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【DAY3】カゼミネと可能性 作:ギガプラント
遊路「そうか……ありがとうな、わざわざ伝えに来てくれて。」
遊季都「いえ…。」
冷静に考えれば答えは一つしかなかった。
先程の悪魔との会話で得た情報は幾つか有る。
ネバギバチャレンジャーは悪魔『ブルーベリー』と契約している事。その能力は人や物を人の目から覆い隠す事ができる〔真昼の恒星(ミッドデイ・ティンクル)〕。
あくまで戦う事が目的なので、犯人そのものを捜し出すのは徒労である事を伝えてほしいと頼まれた旨。
その他にも細かい点を含めば幾らかあるのだが、それら全てにおいて遊路に報告しない方がいい理由はどこにもない。
結局は彼等の希望そのままなのが癪だが、遊季都にはそれ以外の選択肢が浮かばなかった。
遊季都から連絡を受けた遊路は美術館のエントランス部分にまで出てきていた。
ブルーベリーと話した一連の出来事を聞き終え一段落したところである。
遊路「しかし悪魔絡みの事件だったか…言われてみれば納得だが、これは厄介だな。」
遊季都「すみません…もう少し何か情報が得られれば良かったんですけど。」
遊路「いいや、悪魔が絡んでいる事が分かっただけでも十分だ。…それに幸いあと一日待ってくれるらしいしな。」
遊路は少しだけ胸を撫でおろす。あくまで猶予期間が延びただけで本質的な問題は何一つ解決してはいないのだが。
ラズベリー「って言ってもあくまで『美術館には』手を出さない。って言っただけ。アイツの事だし美術館以外のどっかは爆発させるんじゃないかしら?」
遊路「だろうな。でなければ世間が安心してしまうかもしれないし。…でも今までの相手の出方から見るに、無暗に人を傷つけるような事はしないと思う。また空き家になってる建物を狙うんじゃないかな。」
ラズベリー「…まぁそうでしょうね。変に刺激するような事はしないと思う。」
遊季都「でも……やっぱり安心はできません。」
遊路「あぁ。とりあえず近場の空き家は全て調べてもらうようにするよ。……ただ、相手の能力を鑑みるにあまり意味は無いだろうけどな。」
遊季都「そう……ですね。」
ブルーベリーの能力を使えば、堂々と爆発物を設置しても誰にも見つけられないように隠す事ができる。
警察や爆発物処理班が何人集まっても意味が無い。
遊路「『認識されない力』か。確かにそれなら納得できる状況だったわけだ。」
遊季都「今朝の脅迫文ですね。」
遊路「それもそうなんだが、昨日の脅迫文にしてもそうだ。」
遊季都「えっ?」
遊路「実はあのデュエルフィールド。何か式の途中で不具合が起きないよう割とギリギリまでメンテナンスが行われていたんだ。…それこそ俺達があの別室に移動する直前まで。」
機器の構造上、脅迫文プログラムを仕込むには直接アクセスしなければならない。つまりメンテ後にデュエルフィールドに近づきコンピューターを触る必要がある。
遊季都「じゃ、じゃあいつあんな物を…。」
遊路「メンテナンスが終わってからデュエルが始まるまでの間……10分かそこらくらいだろう。」
遊路「更に言えばあの部屋に入った人数はそう多くない。不審な輩が入ってきたら絶対に誰かが気づいた筈だ。だが俺を含め誰もそんな人物は見ていない。」
遊季都「そうか…だから悪魔の力を。」
遊路「あぁ。認識されない力があるならそこはクリアできるからな。監視カメラやサーモグラフィ装置でも怪しい人物は見つからなかったが…恐らくそれも。」
ラズベリー「でしょうね。〔真昼の恒星〕はあらゆる認識の対象から外すことができる。人は勿論機械にだって見つけられないわ。」
遊季都「………」
遊季都は改めてブルーベリーの能力の厄介さを感じる。
どうしても認知ができないならそれはもうそこに居ないのと変わらない。
居ないものを見つけ出す事などどうすればできるのだろうか。
遊季都「遊路さん…。」
遊路「…分かってる。こうなりゃなんとしてでも『始まりの場所』とやらを見つけ出さなきゃならない。」
遊季都「あの悪魔…ブルーベリーにそれとなく聞いてみようとしたんですけど、『分からない筈が無い』って、それだけ…。」
遊路「まったく変なところで強情な奴だな。」
ラズベリー「案外人違いなんじゃないの~?もしくは同姓同名の別人とか。」
遊路「だったら良いんだがな…。」
遊季都「名前が同じだったとしても遊路さんくらい有名な人と間違えたりしないと思うけど…。」
遊路「自分で言うのも難だがそうだと思う。」
ラズベリー「そっかー。あーもう!あのキザ男のしたり顔が浮かんで苛々するぅ!!」
遊路「ラズベリーさんはその悪魔と知り合いなんだよな。他に何か分かる事は無いか?」
ラズベリー「残念ながら特にないわね。能力については大体知ってるけど、アタシ等は魔界が壊滅してから散り散りになっちゃったから。」
ラズベリー「アイツがその犯人に協力するのも、契約してるってんなら何もおかしくはないし。」
遊季都「それに負の感情を集められるなら…悪魔にとっても都合が良さそうだしね…。」
ラズベリー(でもアイツ…今回やたらノリノリな気がするんだけど、あんなにアグレッシブな奴だったかしら…?)
遊路「…仕方ないか。まぁ何はともあれ手掛かりを探すしかないな。」
遊路「っともうこんな時間か。すまない、これからやらなきゃいけない事が山ほどあってな。」
遊季都「あ、そうですよね…!すみませんお時間作って頂いて…。」
遊路「いやいいんだ。わざわざ来てもらったのに申し訳ないな。今日はゆっくり休んでくれ。」
遊季都「はい。…では失礼します。」
美術館を後にする遊季都の背中を見送る。
この後脅迫文プログラムを仕込むタイミングが無かったか現場検証を行う予定だったが、悪魔絡みという事が分かった以上それも徒労に終わるかもしれない。
しかし『始まりの場所』については、考えうる限り調べ尽くした後であり正直手詰まりといっていい状態である。
色んな意味で実態が掴めない『ネバギバチャレンジャー』にどう辿り着けばいいのか…改めて考え直さなければならない。
美羽「遊路。」
遊路「えっ?」
少し俯き気味だった顔を上げると、今度は美羽が目の前に来ていた。
遊路「美羽、どうして此処に?」
美羽「どうしてって昨日からずっと働き詰めでしょう?心配で見に来たんだよ。」
遊路「あ、あぁ…そういえばそうか。」
昨日の事件後、遊路は過去の大会の調査は勿論マスコミや警察への説明に追われ休む暇など殆ど無かった。
当然ながら家に帰る事もできず、作業の合間に椅子で仮眠した程度である。食事も殆ど摂っていない。
普通に考えれば明らかなオーバーワークなのだが、美術館を人質にされた緊急事態の為、どうにも仕方のない部分が出てきてしまうのだ。
美羽「…大丈夫?犯人探しも大事だけど、無茶しちゃ嫌だよ?」
遊路「心配かけてすまない。とりあえずタイムリミットが少し伸びたから、後で休憩させて貰う事にする。」
自身の休息の事などすっかり失念していた事に遊路は気づく。
確かに美羽の言う通りだ。倒れてしまっては元も子も無い。
美羽「ねぇ…?此処にいて大丈夫なの?爆破予告って此処なんでしょ?」
遊路「昨日の夜爆発物処理班が血眼になって捜した結果何も見つからなかったからな。少なくとも今は大丈夫のはずだ。」
遊路(とはいえ……何時でも敵は誰にも見つからずにこの美術館に忍び込み、誰にも見つからない爆弾を設置できる訳か。)
美羽「そっか…でも今何をしてるの?犯人はもうとっくに逃げちゃった後だよね?」
遊路「警察関係者と一緒に現場検証をな。脅迫文プログラムを仕込むタイミングから犯人を割り出せないか試そうとしているところだ。」
しかしその望みもかなり薄くなってしまった。
美羽「…始まりの場所ってやつの方は分かりそう?」
遊路「残念ながら今のところ全く分からないな。もしかして犯人が人違いしてるんじゃないかってさっき遊季都と話していたくらいだ。」
美羽「遊路と誰かを間違えてるってこと?……そんな人居るかなぁ?」
遊路「プロデュエリストに別の風峰遊路が居たりすればその可能性も考えるんだがな。残念ながらそんな人は一人も……」
遊路が話す中、やや小走りでエントランスに警察の一人が戻ってくる。
警察「すいませ~ん!風峰さん。」
遊路&美羽「「はい?」」
美羽「あ、すいません。つい…」
警察「いえ。再度お話を伺いたいとの事なので、申し訳ありませんがもう一度こちらに来て頂けますか?」
遊路「あぁはい。了か………」
遊路(…………ん?)
遊路は美羽に向き直り、その瞳を真っ直ぐに見つめる。
美羽「遊路?」
遊路「まさか………。」
美羽「どうしたの…?」
遊路「間違えていたのは、俺の方だったんじゃないか…?」
~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~
カゼミネ オレト タタカエ
シンヤ0ジニ ハジマリノバショデ マッテイル
コンドコソ オレガ オマエヲタオス
コナカッタバアイハ
コノビジュツカンヲバクハスル
コレハオドシデハナイ
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
イタズラデハナイコトガワカッタダロウ
オレハイツデモココヲバクハデキル
オマエガコナケレバコノビジュツカンハオワリダ
オレハゼッタイニミツカラナイ
ドレダケケイサツガウゴコウト、メノマエニイルオレヲミツケルコトスラデキナイ
ムダナコトハカンガエルナ
カゼミネ、ハヤクオレノモトヘコイ
ソシテオレトタタカエ
コンヤアオウ
~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~
遊路「どうしてもっと早く気付かなかったんだ!こんな簡単な事…!」
美羽「遊路!どうしたの!?」
警察「風峰さん?」
遊路「ちょっと待ってくれ……早くしないと電車に乗っちまう。」
遊路は慣れた手つきで携帯の画面を素早くタップする。
美羽「電車…?」
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
場所は変わってミュージアム最寄りの駅。
ホームで帰りの電車を待っていた遊季都は先程別れたばかりの遊路からの着信に驚いた。
何か大変な事でも起きたのかと慌てて電話に出たが、その内容は違う意味で遊季都を驚愕させる。
遊季都「犯人が呼んでいるのは美羽さん!!?」
遊路「確信は無いけどその可能性はあると思う。何しろあれだけ俺を調べても見つからなかったんだからな。」
遊季都「でも、どうして…。」
遊路「あの脅迫文、一回たりとも俺の名前が書いてないんだよ。名指ししてるのはずっと『カゼミネ』って名前だけだ。」
遊季都「あっ…そうか!美羽さんも風峰…!」
あのタイミングで脅迫文が登場すれば、誰しもが文中の『カゼミネ』遊路の事だと思うだろう。
しかしあの場にはもう一人、『風峰美羽』が居た。
授賞式においては一貫して「Lucia」名義で呼ばれていたからか、遊路でさえその可能性に気づかなかった。
遊路「そこで遊季都に確認したいんだ。例の悪魔にあった時、俺の名前はっきり言っていたか?」
脅迫文はあのような不気味な文体であり正直根拠としては薄い。
実際に犯人側であるブルーベリーに逢った遊季都から更なる証拠が得られないか。遊路はそう考えたのである。
遊季都「え、えーっと…。」
必死に記憶を辿る。が細かい部分だからか中々思い出せない。
ラズベリー【2回。】
遊季都「え?」
~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~
ブルーベリー「まぁ僕も本気で君がそこまでしてくれるだろうとは思っていなかったさ。けど、今君が知り得た情報を伝えない理由も無いだろう?何せ風峰遊路……彼も君と同じ契約者なのだから。」
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ブルーベリー「だが人間が幾ら力を尽くそうとも、悪魔たる僕が付いている以上主を捕まえる事は不可能だ。」
ブルーベリー「君は風峰遊路とコンタクトが取れるだろう?だから伝えてほしいんだ。主を捕まえる事は絶対に不可能だから調査を打ち切ってくれとね。」
遊季都「嫌です!絶対に不可能なんてやってみないと分からない!」
~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~
ラズベリー【アイツが『風峰遊路』ってはっきり言ったのはその2回だけよ。】
遊季都(す、凄い……よく覚えてるね。)
ラズベリー【悪魔の記憶力舐めて貰っちゃ困るなぁ~。】
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遊路「やっぱりか。急にすまなかった、じゃあ。」
遊路(悪魔が俺の名を出したのは『調査をやめさせる事に関する場合』だけ…。)
遊路(始まりの場所に招いているカゼミネが俺とは一度も言っていない。)
遊路は通話を切るや否や直ぐに別の番号にかけはじめる。
美羽「そんな……あの『カゼミネ』が私?」
遊路「ルナ!すまないがまた急ぎで調べてほしい事があるんだ!」
遊路は新たな可能性を簡潔に説明し、ルナテシアに新たな指示を送る。
その間美羽は、唐突に導き出されたあまりにも予想外の可能性に、言いようの無い気持ちになる。
遊路が電話を終えた後も未だに実感が得られなかった。
美羽「私も『ネバギバチャレンジャー』なんて名前全然聞いたことない…。」
遊路「あくまで可能性の話だが、探してみるしかない。」
遊路「美羽だってデザイナーとして色々な人と関わる事もあるだろ?もしかしたらどこかにヒントがあるかもしれない。」
美羽「うん…。」
遊路は有能なSPに希望を託し、再び現場検証に戻った。
しかし予想通りと言うべきか、目ぼしい結果は得られずに調査は終わった。
悪魔という異形の能力が絡んでいる為、一般人の常識だけでは説明できない複雑な状況なのだが、それを話すわけにもいかない。
辺りが暗くなりだした頃、万一にも爆破される可能性を考え、遊路を含む関係者は全員美術館の外に避難する。
深夜0時。
遊路の予想通り、美術館近くに在った別の空き家が爆音を上げた。
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