49話：亜人の少女、名は雷魔 波紋　作：ヒラーズ

しばらくして陸也の拠点の中古時計屋『ClockDefense』の客間。
運んできた少女をベッドに寝かせる。
陸也は「はぁー…」っと溜息を吐き、席に座る。
少ししてから海理も客間に入り、運んできた少女を見つめる。

「容態は？」
「特に異常はない…あるとすれば何故あんな路地裏の端で座り込んでいたのかが分からない」

陸也は頭を掻きながら考える。
何故、そこに居たのか。捨て子なら警察が黙っていないはず。
どう考えても、謎が深まるばかり。
その時だった。

ｸﾞｩｩｩ…

腹虫が鳴り響く、その音を聞いた海理と陸也はフッと笑い、部屋を出る。
その表情はまるで優しい姉弟のようだった。

「姉さんは客間で待っててくれ、俺が夕食を作ってくる」
その言葉に甘え、海理は肯定し、首を縦に振る。
陸也はキッチンに向かい、海理は少女の面倒を見ることにしたのだった。











あれから20分が経ち、海理は少しだけ寝かけた時、動きが見られた。
「う…ん？」

運ばれた少女が目覚めたのだった。辺りを見渡し、体を起こす。
少し目をこすり、海理を視認した。

「あの…ここは？」
「あっ！目を覚ましました？」
「わっ…わたしは…一体？」

海理は1度、少女を落ち着かせてから、今に至る事を話した。
少女は落ち着いた表情を保ったままだが、次第に表情が崩れる。
たぶん…お腹が減っているからだろう。それは海理でも確認できた。

「そう…でしたか…助けて頂きありがとうございます」
「良いですよ、困っているならお互い様です。お腹減ったでしょう？」

そう言ってると陸也が客間に入り、夕食を運んでくる。
メニューは海理のリクエスト通りの『ハヤシライス』。
よりよい香りと同時に食欲も湧く。陸也はテーブルに皿を並べ、手招きする。

「どうした？食べないのか？」
「良いんですか…？こんな見ず知らずの人に食事を取らせてくれるなんて…」
「別に怪しいものは入ってませんよ。ね？陸也」
（何か俺が悪者扱いされているのは気のせいか？）

少女はベッドから離れ、椅子に座り、テーブルに置いてあるスプーンを手に取る。

「…いただきます」
そう言ってちょっとしたお食事会が始まった。
最初は恐る恐るスプーンで具材をすくって口に入れる。
旨味が口の中に広がり、噛み締めていく次第に少女の表情が明るくなり、元気よく食べ始める。
「はははっ…、沢山喰え」
「子供は元気が1番ですね」

ガツガツと夕食を食べ、その数分後、食事会は終わりを迎える。
陸也は皿洗いに部屋を出る。海理は部屋に残り、少女と会話していることにしたのだった。
「いきなり聞いて失礼ですが、あなたの名は？」
「私の名…」

少女は少し黙り、拳を握った後、言葉を発した。
「雷魔…雷魔 波紋（ライマ ハモン）」
「雷魔さんですね、私は海理。今あなたに食事を提供してくれたのは弟の陸也」
「…姉弟だったんですね…」

少しずつ話していく内に僅かながら心を開けていっている雷魔は嬉しい表情になる。辺りは明るくなり、ガールズトークが起こる。その時、皿洗いを終えたのか陸也が再び客間に入った。
「お取り込み中失礼だったか？一応ノックはしたが」
「いえいえ、問題はありません」

雷魔はソファに座り、陸也が持って来たお茶を飲みながら話を聞く。
海理は雷魔の正面に座り、何故あんなところにいたのかを聞き出す。
「実は…」











「成る程、親が亡くなってお役御免になった事と言う訳か」
「はい…」
「ひどい人達ですね。何も追い出す必要もないのに…！」

海理は怒りかけるが、陸也がなだめる。種族を聞いたところ、彼女は人間ではなく「先史人間（アーティファクノイド）」と呼ばれおり、猫のような耳が特徴らしい。少しして落ち着きを取り戻した海理は雷魔にあることを話したのだった。
「なら、私達の所に居ます？」
「――――え」

海理は考えていた、この子は保護するべきだと。
このまま帰せばまた路上生活となるのではと考えてしまったのだった。
「そうだな、行く当てがないのだろう？ならここに居ても良いぞ」

どうやら陸也も同じ考えをしていたのか、すんなりと認めた。
「でも、それじゃあ…迷惑が…」
「店番をしてくれれば十分だ…っと言っても学校にいる時は放課後から店を開けるがな」
「さすが陸也、新人に容赦ない」

その言葉であははっ…と雷魔が笑い、明るくする。
「それじゃあ、よろしくお願いいたしますね。雷魔さん」
「…はい！」
（また姉さんに新しい友達ができたな…）












翌日、連休を終えた海理達はいつもの通り登校する。
魔奈達にもその事を言って盛り上がっていた。
「ほう、居候か」
「10歳くらいの女の子だろ？一人にさせて大丈夫なのか？」
「大丈夫です、陸也の方で手立てがあるらしいので」



その頃、ClockDefenceでは…
「よろしくお願いするね、雷魔さん」
「はい！よろしくお願いします！ハルさん！」

陸也が追放世界に連絡し、待機中のハルを呼び寄せたのだった。

それから放課後になり、海理達が店に入る。
後ろには魔奈、水樹、風花、巴がいた。
「あっ！魔奈さん達、久しぶりだね」
「ハル！カナダに帰ったんじゃなかったのか？」

魔奈達がハルや雷魔と会話している間に、海理と陸也は店を開店させる。
それに気づいたのか、魔奈達は客らしく、店内の時計を見つめた。
どれも興味深い品揃えで、よく目に止まるものばかり。
そんな時、水樹は星空色に輝くデジタル時計を見つめる。
「何だこの綺麗な時計は？」
「そいつは『星空時計』っていうものだ。普段じゃ見られないものだし、しかも新品だ」
「へぇぇ…じゃあ買おうかな。丁度今の目覚まし時計が壊れちまってな。いくらだ？」
（すごく高そうッスね…）

陸也は計算機を取り出し、ボタンを押す。
「ふむ…今は先客の割引も行ってるし、今なら50％OFFで2000円だ」
「安っ！！」

意外な値段に水樹は驚きの表情になった。
水樹自身の考えで3000円以上はしそうなものが想像以下の値段だったのだ。
これにつられ、魔奈はある腕時計に指をさした。
「この時計は？」
「これは『アーカム・クロック』ですね。外国の巨大都市『アーカム』で作られた腕時計です」

魔奈は「いくらだ？」と言ってサイフを取り出す。
しかし、海理の言った値段で魔奈は驚く羽目となった。
「普通は5万円ですが、今はOFFセールなので2万5000円ですね」
「は…半額だと！？」

少なくとも十何万もする腕時計が5万の半分で手引きされると言うこの商法。
魔奈は「すごいな」っと言って金を払い、買い取る。
それからしばらくして店は閉店。辺りは夜になりかけ、海理達はガラクタ置き場で作ったＤホイールで学生寮に戻る。