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第2話 マインド・ゲーム 作:とき
「ここは精神の空白の間… マインド・ゲームのピースが集う世界。俺の名はブライアン・レナード。マインド・ゲームのピ-スを導き、裁定するもの。いわばゲームマスターのような存在だ。繰り返す。清水優。お前は選ばれた。マインド・ゲームのピースに。逃れることは許されない。運命を受け入れろ」
ブライアン・レナードと名乗る謎の男との出会いと、マインド・ゲームという謎の何か。ゲームマスターとレナードは自称しているからにはゲームのようなものなのだろうか。そして運命とは。優は自分に起こった出来事の素っ頓狂さに困惑し、レナードを問い詰めるために声を上げるしかなかった。
「あなたは… 商店街で変な声をかけてきたスーツの男!さっきと同じこと言ってるけど、一体全体何なのよ!あなたと出会ってから、急に頭痛までしてきたし!」
「頭痛。それはお前のマインドがマインド・ゲームのピースとして直結した証だ。これからお前は、この町で開かれるマインド・ゲームの参加者となってもらう」
「マインド・ゲーム…?そんなの、勝手にやってれば。それに、人を勝手に変なところに連れてきて、拉致監禁もいいところよ、この変態め!」
「先程も言ったがここは精神の空白の間… マインド・ゲームのピースが集う世界だ。ここは世界の何処かであり、どこでもない存在。わかりやすく言えば精神世界といえばいいのか?お前たちの言葉では夢の世界とも言えるだろう。次に目覚めるときは、お前は元の世界の元の場所にいるだろう」
「そう、それを聞いて安心した。じゃあ私が目覚めれば、あなたの馬鹿げた世界も与太話もおしまいというわけ?」
「フフ、言ったろう、逃れることは許されない。運命を受け入れろと。お前がマインド・ゲームのピースであることは既に定まっている。ピース同士は惹かれ合う宿命を持っている。具体的に言うとピースたちは胸騒ぎで近くにいるピースの存在を把握する。逃げ出しても戦う術を知らずに他のピースたちに捕捉され、破滅の運命を辿るだけだ」
「つまり、あなたはどうあがいても私をこのマインド・ゲームという茶番に参加させたくて仕方ないわけだ。じゃあ聞くけど、私が運命以外にそのゲームに参加するメリットってのは、何かあるの?」
レナードは優の質問を聞くと、何か含みのある笑いを浮かべながらも、はっきりと言ってのけた。
「記憶操作。それも一人に限らず、のな」
その言葉に、優は心を動かされた。
「それは、マインド・ゲームの参加者、ピースっていうの?それに限らずとも?」
「人は誰しもマインド・ゲームのピースたる素因を持っている。その素因を伝えば高次存在である俺は人の記憶の書き換え程度造作でもない」
「それは、つまり…」
「ふむ、なるほどな。お前が考えている通り、複数人の自分に関する記憶を変化させることも、容易い」
「な…!?」
この男、自分の考えを今、読んだのだろうか。さらっと高次存在であるとか言っていたが、私の精神の中にもその素因というものを伝って潜り込んだのだろうか。
「自分を虐げてきた者たちへの復讐、か。ありきたりだが、悪くない願いだ」
「…人の願いを勝手に覗き見るなんて、最低」
「俺は裁定者だからな、ピースそれぞれの願いというのも把握している。そうだ、面白い願いがあるぞ?一人の親友がもう一度学校に行けるように、幅広い人間の記憶を操作したいという願いがな」
「他人の願いを勝手にバラすのも、裁定者としてどうなの」
「最低の裁定者だ、とでもいうか?俺はピースにやる気を出してもらわないと、円滑にゲームを進められなくなるんでな」
「そんなに私は上質なピース?」
「まさか。俺は全てのピースにこんな感じだ。多くのピースを裁定する以上、その扱いは平等でなければならない」
本当に食えない男だ、と優は思った。いや、大人の男性とここまで話すなんて父親以来だけど。男というのは、成熟するとこんな感じになるのだろうか。
「…それで、私は何をすればいいの?」
「どうやらマインド・ゲームに身を投じるつもりになったようだな」
「逃げても無駄と言われたら、やるしかない。それに、報酬に魅力がないわけでもないし…」
「遊戯王デュエルモンスターズは知っているな?マインド・ゲームのベースとなるのは、遊戯王デュエルモンスターズだ」
はあ?という声が一瞬出かかったが、必死に口を塞ぐ。そもそも、マインド・ゲームというからには何らかのゲームだろうとは考えていたが。
「マインド・ゲームの要領は簡単だ。ピース同士でデュエルを繰り返す。その繰り返しの中で最後に生き残ったものがマインド・ゲームの勝者になる」
「今流行りのバトルロワイヤル風ゲームみたいなものね」
「概ね間違ってはいない。とはいえ、一度のデュエルで敗北したからと言って終了ではない。マインド・ゲームの名前の通り、精神が擦り切れ、もう立ち上がれなくなったときがそのピースにとっての敗北だ」
「あんまりにも負けが込んでやってられなくなったら、あなたにタオルを投げ込めばいいと」
「…まあ、そんなところだ。そして、デュエル自体にも通常と異なる仕様が存在する。それに関しては、俺とチュートリアルデュエルといこうか。何、お前の記憶を介してこの空間にお前のデッキを再現するくらいはできる」
「チュートリアルデュエルね… デュエルなんていつ以来だろ」
小学校の頃は、晴海や他のクラスメートとデュエルを楽しんでいた記憶がある。しかし中学に上がってからは、デュエルを楽しむ相手がいなくなってしまった。晴海とも、中学に上がってからは迷惑をかけたくない一心で距離をとっていた。ましてや同じクラスにそんな相手など、いるわけもなく。
「お前のデッキだ。こんなもので間違いはないだろう?」
「…気持ち悪いくらいに再現されているのだけれど。本当にあなたは何者?」
「言っただろう、このマインド・ゲームの裁定者だと。ピースたちがどこで、どんなデッキを使い、戦っているか、その全てを俺は把握している」
「既に参加している人もいるってわけ?私のように後から参加する人と並べたら、不公平じゃない?」
「くじ引きの確率の理論は… 中学生のお前にはまだ早いか?誰がどの順番で引いても、当たる確率は等しいというものだ。このゲームもそういうようにできている」
「聞いたことくらいはある。後出しだと既に勝ち抜いている強力なピースと当たるかもしれないから?」
「さあ、そこは想像におまかせしよう。さて、残る伝えるべき内容はデュエルの中で伝える。同時にお前の力を見極めさせてもらう」
「あいも変わらず偉そうに…!その鼻、へし折ってやりたい」
「折れるほどの鼻も持っていないがね。さて、デュエルを始めようか」
レナードが指を鳴らすと、玉座と優との間に巨大な石机がせり上がってきた。
「それではデュエルを開始する。なお、石机の上を見ればわかるが、マインド・ゲームだからといって基本ルールは変わらない。新マスタールールを採用し、LPは8000点から始まる。現実のデュエルに近ければ近いほど、お前たちもやりやすいだろうしな。さあ、先攻は譲ろう」
絶対に鼻を明かしてやる。優は鼻息を荒くすると、石机の前に立つのであった。
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