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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第1話 清水優と西川晴海

第1話 清水優と西川晴海 作:とき



あるところに羊ケ峰(ひつじがみね)という遊戯王デュエルモンスターズの大変盛んな街がある。
そんな羊ケ峰の街には遊戯王に関して奇妙な都市伝説があった。
曰く、お互いの精神を掛け金にした闇のデュエルがあるとか。
曰く、そのデュエルでダメージを受けると実際に痛みに襲われるとか。
曰く、そのデュエルで負けすぎたものは己の存在も定かではなくなるとか。
曰く、そのデュエルでは普通のデュエルでは使えない超常の力が使えるとか。
そして曰く、そのデュエルを勝ち抜いていくことで、相応の対価を得られるとか。

「未成年にもジュースを提供する変なバーがある」「都市伝説ばかりを追う変な記者がいる」「引き分けばかりを狙う奇妙なデュエリストがいる」…
この街には奇妙な噂が尽きなかったが、その中でもこの遊戯王の都市伝説は多くの人の心を惹いていた。
この物語は、その都市伝説と思われた物語に翻弄される2人の少女とデュエリストたちの物語…





朝は憂鬱だ。窓から差し込む朝日が鬱陶しい。
かつて学校に通っていた頃を思い出してしまう。何故この部屋は窓際に配置されてしまったのだろう。
この部屋の主、清水優は不登校児だ。登校してれば中学2年というやつなのだろう。だが、今はもうあの学校-公立栗山中学校、という-に登校しようという気は毛頭ない。家族もそれは了解している。

「優、ご飯よー」

はーい、と答えて部屋を出る。不登校とはいえ優は引きこもりではない。
家の外に出ることもできるし、休日は家族と出かけることだってできる。
ただ、同じ学校の生徒には会いたくないから、結局引きこもりがちにはなっているのだが。

「ああそうだ優、登下校の時間が終わったらでいいんだけど、ちょっとだけお使い頼めるかしら?」
「…まあ、それくらいなら」
「そう、ありがとう。母さんちょっと出かけなきゃならないところがあってね、これ、買い物のメモ」

優は母親から買い物のメモを受け取る。じゃがいもやにんじん、玉ねぎにカレールー。今夜はカレーか。
まあ、スーパーが開くのは10時だ、その頃には登下校も終わっているだろう。お釣りでおやつを買ってもいいって話だし、不登校を認めてもらってる分は親孝行しなければ。
優は時間を潰した後、朝の10時にはスーパーに向けて家を出た。交差点を何個か渡り、商店街の中に入っていく。アーケード街に入り目指すスーパーに向かう途中、優は自分と同じ栗山中学校の制服を着た生徒がこちらに向かっていることに気がついた。普段であれば隠れるところだが、周囲には遮蔽物が商店街の店舗のものしかない。使えばたちまち店の主に怪しまれるだろう。かといって地形はアーケードに囲まれた商店街、道角に背を隠す訳にはいかない。そしてなにより。

「あれ… 優…?」

自分を呼んだその声を、優はまだ覚えていた。

「…晴海?なんで、ここにいるの?」

西川晴海。優の、数少ない友人と言える相手。幼馴染といったほうがいいかもしれない。父親が同じ職場の同期だということで家族ぐるみでの付き合いがあった女の子。二人の父親同士がお酒を飲み交わしているときに、二人でいつもおままごとをしたり、アニメを見ながら笑い合ったりしていた。でも、中学生になったときにクラスが別になり、そこで優はもう学校に行きたくないと心から思うほどのイジメを受けて、それからは晴海とも距離をとっている。だって、不登校児の面倒なんて見ないほうが、晴海のためになるはずだから。私はもう、彼女にとって迷惑にしかならないと優は思っていた。それなのに。

「優…!よかった、ずっと心配してたんだよ、急に学校に来なくなって、お父さん同士の集まりにも出なくなったから…」
「それは… 晴海にはわかんないよ、私の気持ち…」
「あ、うん… そうだよね… でも、私はずっと心配してたのはほんとだから!先生たちも、戻ってきてほしいって…」
「やめてよ!晴海の気持ちはともかく、先生たちの言葉なんて上辺だけだ!」
「…でも、私はいつまでも優を待ってるから。私、今日はちょっと頭が痛くて病院に行った帰りだったの。だから今日はもう、家に帰るね」
「うん… お大事に、晴海」

よく見れば晴海の顔色は少し悪かった。そもそも普通であれば制服で平日のこの時間に彼女が歩いているはずがないからこそ、出会った優も驚いたのだ。そして、相も変わらず心優しく、そして甘い。彼女の性格は、昔から変わってないようでちょっと安心した。優のように擦り切れて、絶望に染まってしまわなかった。きっと中学でもいい友人に恵まれているのだろう。少しおっとりしたところのある彼女のことだ、友人たちは苦労するかもしれないが、私の代わりに彼女をどうか、幸せにしてあげてほしいと優は少し感傷に浸っていた。

「さて、と」

思わぬ再会に戸惑ったが、とりあえずスーパーに駆け込み必要な買い物を済ませてしまう。帰り道で晩ごはんになるであろうカレーと自分が買ってきたチョコレートの味に期待しながら少しだけごきげんな顔になってしまうが、こんなにへらにへらした顔を他人に見せるのははばかられた。私は可哀想な可哀想ないじめの被害者の不登校生徒なのだ。こんなところを晴海でもない他の知り合いに見つかっては面倒になる。
しかし、商店街の出口に近い雑居ビルの前を通りかかった時に、謎のスーツの男が道を塞ぐように立っていた。その男が自分に向けて声をかけてくる。

「清水優だな」

声を出すこともできなかった。あるのは絶望感。まさか、自分のいない間に新しく中学校に着任した教師だろうか。それとも見回りの私服警察官?それか、連れ去り目的の変質者も考えられる。いずれにしても、ろくでもないことが起こることは間違いない。今すぐこの場を離れなくては。それか、声を上げて助けを求めるか。いや、面倒事にはしたくない。しかし、さて、どうしたものか。すると男は、素っ頓狂な一言を言い放ち、消えていった。その一言が、運命の始まりを告げる鐘だった。

「お前は選ばれた。マインド・ゲームのピースに。逃れることは許されない。運命を受け入れろ」

マインド・ゲーム?ピース??頭にハテナが浮かぶことを許されないままに、強烈な頭痛が私を襲った。
頭が痛い。あの男と会った途端急に頭が痛くなってきた。病院に駆け込もうにも自分の財布も親の援助も家に帰らなければ受け取れない。そもそも両親ともに外出中だ。とにかく、この頭痛を耐えて家に駆け込むしかない。何度もガードレールや塀によりかかりながらも、優は家にたどり着いた。こういうときはすぐに寝てしまうに限る。家の玄関にお使いの品物を置き、チョコレートだけを抜きとるとすぐに頭痛に耐えながら自分の部屋に向かう。なんとかベッドまでたどり着くと即座に横になり眠りにつく。眠りにつくとこれまでの頭痛が嘘のように引いていき、ぐっすり眠ることができた。だが眠りから目覚めると、そこは西洋風のお城の中だった。

「へ…? 何、ここ??」
「清水優だな。お前は選ばれた。マインド・ゲームのピースに。逃れることは許されない。運命を受け入れろ」

城の中には玉座があり、そこには商店街で出会ったスーツの男が鎮座していた。

「ここは精神の空白の間… マインド・ゲームの参加者が集う世界。俺の名はブライアン・レナード。マインド・ゲームの参加者を導き、裁定するもの。いわばゲームマスターのような存在だ。繰り返す。清水優。お前は選ばれた。マインド・ゲームのピースに。逃れることは許されない。運命を受け入れろ」

ブライアン・レナードと名乗る謎の男との出会いと、マインド・ゲームという謎の何か。ゲームマスターとレナードは自称しているからにはゲームのようなものなのだろうか。そして運命とは。優は自分に起こった出来事の素っ頓狂さに困惑し、レナードを問い詰めるために声を上げるしかなかった。
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