね、るぅちゃんは違ったの!」
みねこ「みねこのお話ちゃんと聞いてくれて、それでそれでるぅちゃんの話もしてくれたんだ。みねこすぅーーっごく嬉しかった!」
みねこは目を輝かせて語る。
遊路「そうだったのか。」
遊路(天才故に色々あるっぽいな…。)
みねこ「っていっけない!!みねこ今日は早く帰らないとママにぷんすか怒られちゃうんだった!!」
遊路「おぉう!?」
みねこ「ホントは今日お見舞いにくる時もすっごく止められたんだけど頑張ってペコペコして出てきたんだ。」
遊路「…あんなことがあったばかりだからな。親御さんも心配だろう。俺なら大丈夫だから、今日は早く帰って家族を安心させてやってくれ。」
みねこ「はいです!じゃーみねこはこれで失礼しますです!ゆーじさんお大事に!」
遊路「あぁ。」
遊路(春風美音子さんか……美羽も良い友達を持ったな。)
遊路「にしてもお化けになってるかも……か。ホントにそのとおりだな、死んでてもおかしくはなかった。」
遊路「ん?」
~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~
みねこ「良かったよぉ……全然動かないって言ってたから、みねこてっきりもうお化けになっちゃったのかと思っちゃった…。」
遊路「はは、お化けになってたら今頃病室にはいないだろうな。」
~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~
遊路「……いやそれはないか。いくらなんでもそんなことは……」
遊路「……」
遊路「…もしもし?ルナか…?悪い、また調べて欲しい事があるんだ。」
遊路「いや確証はないんだが、一応……な。」
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
踵を返し病院の階段を昇る遊季都。
遊路の居る階に辿り着くとともにため息を一つ吐き出す。
ラズベリー【病室まで行ってお見舞い渡し忘れるなんて……】
遊季都「…つ、ついうっかり。ご家族の人も居たからちょっと緊張しちゃって。」
ラズベリー【まぁ遊季都君らしいっちゃらしいけどね~】
遊季都「さっきちゃんと出しておけば遊月さん達にも食べてもらえたのに……林檎食べてたらすっかり忘れちゃってた。」
チャーハン【仕方無い。今からでも渡せる。】
遊季都は手に持った菓子折りの入った袋を一瞥すると再び病室のドアに手をかける。
遊季都「遊路さ…」
遊路「…あぁ、一応急ぎで頼む。とりあえず閉じ込められた人達だけでいい。あの中に犯人がいるかどうかはともかく一応調べておきたいんだ。」
遊季都「えっ?」
それは遊季都にとっては耳を疑うような言葉だった。
遊路「無理させてすまない……あぁ、ありがとう。じゃあ。」
遊路は手早く携帯を仕舞う。
ここは病室、急ぎの用とはいえ本来は通話が禁止された場所である。
遊路「ふぅ……」
遊季都「あ、あの……!」
遊路「ん…!?遊季都…?」
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
遊季都「すいません……あの、これ渡し忘れて…。」
紙袋から菓子折りを取り出す。
遊路「そういうことか。わざわざすまない。」
遊季都「いえ……それであの、さっきの話本当なんですか?昨日閉じ込められた人達の中に犯人が…って。」
ブルーベリーの脅威を知り、犯人の特定など雲を掴むような話だと感じていた遊季都にとって、先程の遊路の言葉は衝撃的だった。
遊路「断定はできない。…けどそう考えられる材料はあると思ってる。」
遊季都「材料?」
ラズベリー【どゆこと?】
遊路「やっぱりどうしても気になってたんだよ。あの脅迫文。」
遊季都「今日のですか?あの妙にあっさりしてたっていう…。」
遊路「あぁ。俺か美羽がカゼミネだとして、昨夜は美術館から出られなかったことを知ったから猶予を延ばした…とも考えられなくはないんだが、もしかすると逆だったんじゃないかと思ったんだ。」
遊季都「逆?」
遊路「閉じ込められたのはカゼミネじゃなくて犯人のほうだったのかもってことさ。」
ラズベリー【えぇ?犯人が閉じ込められた??】
遊路「さっき遊季都が言っていたように停電なんて引き起こして犯人にメリットがあるとは思えない。詳しくは分からないが停電は何かの偶然……事故のようなもので、犯人にとっても想定外だったんじゃないかな。」
遊路「そしてよりにもよって犯人自身があの密室内に閉じ込められてしまった。つまり始まりの場所に行けなかったのは犯人の方だった…とすれば。」
遊季都「カゼミネが始まりの場所に来ていたとしても犯人はその場にいない…!」
遊路「そう。だとすれば脅迫文の態度が落ち着いたのも説明はつく。もしカゼミネが来ていたのなら一方的にバックレたことになるからな。」
遊季都「ならカゼミネっていうのは…。」
遊路「あぁ。俺でも美羽でも…いや、あの場にいた誰でもないってことになる。少なくとも犯人はそう思ってる筈だ。同じく閉じ込められていた人間が始まりの場所に辿り着いていない事は明白だからな。」
遊季都「ということはあの文章は会場じゃなくて外に向けられてたってことになるのか…。」
ラズベリー【…ねぇ?それって結局のところ振り出しじゃない?】
遊季都「…でも、仮定とはいえ犯人かなり絞り込めますよね。」
遊路「一応な。ただその手掛かりとなるカゼミネについては余計に判らなくなってしまった…。」
遊季都「じゃあその…犯人の言うカゼミネは、やっぱり気づいてるんでしょうか?その、自分が呼ばれてるって。」
ネバギバチャレンジャーは脅迫のみならず二件の爆破事件も起こしている。関わり合いたくないと思ってもなんら不思議ではない。
美術館に思い入れがなければ警察にすら相談せず完全に黙殺する可能性も大いにある。
もしそうなら遊路達にはどうしようもない。
遊路「そうかもな。自分と知って名乗りでないか、はたまた呼ばれているのが自分と気づいていないのか………」
遊路「もしくは……」
ヴーン…
遊路のスマホが震える。電源は切っていないようだ。
遊路は慌てたように素早く電話にでる。
遊路「…!もしもし?」
遊季都(遊路さん?)
ラズベリー【何?顔つき変わったけど…。】
ルナテシア(先程の件、昨夜のメンバーの中で該当者が2名ヒットしました。)
遊路「2人?誰だ…?」
ルナテシア(一人は○○…。こちらは……)
遊路「なんだって!?」
遊路(これは偶然なのか?でも…。)
遊路(もしそうだとしたら『あのこと』を知らないわけがない……だとすると偶然か?)
ルナテシア(そしてもう一人、こちらは非常に微々たる関わりですが……)
遊路「…………!」
遊路(待てよ!?確かあの人って…!)
遊路「ルナ!そん時の場所って判るか?」
ルナテシア(はい)
ルナテシア(新横浜第2遊戯会館です。)
遊路「見つけた…。」
遊季都「遊路さん……?」
遊路「始まりの場所の手掛かり…!」
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
遊路は手早く着替えて準備を整える。
とても今日入院してきた人とは思えない。
遊季都はあたふたとしながらもう一度確認した。
遊季都「本当に判ったんですか!?始まりの場所。」
遊路「始まりの場所……かもしれないところが一つ判ったって感じだな。だが他に宛ても無い以上、今現在唯一の可能性ってことになる。」
遊季都「で、でも遊路さんが行かなくてもいいんじゃないですか!?カゼミネは別の人なんでしょう?」
遊路「警察やらを送り込んでも隠れられるのがオチだ。それに……」
遊路「これは……もし本当にそうなら、俺がやらなくちゃいけないことだから。」
遊季都「遊路さん…?」
遊路「話は後だ。俺はもう出…!」
看護師「風峰さん!」
ドアに手をかけたようとしたところで、立ち塞いだ女性看護師に行く手を阻まれる。
看護「何処に行くおつもりですか?駄目ですよ!今日は安静にしていないと。」
遊路「げっ……。」
恐らくガサゴソと音が外に聞こえたのだろう。偶然通りかかった彼女に見つかってしまったようだ。
遊路「すみません、急ぎの用なんです!行かせてくれませんか?」
看護師「駄目ですよ!貴方頭を打って気を失ったんですよ!脳へのダメージは後から響いてくる場合もあるんです!今日一日は絶対安静にしてください!」
遊路「ぐっ……」
ラズベリー【遊季都君、ここはアタシの出番みたいね♪】
遊季都(…えっ!?)
ラズベリー【ほら〔愛の奴隷〕よ。女の人相手なら誰だって従えられるんだから。】
遊季都(あっ……そういえば)
ラズベリー【…手段を選んでる場合じゃないんじゃない?】
遊季都(…………)
遊路「お願いします!そこをなんとか!」
看護師「駄目なものは駄目です!規則ですから。それに患者さんの命を……」
遊季都「すいません!」
遊季都は二人の間に割り込む。
遊季都「〔愛の奴隷(ラブ・サーヴァント)〕!」
看護師「っ……!!!」
看護師の身体が熱く火照り始める。
遊季都を捉える視線もより蠱惑的で色っぽいものへと変わっていく。
気がつけば彼女はラズベリーの能力によって完全に意識を飛ばされ、悪戯に肥大させられた本能に完全に身体を支配されていた。
看護師「ああぁ……坊や……//」
遊季都「あばばばば…。」
遊路「うおお…!?」
遊季都「あ、あの!ここは見逃して下さいいい!!」
看護師「うん。分かった。だからボウヤ…お姉さんと……」
遊季都「遊路さん行ってくださいい!」
遊路「お、おう!恩に着るぞ遊季都!!」
遊路は看護師の脇を一気に通りすぎていった。
遊季都(良かった……なんとか成功した。)
ラズベリー【良かったわね~♪病院の個室に若いナースと二人っきり。遊季都君はこういうシチュがお好みか~】
遊季都(ちょっと!そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!?)
ラズベリー【にゅふふ~♪ならそろそろ解いてあげても良いんじゃない?】
気づけば看護師は服のボタンに手をかけようとしている。
遊季都「あ~わわわわ!!」パンパン!
眼前で二回手を叩く。愛の奴隷の解除方法だ。
看護師「あ、あれ?私どうしてここに……あれ?風峰さんは?」
遊季都「ゆ、遊路さんは屋上で風に当たってくるって言ってました!!じゃあ失礼します!!!」
遊季都は一目散にその場を離れるのだった。
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
(SPの車)
遊路「すまない。本当に助かった。」
遊季都「いえ、気にしないで下さい。状況が状況ですから…。」
病院を抜け出した遊路はすぐさまSPに車を出してもらった。
近場の公園で合流し、車で始まりの場所に向かっているところである。
遊路「ここまで来てもらってこんなこと言うのも難だが、大丈夫か……?」
遊季都「はい。悪魔絡みなら僕も役にたてるかもしれませんし。」
遊路「ありがとう。正直今回はかなり心強い。」
遊季都「いえ……。ん?」
そこで遊季都は遊路の横顔がどこか遠い目をしていることに気がついた。
遊路「…………」
遊季都(どうしたんだろう…。)
ラズベリー【訊いてみれば?】
遊季都(なんかそんなことできる雰囲気じゃないよ。何か思いつめてるような感じだし。)
ラズベリー【う~ん、始まりの場所とやらがどうして判ったのか訊きたいんだけどな~】
遊季都(今はやめとこうよ。)
遊路「………」
遊路(もし俺の仮説が正しいとすれば……犯人、ネバギバチャレンジャーと『カゼミネ』の因縁は随分昔の事ってことになる…。)
遊路(あの頃の俺はまだまだガキだったけど……。)
遊路(一体何をしてたんだかな。)
遊季都(ねぇラズベリー?)
ラズベリー【うにゃ?どしたの?】
遊季都(聞いていいのか分からないけど、あの悪魔『ブルーベリー』とはどんな関係だったの?)
ラズベリー【おぉ~?遊季都君もしかしてヤキモチかな~?】
遊季都(べ、別にそういうのじゃなくって!)
遊季都(ただ妙に嫌ってそうだったからなんか気になっちゃって…。)
ラズベリー【ふ~ん…。】
遊季都(無理して話さなくてもいいけど。)
ラズベリー【いんや?別にそんなに込み入った事情があるとかじゃないんだ。】
ラズベリー【まだ魔界が滅んでなかった頃の話だけど……まぁ簡単に言うとアイツアタシに惚れたらしいのね?】
遊季都(まぁ…それはなんとなく分かる。)
ラズベリー【ただアタシあぁいうのタイプじゃなくてさ、適当にあしらってたんだけど…。】
遊季都(うん。)
ラズベリー【これがまたアイツ……とんでもなく諦めが悪いんだわ。悪い奴じゃあないんだけどとにかく諦めが悪いの。どんなに拒絶してもボロクソ言っても、涼しい顔して「成程それが愛か」とかなんとか言って、まるで聞く耳持たないのよね。】
遊季都(ただのしつこい人……ってこと?)
ラズベリー【人ではないけどね。流石にウザいなぁとは思ってたけど、魔界があんなことになってからは完全に疎遠だったわ。んで久しぶりに再会したらあの通りなんも変わってなかったって感じね。】
遊季都(…ブルーベリーが犯人に協力するのはやっぱり生き残るためなのかな?)
ラズベリー【まぁそれが一番納得できるかしらね。アイツだって天界の連中は好いてないだろうし。……でもなんか前に見た時よりマジになってるような感じがするのよね。】
遊季都(そうなの?)
ラズベリー【こっちに来て色々変わったのかもしれないけど。あんなに主様主様言うようなタマじゃないと思ってたんだけどな。】
遊季都(そっか……ありがとう。教えてくれて。)
ラズベリー【んん~?別にこんくらいなんでもないわよ?アタシと遊季都君の仲だし~。】
遊季都(いざとなったら……僕も戦わないと…。)
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(新横浜第2遊戯会館)
車から降りる二人。いざという時の為に運転手には待機していて貰う事にした。彼もまたSPの一人であり、遊路の一声でありとあらゆるスキルを発揮する。
遊季都「ここが…。」
遊路(頼む……此処が正解であってくれ!!)
新横浜第2遊戯会館
新横浜地区に建つ施設で、主にスポーツの大会等で使用される事が多い。デュエルの試合にも使われることがある。やや古い建物で、広さや大きさはそれほどでもない。
数年前、近場に大型の遊戯会館が新設された為、取り壊されてはいないものの今では使われていない。
遊季都「……!」
遊路「ビンゴ……。」
やや錆びた玄関の扉は……軋んだ音を上げながら開いた。
メインとなる運動場。
やや埃の臭いが漂う広い空間が広がっている。
壁際には小規模ながらギャラリー席が用意されており、父兄を始めとする観客にも配慮された設計となっているが、今は無機質に固定された長椅子が並んでいるだけである。
遊季都「……誰もいませんね。」
遊路「いいや……人が出入りした形跡がある。何度も…何度も…。」
遊路は運動場の空間に叫ぶ。
遊路「居るんだろう?ネバギバチャレンジャー。」
乾いた天井に声が反響する。
遊路「身を隠す力ってのは本当に凄いらしいな。気配一つ感じない。」
遊路「けど、居るんだろう?」
自信を持って投げ掛ける。
遊季都(本当に……ここに…。)
ラズベリー【分かっちゃいたけど……】
そこまで言うとラズベリーは人間の姿に変身する。
ラズベリー「不気味なほどになにも感じないわね。」
遊路「ここに辿り着いた以上、お前の正体が分かってるって事も理解してるよな?」
遊路「まぁ俺はお前が会いたがってるカゼミネじゃないからな。姿を見せたくないのも仕方無いか。」
遊路は言葉を続ける。
遊路「けど言っておくぞ。お前はカゼミネについて一つ知らない事がある。」
遊季都(知らないこと…?)
遊路「そして今日も……カゼミネは此処に来ない。」
?「……!」
遊季都「うわっ!」
ラズベリー「!!」
一瞬、遊季都の視界を閃光が遮る。
つい目を閉じるが、ただそれだけ身体には何も影響は無かった。
遊季都「な、なんだ今の……?」
遊路「遊季都!?消えた……!?」
遊季都「え!?遊路さん?何を……!」
ラズベリー「チッ、やられた…。」
状況を一瞬で理解したラズベリーは天井に声を張り上げる。
ラズベリー「呼びたかないけどブルーベリー!!!遊季都君に何してくれてんのよ!!」
遊路「これは……そうか悪魔の…!」
ブルーベリーの能力〔真昼の恒星(ミッドデイ・ティンクル)〕によって遊季都を認識できなくなったことに気づく。
遊路「おい!なんのつもりだ…!出てこいみや……」
?「んでだよ…。」
いつの間にか彼はそこに居た。
?「てめぇなんざ呼んでねぇってんだよ…。なのに……なんで一々しゃしゃり出て邪魔すんだよ…。」
やや大柄な体格。お世辞にも綺麗と言えない言葉使い。威圧的な態度。
ShinTokyo-Duelist Museum(シントーキョー・デュエリストミュージアム)で、遊路と激戦を繰り広げた対戦相手。
三宅「風峰遊路!!!!」
遊路「やはりお前か…三宅蘭次郎。」
遊季都「三宅プロが……ネバギバチャレンジャー……!?」
三宅「てめぇは一人こそこそ隠れときゃ良かったんだよ。そうすりゃいい目眩ましになったんだ。なのにちょこまか引っ掻き回した挙げ句こんなとこまで来やがって…ウゼェったらねぇ。」
遊路「だからあのデュエル中に脅迫文を出したのか。世間の目が俺に向くように。」
三宅「ケッ…!悪ぃかよ。」
三宅「そんなことよりてめぇ…カゼミネについて知らない事があるだぁ?言ってみろよ?あぁ!?」
三宅「口から出任せでなんとかしようってんなら甘ぇんだよ!もしハッタリだったなら後ろのガキは終わりだ。永遠にそのまんまだよ。」
遊季都「なっ……!?」
遊季都は自分の置かれている状況を改めて理解し恐慌した。
今の自分は誰からも見えない、自分の声は誰にも聞こえない。世界からただ一人浮いた存在……生物の世界からすれば死にも等しい。
ラズベリー「遊季都君…大丈夫心配しないで!!」
遊季都を心配させまいとラズベリーが声をかける。しかしそれはラズベリーからも認識されていない事を示していた。
遊季都(遊路さん……)
ラズベリー「ねぇ?そもそも誰なの?カゼミネって…。」
遊路「俺も最初は判らなかった…。」
遊路「俺でも美羽でもないとすると……もう見ず知らずの誰かなのかもしれないと諦めかけてたところさ。」
遊路「でも、カゼミネは俺が思っていた以上にずっと近くに居たんだ…。」
三宅「………」
遊路「こいつが探してる人物『カゼミネ』は……!」
遊路「あぁ。気を付けてな。」
大和「ととさまぁ…。」
遊月「大和。あまりとと様を困らせてはいけませんよ?今はゆっくり休ませてあげなくては。」
大和「はい…。」
遊路「悪いな大和。今度またどこか遊びにつれていってやるからな。」
遊季都「僕もそろそろ失礼します。」
遊路「そうか。遊季都もありがとう。」
遊季都「いえ。ではお大事に。……また何かあったら。」
遊路「……あぁ。」
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遊路(もし犯人があの中に居るとすると……一体誰が…。)
遊路(駄目だ……やはり始まりの場所が分からないとどうしようもないか。)
遊路(それに『カゼミネ』ってのも…。)
遊路が目を瞑り考えに耽った瞬間、バーンと病室の扉が開かれる。
みねこ「ゆーじさーん!!」
遊路「おぉう!?」
みねこ「えっとあの、みねこお見舞いに来たの!大丈夫?ちゃんと動ける!?」
遊路「あ、あぁ大丈夫だから少し静かにな……ここ病院…。」
みねこ「あ、ごめんなさい……ペコリ」
ドウドウとみねこを落ち着かせる。
遊路「どうして此処が……ってそうか美羽か。」
みねこ「うんうん。ゆーじさんあの時みねこを助けて頭ゴッチンしちゃったから……ずっと心配だったの。そしたらるぅちゃんが病院教えてくれて…。」
遊路「成程な。俺なら見ての通り大丈夫だ。」
みねこ「良かったよぉ……全然動かないって言ってたから、みねこてっきりもうお化けになっちゃったのかと思っちゃった…。」
遊路「はは、お化けになってたら今頃病室にはいないだろうな。」
遊路「でもまぁ確かにあの時は完全に意識が飛んでたな。すまない、みねこさんにも心配かけたな。」
みねこ「みねこるぅちゃんにも酷いことしちゃった……ゆーじさんに怪我させて。」
遊路「そんな大袈裟な…」
みねこ「おーげさじゃないもん!だってるぅちゃんずぅーーーっと泣いてたんだよ!」
遊路「あ……」
遊路(そういえば……少し目が腫れてたな…。)
みねこ「るぅちゃんにも、もっともっとごめんなさいしなくちゃ…。」
遊路「大丈夫だよ。」
遊路「あの時ちょっと何かが違ったら、怪我してたのはみねこさんの方だったかもしれないんだ。」
遊路「それにあんな状況なら危険な事でもせざるをえなかった。みねこさんが皆を助けようとしてくれた事は俺も美羽もちゃんと分かってるよ。」
みねこ「るぅちゃんも…?」
遊路「あぁ、俺が保証する。俺がちょっと怪我したからって美羽はみねこさんを責めたりはしないから。」
遊路「だから……そんなに気を落とさないでな。」
みねこ「うん……うん!」
みねこはいつも通りの笑顔を見せる。
みねこ「みねこちょっと怖かったんだ。るぅちゃんは久しぶりにできたお友達だったから。」
遊路(久しぶり?)
みねこ「あ、みねこね、みんなと比べてちょっと変だから全然友達居なくて……学校でもいつも一人だったの。…なんとなぁく分かるんだ。みんな結構『春風さんって面白いねー』って言ってくれるんだけど、ホントはみねこの事あんまり好きじゃないみたい。」
みねこ「でもね、るぅちゃんは違ったの!」
みねこ「みねこのお話ちゃんと聞いてくれて、それでそれでるぅちゃんの話もしてくれたんだ。みねこすぅーーっごく嬉しかった!」
みねこは目を輝かせて語る。
遊路「そうだったのか。」
遊路(天才故に色々あるっぽいな…。)
みねこ「っていっけない!!みねこ今日は早く帰らないとママにぷんすか怒られちゃうんだった!!」
遊路「おぉう!?」
みねこ「ホントは今日お見舞いにくる時もすっごく止められたんだけど頑張ってペコペコして出てきたんだ。」
遊路「…あんなことがあったばかりだからな。親御さんも心配だろう。俺なら大丈夫だから、今日は早く帰って家族を安心させてやってくれ。」
みねこ「はいです!じゃーみねこはこれで失礼しますです!ゆーじさんお大事に!」
遊路「あぁ。」
遊路(春風美音子さんか……美羽も良い友達を持ったな。)
遊路「にしてもお化けになってるかも……か。ホントにそのとおりだな、死んでてもおかしくはなかった。」
遊路「ん?」
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みねこ「良かったよぉ……全然動かないって言ってたから、みねこてっきりもうお化けになっちゃったのかと思っちゃった…。」
遊路「はは、お化けになってたら今頃病室にはいないだろうな。」
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遊路「……いやそれはないか。いくらなんでもそんなことは……」
遊路「……」
遊路「…もしもし?ルナか…?悪い、また調べて欲しい事があるんだ。」
遊路「いや確証はないんだが、一応……な。」
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踵を返し病院の階段を昇る遊季都。
遊路の居る階に辿り着くとともにため息を一つ吐き出す。
ラズベリー【病室まで行ってお見舞い渡し忘れるなんて……】
遊季都「…つ、ついうっかり。ご家族の人も居たからちょっと緊張しちゃって。」
ラズベリー【まぁ遊季都君らしいっちゃらしいけどね~】
遊季都「さっきちゃんと出しておけば遊月さん達にも食べてもらえたのに……林檎食べてたらすっかり忘れちゃってた。」
チャーハン【仕方無い。今からでも渡せる。】
遊季都は手に持った菓子折りの入った袋を一瞥すると再び病室のドアに手をかける。
遊季都「遊路さ…」
遊路「…あぁ、一応急ぎで頼む。とりあえず閉じ込められた人達だけでいい。あの中に犯人がいるかどうかはともかく一応調べておきたいんだ。」
遊季都「えっ?」
それは遊季都にとっては耳を疑うような言葉だった。
遊路「無理させてすまない……あぁ、ありがとう。じゃあ。」
遊路は手早く携帯を仕舞う。
ここは病室、急ぎの用とはいえ本来は通話が禁止された場所である。
遊路「ふぅ……」
遊季都「あ、あの……!」
遊路「ん…!?遊季都…?」
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遊季都「すいません……あの、これ渡し忘れて…。」
紙袋から菓子折りを取り出す。
遊路「そういうことか。わざわざすまない。」
遊季都「いえ……それであの、さっきの話本当なんですか?昨日閉じ込められた人達の中に犯人が…って。」
ブルーベリーの脅威を知り、犯人の特定など雲を掴むような話だと感じていた遊季都にとって、先程の遊路の言葉は衝撃的だった。
遊路「断定はできない。…けどそう考えられる材料はあると思ってる。」
遊季都「材料?」
ラズベリー【どゆこと?】
遊路「やっぱりどうしても気になってたんだよ。あの脅迫文。」
遊季都「今日のですか?あの妙にあっさりしてたっていう…。」
遊路「あぁ。俺か美羽がカゼミネだとして、昨夜は美術館から出られなかったことを知ったから猶予を延ばした…とも考えられなくはないんだが、もしかすると逆だったんじゃないかと思ったんだ。」
遊季都「逆?」
遊路「閉じ込められたのはカゼミネじゃなくて犯人のほうだったのかもってことさ。」
ラズベリー【えぇ?犯人が閉じ込められた??】
遊路「さっき遊季都が言っていたように停電なんて引き起こして犯人にメリットがあるとは思えない。詳しくは分からないが停電は何かの偶然……事故のようなもので、犯人にとっても想定外だったんじゃないかな。」
遊路「そしてよりにもよって犯人自身があの密室内に閉じ込められてしまった。つまり始まりの場所に行けなかったのは犯人の方だった…とすれば。」
遊季都「カゼミネが始まりの場所に来ていたとしても犯人はその場にいない…!」
遊路「そう。だとすれば脅迫文の態度が落ち着いたのも説明はつく。もしカゼミネが来ていたのなら一方的にバックレたことになるからな。」
遊季都「ならカゼミネっていうのは…。」
遊路「あぁ。俺でも美羽でも…いや、あの場にいた誰でもないってことになる。少なくとも犯人はそう思ってる筈だ。同じく閉じ込められていた人間が始まりの場所に辿り着いていない事は明白だからな。」
遊季都「ということはあの文章は会場じゃなくて外に向けられてたってことになるのか…。」
ラズベリー【…ねぇ?それって結局のところ振り出しじゃない?】
遊季都「…でも、仮定とはいえ犯人かなり絞り込めますよね。」
遊路「一応な。ただその手掛かりとなるカゼミネについては余計に判らなくなってしまった…。」
遊季都「じゃあその…犯人の言うカゼミネは、やっぱり気づいてるんでしょうか?その、自分が呼ばれてるって。」
ネバギバチャレンジャーは脅迫のみならず二件の爆破事件も起こしている。関わり合いたくないと思ってもなんら不思議ではない。
美術館に思い入れがなければ警察にすら相談せず完全に黙殺する可能性も大いにある。
もしそうなら遊路達にはどうしようもない。
遊路「そうかもな。自分と知って名乗りでないか、はたまた呼ばれているのが自分と気づいていないのか………」
遊路「もしくは……」
ヴーン…
遊路のスマホが震える。電源は切っていないようだ。
遊路は慌てたように素早く電話にでる。
遊路「…!もしもし?」
遊季都(遊路さん?)
ラズベリー【何?顔つき変わったけど…。】
ルナテシア(先程の件、昨夜のメンバーの中で該当者が2名ヒットしました。)
遊路「2人?誰だ…?」
ルナテシア(一人は○○…。こちらは……)
遊路「なんだって!?」
遊路(これは偶然なのか?でも…。)
遊路(もしそうだとしたら『あのこと』を知らないわけがない……だとすると偶然か?)
ルナテシア(そしてもう一人、こちらは非常に微々たる関わりですが……)
遊路「…………!」
遊路(待てよ!?確かあの人って…!)
遊路「ルナ!そん時の場所って判るか?」
ルナテシア(はい)
ルナテシア(新横浜第2遊戯会館です。)
遊路「見つけた…。」
遊季都「遊路さん……?」
遊路「始まりの場所の手掛かり…!」
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
遊路は手早く着替えて準備を整える。
とても今日入院してきた人とは思えない。
遊季都はあたふたとしながらもう一度確認した。
遊季都「本当に判ったんですか!?始まりの場所。」
遊路「始まりの場所……かもしれないところが一つ判ったって感じだな。だが他に宛ても無い以上、今現在唯一の可能性ってことになる。」
遊季都「で、でも遊路さんが行かなくてもいいんじゃないですか!?カゼミネは別の人なんでしょう?」
遊路「警察やらを送り込んでも隠れられるのがオチだ。それに……」
遊路「これは……もし本当にそうなら、俺がやらなくちゃいけないことだから。」
遊季都「遊路さん…?」
遊路「話は後だ。俺はもう出…!」
看護師「風峰さん!」
ドアに手をかけたようとしたところで、立ち塞いだ女性看護師に行く手を阻まれる。
看護「何処に行くおつもりですか?駄目ですよ!今日は安静にしていないと。」
遊路「げっ……。」
恐らくガサゴソと音が外に聞こえたのだろう。偶然通りかかった彼女に見つかってしまったようだ。
遊路「すみません、急ぎの用なんです!行かせてくれませんか?」
看護師「駄目ですよ!貴方頭を打って気を失ったんですよ!脳へのダメージは後から響いてくる場合もあるんです!今日一日は絶対安静にしてください!」
遊路「ぐっ……」
ラズベリー【遊季都君、ここはアタシの出番みたいね♪】
遊季都(…えっ!?)
ラズベリー【ほら〔愛の奴隷〕よ。女の人相手なら誰だって従えられるんだから。】
遊季都(あっ……そういえば)
ラズベリー【…手段を選んでる場合じゃないんじゃない?】
遊季都(…………)
遊路「お願いします!そこをなんとか!」
看護師「駄目なものは駄目です!規則ですから。それに患者さんの命を……」
遊季都「すいません!」
遊季都は二人の間に割り込む。
遊季都「〔愛の奴隷(ラブ・サーヴァント)〕!」
看護師「っ……!!!」
看護師の身体が熱く火照り始める。
遊季都を捉える視線もより蠱惑的で色っぽいものへと変わっていく。
気がつけば彼女はラズベリーの能力によって完全に意識を飛ばされ、悪戯に肥大させられた本能に完全に身体を支配されていた。
看護師「ああぁ……坊や……//」
遊季都「あばばばば…。」
遊路「うおお…!?」
遊季都「あ、あの!ここは見逃して下さいいい!!」
看護師「うん。分かった。だからボウヤ…お姉さんと……」
遊季都「遊路さん行ってくださいい!」
遊路「お、おう!恩に着るぞ遊季都!!」
遊路は看護師の脇を一気に通りすぎていった。
遊季都(良かった……なんとか成功した。)
ラズベリー【良かったわね~♪病院の個室に若いナースと二人っきり。遊季都君はこういうシチュがお好みか~】
遊季都(ちょっと!そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!?)
ラズベリー【にゅふふ~♪ならそろそろ解いてあげても良いんじゃない?】
気づけば看護師は服のボタンに手をかけようとしている。
遊季都「あ~わわわわ!!」パンパン!
眼前で二回手を叩く。愛の奴隷の解除方法だ。
看護師「あ、あれ?私どうしてここに……あれ?風峰さんは?」
遊季都「ゆ、遊路さんは屋上で風に当たってくるって言ってました!!じゃあ失礼します!!!」
遊季都は一目散にその場を離れるのだった。
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
(SPの車)
遊路「すまない。本当に助かった。」
遊季都「いえ、気にしないで下さい。状況が状況ですから…。」
病院を抜け出した遊路はすぐさまSPに車を出してもらった。
近場の公園で合流し、車で始まりの場所に向かっているところである。
遊路「ここまで来てもらってこんなこと言うのも難だが、大丈夫か……?」
遊季都「はい。悪魔絡みなら僕も役にたてるかもしれませんし。」
遊路「ありがとう。正直今回はかなり心強い。」
遊季都「いえ……。ん?」
そこで遊季都は遊路の横顔がどこか遠い目をしていることに気がついた。
遊路「…………」
遊季都(どうしたんだろう…。)
ラズベリー【訊いてみれば?】
遊季都(なんかそんなことできる雰囲気じゃないよ。何か思いつめてるような感じだし。)
ラズベリー【う~ん、始まりの場所とやらがどうして判ったのか訊きたいんだけどな~】
遊季都(今はやめとこうよ。)
遊路「………」
遊路(もし俺の仮説が正しいとすれば……犯人、ネバギバチャレンジャーと『カゼミネ』の因縁は随分昔の事ってことになる…。)
遊路(あの頃の俺はまだまだガキだったけど……。)
遊路(一体何をしてたんだかな。)
遊季都(ねぇラズベリー?)
ラズベリー【うにゃ?どしたの?】
遊季都(聞いていいのか分からないけど、あの悪魔『ブルーベリー』とはどんな関係だったの?)
ラズベリー【おぉ~?遊季都君もしかしてヤキモチかな~?】
遊季都(べ、別にそういうのじゃなくって!)
遊季都(ただ妙に嫌ってそうだったからなんか気になっちゃって…。)
ラズベリー【ふ~ん…。】
遊季都(無理して話さなくてもいいけど。)
ラズベリー【いんや?別にそんなに込み入った事情があるとかじゃないんだ。】
ラズベリー【まだ魔界が滅んでなかった頃の話だけど……まぁ簡単に言うとアイツアタシに惚れたらしいのね?】
遊季都(まぁ…それはなんとなく分かる。)
ラズベリー【ただアタシあぁいうのタイプじゃなくてさ、適当にあしらってたんだけど…。】
遊季都(うん。)
ラズベリー【これがまたアイツ……とんでもなく諦めが悪いんだわ。悪い奴じゃあないんだけどとにかく諦めが悪いの。どんなに拒絶してもボロクソ言っても、涼しい顔して「成程それが愛か」とかなんとか言って、まるで聞く耳持たないのよね。】
遊季都(ただのしつこい人……ってこと?)
ラズベリー【人ではないけどね。流石にウザいなぁとは思ってたけど、魔界があんなことになってからは完全に疎遠だったわ。んで久しぶりに再会したらあの通りなんも変わってなかったって感じね。】
遊季都(…ブルーベリーが犯人に協力するのはやっぱり生き残るためなのかな?)
ラズベリー【まぁそれが一番納得できるかしらね。アイツだって天界の連中は好いてないだろうし。……でもなんか前に見た時よりマジになってるような感じがするのよね。】
遊季都(そうなの?)
ラズベリー【こっちに来て色々変わったのかもしれないけど。あんなに主様主様言うようなタマじゃないと思ってたんだけどな。】
遊季都(そっか……ありがとう。教えてくれて。)
ラズベリー【んん~?別にこんくらいなんでもないわよ?アタシと遊季都君の仲だし~。】
遊季都(いざとなったら……僕も戦わないと…。)
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(新横浜第2遊戯会館)
車から降りる二人。いざという時の為に運転手には待機していて貰う事にした。彼もまたSPの一人であり、遊路の一声でありとあらゆるスキルを発揮する。
遊季都「ここが…。」
遊路(頼む……此処が正解であってくれ!!)
新横浜第2遊戯会館
新横浜地区に建つ施設で、主にスポーツの大会等で使用される事が多い。デュエルの試合にも使われることがある。やや古い建物で、広さや大きさはそれほどでもない。
数年前、近場に大型の遊戯会館が新設された為、取り壊されてはいないものの今では使われていない。
遊季都「……!」
遊路「ビンゴ……。」
やや錆びた玄関の扉は……軋んだ音を上げながら開いた。
メインとなる運動場。
やや埃の臭いが漂う広い空間が広がっている。
壁際には小規模ながらギャラリー席が用意されており、父兄を始めとする観客にも配慮された設計となっているが、今は無機質に固定された長椅子が並んでいるだけである。
遊季都「……誰もいませんね。」
遊路「いいや……人が出入りした形跡がある。何度も…何度も…。」
遊路は運動場の空間に叫ぶ。
遊路「居るんだろう?ネバギバチャレンジャー。」
乾いた天井に声が反響する。
遊路「身を隠す力ってのは本当に凄いらしいな。気配一つ感じない。」
遊路「けど、居るんだろう?」
自信を持って投げ掛ける。
遊季都(本当に……ここに…。)
ラズベリー【分かっちゃいたけど……】
そこまで言うとラズベリーは人間の姿に変身する。
ラズベリー「不気味なほどになにも感じないわね。」
遊路「ここに辿り着いた以上、お前の正体が分かってるって事も理解してるよな?」
遊路「まぁ俺はお前が会いたがってるカゼミネじゃないからな。姿を見せたくないのも仕方無いか。」
遊路は言葉を続ける。
遊路「けど言っておくぞ。お前はカゼミネについて一つ知らない事がある。」
遊季都(知らないこと…?)
遊路「そして今日も……カゼミネは此処に来ない。」
?「……!」
遊季都「うわっ!」
ラズベリー「!!」
一瞬、遊季都の視界を閃光が遮る。
つい目を閉じるが、ただそれだけ身体には何も影響は無かった。
遊季都「な、なんだ今の……?」
遊路「遊季都!?消えた……!?」
遊季都「え!?遊路さん?何を……!」
ラズベリー「チッ、やられた…。」
状況を一瞬で理解したラズベリーは天井に声を張り上げる。
ラズベリー「呼びたかないけどブルーベリー!!!遊季都君に何してくれてんのよ!!」
遊路「これは……そうか悪魔の…!」
ブルーベリーの能力〔真昼の恒星(ミッドデイ・ティンクル)〕によって遊季都を認識できなくなったことに気づく。
遊路「おい!なんのつもりだ…!出てこいみや……」
?「んでだよ…。」
いつの間にか彼はそこに居た。
?「てめぇなんざ呼んでねぇってんだよ…。なのに……なんで一々しゃしゃり出て邪魔すんだよ…。」
やや大柄な体格。お世辞にも綺麗と言えない言葉使い。威圧的な態度。
ShinTokyo-Duelist Museum(シントーキョー・デュエリストミュージアム)で、遊路と激戦を繰り広げた対戦相手。
三宅「風峰遊路!!!!」
遊路「やはりお前か…三宅蘭次郎。」
遊季都「三宅プロが……ネバギバチャレンジャー……!?」
三宅「てめぇは一人こそこそ隠れときゃ良かったんだよ。そうすりゃいい目眩ましになったんだ。なのにちょこまか引っ掻き回した挙げ句こんなとこまで来やがって…ウゼェったらねぇ。」
遊路「だからあのデュエル中に脅迫文を出したのか。世間の目が俺に向くように。」
三宅「ケッ…!悪ぃかよ。」
三宅「そんなことよりてめぇ…カゼミネについて知らない事があるだぁ?言ってみろよ?あぁ!?」
三宅「口から出任せでなんとかしようってんなら甘ぇんだよ!もしハッタリだったなら後ろのガキは終わりだ。永遠にそのまんまだよ。」
遊季都「なっ……!?」
遊季都は自分の置かれている状況を改めて理解し恐慌した。
今の自分は誰からも見えない、自分の声は誰にも聞こえない。世界からただ一人浮いた存在……生物の世界からすれば死にも等しい。
ラズベリー「遊季都君…大丈夫心配しないで!!」
遊季都を心配させまいとラズベリーが声をかける。しかしそれはラズベリーからも認識されていない事を示していた。
遊季都(遊路さん……)
ラズベリー「ねぇ?そもそも誰なの?カゼミネって…。」
遊路「俺も最初は判らなかった…。」
遊路「俺でも美羽でもないとすると……もう見ず知らずの誰かなのかもしれないと諦めかけてたところさ。」
遊路「でも、カゼミネは俺が思っていた以上にずっと近くに居たんだ…。」
三宅「………」
遊路「こいつが探してる人物『カゼミネ』は……!」
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50 | 【DAY3】カゼミネと邂逅 | 622 | 4 | 2019-09-02 | - | |
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67 | 【DAY5】カゼミネと回復 | 603 | 2 | 2020-02-27 | - | |
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