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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第2話「マナサはどこだ」

第2話「マナサはどこだ」 作:コンドル

 「あとは頼んだぞ。─。」
 「─さん!─さん!」

 視界の先に広がるのは煙に包まれた灰色の空と炎火に包まれる街々。
 悲鳴を上げながら逃げ惑う人々を物言わぬ肉塊に変える巨大な「蛇」が、耳を塞ぎたくなるほどの咆哮をあげて蹂躙して行く。

 「そこまでだ」

 どこからか響く威厳に満ちた低い男の声。男は「蛇」を見上げて手に持った剣を向け、「蛇」は男と眼を合わせて力強く睨みつけ対峙する。

 刹那の静寂が世界を包み込み─

 「いでよ!」

 剣が激しく輝き、男の周りに巨大な3つの光に包まれた何かが現れた。そのまま男は飛び上がり、光と共に蛇へと斬りかかり男は叫ぶ。

 「我に力を!」

 2体がぶつかり合い、剣と牙の衝突で発生した閃光が出て十字の形になったと思うと、次の瞬間、視界は白に染められて─。



 遊駆はアカデミアに入ってから同じ夢を見るようになった。男が燃え盛る街を背景に怪物と戦う夢だ。
 その夢に出てくる男は眉を下げ申し訳なさそうな顔をしながら目の前にいる女の前を去って行った。その男の表情は彼の人生の全てを物語る複雑なもので、それゆえに、何を考えているのか遊駆にはまだ分からなかった。

 第2話「マナサはどこだ」


 土曜日の午前7時、太陽が登ったばかりの時間の食堂で遊駆と輪廻、巧の3人は同じテーブルで朝食を摂っていた。今日はトーストとコーヒーとスクランブルエッグの洋食セットだ。

 「2人とも、アカデミアの都市伝説って聞いたことある?」
 食事中、巧は楽しいことをしているようなはにかんだ声で聞いてきた。
 「都市伝説?」
 「そ。この前ネット掲示板を漁ってたら都市伝説系のスレッドを見つけてさ。1番面白かったのは、なんでも森の中には・・・」
 「ままま待ってくれ!俺ここ、怖いの苦手なんだよ!」

 輪廻は大きな声で言葉を遮り、耳を思い切り塞ぎ目を瞑ってしまった。どうしても怖いものが無理らしい。対して遊駆の方は、巧の話を聞く気になっていた。

 「輪廻、終わったら知らせる。それで...1番面白かった都市伝説って?」
 「あぁ、昔アカデミアに在籍してた人の話らしいんだけど...」

 休日の昼頃に天気が良かったから散歩に森に行ったんだって。ほら、アカデミアの森って結構深いから、一度入ったら方向音痴の人だと絶対に抜け出せないって言われてるんだ。
 その森に入って、最初はなんともなかったらしいんだけど、奥へ進んで行くと足元に違和感を覚えた。
 ジャリ、ジャリ...
 靴から異音がする。なんだろうと思って足元を見ると、「砂」がくっついてたらしいんだ。

 「歩いていれば靴に砂くらい付くだろう」
 「それがただの砂じゃないらしいんだよ」

 普通なら山砂っていってゴツゴツした荒削りな見た目なんだけど、その人が見た砂はサラサラした川砂だったんだって。森の奥だから風で運ばれてきたとは思えないし、ここにあるなんて不自然で...。
 それで不思議に思って周りを見てると、木の影に隠れて動く「何か」があった...。
 動物にしてはあまりに大きくて、周りに風は吹いてないから木でもない。気になって見に行ったんだ。

 そこにはアカデミア生徒の制服を着た人がいたんだ。目があって、何してるんだい?って言おうとしたら、その人ボソボソっと呟くように話して聞こえない。それでよく聞き取れないから近づいて行って、口元に耳を当てるくらい近づいた。そしたらね。


 僕のデッキはどこだ


 えっ?ってビックリして思わず相手の顔を見たら...顔や体から砂がサラサラサラ...と溢れているんだよ。顔もよく見たら、破られた紙みたいにヒビが入っててその顔から眼がギョロッと睨みつけるように見ていて...。

 「ぎゃあああ!!!」

 輪廻は思わず悲鳴を上げて飛び上がった。途中から耳を塞ぐ手が緩んでいたため、聞いていたようだ。

 「輪廻君、実は聞いてたのバレバレだからね?」
 「だ、だって気になっちまうんだもんよ...」
 「それで...それを見た人はどうなったんだ」
 「それから?それからは砂男から走って逃げたって。よくあるオチだけど、砂まみれの男って言うのが珍しくて面白かったなー」

 食後

 「あ〜怖かった〜」
 「まぁこういうのは大半が創作だし、真に受けないほうが良いよ。砂男って言うのもホフマンの小説から取られてるんだろうし...」
 「怖いものは怖いの!」
 輪廻はコミカルな表情をしながら呻き声を出していた。そんな様を見ながら遊駆は表情を崩さずに食後のコーヒーを飲む。
 
 (砂男...か)

 都市伝説は色んな種類があるが、その内容は創作だったりするのが多いが、時折本物が紛れ込んでいる場合もある。
 地面から声がして、次の瞬間に光の玉が現れた、なんて話をしたら信じてもらえるだろうか。それとも素人が即興で生み出した陳腐な創作として扱われるだろうか。

 コーヒーに映るペンダントライトの丸い光を眺めてふと、入学式に見た光の球体について考える。

 (あの光の玉...一体どこに行ったんだ)

 入学式の日以降、どこに姿をくらましたかも分からない謎の光。今いったいどこにいるのか、気になってしょうがなかった。

 「その掲示板、光る玉の話とかなかったか」
 「光る玉?・・・人魂とかかな?ううん、そういう話は見なかったよ。なんで?」
 「いや...気になっただけだ」

 もしかした光の玉の話があるかもしれないと考えたが、やはりないようだ。
 コーヒーを飲み終えて、一息ついてからふと考える。

 (森か...)

 森なら行方をくらましても見つけづらいため隠れるのに最適だ。もしかしたら、そこに隠れているのかもしれないと考えた。
 それならばやることは一つだ。

 「遊駆、今日はずっと一緒にいてくれよ。怖い話聞いたから1人になりたくねぇ」
 「・・・今日は森の中に行く予定だが、ついてくるか?」
 「えっ」
 (遊駆君、時々何考えてるのかわかんない時あるな...)

 森の入り口

 「遊駆、藤玄遊駆さん、どうしても行くのかですか?」
 森の入り口に来るまでずっと怯え続けていた輪廻は言葉遣いもおかしくなってしまった。遊駆も悪戯心で連れてきたわけではない。
 ただ、光の玉を見つけ出して色々と聞きたいことがあったのだ。それを見つけるためには、早く行動した方が良い。なので、輪廻には悪いが、森へ来た。と言うわけだ。

 「すまない。戻ったらいくらでもデュエルに付き合う」
 「約束だからな〜」

 2人はゆっくりと森の中に入った。広葉樹が生い茂る中で上から当たる太陽の光が心地よく森を照らしている。

 「ゆ、遊駆、もう少しゆっくり動いてくれよ...」

 探したい気持ちが強くなり早歩きになっていたようだ。輪廻は左腕を遊駆の右腕に回し組んでいた。知らない人が見たら腕を組みながら歩く微笑ましい光景だが、実際は都市伝説を怖がっているだけなのだ。

 ただひたすら真っ直ぐに進む。遊駆は目を凝らし光の玉が通過した時に生じるであろう木々についた不自然な傷跡や穴の空いた葉っぱなどを探してみるが、全く見つからない。
 そして色々と観察しすぎたらせいか、どこからが真っ直ぐでどこへ戻れば良いのか、方向感覚が狂い始めた。
 天気は変わらず晴れている。道もはっきり映っているが、景色が変わらない。ヘンゼルとグレーテルのようにパンくずを落とすなりの目印をつければ良かったと遊駆は後悔した。輪廻も不安な様子を察しているのか、チラチラと横目で遊駆を見始めた。流石に伝えなければ不安が増してしまう。

 「すまない、道がわからなくなった」
 「あ、あばばばばば...」

 迷ったと思っても言われたくなかったのか口から泡を吹き出すかと思うほど動揺している。

 「と、とにかくここを離れようぜ。出口を見つけねぇと」
 「・・・そうだな」

 山や森で迷った時にするべき行動は一旦立ち止まり周囲を確認することだ。故に現在、遊駆達が取っている「闇雲に動く」という方法は間違っている。だが遊駆も、自分の都合で誘っておいてあれこれ言えるとも考えていなかった。
 が、その気遣いが命取りになる場合もある。

 道は太陽で照らされている。しかし出口は見つからない。この自然が生み出した迷路に嵌った2人はとにかく動いた。

 「そういや、なんで森に行こうと思ったんだ?」

 歩いている途中、輪廻は不安を紛らわせようと話しかけた。
 遊駆も少し考えて口を開く。

 「前に声に導かれてアカデミアに来たと話したよな」
 「あぁ。覚えてる」
 「入学式の日、その声が地面から聞こえてきた。その後に地面が光ったと思ったら巧が例えた人魂が出てきて、どこかへ行った...俺にはその人魂が声の主に思えて...それで、そいつを見つけるためにここに来た」
 「・・・えぇ、なんかすごい話になってきたな」
 「信じられないと思うが...本当の話だ」

 困惑しながらも話は聞いてくれた。輪廻は、遊駆は冗談を言うタイプでは無いと知っているため本気なのだろう。遊駆の言うことを信じた。

 「じ、じゃあ砂男とは全く関係ないんだな?俺てっきり砂男に会いに行くのかと...」
 「ああ。違う」
 「ほっ...じゃあさっさと見つけて出ていこーぜ」
 「そうだな...いれば、な」

 ジャリ

 2人は足を止めた。靴から異音がした。
 靴の裏を見ると、砂が付着している。ザラザラした山砂じゃない。これは川砂だ。

 「えっ」

 砂男の話を思い出す。周囲を見渡すと木陰に動く何かがあって、それはアカデミアの制服を着ている...

 「遊駆、あそこの木の裏...誰か...」
 
 輪廻が指差す先にいる「それ」は動物と呼ぶには大きく、風が吹いていないから木でもない。
 何より服を着ている。アカデミア指定の3年生が着用する青い制服だ。

 「あ、あれって...」
 「俺が行く。少し待っていてくれ」
 
 腕をほどき「それ」に近づく。
 「それ」も遊駆の存在に気づき目を合わせる。

 「そこで何を?」
 「・・・だ」

 声が小さくて聞こえない。体を近づけ声が聞こえる距離まで接近する。

 「・・・んだ」

 顔がくっつくくらい接近して、耳を当てた。

 「・・・マナサを探すんだ」

 「マナサ」。その名を聞いた瞬間、「なんだって?」と遊駆は思わず「それ」の方を向き、その顔を見た。
 顔はひび割れ、体から砂が溢れている。手は形は人の手だが、砂で固められているようにも見える。
 それは人体と呼ぶには歪で、人間の持つ肉体とは異なった姿をしていた。
 「マナサだと...」

 瞬間、遊駆の脳内に映写機で投影されたような映像が流れ始める。

地獄と呼ぶにふさわしい、炎に包まれた街。倒れる人々。それらを城らしき建物から見て手に持った剣を力強く握る自分と隣にいる自分を見つめる女性─。

 「あとは頼んだぞ。マナサ」
 「待って...」


 「い、今のは...」

 映像が終わると、再び「それ」と目が合わせて言った。

 「夢の中と同じ景色で...いや、それより...あなたは何者なんだ...なぜその名を知っている...」

 「それ」は質問に応えず、バッと後ろに体を向け、一目散に走り始めた。
 「ま、待て!」
 行かせまいと手を思い切り掴む。体を何度か揺らし、あたりは砂が舞い散り砂嵐ができた。

 その時だった。

 「あ、人魂!」

 どこからともなく光の玉が飛んできて、遊駆の周りをクルクルと回り始めた。

 「!」
 

 遊駆は光の玉に気を引かれ思わず手の力が緩んでしまう。

 「!」
 「っ、しまっ」

 その隙を逃さずに、砂を撒き散らしながら「それ」はどこかへ消えていった...。

 「・・・」

 光の玉と対峙する遊駆。光の玉は何も言わずにただ宙に浮いているだけだ。
 「遊駆、これが探してたっていう...」
 「あぁ。こいつだ...」

 遊駆は捕まえようと手を伸ばす。
 ヒョイ、と軽くかわされてしまい、何度も手を伸ばすが、一向に触れることもできない。
 猫じゃらしと戯れる猫のようだが、本人は真剣な表情で触れようとしていた。この光の玉が自分をアカデミアに来るよういざなった声の主のような気がしてならないのだ。こいつを捕まえれば答えがわかるのだ。だが、捕まらない。
 しばらくして光の玉は再び遊駆の周りを周り、耳元に近づいて

 《もうすぐ会えます》

 そう言った。またあの声だった。
 そして上昇し、またどこかへ消えていったのだった。

 「なんだったんだよ...」
 「もうすぐ会える...か」

 周りを見渡す。森は変わらずに太陽光が差し、明るいままで、何も動じていない。
 「・・・あれは」
 先程、遊駆が格闘していたところをよく観察すると、そこに砂に被って見えなかった何かが落ちていた。
 
 「生徒手帳と、紙切れか?なんか書いてるけど」

 名前がよく読み取れない生徒手帳と、ヒンディー語やロシア語が混ざったような文字らしきものが書かれたノートの切れ端だ。2人は手帳を見て誰のものか見てみるが、ところどころ赤黒くなっていたり砂で潰れていて読めなかった。
 「まさか砂男に襲われた被害者のやつじゃ...」
 「・・・それはわからない。だが人を襲う感じはしなかった」
 「じゃあ...」
 「ひとまずこれは俺が持っておきたいのだが、良いか」
 「うーん、そうだな。それが良いと思う。ていうか、なんか体疲れちまったな。早く寮戻ろうぜ」
 「そうだな」

 『マナサを探すんだ』

 (マナサ...あの記憶の女性のことだろう。だがあの記憶は何なんだ。毎日見る夢の内容と同じ記憶...)

 謎は深まるばかりで、遊駆はまた悩んだ。自分をアカデミアにいざなった声の正体。謎の光の玉。そして砂男...。
 あまりに情報が足りない。しかしいつかは何かわかる気がする。そう思い遊駆は寮に帰ることにした。

 「あ、そういや帰り道わかんないんだった!やべーぞ遊駆!」
 「・・・あ」

 その日、2人が森を出る頃には夕方になっており、疲れ切った2人は風呂に入ってそのまま眠りについた。
 余談だが、この話を巧にしたが、「面白い創作だねー」と相手にされなかった。

第2話 終


 次回予告
 最近、気になる人がいるんです。同じ学年の水色の髪の人で、名前は藤玄遊駆さん。
 今日も名前を知ってもらおうと、話しかけに言ったんですけど、遊駆さんとルームメイトの鶴咲輪廻さんがまた私と遊駆さんの時間を邪魔をして...!
 って、何の光!?きゃあ!
 ・・・そう、輪廻さんがいなくなれば私が遊駆さんを独り占めできる...そうよ、そうすれば良いのよ!フフフ、アハハハハ!

 次回「遊戯王エターナルタイムRE:」第3話
 「小込綾羽と薔薇の花嫁」

 待っていてくださいね遊駆さん!あなたの綾羽がすぐ行きます!
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ヒラーズ
これはまた、探し物をやる事件とは、珍しい。
そして次回予告の「何の光!?」って聞くとその後「万歳!」って聞こえるのは気のせいか?
まぁ大抵のオカルトはフィクションとして一蹴されるのが世の中だからね……
次回が楽しみです。 (2024-04-14 15:05)
コンドル
(一部文章を変更して再投稿します)
ヒラーズさん、コメントありがとうございます。
「マナサ」という記憶の女性の正体、そして光の玉は一体何なのか、予想してみてください。
「何の光!?」は書いてる時も声が脳内再生されましたねwもちろん某機動戦士は関係ありませんw (2024-04-14 20:50)
ランペル
アカデミアに伝わる自らのデッキを探す砂男の都市伝説を話す遊駆、輪廻、巧の3人。
そして、入学式で見た光の玉の行方を追って輪廻と共に森の中へ。輪廻はなかなかにビビリな様で、砂男の都市伝説が怖く、遊駆と一緒に森までついてくる始末。なんならそっちの方が怖くない?と思いつつも一人の方が想像が無限に広がって怖いとかはありそうです。
まだ日の高い時間での森の散策ですが、迷ってしまう二人。そこで遭遇したのは、都市伝説の砂男と人魂。マナサという名を残した砂男に、もうすぐ会えると伝えてきた人魂…遊駆の夢の内容と言い、まだまだ謎は深まるばかりですねぇ…。

そして、次回予告では綾羽が明らかに何かしらの干渉によって、欲望の制御が効いていない状態に!?果たしてどうなってしまうのか!

ミステリー色が強そうな作品で今後が気になって来る所でございます! (2024-04-20 16:03)
コンドル
ランペルさん、コメントありがとうございます。
輪廻は部屋に戻っても怖い話思い出して外に出るタイプです。なので最初から遊駆について行ったほうが幾つか心が楽だったんですね。
現在は謎ばかりが増えて行く展開ですが、マナサとは、砂男とは一体なんなのか楽しみに予想してみてください。 (2024-04-20 22:11)

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