３話　♯９「その手捌きで」　作：tres

「《ゴブリン突撃部隊》を攻撃表示にするぜ」
《ゴブリン突撃部隊》表守→表攻

「《ゴブリン突撃部隊》でそっちのモンスターを攻撃！」
攻撃宣言　北林ＬＰ４２００ー５００＝３７００

「罠発動します」
罠発動　彼女ＬＰ６５００ー５００＝６０００

（けっ、邪神の大災害なんか痛くも痒くもねえぜ）

北林が自分の伏せた罠カードを墓地へ送ろうとした瞬間



「…はあ！？」

北林の手が止まり、驚きの声を上げる。

（停戦協定！？邪神の大災害じゃねえだと！？）

「効果で裏側守備のモンスターは表になります」

彼女は淡々と進め、セットされた２体のモンスターを表にした。

「…はあああ！？」
「何だこれ！？」
「マジかよ！？」

北林だけでなく、他の男子生徒も驚きの声を上げた。北林は目の前の光景をまだ信じられないというような感じで見つめる。



罠発動《停戦協定》
《人喰い虫》裏守→表守　　《機動砦のギア・ゴーレム》裏守→表守
北林ＬＰ３７００ー２５００＝１２００
《人喰い虫》戦闘破壊
《ゴブリン突撃部隊》効果　表攻→表守



「ど、どうなってるの…！？」

瑞希は小声で綾芽にきく。

「私もわからない…！」

綾芽も目の前の光景にただ困惑している。

どういうことか説明すると、『彼女の使うカードを見ていた』人たちが

《邪神の大災害》と思っていたカードが《停戦協定》で
《機動砦のギア・ゴーレム》と思っていたカードが《人喰い虫》で
《ステルスバード》と思っていたカードが《機動砦のギア・ゴーレム》だったということだ。



（くそっ！どうなってやがる！）

《停戦協定》ではモンスターの数は増減しないので巻き戻しは発生せず、《ゴブリン突撃部隊》の攻撃は続行。
北林が《機動砦のギア・ゴーレム》だと思って攻撃対象に選んだ《人喰い虫》はそのまま戦闘破壊
結局彼女の場に残ったもう１体のモンスターは《ステルスバード》ではなく《機動砦のギア・ゴーレム》だ。

（あいつら、しくじったか…？）

北林は見張りを睨み付けるが、見張りの位置からフィールドは彼女の影になっているため見えない。



「何かあいつこっち睨んでねえか？」

見張りの男子生徒がもう１人の見張りに問う。

「気のせいだろ」

もちろん見張りには中の様子が伝わっていないので、気のせいだということで処理される。



「まだ、あなたのバトルフェイズです」

気を逸らしている北林を彼女はデュエルへと戻す。

確かにまだ北林のバトルフェイズだが、もう出来ることは無い。

（まだ決まったわけじゃねえ…！）

「カードセット」

（ドレインシールドで回復出来れば、まだ望みはある！）

「エンド」



北林手札１枚　ＬＰ１２００
モンスター　３枚　　《ランス・リンドブルム》表攻　　《雷仙人》表攻　　《ゴブリン突撃部隊》表守
魔法罠　セット２枚

彼女手札２枚　ＬＰ６０００
モンスター　１枚　《機動砦のギア・ゴーレム》表守
魔法罠　０枚



彼女はドローする寸前、ふふっと微笑んだ。

「何笑ってんだよ」

北林があからさまに不機嫌な顔で言う。

「なんでもないです」

「ドロー、スタンバイ、メイン」

（やったミラーフォース！勝てる、勝てるよこのデュエル！）

瑞希の顔が途端に明るくなる。

「カードをセット、モンスターをセット」

北林はカードをセットする彼女の一連の動作を注視する。すり替えをしていないかどうか確かめるためだ。

（特に変わった動きは無えな。これまでと同じだ…まさかとは思うが）

北林は見張りを再び睨む。

『伏せたカードは聖なるバリア －ミラーフォース－だ。モンスターの方は見えなかったが、おそらく人喰い虫だ』

見張りはこれまで通り北林に合図を送る。
今回彼女はモンスターをセットする時、見張りからは見えない角度からセットした。

（ミラーフォースだと？くそ、笑った理由はそれか…！つーか人喰い虫はもう墓地に行ったわ！）



（…待てよ、本当にミラーフォースなのか？）

北林は疑心暗鬼に陥っていた。彼女に怪しげな動きが見当たらなかった以上、見張りを疑わざるを得ない。

しかし見張りは間違いなくこちら側の人間であることを北林自身が理解している。北林には何故このような現象が起こったのか全く理解できなかった。

ただ、どちらにしてもセットされたカードが《聖なるバリア －ミラーフォース－》ならば北林は攻撃したところで負ける。

何故なら、次が北林のラストドローだからだ。

「ターンエンド」



北林手札１枚　ＬＰ１２００
モンスター　３枚　　《ランス・リンドブルム》表攻　　《雷仙人》表攻　　《ゴブリン突撃部隊》表守
魔法罠　セット２枚

彼女手札１枚　ＬＰ６０００
モンスター　２枚　　セット１枚　　《機動砦のギア・ゴーレム》表守
魔法罠　１枚



さらに言うと北林は予想外の出来事に気を取られてまだ気付いていない。

「ドロー、スタンバイ、メイン」

（くそ！あと６０００もあるのかよ、どうすれば削り切れるんだ？）

北林は考えを張り巡らすものの、辿り着く答えはたったひとつだけ。

そこでようやく気が付いたのだ。



前のターン時、既に負けが確定していたことに。
彼女がドロー前、微笑んだ理由に。

しかしサレンダーはプライドが許さない。

「ちくしょう！《ランス・リンドブルム》でそのモンスターに攻撃！」
攻撃宣言　北林ＬＰ１２００ー５００＝７００

「罠発動します」
罠発動　彼女ＬＰ６０００ー５００＝５５００
罠発動《聖なるバリア －ミラーフォース－》
《ランス・リンドブルム》《雷仙人》破壊

「《ヂェミナイ・エルフ》召喚」

そして勝敗を決するコールが発せられる。



「…エンドだ！」



北林手札１枚　ＬＰ７００
モンスター　２枚　　《ヂェミナイ・エルフ》表攻　　《ゴブリン突撃部隊》表守
魔法罠　セット２枚

彼女手札１枚　ＬＰ５５００
モンスター　２枚　　セット１枚　　《機動砦のギア・ゴーレム》表守
魔法罠　０枚



「ドロー、スタンバイ、メイン」

「《ステルスバード》反転召喚します」
《ステルスバード》効果
北林ＬＰ７００ー１０００＝０



「か…勝った！やったー！」

瑞希は声を上げて喜んだ。綾芽もホッと胸を撫で下ろす。