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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第14話 栗山中学校にて

第14話 栗山中学校にて 作:とき


「えー、皆さんにお知らせがあります。担任の高梨先生は本日、娘さんが倒れられたとのことでお休みです。社会科の授業も自習になります。それと、中村さんが登校中に急に倒れたとのことでお休みです」

公立栗山中学校。2年3組の教室では副担任が担任の代わりにホームルームを行っていた。晴海は自分が高梨先生の娘、裕美を昏倒させた事実をまだ引きずっていた。高梨先生の娘好きはクラスでも有名で、娘トークを授業中に繰り広げてしまうほどである。故にその知らせに、クラスには驚きと心配の声が広まった。

(高梨先生は娘さんが大好きだったからなあ… そんな娘さんを、レナードさんは、いや私は奪っていった。どうしてこんな事になっちゃったんだろう…)

どうしてこんな事になったのか。全ては昨日から始まった。校門の前に立っていた謎のスーツの男、ブライアン・レナード。彼は晴海にこう呼びかけた。

「西川晴海だな。お前は選ばれた。マインド・ゲームのピースに。逃れることは許されない。運命を受け入れろ」

その声の後にとんでもない頭痛がしたために学校を欠席し病院に向かい、優と再会した後で家に帰り眠った時に、レナードによって精神の空白の間へと召喚された。そこでレナードによって晴海は自分がマインド・ゲームと呼ばれるものに巻き込まれたこと。勝てば記憶操作などの恩恵を得られるらしいこと、逃げる道はないことなどを聞かされた。その時晴海が思ったのは、不登校になったと聞く親友、清水優のことだった。

(もし優の苦しい記憶を無くして、さらにいじめっ子たちの記憶から優の不快な部分を消してしまえば、優はもう一度学校に来てくれるかな…)

その後レナードとチュートリアルデュエルをしたがこれは晴海の負け。マインド・ゲームの痛みというものを身をもって味わう結果になってしまった。精神の空白の間から自分の家に戻ったときには頭痛はすっかり治まっており、デッキを強化するため訪れたカードショップで晴海は優と再び遭遇する。優と共にマインド・ゲームに挑もうとした晴海だったが、優はこれを断り立ち去ってしまう。優を追おうとした店の外で、裕美に声をかけられマインド・ゲームが始まり、勝利した晴海の目の前で裕美は倒れた。そして今に至る。

(やっぱり… このマインド・ゲームに参加させられてから、何かがおかしくなってる。優は様子がおかしいし、裕美ちゃんは倒れてしまった。私は、裕美ちゃんのような悲劇を繰り返しても、優たちの記憶を操作したいのかな。…これは罰なのかな、親友なのに、優に何もしてやれなかった私への)

晴海はこの日は授業にも身が入らず、教師の指名に答えられず頓珍漢な答えをしてしまい恥をかいたり、上の空になっていることを教師に注意されたりするなど散々だった。昼休みになると、晴海のもとには彼女を心配する何人かのクラスメイトが集まってきた。しかし、彼女たちにマインド・ゲームのことを相談しても、何のことやらであろう。

「西川さん、大丈夫?今日様子がおかしかったけど…」
「あ、えっとね、好きなテレビを見てて夜更かししちゃってね…?」
「西川さーん、夜更かしは良くないよ?で、何を見てたの?バラエティ?ドラマ?意外とアニメだったり?」
「えーとね…」
「西川さん、ちょっといいかしら?」

答えを取り繕うのも難しい。しかし、やはりマインド・ゲームのことを話す訳にはいかない。そう思っていた時、後ろから晴海を呼ぶ声が聞こえた。その声の主が、晴海の目の前に現れる時、晴海は裕美が現れた時と同じ胸騒ぎがするのを感じていた。

「あれ、公文さんが西川さんに用なんて珍しいね。接点あったっけ?」
「今日の態度を注意しに来たのかも。ああ、晴海、頑張って~!!」

周囲の囃し立てるクラスメイトを背に、その落ち着き払った少女、公文勝乃は静かに告げた。

「少し、秘密の話があるの。ちょっとこちらに来てくれるかしら」
「はい…?私はいいけど、公文さん一体どうしたの…?」

勝乃は晴海を立たせると、スタスタと歩き出す。晴海はそれを追いかけるように歩く。胸騒ぎはまだ、止まらなかった。

「このあたりでいいかしら」

勝乃が立ち止まったのは、閉鎖されている屋上へ向かう階段への踊り場だった。

「えっと… 私に何の用なのかな、公文さん」
「とぼけなくてもいいわ。単刀直入に聞く。西川さん、あなたはピースね?あなたを見ていると、私も胸騒ぎが止まらない。あなたもでしょう?しきりに心臓のあたりを気にしていたもの」
「あはは… 公文さんも、もしかしなくてもピース、かな?」
「ええ。私もピース。ブライアン・レナードに選ばれたピースよ」

ブライアン・レナード。その名前が出てくる以上、公文勝乃は疑いようのないピースだ。

「ピースとピースが出会ったら… やっぱりマインド・ゲームをしなきゃダメなのかな?」
「その前に聞かせて。あなたの今日の様子はおかしかった。マインド・ゲームに巻き込まれたからだけとは思えない。何かあったの?」
「ダメ。言いたくない。それを受け止めてもらえると思うほど、私はあなたを信用はしていないよ」
「そう… ただ、一つだけ。胸騒ぎがしたのは今日の朝からだった。あなたは欠席した昨日、マインド・ゲームに巻き込まれたはず。だから今日の様子がおかしいのは、マインド・ゲーム以外に何かショックな出来事があったからだと思ってる。それだけは伝えておきたいの」

晴海は内心焦っていた。自分の他にピースがこの学校にいるとは正直考えていなかった。しかも、そのピースは様子がおかしい自分を察知し、早くもこちらを捕捉してきた。これからは胸騒ぎと共に、爆弾を抱えながら学校生活を過ごすことになるのだろうか。勝乃の思惑がわからない以上、どうしたらいいのかわからない。刹那、頭の中で何かが囁いた。

(消してしまえばいいじゃないか。高梨裕美と同じように)

思いもよらないような声が聞こえた。自分の心の中に、こんなにも醜悪な部分があったのかと思うくらいには醜悪な声だった。ただ、ちょっと男性の声だったような気もする。

「西川さん?やはり、何かあるのね、あなたは。なら、多少無理やりにでも聞き出すだけ。本当はあまりやりたくないけど… マインド・デュエル」

勝乃がマインド・デュエルを宣言する。

「そんな!バカなことはやめてよ、公文さん!ここで負けたら、私かあなたが裕美ちゃんと同じように!」
「…やっぱり、高梨先生の娘さんのことを知っていたのね。でも、残念だけど、これ、止められないの。マインド・ゲームに付き合ってもらうわ、西川さん」
「公文さん… ごめんなさい、マインド・デュエル!」
(私は… このデュエルに勝っても、いいのかな…?あんな目に遭う人を減らすためには、私は負けたほうが…?)

2人の宣言に答えるように精神の空白の間が具現化し、裁定者であるレナードが姿を表した。

「ではこれより、西川晴海と公文勝乃のマインド・ゲームを執り行う。先攻はコインの結果、公文勝乃に決まった。では始めてくれ」

「「デュエル!」」
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