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5月29日──デュエルと魂の関係性 作:コンドル
5月29日(金)
放課後の事、遊駆と輪廻が廊下を歩き寮に戻ろうとしていた所を担任の『立花 薫』に呼び止められた。なんでも、これから大事な会議があるのだがどうしても渡したいものがあるため私の代わりにとある人物に渡して欲しいとの事だ。
「いいっすけど、誰に渡せば...」
「新瀬(あらせ)先生にお願いしたいのです」
その名を聞いて遊駆と輪廻は顔を見合わせる。新瀬先生はアカデミアで『魂』の授業をしている事で有名な教師だ。授業は主に2、3年生にしているが、その名は遊駆達1年生にも知れ渡っている。だが特に有名な点はそれではなく、もう一つの事である。
「新瀬先生は5階にいるはずなので、宜しくお願いします」
そう言って立花は輪廻に一つの封筒を渡し遊駆達から去って行った。輪廻の手には渡された封筒が。不思議そうな表情をする輪廻、遊駆は腕に装着されているデュエルディスクにあるマップを開き、5階の新瀬先生のいるところを目指す事にした。
「遊駆...5階って確か新瀬先生しか使ってない場所だったよな?」
「・・・あぁ」
廊下にて遊駆達は歩いて5階に向かう。
「立花先生ってよく俺達がデュエルするの見に来るよな。・・・もしかして俺達の才能を見抜いて...?」
「・・・さあな」
廊下を歩いて行くと放課後という事もあってか生徒が普段より圧倒的に少ない。辺りも静寂で満ち二人の足音が鳴り響く。
輪廻が話をしてもマップを見る事に集中している遊駆の耳には聞こえていないように見える。
立ち止まり遊駆が右に曲がると輪廻も曲がり、左に曲がるとまた左へ。さらに階段をのぼるを繰り返し遊駆達は漸く(ようやく)目的地に到着した。
5階は静寂に包まれた場所。天井から蛍光灯による明かりはあるがほとんど人がいないのに明かりだけあるのが気のせいであっても、ある種の不気味さを感じさせる。部屋はいくつか存在するものの、どこも明かりが点いていない。が、例外として今、明かりが点いた部屋がある。
「あっ、ここか?」
恐怖より好奇心の方が勝る人間が目的の新瀬先生がいるであろう部屋を発見する。
「明かり点いてるし...多分ここだよな」
「・・・ああ」
輪廻がドアをノックしようとした次の瞬間、ガチャと音を出しドアが開いた。不意に静電気を受けたようなリアクションを輪廻はとり、1歩下がる。
「・・・君達...何の用かな?」
そんな輪廻の様子も気にせず、なか若い男の声が聞こえてきた。
ドアが少ししか開いていないため男だという点しか判断できないが、この部屋にいるという事はこの声の主が新瀬先生か。
ともあれ、まずは目的を果たさねばならない。輪廻は手に持った封筒を見てすぐさまドアの先の男に預かった封筒を見せる。
「俺達、立花先生からこの封筒を預かったモンです。新瀬先生に渡してほしいって頼まれて...」
「立花先生が?...君達、時間はあるかな?」
二人が顔を見合わせそして二人同時に頷く。
「そうか。...良かったら入りたまえ。ここまで長かっただろう」
「入っていいんすか?」
「あぁ。構わないよ。ここまで遠かっただろうからな。それに教師以外の人間がこの場所を訪ねるのは久しぶりで気分が上がっているんだ」
そう言って男はドアノブを握ってドアを開けた。
「ようこそ、私の研究室へ。私が新瀬だ。立花先生からの封筒は中で見させて貰うよ。さぁ、入りたまえ」
この男が新瀬先生。身長は180を少し越えており、顔は若々しくも威厳に溢れている。服は黒のジーンズパンツに研究員らしい白衣。髪は鋭く力強く伸びた黒髪。
そして最も特徴的で新瀬先生の最も有名な点は眩しいくらいに輝いている翡翠色の瞳である。全てを見透かすようなその瞳は一部の女子生徒と男子生徒を虜にしている...らしい。
「し、失礼します」
「・・・失礼します...!」
中に入って輪廻は驚愕の声を叫ぶように上げる。
「な...これ、教室じゃないっすか!?」
その場所は遊駆達のいる1年6組と殆ど変わりない場所、教室だった。席が30程しかないため今現在のアカデミアより椅子と机の数が少ないが、それでも教室に違いない。てっきり絵にかいたような、あからさまに研究室ですと言っているような場所をイメージしていた輪廻にとっては以外も以外だったため、口を開けている。
「フフフ驚いただろう?何年も前に使われなくなった教室らしくてな、私が研究室代わりに使わせてもらっているのさ。それと、2名の助手とな」
「助手がいるんですか?」
「ああいるとも。・・・まぁ入り口で話すのもなんだ。どこか好きな席に座りたまえ。そこで話そう。コーヒーはいるかな?」
「あ、いや、大丈夫っす」
「・・・」
そう言って遊駆達はいつも自分達が座っている席を選び座った。
「・・・」
輪廻が小さく息を漏らし周りを見渡す。静寂な空間。教卓の横にある高級そうな椅子に新瀬が座ると輪廻は我に帰ったように封筒を新瀬の元へ渡しに行った。
そして新瀬が封筒を開くとなかには分厚い書類が。それを見て新瀬は「ほお」と小さく声を出し不敵に笑い始めた。
「鶴咲輪廻...というのは赤い髪の君だね?」
「えっ?あぁっ、はい」
不意に名前を呼ばれたため驚きながら返事をする。
「そして君はルームメイトの藤玄遊駆」
「・・・はい」
「そうか...フム、時折立花先生がここに来るが...なに、よく君達の話をするのだよ。君達は実に純粋にデュエルを楽しんでいる...とね」
「純粋...ですか?」
「そうさ。純粋...汚れ無き美の象徴。・・・純粋である人間はな鶴咲君、魂も美しいんだよ」
「・・・?」
新瀬の話が始まった。その勢いに輪廻は圧倒されながらも話を知りたいという好奇心が勝る。
「恐らく、私が何の研究をしているかは知っているはずだ。・・・知っているかな?」
「い、いや知らないっす。授業の方なら知ってるんすけど...」
「そうか...なら説明しよう。私の研究は『デュエルと魂の関係性』についてだ」
「デュエルと...」
「魂の...関係性」
遊駆と輪廻の二人はいまいち何を言っているのか理解できていないようだった。
「よかろう。ならば最初から話す。まず...」
新瀬は授業を始めるような雰囲気を作り自身の研究の話を始めた。
・・・まずデュエルと魂の関係性について、と言われても一切理解出来ないのが常識だ。何、恥じることはない。私もある程度分かりやすく説明する努力はするが...もし、分からなかったら気軽に聞いてくれて良い。
「始めに、デュエルモンスターズとは、およそ1世紀前に生まれた新しい娯楽の事だ。それは君達も歴史の授業の最初に聞いているだろう?そして、当時はまだ誰も、今のようにデュエルについての研究をしておらず、デュエルというものは大して注目はされていなかった」
「だが時は進むに連れてデュエルモンスターズは段々と注目され始める。君達も知っているデュエルモンスターズの創造社、『イフファクトリー社』から最初のデュエルディスクが開発され、デュエルモンスターズは瞬く間に普及、社会現象を巻き起こした。そしてデュエルモンスターズは世界一の娯楽やスポーツとして扱われるようになったのだ」
「ここまでならただの歴史の振り返りだ。だから、ここからは私の研究の話に移ろう。ここまでで何か質問はあるかな?・・・無いか。ならば続けよう」
「私が何故この研究をするようになったかは今は省略させてもらう。今はその結論だけを述べさせてもらおう。・・・強き魂また、純粋な魂をもつ者はデュエルにおいて圧倒的に強い!・・・という事だ」
ここまで話して新瀬は座っている二人の反応を見る。話ながらも見ていたのは見ていたが、少し話を止めて見てみると遊駆は黙って話を聞いているようだが、もう一人の輪廻は腕を組み聞いているように見えるが、それでも理解できていなさそうに見える。
「・・・分からないか」
そう新瀬が聞くと輪廻が申し訳なさそうに「はい」とだけ答えた。
「・・・分かった。ならば鶴咲君、君の場合は身体に理解させた方が良さそうだ。・・・少しそこで待っていてくれ」
新瀬は後ろを向き教室の後ろ側に何故かついているドアノブをつかみ開けた。
「このドアの向こうはは階段があってね、繋がっている場所があるのさ。実験用のデッキを取って来るから、ゆっくり待っていたまえ。なんなら鶴咲君、私が戻るまで話を整理しておくのも良い。それでは少し失礼する」
足音が消えていく。輪廻は詰まりそうだった息をフーッと思いきり吐いた。
「・・・デュエルに関係あるのに頭に入ってこなかった話は始めてだぜ」
「・・・そうか」
理解するのに頭をフル回転させ疲れたたのか、普段よく喋る輪廻が上を向き何も話さないでいる。
そんなこんなで、沈黙が続いていると、新瀬が二人の人影を後ろに連れて戻ってきた。
「鶴咲君、私が来るまでにある程度話を整理、理解することはできたかな?」
「い、いや~難しいっす、ハハ...って、そちらの二人は...?」
「ああ、さっき言っていた二人の助手だよ。実験のために呼んできた。紹介しよう。島田と巣丘だ。鶴咲君達も私の所に来なさい」
新瀬が手招きすると輪廻と遊駆は二人の助手の元へ歩いて行く。
「僕は島田 操(しまだ みさお)。学年は2年生。よろしくね」
「私は3年の巣丘 三葉(すおか みつば)よろしくっ」
スッと巣丘と島田は遊駆と輪廻の順に握手を求める。
「1年の鶴咲っす。こっちは同じ1年の藤玄遊駆」
「・・・」
それに対し二人は握手をする。
輪廻は三葉と握手するとき赤面し、それを三葉はニコニコと笑っていた。
その後新瀬の指示で輪廻と新瀬以外の面々は席に座り島田と巣丘は左腕に装着しているデュエルディスクを外しカメラモードに移行する。
「さて、自己紹介が終わったところで鶴咲君に私の研究を理解してもらうために先程下に行ってこれを持ってきたのだが...」
新瀬の手には実験用のデッキが。デッキを見て輪廻の目付きが明らかに変わった。
「良い眼になったな鶴咲君。これからする実験はイメージデュエルと言って...あー...まぁいい。この実験ですることは、このデッキからまず4枚カードを取っておく。そしてこのデッキをセットだ。」
輪廻が腕に装着されたデュエルディスクに自身のデッキを一旦外し新瀬から借りたデッキをセットし手札を確認する。
「これ...エクゾディアのカード...」
輪廻の手札には『封印されしエクゾディア』、『封印されし者の左腕』、『封印されし者の右腕』、最後に『封印されし者の左足』がある。
「過去の私の研究では極一部のプロデュエリストは逆境の時に自身が求めたカードをドローし手札に加えたという話がある。その点を研究し一つの仮説を作った」
「・・・」
輪廻がデュエルに集中しながらも今度は新瀬の話をしっかりと理解して聞いている。
「私はこれを『魂の呼応』と呼んでいる」
「・・・」
「ピンチに陥った時に自身のデッキを信じデッキもまた持ち主の事を信じる。そしてデュエリストとデッキは最高の力を発揮するのだ。思いがシンクロすると言った方が良いかな?・・・これはそんなピンチな状況のイメージを魂の呼応で覆すという実験だ。どうだい?」
聞いた輪廻は笑って答える。
「えっと...要は楽しめばいいんじゃないんすかね?」
「楽しむ?デュエルを?」
新瀬も意外な答えが出て少し驚いた様子を見せる。
「なんて言うか...最終的にデュエルって楽しんだ者勝ちだと思うんすよ。少なからず俺はそう思ってます。」
「・・・よろしい。では実験を始めよう。今から私のフィールドをイメージしたまえ」
輪廻は形式はどうであれデュエルできる事が楽しそうだ。
・・・では始めよう。まず今はメインフェイズ2、私の墓地にはカード無し。除外も無し。手札も無し。だがフィールドには通常モンスター「ラビードラゴン」が3体存在する。君のライフは残り100。手札はエクゾディアのカードが4枚のみ。伏せ無し。墓地、除外、全て無しだ。私はこれでターンエンド。さぁ、君のラストドローだ。
「俺のターン!」
「さぁ引いてみろ...!」
輪廻は今の状況をイメージして整理する。
(相手は通常モンスター最高の攻撃力を持つラビードラゴン...!もし俺がいまエクゾディアのカードを引かなきゃ負けるだろうな...。だが...素直に言えば、メチャメチャ楽しいぜこの状況!もしこれでドローできたら...やってやらぁっ!)
「ドローッ!」
周りが静かに輪廻の方を見る。
引いたカードは...。
(強い魂をもつ者か、それか純粋な魂の者はデュエルにおいて圧倒的な力を持っているが...)
「・・・揃ったぁっ!俺の勝ち!」
輪廻の手には確かにエクゾディアカードがある。これで輪廻の勝利は確定した。
「・・・お見事。純粋にデュエルを楽しむ君のココロの叫びがデッキに届き勝利へ導かれたようだ。なにせこの実験は成功率が0に近いからな。大抵は緊張やプレッシャーに負けてしまう。それを跳ね返しよくやった。称賛に値するよ」
「っへへ、ありがとうございます!」
一礼して心から嬉しそうな表情をする。
「遊駆はどうする!?」
「・・・やってみる」
それを聞いて2年の島田が口笛を吹いた。
遊駆もまたデュエルディスクに同じデッキをセットし同じ状況でドローする。
「・・・」
島田が優しく笑いながら遊駆を見る。
「・・・まぁ、大抵はこんなものさ。残念だったね」
引いたカードは魔法カードの『リロード』だった。
「ではこれで私がどんな研究をしているか何となくは分かったかな?」
「はい!何となくは!」
「・・・」
実験が終わり、新瀬が閉めに入る。輪廻も楽しそうに返事をしてそれじゃあ帰るか、と準備した所である。
「あぁ、少し待ってくれ」
「・・・?」
「どうしたんすか?」
新瀬も表情を変え助手二人に耳打ちをして遊駆達を見る。
「すまない。少し自分勝手なお願いなのだがね、調査として君達のデュエルを見たいのだ。何、嫌とは言わないが...ね」
デュエルと聞いて輪廻の眼が輝き始める。やはりデュエルに眼がない輪廻だ。それに相手が遊駆だと聞けば嫌でも反応する。
「デュエル!?遊駆とですか!?」
「あぁ。調査としてね。鶴咲君は純粋な魂でデュエルをしているのが見えるし、藤玄君も負けないくらいの魂を持っている。そんな二人がデュエルするとどうなるか気になってね」
「俺は全然やれますよ!遊駆はどうする?やるか?」
「・・・ああ」
「それでは決まりだ。早速教卓をどかすからそれが終わり次第始めてくれ。では私達は座らせてもらおう」
「気楽にね」
島田が落ち着かせる。
準備が整ったようだ。
デュエルディスクが起動する。
「デュエルさせてくれるなんて嬉しいね...!遊駆!遠慮無しだ!いつも通り行こうぜ!」
「・・・ああ」
デュエル!!
「俺の先攻...」
最前席に座った新瀬、島田、巣丘の三人はパソコンにデュエルディスクを繋ぎ何やら難しそうな作業を始めた。
(魂は問題なし...。鶴咲輪廻か。フフフ、面白い奴を捕まえた。純粋な魂と言ってもいつかは汚れるもの。ならば奴の魂がどれだけ純粋か見させてもらうぞ。そして藤玄遊駆とやら...今は鶴咲の影に埋もれているが、必ず奴は成長する...!あと1枚ずれていれば、エクゾディアが完成するところだったからな...。見させてもらうぞ。二人のデュエリストの純粋なる魂と魂の激突を...!)
放課後の事、遊駆と輪廻が廊下を歩き寮に戻ろうとしていた所を担任の『立花 薫』に呼び止められた。なんでも、これから大事な会議があるのだがどうしても渡したいものがあるため私の代わりにとある人物に渡して欲しいとの事だ。
「いいっすけど、誰に渡せば...」
「新瀬(あらせ)先生にお願いしたいのです」
その名を聞いて遊駆と輪廻は顔を見合わせる。新瀬先生はアカデミアで『魂』の授業をしている事で有名な教師だ。授業は主に2、3年生にしているが、その名は遊駆達1年生にも知れ渡っている。だが特に有名な点はそれではなく、もう一つの事である。
「新瀬先生は5階にいるはずなので、宜しくお願いします」
そう言って立花は輪廻に一つの封筒を渡し遊駆達から去って行った。輪廻の手には渡された封筒が。不思議そうな表情をする輪廻、遊駆は腕に装着されているデュエルディスクにあるマップを開き、5階の新瀬先生のいるところを目指す事にした。
「遊駆...5階って確か新瀬先生しか使ってない場所だったよな?」
「・・・あぁ」
廊下にて遊駆達は歩いて5階に向かう。
「立花先生ってよく俺達がデュエルするの見に来るよな。・・・もしかして俺達の才能を見抜いて...?」
「・・・さあな」
廊下を歩いて行くと放課後という事もあってか生徒が普段より圧倒的に少ない。辺りも静寂で満ち二人の足音が鳴り響く。
輪廻が話をしてもマップを見る事に集中している遊駆の耳には聞こえていないように見える。
立ち止まり遊駆が右に曲がると輪廻も曲がり、左に曲がるとまた左へ。さらに階段をのぼるを繰り返し遊駆達は漸く(ようやく)目的地に到着した。
5階は静寂に包まれた場所。天井から蛍光灯による明かりはあるがほとんど人がいないのに明かりだけあるのが気のせいであっても、ある種の不気味さを感じさせる。部屋はいくつか存在するものの、どこも明かりが点いていない。が、例外として今、明かりが点いた部屋がある。
「あっ、ここか?」
恐怖より好奇心の方が勝る人間が目的の新瀬先生がいるであろう部屋を発見する。
「明かり点いてるし...多分ここだよな」
「・・・ああ」
輪廻がドアをノックしようとした次の瞬間、ガチャと音を出しドアが開いた。不意に静電気を受けたようなリアクションを輪廻はとり、1歩下がる。
「・・・君達...何の用かな?」
そんな輪廻の様子も気にせず、なか若い男の声が聞こえてきた。
ドアが少ししか開いていないため男だという点しか判断できないが、この部屋にいるという事はこの声の主が新瀬先生か。
ともあれ、まずは目的を果たさねばならない。輪廻は手に持った封筒を見てすぐさまドアの先の男に預かった封筒を見せる。
「俺達、立花先生からこの封筒を預かったモンです。新瀬先生に渡してほしいって頼まれて...」
「立花先生が?...君達、時間はあるかな?」
二人が顔を見合わせそして二人同時に頷く。
「そうか。...良かったら入りたまえ。ここまで長かっただろう」
「入っていいんすか?」
「あぁ。構わないよ。ここまで遠かっただろうからな。それに教師以外の人間がこの場所を訪ねるのは久しぶりで気分が上がっているんだ」
そう言って男はドアノブを握ってドアを開けた。
「ようこそ、私の研究室へ。私が新瀬だ。立花先生からの封筒は中で見させて貰うよ。さぁ、入りたまえ」
この男が新瀬先生。身長は180を少し越えており、顔は若々しくも威厳に溢れている。服は黒のジーンズパンツに研究員らしい白衣。髪は鋭く力強く伸びた黒髪。
そして最も特徴的で新瀬先生の最も有名な点は眩しいくらいに輝いている翡翠色の瞳である。全てを見透かすようなその瞳は一部の女子生徒と男子生徒を虜にしている...らしい。
「し、失礼します」
「・・・失礼します...!」
中に入って輪廻は驚愕の声を叫ぶように上げる。
「な...これ、教室じゃないっすか!?」
その場所は遊駆達のいる1年6組と殆ど変わりない場所、教室だった。席が30程しかないため今現在のアカデミアより椅子と机の数が少ないが、それでも教室に違いない。てっきり絵にかいたような、あからさまに研究室ですと言っているような場所をイメージしていた輪廻にとっては以外も以外だったため、口を開けている。
「フフフ驚いただろう?何年も前に使われなくなった教室らしくてな、私が研究室代わりに使わせてもらっているのさ。それと、2名の助手とな」
「助手がいるんですか?」
「ああいるとも。・・・まぁ入り口で話すのもなんだ。どこか好きな席に座りたまえ。そこで話そう。コーヒーはいるかな?」
「あ、いや、大丈夫っす」
「・・・」
そう言って遊駆達はいつも自分達が座っている席を選び座った。
「・・・」
輪廻が小さく息を漏らし周りを見渡す。静寂な空間。教卓の横にある高級そうな椅子に新瀬が座ると輪廻は我に帰ったように封筒を新瀬の元へ渡しに行った。
そして新瀬が封筒を開くとなかには分厚い書類が。それを見て新瀬は「ほお」と小さく声を出し不敵に笑い始めた。
「鶴咲輪廻...というのは赤い髪の君だね?」
「えっ?あぁっ、はい」
不意に名前を呼ばれたため驚きながら返事をする。
「そして君はルームメイトの藤玄遊駆」
「・・・はい」
「そうか...フム、時折立花先生がここに来るが...なに、よく君達の話をするのだよ。君達は実に純粋にデュエルを楽しんでいる...とね」
「純粋...ですか?」
「そうさ。純粋...汚れ無き美の象徴。・・・純粋である人間はな鶴咲君、魂も美しいんだよ」
「・・・?」
新瀬の話が始まった。その勢いに輪廻は圧倒されながらも話を知りたいという好奇心が勝る。
「恐らく、私が何の研究をしているかは知っているはずだ。・・・知っているかな?」
「い、いや知らないっす。授業の方なら知ってるんすけど...」
「そうか...なら説明しよう。私の研究は『デュエルと魂の関係性』についてだ」
「デュエルと...」
「魂の...関係性」
遊駆と輪廻の二人はいまいち何を言っているのか理解できていないようだった。
「よかろう。ならば最初から話す。まず...」
新瀬は授業を始めるような雰囲気を作り自身の研究の話を始めた。
・・・まずデュエルと魂の関係性について、と言われても一切理解出来ないのが常識だ。何、恥じることはない。私もある程度分かりやすく説明する努力はするが...もし、分からなかったら気軽に聞いてくれて良い。
「始めに、デュエルモンスターズとは、およそ1世紀前に生まれた新しい娯楽の事だ。それは君達も歴史の授業の最初に聞いているだろう?そして、当時はまだ誰も、今のようにデュエルについての研究をしておらず、デュエルというものは大して注目はされていなかった」
「だが時は進むに連れてデュエルモンスターズは段々と注目され始める。君達も知っているデュエルモンスターズの創造社、『イフファクトリー社』から最初のデュエルディスクが開発され、デュエルモンスターズは瞬く間に普及、社会現象を巻き起こした。そしてデュエルモンスターズは世界一の娯楽やスポーツとして扱われるようになったのだ」
「ここまでならただの歴史の振り返りだ。だから、ここからは私の研究の話に移ろう。ここまでで何か質問はあるかな?・・・無いか。ならば続けよう」
「私が何故この研究をするようになったかは今は省略させてもらう。今はその結論だけを述べさせてもらおう。・・・強き魂また、純粋な魂をもつ者はデュエルにおいて圧倒的に強い!・・・という事だ」
ここまで話して新瀬は座っている二人の反応を見る。話ながらも見ていたのは見ていたが、少し話を止めて見てみると遊駆は黙って話を聞いているようだが、もう一人の輪廻は腕を組み聞いているように見えるが、それでも理解できていなさそうに見える。
「・・・分からないか」
そう新瀬が聞くと輪廻が申し訳なさそうに「はい」とだけ答えた。
「・・・分かった。ならば鶴咲君、君の場合は身体に理解させた方が良さそうだ。・・・少しそこで待っていてくれ」
新瀬は後ろを向き教室の後ろ側に何故かついているドアノブをつかみ開けた。
「このドアの向こうはは階段があってね、繋がっている場所があるのさ。実験用のデッキを取って来るから、ゆっくり待っていたまえ。なんなら鶴咲君、私が戻るまで話を整理しておくのも良い。それでは少し失礼する」
足音が消えていく。輪廻は詰まりそうだった息をフーッと思いきり吐いた。
「・・・デュエルに関係あるのに頭に入ってこなかった話は始めてだぜ」
「・・・そうか」
理解するのに頭をフル回転させ疲れたたのか、普段よく喋る輪廻が上を向き何も話さないでいる。
そんなこんなで、沈黙が続いていると、新瀬が二人の人影を後ろに連れて戻ってきた。
「鶴咲君、私が来るまでにある程度話を整理、理解することはできたかな?」
「い、いや~難しいっす、ハハ...って、そちらの二人は...?」
「ああ、さっき言っていた二人の助手だよ。実験のために呼んできた。紹介しよう。島田と巣丘だ。鶴咲君達も私の所に来なさい」
新瀬が手招きすると輪廻と遊駆は二人の助手の元へ歩いて行く。
「僕は島田 操(しまだ みさお)。学年は2年生。よろしくね」
「私は3年の巣丘 三葉(すおか みつば)よろしくっ」
スッと巣丘と島田は遊駆と輪廻の順に握手を求める。
「1年の鶴咲っす。こっちは同じ1年の藤玄遊駆」
「・・・」
それに対し二人は握手をする。
輪廻は三葉と握手するとき赤面し、それを三葉はニコニコと笑っていた。
その後新瀬の指示で輪廻と新瀬以外の面々は席に座り島田と巣丘は左腕に装着しているデュエルディスクを外しカメラモードに移行する。
「さて、自己紹介が終わったところで鶴咲君に私の研究を理解してもらうために先程下に行ってこれを持ってきたのだが...」
新瀬の手には実験用のデッキが。デッキを見て輪廻の目付きが明らかに変わった。
「良い眼になったな鶴咲君。これからする実験はイメージデュエルと言って...あー...まぁいい。この実験ですることは、このデッキからまず4枚カードを取っておく。そしてこのデッキをセットだ。」
輪廻が腕に装着されたデュエルディスクに自身のデッキを一旦外し新瀬から借りたデッキをセットし手札を確認する。
「これ...エクゾディアのカード...」
輪廻の手札には『封印されしエクゾディア』、『封印されし者の左腕』、『封印されし者の右腕』、最後に『封印されし者の左足』がある。
「過去の私の研究では極一部のプロデュエリストは逆境の時に自身が求めたカードをドローし手札に加えたという話がある。その点を研究し一つの仮説を作った」
「・・・」
輪廻がデュエルに集中しながらも今度は新瀬の話をしっかりと理解して聞いている。
「私はこれを『魂の呼応』と呼んでいる」
「・・・」
「ピンチに陥った時に自身のデッキを信じデッキもまた持ち主の事を信じる。そしてデュエリストとデッキは最高の力を発揮するのだ。思いがシンクロすると言った方が良いかな?・・・これはそんなピンチな状況のイメージを魂の呼応で覆すという実験だ。どうだい?」
聞いた輪廻は笑って答える。
「えっと...要は楽しめばいいんじゃないんすかね?」
「楽しむ?デュエルを?」
新瀬も意外な答えが出て少し驚いた様子を見せる。
「なんて言うか...最終的にデュエルって楽しんだ者勝ちだと思うんすよ。少なからず俺はそう思ってます。」
「・・・よろしい。では実験を始めよう。今から私のフィールドをイメージしたまえ」
輪廻は形式はどうであれデュエルできる事が楽しそうだ。
・・・では始めよう。まず今はメインフェイズ2、私の墓地にはカード無し。除外も無し。手札も無し。だがフィールドには通常モンスター「ラビードラゴン」が3体存在する。君のライフは残り100。手札はエクゾディアのカードが4枚のみ。伏せ無し。墓地、除外、全て無しだ。私はこれでターンエンド。さぁ、君のラストドローだ。
「俺のターン!」
「さぁ引いてみろ...!」
輪廻は今の状況をイメージして整理する。
(相手は通常モンスター最高の攻撃力を持つラビードラゴン...!もし俺がいまエクゾディアのカードを引かなきゃ負けるだろうな...。だが...素直に言えば、メチャメチャ楽しいぜこの状況!もしこれでドローできたら...やってやらぁっ!)
「ドローッ!」
周りが静かに輪廻の方を見る。
引いたカードは...。
(強い魂をもつ者か、それか純粋な魂の者はデュエルにおいて圧倒的な力を持っているが...)
「・・・揃ったぁっ!俺の勝ち!」
輪廻の手には確かにエクゾディアカードがある。これで輪廻の勝利は確定した。
「・・・お見事。純粋にデュエルを楽しむ君のココロの叫びがデッキに届き勝利へ導かれたようだ。なにせこの実験は成功率が0に近いからな。大抵は緊張やプレッシャーに負けてしまう。それを跳ね返しよくやった。称賛に値するよ」
「っへへ、ありがとうございます!」
一礼して心から嬉しそうな表情をする。
「遊駆はどうする!?」
「・・・やってみる」
それを聞いて2年の島田が口笛を吹いた。
遊駆もまたデュエルディスクに同じデッキをセットし同じ状況でドローする。
「・・・」
島田が優しく笑いながら遊駆を見る。
「・・・まぁ、大抵はこんなものさ。残念だったね」
引いたカードは魔法カードの『リロード』だった。
「ではこれで私がどんな研究をしているか何となくは分かったかな?」
「はい!何となくは!」
「・・・」
実験が終わり、新瀬が閉めに入る。輪廻も楽しそうに返事をしてそれじゃあ帰るか、と準備した所である。
「あぁ、少し待ってくれ」
「・・・?」
「どうしたんすか?」
新瀬も表情を変え助手二人に耳打ちをして遊駆達を見る。
「すまない。少し自分勝手なお願いなのだがね、調査として君達のデュエルを見たいのだ。何、嫌とは言わないが...ね」
デュエルと聞いて輪廻の眼が輝き始める。やはりデュエルに眼がない輪廻だ。それに相手が遊駆だと聞けば嫌でも反応する。
「デュエル!?遊駆とですか!?」
「あぁ。調査としてね。鶴咲君は純粋な魂でデュエルをしているのが見えるし、藤玄君も負けないくらいの魂を持っている。そんな二人がデュエルするとどうなるか気になってね」
「俺は全然やれますよ!遊駆はどうする?やるか?」
「・・・ああ」
「それでは決まりだ。早速教卓をどかすからそれが終わり次第始めてくれ。では私達は座らせてもらおう」
「気楽にね」
島田が落ち着かせる。
準備が整ったようだ。
デュエルディスクが起動する。
「デュエルさせてくれるなんて嬉しいね...!遊駆!遠慮無しだ!いつも通り行こうぜ!」
「・・・ああ」
デュエル!!
「俺の先攻...」
最前席に座った新瀬、島田、巣丘の三人はパソコンにデュエルディスクを繋ぎ何やら難しそうな作業を始めた。
(魂は問題なし...。鶴咲輪廻か。フフフ、面白い奴を捕まえた。純粋な魂と言ってもいつかは汚れるもの。ならば奴の魂がどれだけ純粋か見させてもらうぞ。そして藤玄遊駆とやら...今は鶴咲の影に埋もれているが、必ず奴は成長する...!あと1枚ずれていれば、エクゾディアが完成するところだったからな...。見させてもらうぞ。二人のデュエリストの純粋なる魂と魂の激突を...!)
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一部脱字の修正と文章を少し付け加えました。 (2018-09-20 17:11)
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