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5月10日──苦悩して努力して 作:コンドル
5月10日 日曜日 晴れ
・・・という一世を風靡した戦法を知っているだろうか?相手の動きを縛り自身の高い攻撃力で相手を葬るという戦法だ。そのデッキは強く猛々しく存在を主張し、その時代の象徴となっていた。
だが、『征竜』の登場によって時代は大きく変わる。
征竜に続き次々に登場した強力なモンスター達が世を支配し、ついにこの僕、山野巧が現在使用しているとある戦法を使っている者はほとんど見なくなった。
だから僕はこの「タークーミーン!」
ここは1年5組の山野巧達の部屋だ。巧のスペース以外の場所はほぼ『ぬいぐるみ』が置かれている。このぬいぐるみは巧の物ではない。彼のルームメイトの物だ。
「あれ?何か書いてたの?」
ドアを思いきり開け入って来たのは伊川明日徒(いかわあすと)、巧と同じ1年5組であり巧のルームメイトだ。ピンクの髪が前に、水色の髪が後ろに生えており、華奢な身体に、童顔、低身長、そして女性的な声が特徴的な男性だ。
「研究のレポートを書いてたのさ。・・・どうしたの伊川君?」
「ボクのプリンを探してるんだ。ちょっと散歩してる内に無くしちゃったみたいで、部屋にあると思うんだけど、どこにいるか知らない?」
プリンというのは明日徒の所持している熊のぬいぐるみだ。
「・・・今伊川君が抱き締めてるのは違うの?」
「えっ?・・・あっ、いたー!」
「・・・それでタクミン、研究のレポートってまたあのゆーくって人のやつ?」
散歩から戻って来ると明日徒は可愛い大量のぬいぐるみの置いてある自分のベッドに座り、巧の方向を見る。
巧も作業を一旦中止し明日徒の方を向いた。
「うん。また。」
「確かゆーく君の本気が見たいから研究してるんだよね。どう?本気、見れた?」
巧は首を横に振る。
「ううん。残念だけどまだ1度も。そう簡単には見せてくれなさそうだよ。」
「ふーん...。タクミンはゆーく君とデュエルして直接本気か確かめたりしないの?観察するよりもそっちの方が手取り早いと思うんだけどな」
「・・・いや、それをしても遊駆君は本気を出さないと思う。それに、これは僕の我儘かもしれないけど、彼には僕の改良した、最高のデッキで闘いたいんだ。もちろん、脅威かどうかも見ているけどね。」
「へー。それで?タクミン的にはゆーく君は脅威なの?」
「・・・そうだね」
巧の表情は相変わらず笑っている。
「はっきり言って、それほどでもないよ。」
明るくそう言ってのけた。
明日徒も巧と何度もデュエルをしているためその言葉が嘘ではないという事が分かる。
巧のとる戦法は彼がよく言っている昔流行った戦法だ。故に時代についていけない部分もある。しかし、巧はそのデッキを研究し、ある程度は弱点とされるところはカバー出来ている。
明日徒とはよくデッキテストと称して性能をチェックしているのだ。その度に明日徒の繰り出す『プラッシュトイ』デッキがボロボロになるが。
「彼のデッキ『JM』の特徴は特殊召喚と大量展開後の多彩なリンク召喚だ。それらを遊駆君はきっと1ターンでやってのける。それが決まったら僕も大変だ。」
「もし決まったらどうするの?」
「フフフ、伊川君、もうそれは手を打ってある。遊駆君だけじゃない、きっとこのアカデミアには完封できるであろうカードさ。これがあれば遊駆君の大量展開は一瞬でストップする」
ゆっくりと説明するがどこか興奮した様子であるカードをデッキケースから取り出す。
そのカードをみた明日徒は少し嫌そうな表情を見せる。
「どうだい伊川君。このカードなら何とかなるはずさ。無論、僕も展開をちょっとだけ止められるけどね。」
「うん...そうだね...うん。・・・あ、タクミン、話変わるけどさ...」
嫌そうな顔をしながら何とか話題を変えようとカードから視線を反らす。
「えーっとぉ...あっ!その、タクミンがゆーく君を研究するきっかけになったデュエルってさ、ゆーく君の相手も本気じゃなかったんでしょ?そっちは研究しなくて良いの?」
巧が不思議そうな顔をする。
「ああ億谷君?・・・うーん、いいや、別に。彼は本気を出してないっていうかなんか『本気じゃない』って感じだし。」
「何それ?意味わかんなーい」
「アハハ、実は僕もよく分からないんだ。けど、そうだなぁ...ううん、ごめん、分からないや。」
話が続かずにお互い黙ってしまう。
気まずい空気が流れ出し明日徒はベッドに倒れ込み、巧は机に向かい再び遊駆の研究に打ち込み始めた。
(うぅ...。タクミン黙っちゃった...。なんかマンネリ気味の夫婦みたいに会話が無いよぉ~。何か話のネタは...あっ!)
「そう言えばタクミン、散歩してる時に購買部に寄ってきたんだけど、新しいパック、出るみたいなんだ」
「・・・へぇ」
新しいパックがでる。巧にとってこれは、新たな可能性が生まれるという事だと思っている。
既存テーマの強化、更に新テーマ及び汎用カードの出現、即ち自分のデッキの強化又は新デッキ作成。今回はどんなカードが生まれるのか、新パック発売はデュエリスト達の期待を高める。
「今回は何か強化されるテーマはあるのかい?」
パソコンから目を離し視線を明日徒の方へ向ける。その際彼の丸眼鏡がアニメで見るような状態に光った。
「えっと、確か今回は『空牙団』、それと、あとは『クローラー』とかかな?」
プリンを抱きしめ強化テーマを必死に思い出す。
今回強化されるのは2つのテーマ。巧は最も警戒していたJMの強化は来ないようだ。巧が安堵の溜め息をつく。
「そっか...。だけど、空音さんのテーマが強化か...。」
「タクミンの友達?良かったね」
「良かったけど...これでまた強いテーマがより強くなると思うと、喜ぶべきか悲しむべきか...複雑だね。」
少し困ったようにも見える表情を見せる。
「・・・それだけ?他の情報はあるかい?発売日はいつ?」
「えっ?あ、発売日は、確か来週の土曜日、16日だよ。」
「そっか。教えてくれてありがとう」
そう言って巧は再び後ろを向きパソコンを見始めた。
しまった。と明日徒は今の発言を心の中で後悔する。せっかく見つけた話のネタだったのに、もう5分も経たない内に終わるとは。
(なんだよこのグダグダ感!...もー!つまんない!つまんないよー!今のボクとタクミンの状況は最悪だ!何かまた話のネタを...今度は暫く続きそうな話を...!一緒に買いにいかない?...とか聞けば良かった...!)
そんな事を考えていると、机の方から疲れや不安の混じった重い吐息が漏れた。
「タクミン?」
「・・・あ、ごめん伊川君。漏れちゃった?」
「大丈夫だよ。気にしないで」
脅威が増すのも恐ろしい。巧のデッキは強化されるが、それは他のデッキも同時に幾つか強化を受ける、という事だ。
昔流行ったと言ったら言葉を返せば今は時代に取り残されたかもしれないと捉えてもしょうがない。巧自身がそれを一番分かっている。だからこそ漏れる吐息。今までの努力が水の泡と化してしまうほど強力なカードが出るのではないかという恐怖。
自分のデッキが太刀打ちできない領域に来てしまうのではないかという不安。そんな事を考えると、自然にネガティブな感情が漏れる。
(タクミン...)
ルームメイトである伊川明日徒だから分かる山野巧の苦悩。
明日徒の方向からは巧の背中しか見えないが、その後ろ姿は少し苦しそうだった。
(・・・よし!)
プリンをそっとベッドに置いて明日徒は立ち上がる。
「ギューッ!」
「ワッ!?」
そんな辛い姿を見ていると明日徒は元気になって欲しいと心から思う。それが巧以外の人間だとしても。
「どう?元気出た?」
「もう...急に抱きつくのはやめてってば...」
「イヤだった...?」
「そういう訳じゃない...けど」
巧もアカデミアに来て何度か明日徒に励ましのハグを受けている。
自身が落ち込んだ時、必ずと言っていいほどに、明日徒は後ろから手を伸ばしギュッと優しく、それでいて勢いよく抱きしめるのだ。
抱きしめるだけなら良いが、明日徒の顔が近いと巧も少し照れる。
「ゴメンねタクミン。」
「えっ?」
腕を離さずに明日徒の目は下を向いた。
「ボクにはこんな事しか出来なくて。いっつもタクミンどうすればそのデッキで勝てるか研究してるでしょ?その時のタクミンの顔、凄く真剣でカッコよくてボクも力になりたいけど、ボクは君の力になれてない。だから...」
「・・・何言ってるのさ」
最後まで言わさない。巧の表情は見えないが、声はどこか怒っているような感じだ。
「伊川君にはいつも助けられているじゃないか。僕がデッキを作って君がテストデュエルに付き合ってくれて、改良点を言ってくれる。それだけじゃない。それに今だって...。」
「タクミン...!」
明日徒の顔が青空の中の太陽のように明るく輝く。
(ありがとうタクミン!)
「タクミン大好きー!」
思っている言葉と違う言葉が出てしまっているが気にしない。どちらにしろ嬉しいという感情に変わりはない。抱きしめる力が増していくが、巧がなんとかはしゃいでいる明日徒を落ち着かせる。
「伊川君、苦しい...!腕が...!」
「あっゴメンタクミン。」
パッと腕を離し申し訳なさそうに巧の方を見る明日徒。
「だ、大丈夫。・・・フゥ。・・・まぁ伊川君、そういう事で、これからもよろしくね。」
「勿論!ボクでよかったら何でも言ってよ!」
「分かった。・・・じゃあ早速だけど、改良したこのデッキのテストデュエル、してもらえる?」
巧の願いを明日徒が断るはずもない。当然、「うん!じゃあ、やろっ!」と、元気いっぱいに返事をした。
いつも通り、彼らはデュエルを開始した。巧の戦法は常に進化している。例えどんな強力なカードが現れても大丈夫なように、常に彼は自身のデッキを強化している。
モンスターを強化し、魔法を強化し、罠を強化する。
伊川明日徒もそんな巧に協力し、
そして彼らは進化し続けるのだ─!
・・・という一世を風靡した戦法を知っているだろうか?相手の動きを縛り自身の高い攻撃力で相手を葬るという戦法だ。そのデッキは強く猛々しく存在を主張し、その時代の象徴となっていた。
だが、『征竜』の登場によって時代は大きく変わる。
征竜に続き次々に登場した強力なモンスター達が世を支配し、ついにこの僕、山野巧が現在使用しているとある戦法を使っている者はほとんど見なくなった。
だから僕はこの「タークーミーン!」
ここは1年5組の山野巧達の部屋だ。巧のスペース以外の場所はほぼ『ぬいぐるみ』が置かれている。このぬいぐるみは巧の物ではない。彼のルームメイトの物だ。
「あれ?何か書いてたの?」
ドアを思いきり開け入って来たのは伊川明日徒(いかわあすと)、巧と同じ1年5組であり巧のルームメイトだ。ピンクの髪が前に、水色の髪が後ろに生えており、華奢な身体に、童顔、低身長、そして女性的な声が特徴的な男性だ。
「研究のレポートを書いてたのさ。・・・どうしたの伊川君?」
「ボクのプリンを探してるんだ。ちょっと散歩してる内に無くしちゃったみたいで、部屋にあると思うんだけど、どこにいるか知らない?」
プリンというのは明日徒の所持している熊のぬいぐるみだ。
「・・・今伊川君が抱き締めてるのは違うの?」
「えっ?・・・あっ、いたー!」
「・・・それでタクミン、研究のレポートってまたあのゆーくって人のやつ?」
散歩から戻って来ると明日徒は可愛い大量のぬいぐるみの置いてある自分のベッドに座り、巧の方向を見る。
巧も作業を一旦中止し明日徒の方を向いた。
「うん。また。」
「確かゆーく君の本気が見たいから研究してるんだよね。どう?本気、見れた?」
巧は首を横に振る。
「ううん。残念だけどまだ1度も。そう簡単には見せてくれなさそうだよ。」
「ふーん...。タクミンはゆーく君とデュエルして直接本気か確かめたりしないの?観察するよりもそっちの方が手取り早いと思うんだけどな」
「・・・いや、それをしても遊駆君は本気を出さないと思う。それに、これは僕の我儘かもしれないけど、彼には僕の改良した、最高のデッキで闘いたいんだ。もちろん、脅威かどうかも見ているけどね。」
「へー。それで?タクミン的にはゆーく君は脅威なの?」
「・・・そうだね」
巧の表情は相変わらず笑っている。
「はっきり言って、それほどでもないよ。」
明るくそう言ってのけた。
明日徒も巧と何度もデュエルをしているためその言葉が嘘ではないという事が分かる。
巧のとる戦法は彼がよく言っている昔流行った戦法だ。故に時代についていけない部分もある。しかし、巧はそのデッキを研究し、ある程度は弱点とされるところはカバー出来ている。
明日徒とはよくデッキテストと称して性能をチェックしているのだ。その度に明日徒の繰り出す『プラッシュトイ』デッキがボロボロになるが。
「彼のデッキ『JM』の特徴は特殊召喚と大量展開後の多彩なリンク召喚だ。それらを遊駆君はきっと1ターンでやってのける。それが決まったら僕も大変だ。」
「もし決まったらどうするの?」
「フフフ、伊川君、もうそれは手を打ってある。遊駆君だけじゃない、きっとこのアカデミアには完封できるであろうカードさ。これがあれば遊駆君の大量展開は一瞬でストップする」
ゆっくりと説明するがどこか興奮した様子であるカードをデッキケースから取り出す。
そのカードをみた明日徒は少し嫌そうな表情を見せる。
「どうだい伊川君。このカードなら何とかなるはずさ。無論、僕も展開をちょっとだけ止められるけどね。」
「うん...そうだね...うん。・・・あ、タクミン、話変わるけどさ...」
嫌そうな顔をしながら何とか話題を変えようとカードから視線を反らす。
「えーっとぉ...あっ!その、タクミンがゆーく君を研究するきっかけになったデュエルってさ、ゆーく君の相手も本気じゃなかったんでしょ?そっちは研究しなくて良いの?」
巧が不思議そうな顔をする。
「ああ億谷君?・・・うーん、いいや、別に。彼は本気を出してないっていうかなんか『本気じゃない』って感じだし。」
「何それ?意味わかんなーい」
「アハハ、実は僕もよく分からないんだ。けど、そうだなぁ...ううん、ごめん、分からないや。」
話が続かずにお互い黙ってしまう。
気まずい空気が流れ出し明日徒はベッドに倒れ込み、巧は机に向かい再び遊駆の研究に打ち込み始めた。
(うぅ...。タクミン黙っちゃった...。なんかマンネリ気味の夫婦みたいに会話が無いよぉ~。何か話のネタは...あっ!)
「そう言えばタクミン、散歩してる時に購買部に寄ってきたんだけど、新しいパック、出るみたいなんだ」
「・・・へぇ」
新しいパックがでる。巧にとってこれは、新たな可能性が生まれるという事だと思っている。
既存テーマの強化、更に新テーマ及び汎用カードの出現、即ち自分のデッキの強化又は新デッキ作成。今回はどんなカードが生まれるのか、新パック発売はデュエリスト達の期待を高める。
「今回は何か強化されるテーマはあるのかい?」
パソコンから目を離し視線を明日徒の方へ向ける。その際彼の丸眼鏡がアニメで見るような状態に光った。
「えっと、確か今回は『空牙団』、それと、あとは『クローラー』とかかな?」
プリンを抱きしめ強化テーマを必死に思い出す。
今回強化されるのは2つのテーマ。巧は最も警戒していたJMの強化は来ないようだ。巧が安堵の溜め息をつく。
「そっか...。だけど、空音さんのテーマが強化か...。」
「タクミンの友達?良かったね」
「良かったけど...これでまた強いテーマがより強くなると思うと、喜ぶべきか悲しむべきか...複雑だね。」
少し困ったようにも見える表情を見せる。
「・・・それだけ?他の情報はあるかい?発売日はいつ?」
「えっ?あ、発売日は、確か来週の土曜日、16日だよ。」
「そっか。教えてくれてありがとう」
そう言って巧は再び後ろを向きパソコンを見始めた。
しまった。と明日徒は今の発言を心の中で後悔する。せっかく見つけた話のネタだったのに、もう5分も経たない内に終わるとは。
(なんだよこのグダグダ感!...もー!つまんない!つまんないよー!今のボクとタクミンの状況は最悪だ!何かまた話のネタを...今度は暫く続きそうな話を...!一緒に買いにいかない?...とか聞けば良かった...!)
そんな事を考えていると、机の方から疲れや不安の混じった重い吐息が漏れた。
「タクミン?」
「・・・あ、ごめん伊川君。漏れちゃった?」
「大丈夫だよ。気にしないで」
脅威が増すのも恐ろしい。巧のデッキは強化されるが、それは他のデッキも同時に幾つか強化を受ける、という事だ。
昔流行ったと言ったら言葉を返せば今は時代に取り残されたかもしれないと捉えてもしょうがない。巧自身がそれを一番分かっている。だからこそ漏れる吐息。今までの努力が水の泡と化してしまうほど強力なカードが出るのではないかという恐怖。
自分のデッキが太刀打ちできない領域に来てしまうのではないかという不安。そんな事を考えると、自然にネガティブな感情が漏れる。
(タクミン...)
ルームメイトである伊川明日徒だから分かる山野巧の苦悩。
明日徒の方向からは巧の背中しか見えないが、その後ろ姿は少し苦しそうだった。
(・・・よし!)
プリンをそっとベッドに置いて明日徒は立ち上がる。
「ギューッ!」
「ワッ!?」
そんな辛い姿を見ていると明日徒は元気になって欲しいと心から思う。それが巧以外の人間だとしても。
「どう?元気出た?」
「もう...急に抱きつくのはやめてってば...」
「イヤだった...?」
「そういう訳じゃない...けど」
巧もアカデミアに来て何度か明日徒に励ましのハグを受けている。
自身が落ち込んだ時、必ずと言っていいほどに、明日徒は後ろから手を伸ばしギュッと優しく、それでいて勢いよく抱きしめるのだ。
抱きしめるだけなら良いが、明日徒の顔が近いと巧も少し照れる。
「ゴメンねタクミン。」
「えっ?」
腕を離さずに明日徒の目は下を向いた。
「ボクにはこんな事しか出来なくて。いっつもタクミンどうすればそのデッキで勝てるか研究してるでしょ?その時のタクミンの顔、凄く真剣でカッコよくてボクも力になりたいけど、ボクは君の力になれてない。だから...」
「・・・何言ってるのさ」
最後まで言わさない。巧の表情は見えないが、声はどこか怒っているような感じだ。
「伊川君にはいつも助けられているじゃないか。僕がデッキを作って君がテストデュエルに付き合ってくれて、改良点を言ってくれる。それだけじゃない。それに今だって...。」
「タクミン...!」
明日徒の顔が青空の中の太陽のように明るく輝く。
(ありがとうタクミン!)
「タクミン大好きー!」
思っている言葉と違う言葉が出てしまっているが気にしない。どちらにしろ嬉しいという感情に変わりはない。抱きしめる力が増していくが、巧がなんとかはしゃいでいる明日徒を落ち着かせる。
「伊川君、苦しい...!腕が...!」
「あっゴメンタクミン。」
パッと腕を離し申し訳なさそうに巧の方を見る明日徒。
「だ、大丈夫。・・・フゥ。・・・まぁ伊川君、そういう事で、これからもよろしくね。」
「勿論!ボクでよかったら何でも言ってよ!」
「分かった。・・・じゃあ早速だけど、改良したこのデッキのテストデュエル、してもらえる?」
巧の願いを明日徒が断るはずもない。当然、「うん!じゃあ、やろっ!」と、元気いっぱいに返事をした。
いつも通り、彼らはデュエルを開始した。巧の戦法は常に進化している。例えどんな強力なカードが現れても大丈夫なように、常に彼は自身のデッキを強化している。
モンスターを強化し、魔法を強化し、罠を強化する。
伊川明日徒もそんな巧に協力し、
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