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第3話「小込綾羽と薔薇の花嫁」 作:コンドル
「負け...?」
「・・・俺の勝ちだ」
実技授業にて、「仲が良いのは素晴らしいが、たまには別のやつとデュエルしろ」と先生から言われたため、遊駆は輪廻以外の生徒とデュエルをしていた。
相手は白い髪でポニーテールの女子生徒で、結果は遊駆の勝利で終わった。
一礼し、相手に背中を向ける。
「待って─あなた名前は...」
「藤玄遊駆」
対戦相手の女子生徒─小込綾羽は胸元にあるハート型の小さいペンダントをギュッと握り、去り行く遊駆の背中を紅潮した顔でスマホを使って撮影した。
「ようやく見つけた...私だけの王子様...」
「ふふ」
それからしばらくの時が経ち、電気が消えた部屋で小込綾羽はそのしなやかな指で1枚の写真を恍惚とした表情で見つめていた。口元は緩み、ニヤニヤと笑っている。
「ゆーくさーん...うふふ、今日もお背中がかっこよかったですよ」
少女は呟くように静かに写真へ話しかける。そこに写る藤玄遊駆の「背中」は何も答えない。
言うまでもないが、この写真はこっそり撮られたものだ。
「でも、たまにはそちらから話しかけてくれても良いんですよ?遊駆さんの口数が少ないのは知ってますけど...」
黙考して恋する乙女の悩みは声となり現れる。
「明日は話せたらいいなぁ」
いつも明日話そうと思いながら結局タイミングを逃してしまう、そんな日常を変えるきっかけを欲しているが、うまくいかない日々が続いているのが現状だ。
しばらく観察して行動パターンは絞れている。全ての講義が終わるとすぐに部屋に戻るか、同室の鶴咲輪廻とデュエルをしにデュエルスペースへ向かうかのどちらかだ。
「毎回、輪廻さんが誘うから失敗するんですよね」
①授業が終わる。②輪廻が遊駆を誘う。③遊駆が誘いに乗る。
この隙のないコンボによって常に綾羽の言葉は届かなかった。いつもそうだ。いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも...
「輪廻さんがいなければ...」
告白 接吻
監禁 独占
肯定 支配
洗脳 隷属
交際 崇拝
言葉 狂気
永遠 時間
綾羽の脳内に遊駆へやりたいことの単語が脳の奥の無意識から湧き上がってくる。私の手で滅茶苦茶にしたい。支配して、同時に隷属したい。愛しながら愛されたい。手を繋ぎたい。
それを邪魔する虫ケラ共を殲滅したい。
「・・・いけないわ」
ふっ、と我に帰り、頭をフルフルと横に揺らして今考えていたことを全力で脳から追い出す。
邪悪な考えが浮かんでしまった。
悪魔が囁いたか?
いや違う。これが綾羽の本性だ。
彼女は恋した相手を手に入れるためなら何でもするタイプの人間だ。たとえ犯罪的なことをしようと悪びれないし、むしろ「愛の邪魔をしたそっちが悪いんでしょッ!」と当たり前のように言ってのける人間なのだ。
しかし奇妙なことに、彼女はそれら犯罪的な行為をしては行けないと理解していた。故に、彼女は常に本性という名の獣を理性と良心の2本の鎖で縛り付けていた。
「私のこの考えがダメだって言うのは分かってるけど...止めるのも大変ね...」
頭の中の獣が暴れようとするたびに否定して押さえつける。しかし彼女は気づき始めていた。その獣を押さえつける力がどんどん弱まっていることに。だから空想して気を紛らせた。
今、空想上の2人の関係はすでに子供が産まれて子育てに翻弄されているところだ。現実は授業のデュエルで負けた時以来、進展のない状態だが。
「・・・子供の名前なんにしましょう?遊駆と綾羽で遊羽(ゆう)君とか...って、それどころじゃないわ。これを書き上げたら寝ましょう。明日こそは面と向かって渡さなきゃ!」
そして彼女がいる部屋の窓の外側に、淡く光る玉が綾羽を見つめるように浮遊していた。
第3話「小込綾羽と薔薇の花嫁」
綾羽は今日も、遊駆と同じ講義を受けていた。
遊駆はいつも真ん中の席に座るため、後ろの席で背中を見れる場所を確保している。
(授業が終わったら呼び出してこれを渡すのよ)
視線を制服のポケットに寄せる。そこには白い封筒にピンク色のハート型のシールが貼られたラブレターが入っており、昨日の夜に書いたものだった。本当は短編小説ほどのページがあったのだが、量より質を優先して、なんとか1枚の紙に纏めた。
キーンコーンカーンコーン
どうやって呼び出すかあれこれ考えていると、チャイムの音が鳴った。これで今日の授業は全て終わる。
(今...!)
「あ、あの...!」
「よっしゃっ!授業終わりぃ!デュエルしに行こうぜ!」
「あっ...」
廊下
(失敗したわ...)
出鼻をくじかれたため完全に意気消沈してしまった。また後ろを見つめるだけになってしまうが、とりあえず150mほど離れた遊駆と輪廻の会話を拾って気を紛らわせてみる。
「今日は体の調子大丈夫そうだな!昨日はなんかダルそうだったから心配してたんだぜ?」
「・・・昨日は座学ばかりで...持病みたいな...」
音量が小さいためうまく聞き取れないが、どうやら遊駆は昨日、体調不良だったらしい。
「これからは朝起きてから寝るまで見つめていないといけないわね」
恋人(予定)の体調の変化に気づけなかった自分を恥じ、これからはずっと、行動を監視、もとい見続けることにした。
しかしこれからどうするか。
ラブレターを靴箱に入れる?絶対に自分の手で渡したいからだめ。
今から追いかけて告白しに行く?それもいいけど...
(告白して受け入れてもらえるのは分かってる...おしゃれにも気を使ってるし...スタイルだって自信あるもの。ただ...好きと言ったら私、遊駆さんに何かしてしまいそうなのよね)
遊駆の隣を歩く輪廻を見つめて、綾羽は「いいなぁ」と呟いた。
学園の外の太陽がよく見える崖に座り黄昏る。太陽が綾羽の心を映すように少しずつ沈んでゆく。
「寂しい...」
顔を埋めため息をつく。切り替えようにも、毎日この調子では流石にメンタルに響くというもの。
今頃遊駆さんは何をしているんだろう。楽しくデュエルしているのだろうか。それが終わればご飯を食べてベッドで寝るのだろうか。
「いいなぁ...」
目がだんだんと虚になって行く。黄昏時、世界が橙に染まり理性を失いかける危険な時間にする空想は、少し過激なものになり、そんな空想に耽るだけの自分に虚しくなる。
「輪廻さんがいなければ...」
ため息をつき空を見上げる。
「・・・あれ、何かしら?」
綾羽は上空にピンポン玉くらいの大きさのものが浮遊しているのを見つけた。それは鳥にしては丸っこいし、ボールにしては浮く時間が長すぎる。さらに周りにボンヤリと光を纏っているのだ。
そしてその「光の玉」は何かの星座のような軌跡を描き綾羽の方へ向かってきた。
「光の玉」は綾羽の胸元のペンダントに入り込み、そのまま綾羽は悲鳴を上げる間もなく光に包まれる。
「・・・そうよ。輪廻さんがいなければ遊駆さんの隣は私のもの。一生...そう!一生よ!誰にも渡さないわ。そのためにまず...輪廻さんを消さなきゃ」
その目は力強く見開かれ、先ほどまでの弱気な態度は完全に消えていた。
綾羽の中にいる獣が、鎖から解き放たれた。アカデミアの時計は逢魔が時、怪異やこの世の者とは異なる存在と出会う時刻を指していた。
遊駆と輪廻の部屋
寮は3階建てで、2人は2階にいる。部屋のドアはカードキーを通さないと開かないようになっており、内開きでチェーンもついている。そのため防犯は万全だ。
「あー楽しかったー!やっぱデュエルって楽しー!」
「そうか。よかったな」
ヒュー...風でカーテンが靡いている。
「・・・輪廻、ドアが空いているぞ」
「あれ、ほんとだ。閉め忘れたかな...」
ベランダに出る為のドアが空いている。確か朝に閉めたはずなのだが。
「・・・これは」
遊駆の机の上には白い封筒にピンク色のハート型のシールが貼られた手紙が置いてある。一度剥がしたのか、シールの貼り付けが緩い。横にはメモ帳があり、「読んでください」と書かれている。
「閉めたはずなのになぁ...」
頭をかきながら左腕を伸ばしてドアを閉めようとしたその瞬間だった。
ガシッ
「え?」
「こんにちはっ♪」
ベランダから腕が伸びてきた。輪廻は突然腕を掴まれたことに理解が追いつかず放心し、そのまま腕を引っ張られて、丸太を持つように片腕だけで抱えられた。
「輪廻!」
「私です!あなたの小込綾羽です!遊駆さん、その手紙、読んでくださいね。それから...」
女は─綾羽はベランダから近くの樹木に飛び移る。
「今日中にお返事くださいね♡」
そのまま綾羽はいとも簡単に木から木へと飛び移る。助けを求める輪廻の悲鳴は段々と遠ざかっていった。
「輪廻...」
すぐに追う態勢に入るが、「読んでください」というお願いに似た命令を思い出し、その手紙を読むことにした。
拝啓 藤玄遊駆さん
突然のお手紙ごめんなさい。実技授業で貴方に負けたあの日から、貴方が気になっていました。
いつも素敵な後ろ姿を見ているだけでしたが、もうこの気持ちを抑えることができなくなりました。
単刀直入に言います。
あなたが好きです。私とデュエルして私が勝ったら付き合って、将来結婚して、家庭を持ってください。
子供の名前は遊羽が良いです。それと...
とても綺麗な字で書かれて読みやすい。読み進めて行き、最後の行まで読み終えると、行の外枠にpsと途中で書き加えたのか、乱雑に書かれた文章があった。
ps.30分以内に来なかったら私達の愛の邪魔をする輪廻さんには消えてもらいます。
「っ!」
急いでデュエルディスクを装着して部屋を出る。
校則で廊下の走行は禁止されているが、人の命がかかっているのだ。そんなものは気にしてられるか。とにかく全速力で、遊駆は綾羽を追うのだった。
崖
「・・・ということで私は遊駆さんの恋人とお嫁さんになります」
移動しながら綾羽は輪廻に遊駆との出会いと思いの丈を語っていた。
「私、自分より強い男の人しか好きにならないんですよ。私より強くて、私の方が弱いって分からせてくれる人とか素敵ですよね。それに遊駆さんって、勝っても嬉しい顔とかしませんし、そこもまたいいですね」
「じ、じゃあ遊駆を誘ってまたデュエルすりゃ良かったじゃねぇか」
輪廻は涙声でそう答えた。
いきなり連れ去られ木々をジャンプしながら落ちるかもしれない恐怖に心を削られながら返答しているのだ。相当や勇気を振り絞っているのがわかる。
「貴方が邪魔をしたからでしょうが」
機械のように冷たい顔が苦虫を潰したような表情に変わる。言葉も端々から羨望や憎悪といった感情が混ざった声色に変わり、少し口調が強くなる。
「私が話しかけようとしたら、いつも貴方が遊駆さんの隣を奪うんですよ。だからいつも私は伝えられず終いでした」
「・・・ごめん」
「・・・さ、着きましたね」
思い切り飛び、着地する。その後、輪廻は優しく降ろされた。体が自由になったことにより緊張と恐怖からの解放で荒い呼吸になる。
しばらくして、呼吸を整え落ち着き汗を拭いた。
「た、助かった...」
「いえ、まだ貴方の命は私が預かってます」
「えっ?」
「ラブレターに30分以内に来ないと貴方の命の保障は無いと書かせてもらいました。今は最後の良心で耐えていますが、下手なことを言ったら殺 しますよ」
「ひえぇ...」
肝が冷えたか、力無く尻餅をつく形で座り込む輪廻。
綾羽は立ったまま遊駆がくるのを待っている。
(なんで俺こんな目に遭うんだよ〜。この前は砂男と人魂見つけて怖い思いしたし、今度は誘拐かよ...俺アカデミアじゃなくてホラー映画の舞台にでも入っちまったのかな...)
「じゃあ2階で待ってたのは誰かに入れてもらったとかか?」
「いいえ。自力で登りました」
「まさか、地面から3メートルは離れてるんだぜ?どうやって」
「飛びました」
「へ?」
「飛びました」
「そ、そっか...」
段々考える力が弱くなってきた。そんな中で遊駆のことを考える。
「まぁでも、先に遊駆とデュエルしといて良かったぜ...」
「どういう意味ですか?」
「ああ、遊駆さ、持病かなんかで、『デュエルしないと気分が悪くなる』らしいんだよ」
「もしかして『デュエル依存症』ですか?」
「昨日知ったことだから俺もびっくりしてさ。俺はデュエルしたいし遊駆は具合良くしたいしでピッタリだと思ってさ。それで俺がデュエルして落ち着かせてたってわけよ」
『今日は体の調子大丈夫そうだな!昨日はなんかダルそうだったから心配してたんだぜ?』
『・・・昨日は座学ばかりでデュエルが出来なかったからな...。持病みたいなもので...デュエルをしないと体の調子が悪くなってな...』
「そういうことだったんですか」
なるほど、と綾羽が頷いた。それは大変だ。付き合ったら毎日看病して外の雑菌がつかないようにしないと、と思い、頷いた。
目を瞑りどうやって閉じ込めるか考えていると、足音が聞こえてきた。20分ほどしか経っていないのに、早い到着だ。
「輪廻!!!」
「遊駆ー!早いとこ助けてくれよー!」
「来ましたね遊駆さん!どうしても輪廻さんを返して欲しかったら、私とデュエルして勝ってくださいね」
「・・・待っていろ。すぐに終わらせる」
遊駆もディスクを展開していく。その間に、綾羽に近づいて行き、構えた。
「一つ約束してくれ」
「何ですか?貴方の願いならなんだって...」
「俺はお前のことは知らないが、友達を巻き込んだことは許さない。俺が勝ったらまず輪廻に謝ってもらう。それと...」
「それと?」
拳に力を込めて勢いを付けて綾羽を指差す。
「手紙の返事はノーだ!」
「・・・は?」
絶対にイエスが返ってくると信じていた告白の返事はノーだった。
何を間違えた?アプローチか?魅力か?いや、耳がおかしくなったか?聞き間違いか?冗談?
「なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
成功すると、心のなかで疑うことすらしなかった。それゆえに予想と反する結果になったことに傷ついて、耐えきれないストレスは怒りに変えて解放する。光の玉が入り込む前なら抑えられた感情が、一気に爆発していた。
「ッッッ!」
唸り声を上げた後、綾羽の体は再び輝く。
「遊駆、あれ!」
輪廻が指差す先、綾羽のペンダントには、しばらく前に遭遇した「人魂」がその姿を表していた。
「もしかして、あの人魂が綾羽をこんな性格に変えちまったのか...?」
「分からん...だが、何か関わりはありそうだ」
光は更に強まり、綾羽がデュエルディスクを展開すると、光は収まった。
「私が勝てば付き合ってくれる!この条件、飲みますね!?」
「・・・ああ、こっちの条件を飲むならな」
「ええいいでしょう!輪廻さんに謝りますよ!・・・さぁ始めますよ!」
「デュエル!」
遊駆 LP4000 手札5
綾羽 LP4000 手札5
「私の先攻!手札から『白薔薇の花嫁 ビャロ』を召喚!」手札5→4
ゲートから白い薔薇のブーケを持った少女のモンスターが現れる。
白薔薇の花嫁 ビャロ ☆3
効果/光属性/植物族
ATK1000/DEF1000
「ビャロの効果発動!このカードの攻撃力を0にすることで、手札・デッキからビャロを特殊召喚できます!」
ビャロはブーケを放り投げる。その瞬間に隣のフィールドに新しいビャロが召喚され、ブーケを受け取る。
「さぁ行きますよ!」
現れなさい!幸せへ繋がれるウェディングロード!
アローヘッド確認!召喚条件は「薔薇の花嫁」モンスター2体以上!
私は「白薔薇の花嫁 ビャロ」2体をリンクマーカーにセット!
リンク召喚
「嫉妬の黄薔薇よ開花なさい!『黄薔薇の花嫁 ジュルト』!」
黄薔薇の花嫁 ジュルト L2
攻撃力2000/光/植物族/リンクマーカー ↙︎ ↘︎
「ターンエンドです!」
綾羽 LP4000
モンスター1体
魔法・罠0枚
手札4枚
遊駆 LP4000
モンスター0体
魔法・罠0枚
手札5枚
綾羽の場にいる黄色い薔薇の花束を抱えた女性型モンスターのジュルトは、遊駆を見つめながら微笑んでいる。しかしその目に光はなく、薔薇の花言葉である「愛」なぞ微塵も感じなかった。
「俺のターン、ドロー」手札5→6
(輪廻を助けるためにも...ここは早く決めるしかない)
「手札から『結束のラトマギア カルセドニー』を召喚」手札6→5
結束のラトマギア カルセドニー ☆3
効果/地属性/魔法使い族
ATK1000/DEF100
「カルセドニーの効果発動。召喚に成功した場合、手札から「ラトマギア」モンスター1体を特殊召喚できる。俺はこの効果で『変革のラトマギア レピドライト』を特殊召喚」手札5→4
変革のラトマギア レピドライト ☆2
効果/地属性/魔法使い族
ATK600/DEF100
「レピドライトの効果発動。自分フィールドのモンスターが『ラトマギア』のみの場合、手札から自分以外のレベル2以下の『ラトマギア』を呼び出す。この効果により 『決断のラトマギア パイライト』を手札から特殊召喚する」
決断のラトマギア パイライト ☆2
効果/地属性/魔法使い族
ATK300/DEF500
「よし!モンスターが3体揃った!このままエースモンスターで決めちまえ!」
現れろ。光へ導くサーキット...!
召喚条件は「ラトマギアモンスター2体以上」
俺はカルセドニー、レピドライト、パイライトの3体をリンクマーカーにセット。
サーキットコンバイン...!
「ナヴァラトナ」の称号を関する魔術師よ
至高の叡智を持つ偉大なる魔術師よ
奇跡を起こし未来を掴み取れ─!
リンク召喚
「現れろ。リンク3『叡智のラトマギア サファイア』!」
リンクマーカーを模したゲートから現れたのは九曜星の土星にあたる神、「シャニ」のヴァーハナであるハゲタカを想起させる羽根の装飾を施した男の魔術師だ。
サファイアは地に降り立った後に杖を振るい戦意を示す。
叡智のラトマギア サファイア
効果/地属性/魔法使い族/リンクマーカー↙︎ ↑ ↘︎
ATK2500
「パイライトの効果により、リンク素材として墓地へ送られた場合、相手フィールドのモンスター1体の攻撃力を300下げる」
パイライトの杖から光線が発射され、ジュルドに直撃する。
黄薔薇の花嫁 ジュルト ATK2000→1700
「バトルだ。サファイアでジュルトを攻撃」
ラトナ・マギア!
杖の先端にある蒼玉にエネルギーを貯め、巨大な魔法陣を形成する。
そして宝石の粒が渦を描いて行く!
「くうぅ!」 LP4000→3200
これで先制攻撃は決まった。サファイアによってジュルトは蠢きながらサファイアを見つめる。
ビュン!
「っ!?」 LP4000→3200
煙が晴れた瞬間、ジュルトの花束から抜かれた黄薔薇が遊駆の心臓がある胸元を貫いた。
「な、なんで遊駆までダメージを受けてるんだよ!?」
「ダメじゃないですか、ちゃんと愛情は共有しないと」
綾羽が姿を現すと、不敵に笑っていた。
「薔薇の花嫁は自分より強い相手がいる限り、戦闘・効果では破壊されません。さらに、受ける痛みは互いが受けます」
「ダメージの共有!?」
「そう。病める時も健やかなる時も、貴方に愛を誓う薔薇の花嫁達...そんな彼女達が苦しめば、花婿も苦しむもの。そうして2人は、互いの痛みを知ってそれを痛みとして理解して行くのですよ」
綾羽は天を仰ぎクルッと一回転し、狂気を感じるほどのの笑顔を浮かべる。
「遊駆さんが攻撃するのは自由...でも、LPが無駄に減るだけですよ?」
確かにそうだ。下手に攻撃するとダメージの共有によってお互いに傷つき戦い辛くなる。
しかしデュエルの基本的な勝ち方は相手のLPを0にすることだ。遊駆が攻撃しなくても、綾羽が攻撃すればたちまちにお互いのLPの数値が減って行くこの状況は、かなり不味かった。
「つまり薔薇の花嫁にとってLPを0にすることは結婚するということ。共倒れしちゃ意味がないですよ。『高校教師』のラストシーンじゃないんですから...」
完全に心臓を握られた。このまま攻撃しても意味がない。遊駆はカードを1枚セットしてターンエンドを宣言した。手札4→3
綾羽 LP3200
モンスター1体
魔法・罠0枚
手札4枚
遊駆 LP3200
モンスター1体
魔法・罠1枚
手札枚
「私のターン。ドロー。さて、貴方の心臓(ライフ)も、命(ライフ)も、人生(ライフ)も!永遠に私のもの!ふふふ、アハハハハハ!!!!!!互いの痛みを理解し合いましょう!!!!!」
第3話 終
次回予告
まさか俺が誘いまくるせいでこんなことになっちまうとはな...気付かなくてごめんな、綾羽。なんか人魂も入り込んでるし、何が何やらだ。
ていうか、遊駆!これからどうすんだ!?
え、また返事するのか!?ノーって言ったのに!?
次回 遊戯王エターナルタイムRE:
第4話「告白への返事」
その新しいラトマギアにメッセージが込められてるんだな、遊駆!
「・・・俺の勝ちだ」
実技授業にて、「仲が良いのは素晴らしいが、たまには別のやつとデュエルしろ」と先生から言われたため、遊駆は輪廻以外の生徒とデュエルをしていた。
相手は白い髪でポニーテールの女子生徒で、結果は遊駆の勝利で終わった。
一礼し、相手に背中を向ける。
「待って─あなた名前は...」
「藤玄遊駆」
対戦相手の女子生徒─小込綾羽は胸元にあるハート型の小さいペンダントをギュッと握り、去り行く遊駆の背中を紅潮した顔でスマホを使って撮影した。
「ようやく見つけた...私だけの王子様...」
「ふふ」
それからしばらくの時が経ち、電気が消えた部屋で小込綾羽はそのしなやかな指で1枚の写真を恍惚とした表情で見つめていた。口元は緩み、ニヤニヤと笑っている。
「ゆーくさーん...うふふ、今日もお背中がかっこよかったですよ」
少女は呟くように静かに写真へ話しかける。そこに写る藤玄遊駆の「背中」は何も答えない。
言うまでもないが、この写真はこっそり撮られたものだ。
「でも、たまにはそちらから話しかけてくれても良いんですよ?遊駆さんの口数が少ないのは知ってますけど...」
黙考して恋する乙女の悩みは声となり現れる。
「明日は話せたらいいなぁ」
いつも明日話そうと思いながら結局タイミングを逃してしまう、そんな日常を変えるきっかけを欲しているが、うまくいかない日々が続いているのが現状だ。
しばらく観察して行動パターンは絞れている。全ての講義が終わるとすぐに部屋に戻るか、同室の鶴咲輪廻とデュエルをしにデュエルスペースへ向かうかのどちらかだ。
「毎回、輪廻さんが誘うから失敗するんですよね」
①授業が終わる。②輪廻が遊駆を誘う。③遊駆が誘いに乗る。
この隙のないコンボによって常に綾羽の言葉は届かなかった。いつもそうだ。いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも...
「輪廻さんがいなければ...」
告白 接吻
監禁 独占
肯定 支配
洗脳 隷属
交際 崇拝
言葉 狂気
永遠 時間
綾羽の脳内に遊駆へやりたいことの単語が脳の奥の無意識から湧き上がってくる。私の手で滅茶苦茶にしたい。支配して、同時に隷属したい。愛しながら愛されたい。手を繋ぎたい。
それを邪魔する虫ケラ共を殲滅したい。
「・・・いけないわ」
ふっ、と我に帰り、頭をフルフルと横に揺らして今考えていたことを全力で脳から追い出す。
邪悪な考えが浮かんでしまった。
悪魔が囁いたか?
いや違う。これが綾羽の本性だ。
彼女は恋した相手を手に入れるためなら何でもするタイプの人間だ。たとえ犯罪的なことをしようと悪びれないし、むしろ「愛の邪魔をしたそっちが悪いんでしょッ!」と当たり前のように言ってのける人間なのだ。
しかし奇妙なことに、彼女はそれら犯罪的な行為をしては行けないと理解していた。故に、彼女は常に本性という名の獣を理性と良心の2本の鎖で縛り付けていた。
「私のこの考えがダメだって言うのは分かってるけど...止めるのも大変ね...」
頭の中の獣が暴れようとするたびに否定して押さえつける。しかし彼女は気づき始めていた。その獣を押さえつける力がどんどん弱まっていることに。だから空想して気を紛らせた。
今、空想上の2人の関係はすでに子供が産まれて子育てに翻弄されているところだ。現実は授業のデュエルで負けた時以来、進展のない状態だが。
「・・・子供の名前なんにしましょう?遊駆と綾羽で遊羽(ゆう)君とか...って、それどころじゃないわ。これを書き上げたら寝ましょう。明日こそは面と向かって渡さなきゃ!」
そして彼女がいる部屋の窓の外側に、淡く光る玉が綾羽を見つめるように浮遊していた。
第3話「小込綾羽と薔薇の花嫁」
綾羽は今日も、遊駆と同じ講義を受けていた。
遊駆はいつも真ん中の席に座るため、後ろの席で背中を見れる場所を確保している。
(授業が終わったら呼び出してこれを渡すのよ)
視線を制服のポケットに寄せる。そこには白い封筒にピンク色のハート型のシールが貼られたラブレターが入っており、昨日の夜に書いたものだった。本当は短編小説ほどのページがあったのだが、量より質を優先して、なんとか1枚の紙に纏めた。
キーンコーンカーンコーン
どうやって呼び出すかあれこれ考えていると、チャイムの音が鳴った。これで今日の授業は全て終わる。
(今...!)
「あ、あの...!」
「よっしゃっ!授業終わりぃ!デュエルしに行こうぜ!」
「あっ...」
廊下
(失敗したわ...)
出鼻をくじかれたため完全に意気消沈してしまった。また後ろを見つめるだけになってしまうが、とりあえず150mほど離れた遊駆と輪廻の会話を拾って気を紛らわせてみる。
「今日は体の調子大丈夫そうだな!昨日はなんかダルそうだったから心配してたんだぜ?」
「・・・昨日は座学ばかりで...持病みたいな...」
音量が小さいためうまく聞き取れないが、どうやら遊駆は昨日、体調不良だったらしい。
「これからは朝起きてから寝るまで見つめていないといけないわね」
恋人(予定)の体調の変化に気づけなかった自分を恥じ、これからはずっと、行動を監視、もとい見続けることにした。
しかしこれからどうするか。
ラブレターを靴箱に入れる?絶対に自分の手で渡したいからだめ。
今から追いかけて告白しに行く?それもいいけど...
(告白して受け入れてもらえるのは分かってる...おしゃれにも気を使ってるし...スタイルだって自信あるもの。ただ...好きと言ったら私、遊駆さんに何かしてしまいそうなのよね)
遊駆の隣を歩く輪廻を見つめて、綾羽は「いいなぁ」と呟いた。
学園の外の太陽がよく見える崖に座り黄昏る。太陽が綾羽の心を映すように少しずつ沈んでゆく。
「寂しい...」
顔を埋めため息をつく。切り替えようにも、毎日この調子では流石にメンタルに響くというもの。
今頃遊駆さんは何をしているんだろう。楽しくデュエルしているのだろうか。それが終わればご飯を食べてベッドで寝るのだろうか。
「いいなぁ...」
目がだんだんと虚になって行く。黄昏時、世界が橙に染まり理性を失いかける危険な時間にする空想は、少し過激なものになり、そんな空想に耽るだけの自分に虚しくなる。
「輪廻さんがいなければ...」
ため息をつき空を見上げる。
「・・・あれ、何かしら?」
綾羽は上空にピンポン玉くらいの大きさのものが浮遊しているのを見つけた。それは鳥にしては丸っこいし、ボールにしては浮く時間が長すぎる。さらに周りにボンヤリと光を纏っているのだ。
そしてその「光の玉」は何かの星座のような軌跡を描き綾羽の方へ向かってきた。
「光の玉」は綾羽の胸元のペンダントに入り込み、そのまま綾羽は悲鳴を上げる間もなく光に包まれる。
「・・・そうよ。輪廻さんがいなければ遊駆さんの隣は私のもの。一生...そう!一生よ!誰にも渡さないわ。そのためにまず...輪廻さんを消さなきゃ」
その目は力強く見開かれ、先ほどまでの弱気な態度は完全に消えていた。
綾羽の中にいる獣が、鎖から解き放たれた。アカデミアの時計は逢魔が時、怪異やこの世の者とは異なる存在と出会う時刻を指していた。
遊駆と輪廻の部屋
寮は3階建てで、2人は2階にいる。部屋のドアはカードキーを通さないと開かないようになっており、内開きでチェーンもついている。そのため防犯は万全だ。
「あー楽しかったー!やっぱデュエルって楽しー!」
「そうか。よかったな」
ヒュー...風でカーテンが靡いている。
「・・・輪廻、ドアが空いているぞ」
「あれ、ほんとだ。閉め忘れたかな...」
ベランダに出る為のドアが空いている。確か朝に閉めたはずなのだが。
「・・・これは」
遊駆の机の上には白い封筒にピンク色のハート型のシールが貼られた手紙が置いてある。一度剥がしたのか、シールの貼り付けが緩い。横にはメモ帳があり、「読んでください」と書かれている。
「閉めたはずなのになぁ...」
頭をかきながら左腕を伸ばしてドアを閉めようとしたその瞬間だった。
ガシッ
「え?」
「こんにちはっ♪」
ベランダから腕が伸びてきた。輪廻は突然腕を掴まれたことに理解が追いつかず放心し、そのまま腕を引っ張られて、丸太を持つように片腕だけで抱えられた。
「輪廻!」
「私です!あなたの小込綾羽です!遊駆さん、その手紙、読んでくださいね。それから...」
女は─綾羽はベランダから近くの樹木に飛び移る。
「今日中にお返事くださいね♡」
そのまま綾羽はいとも簡単に木から木へと飛び移る。助けを求める輪廻の悲鳴は段々と遠ざかっていった。
「輪廻...」
すぐに追う態勢に入るが、「読んでください」というお願いに似た命令を思い出し、その手紙を読むことにした。
拝啓 藤玄遊駆さん
突然のお手紙ごめんなさい。実技授業で貴方に負けたあの日から、貴方が気になっていました。
いつも素敵な後ろ姿を見ているだけでしたが、もうこの気持ちを抑えることができなくなりました。
単刀直入に言います。
あなたが好きです。私とデュエルして私が勝ったら付き合って、将来結婚して、家庭を持ってください。
子供の名前は遊羽が良いです。それと...
とても綺麗な字で書かれて読みやすい。読み進めて行き、最後の行まで読み終えると、行の外枠にpsと途中で書き加えたのか、乱雑に書かれた文章があった。
ps.30分以内に来なかったら私達の愛の邪魔をする輪廻さんには消えてもらいます。
「っ!」
急いでデュエルディスクを装着して部屋を出る。
校則で廊下の走行は禁止されているが、人の命がかかっているのだ。そんなものは気にしてられるか。とにかく全速力で、遊駆は綾羽を追うのだった。
崖
「・・・ということで私は遊駆さんの恋人とお嫁さんになります」
移動しながら綾羽は輪廻に遊駆との出会いと思いの丈を語っていた。
「私、自分より強い男の人しか好きにならないんですよ。私より強くて、私の方が弱いって分からせてくれる人とか素敵ですよね。それに遊駆さんって、勝っても嬉しい顔とかしませんし、そこもまたいいですね」
「じ、じゃあ遊駆を誘ってまたデュエルすりゃ良かったじゃねぇか」
輪廻は涙声でそう答えた。
いきなり連れ去られ木々をジャンプしながら落ちるかもしれない恐怖に心を削られながら返答しているのだ。相当や勇気を振り絞っているのがわかる。
「貴方が邪魔をしたからでしょうが」
機械のように冷たい顔が苦虫を潰したような表情に変わる。言葉も端々から羨望や憎悪といった感情が混ざった声色に変わり、少し口調が強くなる。
「私が話しかけようとしたら、いつも貴方が遊駆さんの隣を奪うんですよ。だからいつも私は伝えられず終いでした」
「・・・ごめん」
「・・・さ、着きましたね」
思い切り飛び、着地する。その後、輪廻は優しく降ろされた。体が自由になったことにより緊張と恐怖からの解放で荒い呼吸になる。
しばらくして、呼吸を整え落ち着き汗を拭いた。
「た、助かった...」
「いえ、まだ貴方の命は私が預かってます」
「えっ?」
「ラブレターに30分以内に来ないと貴方の命の保障は無いと書かせてもらいました。今は最後の良心で耐えていますが、下手なことを言ったら殺 しますよ」
「ひえぇ...」
肝が冷えたか、力無く尻餅をつく形で座り込む輪廻。
綾羽は立ったまま遊駆がくるのを待っている。
(なんで俺こんな目に遭うんだよ〜。この前は砂男と人魂見つけて怖い思いしたし、今度は誘拐かよ...俺アカデミアじゃなくてホラー映画の舞台にでも入っちまったのかな...)
「じゃあ2階で待ってたのは誰かに入れてもらったとかか?」
「いいえ。自力で登りました」
「まさか、地面から3メートルは離れてるんだぜ?どうやって」
「飛びました」
「へ?」
「飛びました」
「そ、そっか...」
段々考える力が弱くなってきた。そんな中で遊駆のことを考える。
「まぁでも、先に遊駆とデュエルしといて良かったぜ...」
「どういう意味ですか?」
「ああ、遊駆さ、持病かなんかで、『デュエルしないと気分が悪くなる』らしいんだよ」
「もしかして『デュエル依存症』ですか?」
「昨日知ったことだから俺もびっくりしてさ。俺はデュエルしたいし遊駆は具合良くしたいしでピッタリだと思ってさ。それで俺がデュエルして落ち着かせてたってわけよ」
『今日は体の調子大丈夫そうだな!昨日はなんかダルそうだったから心配してたんだぜ?』
『・・・昨日は座学ばかりでデュエルが出来なかったからな...。持病みたいなもので...デュエルをしないと体の調子が悪くなってな...』
「そういうことだったんですか」
なるほど、と綾羽が頷いた。それは大変だ。付き合ったら毎日看病して外の雑菌がつかないようにしないと、と思い、頷いた。
目を瞑りどうやって閉じ込めるか考えていると、足音が聞こえてきた。20分ほどしか経っていないのに、早い到着だ。
「輪廻!!!」
「遊駆ー!早いとこ助けてくれよー!」
「来ましたね遊駆さん!どうしても輪廻さんを返して欲しかったら、私とデュエルして勝ってくださいね」
「・・・待っていろ。すぐに終わらせる」
遊駆もディスクを展開していく。その間に、綾羽に近づいて行き、構えた。
「一つ約束してくれ」
「何ですか?貴方の願いならなんだって...」
「俺はお前のことは知らないが、友達を巻き込んだことは許さない。俺が勝ったらまず輪廻に謝ってもらう。それと...」
「それと?」
拳に力を込めて勢いを付けて綾羽を指差す。
「手紙の返事はノーだ!」
「・・・は?」
絶対にイエスが返ってくると信じていた告白の返事はノーだった。
何を間違えた?アプローチか?魅力か?いや、耳がおかしくなったか?聞き間違いか?冗談?
「なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
成功すると、心のなかで疑うことすらしなかった。それゆえに予想と反する結果になったことに傷ついて、耐えきれないストレスは怒りに変えて解放する。光の玉が入り込む前なら抑えられた感情が、一気に爆発していた。
「ッッッ!」
唸り声を上げた後、綾羽の体は再び輝く。
「遊駆、あれ!」
輪廻が指差す先、綾羽のペンダントには、しばらく前に遭遇した「人魂」がその姿を表していた。
「もしかして、あの人魂が綾羽をこんな性格に変えちまったのか...?」
「分からん...だが、何か関わりはありそうだ」
光は更に強まり、綾羽がデュエルディスクを展開すると、光は収まった。
「私が勝てば付き合ってくれる!この条件、飲みますね!?」
「・・・ああ、こっちの条件を飲むならな」
「ええいいでしょう!輪廻さんに謝りますよ!・・・さぁ始めますよ!」
「デュエル!」
遊駆 LP4000 手札5
綾羽 LP4000 手札5
「私の先攻!手札から『白薔薇の花嫁 ビャロ』を召喚!」手札5→4
ゲートから白い薔薇のブーケを持った少女のモンスターが現れる。
白薔薇の花嫁 ビャロ ☆3
効果/光属性/植物族
ATK1000/DEF1000
「ビャロの効果発動!このカードの攻撃力を0にすることで、手札・デッキからビャロを特殊召喚できます!」
ビャロはブーケを放り投げる。その瞬間に隣のフィールドに新しいビャロが召喚され、ブーケを受け取る。
「さぁ行きますよ!」
現れなさい!幸せへ繋がれるウェディングロード!
アローヘッド確認!召喚条件は「薔薇の花嫁」モンスター2体以上!
私は「白薔薇の花嫁 ビャロ」2体をリンクマーカーにセット!
リンク召喚
「嫉妬の黄薔薇よ開花なさい!『黄薔薇の花嫁 ジュルト』!」
黄薔薇の花嫁 ジュルト L2
攻撃力2000/光/植物族/リンクマーカー ↙︎ ↘︎
「ターンエンドです!」
綾羽 LP4000
モンスター1体
魔法・罠0枚
手札4枚
遊駆 LP4000
モンスター0体
魔法・罠0枚
手札5枚
綾羽の場にいる黄色い薔薇の花束を抱えた女性型モンスターのジュルトは、遊駆を見つめながら微笑んでいる。しかしその目に光はなく、薔薇の花言葉である「愛」なぞ微塵も感じなかった。
「俺のターン、ドロー」手札5→6
(輪廻を助けるためにも...ここは早く決めるしかない)
「手札から『結束のラトマギア カルセドニー』を召喚」手札6→5
結束のラトマギア カルセドニー ☆3
効果/地属性/魔法使い族
ATK1000/DEF100
「カルセドニーの効果発動。召喚に成功した場合、手札から「ラトマギア」モンスター1体を特殊召喚できる。俺はこの効果で『変革のラトマギア レピドライト』を特殊召喚」手札5→4
変革のラトマギア レピドライト ☆2
効果/地属性/魔法使い族
ATK600/DEF100
「レピドライトの効果発動。自分フィールドのモンスターが『ラトマギア』のみの場合、手札から自分以外のレベル2以下の『ラトマギア』を呼び出す。この効果により 『決断のラトマギア パイライト』を手札から特殊召喚する」
決断のラトマギア パイライト ☆2
効果/地属性/魔法使い族
ATK300/DEF500
「よし!モンスターが3体揃った!このままエースモンスターで決めちまえ!」
現れろ。光へ導くサーキット...!
召喚条件は「ラトマギアモンスター2体以上」
俺はカルセドニー、レピドライト、パイライトの3体をリンクマーカーにセット。
サーキットコンバイン...!
「ナヴァラトナ」の称号を関する魔術師よ
至高の叡智を持つ偉大なる魔術師よ
奇跡を起こし未来を掴み取れ─!
リンク召喚
「現れろ。リンク3『叡智のラトマギア サファイア』!」
リンクマーカーを模したゲートから現れたのは九曜星の土星にあたる神、「シャニ」のヴァーハナであるハゲタカを想起させる羽根の装飾を施した男の魔術師だ。
サファイアは地に降り立った後に杖を振るい戦意を示す。
叡智のラトマギア サファイア
効果/地属性/魔法使い族/リンクマーカー↙︎ ↑ ↘︎
ATK2500
「パイライトの効果により、リンク素材として墓地へ送られた場合、相手フィールドのモンスター1体の攻撃力を300下げる」
パイライトの杖から光線が発射され、ジュルドに直撃する。
黄薔薇の花嫁 ジュルト ATK2000→1700
「バトルだ。サファイアでジュルトを攻撃」
ラトナ・マギア!
杖の先端にある蒼玉にエネルギーを貯め、巨大な魔法陣を形成する。
そして宝石の粒が渦を描いて行く!
「くうぅ!」 LP4000→3200
これで先制攻撃は決まった。サファイアによってジュルトは蠢きながらサファイアを見つめる。
ビュン!
「っ!?」 LP4000→3200
煙が晴れた瞬間、ジュルトの花束から抜かれた黄薔薇が遊駆の心臓がある胸元を貫いた。
「な、なんで遊駆までダメージを受けてるんだよ!?」
「ダメじゃないですか、ちゃんと愛情は共有しないと」
綾羽が姿を現すと、不敵に笑っていた。
「薔薇の花嫁は自分より強い相手がいる限り、戦闘・効果では破壊されません。さらに、受ける痛みは互いが受けます」
「ダメージの共有!?」
「そう。病める時も健やかなる時も、貴方に愛を誓う薔薇の花嫁達...そんな彼女達が苦しめば、花婿も苦しむもの。そうして2人は、互いの痛みを知ってそれを痛みとして理解して行くのですよ」
綾羽は天を仰ぎクルッと一回転し、狂気を感じるほどのの笑顔を浮かべる。
「遊駆さんが攻撃するのは自由...でも、LPが無駄に減るだけですよ?」
確かにそうだ。下手に攻撃するとダメージの共有によってお互いに傷つき戦い辛くなる。
しかしデュエルの基本的な勝ち方は相手のLPを0にすることだ。遊駆が攻撃しなくても、綾羽が攻撃すればたちまちにお互いのLPの数値が減って行くこの状況は、かなり不味かった。
「つまり薔薇の花嫁にとってLPを0にすることは結婚するということ。共倒れしちゃ意味がないですよ。『高校教師』のラストシーンじゃないんですから...」
完全に心臓を握られた。このまま攻撃しても意味がない。遊駆はカードを1枚セットしてターンエンドを宣言した。手札4→3
綾羽 LP3200
モンスター1体
魔法・罠0枚
手札4枚
遊駆 LP3200
モンスター1体
魔法・罠1枚
手札枚
「私のターン。ドロー。さて、貴方の心臓(ライフ)も、命(ライフ)も、人生(ライフ)も!永遠に私のもの!ふふふ、アハハハハハ!!!!!!互いの痛みを理解し合いましょう!!!!!」
第3話 終
次回予告
まさか俺が誘いまくるせいでこんなことになっちまうとはな...気付かなくてごめんな、綾羽。なんか人魂も入り込んでるし、何が何やらだ。
ていうか、遊駆!これからどうすんだ!?
え、また返事するのか!?ノーって言ったのに!?
次回 遊戯王エターナルタイムRE:
第4話「告白への返事」
その新しいラトマギアにメッセージが込められてるんだな、遊駆!
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輪廻...怖いの苦手なのに怖い思いをして可哀想ですが、これからもめげずに頑張って欲しいですね。
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(2024-04-24 07:37)