第１２話　ポイント・オブ・ノーリターン　作：とき

ターン２途中
実里　LP8000　手札4　《終末の騎士》
優　LP7000　手札3　《トランスコード・トーカー》《エクスコード・トーカー》《ハニーボット》＋《サイバネット・コーデック》

「攻撃力の合計が6500…？冗談はよしなさいよ。フィールド、もう一度見てみたら？」

優の場に並んでいたのは、攻撃力3300の《トランスコード・トーカー》、2800の《エクスコード・トーカー》、2400の《ハニーボット》だった。

「なっ…！いつの間に攻撃力を！」
「《トランスコード・トーカー》と《エクスコード・トーカー》の効果よ。トランスコード・トーカー》は相互リンク状態の時、自身と相互リンク先のモンスターの攻撃力を500上げる。《エクスコード・トーカー》はリンク先のモンスターの攻撃力を500上げる。つまりこういうことよ」

《トランスコード・トーカー》　ATK2300→3300
《エクスコード・トーカー》　ATK2300→2800
《ハニーボット》　ATK1900→2400

「へ…？　攻撃力の合計は8500…　私の場には《コード・ラジエイター》に弱体化させられた《終末の騎士》だけ…　つまりこれは…」
「そ、ワンターン・キル。さあ、覚悟しなさい。私の奪われた時間、痛み、恨み、全て載せてここで晴らす！《ハニーボット》で攻撃力0の《終末の騎士》を攻撃！」

《ハニーボット》　ATK2400　対　ATK0　《終末の騎士》

蜂の一突きが騎士の身体を粉砕する。それと同時に実里に、耐え難い痛みが走った。

実里　LP5600　手札4　なし
優　LP7000　手札3　《トランスコード・トーカー》《エクスコード・トーカー》《ハニーボット》＋《サイバネット・コーデック》

「がふっ…！！はあ、はあ…　て、てめえ、一体何をした…！この痛み、尋常じゃねえぞ…！」
「私はあんたにどれだけ金を奪われ、嬲られ、屈辱を味わってきたかわかる？そんな痛みじゃ収まらないのよ、私の痛みは！《エクスコード・トーカー》、ダイレクトアタック！」

《エクスコード・トーカー》　ATK2800　ダイレクト！

実里　LP2800　手札4　なし
優　LP7000　手札3　《トランスコード・トーカー》《エクスコード・トーカー》《ハニーボット》＋《サイバネット・コーデック》

「があああ！！うぐ、痛え、痛えよ…　わかった、反省する、もうやめようよ、清水。これまでのことは、謝るからさ」
「ポイント・オブ・ノーリターン」
「は？」
「帰還不能点、飛行機が出発地に戻る燃料がなくなる地点のこと。転じてもはや後には引けない段階。あんたたちも、私も、このポイント・オブ・ノーリターンを通り過ぎた。もう分かり合う道はない。人の本来過ごせるはずだった中学生活を奪っていおいて、耐え難い苦しみに陥れておいて、反省する、謝るだけで許してもらえると思うな！《トランスコード・トーカー》、ダイレクトアタック！トランスコード・フィニッシュ！！」

《トランスコード・トーカー》　ATK3300　ダイレクト！

実里　LP0　手札4　なし
優　LP7000　手札3　《トランスコード・トーカー》《エクスコード・トーカー》《ハニーボット》＋《サイバネット・コーデック》

WINNER　清水優

「ぎゃああああ！！う…　なんで…　私がぁ…」
「痛みのあまり気を失った、か。本当ならもう一戦でも二戦でもしてまたワンキルをぶち込みたいくらいだけど、流石に心神耗弱の廃人になられたら面倒になるし、もう私に対する意識も変わっただろうから、このあたりにしておいたほうが良さそうだね」

優は朝の空を眺めながら、急いでその場を離れることにした。変に人に見つかると、私が実里を気絶させたと捉えれてしまう。いや、実際はそうなのだが、ともかく面倒になる前に離れたかった。必死に自転車を走らせる中で、優は自分の言い放った言葉を咀嚼していた。

「ポイント・オブ・ノーリターン…か」

実里との決闘で最後に突きつけた通牒。彼女との永訣を示した言葉の意味を改めて刻む。

（私の復讐は始まったばかり。だけど、既に人一人に拭い去れない傷をつけてしまった。今がまさにポイント・オブ・ノーリターン、なのかもしれない。やめようと思っても、もう間に合わない。私の心が走れ走れと命じる限り、この復讐を続けるしかない）

登校の時間は終わりを告げようとしていた。優は下校時間まで時間を潰せる、身を隠せる場所を求めて(家に帰ってもいいのだが、帰り道を狙うにはちょっと遠い)近くの商店街に自転車を走らせた。



「はい、こちら増井です。…今度は住宅街で意識不明者が出たと？今、病院に収容しているんですね。では現場を教えてください、検証し次第被害者の様子を見に行きます」

増井由伸は警察署に出勤して間もなく、住宅街で件の意識不明事件が発生したとの連絡を受け現場に急行した。

「相変わらず、気持ち悪いくらいに痕跡がない。今回は目撃者も被害者が意識を失っているところを通報してきた婆さん一人か…　昨日の西川ちゃんみたいにわかりやすい相手がいれば助かったが、まさか婆さんがデュエルモンスターズをやってるとも思えん…　被害者が目覚めれば一番楽だが、それは期待できんしな…　収穫は今回もなしか」
「うおおおおお！！特ネタ！今日も出た！謎の意識不明者！こっちであってる！？て先客！？」

増井が収穫なく帰ろうとしたところで、息を切らせてこちらに駆け込んでくる相手がいた。豊満な胸を揺らしながら増井が検証を進めた現場を舐め回すように見つめていた。

「うーん、流石に人なし痕跡なしじゃあ、何もネタになりませんよ編集長！いやまあ編集長は呆れているんですけどね！私が勝手に進めているんですけどね！ってのわっ、先客ですか！？それともまさかの目撃者！？」

それにしてもよく動いてしゃべる女性だ、と増井は思った。というか、動くたびに胸がたゆんたゆんと動くので目のやり場に困るのをどうにかしてほしい、と増井は真剣に思った。

「…あんたは何者だ？この連続意識不明事件を追いかけているような口ぶりと動きだが」
「はっ、申し遅れました！私はこの地元のタブロイド紙の記者をしている二木歩と申します！ところで貴方は目撃者ですか！？であれば、ぜひとも取材を…」
「悪いが、違うな。俺はこういうものだ」

増井が名刺を渡すと、二木は跳ね上がり、すぐに地に伏せ土下座じみた体制を取るのであった。

「げげげ、よりによってケーサツ！？ケーサツもこの事件を既に追っていると！？」
「ああそうだ、警察もすでに動いている。加えて言うと、秘密裏にだ。メディアにも口封じをしている。下手なことを書けば、お前のところの新聞を取り潰しにしてもいいんだぞ」
「やめろー！公権力による言論の統制はんたーい！！」
「無論そんなことはしたくない。おとなしく手を引け。これはメディアの手に負える案件じゃない」
「…ふう、仕方ないですね。今回は諦めます…　などと言うとでも思ったか！これは都市伝説の匂いしかしないんですよ！それを追うのは私のライフワーク！こんなことで諦めてたまるか！刑事さん、ここはデュエルでケリを付けましょう。私が勝てば見逃してもらいます。負ければこれまでの取材の成果をお渡しして捜査に協力しましょう。これでどうですか！！」
「手を引く、という選択肢は無いのか…？」
「ありませんとも！！」

この強情な女はあくまでもこの事件を追いかけるつもりのようだ。

「そも、俺がこのデュエルを受けるメリットが無いだろう…　どちらにせよお前が手を引かないならばな」
「情報！結構いい情報仕入れてますから！だから見捨てないでー！！」
「くそ、公務執行妨害で逮捕してやりてえ。だがそんな事したらマスコミに言論弾圧だって言われるのが落ちだ。仕方がないな…　デッキとデュエルディスクを持ってきておいて良かったよ。国家権力の力、見せてやる。それで満足したら情報だけ置いてさっさと帰れ」
「言いましたね、言いましたね！？そちらこそ、ブンヤの底意地、舐めないでください！では」

「「デュエル！！」」