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HOME > 遊戯王SS一覧 > 【DAY2】カゼミネと解答

【DAY2】カゼミネと解答 作:ギガプラント




当然ながらエキシビションマッチは中止となった。
例の脅迫状プログラムは、予めミュージアム内のコンピューターに仕組まれていたものらしい。
人の多かった会場内は、今では直ぐさま集められた警察達によってごった返している。
観客達の安全を確認し外へ誘導しつつ、裏では爆弾を探す部隊もひっきりなしに動いていた。






梓「こんなことって…!」

遊季都「…まさかこんな事になるなんて。」

盛雄「いたずらとかじゃねえのかなぁ…?」

遊季都「悪戯にしては手が込み過ぎるような…。」

ラズベリー【そこまでして戦いたいのかしら……】



遊路「お、良かった全員揃ってたか。」

警察関係者から一時的に解放された遊路と美羽が一同の前に姿を現す。

遊路「みんな……ごめんな、こんな事になっちゃって。」

大和「ととさまのせいではありません!わるいのははんにんです!」

遊月「そうです。遊路様が気に病む事ではありません。」

遊路は我先に謝罪の言葉を述べる。
その表情は心なしか少しだけ疲れて見える。

遊路「やれやれ……随分と笑えないラブレターを貰ってしまったな。」

遊月「遊路様、あのネバギバチャレンジャーとは誰なのですか?」

遊路「それがな、まったくもって分からないんだ。今まで星の数ほどのデュエリストと戦ってきたが、そんな名前の奴は記憶に無い。」

遊季都「え?じゃあ始まりの場所っていうのは…!?」

遊路「残念ながらそっちもさっぱりだ。俺と戦いたいなら正面から挑んでくれた方が助かるんだがな。」

心愛「で、でもどうするんですか!?このままじゃあ…」

遊路「あぁ勿論放っておくわけには行かない。何が何でも見つけ出すつもりさ。」

遊路は携帯を取り出す。


遊路「…ルナか?ちょっと大急ぎで調べてほしい事があるんだ。今まで俺が戦った人の中からネバギバ……あぁその通りだ、理解が早くて助かる。大急ぎで探してほしいんだ、人は何人使ってもいい。千春さんにも話は通しておく、あぁ兎に角急ぎで頼む。ありがとな。じゃあまた。」

何処か近場に待機していたと思われるルナテシアに手早く要件を伝える。


美羽「遊路、私も何でも手伝うよ。」

遊路「すまない…ありがとうな。犯人は絶対に見つけ出す。爆破なんてさせてたまるか。」

美羽「…やっぱり爆弾でもしかけてるのかな、酷い事するなぁ。」

遊月「大丈夫です。これだけの人数がいれば、爆弾なんてすぐに見つかります!」

遊月はごった返す警察達を見ながらやや明るめにそう言った。


遊路「とまぁそんな訳で、俺は警察の人達とたっぷり話さなきゃならないんだ。重ね重ね申し訳ないんだが、今日のところは先に帰っていてくれ。」

遊路は事の中心人物である。皆この展開は予想していた。

遊路「事務所の車が迎えに来てくれるから。安全なところで待っててくれ。」

遊月「畏まりました。」

遊路「…報道関係者に見つかると厄介だな。すまん、俺はもう行く。」

美羽「うん。くれぐれも」

遊月「無理はしないでくださいませ。」


遊季都達はそそくさと戻る遊路を見送る……その時



三宅「風峰遊路!!」



遊季都「えっ!?」

反対方向から声をかけたのは、先程まで遊路とデュエルしていたプロデュエリスト『三宅 蘭次郎』だった。
堂々とした態度で彼は言葉を続ける。





三宅「てめぇとの決着はまだついてねえ!!いいか、今度こそてめぇを叩き潰して俺が最強って事を証明してやる!!覚えとけ!」



遊路はやれやれと言った感じで冷たげに返す。

遊路「…やる気があるのは素晴らしいけどな、状況が分かってるのか?今はそんな事を言っている場合じゃない事くらい子供でも分かると思うが。」


三宅「チッ、気に入らねえ…。何処の誰だか知らねえが俺の邪魔をしやがって…。そいつも俺がぶっ潰して…」

「今の声は……あ、風峰プロ!」
「三宅プロもいるぞ!!」
「今回の件、犯人に心当たりは…」

表彰式に来ていた報道陣達が三宅プロの場を弁えない大声に集まってきてしまう。


遊路「面倒な事してくれるなまったく。皆も早めに離れてくれ、じゃあ。」

三宅「チッ…!」

遊路は報道陣を引きつけつつ去っていった。
幸い彼等は遊路と三宅プロ以外には目もくれていないようだ。
それなりの人数が集まっていた報道陣は真逆に去った二人を追い、あっという間に目の前から消えていった。





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美羽「…私あの人嫌い。」

大和「わたくしもあのひとはきらいです!」

美羽「…犯人あの人なんじゃないの?」

遊月「美羽様、どうどう。」


梓「…デュエルが始まる前から素行の宜しくない方だとは思っていましたが。」

盛雄「プロって、みんながみんな風峰プロみたいじゃないんだなぁ…。」

梓「人間性に問題があると思いますわ!…デュエルの腕に関してはプロとして納得できるものでしたけど。」

遊季都「確かに…まさか無敵モードのイエロー・ユーシャを分離させずに倒すなんて。」

盛雄「あれで一気に追い詰められたもんなぁ。」

詩音「はぁ?何言ってんだ?」

遊季都「えっ!?」


思いがけない詩音の声に驚く遊季都。
少しだけビクッと身体が震えた。


遊季都「いや、ダメージステップ中に攻撃力を上げて分離を封じた……んですよね?」


たじろぎつつ遊季都が答えると詩音は露骨に呆れたように溜息をつく。


詩音「…お前等よくそんなんでデュエル甲子園出ようと思ったな。」

遊季都「ええっ!?」

詩音「封じられたんじゃなくて、単に分離しなかっただけだろバーカ。」

盛雄「へ!?」

心愛「もう、先輩はまた…。」

心愛が宥めに入る。
しかし本人達は未だ納得できていないようだった。

遊季都「ええっと、どういうことですか?」
梓「分離しなかっただけとは…。」

心愛「あ、それはですね…」
詩音「っとけ心愛!んなタコ共に一々説明してやる義理なんざねーよ。」

心愛「そんな言い方しなくても…。」

詩音「ちったぁ自分の頭で考えろって言ってんだよ。首から上に付いてんのは飾りか?丁度いい中で展示してもらえ、少しは世間の足しになるだろうよ。」

美術館を指差しながら中々にグロい毒を吐きかける。

心愛「先輩!もうやめてください!小さい子もいるんですよ。」

詩音「チッ…!」

少し強くなった心愛の口調に圧され、詩音はつまらなそうに黙り込む。


ラズベリー【この娘は相っ変わらずの女王様ね…。】

ポップロック【あまり気分の良いものではないが……主?】

チャーハン【邪魔しちゃ駄目。考えてる。】


遊季都は言われた通りに考える。
ダメージステップでの分離は不可能。なのに「分離しなかった」と言った詩音。
分離が行えたとすればそれ以前……考えうる可能性を一つ一つ紐解いていく。














遊季都「そうか…そういうことか。」






結論が出るのにそう時間はかからなかった。


遊季都「あらゆる効果を受けないって事は、倒せる方法もかなり限られるんだ。」

盛雄「んん?」

梓「そうですわね…カード効果での破壊や除外にバウンス、帝王の烈旋等でリリースする事もできません。それこそ壊獣モンスターのようなカードでもなければ。」

遊季都「そうなんです。でもあの時、既にバトルフェイズに入っていました。」

遊季都「攻撃力を上げるカードや効果ならダメージステップ中でも使えるからあの段階で何も発動しないのはおかしくない。逆に言えば攻撃宣言時に何もしなかったなら…。」

梓「…!?イエロー・ユーシャを倒すとすればダメージステップ中に攻撃力を上げてくる可能性が非常に高い。」

遊季都「勿論他の可能性も考えられなくはないけど、攻撃宣言の段階でその結論は出せる筈なんだ。ましてや風峰プロなら…。」

梓「気づかない訳がない…だからあれは『敢えて分離しなかった』ということになる…。」

盛雄「で、でもじゃあなんで分離しなかったんだぁ?3体に分離すればその後の攻撃も防げるんじゃないのかぁ?」

梓「確かに、だとすれば…一体どんな理由が。」





遊季都「…多分だけど、セットカードだと思う。」



ラズベリー【そういえば1枚あったね~】

遊季都「イエロー・ユーシャを分離させないままの方が都合が良いカード…だとすると。」

梓「どんなカードでしょう…?大きなダメージを受けるリスクもありますわね。」

盛雄「んーと…。」

チャレンジャーZの面々は再び考え始める。
















詩音「あー、アタシ等ちょっとトイレ行ってくるわー。」





詩音は両端の小飛と心愛の肩をホールドすると、そのまま回れ右で歩き出す。

心愛「えっ…先輩?」

詩音「いーから付き合え。ほら行くぞ。」

小飛「おおぉ!シャオこれ知ってるアル!連れションってやつアル!」

心愛「お、大きな声で言わないでください!」


梓「あの!そろそろ事務所の車が…!」

詩音「ちょっとそこまで行くだけだよ。‘3人揃って帰ってくりゃ問題ないだろ?’」

言い終えると詩音は半ば強引にクイーン・フォース2人を連れすたすたと歩いて行ってしまった。
当然ミュージアム内には入れない為、恐らく近場にあるコンビニにでも行くのだろう。

美羽「…詩音ちゃん、相変わらずというか。」

遊月「確かに…ですね。」

遊季都「え?」

美羽「多分今のヒントだよ。詩音ちゃんなりの。」

盛雄「ヒント!?今のがぁ!?」

遊季都「………」











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小飛「アイヤー、なんだかんだ言ってちゃんと先輩してるアルね~。」

歩き出して役1分。ホールドから解放されたシャオは笑顔を見せる。

詩音「るっせえ!そんなんじゃねえよ。」

心愛「先輩、皆さん自身に考えてほしくてあんな言い方したんですね。」

詩音「だ、だから違うって言ってんだろ!」

小飛「まぁ肝心のヒントはちょっと強引だったけどネ。」

心愛「ふふ…。」

詩音「なっ!?いーんだよ!!あのタコ共にはあんくらいが丁度良いんだ!」

小飛「あ、認めたアルね?」
心愛「先輩優しい…。」

詩音「~~~~~!!」

時にリーダーで女王様たる詩音が転がされる。これもまたクイーン・フォースがバランスの良いチームとして成り立っている理由の一つかもしれない。




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‘3人揃って帰ってくりゃ問題ないだろ?’


遊季都「除外されている3体のモンスターだ!」

梓「というと、融合素材のモンスターということですの?」

遊季都「恐らく風峰プロは3体のS・HEROを除外したままにしておきたかったんじゃないでしょうか?」

遊季都「あのセットカードが除外されているS・HEROを呼び戻す『異次元からの帰還』みたいなカードだとすれば…。」

梓「再び融合召喚に繋げられる…!」

盛雄「先のことを考えてたってことなのか…。」





美羽「おめでとう。」





パチパチと拍手を送る美羽。

遊季都「美羽さん?」

大和「どうぞ、ごかくにんくださいませ。」

遊季都「え?」

大和は1枚のカードを遊季都に差し出す。


ヒーローたちのきかん
通常罠
「ヒーローたちのきかん」の①②の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
①:相手フィールドにのみモンスターが存在する場合に発動できる。
除外されている自分の「S・HEROレッドファイヤー」「S・HEROブルースカイ」「S・HEROランドイエロー」を1体ずつ特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン融合素材にできず、戦闘では破壊されない。
②:墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「S・HERO」モンスターまたは「無敵HERO」モンスターを合計3体まで対象として発動できる(同名カードは1枚まで)。そのモンスターをデッキに戻す。


手渡されたのは遊季都が考えた通りの帰還カードだった。
おまけに破壊耐性までついており、あの状況で使えば3体の帰還どころか懸念していた戦闘ダメージまで打ち消せる。
遊路がセットしていたカードがこれであったならば、間違いなく分離を行わなかったであろう。

美羽「実際に確かめた訳じゃないけど、多分そのカードであってると思うよ。」

盛雄「な、成程なぁ…。」

梓「納得ですわ…先輩方はここまで読んで…。」

美羽「う~ん、流石にカードまでは分からなかったと思うよ?詩音ちゃんにしっかりS・HERO見せた事って無かったと思うし。」

美羽「多分今の遊季都君みたく、何となくどんな効果のカードかを予想したんじゃないかな。」

ラズベリー【へぇ…さっすが甲子園優勝しただけあるわね~】

盛雄「すげえや…。」











遊季都(僕達も追いつかなきゃ……先輩達に。)










梓「…そうするとあのデュエル、まだまだ先は分かりませんでしたね。」

美羽「そうだね。最後まで見たかったなぁ…。」

盛雄「………。」

ちょっとした答え合わせで気が紛れていたが、改めて今しがた起きた事を再認識する。
皆の表情はまた少しだけ暗くなるのだった。

遊月「あ、事務所の車が参りました。」

丁度クイーン・フォースの3人もこちらに向かっていた。











ラズベリー【………………】

チャーハン【ラズベリー様、怖い顏。】

ポップロック【どうした、何か居たか?我には何も感じ取れ難だが…。】


ラズベリー【ううん……何でもない。】










ラズベリー【…まさかね。】





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遊路「…ただの悪戯ならいいんだがな。」


その日、警察やルナテシア達SP、そして遊路自身によって大規模な調査が始まった。

遊路の周りや過去の対戦相手、ありとあらゆる場所から「ネバギバチャレンジャー」に該当する者を探したが、それらしい人物は見つからなかった。
同時に「ハジマリノバショ(始まりの場所)」についても調査されたが、こちらは遊路自身に宛てが無い以上どうしようもなく、調べる事すら碌にできなかったという。

美術館内には特殊部隊が入り、爆弾やそれに準ずる仕掛け、兎に角不審な物が無いか隅から隅まで調べられた。
しかしこちらも結果は虚しく爆弾は勿論火薬一粒見つからなかった。

爆発物は見つからなかった為、現状は警戒しつつ美術館を立入禁止にした上で様子を見る事となった。







そして………












23:59:57










23:59:58










23:59:59










00:00:00













日付が変わった瞬間。
夜の街に1つの大きな爆発音が響き渡った。


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tres(トレス)
詩音さんみたいな不器用ながら優しい子好き…そんな詩音さんのヒントもありながら答えにたどり着きました。
そして0時きっかりの爆発音、果たし状を送った人物の予定通りに物事が進みそうな予感… (2019-07-31 23:36)
ギガプラント
コメントありがとうございます。
うーむ本家がこんな娘だったかどうか自信が無い……ただなんというかこういう役回りが似合う娘ではある気がします。クイーン・フォースでの絡みは本家でそこまで描写されている訳ではないので、予想めいた部分も多いかもです。 (2019-07-31 23:46)
ター坊
事件中なのにデュエルの結果が気になるのはデュエリストの性なのか。詩音、良いツンデレだ。
さて、マジな爆発もあって事件が動き出す。 (2019-08-01 00:42)
ギガプラント
コメントありがとうございます。
一応クイーンフォースにも出番を作りたくて多少強引ながらも突っ込んだシーンです。DAY3からは暫く推理のノリ……の予定です。 (2019-08-01 01:50)

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