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第1話「桃源郷へようこそ」 作:コンドル
─ひとりぼっちって、どんな気分なんだ
─想像できない程の絶望と苦痛に満ちてございます
デュエルアカデミアという学園を知っているだろうか。
なんて質問をこの国ですると、「知らない人はいないよ」と帰ってくる。この学園は日本の孤島に建てられたデュエリストの育成校だ。デュエリストの人気は年々上がっており、「子供が将来なりたい職業ランキング」でも常に上位を保っている。
そんなアカデミアでは今日、入学式が行われる。新入生達は飛行機に乗っているところだ。
「えーっと俺の席は...ここか」
手元にある座席表を見て真っ赤な髪色のナチュラルなショートヘアの青年、鶴咲輪廻は席を確認した。
(隣の奴、窓眺めてんな。確か寮の同室が隣になるんだったっけ。今のうちに挨拶しとくか)
「隣、座っていいか?」
「•••ああ」
「サンキュー。俺、鶴咲輪廻。同室としてこれから頼むぜ!えーっと...」
「•••藤玄遊駆だ」
水色の独特な髪方をした青年、「藤玄遊駆」は輪廻の方を向いて名乗った。
第1話「桃源郷へようこそ」
「─でさ...それにしても移動に飛行機って結構派手だよな!孤島だから仕方ないけどさ」
自己紹介を終えて数分後、輪廻は遊駆とずっと話していた。最初は遊駆の名前を「いい名前だな!」と褒めるところから始まり、今では飛行機の話題になっていた。
「あ、そういえば遊駆はなんでアカデミアに入ったんだ?」
「なんで?」
「そうそう。俺は親父の夢だったプロデュエリストになるために入ったんだ。遊駆も何かデュエルでやりたいこととかあって入ったんだろ?」
やりたいこと、そう聞いて遊駆は顔がこわばり、少し考えた。
「•••デュエルでやりたいこと、か...無いな」
「えっ?じゃあなんでアカデミアに?」
「•••呼ばれた気がしたんだ。信じてもらえないかもしれないが...」
遊駆は自分がアカデミアに入学した理由を語り始めた。
「子供の頃から何も興味が無くて、それで毎日過ごしてた。父さんも母さんも、俺を色々な場所に連れて行ってくれたが、意味がなかった」
「そんな日、テレビのアカデミアのCMを見た。そこの風景を見た瞬間、どこからか声が聞こえた...」
《早く来て》
「早く来て?ほんとにそう聞こえたのか?」
「ああ。テレビの声じゃない...知ってる声だった。誰かは思い出せないが...」
「その声を聞いてから、俺はアカデミアに入ることしか考えなくなった。デュエルを学び、闘い続けた。そしてここに来た」
「そっかー。じゃあ入ることが目的になった訳か」
「•••そう、だな」
遊駆は少し俯き、呟くように言った。アカデミアに入ることしか考えてなかった遊駆に対して、輪廻はアカデミアはプロになるために経験を積むという通過点として見ている。
「目的の為に入る」ことと「入ることが目的」は言葉は似ているが全く違うのだ。
遊駆も自分がアカデミアに入る理由を少し気にしていた。
周りは「夢のために頑張ります!」とか「将来はこうなりたいです!」とか、将来のビジョンを明確にしている中、自分は「誰かに呼ばれた気がしたので入ります」とは言えないからだ。だがそうとしか説明できなかった。
「やはり...変だろうか」
話を聞いた輪廻は腕を組み「うーん」と言って何か考える。
「いや、変じゃない!」
目をキリッとさせきっぱりと言いきる。
「だって理由はどうあれ、アカデミアに入るって決めたのは遊駆だろ?やりたいことなら、これからいくらでも見つかるだろうしさ!そんな気にすんなよ!」
「鶴咲...」
「輪廻でいいよ!もし夢探しするってなったら、俺も何か協力させてくれよ!同室なんだしさ!」
「輪廻...ありがとう」
太陽のように明るい笑顔を見せる輪廻。その笑顔を見て、遊駆も少しだけ顔が綻ぶのだった。
しばらくして遊駆達が乗る飛行機は離陸して、アカデミアに無事到着した。
「新入生諸君。私は校長の神原。この度は入学おめでとう。これから君達は...」
式は滞りなく進み、昼頃に無事終了。夕方の入学パーティーが始まるまで自由時間になった。この間に寮に行き、荷物の整理をするのだ。
遊駆と輪廻の部屋
「よっしゃー!片付け終わりー!」
「•••」
2人の作業は話しながら進めたからか、少し時間がかかってしまった。
「やっべ、結構時間経っちまったな。あと...1時間はあるか。なぁ遊駆!今からデュエルしようぜ!親睦デュエル!」
「今からか?」
「パーティーの時間まで1回くらいならできるだろうし、どうせなら遊駆に俺のこと知ってもらいたいしさ。どうだ?」
「•••そうだな。わかった」
「そう来なくっちゃ!行こうぜ!」
デュエルスペース
ここはデュエルスペース。授業の無い日は基本的に解放されており、消灯時間の23時までは利用可能。
「あれ、観客席に誰かいるな。おーい、1人で何してるんだー?」
「君達...今からデュエルするのかい?」
「おう!あ、俺、鶴咲輪廻!こっちは同室の藤玄遊駆!その制服の色、同学年だろ?そっちもこれからデュエル?」
「ううん。僕はデュエルするより観察する方が好きだから来ただけ。自己紹介がまだだったね。僕の名前は山野巧。これからよろしく」
巧は黄緑色のボブヘアーの男子生徒で、アカデミア1年生の証である赤い服を着ている。
「なら見てくか?俺らのデュエル。いいか?遊駆」
「俺は良いが...」
「いいの?ありがとう。じゃあありがたく!」
そう言って巧はメモを広げペンを制服のポケットから取り出した。
そして輪廻と遊駆は舞台に上がり、互いにデュエルディスクを構えた。
「さぁ、デュエルを楽しもうぜ、遊駆!」
「デュエルを...楽しむ...?」
「どうかしたか?」
「いや、デュエルを楽しむなんて考えた事なかった...」
「なるほどね。なら、俺が楽しませてやるよ!行くぜ!」
「•••よろしく頼む」
「デュエル!」
遊駆 LP4000 手札5
輪廻 LP4000 手札5
先攻を取ったのは輪廻だ。
「俺の先攻!手札から『スピリトーブ・サラマンダー』を召喚!」手札5枚→4枚
『スピリトーブ・サラマンダー』 ☆4
効果/炎属性/炎族
ATK400/DEF400
フィールドに炎が勢いよく上がり真っ赤な卵が現れる。卵にヒビが入ると音を立てて割れて、中から額に紅蓮の水晶がはまっている赤い蜥蜴が現れた。
「サラマンダーの効果発動!召喚に成功した場合、デッキから『絆剣士』か同じ属性の仲間を呼ぶことができる!俺は『スピリトーブ・イフリート』を手札に加える!」
手札4→5
「さらに手札から魔法カード、『スピリトーブの共鳴』を発動!」
手札5→4
「この効果でサラマンダーを対象にして、手札のイフリートを特殊召喚!」手札4→3
スピリトーブ・イフリート ☆5
効果/炎属性/炎族
ATK500/DEF500
サラマンダーの額の水晶が輝き、隣のフィールドに炎が渦巻く。そして炎を引き裂いて中から鬼を想起させる姿のモンスターが現れた。
「そして効果により、デッキからスピリトーブを...と行きたいが、相棒も早く闘いたがってるだろうしな。デッキから『オリジスタルの絆剣士』を手札に加えるぜ」手札3→4
「絆剣士(ネクサスパーダ)...これが切り札か」
「そうさ。切り札にして相棒...こいつと一緒に、俺はこのアカデミアで闘い抜く!さぁ出番だぜ!」手札4→3
聖剣を振るう勇者よ!
仲間の絆を力に変えて限界を超えろ!
「現れろ!『オリジスタルの絆剣士』!」
オリジスタルの絆剣士
効果/光属性/戦士族
ATK2400/DEF2000
光と共に、クリスタルのような輝きを放つ鎧を纏った剣士が空から現れる!
「さらにサラマンダーとイフリートの効果!己の水晶の中宿る炎を絆剣士へ力として与えるぜ!」
2体の水晶が体を離れ宙を漂い、剣の周りを回り始めて炎の輪を作り出す。
(これで準備完了っと...。あとは遊駆の動き次第だな)
「俺はこれでターンエンド!さぁどこからでもかかってきな」
輪廻 LP4000
モンスター1体
魔法・罠2枚
手札3枚
遊駆 LP4000
モンスター0体
魔法・罠0枚
手札5枚
「俺のターン、ドロー」手札5→6
「よっしゃ来い!」
「•••手札から『結束のラトマギア カルセドニー』を召喚」手札6→5
鍔の深い帽子を被った先端に宝石のブルーカルセドニーがはめられた長い杖を持った青年が現れる。
「結束のラトマギア カルセドニー」 ☆3
効果/地属性/魔法使い族
ATK1000/DEF100
「水晶の騎士と宝石の魔術師かぁ。結構エモいね」
巧はメモを取りながら呟いた。
(輪廻君のデッキは『スピリトーブ』が『絆剣士』を呼び出して戦うテーマだったね。そして装備カードになっている『スピリトーブ』達は確か...)
「カルセドニーの効果発動。召喚に成功した場合、手札からレベル4以下の『ラトマギア』モンスターを特殊召喚する。俺は『決断のラトマギア パイライト』を特殊召喚」手札5→4
「決断のラトマギア パイライト」 ☆2
効果/地属性/魔法使い族
ATK300/DEF500
遊駆は右腕を掲げて人差し指で上を指した。
指した先には何かのゲートのようなものが現れている。
「あれは...」
「リンク召喚...」
現れろ。光へ導くサーキット。
アローヘッド確認。召喚条件は『ラトマギアモンスター2体』。俺はカルセドニーとパイライトをリンクマーカーにセット。
サーキットコンバイン。
「リンク召喚。現れろ『沈着のラトマギア アクアマリン』...」
沈着のラトマギア アクアマリン L2
効果/地属性/魔法使い族/リンクマーカー↙︎ ↘︎
ATK1200
ゲートから現れたのは淡い水色のシスター服のような衣装を来た幼い少女のモンスター。
リンク召喚とは、記載された条件を満たした場合にEXデッキから召喚が可能となる特殊な召喚方法で、この世界で最もポピュラーな召喚方法である。EXデッキから出せるカードとして他にも融合、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラムがある。
(遊駆君の『ラトマギア』はリンク召喚を主体としたテーマだったね)
「リンク素材になったパイライトの効果発動。このカードがラトマギアモンスターのリンク素材となり墓地へ送られた場合、相手モンスター1体を対象に攻撃力は300ダウンさせる」
パイライトの杖が墓地から飛び出して絆剣士に命中する。
オリジスタルの絆剣士 ATK2400→2100
「だがまだ攻撃力は上だ!」
「手札から装備魔法『ワンショット・ワンド』を発動。効果により攻撃力が800アップする。」手札4→3
「さらに手札から速攻魔法『宝石光線』を発動。これにより、このターン輪廻のモンスターの攻撃力は自分フィールドの魔法使いリンクモンスターのリンクマーカーの数×200ダウンする。よって400ダウンだ」手札3→2
アクアマリン ATK1200→2000
オリジスタルの絆剣士ATK2100→1700
魔法の連続使用により、あっという間に攻撃力が逆転してしまった。
(ラトマギアは攻撃力を下げる効果を持つモンスターが多いテーマ...高い攻撃力の絆剣士を弱体化させるだけじゃなくワンショット・ワンドによって攻撃力の上昇も行うとは中々やるね)
「なるほど。攻撃力を下げる戦法か...いいね。で、ここからバトルして撃破しようって訳か。伏せカードも無いし、絆剣士が無くなればガラ空きだもんな...」
不敵に笑いながら状況を語る。どこか含みのある言い方に、遊駆は違和感を覚えた。
「だがこの状況、なんとかできちゃうんだなぁ、これが」
「何...」
「今から見せてやるぜ遊駆!『オリジスタルの絆剣士』の効果発動!自分・相手のメインフェイズにこのカードが『スピリトーブ』モンスターを2体装備している場合、己を墓地へ送ることで、手札・デッキからその2体と同じ属性の鎧を身につけ現れる!装備していたのは、炎!」
無限の可能性を抱く勇者よ!
紅蓮の力をその身に宿し、赫き炎で世界を照らせ!
「現れろ!!『ベリスタルの絆剣士』!!!」
ベリスタルの絆剣士 ☆7
効果/炎属性/戦士族
ATK2500DEF2000
2つの水晶が平行になりながら回転し、輪を広げてその輪の中にオリジスタルが飛び込む。仮面と鎧、剣の形状がより力強く、逞しい姿に変化した。
「これが炎の『絆剣士』だ!」
「すごい!これでまた攻撃力が逆転した!」
「•••カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」手札2→1
輪廻 LP4000
モンスター1体
魔法・罠0枚
手札3枚
遊駆 LP4000
モンスター1体
魔法・罠2枚(その内伏せ1枚)
手札1枚
「よっしゃ!俺のターン!ドロー!」手札3→4
「手札から『スピリトーブ・ブースト』を発動!このターン、自分フィールドの『絆剣士』は同じ属性の『スピリトーブ』モンスターの数×300アップする!これで600アップだ!」
ベリスタルの絆剣士 ATK2500→3100
「バトルだ!『ベリスタルの絆剣士』で『沈着のラトマギア アクアマリン』を攻撃!さらに!ベリスタルは自身が戦闘を行う時、バトルステップ終了時まで攻撃力が500アップする!」
ベリスタルの絆剣士 ATK3100→3600
天 日 爆 壊 !
背中に日輪を思わせるエネルギーを発生させ、アクアマリン目掛けて切先を前にして突撃する!
体を貫かれたアクアマリンはジュッと言う音がしたと思うと大爆発を起こし散った。
「ッ!」 LP4000→2400
「さらにこのカードが戦闘で破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」
「クッ...」 LP2400→1200
「ターンエンド!」
輪廻 LP4000
モンスター1体
魔法・罠0枚
手札4枚
遊駆 LP1200
モンスター0体
魔法・罠1枚
手札1枚
「俺のターン、ドロー」
(このカードは...!)
「どうよ遊駆!だいぶピンチなんじゃないか?」
「•••」
遊駆は表情一つ変えていないが、1ターンで一気に2800も削られてしまったのは事実だ。手札も次のターンが来れば2枚になるが、戦闘時に攻撃力が3000になる「ベリスタルの絆剣士」を突破できるかどうか分からない。
敗北のプレッシャーは、音を立てず静かに遊駆を追い詰めていた。
「でもな...そのピンチが返って楽しく感じたりするもんなんだよな」
「•••そうなのか?」
「少なくとも俺はそうだね。もしそっちが同じなら、今すっごいワクワクしてないか?」
「•••上手くは分からない。さっきも言ったが、デュエルを楽しむと考えたことも無かったからな」
「おっと...」
「だが窮地を楽しいと思えるのなら...今から追い詰めるから、楽しんでくれよ...!」
「ハハハ!言うなー!結構追い詰められると熱くなるタイプか...面白いや!来い!」
(遊駆のやつ気づいてないのかな...お前の顔、楽しそうに笑ってるぜ!)
「俺は手札から魔法カード『死者蘇生』を発動。墓地のアクアマリンを蘇生する」手札2→1
「更に手札から『生命のラトマギア ヘマタイト』を召喚」手札1→0
「生命のラトマギア ヘマタイト」 ☆2
効果/地属性/魔法使い族
ATK100/DEF500
再び遊駆は右腕を掲げて人差し指で上を指す。
「行くぞ...」
「ああ」
現れろ...!光へ導くサーキット...!
召喚条件は「ラトマギアモンスター2体以上」
俺はアクアマリンとヘマタイトをリンクマーカーにセット。
サーキットコンバイン...!
「ナヴァラトナ」の称号を冠する叡智の魔術師よ
今、蒼の魔力を使い未来を掴み取れ─!
リンク召喚
「現れろ!リンク3『叡智のラトマギア サファイア』!」
「叡智のラトマギア サファイア」 L3
効果/地属性/魔法使い族/リンクマーカー↙︎ ↑ ↘︎
ATK2500
黒と青を基調とした衣装を身に纏った魔導士がサファイアのついた杖を携えて現れる─!
「これが遊駆のエースか!かっけー!」
「墓地のカルセドニーの効果発動。EXモンスターゾーンに『ラトマギア』モンスターが存在する場合、このカードをリンク先に特殊召喚する」
「結束のラトマギア カルセドニー」 ☆3
効果/地属性/魔法使い族
ATK1000/DEF100
「サファイアの効果発動。このカードのリンク先に『ラトマギア』が特殊召喚された場合、相手フィールドのモンスターの攻撃力を500ダウンさせる」
ベリスタルの絆剣士 ATK2500→2000
「この効果を使うなら、前の遊駆のターンにサファイアを出せば少しはダメージを抑えられたんじゃないのか?」
「輪廻君。確かカルセドニーの効果は1ターンにどちらか1つしか使えなかったんだ。だから出せなかったんだと思うよ」
「そうなのか。ありがとうな教えてくれて」
「ううん。でも、それだけじゃ無い気もするな。狙いはサファイアを出す事じゃなくて...別の何か...」
「別の何か...」
「その何かがなんなのか、今見せてやる。バトルだ」
「ほぉ、でもベリスタルは戦闘時に攻撃力が500アップだ!」
ラトナ・マギア!
天 日 爆 壊 !
サファイアの杖から巨大な魔法陣が形成され、宝石のサファイアの粒が渦を描いてベリスタルに向かう。そしてベリスタルはその渦の中を突撃する!
「行けー!」
「•••!」
ドォン!
煙が上がり2体の姿が見えなくなってしまった。遊駆と輪廻は咳払いをして煙が上がるのを待つ。
そして煙が上がると。
「なっ」
「何で、サファイアが...」
そこにベリスタルの姿は無く、サファイアが立っていた。
「そうか!思い出した!ヘマタイトの効果だね!」
「何!」
「ヘマタイトの効果。自分フィールドの『ラトマギア』モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに自身を除外する」
サファイアの目の前には笑顔のヘマタイトが。役目を終えると、静かに消えていった。
「なるほど...これでガラ空きになったって訳ね。だが!」
輪廻の場に突然、ベリスタルの鎧が現れる。
「オリジスタルの効果発動!『絆剣士』モンスターが戦闘で破壊された場合、再び現れる!」
オリジスタルの絆剣士
効果/光属性/戦士族
ATK2400/DEF2000
「これが俺の相棒の真の力だ!このままだと次のターン、俺はまた『スピリトーブ』を出して勝つぜ!俺を楽しませるんじゃなかったのか?まだ何かあるんだろ!?」
「•••ああ、あるさ」
「へへっ、そーこなくっちゃな」
「行くぞ輪廻...!リバースカードオープン!『最後の輝き』。この効果により、リンク先のモンスターを全て墓地へ送り、このターン、相手モンスター全ての攻撃力を0にする•••その後、下げたモンスターの数×500、サファイアの攻撃力はダウンする」
ベリスタルの絆剣士 ATK2500→0
叡智のラトマギア サファイア ATK2500→2000
「だがもう攻撃しちまってるぜ。今更下げても...」
「それはどうかな」
「何っ!?」
「さらにアクアマリンの効果発動。リンク素材として墓地へ送られたターンのバトルフェイズに、墓地のこのカードを除外し、このターン、EXモンスターゾーンの『ラトマギア』モンスターは直接攻撃が可能になる」
「へへっ。やるな。たしかにこれは面白くなってきた...!だが耐えちまえば...!」
「最後の輝きだと言っただろう」
「へ•••?」
「まだ『最後の輝き』の第2の効果!このカードを除外することで、このターン、相手に与える戦闘ダメージは倍になる」
「なっなんだって〜!」
「決まったね」
「行け、サファイア」
ラトナ・マギア!
さらに巨大な魔法陣からサファイアの渦が竜巻となって襲いかかる。
「うわあああ!!!」 LP4000→0
「くーっ!負けたー!」
「•••負けたのに嬉しそうだな」
「いやー、まさかこんな派手な手を使ってくるなんて思ってなくてさー。アクアマリンをリンク召喚したの、もしかして最初からこのコンボが狙いだったのか?」
「•••あぁ。だが、ヘマタイトが最後のドローで来てくれなかったら、負けていたのは俺だった」
「なるほどね。でも、次は負けねぇぞ。またデュエルしてくれよな」
「•••もちろんだ」
2人を握手して見つめ合った。
「2人ともいいデュエルを見せてくれてありがとう。勉強になったよ」
「おう!巧も今度デュエルしようぜ!」
「あはは、お手柔らかにね。っと、パーティーの時間、そろそろじゃない?」
時計は開始時刻の20分前を指していた。
「あ〜!移動で時間食っちまった!急ごうぜ!」
「あ、待ってよ輪廻君〜」
「•••」
パーティー会場
「校長の神原だ。改めて、この度は入学おめでとう。野外ではあるが、豪華な食事と仲間との交流を楽しんで行ってくれ。それと、せっかくなので交流としてデュエルすることを許可する!アカデミア生徒達よ、盛大にデュエルするが良い!それでは、これからの皆の活躍を祈って、乾杯!」
神原校長が乾杯の音頭を取り生徒達はそれぞれの交流を楽しんでいた。食事をするもの。クラスメイトと談笑するもの。
「まじ!やったー!誰か俺とデュエルしよーぜー!」
もちろんデュエルする者もいる。
「フッ...」
遊駆は夕焼けを見てどこからか吹いてくる風を浴びていた。
どこに行くわけでも無くただそこらを混じろうとして歩いてみる。特に意味はない。しかし、今日は遊駆にとって人生の新たなスタートの日になった。
《─さん》
「ッ!」
「あの声」が聞こえた。幼い頃、テレビでアカデミアを見ていた時に聞こえた声が。
「どこだ...」
周りを見渡しても誰もいない。先程まで心地よく感じていた風が、不吉の前兆のように感じてしまう程に強くなった。
「どこに...」
気づいた。光っているのだ。地面が。白く。
《触れて》
その知っている声に従い、恐る恐る地面に手を伸ばす。
「そろそろ花火を上げるぞ!•••ん?」
神原校長が遊駆の方を見た。「あっ」と思わず口から出た声が、花火のカウントダウンの声に掻き消された。
「3!」
「2!」
「1!」
ピトッ
「こ...れは...!」
ドドーン!
ドーン!
遊駆が地面に触れた瞬間、地面は更に輝きを増し、限界まで達した瞬間、ちょうどピンポン玉くらいの白い球体が、地面から飛び上がった。
その球体は2度3度空中をグルグルと回転し、そして花火の光の中へ溶けていった。
「あれは...」
「あれっ?校長先生、どこ行くんですか?」
「君は...鶴咲君か...いや、少し用事を思い出してね...」
校長室
「•••もしもし、緊急事態だ。ついに来たかもしれない。•••あぁそうだ、うちの生徒だ。もし『彼』の言った通りになれば...あぁ違いない」
「止まった時間が動き出す日がやって来たんだ」
「何ボーッとしてんだよ遊駆?」
「•••いや、なんでも、ない」
今日この日が藤玄遊駆にとって、人生の新たなスタートの日になったことは違いない。
そしてこの日、藤玄遊駆の運命が静かに動き出すのだった。
第1話 終
─想像できない程の絶望と苦痛に満ちてございます
デュエルアカデミアという学園を知っているだろうか。
なんて質問をこの国ですると、「知らない人はいないよ」と帰ってくる。この学園は日本の孤島に建てられたデュエリストの育成校だ。デュエリストの人気は年々上がっており、「子供が将来なりたい職業ランキング」でも常に上位を保っている。
そんなアカデミアでは今日、入学式が行われる。新入生達は飛行機に乗っているところだ。
「えーっと俺の席は...ここか」
手元にある座席表を見て真っ赤な髪色のナチュラルなショートヘアの青年、鶴咲輪廻は席を確認した。
(隣の奴、窓眺めてんな。確か寮の同室が隣になるんだったっけ。今のうちに挨拶しとくか)
「隣、座っていいか?」
「•••ああ」
「サンキュー。俺、鶴咲輪廻。同室としてこれから頼むぜ!えーっと...」
「•••藤玄遊駆だ」
水色の独特な髪方をした青年、「藤玄遊駆」は輪廻の方を向いて名乗った。
第1話「桃源郷へようこそ」
「─でさ...それにしても移動に飛行機って結構派手だよな!孤島だから仕方ないけどさ」
自己紹介を終えて数分後、輪廻は遊駆とずっと話していた。最初は遊駆の名前を「いい名前だな!」と褒めるところから始まり、今では飛行機の話題になっていた。
「あ、そういえば遊駆はなんでアカデミアに入ったんだ?」
「なんで?」
「そうそう。俺は親父の夢だったプロデュエリストになるために入ったんだ。遊駆も何かデュエルでやりたいこととかあって入ったんだろ?」
やりたいこと、そう聞いて遊駆は顔がこわばり、少し考えた。
「•••デュエルでやりたいこと、か...無いな」
「えっ?じゃあなんでアカデミアに?」
「•••呼ばれた気がしたんだ。信じてもらえないかもしれないが...」
遊駆は自分がアカデミアに入学した理由を語り始めた。
「子供の頃から何も興味が無くて、それで毎日過ごしてた。父さんも母さんも、俺を色々な場所に連れて行ってくれたが、意味がなかった」
「そんな日、テレビのアカデミアのCMを見た。そこの風景を見た瞬間、どこからか声が聞こえた...」
《早く来て》
「早く来て?ほんとにそう聞こえたのか?」
「ああ。テレビの声じゃない...知ってる声だった。誰かは思い出せないが...」
「その声を聞いてから、俺はアカデミアに入ることしか考えなくなった。デュエルを学び、闘い続けた。そしてここに来た」
「そっかー。じゃあ入ることが目的になった訳か」
「•••そう、だな」
遊駆は少し俯き、呟くように言った。アカデミアに入ることしか考えてなかった遊駆に対して、輪廻はアカデミアはプロになるために経験を積むという通過点として見ている。
「目的の為に入る」ことと「入ることが目的」は言葉は似ているが全く違うのだ。
遊駆も自分がアカデミアに入る理由を少し気にしていた。
周りは「夢のために頑張ります!」とか「将来はこうなりたいです!」とか、将来のビジョンを明確にしている中、自分は「誰かに呼ばれた気がしたので入ります」とは言えないからだ。だがそうとしか説明できなかった。
「やはり...変だろうか」
話を聞いた輪廻は腕を組み「うーん」と言って何か考える。
「いや、変じゃない!」
目をキリッとさせきっぱりと言いきる。
「だって理由はどうあれ、アカデミアに入るって決めたのは遊駆だろ?やりたいことなら、これからいくらでも見つかるだろうしさ!そんな気にすんなよ!」
「鶴咲...」
「輪廻でいいよ!もし夢探しするってなったら、俺も何か協力させてくれよ!同室なんだしさ!」
「輪廻...ありがとう」
太陽のように明るい笑顔を見せる輪廻。その笑顔を見て、遊駆も少しだけ顔が綻ぶのだった。
しばらくして遊駆達が乗る飛行機は離陸して、アカデミアに無事到着した。
「新入生諸君。私は校長の神原。この度は入学おめでとう。これから君達は...」
式は滞りなく進み、昼頃に無事終了。夕方の入学パーティーが始まるまで自由時間になった。この間に寮に行き、荷物の整理をするのだ。
遊駆と輪廻の部屋
「よっしゃー!片付け終わりー!」
「•••」
2人の作業は話しながら進めたからか、少し時間がかかってしまった。
「やっべ、結構時間経っちまったな。あと...1時間はあるか。なぁ遊駆!今からデュエルしようぜ!親睦デュエル!」
「今からか?」
「パーティーの時間まで1回くらいならできるだろうし、どうせなら遊駆に俺のこと知ってもらいたいしさ。どうだ?」
「•••そうだな。わかった」
「そう来なくっちゃ!行こうぜ!」
デュエルスペース
ここはデュエルスペース。授業の無い日は基本的に解放されており、消灯時間の23時までは利用可能。
「あれ、観客席に誰かいるな。おーい、1人で何してるんだー?」
「君達...今からデュエルするのかい?」
「おう!あ、俺、鶴咲輪廻!こっちは同室の藤玄遊駆!その制服の色、同学年だろ?そっちもこれからデュエル?」
「ううん。僕はデュエルするより観察する方が好きだから来ただけ。自己紹介がまだだったね。僕の名前は山野巧。これからよろしく」
巧は黄緑色のボブヘアーの男子生徒で、アカデミア1年生の証である赤い服を着ている。
「なら見てくか?俺らのデュエル。いいか?遊駆」
「俺は良いが...」
「いいの?ありがとう。じゃあありがたく!」
そう言って巧はメモを広げペンを制服のポケットから取り出した。
そして輪廻と遊駆は舞台に上がり、互いにデュエルディスクを構えた。
「さぁ、デュエルを楽しもうぜ、遊駆!」
「デュエルを...楽しむ...?」
「どうかしたか?」
「いや、デュエルを楽しむなんて考えた事なかった...」
「なるほどね。なら、俺が楽しませてやるよ!行くぜ!」
「•••よろしく頼む」
「デュエル!」
遊駆 LP4000 手札5
輪廻 LP4000 手札5
先攻を取ったのは輪廻だ。
「俺の先攻!手札から『スピリトーブ・サラマンダー』を召喚!」手札5枚→4枚
『スピリトーブ・サラマンダー』 ☆4
効果/炎属性/炎族
ATK400/DEF400
フィールドに炎が勢いよく上がり真っ赤な卵が現れる。卵にヒビが入ると音を立てて割れて、中から額に紅蓮の水晶がはまっている赤い蜥蜴が現れた。
「サラマンダーの効果発動!召喚に成功した場合、デッキから『絆剣士』か同じ属性の仲間を呼ぶことができる!俺は『スピリトーブ・イフリート』を手札に加える!」
手札4→5
「さらに手札から魔法カード、『スピリトーブの共鳴』を発動!」
手札5→4
「この効果でサラマンダーを対象にして、手札のイフリートを特殊召喚!」手札4→3
スピリトーブ・イフリート ☆5
効果/炎属性/炎族
ATK500/DEF500
サラマンダーの額の水晶が輝き、隣のフィールドに炎が渦巻く。そして炎を引き裂いて中から鬼を想起させる姿のモンスターが現れた。
「そして効果により、デッキからスピリトーブを...と行きたいが、相棒も早く闘いたがってるだろうしな。デッキから『オリジスタルの絆剣士』を手札に加えるぜ」手札3→4
「絆剣士(ネクサスパーダ)...これが切り札か」
「そうさ。切り札にして相棒...こいつと一緒に、俺はこのアカデミアで闘い抜く!さぁ出番だぜ!」手札4→3
聖剣を振るう勇者よ!
仲間の絆を力に変えて限界を超えろ!
「現れろ!『オリジスタルの絆剣士』!」
オリジスタルの絆剣士
効果/光属性/戦士族
ATK2400/DEF2000
光と共に、クリスタルのような輝きを放つ鎧を纏った剣士が空から現れる!
「さらにサラマンダーとイフリートの効果!己の水晶の中宿る炎を絆剣士へ力として与えるぜ!」
2体の水晶が体を離れ宙を漂い、剣の周りを回り始めて炎の輪を作り出す。
(これで準備完了っと...。あとは遊駆の動き次第だな)
「俺はこれでターンエンド!さぁどこからでもかかってきな」
輪廻 LP4000
モンスター1体
魔法・罠2枚
手札3枚
遊駆 LP4000
モンスター0体
魔法・罠0枚
手札5枚
「俺のターン、ドロー」手札5→6
「よっしゃ来い!」
「•••手札から『結束のラトマギア カルセドニー』を召喚」手札6→5
鍔の深い帽子を被った先端に宝石のブルーカルセドニーがはめられた長い杖を持った青年が現れる。
「結束のラトマギア カルセドニー」 ☆3
効果/地属性/魔法使い族
ATK1000/DEF100
「水晶の騎士と宝石の魔術師かぁ。結構エモいね」
巧はメモを取りながら呟いた。
(輪廻君のデッキは『スピリトーブ』が『絆剣士』を呼び出して戦うテーマだったね。そして装備カードになっている『スピリトーブ』達は確か...)
「カルセドニーの効果発動。召喚に成功した場合、手札からレベル4以下の『ラトマギア』モンスターを特殊召喚する。俺は『決断のラトマギア パイライト』を特殊召喚」手札5→4
「決断のラトマギア パイライト」 ☆2
効果/地属性/魔法使い族
ATK300/DEF500
遊駆は右腕を掲げて人差し指で上を指した。
指した先には何かのゲートのようなものが現れている。
「あれは...」
「リンク召喚...」
現れろ。光へ導くサーキット。
アローヘッド確認。召喚条件は『ラトマギアモンスター2体』。俺はカルセドニーとパイライトをリンクマーカーにセット。
サーキットコンバイン。
「リンク召喚。現れろ『沈着のラトマギア アクアマリン』...」
沈着のラトマギア アクアマリン L2
効果/地属性/魔法使い族/リンクマーカー↙︎ ↘︎
ATK1200
ゲートから現れたのは淡い水色のシスター服のような衣装を来た幼い少女のモンスター。
リンク召喚とは、記載された条件を満たした場合にEXデッキから召喚が可能となる特殊な召喚方法で、この世界で最もポピュラーな召喚方法である。EXデッキから出せるカードとして他にも融合、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラムがある。
(遊駆君の『ラトマギア』はリンク召喚を主体としたテーマだったね)
「リンク素材になったパイライトの効果発動。このカードがラトマギアモンスターのリンク素材となり墓地へ送られた場合、相手モンスター1体を対象に攻撃力は300ダウンさせる」
パイライトの杖が墓地から飛び出して絆剣士に命中する。
オリジスタルの絆剣士 ATK2400→2100
「だがまだ攻撃力は上だ!」
「手札から装備魔法『ワンショット・ワンド』を発動。効果により攻撃力が800アップする。」手札4→3
「さらに手札から速攻魔法『宝石光線』を発動。これにより、このターン輪廻のモンスターの攻撃力は自分フィールドの魔法使いリンクモンスターのリンクマーカーの数×200ダウンする。よって400ダウンだ」手札3→2
アクアマリン ATK1200→2000
オリジスタルの絆剣士ATK2100→1700
魔法の連続使用により、あっという間に攻撃力が逆転してしまった。
(ラトマギアは攻撃力を下げる効果を持つモンスターが多いテーマ...高い攻撃力の絆剣士を弱体化させるだけじゃなくワンショット・ワンドによって攻撃力の上昇も行うとは中々やるね)
「なるほど。攻撃力を下げる戦法か...いいね。で、ここからバトルして撃破しようって訳か。伏せカードも無いし、絆剣士が無くなればガラ空きだもんな...」
不敵に笑いながら状況を語る。どこか含みのある言い方に、遊駆は違和感を覚えた。
「だがこの状況、なんとかできちゃうんだなぁ、これが」
「何...」
「今から見せてやるぜ遊駆!『オリジスタルの絆剣士』の効果発動!自分・相手のメインフェイズにこのカードが『スピリトーブ』モンスターを2体装備している場合、己を墓地へ送ることで、手札・デッキからその2体と同じ属性の鎧を身につけ現れる!装備していたのは、炎!」
無限の可能性を抱く勇者よ!
紅蓮の力をその身に宿し、赫き炎で世界を照らせ!
「現れろ!!『ベリスタルの絆剣士』!!!」
ベリスタルの絆剣士 ☆7
効果/炎属性/戦士族
ATK2500DEF2000
2つの水晶が平行になりながら回転し、輪を広げてその輪の中にオリジスタルが飛び込む。仮面と鎧、剣の形状がより力強く、逞しい姿に変化した。
「これが炎の『絆剣士』だ!」
「すごい!これでまた攻撃力が逆転した!」
「•••カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」手札2→1
輪廻 LP4000
モンスター1体
魔法・罠0枚
手札3枚
遊駆 LP4000
モンスター1体
魔法・罠2枚(その内伏せ1枚)
手札1枚
「よっしゃ!俺のターン!ドロー!」手札3→4
「手札から『スピリトーブ・ブースト』を発動!このターン、自分フィールドの『絆剣士』は同じ属性の『スピリトーブ』モンスターの数×300アップする!これで600アップだ!」
ベリスタルの絆剣士 ATK2500→3100
「バトルだ!『ベリスタルの絆剣士』で『沈着のラトマギア アクアマリン』を攻撃!さらに!ベリスタルは自身が戦闘を行う時、バトルステップ終了時まで攻撃力が500アップする!」
ベリスタルの絆剣士 ATK3100→3600
天 日 爆 壊 !
背中に日輪を思わせるエネルギーを発生させ、アクアマリン目掛けて切先を前にして突撃する!
体を貫かれたアクアマリンはジュッと言う音がしたと思うと大爆発を起こし散った。
「ッ!」 LP4000→2400
「さらにこのカードが戦闘で破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」
「クッ...」 LP2400→1200
「ターンエンド!」
輪廻 LP4000
モンスター1体
魔法・罠0枚
手札4枚
遊駆 LP1200
モンスター0体
魔法・罠1枚
手札1枚
「俺のターン、ドロー」
(このカードは...!)
「どうよ遊駆!だいぶピンチなんじゃないか?」
「•••」
遊駆は表情一つ変えていないが、1ターンで一気に2800も削られてしまったのは事実だ。手札も次のターンが来れば2枚になるが、戦闘時に攻撃力が3000になる「ベリスタルの絆剣士」を突破できるかどうか分からない。
敗北のプレッシャーは、音を立てず静かに遊駆を追い詰めていた。
「でもな...そのピンチが返って楽しく感じたりするもんなんだよな」
「•••そうなのか?」
「少なくとも俺はそうだね。もしそっちが同じなら、今すっごいワクワクしてないか?」
「•••上手くは分からない。さっきも言ったが、デュエルを楽しむと考えたことも無かったからな」
「おっと...」
「だが窮地を楽しいと思えるのなら...今から追い詰めるから、楽しんでくれよ...!」
「ハハハ!言うなー!結構追い詰められると熱くなるタイプか...面白いや!来い!」
(遊駆のやつ気づいてないのかな...お前の顔、楽しそうに笑ってるぜ!)
「俺は手札から魔法カード『死者蘇生』を発動。墓地のアクアマリンを蘇生する」手札2→1
「更に手札から『生命のラトマギア ヘマタイト』を召喚」手札1→0
「生命のラトマギア ヘマタイト」 ☆2
効果/地属性/魔法使い族
ATK100/DEF500
再び遊駆は右腕を掲げて人差し指で上を指す。
「行くぞ...」
「ああ」
現れろ...!光へ導くサーキット...!
召喚条件は「ラトマギアモンスター2体以上」
俺はアクアマリンとヘマタイトをリンクマーカーにセット。
サーキットコンバイン...!
「ナヴァラトナ」の称号を冠する叡智の魔術師よ
今、蒼の魔力を使い未来を掴み取れ─!
リンク召喚
「現れろ!リンク3『叡智のラトマギア サファイア』!」
「叡智のラトマギア サファイア」 L3
効果/地属性/魔法使い族/リンクマーカー↙︎ ↑ ↘︎
ATK2500
黒と青を基調とした衣装を身に纏った魔導士がサファイアのついた杖を携えて現れる─!
「これが遊駆のエースか!かっけー!」
「墓地のカルセドニーの効果発動。EXモンスターゾーンに『ラトマギア』モンスターが存在する場合、このカードをリンク先に特殊召喚する」
「結束のラトマギア カルセドニー」 ☆3
効果/地属性/魔法使い族
ATK1000/DEF100
「サファイアの効果発動。このカードのリンク先に『ラトマギア』が特殊召喚された場合、相手フィールドのモンスターの攻撃力を500ダウンさせる」
ベリスタルの絆剣士 ATK2500→2000
「この効果を使うなら、前の遊駆のターンにサファイアを出せば少しはダメージを抑えられたんじゃないのか?」
「輪廻君。確かカルセドニーの効果は1ターンにどちらか1つしか使えなかったんだ。だから出せなかったんだと思うよ」
「そうなのか。ありがとうな教えてくれて」
「ううん。でも、それだけじゃ無い気もするな。狙いはサファイアを出す事じゃなくて...別の何か...」
「別の何か...」
「その何かがなんなのか、今見せてやる。バトルだ」
「ほぉ、でもベリスタルは戦闘時に攻撃力が500アップだ!」
ラトナ・マギア!
天 日 爆 壊 !
サファイアの杖から巨大な魔法陣が形成され、宝石のサファイアの粒が渦を描いてベリスタルに向かう。そしてベリスタルはその渦の中を突撃する!
「行けー!」
「•••!」
ドォン!
煙が上がり2体の姿が見えなくなってしまった。遊駆と輪廻は咳払いをして煙が上がるのを待つ。
そして煙が上がると。
「なっ」
「何で、サファイアが...」
そこにベリスタルの姿は無く、サファイアが立っていた。
「そうか!思い出した!ヘマタイトの効果だね!」
「何!」
「ヘマタイトの効果。自分フィールドの『ラトマギア』モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに自身を除外する」
サファイアの目の前には笑顔のヘマタイトが。役目を終えると、静かに消えていった。
「なるほど...これでガラ空きになったって訳ね。だが!」
輪廻の場に突然、ベリスタルの鎧が現れる。
「オリジスタルの効果発動!『絆剣士』モンスターが戦闘で破壊された場合、再び現れる!」
オリジスタルの絆剣士
効果/光属性/戦士族
ATK2400/DEF2000
「これが俺の相棒の真の力だ!このままだと次のターン、俺はまた『スピリトーブ』を出して勝つぜ!俺を楽しませるんじゃなかったのか?まだ何かあるんだろ!?」
「•••ああ、あるさ」
「へへっ、そーこなくっちゃな」
「行くぞ輪廻...!リバースカードオープン!『最後の輝き』。この効果により、リンク先のモンスターを全て墓地へ送り、このターン、相手モンスター全ての攻撃力を0にする•••その後、下げたモンスターの数×500、サファイアの攻撃力はダウンする」
ベリスタルの絆剣士 ATK2500→0
叡智のラトマギア サファイア ATK2500→2000
「だがもう攻撃しちまってるぜ。今更下げても...」
「それはどうかな」
「何っ!?」
「さらにアクアマリンの効果発動。リンク素材として墓地へ送られたターンのバトルフェイズに、墓地のこのカードを除外し、このターン、EXモンスターゾーンの『ラトマギア』モンスターは直接攻撃が可能になる」
「へへっ。やるな。たしかにこれは面白くなってきた...!だが耐えちまえば...!」
「最後の輝きだと言っただろう」
「へ•••?」
「まだ『最後の輝き』の第2の効果!このカードを除外することで、このターン、相手に与える戦闘ダメージは倍になる」
「なっなんだって〜!」
「決まったね」
「行け、サファイア」
ラトナ・マギア!
さらに巨大な魔法陣からサファイアの渦が竜巻となって襲いかかる。
「うわあああ!!!」 LP4000→0
「くーっ!負けたー!」
「•••負けたのに嬉しそうだな」
「いやー、まさかこんな派手な手を使ってくるなんて思ってなくてさー。アクアマリンをリンク召喚したの、もしかして最初からこのコンボが狙いだったのか?」
「•••あぁ。だが、ヘマタイトが最後のドローで来てくれなかったら、負けていたのは俺だった」
「なるほどね。でも、次は負けねぇぞ。またデュエルしてくれよな」
「•••もちろんだ」
2人を握手して見つめ合った。
「2人ともいいデュエルを見せてくれてありがとう。勉強になったよ」
「おう!巧も今度デュエルしようぜ!」
「あはは、お手柔らかにね。っと、パーティーの時間、そろそろじゃない?」
時計は開始時刻の20分前を指していた。
「あ〜!移動で時間食っちまった!急ごうぜ!」
「あ、待ってよ輪廻君〜」
「•••」
パーティー会場
「校長の神原だ。改めて、この度は入学おめでとう。野外ではあるが、豪華な食事と仲間との交流を楽しんで行ってくれ。それと、せっかくなので交流としてデュエルすることを許可する!アカデミア生徒達よ、盛大にデュエルするが良い!それでは、これからの皆の活躍を祈って、乾杯!」
神原校長が乾杯の音頭を取り生徒達はそれぞれの交流を楽しんでいた。食事をするもの。クラスメイトと談笑するもの。
「まじ!やったー!誰か俺とデュエルしよーぜー!」
もちろんデュエルする者もいる。
「フッ...」
遊駆は夕焼けを見てどこからか吹いてくる風を浴びていた。
どこに行くわけでも無くただそこらを混じろうとして歩いてみる。特に意味はない。しかし、今日は遊駆にとって人生の新たなスタートの日になった。
《─さん》
「ッ!」
「あの声」が聞こえた。幼い頃、テレビでアカデミアを見ていた時に聞こえた声が。
「どこだ...」
周りを見渡しても誰もいない。先程まで心地よく感じていた風が、不吉の前兆のように感じてしまう程に強くなった。
「どこに...」
気づいた。光っているのだ。地面が。白く。
《触れて》
その知っている声に従い、恐る恐る地面に手を伸ばす。
「そろそろ花火を上げるぞ!•••ん?」
神原校長が遊駆の方を見た。「あっ」と思わず口から出た声が、花火のカウントダウンの声に掻き消された。
「3!」
「2!」
「1!」
ピトッ
「こ...れは...!」
ドドーン!
ドーン!
遊駆が地面に触れた瞬間、地面は更に輝きを増し、限界まで達した瞬間、ちょうどピンポン玉くらいの白い球体が、地面から飛び上がった。
その球体は2度3度空中をグルグルと回転し、そして花火の光の中へ溶けていった。
「あれは...」
「あれっ?校長先生、どこ行くんですか?」
「君は...鶴咲君か...いや、少し用事を思い出してね...」
校長室
「•••もしもし、緊急事態だ。ついに来たかもしれない。•••あぁそうだ、うちの生徒だ。もし『彼』の言った通りになれば...あぁ違いない」
「止まった時間が動き出す日がやって来たんだ」
「何ボーッとしてんだよ遊駆?」
「•••いや、なんでも、ない」
今日この日が藤玄遊駆にとって、人生の新たなスタートの日になったことは違いない。
そしてこの日、藤玄遊駆の運命が静かに動き出すのだった。
第1話 終
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