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5月2日──小込綾羽の純粋な 作:コンドル
激昂。
小込綾羽は、一体何に怒りを剥き出しにしているのだろうか。
・・・いや、答える必要等最初から無い。彼女が怒る理由はただ一つ、彼女が恋をしている男、藤玄遊駆を綾羽の目の前にいる男、笹木好が侮辱したという訳だ。
人の心には表と裏があると言う。
どうやら綾羽にも、その表と裏が存在するようだ。
特定の条件を満たした場合の、スイッチがオンになった状態で、普段の皆がイメージしている小込綾羽とは違う、裏の綾羽が出現するとすれば...今起きているこの状況も少しは理解出来るか。
「藤玄遊駆を侮辱する」
この行為を綾羽の目の前で行うのは自らの命を散らしにいっているようなものだ。
しかし彼はそれを行ってしまった。
結果今彼は膝を震わせ彼女を恐怖の対象として認識している。
口を開かずにただ黙って自分を見ている綾羽に怯えながら静かに時間が流れていく。
「独り占めが好きだといって気持ち悪い笑顔をしていた人が...」
そんな時やっと綾羽が口を動かした。
「...随分と怯えていますね」
凍てついた眼で綾羽は敵と認識した笹木を睨み付ける。
逃がさない。笹木には綾羽の眼はそう言っているように見えていた。
「貴女は一体...?」
恐怖を感じるもなんとか今の状況を整理しようとする笹木。
「誰って...私は小込綾羽ですよ」「う、嘘だ、だって綾羽さんは...!」
「・・・私は小込綾羽です。」
笹木のイメージしている小込綾羽は優しい笑顔が美しい純粋な女性。
笹木はそんな女をターゲットにして今まで何度も告白を行ってきた。
恐怖を与える告白を。
そんな女を独り占めしたかったから。そんな女が自分の告白で恐怖する顔が見たかったから。
怯えきった表情を、不安になる表情を、自分に恐怖する表情を...見たい...!
ただそれだけの理由だった。
相手の好みや趣味等一切調べずただ自分にだけ向けてくれる恐怖の表情が見たい。それだけだ。
だから、小込綾羽もちょっと気があるような素振りで近づけばいい。
そして自分の告白を聞いて恐怖の表情を浮かべてくれればそれで十分だ...!
しかしそうはならなかった。
何を間違えた?いや、間違い等無い。ただ運が無かっただけだ。
笹木程の男なら怒っている小込は止められない。藤玄遊駆を侮辱した時点で笹木の運命は決定した。
だがここはデュエルアカデミア。例え怒り心頭な状態の綾羽でも分かるたった一つのルール。
彼女の言ったラストチャンスの意味、そう...デュエルだ。
デュエルに勝利する事が笹木にとっての最後の救い、最後の望みだ。だから彼はこのデュエルを受けた。と言うよりも受けざるを得なかった。
さっきまでの雰囲気は何処へ行ったのか、笹木は体を小刻みに震わせながらデュエルディスクにデッキをセットしディスクが自動でシャッフルを開始する。
カードプレートが作成されシャッフルが完了、準備が整った。
「・・・準備は良いですか?」
小込も準備が出来たようで、その凍てついた眼で笹木を睨むように見て確認を取る。少し眼を輝かせたがそれもすぐに恐怖で消えていった。
「あ、あぁ、出来たよ...」
力無く返事をしたその顔を見て綾羽は不適に微笑むのだった。
デュエル!!
「僕の先攻!」
恐怖を押しきり笹木が先攻を取る。
「・・・僕はモンスターをセット。ターンエンド」
笹木 LP4000 手札4 場 伏モンスター1 墓地 無 除外 無
綾羽 LP4000 手札5 場 無 墓地 無 除外 無
まずは様子見かと警戒するが、相手の怯えた表情を見るに実際はそうでも無さそうだ。まぁいい。それなら私は本気で叩く。
そう思い綾羽のターンがやって来た。
「私のターン、ドロー。・・・私は手札から永続魔法『花嫁修行』を発動。その効果で手札から『薔薇花嫁―白薔薇』を特殊召喚!」
「ウフフ...」 LV2 ATK300 DEF700
地面から巨大な白薔薇が出現、白薔薇が開花し中から白いウエディングドレスを着た小さい女の子の見た目をした薔薇花嫁が出現する。
「白薔薇の効果発動!特殊召喚に成功した時、フィールドの薔薇花嫁モンスターの数1体につき300のライフを回復します!今この場には一体の薔薇花嫁!よって300回復!」
白薔薇が手に持っているブーケを綾羽に投げ薔薇の匂いを堪能する。
綾羽 LP4000→4300
「そしてフィールド魔法『薔薇楽園』を発動!」
薔薇楽園(バラダイス)が発動すると食堂が薔薇庭園の様になり空は快晴となり辺り一面に薔薇が蕾の状態で出現し、白薔薇が満面の笑みを浮かべる。
「ウフフ...」 ATK300→600 DEF700→1000
「薔薇楽園の効果によってフィールドに存在する薔薇花嫁モンスターの攻撃力と守備力は300アップします。そして手札から『薔薇花嫁―黄薔薇』を通常召喚!」
「フフ」 LV4 ATK500→800 DEF400→700
今度は黄色のウエディングドレスを着た黄薔薇の花嫁。薔薇楽園の効果で攻守が上昇する。
現れなさい!私達の未来を照らすサーキット!
アローヘッド確認!召喚条件は
『薔薇花嫁モンスター1体』
私は薔薇花嫁―白薔薇をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!
リンク召喚!
『薔薇花嫁―橙薔薇』(ローズブライド―オレンジローズ)!
「キャハッ」 LINK1 ATK400→700 リンクマーカー 下
リンク召喚を行う際にはリンク召喚を行うデュエリストの頭上にゲートが出現するのが当たり前だ。だが時代が進み今の時代ではそれぞれのカテゴリによって様々な演出が出来る設定を出来るようになっていた。
綾羽の使用する薔薇花嫁では光の粒子となってリンクマーカーの方向へ向かうのではなく薔薇花嫁の(植物の)薔薇を伸ばし地面に出現するゲートへ向かいリンク召喚される。もっとも、演出が見たくない場合は設定をオフにすればいいだけだ。
さて、なぜ今この話をしたかというと、その演出での事だ。
薔薇花嫁リンクモンスターをリンク召喚する際に薔薇楽園を発動していると、薔薇楽園で出現した薔薇が相手プレイヤーの方向に生えている薔薇がリンク召喚する薔薇花嫁の色の薔薇で開花し、相手プレイヤーを笑うように薔薇が不気味に揺れ始める。
恐怖で満ちていた笹木には―ただ薔薇が揺れているだけなのだが―そう見えた。
「薔薇花嫁―橙薔薇の効果発動。」
リンク召喚が完了した綾羽のフィールドにはエクストラモンスターゾーンの左側に橙薔薇が。メインモンスターゾーンには黄薔薇が存在し、現在綾羽が橙薔薇の効果を発動した。
「橙薔薇の効果発動。橙薔薇は1ターンに一度手札の薔薇花嫁モンスター1体を破壊し墓地へ送った後、墓地に存在する植物族モンスター1体を自身のリンク先に特殊召喚します。私は手札の薔薇花嫁―緑薔薇を破壊し、その瞬間緑薔薇の効果発動。緑薔薇が自分モンスターの効果で破壊され墓地へ送られた場合、相手に500のダメージを与えます。そして白薔薇を墓地から特殊召喚。白薔薇の効果を発動。今フィールドには3体の薔薇花嫁。よって900ライフを回復します」
「ウフフ」 LV2 ATK300→600 DEF700→1000
橙薔薇の腕が薔薇の棘となり綾羽ね手札にある緑薔薇を貫き緑薔薇が悲鳴をあげ、放たれた緑薔薇の棘が笹木に刺さる。
一方綾羽は橙薔薇が地面から呼び戻した白薔薇の匂いを堪能した。
この時点での綾羽の手札は1枚しかないが、綾羽の勢いは止まらない。
笹木 LP4000→3500
綾羽 LP4300→5200
「まだ行きますよ!魔法カード『花嫁の宝箱』を発動!」
空から宝箱が薔薇花嫁達の所に降りてきた。箱を開けるとその中身は光っている紙。その紙を薔薇花嫁達は大切に抱きしめ、薔薇花嫁達の体も光りだし、その光は綾羽のデッキに吸い込まれた。
「花嫁の宝箱の効果によってフィールドに存在する薔薇花嫁モンスターの数まで私はデッキからカードをドローできます。3枚ドロー。・・・ただし、花嫁の宝箱を発動したら現在自分フィールドに存在する薔薇花嫁モンスターはリンク素材に出来ず、攻撃を行えません。」
綾羽の手札は瞬く間に回復した。デュエル開始時に既に手札にこのカードがあった時点で綾羽の展開は確定していた。まさに完璧な手札だ。だが、ここからは綾羽にも分からない領域だ。しかし...
「クスッ」
綾羽は手札を見て微笑んだ。
突然だが、問題だ。
問、彼女の原動力は何だろう?
答、彼女の原動力は藤玄遊駆への『想い』。遊駆を慕い、愛し、想う。恋する気持ちが彼女の原動力。
だからこそ大好きな藤玄遊駆を蔑む、危害を加える、侮辱する、こういった行為を綾羽は決して許さない。
昨日、綾羽が笹木から手紙を貰った後、輪廻に笹木の部屋に返事を書いた手紙を渡すように頼んだ。
あのとき綾羽の頭の中では緊急会議が開かれていた。
議題は、笹木好は藤玄遊駆に危害を加えないか否か
結論を出すまでに少し時間はかかったが結論は出た。
結論、笹木好はいつか小込綾羽を手にするために藤玄遊駆に危害を加えかねない。倒さなきゃ。
そして笹木にデュエルディスクを持ってくるよう手紙に書き、綾羽は藤玄遊駆を守るために笹木を倒そうと決意した。
デュエル前に提示した約束。もし綾羽が敗北すると笹木と交際でもなんでも自由にしていいという約束だが...敗北なんて、あり得ない。根拠もないただの理屈だが、何故かそう思える。
(私の想いに応えてくれたのね...薔薇花嫁、ありがとう。これで倒すことが出来る。)
「少し昔の話をしましょうか」
「昔の...?」
突然何を言い出すんだと言いたげな表情の笹木を置いて綾羽は目をつぶり、ゆっくりと怯えている笹木に向かって綾羽は語り始める。
「あれは今年の4月11日の事でした。あの時私は大切な人に出会ったのです。」
綾羽が思い出しているのは藤玄遊駆との出会いだった。
4月11日
・・・女子寮のデュエルスペースが満員で困っていた綾羽は男子寮のデュエルスペースなら、と見に来た綾羽はそこで億谷護の騒動に直面する。
(・・・悪い王様ね。それに表向きは従っている人達...。)
メルヘンチックな考えをしていた当時の綾羽は億谷の事を『悪い王様』と見て運ばれたデュエリストを見て帰ろうかと考えた瞬間である。突如周りが静まり視線は一人の男子生徒に向けられた。
「・・・何が言いたい?自分が負けるところを見て欲しいのか?」
「イヤ・・・ここにいるのは全員デュエリストだ。デュエリストならデュエルを見たいのは当然だろう?」
「それに、俺は絶対に負けない。」
気がつけば綾羽は帰らずに遊駆のデュエルを観戦していた。いや、というよりも遊駆を見ていた。
遊駆を見た時に、どこかで見たような、そんな気がしていた。
(・・・あぁ)
どこか納得したような声を綾羽は心の中で発する。
(王子様...。)
王子様、その言葉の意味は、綾羽の幼少期に綾羽の母から一番聞いていた言葉だ。
「いつか綾羽ちゃんのところにも素敵な王子様が現れてくれるわよ。」
とは綾羽の母はよく言っていた言葉だ。
いつ現れるの?と聞いても母は微笑むだけだった。
まだ王子様がどんなものか分からなかった綾羽は、ノートに王子様のイメージを描き始めた。
そんな生活をしながら綾羽は小学生になり、小学3年生辺りで綾羽は別のクラスの男子生徒から告白を受ける。
理解出来なかった。何故よく知らない男子が私に告白したのだろうか?それともこの人が王子様なのか?・・・違う。理由はよく分からないが、違うと感じ、綾羽は告白を断った。
そんな知らない男達から告白される日々が何年か続いた。
結局よく母が言っていた王子様の意味は何だったのだろう?分からないまま、彼女はノートに、ついには頭の中で王子様の理想像を作る。
(王子様...今なんで王子様の話を...?)
再び遊駆を見る。すると綾羽の顔は真っ赤な薔薇のようになってしまった。
いつか綾羽ちゃんのところにも素敵な王子様が現れてくれるわよ。
頭の中でその言葉だけが回り始める。
(・・・もしかして王子様って...)
綾羽はようやく答えにたどり着いた気がした。
(一目惚れ...?ううん、この時をずっと待ってたのよ。きっと...運命...お母さんが言っていた王子様は...私が好きになる人の事...!藤玄遊駆...私の王子様...!)
「・・・それから私はあの人に接近しました。時間は4月14日になります」
4月14日
綾羽にとってこの『恋』という感情は新鮮なものだった。
既に彼女の悪癖であるストーリー作成によって、遊駆と綾羽は仲の良い、あと少しでどちらかが告白するといったストーリーが展開され、何の疑いも無く、彼女は遊駆に告白した。
告白の方法なら知っている。
今までたくさんの男に告白されてきたから。
大丈夫、必ず成功する。
そう思っていた。
「・・・え?」
「悪い...なんて言うか、そういった恋愛とかはまだ興味なくて...気持ちは嬉しいけど...」
(あれ...?何で?あれ?)
気付けば彼女は遊駆にデュエルを挑み、混乱状態となってしまっていた。
デュエルは遊駆の勝利。冷静さを取り戻し、顔をうつむかせ涙をこらえ、そんな姿をした綾羽を見て、遊駆は「また告白する時は自分の意志がはっきりした時にしてくれればいい」と言ってくれた。
その言葉に綾羽は救われた。
何も知らず告白した私を不思議がらず、怖がらず、そんな遊駆をますます彼女は好きになる。
運命だとか、王子様だからとか、そんなものは自分の恋心の誤魔化しだ。小込綾羽は、心から藤玄遊駆に恋をしたのだ。
「だから私は今でもあの人を好きでい続けられるのです。そして私はそんなあの人と平和に過ごす日々をいとおしく思っています。だから...」
話終わり目を開けると、そこにはまた凍てついた眼をした綾羽が。
「ヒッ」
「私の事を何も知らずにただ自分の欲求のためだけに告白した貴方はとても愚かに見えます。もしかしたら、私の事を知る機会があって、もしかしたら私の心を射止めていたかもしれないのに、それをせずにただ告白しただけならまだしもあの人を...!だから...許しません。貴方は私にとって一番大事なものをけなした...!」
「絶対に!許しませんッッ!言わばこのデュエルは私の怒り!受けなさい!薔薇花嫁のワンターンキル戦法!私は手札から速攻魔法『ローズ・サイクロン』を発動!」
薔薇楽園が爆風で荒らされ薔薇は完全に消滅する。薔薇楽園の消滅によって薔薇花嫁達も消滅し、薔薇楽園に咲いていた薔薇の棘達が笹木と綾羽に勢い良く刺さっていく。
「イテ、痛っ」
「まだまだ...!薔薇楽園が破壊されたことによりフィールドの薔薇花嫁を全て破壊し互いに破壊された薔薇花嫁モンスターの数×300のダメージを受けます。破壊されたのは橙薔薇、白薔薇、黄薔薇の三体。よって900のダメージ」
笹木 LP3500→2600
綾羽 LP5200→4300
「そしてローズ・サイクロンの効果!フィールドの魔法カードを破壊した後、デッキからレベル3以下の植物族モンスター1体を守備表示で特殊召喚します!来なさい『薔薇花嫁―蕾』!(ローズブライド―バド)」
「・・・?」 LV1 ATK/DEF0
地面から新たな薔薇花嫁が出現する。しかし肝心の薔薇が開花していない。
「薔薇花嫁―蕾の効果!1ターンに1度、デッキからもう1体薔薇花嫁―蕾を特殊召喚できます!特殊召喚! 」
「・・・?」 LV1 ATK/DEF0
現れなさい!私達のサーキット!
アローヘッド確認!召喚条件は『薔薇花嫁モンスター2体』
私は薔薇花嫁―蕾2体をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!
リンク召喚!リンク2!
『薔薇花嫁―青薔薇』!(ローズブライド―ブルーローズ)
「ヤァァッ」 LINK2 ATK2000 リンクマーカー 左下 右
「蕾の効果発動!このカードが墓地へ送られた時、薔薇花嫁モンスター1体手札に加えます。ですが墓地へ送られた蕾は2体、よって2体の薔薇を手札に加えます。」
手札3枚。
遊駆とデュエルした時とまるで違うスピードで薔薇花嫁を展開していく。
唖然とする笹木を置いて綾羽は展開の最終段階に入った。
「手札に加えたのは薔薇花嫁―桃薔薇と白薔薇。ここで青薔薇の効果発動!青薔薇は墓地から自身のリンク先に薔薇花嫁を特殊召喚する効果を持っています。私は墓地から薔薇花嫁―黄薔薇を特殊召喚!
そして手札に加えた薔薇花嫁―桃薔薇の効果発動!フィールドに薔薇花嫁モンスターが存在する場合、自身を特殊召喚できます!来なさい!薔薇花嫁―桃薔薇!(ローズブライド―ピーチローズ)」
「キャハッ」 LV2 ATK100 DEF200
「そして黄薔薇の効果!デュエル中に1度、このカード以外の薔薇花嫁モンスター1体を破壊して、相手フィールドに存在するモンスター1体をゲームから除外します。私は桃薔薇を破壊して貴方の伏せモンスターをゲームから除外!そして桃薔薇の効果で貴方に500ダメージ!」
桃薔薇の棘が笹木に刺さる。
「痛っ、いたい...。」
LP2600→2100
「バトル!私はまず黄薔薇でダイレクトアタック!」
黄薔薇の腕が人型の腕から緑色のばらの触手に変化し笹木を全力で叩く。
「ああーっ!も、もうやめてください...」LP2100→1600
痛さに耐えきれなくなったのか、無様に綾羽に向かって土下座をするが、綾羽は聞く耳を持たない。
「デュエリストたるもの、デュエルは最後まで受けなさい!最後に薔薇花嫁―青薔薇で、ダイレクトアタック!」
ブルーローズ・クラッシュ!
「あ...あ...」 LP1600→0
「・・・さぁ、デュエルは終わりました。約束通り、2度と私達の前に姿を見せないでくださいね。」
「ヒッ」
綾羽の言葉を聞くと一目散に走りだし、笹木の姿は見えなくなった。
現在6時50分。
(早く来すぎちゃった...。一旦デュエルディスク戻しに行こ。)
7時30分
いつもの風景が広がる。
綾羽が席を取り、綾羽の隣に遊駆を座るように頼み、複雑な表情をしながら遊駆は綾羽の隣に座る。
輪廻達がそれを笑いながらみるが、綾羽は満足そうに朝食をとる。気付けば出来ていたこの風景、もう付き合っていてもおかしくないとたまに誰かに言われるが、その時に綾羽は必ず笑っているだけだ。どういった意味で笑っているのかはまだ誰にも分からない。照れているだけかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。ただ一つ言える事は、笑っている時の小込綾羽は、どんな薔薇よりも美しい...ということだ。
小込綾羽は、一体何に怒りを剥き出しにしているのだろうか。
・・・いや、答える必要等最初から無い。彼女が怒る理由はただ一つ、彼女が恋をしている男、藤玄遊駆を綾羽の目の前にいる男、笹木好が侮辱したという訳だ。
人の心には表と裏があると言う。
どうやら綾羽にも、その表と裏が存在するようだ。
特定の条件を満たした場合の、スイッチがオンになった状態で、普段の皆がイメージしている小込綾羽とは違う、裏の綾羽が出現するとすれば...今起きているこの状況も少しは理解出来るか。
「藤玄遊駆を侮辱する」
この行為を綾羽の目の前で行うのは自らの命を散らしにいっているようなものだ。
しかし彼はそれを行ってしまった。
結果今彼は膝を震わせ彼女を恐怖の対象として認識している。
口を開かずにただ黙って自分を見ている綾羽に怯えながら静かに時間が流れていく。
「独り占めが好きだといって気持ち悪い笑顔をしていた人が...」
そんな時やっと綾羽が口を動かした。
「...随分と怯えていますね」
凍てついた眼で綾羽は敵と認識した笹木を睨み付ける。
逃がさない。笹木には綾羽の眼はそう言っているように見えていた。
「貴女は一体...?」
恐怖を感じるもなんとか今の状況を整理しようとする笹木。
「誰って...私は小込綾羽ですよ」「う、嘘だ、だって綾羽さんは...!」
「・・・私は小込綾羽です。」
笹木のイメージしている小込綾羽は優しい笑顔が美しい純粋な女性。
笹木はそんな女をターゲットにして今まで何度も告白を行ってきた。
恐怖を与える告白を。
そんな女を独り占めしたかったから。そんな女が自分の告白で恐怖する顔が見たかったから。
怯えきった表情を、不安になる表情を、自分に恐怖する表情を...見たい...!
ただそれだけの理由だった。
相手の好みや趣味等一切調べずただ自分にだけ向けてくれる恐怖の表情が見たい。それだけだ。
だから、小込綾羽もちょっと気があるような素振りで近づけばいい。
そして自分の告白を聞いて恐怖の表情を浮かべてくれればそれで十分だ...!
しかしそうはならなかった。
何を間違えた?いや、間違い等無い。ただ運が無かっただけだ。
笹木程の男なら怒っている小込は止められない。藤玄遊駆を侮辱した時点で笹木の運命は決定した。
だがここはデュエルアカデミア。例え怒り心頭な状態の綾羽でも分かるたった一つのルール。
彼女の言ったラストチャンスの意味、そう...デュエルだ。
デュエルに勝利する事が笹木にとっての最後の救い、最後の望みだ。だから彼はこのデュエルを受けた。と言うよりも受けざるを得なかった。
さっきまでの雰囲気は何処へ行ったのか、笹木は体を小刻みに震わせながらデュエルディスクにデッキをセットしディスクが自動でシャッフルを開始する。
カードプレートが作成されシャッフルが完了、準備が整った。
「・・・準備は良いですか?」
小込も準備が出来たようで、その凍てついた眼で笹木を睨むように見て確認を取る。少し眼を輝かせたがそれもすぐに恐怖で消えていった。
「あ、あぁ、出来たよ...」
力無く返事をしたその顔を見て綾羽は不適に微笑むのだった。
デュエル!!
「僕の先攻!」
恐怖を押しきり笹木が先攻を取る。
「・・・僕はモンスターをセット。ターンエンド」
笹木 LP4000 手札4 場 伏モンスター1 墓地 無 除外 無
綾羽 LP4000 手札5 場 無 墓地 無 除外 無
まずは様子見かと警戒するが、相手の怯えた表情を見るに実際はそうでも無さそうだ。まぁいい。それなら私は本気で叩く。
そう思い綾羽のターンがやって来た。
「私のターン、ドロー。・・・私は手札から永続魔法『花嫁修行』を発動。その効果で手札から『薔薇花嫁―白薔薇』を特殊召喚!」
「ウフフ...」 LV2 ATK300 DEF700
地面から巨大な白薔薇が出現、白薔薇が開花し中から白いウエディングドレスを着た小さい女の子の見た目をした薔薇花嫁が出現する。
「白薔薇の効果発動!特殊召喚に成功した時、フィールドの薔薇花嫁モンスターの数1体につき300のライフを回復します!今この場には一体の薔薇花嫁!よって300回復!」
白薔薇が手に持っているブーケを綾羽に投げ薔薇の匂いを堪能する。
綾羽 LP4000→4300
「そしてフィールド魔法『薔薇楽園』を発動!」
薔薇楽園(バラダイス)が発動すると食堂が薔薇庭園の様になり空は快晴となり辺り一面に薔薇が蕾の状態で出現し、白薔薇が満面の笑みを浮かべる。
「ウフフ...」 ATK300→600 DEF700→1000
「薔薇楽園の効果によってフィールドに存在する薔薇花嫁モンスターの攻撃力と守備力は300アップします。そして手札から『薔薇花嫁―黄薔薇』を通常召喚!」
「フフ」 LV4 ATK500→800 DEF400→700
今度は黄色のウエディングドレスを着た黄薔薇の花嫁。薔薇楽園の効果で攻守が上昇する。
現れなさい!私達の未来を照らすサーキット!
アローヘッド確認!召喚条件は
『薔薇花嫁モンスター1体』
私は薔薇花嫁―白薔薇をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!
リンク召喚!
『薔薇花嫁―橙薔薇』(ローズブライド―オレンジローズ)!
「キャハッ」 LINK1 ATK400→700 リンクマーカー 下
リンク召喚を行う際にはリンク召喚を行うデュエリストの頭上にゲートが出現するのが当たり前だ。だが時代が進み今の時代ではそれぞれのカテゴリによって様々な演出が出来る設定を出来るようになっていた。
綾羽の使用する薔薇花嫁では光の粒子となってリンクマーカーの方向へ向かうのではなく薔薇花嫁の(植物の)薔薇を伸ばし地面に出現するゲートへ向かいリンク召喚される。もっとも、演出が見たくない場合は設定をオフにすればいいだけだ。
さて、なぜ今この話をしたかというと、その演出での事だ。
薔薇花嫁リンクモンスターをリンク召喚する際に薔薇楽園を発動していると、薔薇楽園で出現した薔薇が相手プレイヤーの方向に生えている薔薇がリンク召喚する薔薇花嫁の色の薔薇で開花し、相手プレイヤーを笑うように薔薇が不気味に揺れ始める。
恐怖で満ちていた笹木には―ただ薔薇が揺れているだけなのだが―そう見えた。
「薔薇花嫁―橙薔薇の効果発動。」
リンク召喚が完了した綾羽のフィールドにはエクストラモンスターゾーンの左側に橙薔薇が。メインモンスターゾーンには黄薔薇が存在し、現在綾羽が橙薔薇の効果を発動した。
「橙薔薇の効果発動。橙薔薇は1ターンに一度手札の薔薇花嫁モンスター1体を破壊し墓地へ送った後、墓地に存在する植物族モンスター1体を自身のリンク先に特殊召喚します。私は手札の薔薇花嫁―緑薔薇を破壊し、その瞬間緑薔薇の効果発動。緑薔薇が自分モンスターの効果で破壊され墓地へ送られた場合、相手に500のダメージを与えます。そして白薔薇を墓地から特殊召喚。白薔薇の効果を発動。今フィールドには3体の薔薇花嫁。よって900ライフを回復します」
「ウフフ」 LV2 ATK300→600 DEF700→1000
橙薔薇の腕が薔薇の棘となり綾羽ね手札にある緑薔薇を貫き緑薔薇が悲鳴をあげ、放たれた緑薔薇の棘が笹木に刺さる。
一方綾羽は橙薔薇が地面から呼び戻した白薔薇の匂いを堪能した。
この時点での綾羽の手札は1枚しかないが、綾羽の勢いは止まらない。
笹木 LP4000→3500
綾羽 LP4300→5200
「まだ行きますよ!魔法カード『花嫁の宝箱』を発動!」
空から宝箱が薔薇花嫁達の所に降りてきた。箱を開けるとその中身は光っている紙。その紙を薔薇花嫁達は大切に抱きしめ、薔薇花嫁達の体も光りだし、その光は綾羽のデッキに吸い込まれた。
「花嫁の宝箱の効果によってフィールドに存在する薔薇花嫁モンスターの数まで私はデッキからカードをドローできます。3枚ドロー。・・・ただし、花嫁の宝箱を発動したら現在自分フィールドに存在する薔薇花嫁モンスターはリンク素材に出来ず、攻撃を行えません。」
綾羽の手札は瞬く間に回復した。デュエル開始時に既に手札にこのカードがあった時点で綾羽の展開は確定していた。まさに完璧な手札だ。だが、ここからは綾羽にも分からない領域だ。しかし...
「クスッ」
綾羽は手札を見て微笑んだ。
突然だが、問題だ。
問、彼女の原動力は何だろう?
答、彼女の原動力は藤玄遊駆への『想い』。遊駆を慕い、愛し、想う。恋する気持ちが彼女の原動力。
だからこそ大好きな藤玄遊駆を蔑む、危害を加える、侮辱する、こういった行為を綾羽は決して許さない。
昨日、綾羽が笹木から手紙を貰った後、輪廻に笹木の部屋に返事を書いた手紙を渡すように頼んだ。
あのとき綾羽の頭の中では緊急会議が開かれていた。
議題は、笹木好は藤玄遊駆に危害を加えないか否か
結論を出すまでに少し時間はかかったが結論は出た。
結論、笹木好はいつか小込綾羽を手にするために藤玄遊駆に危害を加えかねない。倒さなきゃ。
そして笹木にデュエルディスクを持ってくるよう手紙に書き、綾羽は藤玄遊駆を守るために笹木を倒そうと決意した。
デュエル前に提示した約束。もし綾羽が敗北すると笹木と交際でもなんでも自由にしていいという約束だが...敗北なんて、あり得ない。根拠もないただの理屈だが、何故かそう思える。
(私の想いに応えてくれたのね...薔薇花嫁、ありがとう。これで倒すことが出来る。)
「少し昔の話をしましょうか」
「昔の...?」
突然何を言い出すんだと言いたげな表情の笹木を置いて綾羽は目をつぶり、ゆっくりと怯えている笹木に向かって綾羽は語り始める。
「あれは今年の4月11日の事でした。あの時私は大切な人に出会ったのです。」
綾羽が思い出しているのは藤玄遊駆との出会いだった。
4月11日
・・・女子寮のデュエルスペースが満員で困っていた綾羽は男子寮のデュエルスペースなら、と見に来た綾羽はそこで億谷護の騒動に直面する。
(・・・悪い王様ね。それに表向きは従っている人達...。)
メルヘンチックな考えをしていた当時の綾羽は億谷の事を『悪い王様』と見て運ばれたデュエリストを見て帰ろうかと考えた瞬間である。突如周りが静まり視線は一人の男子生徒に向けられた。
「・・・何が言いたい?自分が負けるところを見て欲しいのか?」
「イヤ・・・ここにいるのは全員デュエリストだ。デュエリストならデュエルを見たいのは当然だろう?」
「それに、俺は絶対に負けない。」
気がつけば綾羽は帰らずに遊駆のデュエルを観戦していた。いや、というよりも遊駆を見ていた。
遊駆を見た時に、どこかで見たような、そんな気がしていた。
(・・・あぁ)
どこか納得したような声を綾羽は心の中で発する。
(王子様...。)
王子様、その言葉の意味は、綾羽の幼少期に綾羽の母から一番聞いていた言葉だ。
「いつか綾羽ちゃんのところにも素敵な王子様が現れてくれるわよ。」
とは綾羽の母はよく言っていた言葉だ。
いつ現れるの?と聞いても母は微笑むだけだった。
まだ王子様がどんなものか分からなかった綾羽は、ノートに王子様のイメージを描き始めた。
そんな生活をしながら綾羽は小学生になり、小学3年生辺りで綾羽は別のクラスの男子生徒から告白を受ける。
理解出来なかった。何故よく知らない男子が私に告白したのだろうか?それともこの人が王子様なのか?・・・違う。理由はよく分からないが、違うと感じ、綾羽は告白を断った。
そんな知らない男達から告白される日々が何年か続いた。
結局よく母が言っていた王子様の意味は何だったのだろう?分からないまま、彼女はノートに、ついには頭の中で王子様の理想像を作る。
(王子様...今なんで王子様の話を...?)
再び遊駆を見る。すると綾羽の顔は真っ赤な薔薇のようになってしまった。
いつか綾羽ちゃんのところにも素敵な王子様が現れてくれるわよ。
頭の中でその言葉だけが回り始める。
(・・・もしかして王子様って...)
綾羽はようやく答えにたどり着いた気がした。
(一目惚れ...?ううん、この時をずっと待ってたのよ。きっと...運命...お母さんが言っていた王子様は...私が好きになる人の事...!藤玄遊駆...私の王子様...!)
「・・・それから私はあの人に接近しました。時間は4月14日になります」
4月14日
綾羽にとってこの『恋』という感情は新鮮なものだった。
既に彼女の悪癖であるストーリー作成によって、遊駆と綾羽は仲の良い、あと少しでどちらかが告白するといったストーリーが展開され、何の疑いも無く、彼女は遊駆に告白した。
告白の方法なら知っている。
今までたくさんの男に告白されてきたから。
大丈夫、必ず成功する。
そう思っていた。
「・・・え?」
「悪い...なんて言うか、そういった恋愛とかはまだ興味なくて...気持ちは嬉しいけど...」
(あれ...?何で?あれ?)
気付けば彼女は遊駆にデュエルを挑み、混乱状態となってしまっていた。
デュエルは遊駆の勝利。冷静さを取り戻し、顔をうつむかせ涙をこらえ、そんな姿をした綾羽を見て、遊駆は「また告白する時は自分の意志がはっきりした時にしてくれればいい」と言ってくれた。
その言葉に綾羽は救われた。
何も知らず告白した私を不思議がらず、怖がらず、そんな遊駆をますます彼女は好きになる。
運命だとか、王子様だからとか、そんなものは自分の恋心の誤魔化しだ。小込綾羽は、心から藤玄遊駆に恋をしたのだ。
「だから私は今でもあの人を好きでい続けられるのです。そして私はそんなあの人と平和に過ごす日々をいとおしく思っています。だから...」
話終わり目を開けると、そこにはまた凍てついた眼をした綾羽が。
「ヒッ」
「私の事を何も知らずにただ自分の欲求のためだけに告白した貴方はとても愚かに見えます。もしかしたら、私の事を知る機会があって、もしかしたら私の心を射止めていたかもしれないのに、それをせずにただ告白しただけならまだしもあの人を...!だから...許しません。貴方は私にとって一番大事なものをけなした...!」
「絶対に!許しませんッッ!言わばこのデュエルは私の怒り!受けなさい!薔薇花嫁のワンターンキル戦法!私は手札から速攻魔法『ローズ・サイクロン』を発動!」
薔薇楽園が爆風で荒らされ薔薇は完全に消滅する。薔薇楽園の消滅によって薔薇花嫁達も消滅し、薔薇楽園に咲いていた薔薇の棘達が笹木と綾羽に勢い良く刺さっていく。
「イテ、痛っ」
「まだまだ...!薔薇楽園が破壊されたことによりフィールドの薔薇花嫁を全て破壊し互いに破壊された薔薇花嫁モンスターの数×300のダメージを受けます。破壊されたのは橙薔薇、白薔薇、黄薔薇の三体。よって900のダメージ」
笹木 LP3500→2600
綾羽 LP5200→4300
「そしてローズ・サイクロンの効果!フィールドの魔法カードを破壊した後、デッキからレベル3以下の植物族モンスター1体を守備表示で特殊召喚します!来なさい『薔薇花嫁―蕾』!(ローズブライド―バド)」
「・・・?」 LV1 ATK/DEF0
地面から新たな薔薇花嫁が出現する。しかし肝心の薔薇が開花していない。
「薔薇花嫁―蕾の効果!1ターンに1度、デッキからもう1体薔薇花嫁―蕾を特殊召喚できます!特殊召喚! 」
「・・・?」 LV1 ATK/DEF0
現れなさい!私達のサーキット!
アローヘッド確認!召喚条件は『薔薇花嫁モンスター2体』
私は薔薇花嫁―蕾2体をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!
リンク召喚!リンク2!
『薔薇花嫁―青薔薇』!(ローズブライド―ブルーローズ)
「ヤァァッ」 LINK2 ATK2000 リンクマーカー 左下 右
「蕾の効果発動!このカードが墓地へ送られた時、薔薇花嫁モンスター1体手札に加えます。ですが墓地へ送られた蕾は2体、よって2体の薔薇を手札に加えます。」
手札3枚。
遊駆とデュエルした時とまるで違うスピードで薔薇花嫁を展開していく。
唖然とする笹木を置いて綾羽は展開の最終段階に入った。
「手札に加えたのは薔薇花嫁―桃薔薇と白薔薇。ここで青薔薇の効果発動!青薔薇は墓地から自身のリンク先に薔薇花嫁を特殊召喚する効果を持っています。私は墓地から薔薇花嫁―黄薔薇を特殊召喚!
そして手札に加えた薔薇花嫁―桃薔薇の効果発動!フィールドに薔薇花嫁モンスターが存在する場合、自身を特殊召喚できます!来なさい!薔薇花嫁―桃薔薇!(ローズブライド―ピーチローズ)」
「キャハッ」 LV2 ATK100 DEF200
「そして黄薔薇の効果!デュエル中に1度、このカード以外の薔薇花嫁モンスター1体を破壊して、相手フィールドに存在するモンスター1体をゲームから除外します。私は桃薔薇を破壊して貴方の伏せモンスターをゲームから除外!そして桃薔薇の効果で貴方に500ダメージ!」
桃薔薇の棘が笹木に刺さる。
「痛っ、いたい...。」
LP2600→2100
「バトル!私はまず黄薔薇でダイレクトアタック!」
黄薔薇の腕が人型の腕から緑色のばらの触手に変化し笹木を全力で叩く。
「ああーっ!も、もうやめてください...」LP2100→1600
痛さに耐えきれなくなったのか、無様に綾羽に向かって土下座をするが、綾羽は聞く耳を持たない。
「デュエリストたるもの、デュエルは最後まで受けなさい!最後に薔薇花嫁―青薔薇で、ダイレクトアタック!」
ブルーローズ・クラッシュ!
「あ...あ...」 LP1600→0
「・・・さぁ、デュエルは終わりました。約束通り、2度と私達の前に姿を見せないでくださいね。」
「ヒッ」
綾羽の言葉を聞くと一目散に走りだし、笹木の姿は見えなくなった。
現在6時50分。
(早く来すぎちゃった...。一旦デュエルディスク戻しに行こ。)
7時30分
いつもの風景が広がる。
綾羽が席を取り、綾羽の隣に遊駆を座るように頼み、複雑な表情をしながら遊駆は綾羽の隣に座る。
輪廻達がそれを笑いながらみるが、綾羽は満足そうに朝食をとる。気付けば出来ていたこの風景、もう付き合っていてもおかしくないとたまに誰かに言われるが、その時に綾羽は必ず笑っているだけだ。どういった意味で笑っているのかはまだ誰にも分からない。照れているだけかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。ただ一つ言える事は、笑っている時の小込綾羽は、どんな薔薇よりも美しい...ということだ。
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無事いつもの風景を守りました。幸せそうで何よりです。 (2018-08-23 21:03)
歪んでいるというよりも悪い意味で『純粋』なんです。変態なことに変わりはありませんが。...というか、この作品自体もほとんどの登場人物が『純粋』な人ばかりです。綾羽のように『恋に純粋』という良い方面の人もいれば、笹木のように悪い方面の『恋に純粋』という方もいるのです。
笹木がそれからどうなったのかはご想像におまかせします。まぁ多分...ウフフフ...。
(2018-08-23 21:50)