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7話 凶悪な力 作:19
ヤマト&クレアに敗れたイズとイット。基地である大きな廃墟に戻ると、待っていたのは鋭い眼光だった。
瓦礫の山にドンと座る大牙は葉巻をふかしながら待っていた。
大牙「…失敗したのか」
イット「は、はい…でも!」
大牙「…」
「女一人を倒し、もう一人の天使も追い詰めた」と言おうとしたイットは押し黙った。見る物すべてを畏怖させる目つき、オーラが二人にダラダラと冷や汗を掻かせる。
イズ「もう一度…俺達にチャンスをください!相手の戦術は分かったんです!かならず勝ってみせます!そして奴らのレアカードを…」
大牙「そうか…じゃあ行ってもらおうか…。 俺とのデュエルに勝って、行けるんなら…だ」
真っ黒なディスクを構え、禍々しいプレッシャーを放つ大牙はゆっくりと瓦礫の山を下りる。
イズ「そ、そんな…大牙様に勝てるとは到底思えないですよ!」
大牙「お前には選択肢が二つある…。一つはここで一方的に喰われるか。抵抗して喰われるかのどっちかだ。選べ」
イット「…やってやりますよ…」
イズ「お、おい…」
それまでイズに肩を支えられていたイットは一人で歩き、ディスクを構える。
イット「臆病なお前は逃げるなり見るなりしてればいいさ!俺は…あの生意気な天使を潰す!」
大牙「そうか…。じゃあ、デュエルだ」
イット「アンタの戦術はもう知ってる…俺の勝利は確実だ!」
大牙 LP8000 手札5
イット LP8000 手札5
大牙「俺のターン…」
5枚のカード。大牙の持つカード一枚一枚が薄らと邪悪な気を纏っている。大牙の持つすべてのカードが悪魔のカードと化してしまっているようだ。
大牙「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」
大牙 LP8000 手札3
場
セット魔法罠カード×2
イット「へっ、手札事故か…ドロー!…ライフを2000ポイント払って、手札から『戯曲魔神・ドラマドーラ』を召喚!」
イット LP8000 → 6000
戯曲魔神・ドラマドーラ 星4 攻撃力1700
ケタケタと笑う不気味なピエロが召喚される。その効果で何度もヤマトとクレアを苦しめた危険なモンスターだ。
大牙「お前がモンスターを召喚した時、リバースカードを発動だ。罠カード『飢餓の強襲』。俺のライフを1000ポイント払い発動する。相手が召喚したモンスターの攻撃力よりも高い攻撃力を持つ『ファングリート』モンスター1体を通常召喚扱いで手札から特殊召喚する。喰われろ、雑魚魔導師…」
大牙 LP8000 → 7000
発動された罠カードからモンスターが飛び出し、ドラマドーラに不意打ちで噛みつく。ライオンの姿をしたそのモンスターはドラマドーラを破壊すると、身をひるがえして大牙のフィールドに戻っていった。
ファングリート・レオン ☆4 攻撃力1900
イット「こんなにアッサリ…。ばかな…、そ、そうだ!アンタ…前はフルモンデッキだったじゃないか!」
大牙「俺が前のターンでセットしたことを警戒しなかったお前が悪い。続けないのか?サレンダーでもするか?」
イット「じょ、冗談じゃねえ!カードを3枚伏せて、ターンエンドだ!」
イット LP6000 手札2
場
セット魔法罠カード×3
大牙「俺のターン、ドローだ」
カードに纏わりつくオーラが徐々に黒くなっていく。大牙の力が増してきている証拠だ。
大牙「バトルだ。『ファングリート・レオン』でダイレクトアタック!」
イット「(ちぃ、今伏せてるカードは全部、場のドラマドーラをサポートするためのカード…いきなりの破壊は規格外だ!) うぐあああぁぁぁあ!!!」
イット LP6000 → 4100
突撃してきたファングリート・レオンに腕を噛まれる。悪魔の力によって痛みが実際に伴うデュエルで、イットは断末魔にも聞こえる叫び声をあげる。
大牙「メインフェイズ2…。リバースカードオープン。魔法カード『飢餓の循環』発動。ライフを払って召喚されたモンスターが俺の場に存在する時、そのモンスター1体を破壊して、デッキからカードを2枚ドローする。『ファングリート・レオン』を破壊だ」
カードからトラバサミのような牙のついた輪が出現し『ファングリート・レオン』に噛みついた。レオンは消滅し、大牙はカードを2枚手札に加える。
5枚に戻った大牙の手札。ドローしたカードを見て、大牙はすぐに発動した。
大牙「魔法カード『バトル・ボム』を発動。俺の手札を全て捨てる…。次に、お前がバトルフェイズを宣言した時。俺が今捨てた手札の枚数一枚につき600ポイントのダメージを与える。俺が捨てた枚数は4枚…。つまり2400ポイントのダメージだ」
イット「2400…!?1900でさえあれだけの激痛だったのに…!」
大牙「さらに、墓地に存在する『ファングリート・クロート』の効果発動。俺のライフを600ポイント払うことでクロート以外の墓地の『ファングリート』モンスター1体を手札に加える。『ファングリート・ヒロナ』を回収」
大牙 LP7000 → 6400
現れたのはモグラの幻影。大牙の墓地に入り込み、指定されたカードが取り出される。
大牙「俺はターンエンドだ」
大牙 LP6400 手札1
場
なし
イット「俺のターン…ドロー!…俺は手札から魔法カード『戯曲魔神のレポート』発動!俺の場にモンスターが存在しない時、デッキ・墓地に存在する『戯曲魔神・ドラマドーラ』1体を選択して手札に加える! そして、ライフを2000払って『戯曲魔神・ドラマドーラ』を召喚!」
イット LP4100 → 2100
戯曲魔神・ドラマドーラ ☆4 攻撃力1700
墓地のドラマドーラを回収し、召喚する。しかしその召喚は大きな間違いだった。
大牙「分かってるのか?『バトル・ボム』の効果で…お前は攻撃宣言と同時に2400のダメージを受ける」
イット「忘れるわけないだろ…リバースカードオープン!永続罠『戯曲魔神への報酬』発動!このカードが発動されている限り、自分のメインフェイズ終了時に俺の場に『戯曲魔神・ドラマドーラ』が存在していれば、俺は1000ポイントライフを回復する!」
イズ「なるほど、ライフが3100になればバトル・ボムの効果でダメージを受けても残る。そして返しの戦闘じゃドラマドーラはほぼ無敵。さらに次のターンでも報酬の効果でライフを回復するのか…」
大牙「いいだろう。かかってこい」
イズ「バトル!」
その宣言が引き金となり、発動されていた『バトル・ボム』の効果が起動する。捨てた枚数分の爆弾がイットの周りに出現して爆発、イットをボロボロにしながら吹き飛ばした。
イット LP2100 → 3100 → 700
イット「うぐぁ…。ぎ、『戯曲魔神・ドラマドーラ』で…攻撃!」
イットの苦悶の攻撃宣言。ドラマドーラは相変わらずの不気味な笑いとともに、大牙と自分を挟むように丸鏡を作り出す。
大牙「ふん…。手札の『ファングリート・ヒロナ』の効果発動。コイツを手札からデッキに戻すことで、相手モンスター1体の攻撃を無効にし、攻撃したモンスターの守備力分のダメージを与える。ドラマドーラの守備力は1300。終わりだ」
イット「!? ドラマドーラ!攻撃を止めろぉ!」
叫ぶ。しかしもう遅い。ドラマドーラの攻撃を止めた亀、『ファングリート・ヒロナ』がドラマドーラに噛みつき、消滅する。同時にイットのライフも0になり、その場に倒れた。
イット LP700 → 0
勝者:大牙
大牙「ふん…こんなモノか…」
イズ「…」
大牙「お前はどうする?逃げるか?俺とデュエルするか?」
イズ「お、俺は…」
振るえる。恐ろしくて震えることしかできない。堪えようとしているのに歯がカチカチと鳴って止まない。
大牙「…どっちでもいい。俺は今からカード狩りに行ってくる。…コイツのカードも奪っとくか。どうせもう起き上がることもないだろ」
倒れているイットのディスクからデッキを抜き出し、『戯曲魔神・ドラマドーラ』のカードを1枚抜き取る。残りのカードをその場に捨て、大牙は去っていった。
イズ「(イット…。く、俺が情けないばっかりに…。でも、しかないじゃないか。あんなのとデュエルして…勝てる保証なんて…)」
その場にへたり込み息を整えるイズは、助かった命と失った仲間に泣いていた。
クレア「ん…?」
アオヒサ「クレアちゃん!よかった、ヤマト!クレアちゃん起きたぞ!」
目が覚めるとアオヒサの家に戻っていた。どうやら気絶してたみたい。
ヤマト「クレア、良かった…。傷の方は大丈夫?」
ヤマトが心配そうな表情で見つめてくる。心配ないと伝えて半身を起き上がらせる。
ヤマト「そう、なら安心した」
アオヒサ「アイツら強かったしな…。俺がデュエルしてれば、クレアちゃんがこんなことにならずに済んだのに…」
クレア「デュエルは何が起こるかわからないわ。アナタだって負けてたかもしれないし…でも、次にデュエルすることがあったら、お願いね」
アオヒサ「おうよ!」
クレアを介抱するアオヒサは彼女を椅子に座らせて朝食を取る。あの戦いからもう一日が経っているのだ。
アオヒサ「今日は目玉焼きだぜ。結構あるんだ」
そう言って出された目玉焼きとソーセージ。白米とトマトもある。天使であるヤマトは目をキラキラさせながら地上の食べ物を眺める。
ヤマト「目玉焼き!一回食べてみたかったんだ!ありがとうアオヒサさん!」
手を合わせたヤマトは真っ先に目玉焼きに箸を伸ばす。しかしアオヒサはそれを止めた。
アオヒサ「まてヤマト。コイツをかけてみるんだ」
ヤマト「この黒い液体は…?」
クレア「醤油ね。目玉焼きには合うらしいけど…私はコショウの方が好きよ」
ヤマト「コショウ?」
クレアがテーブルから取った粉の入った瓶。それをパッパと目玉焼きに掛けて食べた。
アオヒサは醤油をかけて食べている。二つの調味料…、悩んでしまう。
ヤマト「うーん…どっちにしよう。どっちも美味しそうなんだけどなぁ…」
ヤマト「うぅ…折角の目玉焼きだったのに」
街中を散策するヤマトは未だに落ち込んでいた。
クレア「両方いっぺんにかけるからよ。次は片方だけにしなさい」
ヤマト「うん」
仲睦まじい二人についていくアオヒサは、建物の隙間、路地裏に通じる細い道から何者かの視線を感じた。
アオヒサ「?」
イズ「…」
アオヒサ「(あ、アイツは…!)」
赤い髪、迷彩柄のズボンに黒の服…。間違いない。昨日ヤマトとクレアを襲ったFTの一人、イズだ。
目が合ったイズはスッと路地裏に消えた。それを追ってアオヒサも走る。
アオヒサ「(待ち伏せか。アイツらのコンビネーションはクレアちゃんのデッキとは相性が悪い。それに、ヤマトだって昨日のデュエルで戦術はバレテる。なら俺が行くしかない!」
突然走り出したアオヒサにクレアが呼びかけたが、「すぐに戻る」とだけ言って走り去ってしまった。
クレア「どうしたのかしら…」
ヤマト「さぁ…?」
路地裏に入ったアオヒサはデュエルディスクを構え叫ぶ。
アオヒサ「出てこいピエロ野郎!今度は俺が相手になってやる!」
イズ「ここだよ」
非常階段の一番上に居たイズは、柵を難なく飛び越え、数メートルの高さから綺麗に着地してディスクを装着した。
イズ「…」
アオヒサ「今日は相方さんはお休みかよ」
イズ「…アイツは、死んだよ…大牙に殺された!」
カードを5枚手札にしたイズが言う。
アオヒサ LP8000 手札5
イズ LP8000 手札5
アオヒサ「な、アイツが死んだ!?」
イズ「そうだ。お前達に負けたせいで…あの人がいる限り俺達は捕まらない。でも、命の保証はない…!『戯曲師・マドーラ』を召喚!」
戯曲師・マドーラ ☆2 攻撃力100
イズ「カードを2枚セットしてターンエンドだ!」
イズ LP8000 手札2
場
戯曲師・マドーラ ☆2 攻撃力100
セット魔法罠カード×2
イズ「俺達に失敗は許されない…逃げたとしても、俺達と同じFTがどこまでも追ってくる。死にたくないから、お前達からレアカードを奪うしかないんだ!俺が生き残るにはそれしかないんだ!」
アオヒサ「そういうことか…でもよ。俺だってアイツ(大牙)の元から生きて帰ってこれたんだ。せっかく長引いた命、ここで終わらせる訳にはいかねえんだよ!アイツらの為にも! ドロー!」
生き延びる為のデュエルが始まった。イズの生き延びたいという思い、アオヒサの仲間を手助けしたいという思い…。
アオヒサ「俺は手札からフィールド魔法『ワンスワールド』を発動!このカードが発動されている限り、俺のコントロールする『ハント』モンスターは攻撃力が400ポイントアップする。さらに、俺が『ハント』モンスターを召喚する度にこのカードにハントカウンターを一つ置くぜ!」
薄暗い路地裏の広間は真っ青な海底へと変化し、二人を包み込む。空から注ぐ光は眩しく、互いのデュエルディスクに反射した。
イズ「フィールド魔法か…」
アオヒサ「そうだ。俺のモンスター達は『ワンスワールド』が発動されていなければ破壊されてしまうからな。一気に決めさせてもらうぜ…!俺は手札から『カンブリアバースト』を発動!!」
カンブリアバースト。ヤマトにも使ったカードの一つで、手札から『ハント』モンスターを通常召喚扱いで3体も召喚する魔法カードだ。
アオヒサ「俺の手札に存在する『ハント・フルディア』『ハント・ハベリア』『ハント・パンデリオン』を通常召喚!」
ハント・フルディア ☆7 攻撃力1900 → 2300
ハント・ハベリア ☆6 攻撃力1500 → 1900
ハント・パンデリオン ☆7 攻撃力2100 → 2500
イズ「一気に3体のモンスターを召喚だと…!?」
アオヒサ「俺の場に『ハント』モンスターが召喚されたことによって、『ワンスワールド』に三つのハントカウンターが置かれる。バトルだ!『ハント・フルディア』で『戯曲師・マドーラ』に攻撃!」
イズ「させない!リバースカードオープン!永続罠『パンドラステージ』発動!俺の場に『戯曲魔神・ドラマドーラ』が存在する場合、攻撃力2000以上の相手モンスターの攻撃を無効にする!」
眼を赤く光らせたフルディアが水中をものすごい速度で泳ぎ、マドーラに攻撃を仕掛ける。しかし、地面から現れた大きなステージがマドーラを持ち上げ、そのステージの出現によってフルディアの攻撃が中止させられた。
アオヒサ「お前の場にドラマドーラはいない筈…まさか!」
イズ「そうだ、『戯曲師・マドーラ』は、相手の場にモンスターが2体以上存在する場合、『戯曲魔神・ドラマドーラ』としても扱う!」
アオヒサ「ちっ…。俺はターンエンドだ」
アオヒサ LP8000 手札1
場
ハント・フルディア ☆7 攻撃力2300
ハント・ハベリア ☆6 攻撃力1900
ハント・パンデリオン ☆7 攻撃力2500
魔 ワンスワールド ●×3
イズ「ドロー! 『パンドラステージ』の効果により、俺はスタンバイフェイズごとに500ポイントのライフを払わなければならない」
イズ LP8000 → 7500
イズ「バトル!『戯曲師・マドーラ』で『ハント・パンデリオン』を攻撃!そしてマドーラの効果発動! このモンスターが攻撃する場合、相手モンスターの攻撃力と、マドーラの攻撃力を入れ替える!《フールトリック》」
戯曲師・マドーラ(戯曲魔神・ドラマドーラ) 攻撃力100 → 2500
ハント・パンデリオン 攻撃力2500 → 100
アオヒサ「何!? うぐぅぅ!」
アオヒサ LP8000 → 5600
マドーラがパンデリオンの後ろに出現させた鏡からもう1体のパンデリオンが出現し、本物のパンデリオンを捕食した。
イズ「よし…!俺はこのままターンエンドだ!」
イズ LP7500 手札3
場
戯曲師・マドーラ ☆2 攻撃力100
罠 パンドラステージ
セット魔法罠カード×1
アオヒサ「…やっぱ戯曲魔神って強いな…だけどよ、俺の方がもっと強いってことを見せてやる!ドローォ!」
カードを引いたアオヒサは、そのカードを見て勝利を確信する。
アオヒサ「俺は、『ハント・フルディア』『ハント・ハベリア』をリリース!」
2体のモンスターは光の玉となって消滅した。そして、最上級モンスターがフィールドに召喚される。
アオヒサ「超太古の頂点の捕食者…『ハント・カリスリヴ』!!」
ハント・カリスリヴ ☆9 攻撃力2900
巨体を遊泳させながら出現した太古の王。その姿にイズも身構え、アオヒサはバトルを宣言する。
アオヒサ「バトルだ!『ハント・カリスリヴ』で『戯曲師・マドーラ』を攻撃!《ディープ・ハンティング》!」
イズ「忘れたか!『パンドラステージ』の効果で、攻撃力2000以上のモンスターは攻撃できない!」
アオヒサ「だからよ、コイツだ!速攻魔法『サイクロン』発動! 効果は知ってるだろ!?お前の『パンドラステージ』を破壊だ!」
汎用性のあるカード。ハントモンスターは攻撃力こそ高いが、相手の魔法・罠に対する耐性を持ち合わせていない。それを見越してデッキに投入された速攻魔法は、見事にイズの永続罠を破壊した。
カリスリヴは目を真っ赤に光らせ、怯える戯曲師を捕食した。
イズ「くっ!うぐぅぅ!」
イズ LP7500 → 5700
アオヒサ「俺はこのままターンエンドだ。かかってこいよ…!」
瓦礫の山にドンと座る大牙は葉巻をふかしながら待っていた。
大牙「…失敗したのか」
イット「は、はい…でも!」
大牙「…」
「女一人を倒し、もう一人の天使も追い詰めた」と言おうとしたイットは押し黙った。見る物すべてを畏怖させる目つき、オーラが二人にダラダラと冷や汗を掻かせる。
イズ「もう一度…俺達にチャンスをください!相手の戦術は分かったんです!かならず勝ってみせます!そして奴らのレアカードを…」
大牙「そうか…じゃあ行ってもらおうか…。 俺とのデュエルに勝って、行けるんなら…だ」
真っ黒なディスクを構え、禍々しいプレッシャーを放つ大牙はゆっくりと瓦礫の山を下りる。
イズ「そ、そんな…大牙様に勝てるとは到底思えないですよ!」
大牙「お前には選択肢が二つある…。一つはここで一方的に喰われるか。抵抗して喰われるかのどっちかだ。選べ」
イット「…やってやりますよ…」
イズ「お、おい…」
それまでイズに肩を支えられていたイットは一人で歩き、ディスクを構える。
イット「臆病なお前は逃げるなり見るなりしてればいいさ!俺は…あの生意気な天使を潰す!」
大牙「そうか…。じゃあ、デュエルだ」
イット「アンタの戦術はもう知ってる…俺の勝利は確実だ!」
大牙 LP8000 手札5
イット LP8000 手札5
大牙「俺のターン…」
5枚のカード。大牙の持つカード一枚一枚が薄らと邪悪な気を纏っている。大牙の持つすべてのカードが悪魔のカードと化してしまっているようだ。
大牙「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」
大牙 LP8000 手札3
場
セット魔法罠カード×2
イット「へっ、手札事故か…ドロー!…ライフを2000ポイント払って、手札から『戯曲魔神・ドラマドーラ』を召喚!」
イット LP8000 → 6000
戯曲魔神・ドラマドーラ 星4 攻撃力1700
ケタケタと笑う不気味なピエロが召喚される。その効果で何度もヤマトとクレアを苦しめた危険なモンスターだ。
大牙「お前がモンスターを召喚した時、リバースカードを発動だ。罠カード『飢餓の強襲』。俺のライフを1000ポイント払い発動する。相手が召喚したモンスターの攻撃力よりも高い攻撃力を持つ『ファングリート』モンスター1体を通常召喚扱いで手札から特殊召喚する。喰われろ、雑魚魔導師…」
大牙 LP8000 → 7000
発動された罠カードからモンスターが飛び出し、ドラマドーラに不意打ちで噛みつく。ライオンの姿をしたそのモンスターはドラマドーラを破壊すると、身をひるがえして大牙のフィールドに戻っていった。
ファングリート・レオン ☆4 攻撃力1900
イット「こんなにアッサリ…。ばかな…、そ、そうだ!アンタ…前はフルモンデッキだったじゃないか!」
大牙「俺が前のターンでセットしたことを警戒しなかったお前が悪い。続けないのか?サレンダーでもするか?」
イット「じょ、冗談じゃねえ!カードを3枚伏せて、ターンエンドだ!」
イット LP6000 手札2
場
セット魔法罠カード×3
大牙「俺のターン、ドローだ」
カードに纏わりつくオーラが徐々に黒くなっていく。大牙の力が増してきている証拠だ。
大牙「バトルだ。『ファングリート・レオン』でダイレクトアタック!」
イット「(ちぃ、今伏せてるカードは全部、場のドラマドーラをサポートするためのカード…いきなりの破壊は規格外だ!) うぐあああぁぁぁあ!!!」
イット LP6000 → 4100
突撃してきたファングリート・レオンに腕を噛まれる。悪魔の力によって痛みが実際に伴うデュエルで、イットは断末魔にも聞こえる叫び声をあげる。
大牙「メインフェイズ2…。リバースカードオープン。魔法カード『飢餓の循環』発動。ライフを払って召喚されたモンスターが俺の場に存在する時、そのモンスター1体を破壊して、デッキからカードを2枚ドローする。『ファングリート・レオン』を破壊だ」
カードからトラバサミのような牙のついた輪が出現し『ファングリート・レオン』に噛みついた。レオンは消滅し、大牙はカードを2枚手札に加える。
5枚に戻った大牙の手札。ドローしたカードを見て、大牙はすぐに発動した。
大牙「魔法カード『バトル・ボム』を発動。俺の手札を全て捨てる…。次に、お前がバトルフェイズを宣言した時。俺が今捨てた手札の枚数一枚につき600ポイントのダメージを与える。俺が捨てた枚数は4枚…。つまり2400ポイントのダメージだ」
イット「2400…!?1900でさえあれだけの激痛だったのに…!」
大牙「さらに、墓地に存在する『ファングリート・クロート』の効果発動。俺のライフを600ポイント払うことでクロート以外の墓地の『ファングリート』モンスター1体を手札に加える。『ファングリート・ヒロナ』を回収」
大牙 LP7000 → 6400
現れたのはモグラの幻影。大牙の墓地に入り込み、指定されたカードが取り出される。
大牙「俺はターンエンドだ」
大牙 LP6400 手札1
場
なし
イット「俺のターン…ドロー!…俺は手札から魔法カード『戯曲魔神のレポート』発動!俺の場にモンスターが存在しない時、デッキ・墓地に存在する『戯曲魔神・ドラマドーラ』1体を選択して手札に加える! そして、ライフを2000払って『戯曲魔神・ドラマドーラ』を召喚!」
イット LP4100 → 2100
戯曲魔神・ドラマドーラ ☆4 攻撃力1700
墓地のドラマドーラを回収し、召喚する。しかしその召喚は大きな間違いだった。
大牙「分かってるのか?『バトル・ボム』の効果で…お前は攻撃宣言と同時に2400のダメージを受ける」
イット「忘れるわけないだろ…リバースカードオープン!永続罠『戯曲魔神への報酬』発動!このカードが発動されている限り、自分のメインフェイズ終了時に俺の場に『戯曲魔神・ドラマドーラ』が存在していれば、俺は1000ポイントライフを回復する!」
イズ「なるほど、ライフが3100になればバトル・ボムの効果でダメージを受けても残る。そして返しの戦闘じゃドラマドーラはほぼ無敵。さらに次のターンでも報酬の効果でライフを回復するのか…」
大牙「いいだろう。かかってこい」
イズ「バトル!」
その宣言が引き金となり、発動されていた『バトル・ボム』の効果が起動する。捨てた枚数分の爆弾がイットの周りに出現して爆発、イットをボロボロにしながら吹き飛ばした。
イット LP2100 → 3100 → 700
イット「うぐぁ…。ぎ、『戯曲魔神・ドラマドーラ』で…攻撃!」
イットの苦悶の攻撃宣言。ドラマドーラは相変わらずの不気味な笑いとともに、大牙と自分を挟むように丸鏡を作り出す。
大牙「ふん…。手札の『ファングリート・ヒロナ』の効果発動。コイツを手札からデッキに戻すことで、相手モンスター1体の攻撃を無効にし、攻撃したモンスターの守備力分のダメージを与える。ドラマドーラの守備力は1300。終わりだ」
イット「!? ドラマドーラ!攻撃を止めろぉ!」
叫ぶ。しかしもう遅い。ドラマドーラの攻撃を止めた亀、『ファングリート・ヒロナ』がドラマドーラに噛みつき、消滅する。同時にイットのライフも0になり、その場に倒れた。
イット LP700 → 0
勝者:大牙
大牙「ふん…こんなモノか…」
イズ「…」
大牙「お前はどうする?逃げるか?俺とデュエルするか?」
イズ「お、俺は…」
振るえる。恐ろしくて震えることしかできない。堪えようとしているのに歯がカチカチと鳴って止まない。
大牙「…どっちでもいい。俺は今からカード狩りに行ってくる。…コイツのカードも奪っとくか。どうせもう起き上がることもないだろ」
倒れているイットのディスクからデッキを抜き出し、『戯曲魔神・ドラマドーラ』のカードを1枚抜き取る。残りのカードをその場に捨て、大牙は去っていった。
イズ「(イット…。く、俺が情けないばっかりに…。でも、しかないじゃないか。あんなのとデュエルして…勝てる保証なんて…)」
その場にへたり込み息を整えるイズは、助かった命と失った仲間に泣いていた。
クレア「ん…?」
アオヒサ「クレアちゃん!よかった、ヤマト!クレアちゃん起きたぞ!」
目が覚めるとアオヒサの家に戻っていた。どうやら気絶してたみたい。
ヤマト「クレア、良かった…。傷の方は大丈夫?」
ヤマトが心配そうな表情で見つめてくる。心配ないと伝えて半身を起き上がらせる。
ヤマト「そう、なら安心した」
アオヒサ「アイツら強かったしな…。俺がデュエルしてれば、クレアちゃんがこんなことにならずに済んだのに…」
クレア「デュエルは何が起こるかわからないわ。アナタだって負けてたかもしれないし…でも、次にデュエルすることがあったら、お願いね」
アオヒサ「おうよ!」
クレアを介抱するアオヒサは彼女を椅子に座らせて朝食を取る。あの戦いからもう一日が経っているのだ。
アオヒサ「今日は目玉焼きだぜ。結構あるんだ」
そう言って出された目玉焼きとソーセージ。白米とトマトもある。天使であるヤマトは目をキラキラさせながら地上の食べ物を眺める。
ヤマト「目玉焼き!一回食べてみたかったんだ!ありがとうアオヒサさん!」
手を合わせたヤマトは真っ先に目玉焼きに箸を伸ばす。しかしアオヒサはそれを止めた。
アオヒサ「まてヤマト。コイツをかけてみるんだ」
ヤマト「この黒い液体は…?」
クレア「醤油ね。目玉焼きには合うらしいけど…私はコショウの方が好きよ」
ヤマト「コショウ?」
クレアがテーブルから取った粉の入った瓶。それをパッパと目玉焼きに掛けて食べた。
アオヒサは醤油をかけて食べている。二つの調味料…、悩んでしまう。
ヤマト「うーん…どっちにしよう。どっちも美味しそうなんだけどなぁ…」
ヤマト「うぅ…折角の目玉焼きだったのに」
街中を散策するヤマトは未だに落ち込んでいた。
クレア「両方いっぺんにかけるからよ。次は片方だけにしなさい」
ヤマト「うん」
仲睦まじい二人についていくアオヒサは、建物の隙間、路地裏に通じる細い道から何者かの視線を感じた。
アオヒサ「?」
イズ「…」
アオヒサ「(あ、アイツは…!)」
赤い髪、迷彩柄のズボンに黒の服…。間違いない。昨日ヤマトとクレアを襲ったFTの一人、イズだ。
目が合ったイズはスッと路地裏に消えた。それを追ってアオヒサも走る。
アオヒサ「(待ち伏せか。アイツらのコンビネーションはクレアちゃんのデッキとは相性が悪い。それに、ヤマトだって昨日のデュエルで戦術はバレテる。なら俺が行くしかない!」
突然走り出したアオヒサにクレアが呼びかけたが、「すぐに戻る」とだけ言って走り去ってしまった。
クレア「どうしたのかしら…」
ヤマト「さぁ…?」
路地裏に入ったアオヒサはデュエルディスクを構え叫ぶ。
アオヒサ「出てこいピエロ野郎!今度は俺が相手になってやる!」
イズ「ここだよ」
非常階段の一番上に居たイズは、柵を難なく飛び越え、数メートルの高さから綺麗に着地してディスクを装着した。
イズ「…」
アオヒサ「今日は相方さんはお休みかよ」
イズ「…アイツは、死んだよ…大牙に殺された!」
カードを5枚手札にしたイズが言う。
アオヒサ LP8000 手札5
イズ LP8000 手札5
アオヒサ「な、アイツが死んだ!?」
イズ「そうだ。お前達に負けたせいで…あの人がいる限り俺達は捕まらない。でも、命の保証はない…!『戯曲師・マドーラ』を召喚!」
戯曲師・マドーラ ☆2 攻撃力100
イズ「カードを2枚セットしてターンエンドだ!」
イズ LP8000 手札2
場
戯曲師・マドーラ ☆2 攻撃力100
セット魔法罠カード×2
イズ「俺達に失敗は許されない…逃げたとしても、俺達と同じFTがどこまでも追ってくる。死にたくないから、お前達からレアカードを奪うしかないんだ!俺が生き残るにはそれしかないんだ!」
アオヒサ「そういうことか…でもよ。俺だってアイツ(大牙)の元から生きて帰ってこれたんだ。せっかく長引いた命、ここで終わらせる訳にはいかねえんだよ!アイツらの為にも! ドロー!」
生き延びる為のデュエルが始まった。イズの生き延びたいという思い、アオヒサの仲間を手助けしたいという思い…。
アオヒサ「俺は手札からフィールド魔法『ワンスワールド』を発動!このカードが発動されている限り、俺のコントロールする『ハント』モンスターは攻撃力が400ポイントアップする。さらに、俺が『ハント』モンスターを召喚する度にこのカードにハントカウンターを一つ置くぜ!」
薄暗い路地裏の広間は真っ青な海底へと変化し、二人を包み込む。空から注ぐ光は眩しく、互いのデュエルディスクに反射した。
イズ「フィールド魔法か…」
アオヒサ「そうだ。俺のモンスター達は『ワンスワールド』が発動されていなければ破壊されてしまうからな。一気に決めさせてもらうぜ…!俺は手札から『カンブリアバースト』を発動!!」
カンブリアバースト。ヤマトにも使ったカードの一つで、手札から『ハント』モンスターを通常召喚扱いで3体も召喚する魔法カードだ。
アオヒサ「俺の手札に存在する『ハント・フルディア』『ハント・ハベリア』『ハント・パンデリオン』を通常召喚!」
ハント・フルディア ☆7 攻撃力1900 → 2300
ハント・ハベリア ☆6 攻撃力1500 → 1900
ハント・パンデリオン ☆7 攻撃力2100 → 2500
イズ「一気に3体のモンスターを召喚だと…!?」
アオヒサ「俺の場に『ハント』モンスターが召喚されたことによって、『ワンスワールド』に三つのハントカウンターが置かれる。バトルだ!『ハント・フルディア』で『戯曲師・マドーラ』に攻撃!」
イズ「させない!リバースカードオープン!永続罠『パンドラステージ』発動!俺の場に『戯曲魔神・ドラマドーラ』が存在する場合、攻撃力2000以上の相手モンスターの攻撃を無効にする!」
眼を赤く光らせたフルディアが水中をものすごい速度で泳ぎ、マドーラに攻撃を仕掛ける。しかし、地面から現れた大きなステージがマドーラを持ち上げ、そのステージの出現によってフルディアの攻撃が中止させられた。
アオヒサ「お前の場にドラマドーラはいない筈…まさか!」
イズ「そうだ、『戯曲師・マドーラ』は、相手の場にモンスターが2体以上存在する場合、『戯曲魔神・ドラマドーラ』としても扱う!」
アオヒサ「ちっ…。俺はターンエンドだ」
アオヒサ LP8000 手札1
場
ハント・フルディア ☆7 攻撃力2300
ハント・ハベリア ☆6 攻撃力1900
ハント・パンデリオン ☆7 攻撃力2500
魔 ワンスワールド ●×3
イズ「ドロー! 『パンドラステージ』の効果により、俺はスタンバイフェイズごとに500ポイントのライフを払わなければならない」
イズ LP8000 → 7500
イズ「バトル!『戯曲師・マドーラ』で『ハント・パンデリオン』を攻撃!そしてマドーラの効果発動! このモンスターが攻撃する場合、相手モンスターの攻撃力と、マドーラの攻撃力を入れ替える!《フールトリック》」
戯曲師・マドーラ(戯曲魔神・ドラマドーラ) 攻撃力100 → 2500
ハント・パンデリオン 攻撃力2500 → 100
アオヒサ「何!? うぐぅぅ!」
アオヒサ LP8000 → 5600
マドーラがパンデリオンの後ろに出現させた鏡からもう1体のパンデリオンが出現し、本物のパンデリオンを捕食した。
イズ「よし…!俺はこのままターンエンドだ!」
イズ LP7500 手札3
場
戯曲師・マドーラ ☆2 攻撃力100
罠 パンドラステージ
セット魔法罠カード×1
アオヒサ「…やっぱ戯曲魔神って強いな…だけどよ、俺の方がもっと強いってことを見せてやる!ドローォ!」
カードを引いたアオヒサは、そのカードを見て勝利を確信する。
アオヒサ「俺は、『ハント・フルディア』『ハント・ハベリア』をリリース!」
2体のモンスターは光の玉となって消滅した。そして、最上級モンスターがフィールドに召喚される。
アオヒサ「超太古の頂点の捕食者…『ハント・カリスリヴ』!!」
ハント・カリスリヴ ☆9 攻撃力2900
巨体を遊泳させながら出現した太古の王。その姿にイズも身構え、アオヒサはバトルを宣言する。
アオヒサ「バトルだ!『ハント・カリスリヴ』で『戯曲師・マドーラ』を攻撃!《ディープ・ハンティング》!」
イズ「忘れたか!『パンドラステージ』の効果で、攻撃力2000以上のモンスターは攻撃できない!」
アオヒサ「だからよ、コイツだ!速攻魔法『サイクロン』発動! 効果は知ってるだろ!?お前の『パンドラステージ』を破壊だ!」
汎用性のあるカード。ハントモンスターは攻撃力こそ高いが、相手の魔法・罠に対する耐性を持ち合わせていない。それを見越してデッキに投入された速攻魔法は、見事にイズの永続罠を破壊した。
カリスリヴは目を真っ赤に光らせ、怯える戯曲師を捕食した。
イズ「くっ!うぐぅぅ!」
イズ LP7500 → 5700
アオヒサ「俺はこのままターンエンドだ。かかってこいよ…!」
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とはいえイズのデッキは未知数、続きを楽しみにしています! (2015-05-03 22:42)