ワシントン校 準決勝進出　作：はにわ改

　
ーーオーストラリア校代表・中堅ジェフリーを破ったフレッド。
悔しさのせいか、膝を付いたまま立ち上がれないでいるジェフリーに、
一礼したフレッドは先に退場して久遠たちの下へ戻ってくる。

「お疲れーーっ、フレッド！」

「ああ、ありがとう、メリッサ」

先ず満面笑顔のメリッサとハイタッチを交わす。

「お疲れ、フレッド。さすがね」

「ああ。
シェリルが作ってくれた流れを、何とか切らさずに来れたよ」

次にシェリル。
メリッサとは正反対にあまり大袈裟な態度は見せないが、互いに小さく笑い合う。

「フレッド。
これで我々ワシントン校、２回戦を危なげなく突破、というところだな」

「はい、先生。

ーー御指導、ありがとうございます」

「私に礼を言う必要はない。
自分の実力を信じて、次も頼むぞ」

「はい！」

そして教諭のクリス。
自分が推す生徒がこうして結果を積み重ねてくれてる事に、満足しているようである。
そんな期待が伝わるからだろうか、フレッドも最後は大きく返事をして応えた。

「……ふん、『引き』に助けられたわね」

最後、久遠。

彼女だけは仲間の勝利に対して笑顔を見せていない。

「久遠……」

「序盤の動きが甘いから、あんな事になるのよ」

「……ああ、そうだな。
ドローに助けられた部分がある。

それが今回の反省点、だな」

「ま、勝ってくれたから構わないけど。

……しっかりしなさいよ。
お姉さまに良いとこ見せたいんでしょー」

久遠がフレッドの横を通り、舞台へと向かう。
ーー次は大将戦。
勝負としては２本を先取したワシントン校が２回戦突破を確定させているが、大会のルールとして例え消化試合であっても最後までやることになっている。

消化試合のためか、久遠はやや面倒くさそうにしつつ、フレッドにも素っ気ない態度を見せた。

「ーー久遠」

「何よ」

「次、頑張ってくれよ」

「はぁ？
ただの消化試合よ？
別にそんな気張る必要なんてないでしょ」

肩を竦めながらせせら笑うように久遠。

「ーー刹那に……負けたくないんだろ？」

だがその一言を聞いて久遠が足を止めると、フレッドを睨み付ける。

「お前の言うとおり、刹那が見てるんだ。
お互い、カッコ悪いところは見せられないよな」

「何が言いたいの？」

「俺もお前のデュエルを見てる。

だから……頑張ってこいよ」

しばらくフレッドを睨んでいた久遠だが、１つ鼻を鳴らしてから舞台へと歩いていった。
その様を見ていたクリス、シェリルが小さく笑い、メリッサは不思議そうに首を傾げるのだった。




ーーそして程なく２回戦も全て終了。
ワシントン校大将・久遠はやはりと言うべきか、オーストラリア校の大将を粉砕。
ライフを１ポイントも減らさないパーフェクト・ゲームで、その実力をまざまざと見せつけた。

控え室でその戦いを見ていた日本校の面々も、そのあまりの完璧さにまるで匠の技を目にするように見入っていた。

「ーー強い、よね、ワシントン校」

終わって、真希がぽつりと呟くと透矢が頷く。
その言葉は世界から集まった選りすぐりの面々と比べて、なおそう思わせる意味が含まれていた。

「全員、大将クラス、といっても全然言い過ぎにならないですね。
こう言ってはなんですが……やろうと思えば、一人で３戦、ごぼう抜き出来るぐらいの力はあるでしょう」

地影が今日のデュエルの内容をＰＣに打ち込みながら口にする。
彼女もまた暗に告げていた。
『レベルが違う』、と。

「なんか作戦とか考えてんのかい、刹那？」

頭に後ろ手を回し、背もたれに寄りかかりながら座る炎魅子が訊く。
一同の視線が刹那の回答に集中した。

「作戦？
そんなのないわ」

「で、でもよ、刹那……」

「私たちはいつも通りにデュエルをする。
全力で……ぶつかっていくだけ。
小手先の技なんて、あの面子には通用しないし、それで勝ったって意味なんかないでしょ？」

笑顔でそう語る刹那。
それを聞いた透矢も笑いながら頷く。

「そうっすよ、先輩！
自分のデッキを信じて頑張るだけっす！
それにあんだけ強い相手なら、むしろ燃えるってもんじゃないっすか！」

「ま、まぁねぇ……」

「そ・れ・に。
私たちにはまだ準決勝戦が残ってるの。
決勝で久遠たちと戦うとか言う話より、先ずはそこに全力を注がないとね」

人差し指を横に動かしながら、メンバーたちに言い聞かせるように刹那が言うと、今度は地影が頷いた。

「刹那さんの言う通り、先ばかりを見ていては足を取られやすいです。
幸い、私たちも流れは来てるんですからこの調子を崩さずに次を戦っていきたいですね」

「たしかに流れはいいよねー！
あたしたちもここまで一戦も落としてないし、
自分の力が世界にも通じるんだ、ってちょっと自信になった！」

真希の言葉に皆が笑顔を見せる。

「まぁ、でもあれです。
炎魅子さん、今回が最後の大会になるわけですから、その……」

「？ 何だよ、地影？」

自分の名前を出された炎魅子が促すように、何故か照れ臭そうに顔を背ける地影に訊く。

「いえ、ですから……。
出来ることなら優勝、という華を添えて送り出す事が出来ればな、と」

俯きながら小さい声で語る地影。

すると少し間を置いてから、炎魅子がにんまりと微笑む。

「おいおい、ちーちゃんってばどーしたい？
本人の前でそんな事言うなんて、お前さんも罪な奴じゃねぇか」

「べ、別に変な意味はありません。
何となくそう思っただけですから」

「朝霧先輩……感動です！
朝霧先輩って、凄く友達思いなんですね！」

「や、止めてください、鳴瀬さんまで……」

笑いの渦に包まれる控え室。
舞とクロエの教諭二人は特に口を挟まず、生徒たちの団欒を見守っていた。

「ーーでも１つ、みんなに私のわがままを聞いてほしいの」

「わがまま？
なんだよ、それ」

急に真顔に戻す刹那に、透矢が訊く。

「久遠とは……私が戦うわ。
私にやらせてほしいの」

決意した眼差しでそう口にした刹那。
すると刹那以外の面々はお互いに顔を見合わせる。

「そりゃあ……久遠とまともに戦えるのは正直、刹那ぐらいのもんだよねぇ。
あたしゃ、この間ぼこぼこにされちまったし」

「そういう事じゃない。
実力がどうこうより、私が久遠とデュエルしたいの。

あの子も……きっと、それを望んでいるはず」

更にそう続けた刹那。

千鶴を除いて、神楽坂姉妹の間にある『確執』は、この面々の内では知るところではある。

「……刹那がそう決めてるんなら、俺たちは何も言わないさ。

でも、よ。
大丈夫、なのか？
一応姉妹で戦うわけだし、やり辛さっていうか、さ」

「大丈夫よ、透矢くん。
私も久遠もデュエリストだもの。

デッキを持って向かい合えば、お互いに全力で戦うだけよ」

「そう……か」

「それに決勝の大将戦は、勝った方に２勝分が与えられるの。
それなら尚更、ここを落とすわけにはいかない。
それなら久遠のデッキを一番知ってる私が戦うしかないわ」

最後の部分で、一同も頷き、納得をせざるを得ない。

「後、フレッド。
彼とは出来る限り、透矢くんをぶつけたいと考えてる」

「俺か？
ま、あいつとは確かに決勝で戦いたいとは話してたし、こっちも望むところだけどさ！」

「フレッドはＴＦモンスター使い……。
ならば同じＴＦモンスター使いの遊戦名くんで対抗する、という事ですよね、刹那さん」

意を汲んでくれた地影に刹那が頷く。

「まぁ、向こうのオーダーは当日にならないと分からないから、何とも言えないけど……。
ま、そこは双子の私があの子の意図を読んでみせるわ」

ウインクする刹那。

刹那と久遠。
双子にして、それぞれ日本校とワシントン校のリーダー。
己を映す鏡とも言うべき二人がそれぞれのチームメイトを引き連れ、両雄に分かれて相対する。

前大会では妹の久遠率いるワシントン校が勝利したが、今大会では果たしてどうなるか。

まだ準決勝を残しているとはいえ、お互いに決勝まで順調に勝ち進むのを見て、嫌でも意識せざるを得ないのだろう。

「ま、とにかく次は準決勝！
透矢くんに出てもらうつもりでいるから、
ここは１つ、決勝に向けて弾みをつけてもらわないと！」

「よっしゃ！
そう言われちゃ気合い入れないわけにはいかないな！」

「頼むぜ、大将！
来年の春、あたしを気持ちよーく卒業させてくれよな！」

ーー翌日は準決勝。
先日本校が決勝進出を賭けて、一足先に戦いの舞台へと上がる。

刹那が予告した通り、透矢がその大事な戦いの１つに充てられる事になるがーー。

彼は知らない。

『彼の知らぬ間』に、自身の力が大きく高められつつあることを。

同時にーー。

彼の身に再び『魔の手』が迫りつつある事を彼は知らない。