４話　♯１１「散策します・１」　作：tres

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「都会ですね」

彼女は駅を出て眼前に広がる光景を見て呟く。

「そうだな」

人々が行き交い、高層ビルを筆頭に建物が密集している。見たまんまの都会だ。

「まずは電気街の方でも行くか？」

「はい、行きましょう」



「豊富な品揃えですね」

２人は電化製品を見て回る。

「多すぎて迷うなこれ」

（まあ、こういうのはじっくり考えて買いてえよな。今のところ欲しい物も無いし）

赤石は一通り見終わった後、彼女の方へと目を向ける。

彼女も特に何か品物が欲しいというわけではなさそうだった。

「何か買う物あるか？」

「特にありません」

「違うフロアに行くか」

「はい、行きましょう」



「あ、この通りは」

「？」

赤石は途中、小さく呟く。

電気街から少し外れた位置にある通りの入口で足を止め、彼女に説明する。

「この先は結構マニアックというか…アニメとかゲームとか好きなら、まあ楽しめるとは思うが、どうする？」

赤石は彼女に問う、念のため。

「楽しめそうです。通りましょう」

「ああ」



「視線を感じますね」

「こういう場所でのこういう組み合わせは、珍しいんだろうよ。気にせず行くぞ」

「はい」

２人は度々、好奇の視線を向けられるも特に気にせず歩く。

そのまましばらく歩き、途中目に入ったゲームセンターに立ち寄った。



「懐かしいゲームも多いな」

広いスペースに様々なゲームの筐体が並べられている。

「わたし、ゲームは携帯電話のパズルゲームしかしたことがないんです」

彼女は興味深そうに様々なゲームの画面を見る。

「俺もゲームは一時期色々やってたけど、今はやってねえな」

店内を少し奥に進んだところで、彼女はひとつのゲームに注目する。

「あ、このゲーム面白そうです」

彼女が差したのはパズルゲーム。

「おおこれか。やってみるか？」

赤石はプレイしたことがあるようだ。

「はい。えっと…」

「ここにお金を入れて、あとはボタンで操作すればいい」

赤石はサイフから１００円を取り出し、筐体に入れる。

「ありがとうございます」

彼女はお礼を言って腰を下ろした。

（エンドレスモード。ハイスコア、目指します）



（中々うめえな、操作が覚束無いながらも器用にカバーしてやがる）

赤石は彼女のプレイ画面を見つめる。

そのまま１０分程過ぎ、

（おいおい、難しくなってるっつうのに）

彼女は慣れてきたのか、どんどんプレイングが安定していく。

（見てたら久々にやりたくなってきたな。あの頃は桜とよく対戦してたっけな）

「赤石先輩」

彼女はプレイしたまま赤石を呼ぶ。

「なんだ？」

「このゲームって対戦できるんですか？」

「ああ、出来るぞ。少し待ってな」

赤石はそう言い残し、彼女の対面にある筐体の前に腰を下ろす。

「俺が相手になっていいか？」

筐体の向こう側から彼女に確認する。

「はい。勝負しましょう」

「勝負か。どうせなら昼飯代でも賭けるか？」

「いいですね」

その言葉を聞いて赤石は１００円を投入した。

「ＯＫを押せば対戦開始だ」

「押しました」

画面が対戦モードに切り替わる。

（相手はさっき始めたばかりの初心者。だが実力は既に上級者級と言っていい。相手にとって不足は無しだ）

昼食代を賭けた勝負が始まった。



「おい、あれ見ろよ」
「あの女の子すげえうまくね？」
「ああ、かわいいな」
「画面見ろよ」
「あんなゲームだったっけ…」
「相手も割りとやべえぞ」

彼女と赤石の対戦は５分を経過、高レベルで拮抗しており、それに魅せられたのかギャラリーも続々と集ってくる。

（こんなに長い試合は初めてだ…！そろそろ仕掛けるか）

赤石は手の動きを速めた。手を抜いていたわけではなく、精度が落ちない程度の速度で操作していた。すなわちこれは自爆覚悟。

（わたしも、速めに）

彼女も手の動きを速める。

そして激戦の末に…



ーーー



「お待たせしました。ミネストローネとサラダ、オレッキエッテ・メランツァーネでございます」

「ありがとうございます」

（…何かの呪文か？都会のメシはすげえな）

赤石の知ってる店だが、赤石はあまりメニューを見ていないのでこういう反応になる。
ちなみに赤石が注文したのはスパゲッティ・ボロネーゼとパニーノ。

「赤石先輩」

「あ？」

「ごちそうになります」

赤石は仕方無いなといった感じで「ああ」と頷いた。



「おいしかったです」

注文された品々を食べ終えて彼女は赤石に小さく微笑みを見せる。

「それは良かった」

赤石も微笑みを見せた。

「赤石先輩」

「あ？」

「あの、デザートも、食べたいです。ティラミスとジェラート」

彼女は控えめにお願いする。

「おい、２つも食うのかよ」

「どっちも食べたいです。でも２つ分は食べきれません。なのではんぶんこ、しませんか？」

「…わかったよ、半分食ってやる」

「ありがとうございます」



彼女は美味しそうにデザートを頬張っている。

（…とてもこの後大金かけた勝負をする奴とは思えねえな）

プレッシャーを微塵も感じさせない表情に赤石は彼女の強さを再認識した。

（それにしても…）

「うまそうに食うな、口元緩みっ放しだ」

「ふふっ、おいしいです」

不意に見せた彼女の笑顔に赤石は一瞬ドキッとする。

「…そうか。何だその、笑った顔も良いな」

「…ありがとうございます」

赤石の発言に今度は彼女が数テンポ遅れて返答する。

（ちょっと、どきどきしました）

心なしか妙な空気が漂う中、しばしの静寂が訪れた。



「あー、そろそろ行くか？」

静寂を破ったのは赤石。デザートもお互い既に食べ終わっている。

「はい、行きましょう」

２人は店を後にした。